風俗店での女性の盗撮事件について

刑事|迷惑防止条例違反の憲法上の論点と憲法94条|気仙沼簡易裁判所平成3年11月5日判決

目次

  1. 質問
  2. 回答
  3. 解説
  4. 関連事例集
  5. 参照条文

質問

昨日,派遣型風俗店(いわゆるデリバリーヘルス)を利用した際に,ホテルの部屋内にカメラ付きスマートフォンを設置して,相手の女性の裸体を盗撮してしまいました。女性に発見され追及されましたが,その場ではお金を払って逃げるようにその場を去りました。

私の行為は,犯罪に該当するのでしょうか。また,逮捕されてしまう可能性はあるのでしょうか。処罰を回避するためには,どのように対応したらよいでしょうか。

なお,カメラを確認したところ,設置角度が悪かったようであり,実際には女性の姿態は映っていませんでした。

回答

1 今回のあなたの行為は,軽犯罪法(軽犯罪法第1条23号,「正当な理由がなくて人の住居、浴場、更衣場、便所その他人が通常衣服をつけないでいるような場所をひそかにのぞき見た者」)に該当する可能性があります。またお住まいの地域によっては,いわゆる迷惑防止条例と呼ばれる条例(東京都の「公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例」第5条(2) 次のいずれかに掲げる場所又は乗物における人の通常衣服で隠されている下着又は身体を、写真機その他の機器を用いて撮影し、又は撮影する目的で写真機その他の機器を差し向け、若しくは設置すること。)

イ 住居、便所、浴場、更衣室その他人が通常衣服の全部又は一部を着けない状態でいるような場所)に違反する可能性があります。迷惑防止条例違反に該当する場合には,女性が警察に被害届を提出した場合,逮捕される事例もあります。

2 逮捕や処罰を回避するためには,警察の捜査が及ぶ前に自ら出頭(自首)した上で,被害女性との間で示談を行うことが考えられます。また,本件のような盗撮事例を迷惑防止条例で規制することは,憲法上の問題も存在するため,法律上の主張をして犯罪の成立を否定することも考えられます。

3 風俗店での盗撮事例は,近年条例による規制強化もあり,警察も摘発に力を入れている事例です。逮捕や罰金刑により前科となると思わぬ不利益となることも考えられます。速やかに弁護士に相談して適切に対処することをお勧めいたします。

4 関連する事例集はこちらをご覧ください。

解説

1 成立し得る犯罪について

⑴ 軽犯罪法違反

本件のような風俗店の女性の裸の姿態を撮影する行為は,まず軽犯罪法第1条23号違反に該当する可能性が考えられます。同号では,「正当な理由がなくて人の住居、浴場、更衣場、便所その他人が通常衣服をつけないでいるような場所をひそかにのぞき見た者」を処罰の対象としています。

この点,風俗店の女性は,そもそも衣服をつけない状態を,客の男性に見せることは許容しており,その場合でも「ひそかに」のぞき見たに該当するか否かが問題となります。もっとも,同号の保護法益は個人のプライバシー権を含むと解されており,ここでいう「ひそかに」とは,見られないことの利益を有する者(相手の女性)に知られないように行動することとされます。そのため,対象の女性の承諾なくして,知られないように撮影した場合には,「ひそかに」に該当するとされています。

また,カメラ等で録画する行為の場合でも,「のぞき見た」といえるかですが、カメラレンズを通して実際見ているのであれば覗き見た、といえますが、撮影時点では見ておらず、録画して後で見るような場合、厳密な意味での覗き行為か否かが問題になりますが,過去の裁判例では,本条の保護法益がプライバシー権にある以上,実質的にみて、肉眼による場合とビデオカメラを用いた撮影録画による場合とで、プライバシーの侵害の有無に何らかわりはなく,むしろ撮影録画の方が被害が大きいとして,同条項の該当性を肯定しています(気仙沼簡易裁判所平成3年11月5日判決)。この点は罪刑法定主義という点からは反論もあるでしょうが、実務では処罰の対象となると考えておいた方が良いでしょう。

そのため,本件でのあなたの行為が軽犯罪法違反に該当する可能性は高いといえます。軽犯罪法違反の場合,法定刑は拘留又は科料という,比較的軽い処罰となりますが,前科調書に記載される前科とはなります。

⑵ 迷惑防止条例違反

ア 条例違反の該当性

行為地域によっては,いわゆる迷惑防止条例と呼ばれる条例違反に該当する可能性があります。例えば東京都では,「公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例」により,以下の行為が規制されています。

第5条(抄) 何人も、正当な理由なく、人を著しく羞恥させ、又は人に不安を覚えさせるような行為であつて、次に掲げるものをしてはならない。

(2) 次のいずれかに掲げる場所又は乗物における人の通常衣服で隠されている下着又は身体を、写真機その他の機器を用いて撮影し、又は撮影する目的で写真機その他の機器を差し向け、若しくは設置すること。

イ 住居、便所、浴場、更衣室その他人が通常衣服の全部又は一部を着けない状態でいるような場所

ロ 公共の場所、公共の乗物、学校、事務所、タクシーその他不特定又は多数の者が利用し、又は出入りする場所又は乗物(イに該当するものを除く。)

本件であなたがしてしまった行為は,上記第5条1項⑵イに該当する可能性があります。この点,以前までは,迷惑防止条例違反は,あくまで公衆衛生や市民の生活の平穏といった社会的法益を保護法益としていたため,盗撮行為についても,私的空間における盗撮行為は対象とされていませんでした。しかし東京都では,平成30年の改正により,上記イの類型が新設され,自宅内やホテル内などの私的空間における盗撮行為も,規制の対象となりました。

また,本条項は,盗撮して動画を記録することだけでなく,写真機その他の機器を差し向けたり設置するだけの行為も,処罰の対象としております。そのため,本件のように実際には女性の姿態が記録されていなくても,裸の女性に差し向けたと認定されるような場合には,本条項違反が成立することになります。

上記条項に違反する場合の法定刑は,1年以下の懲役又は100万円以下の罰金となります。

イ 憲法上の問題点について

もっとも,迷惑防止条例違反による盗撮行為の規制には,法律の規制を上回る過剰な規制となるのではないかという憲法上の問題点も存在します。都道府県による条例は,あくまで国が定める法律の規制を補完するものですので,条例による規制は,「法律の範囲内で」条例を制定することができるとされています(憲法94条)。

本件のような盗撮行為については,国の法律である軽犯罪法において既に処罰対象とされているため,同じ盗撮行為について,条例により国の基準よりも重い処罰を定めることが,上記憲法上の定めに違反しているか否かが問題となります。

この点,最高裁判所の判例(最判昭和50年9月10日・徳島市公安条例判決)では,「法令が必ずしもその規定によつて全国的に一律に同一内容の規制を施す趣旨ではなく、それぞれの普通地方公共団体において、その地方の実情に応じて、別段の規制を施すことを容認する趣旨であると解されるとき」には,条例による重い処罰の上乗せ規制も許容されると判示しています。そのため迷惑防止条例による盗撮行為の処罰の定めが適法か否かは,「軽犯罪法の規制が,地方公共団体の実情に応じて別段の規制を施すことを容認する趣旨であるといえるか否か」という観点から判断されますが,この点につき,具体的に示した判例はありません。

規制の対象がほぼ同一となっている現状からすると,地方により処罰範囲が異なることに合理性もなく,条例による処罰が憲法違反とされる余地もあるように思われます。

2 予想される捜査手続きの流れと対策について

⑴ 予想される捜査手続きの流れについて

本件は,上記のような法律違反に該当する可能性が高い事例ですので,相手の女性が警察に被害届を提出していた場合には,警察が刑事事件として捜査をすることになります。

この点,軽犯罪法違反としての捜査であれば,事案としては軽微な事案に分類されるため,逮捕までされることは少なく,在宅事件(警察から任意の出頭要請があり,それに応じて取り調べを受ける)として捜査が進むことが多いといえます。

しかし迷惑防止条例違反に該当する場合には,罰金刑以上の法定刑となるため,警察としても本腰で捜査をし,場合によっては逮捕による身柄拘束を伴う場合もあります。特に本件のように,被害者女性の静止を振り切って帰宅した場合などは,逃亡や罪証隠滅のおそれがあるとして,警察が逮捕を試みる一つの理由とされてしまうことがあります。

最終的な処罰としては,初犯で特別な悪質性がなければ罰金刑となることが予想されます。

⑵ 逮捕・処罰を避けるための対応について

ア 警察への出頭

本件で逮捕の危険を回避するための対応としては,警察が逮捕令状を取得する前に,自ら警察に出頭することが考えられます。仮に女性が被害届を提出していたとしても,自ら出頭し,逃亡や証拠隠滅をする意図がないことを示せば,逮捕を回避できる可能性が高まります。可能であれば,家族の身元引受書を準備する,所持していた服装やカメラ,スマートフォンなども任意に提出するなどの対策をした上で,弁護士と共に出頭した方が良いでしょう。

警察は,早ければ事件当日中にも逮捕令状を取得できるため,出頭の時期は早ければ早い方が安全です。

なお,女性が被害届を提出していない場合には,例えみずから犯罪を自白したとしても,被疑者本人の自白だけを契機として,警察が事件の捜査を開始することは余りなく,出頭により状況が悪化するということは通常ありません。場合によっては,弁護士において,犯行を否認しつつ,任意捜査には協力することを条件に,逮捕を避けるよう捜査機関と交渉を試みることも可能です。

イ 被害女性との示談

最終的に処罰を避けるためには,相手の女性と示談をすることが最も有効です。軽犯罪法は個人のプライバシー権を保護法益とするものですし,迷惑防止条例違反も実質的には対象女性のプライバシー権を保護しているものといえますので,被害女性との間で示談が成立すれば,最終的に起訴されることは少なく,不起訴処分で事件終結となり,前科も付かないことが多いです。

この類型の示談交渉においては,場合によっては女性が所属する店舗との協議が必要となる場合もあります。円滑に示談交渉を進めるためには,経験のある弁護士に依頼すべきでしょう。

ウ 法的な反論

加えて,検察官に対して,法的な反論を行うことも必要です。上記のように,条例違反による処罰は,憲法上の問題点が存在するため,検察官による起訴を牽制するためには,その点を指摘する必要があります。検察官としても,公判で憲法上の問題点が争点となれば,非常に難しい裁判となりますので,起訴することに消極的となる場合があります。

また本件のように,撮影の証拠となる動画が現存していない場合には,犯罪の立証の点が問題となりますので,その点の反論も行う必要があります。上述のように,東京都の条例では,カメラを相手の女性に差し向けただけでも犯罪が成立することになるため,証拠となる動画が存在しなくとも,被害女性の供述などを証拠として犯罪を立証することは可能です。しかし,特にスマートフォンなどの日常的な機器を用いた撮影は疑われている場合などは,それだけで盗撮の故意を認定することは困難です。女性の側が,あなたが単にスマートフォンを操作している場面を勘違いしてしまった場合や,意図せずしてカメラが起動してしまった(ワンタッチ機能を誤作動させた場合など)などの事情がある場合には,犯罪の故意を否定する主張をすることも必要です。

もっとも,これら法律上の反論を断行すると,終局的には公判(正式な裁判)となってしまうことに行き着くため,現実的には,被害女性との示談交渉と,法律上の反論を並行して進めることが必要でしょう。その場合でも,犯行を否認しているという情報が被害者側に伝わることにより,示談交渉が困難となってしまう場合がありますので,捜査機関への対応(取り調べの際の供述内容含む)は,非常に慎重な対応が求められます。

様々な事態を想定した上でベストな対応がとれるよう,弁護士によく相談することをお勧めします。

3 まとめ

風俗店での盗撮事例は,近年条例による規制強化もあり,警察も摘発に力を入れている事例です。逮捕や罰金刑により前科となると思わぬ不利益となることも考えられます。速やかに弁護士に相談して適切に対処することをお勧めいたします。

【参照判例】
(気仙沼簡易裁判所平成3年11月5日判決)

しかしながら、軽犯罪法一条二三号は、プライバシーの権利の保護を目的とするものであるところ、実質的に見て、肉眼による場合とビデオカメラを用いた撮影録画による場合とで、プライバシーの侵害の有無に何らかわりはない。むしろ、肉眼による場合には、便所をのぞきこんだ犯人の記憶も希薄化し消滅することがあり得るのに対し、便所内の女性の姿態等が録画されたビデオテープは、何度でもそれを再生することが可能であるばかりか、録画したテープを多数複製することが可能であるので、それによる被害が広がってゆくことがあり得るのであり、ビデオカメラによる撮影録画によるプライバシー侵害の程度は、肉眼によるのぞきこみ行為よりも著しいものというべきである。

他方、軽犯罪法一条二三号は、犯人の行為の動機及び行為の結果としての好奇心の満足等を犯罪構成要件とはしておらず、単に、のぞきこみ行為が存在し、それによって被害者のプライバシー侵害の結果が発生すれば、犯罪として既遂に達するものと解すべきである。ところで、本件では、被告人は、ビデオカメラで録画した内容を再生して見る前にスーパーマーケット従業員に犯行を発見され、取り押さえられたため、その録画内容を見ないままであるが、隣の便所内の様子の録画行為それ自体によって被害者のプライバシー侵害が発生している以上、被告人の本件犯行は、既遂に達していると判断する。

したがって、被告人の本件犯行は、軽犯罪法一条二三号所定の便所内をひそかにのぞきこむ行為の既遂罪に該当するものと判断する。

以上

関連事例集

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参照条文
〇軽犯罪法

第一条 左の各号の一に該当する者は、これを拘留又は科料に処する。

(略)

二十三 正当な理由がなくて人の住居、浴場、更衣場、便所その他人が通常衣服をつけないでいるような場所をひそかにのぞき見た者

〇公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例)

(つきまとい行為等の禁止)

第5条の2 何人も、正当な理由なく、専ら、特定の者に対するねたみ、恨みその他の悪意の感情を充足する目的で、当該特定の者又はその配偶者、直系若しくは同居の親族その他当該特定の者と社会生活において密接な関係を有する者に対し、不安を覚えさせるような行為であつて、次の各号のいずれかに掲げるもの(ストーカー行為等の規制等に関する法律(平成12年法律第81号)第2条第1項に規定するつきまとい等及び同条第三項に規定するストーカー行為を除く。)を反復して行つてはならない。この場合において、第1号から第3号まで及び第4号(電子メールの送信等(ストーカー行為等の規制等に関する法律第2条第2項に規定する電子メールの送信等をいう。以下同じ。)に係る部分に限る。)に掲げる行為については、身体の安全、住居、勤務先、学校その他その通常所在する場所(以下この項において「住居等」という。)の平穏若しくは名誉が害され、又は行動の自由が著しく害される不安を覚えさせるような方法により行われる場合に限るものとする。

(1) つきまとい、待ち伏せし、進路に立ちふさがり、住居等の付近において見張りをし、住居等に押し掛け、又は住居等の付近をみだりにうろつくこと。

(2) その行動を監視していると思わせるような事項を告げ、又はその知り得る状態に置くこと。

(3) 著しく粗野又は乱暴な言動をすること。

(4) 連続して電話をかけて何も告げず、又は拒まれたにもかかわらず、連続して、電話をかけ、ファクシミリ装置を用いて送信し、若しくは電子メールの送信等をすること。

(5) 汚物、動物の死体その他の著しく不快又は嫌悪の情を催させるような物を送付し、又はその知り得る状態に置くこと。

(6) その名誉を害する事項を告げ、又はその知り得る状態に置くこと。

(7) その性的羞恥心を害する事項を告げ若しくはその知り得る状態に置き、その性的羞恥心を害する文書、図画、電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によつては認識することができない方式で作られる記録であつて、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。以下この号において同じ。)に係る記録媒体その他の物を送付し若しくはその知り得る状態に置き、又はその性的羞恥心を害する電磁的記録その他の記録を送信し若しくはその知り得る状態に置くこと。

2 警視総監又は警察署長は、前項の規定に違反する行為により被害を受けた者又はその保護者から、当該違反行為の再発の防止を図るため、援助を受けたい旨の申出があつたときは、東京都公安委員会規則で定めるところにより、当該申出をした者に対し、必要な援助を行うことができる。

3 本条の規定の適用に当たつては、都民の権利を不当に侵害しないように留意し、その本来の目的を逸脱して他の目的のためにこれを濫用するようなことがあつてはならない。

(罰則)

第8条 次の各号のいずれかに該当する者は、6月以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。

(1) 第2条の規定に違反した者

(2) 第5条第1項又は第2項の規定に違反した者(次項に該当する者を除く。)

2 次の各号のいずれかに該当する者は、1年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処する。

(1) 第5条第1項(第2号に係る部分に限る。)の規定に違反して撮影した者

(2) 第5条の2第1項の規定に違反した者

3 次の各号のいずれか該当する者は、100万円以下の罰金に処する。

(1) 第7条第2項の規定に違反した者

(2) 前条第3項の規定に違反した者

4 次の各号のいずれかに該当する者は、50万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する。

(1) 第3条の規定に違反した者

(2) 第4条の規定に違反した者

(3) 第5条第3項又は第4項の規定に違反した者

(4) 第6条の規定に違反した者

(5) 第7条第1項の規定に違反した者

(6) 前条第1項の規定に違反した者

5 前条第2項の規定に違反した者は、30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する。

6 第7条第4項の規定による警察官の命令に違反した者は、20万円以下の罰金又は拘留若しく

は科料に処する。

7 常習として第2項の違反行為をした者は、2年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処する。

8 常習として第1項の違反行為をした者は、1年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処する。

9 常習として第3項の違反行為をした者は、6月以下の懲役又は100万円以下の罰金に処する。

10 常習として第4項の違反行為をした者は、6月以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。