年金に係る逸失利益の損害賠償請求|交通事故

民事・交通事故|年金の逸失利益性|最判平成5年3月24日判時1499号49頁|遺族年金の特殊性|最判平成12年11月14日判時1732号78頁

目次

  1. 質問
  2. 回答
  3. 解説
  4. 関連事例集

質問

先日,私の父(享年75歳)が交通事故で死亡しました。私は父の遺族として加害者に対して損害賠償請求をしたいのですが,父の収入は年金だけでした。年金生活でしたが、いわゆる逸失利益というものも含めて請求することができるのでしょうか。加害者は任意保険に入っていると聞きましたが直接保険会社に請求することはできますか。

回答

1 年金収入については、判例・実務上,全ての年金について逸失利益性が肯定されているわけではありません。すなわち,老齢基礎年金や老齢厚生年金等の老齢年金,退職共済年金等の退職年金,障害基礎年金や障害厚生年金等の障害年金については,逸失利益性が肯定されますが,遺族厚生年金や軍人恩給の扶助料等の遺族年金については,逸失利益性が否定されます。お父様が受給していた年金が老齢年金,退職年金,障害年金のいずれかに当たるのであれば,逸失利益として認められ損害として賠償請求をすることができます。

2 また,加害者が任意保険に加入しているということですが、任意保険により保険会社が損害賠償を支払うか否かは原則として、加害者の意思によることになります。保険を使うか否かは、保険契約者である加害者が決定するのが原則です。この点は自賠責保険の場合に認められている被害者の直接請求とは異なります。従って、一般的には被害者は加害者に請求し、加害者が任意保険会社に交渉や支払いを請求することにより、被害者と任意保険会社の関係が生じます。しかし、加害者に資力がないにもかかわらず、任意保険を使用しないということもありうることです。死亡事故のような場合は賠償額も大きいことから任意保険を使用しないということはないでしょうが、全く被害者の直接請求を否定することは疑問があります。そこで、一定の要件のもとに被害者が任意保険会社に直接請求することが認められていますが(詳細は保険会社の約款で定められています)、被害額について加害者との合意あるいは判決で確定していることが必要となります(被害額が自賠責保険の範囲を超えていることが明らかな場合も直接請求は可能ですが、任意保険会社が明らか、ではないと主張して支払いを拒否することもあります)。まずは、加害者に請求するのが良いでしょう。

3 本件事案に関連する事例集はこちらをご覧ください。

解説

1 年金に逸失利益性が認められるか否か

年金が逸失利益として認められるかどうかは,一般的には,①年金の給付目的(年金の受給権者の生活の維持のみにあると認められるかどうか。そうであれば受給者が死亡した場合は支払いが打ち切られるものなので、逸失利益とは認められない。),②保険料の支払と年金の給付との間の対価性(誰が年金保険料を支払っているか。被害者が年金保険料を支払っていたのであれば、支払の対価として認められ、受給者が死亡した後でも権利として受け取ることが出来るもので、逸失利益として認められる),③年金給付の存続の確実性を考慮要素として判断され,上述のとおり,判例・実務上,老齢年金,退職年金,障害年金については,逸失利益性が肯定されているのに対し,遺族年金については,逸失利益性が否定されています。以下,退職年金,障害年金,遺族年金の逸失利益に係る著名な最高裁判例を紹介します。

まず,退職年金については,最高裁は,「退職年金を受給していた者が不法行為によって死亡した場合には,相続人は,加害者に対し,退職年金の受給者が生存していればその平均余命期間に受給することができた退職年金の現在額を同人の損害として,その賠償を求めることができる。」(最判平成5年3月24日 判時1499号49頁)として,逸失利益性を肯定しています。

次に,障害年金については,最高裁は,「国民年金法に基づく障害基礎年金も厚生年金保険法に基づく障害厚生年金も,原則として,保険料を納付している被保険者が所定の障害等級に該当する障害の状態になったときに支給されるものであって(国民年金法三〇条以下,八七条以下,厚生年金保険法四七条以下,八一条以下参照),程度の差はあるものの,いずれも保険料が拠出されたことに基づく給付としての性格を有している。したがって,障害年金を受給していた者が不法行為により死亡した場合には,その相続人は,加害者に対し,障害年金の受給権者が生存していれば受給することができたと認められる障害年金の現在額を同人の損害として,その賠償を求めることができるものと解するのが相当である。」(最判平成11年10月22日 判時1692号50頁)として,逸失利益性を肯定しています。

最後に,遺族年金については,最高裁は,「遺族厚生年金は,厚生年金保険の被保険者又は被保険者であった者が死亡した場合に,その遺族のうち一定の者に支給される(厚生年金保険法五八条以下)ものであるところ,その受給権者が被保険者又は被保険者であった者の死亡当時その者によって生計を維持した者に限られており,妻以外の受給権者については一定の年齢や障害の状態にあることなどが必要とされていること,受給権者の婚姻,養子縁組といった一般的に生活状況の変更を生ずることが予想される事由の発生により受給権が消滅するとされていることなどからすると,これは,専ら受給権者自身の生計の維持を目的とした給付という性格を有するものと解される。また,右年金は,受給権者自身が保険料を拠出しておらず,給付と保険料とのけん連性が間接的であるところからして,社会保障的性格の強い給付ということができる。加えて,右年金は,受給権者の婚姻,養子縁組など本人の意思により決定し得る事由により受給権が消滅するとされていて,その存続が必ずしも確実なものということもできない。これらの点にかんがみると,遺族厚生年金は,受給権者自身の生存中その生活を安定させる必要を考慮して支給するものであるから,他人の不法行為により死亡した者が生存していたならば将来受給し得たであろう右年金は,右不法行為による損害としての逸失利益には当たらないと解するのが相当である。」(最判平成12年11月14日 判時1732号78頁)として,逸失利益性を否定しています。

2 年金に係る逸失利益の計算方法

⑴ 一般的に逸失利益は以下の計算方法に従って計算されます。

基礎収入額×(1-生活費控除率) ×就労可能年数に対応するライプニッツ係数

これが年金の場合は以下の計算式に置き換えられます。

年金年額×(1-生活費控除率) ×生存可能年数に対応するライプニッツ係数

年金年額とは,その名のとおり,1年間に受給したであろう年金の総額を意味します。

また,死亡事故の場合,被害者が死亡すれば一方において収入がなくなりますが,被害者が生存していれば他方において生じたであろう生活費の負担が発生しなくなります。そのため,損害賠償として逸失利益を算出する際に,死亡した本人の生活費相当分を年金の額より控除することとなりますが,その向上する割合を生活費控除率といいます。生活費控除率は具体的な事案に照らして決められるものであるものの,有職者又は就労可能者の場合は,男性については50%程度,女性については30%程度とされることが多いのに対し,年金生活者の場合は,年金収入に占める生活費の割合は高まるのが一般的なので,生活費控除率は50%~70%に引き上げられることが多いです。

さらに,生存可能年数に対応するライプニッツ係数(損失額の期限が到来前の無利息債権の現在価値を算出するための係数)については,まず,簡易生命表を用い,被害者の交通事故時(死亡時)の年齢に対応する平均余命年数を算出し,これを生存可能年数とした上で,次に,年金現価表を用い,生存可能年数に対応したライプニッツ係数を導き出すこととなります。なお,令和2年4月1日に施行された改正民法により,法定利率が5%から3%に引き下げられたこととの関係から,令和2年3月31日までに発生した交通事故であるか,それとも令和2年4月1日以降に発生した交通事故であるかによって,用いるべき年金現価表が異なりますので,この点注意が必要です。

⑵ 相談者様から詳細なご事情を伺っているわけではございませんので,交通事故のあった日付を令和2年4月1日,年金年額を120万円,生活費控除率を60%,お父様の交通事故時(死亡時)のご年齢が75歳であったとして,以下,上記⑴の計算式に従って,年金に係る逸失利益を計算してみます。

まず,お父様の交通事故時(死亡時)のご年齢が75歳であったとすると,簡易生命表の男性版に照らすと,生存可能年数(平均余命年数)は約12年となります。次に,生存可能年数12年に対応するライプニッツ係数は,令和2年4月1日以降に発生した交通事故に適用される年金現価表に照らすと,9.9540となります。

したがって,年金に係る逸失利益は,年金年額120万円×(1-0.6)×9.9540=477万7920円となります。

3 まとめ

以上より,お父様の受給していた年金が逸失利益性の認められるもの(老齢年金,退職年金,障害年金等)である場合,逸失利益として損害額に加算して加害者に請求することが出来ます。まずは損害額を計算して加害者に対して請求することになります。加害者は任意保険に加入しているということですから、加害者から保険会社に連絡して保険会社と交渉することになります。保険会社が交渉に応じない場合は、裁判ということになりますが、急を要する場合は自賠責の保険会社に被害者請求することは可能です。

交通事故における損害賠償請求の事案においては,ご本人で任意保険会社と交渉する場合,任意保険会社が提示してくる示談金の額は非常に低額になっていることがほとんどです。代理人弁護士をつけて民事訴訟を踏まえた交渉をすると,その金額が大幅に上がることが往々にしてございますので,お近くの法律事務所で弁護士に相談して依頼を検討された方が宜しいでしょう。

以上

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