新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.985、2010/1/26 15:04 https://www.shinginza.com/jitsumu.htm

法の支配と民事訴訟実務入門(平成20年9月4日改訂)
【各論7、遺産分割を自分でする。】

質問:
 父が先月亡くなりました。母親は健在で、子供は3人です。父親の財産は自宅不動産と預貯金で、遺産の分割の話をしたいのですが、どうしたらよいのか、また話がこじれてしまった場合どのようにすればよいのか知っておきたいと思います。

回答:
1. 遺言書があれば、遺言執行人が遺言書の内容を執行します。遺言執行人が遺言書に書いてなければ、最終的に家庭裁判所が選任してくれます(民法1006条1010条)。唯、後に述べる遺留分の問題が残ります。
2. 問題は遺言書がない場合です。法は、あらかじめ画一的に各相続人の法定相続分を定めていますから各々の相続分に従い分割しますが、不動産、現金を具体的にどう分けるか紛争になる場合もあります。相続財産に一部相続人の財産が含まれているとか、相続財産の形成に相続人が寄与し増加した事情(法904条の2、寄与分家事審判乙類9号の2)、前もって遺産の一部を受領している場合(法903条)等話し合いがつかなければ遺産分割について調停、家事審判の申し立てを行います(家事審判法9条乙類10号)。
3. 家事審判手続きの基本的内容は各論養育費、婚姻費用を参照してください。
4. 個別的遺産分割の問題については 事例集事例集647号435号等を参照してください。

解説
相続についての基本的考え方をご説明します。法の支配の理念は自由主義、資本主義体制を採用するわが国においては具体的法社会制度として私有財産制(憲法29条)と私的自治の原則(契約自由の原則)となって現れます。これが公正な社会秩序を維持発展させる車の両輪と考えられます。生まれながらに自由である国民は、国家社会が計画管理するのではなく、自ら努力模索し自由意思により契約を締結し、働き私有財産を築いて、基本的に自らの力により人間としての尊厳を獲得、維持、保障(憲法13条)していかなければならないのです。しかし、人間は生まれたときからすでに死期が予定されており、死亡した人の財産処分についても私有財産制の原則に従い行うことになります。私有財産制は財産の自由処分を意味しますから死後においても故人、被相続人の意思最優先の原則(遺言自由・優先の原則)が採用され、明確な意思表示がない場合には被相続人の推定的意思を基本として(相続欠格・廃除もその現れです。法891条、892条)、相続財産の長期間にわたる形成過程の特殊性を加味し、相続人の貢献度、死後の相続人の生活保障を考慮して法定相続分が決められています。この点は遺言の場合遺留分(後述)となって具現化されています。しかし、事情により遺産について相続人間に争いとなったとき、肝心かなめの遺産の本来の所有者はこの世にいませんから、その意思を確認することはできません。そこで、法は、遺言については厳格な要式性を貫き、他方法定相続については故人の遺志を尊重すべく遺産形成、分配の特殊性から裁判所の裁量権を認めて家事調停、審判事項として扱い、残された遺族の平和な家族関係維持を目指しています。相続人、相続分、遺産分割(民法906条)等相続に関する事項は以上の趣旨から規定されており解釈されることになります。以下詳論します。

1 相続の原則について
民法では、人が死亡すると相続が開始して(民882)、相続人が権利を当然に承継することになっています(民896)。
また、遺言がある場合は、遺言に従って相続人あるいは遺言執行者が遺言書に書かれていることを執行することになります。
そこで、相続の問題については、まず相続人が誰かを確認する必要があります(亡くなった人は「被相続人」と呼ばれます)。

2 相続人は誰か(民886)
民法では配偶者(夫や妻)は常に相続人になります。配偶者以外については相続人となる順位が、子供(代襲相続の場合はその子供)、直系尊属、兄弟姉妹(民887)と決められています。

3 相続人をどうやって確認するのか
相続人の確認には、戸籍謄本が必要です。被相続人が生まれたときの戸籍から相続人の現在の戸籍まで、つながっていることが記載されている全部の戸籍謄本が必要です。この戸籍の調査は簡単そうですが、戸籍の見方になれていないと見落としてしまうことがあり、司法書士や弁護士に確認してもらう必要があります。初めから調査を依頼すると費用がかかりますのでできるだけ自分で戸籍謄本を取り寄せ、自分で全部そろったと思う時点で専門家に見てもらうよいでしょう。

4 相続人が確定した後どうするか
相続財産は相続人に相続発生時から当然に帰属することになっています。そこで、相続人が一人であれば問題はないのですが、相続人が数人いる場合(「共同相続」といいます)、その権利関係が問題になります。なお、遺言が見つかった場合は、遺言が執行することになります。

5 相続人が複数の場合(共同相続)の処理
  相続人が複数いる場合、民法は、相続人の相続分を定めています(民900)。これを法定相続分といいます。相続人が配偶者と子供の場合は配偶者が2分の1、子供が2分の1です。子供が3人であれば子供の相続分を3人で分けるので子供1人の相続分は6分の1となります。
また、民法は相続財産を相続人の共有と定めていることから(民898)、相続財産は共同相続人の共有となり、共有の持ち分は、相続分に従うことになります。ご質問の場合は、配偶者(母親)が2分の1、子供がそれぞれ6分の1の共有となります。ただし、相続の場合はどのように相続するのか話し合いで決めるのが原則です。これを「遺産分割協議」といいます(民906以下)。つまり、通常の共有たとえば3人で土地を購入して共有していた場合とは異なり、相続人間で相続人の家庭の事情を考慮してどのように分割するのか協議するのが原則となっているのです。このような民法の規定から共有といっても遺産分割が終了するまでの仮の状態と考えるべきでしょう。ただし、取引関係においては通常の共有と同様に扱われることになっており、相続人は共有持ち分を処分することもできます。また、預貯金は、預金債権といって金融機関に対する債権(預金している金額を支払えという請求権です。)でこれは分割して請求できることになっていますから、相続人は遺産分割前であっても自分の相続分だけは、支払えと請求できることになっています。
事例集事例集782号参照)。

6 遺産分割協議ができた場合
  遺産分割の話し合いが当事者間で成立すれば次の例のような遺産分割協議書を作成し、各自が署名し実印を押捺して印鑑証明書を添付することで、協議は完了します。これに、初めに用意した戸籍謄本をそろえれば、不動産については相続の登記、預貯金については銀行で払い戻しの請求をすることになります。

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遺産分割協議書
被相続人 00 00    相続開始の日 平成00年0月0日
本   籍 東京都00区0町0丁目00番地
最後の住所 同所0丁目00番00号

上記被相続人の死亡により開始した相続における共同相続人である0000,0000,0000の3名は、相続財産について、次のとおり遺産分割の協議をした。
1 次の不動産は0000が相続する。
 (1) 土地
所 在    地 番    地 目     面 積 
  (2) 建物
所 在    家屋番号   種類      面積
    
第2 預金債権
1    銀行   支店
定期預金 口座番号 
普通預金 口座番号 
2  協同組合   支店
定期貯金 証書番号 
普通預金 口座番号 720565
上記協議を証するため、この協議書を作成して各自が署名し実印を押捺する。
    平成 年 月 日
住  所
     氏  名
住  所
     氏  名
住  所
     氏  名
------------------------------

7 遺産分割協議ができない場合、遺産分割調停の申し立て
  この場合は、まず家庭裁判所に遺産分割協議の調停を申し立てることになります。管轄裁判所は、相手方の住所地か相続が発生した地を管轄する家庭裁判所となります。申立書等は家庭裁判所の受付に用紙があります。調査した戸籍謄本(戸籍謄本原本が必要になりますから、戸籍謄本は初めから2部以上用意しておいたほうが良いでしょう。)を持参し、また相続財産の一覧表を作成しておくと便利でしょう(申し立て後でも構いませんが財産の確認のため、不動産であれば登記所で全部事項証明書、預貯金については金融機関の残高証明書を用意しておく必要があります。)

8 遺産分割の調停と審判
  遺産分割の調停もほかの家事事件の調停と同様に行われます。特別な事情がなければ、相続財産を確認し相続分に応じた分割の方法を申立人、相手方双方の意見を聞いて調停委員が分割案を調整します。特別の事情となるのは、寄与分、特別受益等です。この点について主張があれば、具体的に金額を提示して主張する必要があります。また、寄与分について争いがあれば、別の調停事件として取り上げることになります。

9 調停が成立すれば調停調書が作成され、遺産分割協議書と同じ効力を持ちます。また、調停が成立しない場合は、申立人が取り下げない限り、自動的に審判事件となります。その場合は、当事者が承諾しなくても家庭裁判所が遺産分割の審判をし、審判書が渡されますのでそれが遺産分割協議書と同じ効力を持ちます。
また審判に不服な当事者は即時抗告といって高等裁判所に不服の申し立てができます。

≪条文参照≫

民法
第五編 相続
   第二章 相続人
(子及びその代襲者等の相続権)
第八百八十七条  被相続人の子は、相続人となる。
(配偶者の相続権)
第八百九十条  被相続人の配偶者は、常に相続人となる。この場合において、第八百八十七条又は前条の規定により相続人となるべき者があるときは、その者と同順位とする。
(相続人の欠格事由)
第八百九十一条  次に掲げる者は、相続人となることができない。
一  故意に被相続人又は相続について先順位若しくは同順位にある者を死亡するに至らせ、又は至らせようとしたために、刑に処せられた者
二  被相続人の殺害されたことを知って、これを告発せず、又は告訴しなかった者。ただし、その者に是非の弁別がないとき、又は殺害者が自己の配偶者若しくは直系血族であったときは、この限りでない。
三  詐欺又は強迫によって、被相続人が相続に関する遺言をし、撤回し、取り消し、又は変更することを妨げた者
四  詐欺又は強迫によって、被相続人に相続に関する遺言をさせ、撤回させ、取り消させ、又は変更させた者
五  相続に関する被相続人の遺言書を偽造し、変造し、破棄し、又は隠匿した者
(推定相続人の廃除)
第八百九十二条  遺留分を有する推定相続人(相続が開始した場合に相続人となるべき者をいう。以下同じ。)が、被相続人に対して虐待をし、若しくはこれに重大な侮辱を加えたとき、又は推定相続人にその他の著しい非行があったときは、被相続人は、その推定相続人の廃除を家庭裁判所に請求することができる。
   第三章 相続の効力
    第一節 総則
(相続の一般的効力)
第八百九十六条  相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。ただし、被相続人の一身に専属したものは、この限りでない。
(共同相続の効力)
第八百九十八条  相続人が数人あるときは、相続財産は、その共有に属する。
第八百九十九条  各共同相続人は、その相続分に応じて被相続人の権利義務を承継する。
    第二節 相続分
(法定相続分)
第九百条  同順位の相続人が数人あるときは、その相続分は、次の各号の定めるところによる。
一  子及び配偶者が相続人であるときは、子の相続分及び配偶者の相続分は、各二分の一とする。
二  配偶者及び直系尊属が相続人であるときは、配偶者の相続分は、三分の二とし、直系尊属の相続分は、三分の一とする。
三  配偶者及び兄弟姉妹が相続人であるときは、配偶者の相続分は、四分の三とし、兄弟姉妹の相続分は、四分の一とする。
四  子、直系尊属又は兄弟姉妹が数人あるときは、各自の相続分は、相等しいものとする。ただし、嫡出でない子の相続分は、嫡出である子の相続分の二分の一とし、父母の一方のみを同じくする兄弟姉妹の相続分は、父母の双方を同じくする兄弟姉妹の相続分の二分の一とする。
(代襲相続人の相続分)
第九百一条  第八百八十七条第二項又は第三項の規定により相続人となる直系卑属の相続分は、その直系尊属が受けるべきであったものと同じとする。ただし、直系卑属が数人あるときは、その各自の直系尊属が受けるべきであった部分について、前条の規定に従ってその相続分を定める。
2  前項の規定は、第八百八十九条第二項の規定により兄弟姉妹の子が相続人となる場合について準用する。
(遺言による相続分の指定)
第九百二条  被相続人は、前二条の規定にかかわらず、遺言で、共同相続人の相続分を定め、又はこれを定めることを第三者に委託することができる。ただし、被相続人又は第三者は、遺留分に関する規定に違反することができない。
2  被相続人が、共同相続人中の一人若しくは数人の相続分のみを定め、又はこれを第三者に定めさせたときは、他の共同相続人の相続分は、前二条の規定により定める。
(特別受益者の相続分)
第九百三条  共同相続人中に、被相続人から、遺贈を受け、又は婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与の価額を加えたものを相続財産とみなし、前三条の規定により算定した相続分の中からその遺贈又は贈与の価額を控除した残額をもってその者の相続分とする。
2  遺贈又は贈与の価額が、相続分の価額に等しく、又はこれを超えるときは、受遺者又は受贈者は、その相続分を受けることができない。
3  被相続人が前二項の規定と異なった意思を表示したときは、その意思表示は、遺留分に関する規定に違反しない範囲内で、その効力を有する。
第九百四条  前条に規定する贈与の価額は、受贈者の行為によって、その目的である財産が滅失し、又はその価格の増減があったときであっても、相続開始の時においてなお原状のままであるものとみなしてこれを定める。
(寄与分)
第九百四条の二  共同相続人中に、被相続人の事業に関する労務の提供又は財産上の給付、被相続人の療養看護その他の方法により被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額から共同相続人の協議で定めたその者の寄与分を控除したものを相続財産とみなし、第九百条から第九百二条までの規定により算定した相続分に寄与分を加えた額をもってその者の相続分とする。
2  前項の協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、家庭裁判所は、同項に規定する寄与をした者の請求により、寄与の時期、方法及び程度、相続財産の額その他一切の事情を考慮して、寄与分を定める。
3  寄与分は、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額から遺贈の価額を控除した残額を超えることができない。
4  第二項の請求は、第九百七条第二項の規定による請求があった場合又は第九百十条に規定する場合にすることができる。
(相続分の取戻権)
第九百五条  共同相続人の一人が遺産の分割前にその相続分を第三者に譲り渡したときは、他の共同相続人は、その価額及び費用を償還して、その相続分を譲り受けることができる。
2  前項の権利は、一箇月以内に行使しなければならない。
    第三節 遺産の分割
(遺産の分割の基準)
第九百六条  遺産の分割は、遺産に属する物又は権利の種類及び性質、各相続人の年齢、職業、心身の状態及び生活の状況その他一切の事情を考慮してこれをする。
(遺産の分割の協議又は審判等)
第九百七条  共同相続人は、次条の規定により被相続人が遺言で禁じた場合を除き、いつでも、その協議で、遺産の分割をすることができる。
2  遺産の分割について、共同相続人間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、各共同相続人は、その分割を家庭裁判所に請求することができる。
3  前項の場合において特別の事由があるときは、家庭裁判所は、期間を定めて、遺産の全部又は一部について、その分割を禁ずることができる。
(遺産の分割の方法の指定及び遺産の分割の禁止)
第九百八条  被相続人は、遺言で、遺産の分割の方法を定め、若しくはこれを定めることを第三者に委託し、又は相続開始の時から五年を超えない期間を定めて、遺産の分割を禁ずることができる。
(遺言執行者の指定)
第千六条  遺言者は、遺言で、一人又は数人の遺言執行者を指定し、又はその指定を第三者に委託することができる。
2  遺言執行者の指定の委託を受けた者は、遅滞なく、その指定をして、これを相続人に通知しなければならない。
3  遺言執行者の指定の委託を受けた者がその委託を辞そうとするときは、遅滞なくその旨を相続人に通知しなければならない。
(遺言執行者の任務の開始)
第千七条  遺言執行者が就職を承諾したときは、直ちにその任務を行わなければならない。
(遺言執行者の選任)
第千十条  遺言執行者がないとき、又はなくなったときは、家庭裁判所は、利害関係人の請求によって、これを選任することができる。

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