再開発における個別利用区の活用

民事|都市再開発法|個別利用区|照応の原則

目次

  1. 質問
  2. 回答
  3. 解説
  4. 関連事例集
  5. 参照条文

質問:

駅前で明治時代から続く料理店を経営しています。店の外側に曾祖父が魚介類の供養で建てた小さな祠があります。祠は料理店を引き継いだ我々家族だけでなく、近所の方々や通りすがりの方も手を合わせたりして大切に守り伝えてきました。数年前から駅前再開発の話が持ち上がり、去年準備組合も設立されました。デベロッパーの人が準備組合に加入しませんかと勧誘に来ましたが、祠はどうなるか尋ねても明確な回答は貰えませんでした。近所に有名な神社があり、駅前商店街の一部は参道沿いの出店になっています。再開発とはいえ、祠や参道が無くなってしまうのは忍びありません。なんとか維持する方法は無いでしょうか。

回答:

1、再開発手続きの場合、再開発地域内の建物はすべて撤去され、再開発区域内の土地は新しく建築される建物の敷地として利用されるのが原則です。しかし例外として「個別利用区」という制度があり、個別利用区内にある建物については撤去しないでもよいとされています。古い町並みを残したいという場合は、この個別利用区にできないか検討することになります。

2、再開発は、木造密集地区の地震火災対策や、地域の商業機能向上のために、区域一帯で建て替えを促進する手続きです。地権者全員の個別の同意を要件とすることなく(つまり多少の反対者が居ても)、3分の2以上の同意による市街地再開発組合を設立して、強制的に権利を移転させたり消滅させたりする権利変換手続きを活用して、建て替えを進めて行きます。

3、再開発手続を定めた都市再開発法には、地権者が中心となる民間の再開発手続である第一種市街地再開発事業と、行政などが主体となる第二種市街地再開発事業があります。今回、準備組合が設立されたということですので、組合施行の第一種市街地再開発事業と考えられます。

4、第一種市街地再開発事業では、区域内地権者がデベロッパー参加組合員の助力を得ながら意思形成を図って、再開発事業全体のデザインを決定していきます。区域内に、祠や神社や参道や歴史的建造物など、移動しがたいものや、移設してでも存置すべきものがある場合は、都市再開発法70条の2で定められた個別利用区を活用できる可能性があります。個別利用区の活用は再開発手続の事業計画に定める必要がありますので、準備組合の多数派による意思形成が不可欠です。周りの地権者の意向も確認してみましょう。地権者の意向がある場合は行政協議を経て都市計画審議会の議決を経て市街地再開発事業の都市計画決定・告示を得て、正式に利用できることが決まります。

5、個別利用区を活用するとどうしても区域内全体の計画床面積が抑制され、再開発事業の事業性(事業の採算性)が悪化してしまう傾向があります。参加組合員デベロッパーは難色を示すかも知れません。区域内地権者の多数意見として、個別利用区の採用についての意思形成ができない場合でも、通常の再開発手続の中で、施設建築物の設計の基本的な考え方の中で、従来の「祠」や「参道商店街」の機能を維持できるように設計に工夫を行う対策が考えられます。この場合は、個別利用区としてではなく、施設建築物の設計の基本的な考え方の中に、方針を記述すべきことになります。容積率を犠牲にしない方式なので、区域内地権者の賛同も得られやすいでしょう。従来の施設の維持に懸念がある場合は、経験のある弁護士事務所に御相談なさり、準備組合との代理交渉を依頼することもできます。

6 関連事例集 参照。

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解説:

1、市街地再開発事業

再開発は、木造密集地区の地震火災対策や、地域の商業機能向上のために、つまり公益目的を実現するために、区域一帯で建て替えを促進する手続きです。

都市再開発法 第1条(目的)この法律は、市街地の計画的な再開発に関し必要な事項を定めることにより、都市における土地の合理的かつ健全な高度利用と都市機能の更新とを図り、もつて公共の福祉に寄与することを目的とする。

木造家屋を鉄骨鉄筋コンクリート造の建物などの耐震不燃建物に建て替えることにより、建物の不燃化と耐震性向上を図ることができ、都市の防災機能を向上させることができます。建物の防災機能が向上することにより、当該建物の所有者や賃借人だけでなく、当該建物の周りの建物の所有者や賃借人の安全性も向上することになります。商業区域においては、高層ビルの建設により床面積が増加すれば商業機能を高めることにより、土地の高度利用による国民経済の振興というメリットを享受することもできます。当該建物の商業機能が高まることにより、相乗効果により、当該建物の周りの建物の所有者や賃借人も商業機能の高まったメリットを享受することができます。

土地建物は私有財産ですが、特に市街地においては単独で存在しているものではなく、区域一帯の中で隣地と共に存在し利用されており、ひとつの建物が倒壊したり火災になってしまうと、周りの住人にも被害を巻き込んでしまうおそれがありますし、区域一帯が商業ビジネスで発展しているときに一区画の地主だけが反対してビルの建て替えができないことになってしまうと区域全体の経済発展が阻害されてしまいます。

そこで、市街地の木造家屋密集地区を中心に、行政による「再開発促進区」の都市計画決定(都市計画審議会の議決)などを条件として、区域一帯の一括建て替えを促進する都市再開発法の権利変換手続が整備されることになったのです。

権利変換手続の概要を示します。

(1) 区域一帯の地権者5名以上で再開発組合の設立を準備する任意団体を設立する(市街地再開発勉強会、再開発協議会、再開発準備組合など)

(2) 参加組合員予定者となる不動産デベロッパーなどと協力し、行政協議を経て、都市計画審議会が審議する「再開発促進区」「市街地再開発事業」の原案を取りまとめる。

(3) 都市計画の行政決定後に、再開発事業計画案と、再開発組合の定款など規約類を用意して、準備組合総会において、再開発組合設立認可申請を行う決議を行い、都道府県知事に対して本組合(市街地再開発組合)設立認可申請を行う。

(4) 設立認可申請書類一式の審査を経て、市区町村が事業計画の縦覧を2週間行い、意見書の提出を募集する。意見書の審査を経て、事業計画と組合設立の認可公告がなされる。

(5) 組合内において住戸選定会などを経て、権利変換計画の原案を作成し、2週間の縦覧を行い、意見書の提出を募集する。意見書の審査を経て、権利変換計画の認可申請を行う。

(6) 行政の審査を経て、権利変換計画認可公告がなされる。通常、権利変換期日は認可公告の翌日~4週間後の期日が指定される。

都市再開発法87条で、権利変換期日に次の権利の移動が発生します。
1:従前土地所有者→土地共有持分+建物敷地権(借地権又は土地所有権)+建物所有権

2:従前土地建物所有者→土地共有持分+建物敷地権(借地権又は土地所有権)+建物所有権

3:従前借地権および建物所有者→建物敷地権(借地権又は土地所有権)+建物所有権

4:従前借家権者→再開発ビルに対する借家権取得

都市再開発法第87条(権利変換期日における権利の変換)

第1項 施行地区内の土地は、権利変換期日において、権利変換計画の定めるところに従い、新たに所有者となるべき者に帰属する。この場合において、従前の土地を目的とする所有権以外の権利は、この法律に別段の定めがあるものを除き、消滅する。

第2項 権利変換期日において、施行地区内の土地(指定宅地を除く。)に権原に基づき建築物を所有する者の当該建築物は、施行者に帰属し、当該建築物を目的とする所有権以外の権利は、この法律に別段の定めがあるものを除き、消滅する。ただし、第六十六条第七項の承認を受けないで新築された建築物及び施行地区外に移転すべき旨の第七十一条第一項の申出があつた建築物については、この限りでない。


2、第一種市街地再開発事業と第二種市街地再開発事業

市街地再開発事業には、第1種と第2種があり、第1種が「権利変換方式」であり、第2種が「管理処分方式」とされています。「管理処分方式」とは、再開発地域に不動産の権利を所有する者の権利を強制的に買い取ることを認める方式です。公共的観点から考えて再開発事業の必要性と緊急性が高い事業において認可される方式です。第2種市街地再開発事業では、事業主体として、「個人施行」や「(地権者の)市街地再開発組合」による手続が認められず、主に、市区町村や都道府県などの地方自治体や、独立行政法人都市再生機構が、市役所整備などの公共性の高い事業において用いることができる手続方法です。その他、例えば、オリンピック開催をするために必要だということで競技場を建設したりするような場合にも、利用することができると考えられます。具体的には阪神淡路大震災被災地再開発、東京亀戸、大島、小松川再開発があります。

これに対し、第一種市街地再開発事業は、前記の第2種事業よりは緊急性や公共性が認められませんが、一定の必要性が認められる事案で、都市再開発法の定める手続に従って処理することにより、「権利変換」をすることが認められるものです。権利変換とは、権利変換期日において、市街地再開発区域内の土地建物の旧来の権利が全て消滅し、代わりに、市街地再開発後の新しい土地や建物等の権利が与えられることを意味します。権利変換により、円滑な建物の建替え工事が促進されることになります。

今回、準備組合が設立されたということですので、組合施行の第一種市街地再開発事業と考えられます。

3、個別利用区

第一種市街地再開発事業では、区域内地権者がデベロッパー参加組合員の助力を得ながら意思形成を図って、再開発事業全体のデザインを決定していきます。区域内に、祠や神社や参道や歴史的建造物など、移動しがたいものや、移設してでも存置すべきものがある場合、区域内に既に一定の高度利用がなされている築浅建物がある場合には、都市再開発法70条の2で定められた個別利用区を活用できる可能性があります。これは平成28年6月に公布され、同9月1日に施行された新しい条項です。

市街地再開発事業の施行区域の要件を満たすような市街地であっても、その地区内に、移設が難しい歴史的建造物や、一定の高度利用がなされており建築されてからの築年数が少ない建築物など、公益性の観点などからも残すべき既存施設が点在する事例があります。

このような状況で、従来通り市街地再開発事業を施行する場合には、全ての建築物が除却されることとなり、次のような弊害を生じる懸念があります。

(1)既存ストック(施設)の有効活用を図ることができない

(2)更新すべき建築物が増加することにより、除却費や再開発ビルの建築費などの事業費が増大し、床需要の小さい地方都市では事業の組み立てが困難

(3)権利者は再開発ビルに権利変換を受けるか地区外転出の二者択一であり、コミュニティの維持が難しい

特定の建築物を残すためには、当該建築物を事業の施行地区から除外することも考えられますが、再開発ビルや公共施設の配置との関係上、施行地区から除外することが技術的に不可能な場合もあります。また、都市再開発法110条により関係権利者の全員同意が得られれば一定の建築物を残したかたちでの権利変換を行うことも可能ですが、全員同意を得るには、調整に多大な時間と労力を要します。

そこで、既存建築物を活用しながら市街地再開発事業を施行することができるよう、第一種市街地再開発事業の事業計画において、一定の要件に該当する既存建築物を存置又は移転することができる区域(個別利用区)を定め、当該建築物に係る地権者の申出に応じ、個別利用区内の宅地に権利変換をできるようにする制度(個別利用区制度)が創設されました。

都市再開発法70条の2(個別利用区内の宅地への権利変換の申出等)抜粋

第1項 第七条の十一第二項(第十二条第一項、第五十条の六、第五十三条第四項及び第五十八条第三項において準用する場合を含む。)の規定により事業計画において個別利用区が定められたときは、施行地区内の宅地について所有権又は借地権を有する者は、次の各号に掲げる場合の区分に応じて当該各号に定める公告があつた日から起算して三十日以内に、施行者に対し、国土交通省令で定めるところにより、権利変換計画において当該所有権又は借地権に対応して個別利用区内の宅地又はその借地権が与えられるように定めるべき旨の申出をすることができる。この場合において、借地権を有する者にあつては、当該借地の所有者と共同で申出をしなければならない。

一 事業計画が定められた場合 第六十条第二項各号に掲げる公告(事業計画の変更の公告又は事業計画の変更の認可の公告を除く。)

二 事業計画の変更により新たに個別利用区が定められた場合 当該事業計画の変更の公告又は当該事業計画の変更の認可の公告

三 事業計画の変更により従前の施行地区外の土地が新たに施行地区に編入されたことに伴い個別利用区の面積が拡張された場合 当該事業計画の変更の公告又は当該事業計画の変更の認可の公告

第2項 前項の申出は、次に掲げる要件の全てに該当するものでなければならない。

一 当該申出をする者以外に、当該申出に係る宅地について借地権その他の土地を使用し、若しくは収益することができる権利(地役権を除く。以下「使用収益権」という。)を有する者又は当該宅地に存する建築物について所有権若しくは借家権を有する者があるときは、これらの者の同意が得られていること。

二 当該申出が、施行地区内に現に存する建築物のうち次のいずれかに該当するものを存置し、又は移転することを目的とするものであること。

イ 容積率及び建築面積が、それぞれ、当該施行地区に係る高度利用地区等に関する都市計画において定められた建築物の容積率の最低限度及び建築物の建築面積の最低限度を超えるものとして規準、規約、定款又は施行規程で定める数値以上である建築物

ロ 建築基準法第三条第一項各号のいずれかに該当する建築物

ハ 公衆便所、巡査派出所その他これらに類する建築物で、公益上必要なもの

ニ 学校、駅舎、卸売市場その他これらに類する公益上必要な建築物で、建築基準法第五十九条第一項第三号、第六十条の二第一項第三号又は第六十条の三第一項第三号の規定による許可を受けたもの

三 当該申出に係る宅地の地積が、当該宅地に対応して権利変換計画において前号に規定する建築物を存置し、又は移転するのに必要な面積以上の規模の宅地を与えるように定めることができるものとして規準、規約、定款又は施行規程で定める規模以上であること。

個別利用区を定める事業計画が認可された場合は、その認可公告から30日以内に、再開発組合に対して「個別利用区内の宅地又は借地権が与えられるように定めるべき旨の申出」を行うことができ(都市再開発法70条の2第1項)、組合がこれを認め指定を受ける「指定宅地」として、個別利用区内の宅地に権利変換を受けることができます。指定宅地が、個別利用区外の宅地であった場合は既存の建物を移設することになりますが、個別利用区内の宅地であれば既存の建物を現状の位置のままで再開発手続を行う場合もあります。

国土交通省の「市街地再開発事業における個別利用区制度等運用マニュアル」が配布されていますので御案内致します。

https://www.shinginza.com/kobetsu.pdf

国土交通省のマニュアルでは、個別利用区が活用されるケースとして次の4種類の場合が想定されています。

(1)地域の床需要に応じた整備

有用なストックの存置により事業規模を縮小し、敷地整序や公共施設整備を進めつつ、地域の床需要に応じた身の丈の市街地再開発事業を実施

(想定されている地区)

・高度利用されている既存建築物等の敷地の一部が基盤整備や公共施設再編にかかる地区

・高度利用されている既存建築物等の敷地を活用した土地の整序・整形化等による街区の再生が求められている地区

(2)歴史的建築物等を保存しつつ事業実施

個別利用区で歴史的・文化的建築物を保存しながら環境整備等を行ないつつ、施設建築敷地において再開発ビルを建設

(想定されている地区)

・歴史的・文化的建築物等が地区内にあり、曳家等によってこれらを保存することで、まちなみ形成等に活かすことができる地区

・保存・活用が必要な歴史的・文化的建築物の敷地の一部が基盤整備等にかかる地区

(3)コンパクトシティに必要な都市機能の整備

再開発ビルにおいて、都市のコンパクト化等に必要な都市機能を整備

(想定されている地区)

・小規模な低未利用地が散在しているが、その街区の中央に歴史的建築物があることで、まとまった敷地が確保できない地区

(4)多様な権利者ニーズへの対応

これまでの生活環境等を維持しながら、また、地域特有の慣習等を背景とした権利者ニーズ等に応えながら市街地再開発事業を実施

(想定されている地区)

・先祖から代々所有してきたビル、共同化になじまない構えが必要な店舗ビルや物産店など、高度利用されている既存建築物で、単独所有が望まれる土地・建物が存在する地区

・高度利用されている既存建築物で、単独所有を希望する業務ビルや工場等があり、すべての土地・建物を共同化することが難しい地区

これを見ると、かなり幅広い用途で個別利用区を活用することが想定されていると分かります。都市再開発法で求められている3分の2以上の同意による意思形成が再開発組合設立の要件となっていますが(都市再開発法14条1項)、どうしても意思形成が難しい場合は、個別利用区の活用を条件として同意を得る方法も考えられるところです。御相談のような神社仏閣の参道や個別の祠や社などの存置でも、個別利用区を活用することが観念できます。

個別利用区内の宅地の配置は、従前施設や街並みの維持に配慮し、「指定宅地の相互の位置関係、地積、環境、利用状況その他の事情と当該指定宅地に対応して与えられることとなる個別利用区内の宅地の相互の位置関係、地積、環境、利用状況その他の事情ができる限り照応し、かつ、その価額と従前の価額との間に著しい差額が生じないように定めなければならない」とされています(都市再開発法77条の2第3項)。これを「照応の原則」といいます。

通常の権利変換では、都市再開発法77条2項で、「それらの者の相互間に不均衡が生じないように」という要件が定められていますが、個別利用区に関する同77条の2第3項では、この要件が除外されています。77条2項は第一種市街地再開発事業の権利変換における「等価原則」を定めた規定とされておりますので、個別利用区を定める再開発事業では、「等価原則」が一部緩和され、「照応原則」が採用されていることになります。維持・存置すべき施設を配置するために、地権者間の多少の不均衡は容認する趣旨と解釈できます。

都市再開発法77条(施設建築物の一部等)

2項 前項前段に規定する者に対して与えられる施設建築物の一部等は、それらの者が権利を有する施行地区内の土地又は建築物の位置、地積又は床面積、環境及び利用状況とそれらの者に与えられる施設建築物の一部の位置、床面積及び環境とを総合的に勘案して、それらの者の相互間に不均衡が生じないように、かつ、その価額と従前の価額との間に著しい差額が生じないように定めなければならない。この場合において、二以上の施設建築敷地があるときは、その施設建築物の一部は、特別の事情がない限り、それらの者の権利に係る土地の所有者に前条第一項及び第二項の規定により与えられることと定められる施設建築敷地に建築される施設建築物の一部としなければならない。

都市再開発法77条の2(個別利用区内の宅地等)

3項 指定宅地の所有者に対して与えられる個別利用区内の宅地は、それらの者が所有する指定宅地の相互の位置関係、地積、環境、利用状況その他の事情と当該指定宅地に対応して与えられることとなる個別利用区内の宅地の相互の位置関係、地積、環境、利用状況その他の事情ができる限り照応し、かつ、その価額と従前の価額との間に著しい差額が生じないように定めなければならない。

個別利用区の活用は再開発手続の事業計画に定める必要がありますので(都市再開発法70条の2第1項)、準備組合の多数派による意思形成が不可欠です。周りの地権者の意向も確認してみましょう。地権者の意向がある場合は行政協議を経て都市計画審議会の議決を経て市街地再開発事業の都市計画決定・告示を得て、正式に利用できることが決まります。

7、施設建築物のデザインを考慮する方法

個別利用区を活用するとどうしても区域内全体の計画床面積が抑制され、再開発事業の事業性(事業の採算性)が悪化してしまう傾向があります。計画床面積の減少は、参加組合員が取得できる保留床の面積減少と、従前地権者にとっては権利床の面積が減少する原因になり得ます。参加組合員となる不動産デベロッパーは難色を示すことが多いようです。

区域内地権者の多数意見として個別利用区の採用についての意思形成ができない場合でも、通常の再開発手続の中で、施設建築物の設計の基本的な考え方の中で、従来の「祠」や「参道商店街」の機能を維持できるように設計に工夫を行う対策も考えられます。この場合は、計画容積率を削減することなく、区域内の施設配置や、施設建築物のデザインの微調整により、御相談の「参道」や「祠」を維持することができます。個別利用区を利用せずに、従前の街並みを維持した参考事例を御紹介致します。

※個別利用区導入前に商店街の再生を実現した参考事例、高松丸亀町商店街
https://www.kame3.jp/redevelopment/

この場合は、個別利用区としてではなく、施設建築物の設計の基本的な考え方の中に、従前の街並みを尊重した再開発であることを事業方針として記述すべきことになります。容積率を犠牲にしない方式なので、参加組合員や区域内地権者の賛同も得られやすいでしょう。従来の施設の維持に懸念がある場合は、経験のある弁護士事務所に御相談なさり、準備組合との代理交渉を依頼することも御検討下さい。

以上

関連事例集

その他の事例集は下記のサイト内検索で調べることができます。

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参照条文・判例

都市再開発法 第70条の2(個別利用区内の宅地への権利変換の申出等)

1項 第七条の十一第二項(第十二条第一項、第五十条の六、第五十三条第四項及び第五十八条第三項において準用する場合を含む。)の規定により事業計画において個別利用区が定められたときは、施行地区内の宅地について所有権又は借地権を有する者は、次の各号に掲げる場合の区分に応じて当該各号に定める公告があつた日から起算して三十日以内に、施行者に対し、国土交通省令で定めるところにより、権利変換計画において当該所有権又は借地権に対応して個別利用区内の宅地又はその借地権が与えられるように定めるべき旨の申出をすることができる。この場合において、借地権を有する者にあつては、当該借地の所有者と共同で申出をしなければならない。

一 事業計画が定められた場合 第六十条第二項各号に掲げる公告(事業計画の変更の公告又は事業計画の変更の認可の公告を除く。)

二 事業計画の変更により新たに個別利用区が定められた場合 当該事業計画の変更の公告又は当該事業計画の変更の認可の公告

三 事業計画の変更により従前の施行地区外の土地が新たに施行地区に編入されたことに伴い個別利用区の面積が拡張された場合 当該事業計画の変更の公告又は当該事業計画の変更の認可の公告

2項 前項の申出は、次に掲げる要件の全てに該当するものでなければならない。

一 当該申出をする者以外に、当該申出に係る宅地について借地権その他の土地を使用し、若しくは収益することができる権利(地役権を除く。以下「使用収益権」という。)を有する者又は当該宅地に存する建築物について所有権若しくは借家権を有する者があるときは、これらの者の同意が得られていること。

二 当該申出が、施行地区内に現に存する建築物のうち次のいずれかに該当するものを存置し、又は移転することを目的とするものであること。

イ 容積率及び建築面積が、それぞれ、当該施行地区に係る高度利用地区等に関する都市計画において定められた建築物の容積率の最低限度及び建築物の建築面積の最低限度を超えるものとして規準、規約、定款又は施行規程で定める数値以上である建築物

ロ 建築基準法第三条第一項各号のいずれかに該当する建築物

ハ 公衆便所、巡査派出所その他これらに類する建築物で、公益上必要なもの

ニ 学校、駅舎、卸売市場その他これらに類する公益上必要な建築物で、建築基準法第五十九条第一項第三号、第六十条の二第一項第三号又は第六十条の三第一項第三号の規定による許可を受けたもの

三 当該申出に係る宅地の地積が、当該宅地に対応して権利変換計画において前号に規定する建築物を存置し、又は移転するのに必要な面積以上の規模の宅地を与えるように定めることができるものとして規準、規約、定款又は施行規程で定める規模以上であること。

3項 施行者は、第一項の申出があつた場合において、同項の期間の経過後遅滞なく、第一号に該当すると認めるときは当該申出に係る宅地の全部について権利変換計画において当該宅地に対応して個別利用区内の宅地が与えられるべき宅地として指定をし、第二号に該当すると認めるときは当該申出に係る宅地のうち一部について当該指定をし、他の宅地について申出に応じない旨を決定しなければならない。

一 権利変換計画において、第一項の申出に係る宅地の全部について当該宅地に対応して与えられるべき宅地の地積の合計が個別利用区の面積を超えないこととなるとき。

二 権利変換計画において、第一項の申出に係る宅地の全部について当該宅地に対応して与えられるべき宅地の地積の合計が個別利用区の面積を超えることとなるとき。

4項 施行者は、前項の規定による指定又は決定をしたときは、速やかに、第一項の申出をした者に対し、その旨を通知しなければならない。

5項 施行者は、第三項の規定による指定をしたときは、速やかに、当該指定をした宅地(以下「指定宅地」という。)を公告しなければならない。

6項 施行者は、第三項の規定による決定をしたときは、速やかに、その旨を公告しなければならない。

7項 次条第一項の規定による申出に係る宅地又は同項若しくは同条第三項の規定による申出に係る建築物が存する宅地について、第五項の規定による指定宅地の公告があつたときは、同条第一項又は第三項の規定による申出は、なかつたものとみなす。

8項 施行者が第十一条第一項の規定により設立された組合である場合においては、最初の役員が選挙され、又は選任されるまでの間は、第一項の申出は、同条第一項の規定による認可を受けた者が受理するものとする。

第77条の2(個別利用区内の宅地等)

1項 権利変換計画においては、指定宅地の所有者又はその使用収益権を有する者に対しては、それぞれ個別利用区内の宅地又はその使用収益権が与えられるように定めなければならない。

2項 個別利用区内の各宅地の地積は、第七十条の二第二項第三号に規定する面積以上でなければならない。

3項 指定宅地の所有者に対して与えられる個別利用区内の宅地は、それらの者が所有する指定宅地の相互の位置関係、地積、環境、利用状況その他の事情と当該指定宅地に対応して与えられることとなる個別利用区内の宅地の相互の位置関係、地積、環境、利用状況その他の事情ができる限り照応し、かつ、その価額と従前の価額との間に著しい差額が生じないように定めなければならない。

4項 権利変換計画においては、第一項の規定により与えられるように定められる宅地以外の個別利用区内の宅地は、施行者に帰属するように定めなければならない。

5項 指定宅地の使用収益権を有する者に対して与えられる個別利用区内の宅地の使用収益権は、従前の使用収益権の目的である指定宅地の所有者に対して与えられることとなる個別利用区内の宅地の上に存するものとして定めなければならない。