LGBTを理由とする賃貸契約解除の有効性

民事|LGBT(性的少数者)差別問題|東京高裁平成27年7月1日判決|最高裁平成25年12月10日決定

目次

  1. 質問
  2. 回答
  3. 解説
  4. 関連事例集
  5. 参照条文

質問:

私は男性同性愛者です。3年前にワンルームマンションの賃貸契約を締結して入居しましたが、その後、同性の交際相手が出来て同居するようになりました。賃貸契約書には、単身用マンションなので2名以上の同居は認めないという契約条項があります。それで私は申し訳ないと思いながらも管理会社や大家さんには連絡せずに同居を継続していました。最近、同居していることが近隣住民にも分かったようで、苦情が管理会社に行ったようです。問い合わせが来たので正直に生活状況を回答しました。そうしたところ、内容証明郵便で「二名以上の同居は認めていないので、二人で住むことは用法違反にあたるので賃貸契約を解除するので即時退去して下さい」という手紙が来てしまいました。私達は同性愛ですが真摯に交際しているつもりですし、ゆくゆくは二人暮らしに適する広めの賃貸物件を探して引っ越す積もりはあります。しかし、今すぐには無理なのです。この場合、どのように対応したらよいでしょうか。管理会社は、私たちが同性愛者であることも問題にしているようですが、その点については解除の理由としては、明らかにはしていません。

回答:

1、御相談の内容は、2つの問題が含まれています。単身用ワンルームマンションの賃貸借契約で2人居住が認められるか、という問題と、LGBTを理由とする賃貸借契約の解除が認められるか、という問題です。

2、単身用賃貸マンションの契約で2人居住が認められるか、という問題については、原則として認められませんが、例えば、入居時には単身だったが「結婚した」「出産した」という理由で後日2名となった場合には、解除の有効性が問題になり得ます。最高裁判所まで争った事例は確認できませんでしたが、特に単身者の利用しか認められないというような特段の事情がない限り、解除は認められないでしょう。今回の貴方の同居開始が、「婚姻生活開始」と同視しえるようなものかどうかが、問題になります。

3、LGBTを理由とする賃貸借契約の解除が認められるか、という問題については、同性愛者が住んでいるということで、近隣住民からの騒音や悪臭など苦情が来る、近隣住民が退去してしまい経済的損失が発生した、などの理由を主張されるかもしれませんが、これは法的には認められない主張です。大家さんから賃貸契約解除の内容証明郵便が来ても解除は法的に有効とはなりません。反論の手紙を出しておきましょう。

4、性的少数者ということで心細い思いをしておられるかもしれませんが、LGBTを自認して居られる方も日本国憲法で認められた個人の尊厳、幸福追求権、自己決定権、平等原則の保護を受ける権利があります。管理会社や大家さんとの対応に不安がある場合は、法律事務所に御相談なさり円満に協議なさると良いでしょう。

5、その他の関連事例集は下記のサイト内検索で調べることができます。

Yahoo! JAPAN

解説:

1、建物賃貸借契約

賃貸借契約は、賃料を支払って契約終了時に返還することを約束した上で貸し渡して目的物の使用収益をさせる契約です。

民法601条(賃貸借)

賃貸借は、当事者の一方がある物の使用及び収益を相手方にさせることを約し、相手方がこれに対してその賃料を支払うこと及び引渡しを受けた物を契約が終了したときに返還することを約することによって、その効力を生ずる。

民法601条の条文はシンプルなもので、細かい契約内容は私的自治として当事者が自由に定めることができますが、目的物が土地や建物である場合は、不動産という人々の生活や仕事の本拠となる重要な財産を貸し借りする契約になりますので、借主の生活や仕事の安定性を保護するために、借地借家法で賃借人の保護が定められています。

特に重要な条文は、借地借家法26条、28条、30条です。

借地借家法第26条(建物賃貸借契約の更新等)

第1項 建物の賃貸借について期間の定めがある場合において、当事者が期間の満了の一年前から六月前までの間に相手方に対して更新をしない旨の通知又は条件を変更しなければ更新をしない旨の通知をしなかったときは、従前の契約と同一の条件で契約を更新したものとみなす。ただし、その期間は、定めがないものとする。

第2項 前項の通知をした場合であっても、建物の賃貸借の期間が満了した後建物の賃借人が使用を継続する場合において、建物の賃貸人が遅滞なく異議を述べなかったときも、同項と同様とする。

第3項 建物の転貸借がされている場合においては、建物の転借人がする建物の使用の継続を建物の賃借人がする建物の使用の継続とみなして、建物の賃借人と賃貸人との間について前項の規定を適用する。

第28条(建物賃貸借契約の更新拒絶等の要件) 建物の賃貸人による第二十六条第一項の通知又は建物の賃貸借の解約の申入れは、建物の賃貸人及び賃借人(転借人を含む。以下この条において同じ。)が建物の使用を必要とする事情のほか、建物の賃貸借に関する従前の経過、建物の利用状況及び建物の現況並びに建物の賃貸人が建物の明渡しの条件として又は建物の明渡しと引換えに建物の賃借人に対して財産上の給付をする旨の申出をした場合におけるその申出を考慮して、正当の事由があると認められる場合でなければ、することができない。

第30条(強行規定) この節の規定に反する特約で建物の賃借人に不利なものは、無効とする。

つまり、一旦建物賃貸借契約が成立して賃借人が入居して生活や仕事を始めた場合は、当事者間の契約内容にかかわらず、契約期限が到来しても賃貸借契約は自動的に法定更新されますし(借地借家法26条1項)、賃貸人側から更新拒絶の意思表示をしても、立ち退きで必要になる経費の提供など、賃借人に不利益を生じないような経済条件を満たさないと正当事由が認められず(同28条)、退去を求めることができないことになります。これらの条項に反する特約が建物賃貸借契約に定められていても当該条項は法的に無効になります(同30条)。

また、賃借人に契約違反があった場合、すなわち、賃料不払いや、無断転貸や、建物の用法違反などがあった場合でも、建物賃貸借契約が人々に生活の本拠を提供する重要な継続的契約関係であることに鑑みて、継続的な賃貸借契約の当事者の信頼関係が破壊されるに至ったと認められない特段の事情がある場合には、軽微な契約違反があっても、貸主は契約解除を主張できないという法令解釈が判例として確立しています。これを「信頼関係破壊法理」と言います。

昭和35年10月28日最高裁判所判決

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/175/063175_hanrei.pdf

『およそ賃貸借についても、民法五四一条はその適用を排除すべきものでなく(最高裁昭和三〇年(オ)七〇六号同三三年一月一四日第三小法廷判決)賃借人に債務不履行の責ある場合、同条に基き賃貸人が契約を解除し得ることは勿論であるけれども、賃貸借は当事者相互の信頼関係を基礎とする継続的契約関係であつて、少額の賃料の不払を理由として、直ちに、賃貸借を解除するというがごときは、事情によつては信義誠実の原則に反するとのそしりを免れない場合もあるものといわなければならない。』

信頼関係が破壊されたと認定された事例

昭和50年2月20日最高裁判所判決

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/133/052133_hanrei.pdf

『上告人はシヨツピングセンター内で、他の賃借人に迷惑をかける商売方法をとつて他の賃借人と争い、そのため、賃貸人である被上告人が他の賃借人から苦情を言われて困却し、被上告人代表者がそのことにつき上告人に注意しても、上告人はかえつて右代表者に対して、暴言を吐き、あるいは他の者とともに暴行を加える有様であつて、それは、共同店舗賃借人に要請される最少限度のルールや商業道徳を無視するものであり、シヨツピングセンターの正常な運営を阻害し、賃貸人に著しい損害を加えるにいたるものである。したがつて、上告人の右のような行為は単に前記特約に違反するのみではなく、そのため本件賃貸借契約についての被上告人と上告人との間の信頼関係は破壊されるにいたつたといわなければならない。』

賃貸借契約の継続に必要な信頼関係の破壊に至ったかどうかは、画一的な基準で判断することはできず、個別事情や入居時からの経緯に照らして個別判断されることになりますが、一度や二度の賃料延滞や、少々の騒音や口論などのトラブルがあった程度では原則として信頼関係破壊には至らないと考えるべきでしょう。他方、継続的なトラブルや滞納により家主側の経済的損害が大きくなってしまった場合や、刑罰法規に違反するような犯罪行為があって入居者自身が身柄拘束を受けてしまったなどの事情があれば、信頼関係が破壊され賃貸契約を継続することは難しいと判断される可能性も高まることになります。

従って、今回の問題についても、継続的な建物賃貸借契約を維持するのに必要な契約当事者の信頼関係が破壊されるに至っているかどうかという観点から考えてみる必要があります。御相談の事例では、単身用ワンルームマンションの賃貸借契約で2人居住が認められるかという問題と、LGBTを理由とする賃貸借契約の解除が認められるか、という2つの問題が含まれています。それぞれの問題について、上記観点から考えてみることに致しましょう。

2、単身用賃貸マンションの賃貸借契約締結後に2人居住となった場合の法的処理

建物賃貸借契約を締結するにあたって、当該建物に誰が住むか、何人住むかは、賃貸人にとって重大な関心事項になります。賃借人が建物を実際に使用し、毎月の賃料を支払い、契約終了時には建物を現状に復して返還するわけですから、賃料を確実に受け取り、建物を破損されたり、汚損されたりせずに確実に返却を受けられるかどうかは、賃借人の個性に関わっていることになりますので、大家は当然、誰に貸すのか選択することができるのです。実際に入居する人数も、何人であるのか、家族であるのか、不特定多数であるのかは重大な関心事になります。居住人数によって、建物の給排水設備の経年劣化の度合いも変わりますし、退去後のハウスクリーニングやリフォームの必要性や掛かる費用も変わってくるからです。裁判所も、家主が同居人の有無について契約条項で特定することを求めることは可能であると解釈しています。例えば友人同士や、恋人同士で、単身用の賃貸物件で好き勝手に同居生活をすることは契約上認められないと考えることができます。

昭和29年1月14日最高裁判所判決

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/448/057448_hanrei.pdf

『所論は要するに、家屋の賃借人が賃借家屋の一部に同居人を置くことは賃借人の有する借家権の利用方法であり、これについては賃貸人の承諾を必要としないと解することが、住宅緊急措置令施行当時の精神及び住宅難の現実に徴し最も時宜に適した公正妥当な解釈であるとし、これと異る所論引用の当裁判所判例を民法六一二条の解釈を誤り生きた現実の社会生活に適合しない判断であると非難するのであるが、右判例は相当であり、これを改める必要を認めないのであつて、所論はすべて独自の見解を主張するに帰し、採用することができない。』

他方、単身用賃貸マンション・アパートであっても、単身の入居者が、契約後に結婚したり出産したりして2名入居となった場合に、当該事情を以て直ちに契約違反で解除通知を受けて建物を退去しなければならないと解釈することは難しいでしょう。

つまり、人が生活していく上で、結婚したり、出産したりすることは当然に有り得ることになるわけですから、貸主も契約締結時に予期できる範囲内の出来事であると言えますし、当該事項の発生により住居を退去しなければならないとするような特約条項は、憲法が定める婚姻の自由や幸福追求権などの基本的人権保障に違反することになり信義則(民法1条2項)及び公序良俗違反(民法90条)で無効とされるからです。もちろん、契約で定めた貸主の利益も保護される必要はありますから、1名だけの利用に限定する特別の事情がある場合は、借主がそこに住む必要性との利益衡量によることになりますが、一般的には貸主の有利な結論になると考えられます。

今回、あなたは同性愛ということで、現時点で戸籍上の婚姻関係にあるとは言えませんが、男女の関係でも入籍しない内縁関係というものがありますし、同性でも東京都渋谷区のように同性間の内縁関係を「パートナーシップ」として認めて証明書を発行する試みも行われています。

※渋谷区役所パートナーシップ証明書の説明ページ
https://www.city.shibuya.tokyo.jp/kusei/shisaku/lgbt/partnership.html

従って、大家さんには、解除通知に対して、事情を説明する反論の手紙を作成する対策が考えられます。「2人で生活していることは事実であり、入居時の契約書に違反しているので心苦しいが、現在の交際相手との生活は、異性間の婚姻関係、内縁関係と同程度の真摯なものであり、婚姻生活開始と同視しえるもので賃貸契約の信頼関係が破壊されるようなものとは考えておりません」、「当方も二人暮らしに適当な住居を探しているので見つかるまでしばらくの間の猶予を御了解頂きたい」というようなことを書くと良いでしょう。

3、LGBTを理由とする建物賃貸借契約解除の有効性

他方、家主からの解除通知にLGBT差別の趣旨が強いものである場合は、当該事項について法的な反論を通知すべきでしょう。通知書には、「本件建物賃貸借契約解除の主張は、性的マイノリティー差別を理由とする不利益を強要するものであり、憲法14条1項の趣旨等を包含する公序良俗に反し違法無効である。」という主張を記載すべきでしょう。

私的自治が妥当する私的契約であっても、憲法に定められ国民が日々陶冶し続けている人権意識から乖離することは許されません。つまり、憲法13条が定める「個人の尊重」には、幸福追求権、自己決定権が含まれると解され、また、憲法14条の平等原則には「性別」や「社会的身分」による差別的取り扱いを禁止しており、トランスジェンダーなど性的少数者であっても、自分自身の自認する性別および性的嗜好に従って、自分らしく生きて行くことができるものと考えられるのであり、これを妨げるような一切の公権力の行使や、民間の私的行為であっても社会的に許容される範囲を超えて不利益処分を強要するものである場合は、違法無効の法的評価を免れないのです。憲法は本来国家権力の横暴から国民を守るために定められた、国家権力に対して向けられた法規範であり、原則として民間の契約関係には適用されないものですが、このように特に重要な権利関係については、民法1条や90条などの一般条項の解釈を通じて、憲法の権利解釈・権利意識が、民事契約にも間接的に適用されることになります(間接適用説)。

東京高裁平成27年7月1日判決 『憲法における国民の権利に関する規定及び国際人権規約は,私人相互の関係を直接規律することを予定するものではなく,私人間における権利や利害の調整は,原則として私的自治に委ねられるが,私人の行為により個人の基本的な自由や平等に関する具体的な侵害又はそのおそれがあり,その態様,程度が憲法の規定等の趣旨に照らして社会的に許容し得る限度を超えるときは,民法1条,90条や不法行為に関する諸規定等の適切な運用によって,当該行為を無効としたり,当該行為が不法行為に当たるものと解したりして救済を図るのが相当であり,このような形で,一面で私的自治の原則を尊重しながら,他面で社会的許容性の限度を超える侵害に対し基本的な自由や平等の利益を保護することにより,両者の適切な調整を図ることが可能となる。したがって,本件入会拒否及び本件承認拒否が,社会的に許容し得る限度を超えるときは,不法行為を構成するものというべきである。』

東京高裁平成27年7月1日判決は、トランスジェンダーであることを理由としてゴルフクラブの入会を拒否したことが違法であると判示したものでした。性同一性障害は、医学的疾患のひとつとして医学的にも一般的にも認められるに至っており、その罹患にいたる機序や因果関係や治療法は解明されてはいませんが、一旦罹患した当人にとってみれば、自分自身に何の落ち度も無いにもかかわらず、生涯にわたって自分自身の内的性自認からどうしても逃れることができない状態となるものです。このような性的な自認や嗜好の状態により私人間においても不当な差別を受けることは私的自治の範囲内の合理的取り扱いを超えた違法無効なものであると言わざるを得ません。

『そして,たとえ私人間においても,疾病を理由として不合理な取扱いをすることが許されるものではないところ,本件入会拒否及び本件承認拒否がされた平成24年当時,既に特例法が施行されてから約8年が経過していたことなどの社会情勢を考慮すると,性同一性障害が医学的疾患の一つであることは公知の事実であったということができ,したがって,性同一性障害及びその治療を理由とする不合理な取扱いをすることが許されないことは,その他の疾病を理由とする不合理な取扱いが許されないのと同様であったということができる。なお,控訴人らは,平成24年当時,性同一性障害に対する社会的関心が低かった旨主張するが,かかる事情は,上記判断を直ちに左右するものではない。』 『前記認定のとおり,控訴人らは,控訴人クラブへの入会の要件として,日本国籍を有する者であることを除けば,年齢,性別,他のゴルフクラブへの在籍の有無等に関するものを含め何らの入会要件を設けておらず,実際に,控訴人クラブの定めに従って控訴人会社の株式を取得し,正会員2名の紹介を得て正会員又は法人会員としての入会の申込みをした者が,控訴人クラブから入会を拒否されたことは,過去に一例あるかどうか程度で極めてまれであったことに照らすと,入会申込みの手続を行おうとする者にとって,控訴人クラブの定めに従って入会申込みの手続を行えば入会申込みを拒否されることはないであろうとの期待ないし信頼を寄せるべき事情があったと認めることができ,上記説示にこのことも考え合わせるならば,入会に際して理事会の承認という手続があることによって,控訴人クラブがいかなる理由をもって入会申込みを拒否したとしても許されるということになるものではない。したがって,控訴人らの上記主張は,採用することができない。』
最高裁平成25年12月10日決定は、性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律に基づいて性別変更をした抗告人が生物学的には女性であることは明白であるものの、法律の手続を経て適法適式に男性となったにも関わらず配偶者である妻が出産した場合に、父親欄に記載されなかったことを不当な取り扱いであるとして戸籍訂正許可審判の申し立てを行った事案でした。
最高裁平成25年12月10日決定 『特例法3条1項の規定に基づき男性への性別の取扱いの変更の審判を受けた者は,以後,法令の規定の適用について男性とみなされるため,民法の規定に基づき夫として婚姻することができるのみならず,婚姻中にその妻が子を懐胎したときは,同法772条の規定により,当該子は当該夫の子と推定されるというべきである。もっとも,民法772条2項所定の期間内に妻が出産した子について,妻がその子を懐胎すべき時期に,既に夫婦が事実上の離婚をして夫婦の実態が失われ,又は遠隔地に居住して,夫婦間に性的関係を持つ機会がなかったことが明らかであるなどの事情が存在する場合には,その子は実質的には同条の推定を受けないことは,当審の判例とするところであるが(最高裁昭和43年(オ)第1184号同44年5月29日第一小法廷判決・民集23巻6号1064頁,最高裁平成8年(オ)第380号同12年3月14日第三小法廷判決・裁判集民事197号375頁参照),性別の取扱いの変更の審判を受けた者については,妻との性的関係によって子をもうけることはおよそ想定できないものの,一方でそのような者に婚姻することを認めながら,他方で,その主要な効果である同条による嫡出の推定についての規定の適用を,妻との性的関係の結果もうけた子であり得ないことを理由に認めないとすることは相当でないというべきである。』

このように、最高裁判所も、正面から論じているものではありませんが、憲法13条、憲法14条、性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律の趣旨を酌んで、トランスジェンダーであっても自分らしく、非トランスジェンダー(いわゆるシスジェンダー)の普通の市民と同じように、父親は父親として、母親は母親として、普通の生活が送れて当然であるということを認めているのです。性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律が可決成立したのは、2003年(平成15年)7月10日でした。日本国憲法が制定されてから、それまでの長い期間に、どれほど多数のトランスジェンダーの人々が社会的に不利益を受けて、また、その一部は深い絶望から自ら死を選んでしまった悲しい事件が起きてしまったことを思い出すべきです。国民生活の変化、生活様式の変化、当事者の努力、医学知識の啓蒙普及活動、医療者や当事者も含めた幅広い国民的議論を経て、やっとのことで成立した法律です。国民のひとりひとりが、私的自治の範囲内でトランスジェンダーとシスジェンダーの共生と幸福追求がどのようにあるべきか、常に考えて互いを尊重して生活していくことが求められています。家主からの解除主張は、このような憲法および法令および裁判例や、国民的な議論の推移などの、全ての状況を全て無視する不当な要求であり到底受け入れることはできません。

※参考URL、法務省人権擁護局のLGBT問題紹介ページ
http://www.moj.go.jp/JINKEN/LGBT/index.html

5、まとめ

LGBTに関する法律問題は、当事者も訳が分からないまま権利主張を断念して諦めてしまい顕在化しないケースも多いように思われますが、人々の権利意識や社会情勢は日々変化しており、本当に諦めてしまって良いのか一度立ち止まって考え直してみる必要があるでしょう。賃貸契約の解除を受けてしまったと言うことですが、まずは自分自身がこれからどのようにしていきたいのか考えてみて、それが法的に保護される主張なのかどうか、経験のある弁護士に御相談なさり一緒に手続なさると良いでしょう。

以上

以上

関連事例集

その他の事例集は下記のサイト内検索で調べることができます。

Yahoo! JAPAN

参照条文

※日本国憲法
第十三条 すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。
第十四条
1項 すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。
2項 華族その他の貴族の制度は、これを認めない。
3項 栄誉、勲章その他の栄典の授与は、いかなる特権も伴はない。栄典の授与は、現にこれを有し、又は将来これを受ける者の一代に限り、その効力を有する。


※性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律

(趣旨)
第一条 この法律は、性同一性障害者に関する法令上の性別の取扱いの特例について定めるものとする。

(定義)
第二条 この法律において「性同一性障害者」とは、生物学的には性別が明らかであるにもかかわらず、心理的にはそれとは別の性別(以下「他の性別」という。)であるとの持続的な確信を持ち、かつ、自己を身体的及び社会的に他の性別に適合させようとする意思を有する者であって、そのことについてその診断を的確に行うために必要な知識及び経験を有する二人以上の医師の一般に認められている医学的知見に基づき行う診断が一致しているものをいう。

(性別の取扱いの変更の審判)
第三条 家庭裁判所は、性同一性障害者であって次の各号のいずれにも該当するものについて、その者の請求により、性別の取扱いの変更の審判をすることができる。
一 二十歳以上であること。
二 現に婚姻をしていないこと。
三 現に未成年の子がいないこと。
四 生殖腺せんがないこと又は生殖腺の機能を永続的に欠く状態にあること。
五 その身体について他の性別に係る身体の性器に係る部分に近似する外観を備えていること。
2 前項の請求をするには、同項の性同一性障害者に係る前条の診断の結果並びに治療の経過及び結果その他の厚生労働省令で定める事項が記載された医師の診断書を提出しなければならない。

(性別の取扱いの変更の審判を受けた者に関する法令上の取扱い)
第四条 性別の取扱いの変更の審判を受けた者は、民法(明治二十九年法律第八十九号)その他の法令の規定の適用については、法律に別段の定めがある場合を除き、その性別につき他の性別に変わったものとみなす。
2 前項の規定は、法律に別段の定めがある場合を除き、性別の取扱いの変更の審判前に生じた身分関係及び権利義務に影響を及ぼすものではない。