性被害者の法的措置|慰謝料請求と刑事事件の関係

刑事|性被害を受けた場合の具体的対応|警察への被害届提出と民事上の損害賠償請求の関係

目次

  1. 質問
  2. 回答
  3. 解説
  4. 関連事例集
  5. 参照条文
  6. 無料法律相談

質問

一昨日、飲み会に参加した際、酔いつぶれて寝てしまいました。その後、しばらく寝てしまっていたのですが、誰かに胸やお尻を触られている感触があり、意識が戻りました。かろうじて目を開けると、どのような経緯化は分かりませんが、ホテルの部屋で、飲み会に参加していた知人が私の服を脱がせて胸やおしりを触っていました。

私は、はっとして「やめてください」と知人を突き飛ばしました。すると知人は、「申し訳ない」と言って、逃げるように部屋から出ていきました。あとから別の知人に聞いたところ、飲み会の終わりに、その知人が私のことを「自宅に送っていく」といってタクシーに一緒に乗せたとのことです。

私としては、知人からこのような性的被害を受けて、非常に大きな精神的苦痛、ショックを受けています。しかし事件が明るみになるのを避けたい気持ちもあり、知人が誠心誠意謝罪し、法律上妥当な被害弁償を行うのであれば、示談という形でも良いと思っています。

私がきちんとした謝罪と被害弁償を受けるためには、今後どのように対応したら良いでしょうか。

回答

1 本件の知人の行為は、刑法上の準強制わいせつ罪に該当する可能性が高いといえます。該当する場合、民事上も不法行為となりますので、あなたは、知人に対して、不法行為に基づく損害賠償請求権を有することになり、慰謝料等の請求を行うことが可能です。もっとも、民事裁判で認められる性的被害の慰謝料の金額はそれほど多くなく、実際に被害者の方の受けた心の傷の賠償が達成できないことは多いです。また、民事上の交渉のみでは、加害者が真摯な反省を行わず、果ては事実関係を否定されてしまう危険も大きいといえます。

2 このような危険を回避するためには、事件直後から、やはり、警察にきちんと被害申告を行い、証拠を保全し、刑事上の手続きを進めてもらうことが必要と言えます。刑事事件として捜査が開始されれば、加害者が事件の重大さを認識し、深い反省や十分な被害弁償を行うことに積極的になりますし、また警察の厳しい捜査、客観証拠の収集により、加害者が事実関係を虚偽に否定することも困難となります。罪質上、警察が被害届の受理に難色を示す場合もありますが、そのような場合は、弁護士が同行して犯罪の成否の点などにつき、弁護士から法的な主張を行うことも可能です。

3 なお、仮に警察の捜査が開始した場合でも、直ちに加害者が裁判にかけられ、処罰が決定するわけではありません。多くの場合、被害申告から加害者への処分(刑事裁判として起訴するか否か)決定までに2か月程度は期間がかかります。その間に、加害者側から十分な示談の提案などがあれば、それに応じて被害届を取り下げるのも被害者の自由です。事件捜査によりどこまで事件が公になるか否かについても、捜査機関と綿密に連絡を取り合い、弁護士を通じて交渉を行うことで、ある程度要請を聞いてもらうことは可能です。

4 最終的には、加害者側の態度を踏まえて、刑事的な処罰を求めるか、示談かという選択にはなりますが、選択肢の幅を広げるためにもまずは警察に対して被害の申告を行うことを考えるべきでしょう。後に対処不可能な状況になる前に、まずは弁護士に相談されることをお勧めします。

5 その他関連する事例集はこちらをご覧ください。

解説

1 本件の知人の行為の違法性

(1) 刑法上の違法性

まず、本件の知人の行為の刑法上の違法性について考えると、知人のした行為は、準強制わいせつ罪(刑法178条1項)に該当する可能性が高いといえます。

準強制わいせつ罪は、「人の心神喪失若しくは抗拒不能に乗じ、又は心神を喪失させ、若しくは抗拒不能にさせて、わいせつな行為をした者」に成立する罪です。ここでいう「心神喪失」には、泥酔による意識喪失状態も含みますので、本件のように、酔いつぶれて寝てしまっている女性に対して、わいせつな行為をすることは、本罪に該当することになります。

同罪の法定刑は、6月以上10年以下の懲役刑となります。

もし、被害者として、知人の方を処罰して欲しい場合、警察に対して被害届を提出し、捜査を要請することができます。

(2) 民事上の違法性

また、知人の行為が刑法に触れる以上、基本的には、民事上も不法行為となりますので、あなたは、知人に対して、不法行為に基づく損害賠償請求権を有することになります(民法709条)。

知人に対して請求可能な損害としては、精神的苦痛に対する慰謝料(710条)、その後の通院が必要であれば、その医療費等が考えられます。

2 示談協議の流れ

(1) 民事上の請求

あなたの意向としては、加害者が誠心誠意謝罪をするのであれば、示談で解決するとの考えもあるとのことですが、加害者に対して、謝罪や民事上の賠償請求を行うことを希望する場合、警察等が協力してくれるものではありませんので、基本的には自分で請求を行うことになります。

現実的には、加害者と直接ご本人が交渉するのは困難ですので、代理人として弁護士をたてて請求を行うのが望ましいかと存じます。

民事上請求が可能な賠償額としては、上記のとおり、精神的苦痛に対する慰謝料ですが、仮に、民事訴訟において慰謝料を請求する場合、本件のようなわいせつ行為の事案において、裁判所が認める慰謝料の金額は、数十万円から多くて100万円程度となると見込まれます(もちろん、事案の状況によって大きく異なります)。そのため、実際の民事的な請求では、必ずしも被害者の受ける心の傷の賠償が達成できないことは多いかもしれません。

また、民事訴訟で請求する場合には、相手から被害を受けたことを、証拠により立証する必要があります。本件のようなケースでは、加害者側から、「無理やりではない」「同意があった」「介抱していただけで、わいせつな行為はしていない」などという主張が出される場合が多く、社内の知人関係という事情もあり、その場合に被害の事実を証明することは容易ではありません。

あなたの請求に対して、相手方が違法性を認め、素直に賠償に応じれば良いのですが、最初は違法性を認めていたとしても、いざとなると保身のために否認に転じることも多いため、民事上の請求を考えている場合には注意が必要です。

特に問題となるのが、交渉が長引くなどして、事件から期間が空いてしまうと、裁判上、「同意をしていた」等の反論が認められやすくなってしまう危険です。同種事案による現在の法的な事実認定の枠組みですと、「性的な被害を受けた場合には、速やかに警察に被害の申告を行うはずだ」という考えが強く、「どうしたら良いかわからず、被害を言い出せずにいた」「事件が公になるのが怖かった」等の被害者の心情は考慮されないことが多いのです。

警察が、民事の賠償請求交渉が進まないので刑事事件にしたいのではないか、という印象を持つと刑事事件として扱うことも避けたがることも事実です。これは、捜査を進めても民事で示談することになれば事件として成立しなくなってしまうためです。また、被害者単独では、ホテルの防犯カメラの映像などの客観証拠を入手するのも困難です。

そのため、単に民事上の請求のみを行っていたのでは、結果として、事件が風化してしまい、相手の真摯な謝罪や、十分な被害弁償を受けることができなくなってしまう危険性が高いと言えます。実際そのような形で、うやむやのままに終わってしまう事件も多数あるのが実情です。

(2) 刑事手続の進行

このような危険を回避するためには、事件直後から、やはり、警察にきちんと被害届出や刑事告訴という手段で被害申告を行い、刑事上の手続きを進めてもらうことが必要と言えます。

事件直後に被害の申告を行い、事件として捜査をしてもらったという記録が残っていれば、上記のように、事件が風化してしまうという危険は非常に小さくなります。

また、警察が事件として捜査を開始し、加害者に対して事情聴取等を行ってくれれば、加害者の側としても、逮捕されることや刑事処罰を受ける可能性があることを事実として否応なしに認識することになりますので、自然と事件の重大さを認識し、深い反省や十分な被害弁償を行うことに積極的になります。

そのため、本件のように、示談による解決を念頭においている場合でも、まずは警察に対して被害の申告を行うことを考えるべきでしょう。

なお、仮に警察の捜査が開始した場合でも、直ちに加害者が裁判にかけられ、処罰が決定するわけではありません。捜査の流れとしては、まず被害者であるあなたの詳細な事情聴取が行われ、供述調書などの証拠が作成されます。さらにその後、必要に応じて関係者からの事情聴取や、防犯カメラ映像の確認などの裏付け捜査を行い、最後に加害者本人から事情聴取を行います。場合によっては、加害者を逮捕し、身柄を拘束した上で、取り調べを行うことになります。そのような捜査の結果、最終的な処分(刑事裁判として起訴するか否か)を、検察官が決定することになります。

これらの捜査によるする期間は、事案の内容にもよりますが、加害者の捜査に移行するまでには2週間から1か月は要することが多いです。加害者が逮捕・勾留されれば、20日間の期限が設けられますが、早くとも被害申告から考えれば2か月程度は期間がかかると見て良いでしょう。その間に、加害者側から十分な示談の提案などがあれば、それに応じて被害届を取り下げるのも被害者の自由です。

そのため、被害の申告を迷われている場合でも、後に後悔するよりは、まずは速やかに警察に被害届を提出することが必要です。

3 本件の対応

(1) 警察への速やかな被害の申告

以上のとおり、仮に最終的には示談等による解決を念頭においている場合でも、まず重要なのは、速やかに被害申告を行うことです、上で述べたとおり、本件のような性被害については、事件後に日にちが経過してしまうほどに、「同意があったのではないか」という推認が働いてしまう危険があります。そのため、まずは1日でも早く、警察に相談することが必要です。

もっとも、本件のような準強制わいせつ事件の場合、物的な証拠が少なく、証拠は主に被害者の証言に依拠することも多いため、裁判上の立証で有罪とすることが困難な場合も多く、警察が被害届の受理に消極的な場合もあります。

そのため、速やかな被害申告を行うことはもちろん、法的に十分訴追、処罰の可能性があること積極的に警察に訴えかける必要があります。特に、本件の重要な証拠となるあなたの証言は、加害者の処罰に法律上必要な範囲の事情について、よく整理した上で、警察にクリアーな証言をすることが望ましいといえます。

そのためには、被害届の提出前に弁護士に相談し、十分な打合せを行い、法律上の犯罪の構成につき、整理した上で警察への被害申告を行うとともに、犯罪の成否の法律的な側面については、弁護士から主張することが望ましいでしょう。

また、精神的に問題が発生して通院したり、会社を欠勤したりしている場合には、医師の診断書や、会社の欠勤証明書等を証拠として提出することも効果的です。その他の細かい対応については、弁護士と相談してみてください。

なお、被害申告時に、示談を考えていることを警察に伝えると、警察の捜査は非常に消極的となります。しかし、最終的に加害者から示談の提案があるかどうか、被害者としてそれに応じるか否かは、被害者の方の自由であり、警察が捜査を行わない理由にはなりません。そのため、捜査の遅れが生じないよう、被害申告時には、示談については積極的に警察に伝えない方が良い場合もあります。

このあたりの判断は、弁護士に相談してみることをお勧めします。

(2) 逮捕について

また、場合によっては、警察に対して加害者の逮捕などの身体拘束を行うことを求めた方が良い場合もあります。

上で述べたとおり、本件のような事件類型ですと、加害者は、自己の行為を否認する可能性も高く、単なる任意の事情聴取では、真摯な反省を行わない場合も多いです。また、悪質な加害者の場合、飲み会に参加していた知人等と口裏を合わせて、「同意があった」という状況を作出しようとする危険があります。さらには、被害者であるあなたに対して、何等かの脅迫行為をしてくる可能性もあります。このような証拠隠滅行為を防ぐためにも、やはり逮捕による身体拘束は求めるべきでしょう。

逮捕による身体拘束が行われれば、加害者として刑事処罰の可能性を深く認識し、謝罪し反省、被害弁償の提案を行うことに繋がります。実際に逮捕を行うかどうかについては、捜査機関の裁量次第ですが、少なくとも法律上逮捕が相当な事案であることについては、弁護士等から積極的に主張することが必要であるといえます。

(3) 本件が公になる危険について

なお、あなたは、本件について事件が公になることを危惧されているとのことですが、警察に被害申告をしたとしても、捜査上、被害者のプライバシーが明らかになる形で捜査が行われることはありません。

加害者が大企業の社員や、公務員などである場合、逮捕などが実行されると、事件報道がされる場合はありますが、事件の報道陣への公開の有無等については、ある程度被害者側から警察に要請を出すことも可能です。

また、勤務先の事件関係者などへの連絡についても、必要最小限の範囲に留めるよう、捜査担当者と協議することもできます。

もちろん、事件捜査に必要な捜査については、やむを得ず受け入れる必要がありますが、その場合でも、警察が被害者に無断で勤務先関係者などへ連絡することは通常ありません。

このような事件捜査の情報公開の範囲についても、弁護士に依頼して交渉することによって、ある程度のコントロールや状況把握を行うことが可能です。

(4) 具体的な被害弁償の交渉について

警察への被害申告を行い、実際に加害者に対する捜査が行われれば、通常は、加害者の側から謝罪や、被害弁償(示談)の提案があるのが通常です。その提案の内容を踏まえ、あなたの考えにより、示談に応じるどうかを決めて頂いて何の問題もありません。

もし、加害者の提案に納得がいかない場合や、加害者が違法性を否定するような場合には、そのまま刑事手続きを進行させて、刑事処罰を求めることも可能です。

なお、この種の事案で被害者の方が直接金銭的な交渉を加害者としてしまうと、場合によっては恐喝などと判断されてしまう危険もあります。そのため、具体的な条件面での示談交渉が必要であれば、弁護士を代理人として行うのが無難です。

最終的には、あなたの事件をどこまで公にするかという希望と、加害者側の態度を踏まえての交渉ということになりますが、刑事処罰を求めるという選択肢が、本来的に最も法に則った選択肢でもありますし、またそのような選択肢があることによって、加害者の態度は大きく変わりますし、交渉の幅も広がります。

5 まとめ

以上のとおり、最終的には示談による解決を念頭においている場合でも、加害者が事実関係を否定する危険等を考えれば、まずは、きちんと警察に被害届を提出されることをお勧めします。その上で、十分な被害弁償を受けるためには、交渉について弁護士に依頼をすることが確実です。

後に対処不可能な状況になる前に、まずは弁護士に相談されることをお勧めします。

以上

関連事例集

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参照条文
(刑法)

(強制わいせつ)
第百七十六条 十三歳以上の者に対し、暴行又は脅迫を用いてわいせつな行為をした者は、六月以上十年以下の懲役に処する。十三歳未満の者に対し、わいせつな行為をした者も、同様とする。

(準強制わいせつ及び準強制性交等)
第百七十八条 人の心神喪失若しくは抗拒不能に乗じ、又は心神を喪失させ、若しくは抗拒不能にさせて、わいせつな行為をした者は、第百七十六条の例による。
2 人の心神喪失若しくは抗拒不能に乗じ、又は心神を喪失させ、若しくは抗拒不能にさせて、性交等をした者は、前条の例による。

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