新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.1567、2014/12/01 12:00 https://www.shinginza.com/rikon/index.htm

【親族、親子、人身保護法による手続、家事事件手続法による請求について直接強制が認められるか、東京地裁立川支部平成21年4月28日決定、最高裁平成11年5月25日判決、最高裁平成6年4月26日判決】

親権者による子どもの引き渡し請求、方法、手続


質問:私達夫婦は3年前から別居しています。8歳の子供がいるのですが、別居時に夫のもとに子供を置いてきてしまいました。この度、離婚が成立し、子供の親権は妻である私に認められました。しかし、夫は子供を私に引き渡してくれません。子供の下校中に連れてこようかと考えています。それは、認められますか。認められない場合、子供を引き渡してもらうにはどのような方法がありますか。



回答:
1.お子さんを下校中に勝手に連れてくることは避けるべきです。例え親権者であっても,自力救済は禁止されているため,場合によっては未成年者略取罪(刑法224条)が成立してしまう場合があります。

2 子供の引渡しを請求するためには、以下に述べるような法的な手続きを踏むことが必要です。

まず@人身保護手続による方法があります。この方法は,迅速性において利点の大きい手続ですが,判例上請求が認められる為には,拘束者が子どもを監護することが「子の幸福に反することが明白であることを要する」とされており,極めて制限的な運用がされています。一方,本件のように,すでに離婚が成立しており,父親の親権が喪失している場合には,原則として明白性の要件が充足されているとする判例も存在します。

次にA家事審判手続により,子の監護に関する処分として子の引渡しを求めることが考えられます。子の監護者を誰と指定するかは,主に子の福祉の観点から決せられることになりますので,審判手続においては,監護体制が十分であること等を強く主張する必要があります。親権があなたに認められたのであれば,引渡し命令が認められる可能性は高いといえます。

何れの手続を選択すべきかは,申立者の判断に委ねられています。原則的には,子供の監護という問題ですから、家事審判手続きによるべきです。また、認容の要件が比較的緩やかな家事審判手続の方が、請求が認められる確実性が高いと言えます。他方、子供の保護という点から迅速性が強く要求される場合は人身保護手続も検討する必要があります。本件のように相手が非親権者である場合には,違法の明白性が認められることから、人身保護手続による解決も可能です。

3 本来家事審判手続による解決を図るべきですが、通常審判が開かれるまでは1か月以上の時間がかかることが多いため,引き渡しに緊急を要する場合には,審判前の保全処分を申立てることが必要になります。保全処分が認められる為には,子が現在危険に直面しているか,その危険が目前に迫っている必要があります。

4 審判や保全処分であなたへの子の引き渡しが認められた場合でも,相手方が従わない場合は強制執行を申し立てる必要があります(人身保護手続の場合は解説に述べるような強制力があるため、別途強制執行という問題は解決されます。)。この点,従来の裁判所は,間接強制(命令に従わない場合に制裁金を課す執行方法)しか認めない傾向にありました。

 しかし近年では,直接強制(執行官が直接子の身柄を監護権者のもとに確保する方法)を認める裁判例が増えており,実務上も直接件数の事例が増加しています。直接強制が認められる為には,対象児童の状況,間接強制の実効性の有無等様々な事情が考慮されます。

 弁護士等の専門家に,執行手続を依頼した方が良いでしょう。

5 尚、本事例集は、当事務所事例集472番を家事審判法の改正による家事事件手続法の制定や判例の変遷により追加、訂正したものです。他、1109番662番134番参照。


解説:
1.子供の下校途中に連れてくることの可否

まず,下校途中のお子さんを,勝手に自分の家に連れてくることが適法か否かについて解説致します。

確かに、奥様は単独親権者ですので、子供について教育監護権(民法820条)を有することになりますから非親権者である父親からお子さんを連れてくることが出来るようにも思われます。

しかし、お子さんを下校中に父親の承諾なく連れ去ることは許されません。なぜなら、法的手続きによらずに自分でそのような状態をつくりだすこと(自力救済といわれていますが)は、法治国家であるわが国では、原則的に認めらないからです。(例外的に民法720条「緊急避難」など緊急性を要する場合は法律で別に私人による権利実現が認められています)。

すなわち、裁判により権利が認められたと言うことと、その権利により具体的に権利の内容を実現することは別の問題だからです。例えば、貸し金請求裁判で勝訴し貸し金が認められたとしても、相手方から強引に金員を奪えば強盗罪になるのです。裁判で勝訴しても、さらに強制執行等、認められた権利実現のために別個の法的な手続きをさらに踏まなければならないわけです。少し迂遠のようにも思われるかも知れませんが、近代法治国家においては、社会秩序の維持、権利の平穏なる実現のために権利の最終確定現実化の全過程において国家機関の関与補助を認めて紛争の再発を防いでいるのです。民法1条2項(権利の行使・義務の履行は信義に従い誠実に行う旨の規定)や民事執行法1条(法律の定めるところにより執行手続きをすること)にもその趣旨が表れています。

従って、たとえ親権があっても子供を連れ去った場合には、お子さんの年齢、お子さんと父親との関係、連れ去り方などの事情によっては、未成年者略取罪(刑法224条)に問われる危険がないとは言いきれません。この点については,弊所事例集1109番もご参照ください。

なお、本件とは異なる事例ですが、共同親権者である夫が別居中の妻のもとにいる子供(2歳)の保育園の下校時に抱きかかえて車にのせ、そのまま連れ去った事案において、未成年者略取罪の成立を認めた判例があります(最高裁平成17年12月6日判決)。加えて、実力行使による子供の連れ去りは子供の生活環境の変化を伴い、子供にとってかなりのストレスになると考えられます。相手方がさらに実力行使で子供を取り戻しに来るような事態を助長させる事にもつながりかねません。

夫婦間の紛争の中に置かれる子供のストレス、不安感、不信感等を考えれば、実力による行使は避けるべきといえます。ですので、以下のような法的な手段が考えられます。

2、子供の引き渡し方法

(1)人身保護請求

ア、まず、人身保護法に基づいて子供の引き渡しを請求する事が考えられます。人身保護請求手続とは、ある者が法律上正当な手続きによらずに拘束されている場合に、拘束者自身または他の誰からでも、裁判所に対して、自由を回復させることを請求する制度である(人身保護法2条)。原則として弁護士を代理人として請求することが必要です(人身保護法3条)。

この請求は、暫定的に拘束者の身体の安全を図る手続きですので、子の福祉の観点から後見的に引渡しの可否を判断する家庭裁判所の審理とは根本的に異なります。そのため、裁判所は、原則的に家事事件は家庭裁判所での解決を図るべきとし、請求認要の要件を厳格にする傾向にあります。

イ、次に、人身保護請求の方法について述べます。具体的には、管轄のある地方裁判所(被拘束者=子供、拘束者=父親、請求者=奥様、の所在地(通常居住地)を管轄する高等裁判所、もしくは地方裁判所、人身保護法4条)に書面または口頭で、引き渡しを請求することになります。この場合には、@被拘束者(子供)が拘束されていること(拘束性)、Aその拘束が違法であること(違法性)、B違法であることが明らかであること(違法の明白性)、C人身保護請求以外に救済の目的を達する適当な方法がないこと(補充性)、を満たさなくてはならないとされています(人身保護法2条・人身保護規則4条・最判昭和43年7月4日)。

ウ、本件のように親権者から子供の引き渡しの要求を拒否し、非親権者が8歳の子供を監護している場合には、判例上@拘束性、A違法性は満たすと考えられています。また、C補充性についても、家事審判手続き(後述の、調停・審判手続き)があっても認められるとする判例もありますので、問題ないと考えられます(最判昭和59年3月29日)。

人身保護請求で最も問題となるのが、B違法の明白性の要件です。これは、基本的に子の福祉の観点から判断されるべきものです。

この違法の明白性について,親権者同士の争いの場合には、判例上極めて限定的な場合しか認められません。この点、最高裁平成6年4月26日判決では,違法の明白性が認められるのは「拘束者に対し、家事審判規則五二条の二又は五三条に基づく幼児引渡しを命ずる仮処分又は審判が出され、その親権行使が実質上制限されているのに拘束者が右仮処分等に従わない場合がこれに当たると考えられるが、更には、また、幼児にとって、請求者の監護の下では安定した生活を送ることができるのに、拘束者の監護の下においては著しくその健康が損なわれたり、満足な義務教育を受けることができないなど、拘束者の幼児に対する処遇が親権行使という観点からみてもこれを容認することができないような例外的な場合」に限られるとされています。

一方,本件のように、親権者から非親権者に対する引き渡し請求の場合には、子の福祉の観点から引き渡し請求が著しく不当なものでない限り、違法性の明白性は認められることが多いと思います。ここで、父親が別居中3年間に渡り子供を養育してきた事実や、子供が安定した状況にあることから、いまさら引渡しを認める事が子の福祉に著しく反するとも考えられます。しかし、奥様のお子さんに対する愛情や監護意欲にかけるところもなく、経済状況や居住環境など監護の客観的体制も整っているのであれば、父親が3年間に渡り養育してきたという事実があっても、引き渡しが否定されることはないと思います。実際に、そのように判断した判例もあります。

最高裁平成11年5月25日判決では,「監護権を有する者が人身保護法に基づいて子の引渡しを請求するときは,被拘束者を監護権者である請求者の監護の下に置くことが拘束者の監護の下に置くことに比べて子の幸福の観点から著しく不当なものでない限り,非監護権者による拘束は権限なしにされていることが顕著である場合(人身保護規則4条)に該当し,監護権者の請求を認容すべきものとするのが相当である。」とし,人身保護請求を認めなかった原審を破棄しています。

エ、請求に当って注意しなくてはならないのがお子さんの意思です。お子さんは未だ8歳ですし、その意思は周囲の人の影響を受けやすいので、直ちにお子さんの意思を基に引き渡し請求が否定される事はないでしょう。

ただ、お子さんの成長に個人差がありますので、どの程度裁判所によって重視されるかを一概に述べる事は出来ません。はっきりとご主人のもとに居たい旨を述べたような場合には、引き渡し請求にあたって不利に働く場合もあるかと思われます。

オ、人身保護請求の申し立てがあると、裁判所は直ちに準備調査の手続きを行うことになり、裁判所に被拘束者(子)が出頭することになります。そこで保護の必要があれば仮の処分として釈放され、子供の引き渡しが認められることになります(人身保護法10条)。仮に父親が裁判所に出頭を拒否する場合(子の出頭を認めない場合)、裁判所は拘束されている子供を拘引することができます(同10条2項)。勿論認容判決が出れば出頭している被拘束者(当然出頭義務があります。)はその場で身柄を釈放されますので引渡しを受けることができます(同16条3項)。申立てから審理期日まで原則1週間以内です(同12条4項)。審理期日には事前に拘束に関する令状を発した検察官等も出席できます(同13条2項)。判決も審理終結後迅速に(規則36条 審理後5日以内)行われます。

審理が進んで、引渡し請求が認められたにも関わらずご主人が子供を引き渡さないような場合には、罰則が科せられることもあります(懲役2年以下もしくは罰金5万円以下・人身保護法26条)。その他にも、手続きを進行させることを妨げるような者に対して、罰金、勾引・勾留・過料、懲役(人身保護法18条・12条2項、26条)もあり、手続きの実効性が図られています。従って、相手方が説得にも耳を貸さないような場合には警察署に詳しい事情を書面にして提出、告訴し、相手方の身柄を拘束してもらい、その間に平穏な形で子供を引き取ることも検討すべきです。警察署としても、夫が裁判所の判断が出ているのにそれに従わない明確な事情があれば、罰則の容疑を否認している状況ですので逮捕などの身柄拘束に踏み切る可能性がございます。そもそも人身保護法の要件自体が監禁罪と同様に不当に子供の身体的自由が奪われていることを意味しますから,警察署の協力は,通常よりも得やすいでしょう。

(2)子の監護に関する処分としての引き渡請求

ア、人身保護請求とは別に、子の監護に関する処分として、引き渡し請求をする事が考えられます。具体的には、家庭裁判所に対して、子供の引渡命令を求める調停又は審判を申立てることになります(民法766条1項・家事事件手続法別表第2第3項類推)。調停手続では、当事者双方の言い分をもとに、合意による解決が図られることになります。この調停で合意が成立しなければ、自動的に審判に移行することになります(家事事件手続法272条4項)。

イ、家事審判の場合には、裁判官である家事審判官が、当事者から提出された書類や家庭裁判所調査官が行う調査の結果等の資料に基づいて、子供の引き渡し請求を認めるかを判断する事になります。 

この場合に引き渡し請求が認められるかは、子の福祉の実現の為には誰を監護者とするのかが最も適切かという観点で判断されます。

具体的には、@現実の監護者と子の継続的心理的結びつきがあるか(これまでの監護の実績・継続性の尊重)、A双方の監護態勢(心身の健康,経済力,居住環境,監護補助者の有無),B子供の意思の尊重(15歳以上の場合には、裁判所による意見聴取が必要。家事事件手続法152条第2項)、C(特に乳幼児の場合には)母性の優先、D相手方との面接交渉の許容性・寛容性、E奪取の違法性、F兄弟姉妹の分離の有無(分離しない方が子の福祉に適うといえるが、それほど重視されない例もある)、といった諸事情を総合的に考慮して判断されます。
全体的な傾向としては,物質面よりも精神的な面が重視される傾向があります。これは,経済力等の物質的な面は,養育費の支払等によって補てん可能であることが多いためです。

ウ、本件の場合ですと、母親である貴女に親権が認められたとのことですので、原則的には引き渡し請求が認められるのではないかと思われます。確かに、別居時からご主人がお子さんを養育している状況は認められますが(上述の@に該当する事情)、ご主人に親権も監護権も認められていないようであれば、特段の障害にはならないと考えられます。しかしながら、上述のAからB等の事情を考慮した上で奥様がお子さんを引き取ることが子供にとって良くない環境で養育される事になる場合には、例え親権があっても,子の引き渡しが認められない場合があります。例えば、2人の子供の親権が父母に1人ずつ設定されたけれども、父が2人とも養育しつづけた事例で、子供の意思や兄弟の不分離等の観点から、父のもとで引き続き養育されることが子の福祉に適うとして、1人の親権者である母からの請求を棄却した裁判例(大阪高裁平成12年4月19日決定)や、経済的な安定等を理由に親権を設定したけれども、設定後に親権者が子に暴力を振るっていたような事情があり、子供も成長し自らの意思で非親権者のもとに身を寄せている場合に、親権者からの請求を否定した裁判例などがあります(高松高裁平成1年7月25日決定など)。

エ、なお、子供など事件の関係人の急迫の危険を防止するための必要があり、子の引き渡し請求(本案)が認められる蓋然性があれば、審判前の保全処分(家事事件手続法105条,同157条第1項第3号)として、保全の申立をする事が出来ます。子どもに急迫の危険が生じるおそれがあることは,申立て者の側で疎明する必要があります(同106条文)。子供が,現在生活している夫のもとで,一見安定した生活を送れている場合には、認められにくいでしょう。

(3)引渡義務の履行実現の方法

ア、履行勧告

上記の手続きにより請求が認められたにも関わらずご主人がお子さんを引き渡さない場合には、家庭裁判所に申立てて、履行勧告をしてもらうことが出来ます(家事事件手続法289条第1項)。

それでも引渡に応じない場合は,強制執行の手続をとることになります。強制執行の方法は,主に間接強制と直接強制の二つが存在します。

イ,間接強制

間接強制とは,子の引渡義務を履行しない義務者に対し,一定の期間内に履行しなければ一定額の金銭を支払わせるという命令を発し,義務者に心理的な圧力を与えて引渡の履行を促す方法です(民事執行法172条)。

 子の引き渡し命令について,この間接強制の方法を実行できることは,既に最高裁判所の判例によって認められており,長年の実務もこの方法が採用されていました。

 しかし,間接強制による方法は,金銭の支払が負担にならない義務者,ときに支払を無視しても差し押さえられるべき財産の無い義務者には効果が薄く,実効性に乏しい面がありました。そのため近年では,次にあげる直接強制の方法を認める実務や裁判例が多く登場しています。

ウ,直接強制

  直接強制とは,執行機関の実力行使により,義務の履行を直接実現する方法です。子の引き渡し命令の場合は,執行官が直接子のもとに行き,その支配を権利者に移行させることになります。この場合の根拠条文としては,動産の引渡しについて定めた民事執行法169条1項の類推適用とされています。

  従来,子の引渡しについて直接強制を適用することは原則として認められていませんでした。その理由は,明文の規定が無い事に加え,子を動産(物)として扱う事の強い抵抗感があったといえるでしょう。

  しかし,現実として,間接強制だけでは,子の引渡し命令の実現が非常に困難であり,正当な権利の行使ができていないとの問題がありました。その為,近年裁判所の運用が変化し,この引き渡しについて直接強制を認める裁判例も多くみられています。

  例えば,東京地裁立川支部平成21年4月28日決定は,以下のように判示して,この引渡しの直接強制を認めています。

  すなわち,子の引渡しは調査官や医務室技官等のスタッフが配置された「専門性の高い家庭裁判所の審判が確定し,夫婦の一方が子の監護者としての地位を認められた以上は,その判断は最大限尊重されるべきであって,可及的速やかに審判結果が実現され,監護親の下において子の監護養育をさせることが,子の不安定な立場を解消し,その心情の安定や健全な成長に資するものであって,子の最善の福祉に合致するものというべきである。」とし,審判の結果引渡し命令が出ている以上,その実現こそがもっとも重要であるとしています。

  その上で,「親権ないし監護権に基づく子の引渡請求の法的性質は,単なる妨害排除請求権にとどまらず,引渡請求権としての性質をも有すると解すべきであり,その実現にあたっては,民事執行法169条に基づく動産の引渡執行の規定を類推適用して,直接強制を行うことが許されると解するのが相当である。 

  仮に,子の引渡請求について間接強制しか許されないとすると,間接強制の制裁を受けても頑なに引渡しに応じない者に対しては,子の引渡しを命ずる審判がなされても,何ら実効性を伴わない画餅に帰することになりかねず,また,人身保護請求制度を利用するにしても,さらに多大な時間,費用等を要することとなり,そのような結果は,家庭裁判所の審判制度への信頼を損ない,ひいては自力救済を助長することにもなりかねず,著しく相当性を欠くものというべきである。」とし,直接強制を明確に認めています。

  但し,直接強制も無限定ではなく,「児童の人格や情操面へ最大限配慮した執行方法を採るべき」としています。そのため,直接強制を申し立てる際は,子どもに対しての配慮を見せた上で申し立てることが必要です。

エ 直接強制申立ての際の注意点

実際の直接強制の申立ては,子の住所地を管轄する地方裁判所の執行官に対して行うことになります。執行官は,債権者の申立てに基づき,それを受理するか却下するかを決定することになります。現在では,上記裁判例の流れもあり,執行官は直接強制の申立てを受理することが原則となっていますが(執行官提要《第5版以降》),一定の場合には申立てが受理されない場合があります。また,受理されたとしても,事前の準備が不十分であった場合,結局現場で執行不能として終結されてしまう場合もあります。

その為,直接強制申立ての際は,下記の点に注意し,事前準備を行うことが重要です。

@子供の意思能力

  子供が乳幼児であり,意思能力が認められない場合,容易に子どもの身体を移転させることができるため,直接強制の申立ては認められやすいといえます。逆に,子どもに意思能力が認められる場合,子どもの意思に反してまでの直接強制は不可能とされる場合が多く存在します。一般的には,就学児童(7歳以上)であると,子の意思能力が認められると言われています。

  子供が意思能力の認められる年齢である場合には,子どもを説得する準備をしておくことが必須ですが,執行官に対しては,仮に子どもが拒否したとしても,引渡しを実現することが子の福祉の実現に資する旨を強く説得する必要があります。具体的には,執行官に対して,家庭裁判所調査官との打ち合わせを促し,調査の結果引渡し命令が発令されていることを確認してもらうと良いでしょう。可能であれば,債権者の側で,可能な限り審判記録の謄写を行い,執行官に提示することも考えられます。

A執行場所

 原則として子どもが生活している居住地ですが,相手方の強い抵抗が予想される場合には,保育園や学校,通学路等での執行が認められる場合もあります。

 相手方の自宅が執行場所で,抵抗が予想される場合には,開錠技術者の同行が必要です。また,相手方の家族構成等を執行官に詳細に説明し,できる限り執行成功の可能性が高い日時を選ぶべきでしょう。例えば債務者となる夫自身が平日の日中不在であり,その間祖母が面倒を見ていて,その祖母が比較的温厚であれば,その時間帯に執行をするよう執行官に要請する必要があります。

 学校等を執行場所に指定するためには,自宅での執行が不可能となる可能性が高いことを執行官に説明した上で,保育園や学校に事前に協力を依頼しておくことも検討すべきです。

 また,執行場所に子どもが不在だった場合に備えて,執行場所には複数の候補を用意しておくと良いでしょう。

B執行補助者等

 実力行使による抵抗の危険(暴行,脅迫やバリケードの設置等)がある場合には,警察等に協力を依頼することも可能です(民事執行法6条第1項)。

 なお,直接強制の場合,子どもの占有を速やかに債権者に移転するために,債権者や代理人が出頭するのが通常です。一方で,債権者が執行場所まで近づくと,相手方との間で争いが生じてしまうため,執行官は債権者本人の立ち合いは許可しないケースが多いです。そのため代理人に事情を詳細に説明して立会を依頼した方が良いでしょう。その上で,母親の待機場所として,近くに自動車等を待機させておくことも有用です。

 また,相手方の住居に侵入して執行する場合等は立会証人が必要です(民事執行法7条)。

 執行官に早々に執行不能と判断されてしまうことを避けるためにも,申し立てる側で準備を行うことが重要です。

3、まとめ

 以上のほかにも、離婚後の親権あるいは監護権に基づく妨害排除請求(民事訴訟)など、いくつかの手段が考えられます。子供が日々成長することを考えると、出来るだけ早くみとめられる手段を選択する方が良いでしょう(親権者から非親権者に対する請求であれば、一般的には、人身保護法による請求の方が早い判断がされる可能性が高いといえます)。子供の引き渡しは、親権者の指定の過程なども考慮すべきであり、ケースによってかなり異なると考えられます。実際にどのような手段がよいか,どのような準備をすべきかは,弁護士等にお尋ねになることをお勧めします。

※条文参照
民法
(基本原則)
第一条  私権は、公共の福祉に適合しなければならない。
2  権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない。
3  権利の濫用は、これを許さない。
(正当防衛及び緊急避難)
第七百二十条  他人の不法行為に対し、自己又は第三者の権利又は法律上保護される利益を防衛するため、やむを得ず加害行為をした者は、損害賠償の責任を負わない。ただし、被害者から不法行為をした者に対する損害賠償の請求を妨げない。
2  前項の規定は、他人の物から生じた急迫の危難を避けるためその物を損傷した場合について準用する。
(離婚後の子の監護に関する事項の定め等)
第七百六十六条  父母が協議上の離婚をするときは、子の監護をすべき者その他監護について必要な事項は、その協議で定める。協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、家庭裁判所が、これを定める。
2  子の利益のため必要があると認めるときは、家庭裁判所は、子の監護をすべき者を変更し、その他監護について相当な処分を命ずることができる。
3  前二項の規定によっては、監護の範囲外では、父母の権利義務に変更を生じない。
(監護及び教育の権利義務)
第八百二十条  親権を行う者は、子の監護及び教育をする権利を有し、義務を負う。

刑法
(未成年者略取及び誘拐)
第二百二十四条  未成年者を略取し、又は誘拐した者は、三月以上七年以下の懲役に処する。

民事執行法
(趣旨)
第一条 強制執行、担保権の実行としての競売及び民法 (明治二十九年法律第八十九号)、商法 (明治三十二年法律第四十八号)その他の法律の規定による換価のための競売並びに債務者の財産の開示(以下「民事執行」と総称する。)については、他の法令に定めるもののほか、この法律の定めるところによる。
(動産の引渡しの強制執行)
第百六十九条  第百六十八条第一項に規定する動産以外の動産(有価証券を含む。)の引渡しの強制執行は、執行官が債務者からこれを取り上げて債権者に引き渡す方法により行う。
2  第百二十二条第二項、第百二十三条第二項及び第百六十八条第五項から第八項までの規定は、前項の強制執行について準用する。
(間接強制)
第百七十二条  作為又は不作為を目的とする債務で前条第一項の強制執行ができないものについての強制執行は、執行裁判所が、債務者に対し、遅延の期間に応じ、又は相当と認める一定の期間内に履行しないときは直ちに、債務の履行を確保するために相当と認める一定の額の金銭を債権者に支払うべき旨を命ずる方法により行う。
2  事情の変更があつたときは、執行裁判所は、申立てにより、前項の規定による決定を変更することができる。
3  執行裁判所は、前二項の規定による決定をする場合には、申立ての相手方を審尋しなければならない。
4  第一項の規定により命じられた金銭の支払があつた場合において、債務不履行により生じた損害の額が支払額を超えるときは、債権者は、その超える額について損害賠償の請求をすることを妨げられない。
5  第一項の強制執行の申立て又は第二項の申立てについての裁判に対しては、執行抗告をすることができる。
6  前条第二項の規定は、第一項の執行裁判所について準用する。


人身保護法
(昭和二十三年七月三十日法律第百九十九号)
第一条  この法律は、基本的人権を保障する日本国憲法 の精神に従い、国民をして、現に、不当に奪われている人身の自由を、司法裁判により、迅速、且つ、容易に回復せしめることを目的とする。
第二条  法律上正当な手続によらないで、身体の自由を拘束されている者は、この法律の定めるところにより、その救済を請求することができる。
○2  何人も被拘束者のために、前項の請求をすることができる。
第三条  前条の請求は、弁護士を代理人として、これをしなければならない。但し、特別の事情がある場合には、請求者がみずからすることを妨げない。
第四条  第二条の請求は、書面又は口頭をもつて、被拘束者、拘束者又は請求者の所在地を管轄する高等裁判所若しくは地方裁判所に、これをすることができる。
第五条  請求には、左の事項を明らかにし、且つ、疏明資料を提供しなければならない。
一  被拘束者の氏名
二  請願の趣旨
三  拘束の事実
四  知れている拘束者
五  知れている拘束の場所
第六条  裁判所は、第二条の請求については、速かに裁判しなければならない。
第七条  裁判所は、請求がその要件又は必要な疏明を欠いているときは、決定をもつてこれを却下することができる。
第八条  第二条の請求を受けた裁判所は、請求者の申立に因り又は職権をもつて、適当と認める他の管轄裁判所に、事件を移送することができる。
第九条  裁判所は、前二条の場合を除く外、審問期日における取調の準備のために、直ちに拘束者、被拘束者、請求者及びその代理人その他事件関係者の陳述を聴いて、拘束の事由その他の事項について、必要な調査をすることができる。
○2  前項の準備調査は、合議体の構成員をしてこれをさせることができる。
第十条  裁判所は、必要があると認めるときは、第十六条の判決をする前に、決定をもつて、仮りに、被拘束者を拘束から免れしめるために、何時でも呼出しに応じて出頭することを誓約させ又は適当と認める条件を附して、被拘束者を釈放し、その他適当な処分をすることができる。
○2  前項の被拘束者が呼出に応じて出頭しないときは、勾引することができる。
第十一条  準備調査の結果、請求の理由のないことが明白なときは、裁判所は審問手続を経ずに、決定をもつて請求を棄却する。
○2  前項の決定をなす場合には、裁判所は、さきになした前条の処分を取消し、且つ、被拘束者に出頭を命じ、これを拘束者に引渡す。
第十二条  第七条又は前条第一項の場合を除く外、裁判所は一定の日時及び場所を指定し、審問のために請求者又はその代理人、被拘束者及び拘束者を召喚する。
○2  拘束者に対しては、被拘束者を前項指定の日時、場所に出頭させることを命ずると共に、前項の審問期日までに拘束の日時、場所及びその事由について、答弁書を提出することを命ずる。
○3  前項の命令書には、拘束者が命令に従わないときは、勾引し又は命令に従うまで勾留することがある旨及び遅延一日について、五百円以下の過料に処することがある旨を附記する。
○4  命令書の送達と審問期日との間には、三日の期間をおかなければならない。審問期日は、第二条の請求のあつた日から一週間以内に、これを開かなければならない。但し、特別の事情があるときは、期間は各々これを短縮又は伸長することができる。
第十三条  前条の命令は、拘束に関する令状を発した裁判所及び検察官に、これを通告しなければならない。
○2  前項の裁判所の裁判官及び検察官は、審問期日に立会うことができる。
第十四条  審問期日における取調は、被拘束者、拘束者、請求者及びその代理人の出席する公開の法廷において、これを行う。
○2  代理人のないときは、裁判所は弁護士の中から、これを選任せねばならない。
○3  前項の代理人は、旅費、日当、宿泊料及び報酬を請求することができる。
第十五条  審問期日においては、請求者の陳述及び拘束者の答弁を聴いた上、疏明資料の取調を行う。
○2  拘束者は、拘束の事由を疏明しなければならない。
第十六条  裁判所は審問の結果、請求を理由なしとするときは、判決をもつてこれを棄却し、被拘束者を拘束者に引渡す。
○2  前項の場合においては、第十一条第二項の規定を準用する。
○3  請求を理由ありとするときは、判決をもつて被拘束者を直ちに釈放する。
第十七条  第七条、第十一条第一項及び前条の裁判において、拘束者又は請求者に対して、手続に要した費用の全部又は一部を負担させることができる。
第十八条  裁判所は、拘束者が第十二条第二項の命令に従わないときは、これを勾引し又は命令に従うまで勾留すること並びに遅延一日について、五百円以下の割合をもつて過料に処することができる。
第十九条  被拘束者から弁護士を依頼する旨の申出があつたときは、拘束者は遅滞なくその旨を、被拘束者の指定する弁護士に通知しなければならない。
第二十条  第二条の請求を受けた裁判所又は移送を受けた裁判所は、直ちに事件を最高裁判所に通知し、且つ事件処理の経過並びに結果を同裁判所に報告しなければならない。
第二十一条  下級裁判所の判決に対しては、三日内に最高裁判所に上訴することができる。
第二十二条  最高裁判所は、特に必要があると認めるときは、下級裁判所に係属する事件が、如何なる程度にあるを問わず、これを送致せしめて、みずから処理することができる。
○2  前項の場合において、最高裁判所は下級裁判所のなした裁判及び処分を取消し又は変更することができる。
第二十三条  最高裁判所は、請求、審問、裁判その他の事項について、必要な規則を定めることができる。
第二十四条  他の法律によつてなされた裁判であつて、被拘束者に不利なものは、この法律に基く裁判と抵触する範囲において、その効力を失う。
第二十五条  この法律によつて救済を受けた者は、裁判所の判決によらなければ、同一の事由によつて重ねて拘束されない。
第二十六条  被拘束者を移動、蔵匿、隠避しその他この法律による救済を妨げる行為をした者若しくは第十二条第二項の答弁書に、ことさら虚偽の記載をした者は、二年以下の懲役又は五万円以下の罰金に処する。

   
人身保護規則
(この規則の趣旨)
第一条 人身保護法(以下法という。)による救済の請求に関しては、法に定めるものの外、この規則の定めるところによる。
(救済の内容)
第二条 法による救済は、裁判所が、法第十二条第二項の規定により、決定で、拘束者に対し、被拘束者の利益のためにする釈放その他適当であると認める処分を受忍し又は実行させるために、被拘束者を一定の日時及び場所に出頭させるとともに、審問期日までに答弁書を提出することを命じ(以下この決定を人身保護命令という。)、且つ、法第十六条第三項の規定により、判決で、釈放その他適当であると認める処分をすることによつてこれを実現する。
(拘束及び拘束者の意義)
第三条 法及びこの規則において、拘束とは、逮捕、抑留、拘禁等身体の自由を奪い、又は制限する行為をいい、拘束者とは、拘束が官公署、病院等の施設において行われている場合には、その施設の管理者をいい、その他の場合には、現実に拘束を行つている者をいう。
(請求の要件)
第四条 法第二条の請求は、拘束又は拘束に関する裁判若しくは処分がその権限なしにされ又は法令の定める方式若しくは手続に著しく違反していることが顕著である場合に限り、これをすることができる。但し、他に救済の目的を達するのに適当な方法があるときは、その方法によつて相当の期間内に救済の目的が達せられないことが明白でなければ、これをすることができない。

第五条 法第二条の請求は、被拘束者の自由に表示した意思に反してこれをすることができない。

第六条 請求者は、法第三条但書の規定により請求をみずからする場合には、同条但書の特別の事情を疎明しなければならない。
(請求の方式)
第七条 法第二条の請求をするには、左の事項を明らかにし、且つ、第二号、第三号及び第五号乃至第七号の事項につき、関係者、参考人等の陳述書、証明書等の文書その他の物件によつて疎明方法を提供しなければならない。

一 請求者又はその代理人の氏名及び住所
二 拘束者の氏名、住所その他拘束者を特定するに足りる事項
三 被拘束者の氏名
四 請求の趣旨
五 拘束の日時、場所、方法その他拘束の事情の概要
六 拘束が法律上正当な手続によらない理由
七 第四条但書の規定により請求をするときは、同条但書に当る事由
(不備の補正)
第八条 請求が前条の規定に違反している場合には、裁判所は、三日以内に不備を補正すべきことを命じなければならない。

2 請求者が不備を補正しないときは、裁判所は、決定で請求を却下しなければならない。

(平八最裁規六・一部改正)
(請求の手数料)
第九条 法第二条の請求をするには、二千円の手数料を納めなければならない。

2 手数料は、請求書又は請求の趣意を記載した調書に収入印紙をはつて納めるものとする。

3 前条の規定は、請求者が手数料を納めない場合について準用する。

(昭四六最裁規六・全改、昭五五最裁規五・平一五最裁規二三・一部改正)
(除斥)
第十条 裁判によつて行われている拘束について救済の請求があつたときは、当該裁判に関与した裁判官は、法律上職務の執行から除斥される。
(審理及び裁判の迅速)
第十一条 法第二条の請求に関する審理及び裁判は、事件受理の前後にかかわらず、他の事件に優先して、迅速にこれをしなければならない。

第十二条 裁判所は、除斥又は忌避の申立が手続を遅延させる目的のみでされたことが明らかであるときは、決定でこれを却下しなければならない。除斥又は忌避の申立がその手続に違反している場合も、同様である。

2 前項の場合においては、除斥又は忌避を申し立てられた裁判官が除斥又は忌避の裁判に関与することは、これを妨げない。

第十三条 除斥又は忌避の申立があつた場合においても、手続を停止してはならない。但し、合議体の裁判官が除斥又は忌避されたときはその合議体が、地方裁判所の一人の裁判官が除斥又は忌避されたときは当該裁判官が、申立を理由があると認めるときは、この限りでない。

第十四条 移送の裁判及び移送の申立を却下した裁判に対しては、不服を申し立てることができない。

2 前項の裁判が法令に違反しているときは、上告裁判所の判断を受ける。
(併合の禁止)
第十五条 法第二条の請求は、他の訴と併合してこれをすることができない。
(指定代理)
第十六条 官公署の施設の管理者が、拘束者として法第二条の請求を受けたときは、その施設の職員を指定して、その請求に関し、訴訟行為をさせることができる。

2 前項の規定により官公署の施設の管理者が指定した者は、当該請求について、代理人の選任以外の一切の裁判上の行為をする権限を有する。
(準備調査)
第十七条 法第九条第一項の規定による準備調査は、同項に掲げる者のうち拘束の事由その他の事項の調査について必要であると認める者を審尋してこれを行う。
(準備調査省略の場合の手続)
第十八条 裁判所は、第八条又は第九条の規定により請求を却下する場合及び事件を他の管轄裁判所に移送する場合の外、法第九条第一項の規定による準備調査を必要としないときは、直ちに、法第十一条第一項の規定により請求を棄却するか、又は法第十二条の規定により召喚及び人身保護命令発付の手続をすることができる。
(仮の処分の通知)
第十九条 法第十条第一項の処分がされたとき、又はその処分が取り消されたときは、裁判所書記官は、拘束に関する令状を発した裁判所(裁判官が令状を発したときは、その裁判官所属の裁判所)及び当該裁判所に対応する検察庁の検察官にその旨を通知しなければならない。

(平八最裁規六・一部改正)
(勾引)
第二十条 法第十条第二項の勾引には、刑事訴訟に関する法令の規定中被告人の勾引に関する規定を準用する。

(平八最裁規六・一部改正)
(決定による請求棄却)
第二十一条 次に掲げる場合には、裁判所は、決定で請求を棄却することができる。

一 請求が不適法であつてその不備を補正することができないものであるとき。
二 請求が被拘束者の自由に表示した意思に反してされたとき。
三 拘束者又はその住居が明らかでないとき。
四 被拘束者が死亡したとき。
五 被拘束者が身体の自由を回復したとき。
六 その他請求の理由のないことが明白であるとき。
2 前項の決定は、準備調査において拘束者を審尋した場合を除いて、これを拘束者に告知することを要しない。

(平八最裁規六・一部改正)
(仮の処分の取消)
第二十二条 裁判所は、法第十条第一項の処分をした場合において、法第十一条第一項の決定をするときは、更に、決定で、さきにした法第十条第一項の処分を取り消し、且つ、被拘束者に出頭を命じこれを拘束者に引き渡す旨の裁判をしなければならない。

2 前項の規定による決定は、これを請求者、拘束者及び被拘束者に告知しなければならない。
(召喚の方式)
第二十三条 法第十二条第一項の規定による召喚は、民事訴訟法の期日における呼出の方式によつてこれを行う。
(人身保護命令書の送達)
第二十四条 人身保護命令書は、これを拘束者に送達しなければならない。

2 前項の送達については、民事訴訟法の公示送達の方法によることができない。
(人身保護命令の効果)
第二十五条 人身保護命令書が拘束者に送達されたときは、被拘束者は、その送達の時から人身保護命令を発した裁判所によつて当該拘束の場所において監護されるものとする。この場合には、被拘束者の監護は、拘束者において当該裁判所の指揮のもとに引き続きこれを行うものとする。

2 前項の場合において、裁判所は、必要があると認めるときは、被拘束者を拘置所、刑務所、警察署その他適当であると認める場所に移すことを命ずることができる。この場合には、被拘束者の監護は、被拘束者の移送を受けた者においてこれを行うものとする。

第二十六条 人身保護命令書が拘束者に送達された後において、他の裁判所、行政庁その他の者が、被拘束者を被告人、証人又は参考人として呼び出す等法の規定による救済手続を遅延させる虞のある行為をしようとするときは、当該人身保護命令を発した裁判所の同意を得なければならない。
(答弁書)
第二十七条 答弁書には、次に掲げる事項を記載し、拘束者又はその代理人が記名押印しなければならない。

一 拘束者又はその代理人の氏名及び住所
二 人身保護命令に対する答弁の趣旨
三 拘束の日時、場所及びその事由
四 被拘束者を出頭させることができないときは、その理由
2 拘束が裁判によつて行われている場合には、令状その他の裁判書の謄本又は抄本を答弁書に添附しなければならない。

3 拘束者は、令状その他の裁判書の謄本又は抄本の交付を当該令状その他の裁判書を保管する官庁に請求することができる。

(昭四六最裁規九・平八最裁規六・一部改正)
(人身保護命令の通知等)
第二十八条 人身保護命令が発せられたとき、又はこれが取り消されたときは、裁判所書記官は、拘束に関する令状を発した裁判所(裁判官が令状を発したときは、その裁判官所属の裁判所)及び当該裁判所に対応する検察庁の検察官にその旨を通知しなければならない。

(平八最裁規六・一部改正)
(審問期日)
第二十九条 審問期日においては、まず、拘束者又はその代理人が答弁書に基いて陳述し、これに対し、被拘束者若しくは請求者又はこれらの者の代理人が陳述するものとする。

2 前項の陳述があつた後、裁判所は、疎明方法の取調を行う。

3 拘束者は、拘束の事由を疎明しなければならない。

4 裁判によつて行われている拘束は、適法なものと推定する。

第三十条 前条第一項の陳述が行われるべき審問期日には、被拘束者及びその代理人並びに拘束者及び請求者又はこれらの者の代理人が出頭しなければならない。但し、左の各号の一に該当する場合は、この限りでない。

一 被拘束者の出頭については、その代理人が出頭している場合において、被拘束者が病気その他やむを得ない事由によつて出頭することができず、且つ、被拘束者に異議がないとき。
二 被拘束者の代理人の出頭については、被拘束者が出頭している場合において、被拘束者に異議がないとき。
三 請求者又はその代理人の出頭については、請求者及びその代理人の出頭がない場合において、裁判所が請求書に記載した事項はこれを陳述したものとみなすのを相当と認めるとき。
2 前条第一項の陳述があつた後の審問期日においては、裁判所は、相当と認めるときは、出頭しない者があつても、期日を開くことができる。
(被拘束者の代理人)
第三十一条 被拘束者の代理人は、弁護士でなければならない。

2 被拘束者の代理人が選任されていないときは、裁判所は、これを選任しなければならない。

3 被拘束者が被告人又は被疑者である場合において弁護士である弁護人(裁判長又は裁判官により選任されたものを除く。)があるときは、その弁護人は、これを被拘束者の代理人とみなす。

(平一八最裁規一一・一部改正)
(審問期日の通知)
第三十二条 裁判所書記官は、第二十八条の裁判所及び検察官に審問期日を通知しなければならない。

2 前項の裁判所の裁判官及び検察官は、審問期日に立ち会い意見を述べることができる。

(平八最裁規六・一部改正)
(審問の方式)
第三十三条 審問は、その性質に反しない限り、民事訴訟に関する法令の規定中口頭弁論の方式に関する規定に従つて行う。

(平八最裁規六・一部改正)
(被拘束者の訴訟行為)
第三十四条 被拘束者は、請求について、自由な意思に基き、攻撃又は防ぎよの方法の提出、異議の申立、上訴の提起、請求の取下その他一切の訴訟行為をすることができる。

2 被拘束者の訴訟行為と請求者の訴訟行為とが抵触するときは、その抵触する範囲において、請求者の訴訟行為は、その効力を失う。
(請求の取下)
第三十五条 請求は、判決のあるまで、拘束者の同意を得ないでこれを取り下げることができる。

2 請求の取下は、書面でこれをしなければならない。但し、審問期日において、口頭でこれをすることを妨げない。

3 請求の取下があつた場合には、裁判所は、直ちに、決定で、さきに発した人身保護命令を取り消し、及びさきにした法第十条第一項の処分を取り消し、且つ、被拘束者に出頭を命じ、これを拘束者に引き渡す旨の裁判をしなければならない。
(判決の言渡期日)
第三十六条 判決の言渡は、審問終結の日から五日以内にこれをする。但し、特別の事情があるときは、この限りでない。
(請求認容の判決)
第三十七条 裁判所は、請求を理由があるとするときは、判決で、被拘束者を直ちに釈放し、又は被拘束者が幼児若しくは精神病者であるときその他被拘束者につき特別の事情があると認めるときは、被拘束者の利益のために適当であると認める処分をすることができる。
(手続費用)
第三十八条 法第十七条に規定する手続に要した費用は、民事訴訟における訴訟費用の外、被拘束者の旅費、日当及び宿泊料並びに第三十一条第二項の規定により選任された代理人に給与する旅費、日当、宿泊料及び報酬とする。

2 前項の被拘束者の旅費、日当及び宿泊料の額については、民事訴訟における当事者の旅費、日当及び宿泊料の例による。

(昭四六最裁規六・一部改正)
(勾引及び勾留)
第三十九条 法第十八条の勾引又は勾留には、刑事訴訟に関する法令の規定中被告人の勾引又は勾留に関する規定を準用する。

(平八最裁規六・一部改正)
(弁護士依頼の申出)
第四十条 被拘束者は、代理人のない場合に限り、拘束者に対し、弁護士を指定してこれを代理人として依頼する旨の申出をすることができる。

2 被拘束者が二人以上の弁護士を指定して前項の申出をしたときは、拘束者は、そのうちの一人の弁護士にこれを通知すれば足りる。
(上告)
第四十一条 下級裁判所の判決に対しては、控訴をすることはできないが、最高裁判所に上告をすることができる。その期間は、言渡しの日から三日とする。

2 上告理由書及び上告受理申立て理由書の提出期間は、十五日とする。

(平八最裁規六・一部改正)
(書面審理)
第四十二条 最高裁判所は、上告状、上告理由書、答弁書その他の書類によつて上告を理由がないと認めたときは、審問を経ないで、判決で上告を棄却することができる。
(事件送致命令)
第四十三条 最高裁判所が、下級裁判所に係属する事件を法第二十二条第一項の規定によりみずから処理するため送致させようとするときは、当該下級裁判所に対し、事件送致命令を発する。

2 最高裁判所の裁判所書記官は、前項の命令が発せられたときは、速やかに、請求者に対し、また、人身保護命令が発せられた後は、拘束者に対し、その旨を通知する。

(平八最裁規六・一部改正)

第四十四条 前条第一項の命令があつたときは、事件は、初めから最高裁判所に係属したものとみなす。

2 前条第一項の命令があつたときは、当該下級裁判所の裁判所書記官は、速やかに訴訟記録を最高裁判所の裁判所書記官に送付しなければならない。

(昭二四最裁規一二・平八最裁規六・一部改正)
(他の法律による裁判の効力)
第四十五条 他の法律によつてされた当該拘束に関する裁判で被拘束者に不利なものは、人身保護命令若しくは法第十条第一項の処分をする決定が拘束者に送達され、又は被拘束者を釈放し若しくは被拘束者につき適当な処分をする判決の言渡しがあつたときは、これと抵触する範囲において、その効力を制限される。ただし、拘束が判決、勾留状又は監置の決定の執行として行われている場合には、刑期、未決勾留若しくは監置の期間の算入又は刑事補償法による補償については、人身保護命令は発せられなかつたものとみなし、法第十条第一項の処分又はその取消しは、それぞれこれを刑法における仮釈放の処分又はその取消しとみなす。

2 他の法律によつてされた当該拘束に関する裁判で被拘束者に不利なものは、人身保護命令若しくは法第十条第一項の処分を取り消す決定が拘束者に送達され又は請求を棄却する判決の言渡があつたときは、その効力を回復する。

(昭二七最裁規二六・平一八最裁規六・一部改正)
(請求手続の性質)
第四十六条 法による救済の請求に関しては、法及びこの規則に定めるものの外、その性質に反しない限り、民事訴訟の例による。


家事事件手続法
(調停の不成立の場合の事件の終了)
第二百七十二条  調停委員会は、当事者間に合意(第二百七十七条第一項第一号の合意を含む。)が成立する見込みがない場合又は成立した合意が相当でないと認める場合には、調停が成立しないものとして、家事調停事件を終了させることができる。ただし、家庭裁判所が第二百八十四条第一項の規定による調停に代わる審判をしたときは、この限りでない。
2  前項の規定により家事調停事件が終了したときは、家庭裁判所は、当事者に対し、その旨を通知しなければならない。
3  当事者が前項の規定による通知を受けた日から二週間以内に家事調停の申立てがあった事件について訴えを提起したときは、家事調停の申立ての時に、その訴えの提起があったものとみなす。
4  第一項の規定により別表第二に掲げる事項についての調停事件が終了した場合には、家事調停の申立ての時に、当該事項についての家事審判の申立てがあったものとみなす。
(陳述の聴取)
第百五十二条  家庭裁判所は、夫婦財産契約による財産の管理者の変更等の審判をする場合には、夫及び妻(申立人を除く。)の陳述を聴かなければならない。
2  家庭裁判所は、子の監護に関する処分の審判(子の監護に要する費用の分担に関する処分の審判を除く。)をする場合には、第六十八条の規定により当事者の陳述を聴くほか、子(十五歳以上のものに限る。)の陳述を聴かなければならない。
(審判前の保全処分)
第百五条  本案の家事審判事件(家事審判事件に係る事項について家事調停の申立てがあった場合にあっては、その家事調停事件)が係属する家庭裁判所は、この法律の定めるところにより、仮差押え、仮処分、財産の管理者の選任その他の必要な保全処分を命ずる審判をすることができる。
2  本案の家事審判事件が高等裁判所に係属する場合には、その高等裁判所が、前項の審判に代わる裁判をする。
(婚姻等に関する審判事件を本案とする保全処分)
第百五十七条  家庭裁判所(第百五条第二項の場合にあっては、高等裁判所。以下この条及び次条において同じ。)は、次に掲げる事項についての審判又は調停の申立てがあった場合において、強制執行を保全し、又は子その他の利害関係人の急迫の危険を防止するため必要があるときは、当該申立てをした者の申立てにより、当該事項についての審判を本案とする仮差押え、仮処分その他の必要な保全処分を命ずることができる。
一  夫婦間の協力扶助に関する処分
二  婚姻費用の分担に関する処分
三  子の監護に関する処分
四  財産の分与に関する処分




≪参考判例≫
○最判平成6年4月26日民集48巻3号992頁
夫婦の一方(請求者)が他方(拘束者)に対し、人身保護法に基づき、共同親権に服する幼児の引渡しを請求した場合において、拘束者による幼児に対する監護・拘束が権限なしにされていることが顕著である(人身保護規則四条)ということができるためには、右幼児が拘束者の監護の下に置かれるよりも、請求者の監護の下に置かれることが子の幸福に適することが明白であること、いいかえれば、拘束者が幼児を監護することが、請求者による監護に比して子の幸福に反することが明白であることを要すると解される(最高裁平成五年(オ)第六〇九号同年一〇月一九日第三小法廷判決・民集四七巻八号五〇九九頁)。そして、請求者であると拘束者であるとを問わず、夫婦のいずれか一方による幼児に対する監護は、親権に基づくものとして、特段の事情のない限り適法であることを考えると、右の要件を満たす場合としては、拘束者に対し、家事審判規則五二条の二又は五三条に基づく幼児引渡しを命ずる仮処分又は審判が出され、その親権行使が実質上制限されているのに拘束者が右仮処分等に従わない場合がこれに当たると考えられるが、更には、また、幼児にとって、請求者の監護の下では安定した生活を送ることができるのに、拘束者の監護の下においては著しくその健康が損なわれたり、満足な義務教育を受けることができないなど、拘束者の幼児に対する処遇が親権行使という観点からみてもこれを容認することができないような例外的な場合がこれに当たるというべきである。
 これを本件についてみるのに、前記の事実関係によると、原判決が判示する前記二(二)の事情は、被拘束者らが上告人の下で監護されると、環境的にみてその気管支ぜん息を悪化させるおそれがあるというにとどまり、具体的にその健康が害されるというものではなく、また、その余の事情も被拘束者らの幸福にとって相対的な影響を持つものにすぎないところ、上告人、被上告人とも、被拘束者らに対する愛情に欠けるところはなく、被拘束者らは上告人の監護の下にあっても、学童として支障のない生活を送っているというのであるから、被拘束者らの上告人による監護が、被上告人によるそれに比してその幸福に反することが明白であるということはできない。結局、原審は、被拘束者らにとっては上告人の下で監護されるより被上告人の下で監護される方が幸福であることが明白であるとはしているものの、その内容は単に相対的な優劣を論定しているにとどまるのであって、その結果、原審の判断には、人身保護法二条、人身保護規則四条の解釈適用を誤った違法があり、右違法は判決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。

○最判平成11年5月25日家月51巻10号118頁
法律上監護権を有しない者が子をその監護の下において拘束している場合に,監護権を有する者が人身保護法に基づいて子の引渡しを請求するときは,被拘束者を監護権者である請求者の監護の下に置くことが拘束者の監護の下に置くことに比べて子の幸福の観点から著しく不当なものでない限り,非監護権者による拘束は権限なしにされていることが顕著である場合(人身保護規則4条)に該当し,監護権者の請求を認容すべきものとするのが相当である

○東京地方裁判所立川支部平成21年(ヲ)第10002号 平成21年4月28日決定
「子の監護者指定及び子の引渡しは,子の監護に関する問題について,家庭裁判所調査官や医務室技官等の専門的知見を有するスタッフが配置され,心理テストその他の実施が可能な諸施設の整備された家庭裁判所が,その専門性を生かして判断するものであるから,このような専門性の高い家庭裁判所の審判が確定し、夫婦の一方が子の監護者としての地位を認められた以上は,その判断は最大限尊重されるべきであって,可及的速やかに審判結果が実現され,監護親の下において子の監護養育をさせることが,子の不安定な立場を解消し,その心情の安定や健全な成長に資するものであって,子の最善の福祉に合致するものというべきである。
 したがって,親権ないし監護権に基づく子の引渡請求の法的性質は,単なる妨害排除請求権にとどまらず,引渡請求権としての性質をも有すると解すべきであり,その実現にあたっては,民事執行法169条に基づく動産の引渡執行の規定を類推適用して,直接強制を行うことが許されると解するのが相当である。 
 仮に,子の引渡請求について間接強制しか許されないとすると,間接強制の制裁を受けても頑なに引渡しに応じない者に対しては,子の引渡しを命ずる審判がなされても,何ら実効性を伴わない画餅に帰することになりかねず,また,人身保護請求制度を利用するにしても,さらに多大な時間,費用等を要することとなり,そのような結果は,家庭裁判所の審判制度への信頼を損ない,ひいては自力救済を助長することにもなりかねず,著しく相当性を欠くものというべきである。
 もっとも,動産の引渡執行の規定を類推適用するとはいえ,執行対象が人格の主体である児童である以上,児童の人格や情操面への配慮を欠くことはできないから,執行官は,直接強制にあたり,児童の人格や情操面へ最大限配慮した執行方法を採るべきことはもとより当然のことである。
(3)申立人は,未成年者は当時7歳9か月であり,意思能力が認められるから,未成年者に対する直接強制は許されない旨主張する。
 しかしながら,一般的にいえば,小学校低学年の年齢程度の児童は,多少の個体差が存在するとしても,客観的に善悪,適否の判断力を備えているとはいいがたく,意思能力を有していないと解すべきである。本件の未成年者は,執行当時7歳9か月の児童であり,小学校2年生に進学したばかりであるから,一般的には,その当時意思能力を有していたものと解することはできない。
 また,本件処分当時,未成年者が意思能力を有していたと認め得る特段の事情もうかがわれないから,執行官が未成年者をBに引渡した本件処分が違法,不当なものであるということはできない。」

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