地裁支部の勾留決定に対する準抗告申立

刑事|逮捕|身柄解放|最高裁判所昭和44年3月25日第三小法廷決定

目次

  1. 質問
  2. 回答
  3. 解説
  4. 関連事例集
  5. 参考判例

質問:

勾留決定に対する準抗告の申し立てをしたいのですが、支部裁判所のため裁判所の判断、決定が遅くなると言われました。そのようなことがあるのでしょうか。詳しい事情は次のとおりです。

夫がタクシーの運転手に暴行を加え怪我をさせた傷害の容疑で逮捕されました。事件から2日後の本日金曜日、弁護人が被害者と示談を成立させてくれたのですが、一足早く勾留決定が出てしまいました。勾留決定に対して準抗告という手続きを行うことで釈放してもらえる可能性があると知ったので、弁護人に手続きをお願いしたのですが、地方での事件であり、準抗告の申立先が当直職員のいない小規模な支部裁判所になるため、夜間の申立てはできないとのことでした。また、裁判所の規模から、休日に裁判官が合議を組むことができないため、すぐ申し立てても判断は連休明けの火曜日以降になるだろうとのことでした。やはり支部の事件だと連休前の釈放は難しいのでしょうか。

回答:

1. ご主人に対して勾留を認める裁判がなされていますので、何もせずにいた場合、最大で20日間の身柄拘束が予想されます(刑事訴訟法208条1項・2項、216条)。もっとも、ご主人は被害者との間で示談が成立しているため、脅迫や懇願等による罪証隠滅や逃亡のおそれは既に著しく低下しており(刑事訴訟法207条1項、60条1項2号・3号)、勾留の必要性もなくなっていると考えられます(刑事訴訟法207条1項、87条1項)。そこで、ご主人の場合、勾留の裁判に対して不服申立てを行う必要があります。本件で執るべき手続きとしては、勾留の裁判に対する準抗告の申立て(刑事訴訟法429条1項2号)が適切と思われます。申立先の裁判所は通常、地方裁判所になり、たとえ休日中であっても、申立てから24時間以内には判断が出るのが通例です。

2. ご主人の場合、勾留の裁判が行われた支部裁判所が休日に合議を組むことができない小規模庁とのことですので、準抗告申立てを夜間受付窓口のある本庁裁判所に対して行うことができるかどうか、本庁裁判所の管轄権の有無が問題となります。

3. 最高裁判所昭和44年3月25日第三小法廷決定をはじめ、確立した判例によれば、地方裁判所の支部は、それ自体司法行政官庁ではなく、司法行政官庁としての本庁に包摂され、外部に対しては本庁と一体をなすものであつて、支部の権限、管轄区域は、裁判所内部の事務分配の基準にすぎないものと解すべきである、とされています。すなわち、支部裁判所は地方裁判所の一部として当該地方裁判所の有する裁判権を行使するだけですので、本庁裁判所も支部裁判所の区域内の事件について管轄権を有するということになります。

4. 支部裁判所の受付係が消極的な返答をしていても、裁判所内部の事務分担規則の通りに受け答えしているだけで、裁判官ではありませんので前記判例の趣旨についての理解が不足していても仕方ないことです。ご主人の弁護人は直ちに本庁裁判所に対して準抗告の申立てを行う必要があります。既に勾留の要件が欠けているにも拘わらずご主人の身柄拘束が継続している現状は到底看過できるものではありません。直ちに弁護人と協議し、本庁での手続きを要請して下さい。

5. 準抗告に関する関連事例集参照。

解説:

1.(勾留の裁判に対する準抗告)

まず、ご主人が刑事手続上置かれている状況について確認しておきます。

ご主人はタクシーの運転手を殴って怪我をさせたことで、傷害罪(刑法204条)の容疑で逮捕、勾留されています。勾留とは逮捕に引き続き、被疑者の身柄を保全するためになされる比較的長期間の身柄拘束処分のことをいい、検察官の請求を受けた裁判官による勾留を認める裁判によって行われます(刑事訴訟法205条1項、207条1項・4項)。被疑者段階での身柄拘束期間は勾留請求の日を含めて原則10日間(刑事訴訟法208条1項)、検察官がさらに取調べや証拠収集をしなければ被疑者の最終的な処分を決定することが困難と判断した場合、さらに10日間の延長が可能とされており(刑事訴訟法208条2項、216条)、このまま何もしなければ勾留の裁判の効力により、ご主人の身柄拘束は相当期間継続することが予想されます。

もっとも、ご主人の場合、勾留決定直後に被害者と示談が成立しているということですので、かかる事後的な事情の変化を踏まえ、勾留の適否を改めて判断してもらう最も有効な手続きとして考えられるのが、勾留の裁判に対する準抗告です(刑事訴訟法429条1項2号)。その他にも、検察官に示談の成立を報告し、検察官に対して任意での釈放を求める方法や、勾留の裁判を行った裁判官に対して勾留取消請求(刑事訴訟法207条1項、87条1項)を行う方法が一応考えられますが、勾留取消決定にあたって必要となる検察官に対する意見聴取(刑事訴訟法92条2項・1項、207条1項、87条1項)や検察官による釈放指揮に際して、検察官の休日の対応は全く期待できないので、本件では勾留の裁判に対する準抗告を行うべきことになります。なお、準抗告の申立てにあたっては、勾留決定時には存在しなかった示談成立という事後的な事情をその判断の基礎としてもらうことができるのかどうかという問題がありますが、結論としては可能です。この点の詳細については別稿での解説に譲ることにします(当事務所事例集NO.1396をご参照ください。)。

法律上、勾留を認める裁判を行うためには、(1)被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があること(刑事訴訟法207条1項、60条1項柱書)、(2)被疑者に①住所不定、②罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由、③逃亡すると疑うに足りる相当な理由のいずれかの事情があること(これらを合わせて、勾留の理由といいます。刑事訴訟法207条1項、60条1項各号)、(3)諸般の事情に照らして勾留の必要性があること(刑事訴訟法207条1項、87条1項)の3つの要件を満たす必要があり、裏を返せば、ご主人が現に勾留されているということは、これらの要件が認められたことを意味します。しかし、被害者と示談が成立した場合、本件は不起訴処分相当の事案となったといえ、ご主人が処罰を恐れて逃亡し、罪証隠滅(手段としては、被害者に対する脅迫や懇願による働きかけ等が考えられます。)を行う動機は著しく低減したといえますし、被害者が十分な被害弁償を受け、加害者を宥恕している以上、勾留を継続することは不相当であり、もはや勾留の必要性はなくなったと考えられます。

したがって、ご主人は、準抗告の手続きをとることにより、身柄を解放してもらえる可能性が十分にあると考えられます(刑事訴訟法432条、426条2項)。

2.(準抗告の申立先裁判所)

ところが、ご主人の場合、勾留の裁判が行われた支部裁判所が休日に合議を組むことができない小規模庁とのことですので、準抗告申立てを本庁の裁判所など別の裁判所に対して行うことができるのかが問題となってきます。この問題を考える前提として、裁判所の管轄に関する規定を確認しておく必要があります。

まず、刑事事件の被疑者を勾留するにあたっては、検察官が勾留請求という手続きを行わなければならず、その請求先は裁判官とされています(刑事訴訟法204条1項、205条1項、206条1項)。そして、勾留決定を行った裁判官が簡易裁判所の裁判官の場合は管轄地方裁判所が、それ以外の裁判官の場合はその裁判官所属の裁判所が、それぞれ準抗告の申立先となります(刑事訴訟法429条1項2号)。通常、勾留の裁判を行うのは簡易裁判所又は地方裁判所の裁判官ですので、準抗告の申立ては実際には地方裁判所に対して行うことになります。

そして、地方裁判所の名称及び具体的な管轄区域は、下級裁判所の設置及び管轄区域に関する法律によって定められています。例えば、千葉地方裁判所は千葉市に、大分地方裁判所は大分市に置くこととされており(同法1条、別表2)、千葉地方裁判所であれば千葉県内全域が、大分地方裁判所であれば大分県内全域が管轄区域とされています(同法2条、別表5)。

さらに、最高裁判所は、地方裁判所の事務の一部を取り扱わせるため、その地方裁判所の管轄区域内に、地方裁判所の支部又は出張所を設けることができるとされており(憲法77条1項、裁判所法31条1項)、これを受けて、地方裁判所及び家庭裁判所支部設置規則(昭和22年最高裁判所規則第14号)が支部の名称、権限及び具体的な管轄区域を定めています。例えば、千葉地方裁判所木更津支部であれば木更津市,君津市,富津市,袖ヶ浦市、大分地方裁判所中津支部であれば、中津市,宇佐市といった具合です。

これらの規定に素直に従えば、準抗告は支部裁判所を申立先とすべきようにも思えそうです。しかし、勾留の裁判に対する準抗告は3名の裁判官で構成される合議体によって審理・決定がなされなければならないところ(裁判所法26条2項4号、3項、刑事訴訟法429条3項、1項2号)、特に小規模な支部裁判所では休日に合議体を組むことができるだけの裁判官を確保できない場合があります。また、宿直の職員がおらず、そもそも夜間の申立て自体ができないような支部裁判所も少なくありません(本庁裁判所や比較的規模の大きい支部裁判所では夜間受付窓口が設けられており、土日、祝日や夜中でも申立てを行うことが可能です。)。

あなたのご主人は既に勾留の要件が欠けている可能性が高いにも拘らず、夜間の準抗告申立てができない、あるいは申し立てても連休明けまで判断を留保される、といった事態はご主人の人権上問題があると言わざるを得ません。そこで、このような場合に本庁を申立先とすることが管轄に関する定めに照らして可能かどうかが問題となるのです。すなわち、本庁裁判所が支部事件につき判断するにあたって管轄権を有するかどうかという問題です。

3.(本庁裁判所に管轄が認められるか)

この問題を考えるにあたっては、公職選挙法違反被告事件において、長野地裁伊那支部から飯田支部への事件回付の措置に対し、管轄違反等を理由に不服申し立てがなされた事案について、その適否を判断した最高裁判所昭和44年3月25日第三小法廷決定が参考になります。

本決定は「憲法七七条一項、裁判所法三一条一項に基づき、最高裁判所は、裁判所の司法事務処理に関する事項として、地方裁判所等支部設置規則を制定し、地方裁判所の支部の名称、権限、管轄区域を定めている。右規則により設けられた地方裁判所の支部は、地方裁判所の事務の一部を取り扱うため、本庁の所在地を離れて設けられたものであるが、原則として、独立の司法行政権を与えられていないから、それ自体司法行政官庁ではなく、司法行政官庁としての本庁に包摂され、外部に対しては本庁と一体をなすものであつて、支部の権限、管轄区域は、裁判所内部の事務分配の基準にすぎないものと解すべきである。」と述べ、地方裁判所の本庁と支部間あるいは支部相互間の事件の回付が訴訟法上の手続ではないことを理由として、事件回付の措置に対する不服申立はできないと結論付けています。

本決定によれば、支部裁判所は地方裁判所の一部として当該地方裁判所の有する裁判権を行使するだけであり、支部裁判所固有の裁判権というものは観念できず、地方裁判所及び家庭裁判所支部設置規則も訴訟法上の管轄とは無関係の規定ということになり、本庁裁判所も支部裁判所の区域内の事件について管轄権を有するということになりそうです。

このことは、被疑者の防御権保護の観点からも導き出すことができます。裁判所間での裁判権の分担は、主として司法組織内での合理的な事務分担と国民に対する司法行政上の便宜供与の趣旨で定められたものですが、特に刑事手続においては、民事事件とは異なり、身柄拘束等の点で重大な人権の制約を伴うため、被疑者ないし被告人の防御権保護の見地から解釈される必要があります(刑事訴訟法1条参照)。そして、被疑者ないし被告人の防御権に関連する事項は、その性質上法律によって定められるべきであり、下級裁判所の設置及び管轄区域に関する法律によって定められた各地方裁判所の管轄区域に関する定めは、防御権行使に際しての便宜という法的利益を体現したものと考えることができます。かかる法的利益を踏まえて管轄権の定めが置かれている以上、法律よりも下位の規範である規則によって被疑者ないし被告人の法的利益を一方的に奪うことが許されるはずがありません。

したがって、結論としては、支部裁判所の区域内の事件であっても本庁裁判所が管轄権を有しているといえ、本庁の裁判所に対して準抗告の申立てを行うことが可能です。夜間窓口がない等により支部で申立てできない場合、身柄の早期釈放のためには本庁に申立てを行うべきことになります。

4.(終わりに)

ご相談のケースでは、弁護人は直ちに本庁裁判所に対して準抗告の申立てを行わなければなりません。その場合、支部の検察庁から本庁の裁判所に記録が送られ、本庁での判断となります。記録送付の時間はかかりますが、勾留の裁判に対する準抗告の場合、たとえ休日中であっても、申立てから24時間以内には判断が出るのが通例です。

既に勾留の要件が欠けているにも拘わらずご主人の身柄拘束が継続している現状は到底看過できるものではありません。直ちに弁護人と協議し、本庁での手続きを要請して下さい。

以上

関連事例集

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※参照条文・判例

憲法

第七十七条 最高裁判所は、訴訟に関する手続、弁護士、裁判所の内部規律及び司法事務処理に関する事項について、規則を定める権限を有する。

刑法

(傷害)

第二百四条 人の身体を傷害した者は、十五年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。

刑事訴訟法

第二条 裁判所の土地管轄は、犯罪地又は被告人の住所、居所若しくは現在地による。

第六十条 裁判所は、被告人が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由がある場合で、左の各号の一にあたるときは、これを勾留することができる。

一 被告人が定まつた住居を有しないとき。

二 被告人が罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき。

三 被告人が逃亡し又は逃亡すると疑うに足りる相当な理由があるとき。

第八十七条 勾留の理由又は勾留の必要がなくなつたときは、裁判所は、検察官、勾留されている被告人若しくはその弁護人、法定代理人、保佐人、配偶者、直系の親族若しくは兄弟姉妹の請求により、又は職権で、決定を以て勾留を取り消さなければならない。

第九十二条 裁判所は、保釈を許す決定又は保釈の請求を却下する決定をするには、検察官の意見を聴かなければならない。

○2 検察官の請求による場合を除いて、勾留を取り消す決定をするときも、前項と同様である。但し、急速を要する場合は、この限りでない。

第百九十九条 検察官、検察事務官又は司法警察職員は、被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があるときは、裁判官のあらかじめ発する逮捕状により、これを逮捕することができる。ただし、三十万円(刑法 、暴力行為等処罰に関する法律及び経済関係罰則の整備に関する法律の罪以外の罪については、当分の間、二万円)以下の罰金、拘留又は科料に当たる罪については、被疑者が定まつた住居を有しない場合又は正当な理由がなく前条の規定による出頭の求めに応じない場合に限る。

第二百四条 検察官は、逮捕状により被疑者を逮捕したとき、又は逮捕状により逮捕された被疑者(前条の規定により送致された被疑者を除く。)を受け取つたときは、直ちに犯罪事実の要旨及び弁護人を選任することができる旨を告げた上、弁解の機会を与え、留置の必要がないと思料するときは直ちにこれを釈放し、留置の必要があると思料するときは被疑者が身体を拘束された時から四十八時間以内に裁判官に被疑者の勾留を請求しなければならない。但し、その時間の制限内に公訴を提起したときは、勾留の請求をすることを要しない。

第二百五条 検察官は、第二百三条の規定により送致された被疑者を受け取つたときは、弁解の機会を与え、留置の必要がないと思料するときは直ちにこれを釈放し、留置の必要があると思料するときは被疑者を受け取つた時から二十四時間以内に裁判官に被疑者の勾留を請求しなければならない。

○2 前項の時間の制限は、被疑者が身体を拘束された時から七十二時間を超えることができない。

○3 前二項の時間の制限内に公訴を提起したときは、勾留の請求をすることを要しない。

○4 第一項及び第二項の時間の制限内に勾留の請求又は公訴の提起をしないときは、直ちに被疑者を釈放しなければならない。

第二百六条 検察官又は司法警察員がやむを得ない事情によつて前三条の時間の制限に従うことができなかつたときは、検察官は、裁判官にその事由を疎明して、被疑者の勾留を請求することができる。

第二百七条 前三条の規定による勾留の請求を受けた裁判官は、その処分に関し裁判所又は裁判長と同一の権限を有する。但し、保釈については、この限りでない。

4 裁判官は、第一項の勾留の請求を受けたときは、速やかに勾留状を発しなければならない。ただし、勾留の理由がないと認めるとき、及び前条第二項の規定により勾留状を発することができないときは、勾留状を発しないで、直ちに被疑者の釈放を命じなければならない。

第二百八条 前条の規定により被疑者を勾留した事件につき、勾留の請求をした日から十日以内に公訴を提起しないときは、検察官は、直ちに被疑者を釈放しなければならない。

○2 裁判官は、やむを得ない事由があると認めるときは、検察官の請求により、前項の期間を延長することができる。この期間の延長は、通じて十日を超えることができない。

第二百十六条 現行犯人が逮捕された場合には、第百九十九条の規定により被疑者が逮捕された場合に関する規定を準用する。

第四百二十六条 抗告の手続がその規定に違反したとき、又は抗告が理由のないときは、決定で抗告を棄却しなければならない。

○2 抗告が理由のあるときは、決定で原決定を取り消し、必要がある場合には、更に裁判をしなければならない。

第四百二十九条 裁判官が左の裁判をした場合において、不服がある者は、簡易裁判所の裁判官がした裁判に対しては管轄地方裁判所に、その他の裁判官がした裁判に対してはその裁判官所属の裁判所にその裁判の取消又は変更を請求することができる。

二 勾留、保釈、押収又は押収物の還付に関する裁判

○3 第一項の請求を受けた地方裁判所又は家庭裁判所は、合議体で決定をしなければならない。

第四百三十二条 第四百二十四条、第四百二十六条及び第四百二十七条の規定は、第四百二十九条及び第四百三十条の請求があつた場合にこれを準用する。

裁判所法

第二十六条 (一人制・合議制) 地方裁判所は、第二項に規定する場合を除いて、一人の裁判官でその事件を取り扱う。

○2 左の事件は、裁判官の合議体でこれを取り扱う。但し、法廷ですべき審理及び裁判を除いて、その他の事項につき他の法律に特別の定があるときは、その定に従う。

四 その他他の法律において合議体で審理及び裁判をすべきものと定められた事件

○3 前項の合議体の裁判官の員数は、三人とし、そのうち一人を裁判長とする。

第三十一条 (支部・出張所) 最高裁判所は、地方裁判所の事務の一部を取り扱わせるため、その地方裁判所の管轄区域内に、地方裁判所の支部又は出張所を設けることができる。

○2 最高裁判所は、地方裁判所の支部に勤務する裁判官を定める。

下級裁判所の設立及び管轄区域に関する法律

第一条 別表第一表の通り高等裁判所を、別表第二表の通り地方裁判所を、別表第三表の通り家庭裁判所を、別表第四表の通り簡易裁判所をそれぞれ設立する。

第二条 別表第五表の通り各高等裁判所、地方裁判所、家庭裁判所及び簡易裁判所の管轄区域を定める。

第三条 裁判所の管轄区域の基準となつた行政区画に変更があつたときは、裁判所の管轄区域も、これに伴つて変更される。ただし、新たに行政区画が設けられたとき、又は一の裁判所の所在地の属する行政区画が他の裁判所の管轄区域に属する行政区画に編入されたときは、従前の管轄区域による。

○2 裁判所の管轄区域の基準となつた郡、市町村内の町又は字その他の区域に変更があつたときも、また前項と同様とする。

第四条 前二条の規定により管轄裁判所が定まらない地域がある場合には、この法律の改正によりその地域を管轄する裁判所が定められるまでは、最高裁判所がその裁判所を定める。

(判例検討)

事件を回付する決定に対する抗告棄却決定に対する特別抗告事件

昭和四四年(し)第三号

同年三月二五日第三小法廷決定

抗告申立人 H 外五名

被告人 Y

主 文

本件抗告を棄却する。

理 由

本件抗告の趣意は、別紙特別抗告状記載のとおりである。

抗告趣意第一点は、判例違反を主張する。すなわち、原決定は、地方裁判所の支部に係属した事件を本庁または他の支部に係属させること(以下事件の回付という。)は、地方裁判所及び家庭裁判所支部設置規則(昭和二二年最高裁判所規則第一四号、以下地方裁判所等支部設置規則という。)並びに裁判官会議の定めるところに従つてなすべきものであつて、地方裁判所内容の事務の分配にすぎず、訴訟法上の管轄に関するものではなく、また、これに準じて処理すべきものでもないから、訴訟法上の抗告の対象となし得ないと判断しているが、右判断は、事件の回付に対しても訴訟法上の抗告をなし得るとする判例(昭和四二年(ラ)第三六四号、第三六五号同年七月一四日東京高等裁判所決定、民集二〇巻四号三二九頁)に違反する、というのである。

ところで、憲法七七条一項、裁判所法三一条一項に基づき、最高裁判所は、裁判所の司法事務処理に関する事項として、地方裁判所等支部設置規則を制定し、地方裁判所の支部の名称、権限、管轄区域を定めている。右規則により設けられた地方裁判所の支部は、地方裁判所の事務の一部を取り扱うため、本庁の所在地を離れて設けられたものであるが、原則として、独立の司法行政権を与えられていないから、それ自体司法行政官庁ではなく、司法行政官庁としての本庁に包摂され、外部に対しては本庁と一体をなすものであつて、支部の権限、管轄区域は、裁判所内部の事務分配の基準にすぎないものと解すべきである。

所論引用の判例は、「地方裁判所の本庁と支部又は支部相互間に上記規則によつて、それぞれ管轄区域が定められた所以は、本来国民に対する司法行政上の便益供与に出たものにすぎないとしても、確立された管轄区域によつて、一たん保護されるに至つた国民の権利は、単なる事務取扱上の措置を理由に任意に剥奪されうるがごときものと謂うを得ない。」という。しかし、訴訟法上の管轄は、国民の基本的権利に直接関係あるものとして、本来法律で定められるべき事項であり、現にこの点については、下級裁判所の設立及び管轄区域に関する法律(昭和二二年法律第六三号)によつて規定されているのである。管轄によつて保護される国民の法的利益は、右の法律をもつて限度とされていることは極めて明らかであり、国民の便宜供与の目的に出るとはいいながら、裁判所の司法事務処理に関する事項として制定された地方裁判所等支部設置規則による管轄区域の定めは、裁判所内部の事務分配の定めであるにすぎず、この定めによつて、国民が何らかの利益を受けるとしても、それは、単に国民の事実上の利益にとどまり、法的利益にまで高められたものとはいえない。したがつて、地方裁判所の本庁と支部間あるいは支部相互間の事件の回付は、訴訟法上の手続ではないから、回付の措置に対しては、当事者は、訴訟法に準拠する不服申立はできないものといわなければならない。

以上の次第で、所論引用の判例は、これを変更し、原判断を維持するのが相当であると認められるから、所論は、結局、理由なきに帰する。

つぎに、抗告趣意第二点は、事件の回付の性質につき、原決定の法令解釈は誤りであり、所論引用の判例に違反することを前提として、原決定の憲法三二条、三七条一項違反を主張する。しかし、事件回付の性質に関する原決定の法令解釈は正当であるから、所論違憲の主張は前提を欠き、採用することができない。

よつて、刑訴法四三四条、四二六条一項により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。