質問
小学校教諭をしています。授業中や給食指導などの際に、静かにできない生徒を叱ることがありますが、指導したら生徒が泣き出したことがありました。体罰は加えておりませんが、翌日、保護者が学校に来て、校長に謝罪を求め抗議することがありました。校長先生は、私の指導は適切であったので謝罪できないが、今後は生徒が泣き出すようなことが無いように注意すると回答してくれました。しかし保護者が納得せず、何度も学校に来て謝罪を求めてきます。私はどのように対応すれば良いでしょうか、店舗におけるカスタマーハラスメント対策と併せて対応方法を教えてください。
回答
1、校長先生の対応は適切なものであったと考えられます。あなたとすれば、保護者への対応は先ずは校長先生に任せておくべきです。それでも、繰り返し保護者が謝罪を必要に求めたり、要求がエスカレートすることも考えられますから、その場合の、法律上の問題について説明します。
公立学校でも、私立学校でも、店舗でも、それぞれの法的関係に基づいて、教員や店員には生徒指導や店舗対応の権限があります。教員の場合は学校教育法11条で懲戒権が認められています。法令上、または契約上の地位に基づいて穏当な対応をしていたにも関わらず、相手が過剰にクレーム反応をして、法的または道義的責任を主張して繰り返し謝罪を求めてくる場合は、当該行為が、当該クレームをしてるモンスターペアレンツやカスタマーハラスメント側において、刑事事件もしくは民事事件として法的責任を生じる場合があります。
2、刑事事件としては、権利行使の相当性を逸脱した場合の脅迫罪や強要罪があり、学校や店舗の業務がストップしてしまうなど具体的に支障を来した場合は威力業務妨害罪が成立する可能性があります。それぞれの成立要件や可否について判例を交えて解説致します。弁護士は被害届の提出や刑事告訴や刑事告発の代理人を務めることができます。教員側の刑事責任を生じ得る場合についても判例紹介致します。
3、民事事件としては、両当事者は相互に、契約上の債務不履行違反としての民法415条の損害賠償責任や、契約に基づかない民法709条の不法行為に基づく損害賠償責任を負う可能性があります。弁護士は、損害賠償請求の代理人として、賠償請求交渉や損害賠償請求訴訟を提起することができます。
4、刑事事件についても民事事件についても、法的手続きにおいて権利義務の存否を法的に確定させていくためには、事実関係の保存が何より大事なことになります。裁判所が事実認定するための物証が必要です。音声や映像の資料をなるべく多く保存することが必要です。正式な法律事件にする前に、代理人弁護士が話し合いに同席して、穏当な話し合いができないかどうか、調整することもあります。代理人弁護士は、これ以上揉めるようだと、刑事民事の法律事件として取り扱わざるを得ないということを穏当に丁寧に説明することができます。従来より定期的に相談している場合は、継続的な顧問契約を締結して、顧問弁護士として話し合いに同席する方法もあります。お困りの場合は、経験のある弁護士事務所にご相談なさり、一緒に考えて対応されると良いでしょう。
解説
1、 教員の懲戒権
学校教育法11条では、教員および校長の懲戒権限が定められています。但し書きで体罰は除外されています。これは、行き過ぎた体罰があった過去の反省に基づき、懲戒内容は体罰以外のものであると明確化するものです。
学校教育法11条 校長及び教員は、教育上必要があると認めるときは、文部科学大臣の定めるところにより、児童、生徒及び学生に懲戒を加えることができる。ただし、体罰を加えることはできない。
学校教育法施行規則26条
1項 校長及び教員が児童等に懲戒を加えるに当つては、児童等の心身の発達に応ずる等教育上必要な配慮をしなければならない。
2項 懲戒のうち、退学、停学及び訓告の処分は、校長(大学にあつては、学長の委任を受けた学部長を含む。)が行う。
3項 前項の退学は、市町村立の小学校、中学校(学校教育法第七十一条の規定により高等学校における教育と一貫した教育を施すもの(以下「併設型中学校」という。)を除く。)若しくは義務教育学校又は公立の特別支援学校に在学する学齢児童又は学齢生徒を除き、次の各号のいずれかに該当する児童等に対して行うことができる。
一号 性行不良で改善の見込がないと認められる者
二号 学力劣等で成業の見込がないと認められる者
三号 正当の理由がなくて出席常でない者
四号 学校の秩序を乱し、その他学生又は生徒としての本分に反した者
4項 第二項の停学は、学齢児童又は学齢生徒に対しては、行うことができない。
5項 学長は、学生に対する第2項の退学、停学及び訓告の処分の手続を定めなければならない。
平成19年2月5日通知「問題行動を起こす児童生徒に対する指導について(通知)」(18文科初第1019号)
https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/seitoshidou/07020609.htm
平成25年3月13日通知「体罰の禁止及び児童生徒理解に基づく指導の徹底について(通知)」(24文科初第1269号)
https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/seitoshidou/1331907.htm
他方、日常の生活指導や授業内容に不随して、生徒指導の一貫として、授業態度などを指導することも当然に認められています。これは懲戒処分に至る前の教員としての指導行為です。指導については、懲戒に関する学校教育法11条のような明文の根拠規定はありませんが、学校教育法37条12項「教諭は、児童の教育をつかさどる。」という条文で包括的に指導権限が与えられています。指導の内容については、文科省通知などで考え方が示されています。
また、生徒の暴力行為から自分自身の身を守るためにやむをえず有形力の行使をした正当防衛行為などは体罰から除外され得ることになります。正当防衛や緊急避難は、学校の内外を問わず、刑事民事の違法性を否定し得る一般法上の違法性阻却事由です。
なお、正当防衛は、急迫不正の侵害に対し、自己又は他人の権利又は法律上保護される利益を守るため止むを得ずにした行為で、緊急避難とは、自己又は他人の生命、身体、自由又は財産に対する現在の危難を避けるため、やむを得ずにした行為であり、避けようとした害の程度を超えないことが必要です。
指導には、「文書指導」というものもあり、反省文を書かせたり、誓約書を書かせたり、事実経過や今後の改善策を文書で書かせたりすることが含まれます。
文部科学省通知から主なものを抜粋します。
・児童生徒に対する有形力(目に見える物理的な力)の行使により行われた懲戒は、その一切が体罰として許されないというものではなく、裁判例においても、「いやしくも有形力の行使と見られる外形をもった行為は学校教育法上の懲戒行為としては一切許容されないとすることは、本来学校教育法の予想するところではない」としたもの(昭和56年4月1日東京高裁判決)、「生徒の心身の発達に応じて慎重な教育上の配慮のもとに行うべきであり、このような配慮のもとに行われる限りにおいては、状況に応じ一定の限度内で懲戒のための有形力の行使が許容される」としたもの(昭和60年2月22日浦和地裁判決)などがある。
・有形力の行使以外の方法により行われた懲戒については、例えば、以下のような行為は、児童生徒に肉体的苦痛を与えるものでない限り、通常体罰には当たらない。
○放課後等に教室に残留させる(用便のためにも室外に出ることを許さない、又は食事時間を過ぎても長く留め置く等肉体的苦痛を与えるものは体罰に当たる)。
○授業中、教室内に起立させる。
○学習課題や清掃活動を課す。
○学校当番を多く割り当てる。
○立ち歩きの多い児童生徒を叱って席につかせる。
・児童生徒を教室外に退去させる等の措置について
(1)単に授業に遅刻したこと、授業中学習を怠けたこと等を理由として、児童生徒を教室に入れず又は教室から退去させ、指導を行わないままに放置することは、義務教育における懲戒の手段としては許されない。
(2)他方、授業中、児童生徒を教室内に入れず又は教室から退去させる場合であっても、当該授業の間、その児童生徒のために当該授業に代わる指導が別途行われるのであれば、懲戒の手段としてこれを行うことは差し支えない。
(3)また、児童生徒が学習を怠り、喧騒その他の行為により他の児童生徒の学習を妨げるような場合には、他の児童生徒の学習上の妨害を排除し教室内の秩序を維持するため、必要な間、やむを得ず教室外に退去させることは懲戒に当たらず、教育上必要な措置として差し支えない。
(4)さらに、近年児童生徒の間に急速に普及している携帯電話を児童生徒が学校に持ち込み、授業中にメール等を行い、学校の教育活動全体に悪影響を及ぼすような場合、保護者等と連携を図り、一時的にこれを預かり置くことは、教育上必要な措置として差し支えない。
・体罰により正常な倫理観を養うことはできず、むしろ児童生徒に力による解決への志向を助長させ、いじめや暴力行為などの連鎖を生む恐れがある。もとより教員等は 指導に当たり、児童生徒一人一人をよく理解し、適切な信頼関係を築くことが重要であり、このために日頃から自らの指導の在り方を見直し、指導力の向上に取り組むことが必要である。懲戒が必要と認める状況においても、決して体罰によることなく、児童生徒の規範意識や社会性の育成を図るよう、適切に懲戒を行い、粘り強く指導することが必要である。
ここでいう懲戒とは、学校教育法施行規則に定める退学(公立義務教育諸学校に在籍する学齢児童生徒を除く。)、停学(義務教育諸学校に在籍する学齢児童生徒を除く。)、訓告のほか、児童生徒に肉体的苦痛を与えるものでない限り、通常、懲戒権の範囲内と判断されると考えられる行為として、注意、叱責、居残り、別室指導、起立、宿題、清掃、学校当番の割当て、文書指導などがある。
・教員等が児童生徒に対して行った懲戒行為が体罰に当たるかどうかは、当該児童生徒の年齢、健康、心身の発達状況、当該行為が行われた場所的及び時間的環境、懲戒の態様等の諸条件を総合的に考え、個々の事案ごとに判断する必要がある。この際、単に、懲戒行為をした教員等や、懲戒行為を受けた児童生徒・保護者の主観のみにより判断するのではなく、諸条件を客観的に考慮して判断すべきである。
・その懲戒の内容が身体的性質のもの、すなわち、身体に対する侵害を内容とするもの(殴る、蹴る等)、児童生徒に肉体的苦痛を与えるようなもの(正座・直立等特定の姿勢を長時間にわたって保持させる等)に当たると判断された場合は、体罰に該当する。
・児童生徒の暴力行為等に対しては、毅然とした姿勢で教職員一体となって対応し、児童生徒が安心して学べる環境を確保することが必要である。
・児童生徒から教員等に対する暴力行為に対して、教員等が防衛のためにやむを得ずした有形力の行使は、もとより教育上の措置たる懲戒行為として行われたものではなく、これにより身体への侵害又は肉体的苦痛を与えた場合は体罰には該当しない。また、他の児童生徒に被害を及ぼすような暴力行為に対して、これを制止したり、目前の危険を回避したりするためにやむを得ずした有形力の行使についても、同様に体罰に当たらない。これらの行為については、正当防衛又は正当行為等として刑事上又は民事上の責めを免れうる。
この様に、学校教育法11条の懲戒権や学校教育法37条12項の教員教諭の指導権限により、教職員には生徒を注意指導する権限が与えられていますが、これが適法相当な範囲に留まっているか、権限を逸脱して違法なものかどうかは、教員側も生徒側も主観的な印象だけで決めることはできない問題です。
教員の指導が相当であったかそうでないかは、第一義的には、学校教育法37条4項「校長は、校務をつかさどり、所属職員を監督する。」に基づいて、学校全般の監督をする校長がその適否を判断することになります。しかし、校長の判断に保護者生徒が納得しない場合は、証拠や主張を整理して、法的責任の有無については最終的に、刑事裁判や民事裁判の過程で裁判所が決めることになります。当事者の意見が対立している場合、法的責任の存否については、保護者と学校側のクレーム要求の席上で決定する問題では無いのです。
2、刑事事件
(1)教員の刑事責任
教員の体罰に関する判例がありますのでご紹介致します。
東京高裁昭和56年4月1日暴行被告事件
『被告人が同人に対してなした言動としては、その場で約一、二分間にわたり、「今言つたことをもう一度先生に言つてごらん。」「言つていいことと悪いことがある。二年生になつたんだから、そんなことを判断できないのではいけない。」「そんなへらへらした気持ちでは三年生に対して申しわけがない。中堅学年としてもつとしやきつとしなければいけない。」等と言葉で注意を与えながら、同人の前額部付近を平手で一回押すようにたたいたほか、右手の拳を軽く握り、手の甲を上にし、もしくは小指側を下にして自分の肩あたりまで水平に上げ、そのまま拳を握り下ろして同人の頭部をこつこつと数回たたいたという限度において、これを認定するのが相当であるといわなければならない。』
『そこでまず、教師が学校教育法に基づき生徒に対して加える事実行為としての懲戒行為の法的な性質を考えてみると、右懲戒は、生徒の人間的成長を助けるために教育上の必要からなされる教育的処分と目すべきもので、教師の生徒に対する生活指導の手段の一つとして認められた教育的権能と解すべきものである。そして学校教育における生活指導上、生徒の非行、その他間違つた、ないしは不謹慎な言動等を正すために、通常教師によつて採られるべき原則的な懲戒の方法・形態としては、口頭による説諭・訓戒・叱責が最も適当で、かつ、有効なやり方であることはいうまでもないところであつて、有形力の行使は、そのやり方次第では往往にして、生徒の人間としての尊厳を損ない、精神的屈辱感を与え、ないしは、いたずらに反抗心だけを募らせ、自省作用による自発的人間形成の機会を奪うことになる虞れもあるので、教育上の懲戒の手段としては適切でない場合が多く、必要最小限度にとどめることが望ましいといわなければならない。しかしながら、教師が生徒を励ましたり、注意したりする時に肩や背中などを軽くたたく程度の身体的接触(スキンシップ)による方法が相互の親近感ないしは一体感を醸成させる効果をもたらすのと同様に、生徒の好ましからざる行状についてたしなめたり、警告したり、叱責したりする時に、単なる身体的接触よりもやや強度の外的刺激(有形力の行使)を生徒の身体に与えることが、注意事項のゆるがせにできない重大さを生徒に強く意識させると共に、教師の生活指導における毅然たる姿勢・考え方ないしは教育的熱意を相手方に感得させることになつて、教育上肝要な注意喚起行為ないしは覚醒行為として機能し、効果があることも明らかであるから、教育作用をしてその本来の機能と効果を教育の場で十分に発揮させるためには、懲戒の方法・形態としては単なる口頭の説教のみにとどまることなく、そのような方法・形態の懲戒によるだけでは微温的に過ぎて感銘力に欠け、生徒に訴える力に乏しいと認められる時は、教師は必要に応じ生徒に対し一定の限度内で有形力を行使することも許されてよい場合があることを認めるのでなければ、教育内容はいたずらに硬直化し、血の通わない形式的なものに堕して、実効的な生きた教育活動が阻害され、ないしは不可能になる虞れがあることも、これまた否定することができないのであるから、いやしくも有形力の行使と見られる外形をもつた行為は学校教育上の懲戒行為としては一切許容されないとすることは、本来学校教育法の予想するところではないといわなければならない。』
『事実行為としての懲戒はその方法・態様が多岐にわたり、一義的にその許容限度を律することは困難であるが、一般的・抽象的にいえば、学校教育法の禁止する体罰とは要するに、懲戒権の行使として相当と認められる範囲を越えて有形力を行使して生徒の身体を侵害し、あるいは生徒に対して肉体的苦痛を与えることをいうものと解すべきであつて、有形力の内容、程度が体罰の範ちゆうに入るまでに至つた場合、それが法的に許されないことはいうまでもないところであるから、教師としては懲戒を加えるにあたつて、生徒の心身の発達に応ずる等、相当性の限界を越えないように教育上必要な配慮をしなければならないことは当然である。そして裁判所が教師の生徒に対する有形力の行使が懲戒権の行使として相当と認められる範囲内のものであるかどうかを判断するにあたつては、教育基本法、学校教育法その他の関係諸法令にうかがわれる基本的な教育原理と教育指針を念頭に置き、更に生徒の年齢、性別、性格、成育過程、身体的状況、非行等の内容、懲戒の趣旨、有形力行使の態様・程度、教育的効果、身体的侵害の大小・結果等を総合して、社会通念に則り、結局は各事例ごとに相当性の有無を具体的・個別的に判定するほかはないものといわざるをえない。』
この判例では、教師が有形力の行使をしたことが事実認定されていますが、「行為の程度もいわば身体的説諭・訓戒・叱責として、口頭によるそれと同一視してよい程度の軽微な身体的侵害にとどまっているものと認められる」として、懲戒権の行使としての相当性の範囲を逸脱してAの身体に不当・不必要な害悪を加え、又は同人に肉体的苦痛を与え、体罰といえる程度にまで達していたとはいえず、同人としても受任すべき限度内の侵害行為であったといわなければならない」として、暴行罪の成立を否定しています。友人同士や知人同士の暴行事件と、生徒と教諭の間の暴行事件では、異なる判断となる場合があります。
この判例は昭和56年に判断されたもので、社会全般の体罰に対する規範意識も変化していますので、平成・令和へと移行した現代において判断基準が全く同じであると考えることはできないかもしれませんが、有形力の行使があっても違法とならない場合があるということは現代に至るまで変わっていないと考えられます。
(2)保護者側・顧客側の刑事責任
保護者側・顧客側のクレーム行為は、暴行罪、脅迫罪、傷害罪、強要罪、名誉毀損罪、侮辱罪、威力業務妨害罪、不退去罪などの刑法違反や、ストーカー行為等の規制等に関する法律違反や、軽犯罪法違反に問われる可能性があります。
強要罪は、暴行や脅迫によって相手を怖がらせたり威圧したりして、本来その人にする義務のない行為を無理にさせたり、その人が持っている権利の行使を妨げたりする罪です。例えば、謝罪を強いること(クレーム要求行為)、辞職を迫ること、被害申告をやめさせることなどが典型例です。これは、相手の意思に反して無理やり行動させる点に問題があり、個人の意思決定の自由を保護するために処罰されているものです。歴史上繰り返されてきた法益侵害を刑法で禁止しているものです。刑法223条1項「生命、身体、自由、名誉若しくは財産に対し害を加える旨を告知して脅迫し、又は暴行を用いて、人に義務のないことを行わせ、又は権利の行使を妨害した者は、三年以下の拘禁刑に処する。」は、このような行為を処罰対象として明文で定めています。教員と保護者の関係ではありませんが、強要罪の判例をご紹介します。
名古屋地裁平成30年6月20日強要被告事件判決(事実認定部分)
『被告人両名は,平成30年1月17日当時のa応援団団長であったA及び同応援団事務局長でb新聞を販売する会社の役員であったBに対し,Aがcドームに不正入場したなどとして因縁を付け,A及びBにそれぞれ同応援団団長及び同応援団事務局長を辞任させようと考え,共謀の上,
1 同日午後5時頃から同日午後7時頃までの間,名古屋市甲区乙丙丁目丁番戊号のd乙店において,A及びBに対し,被告人Cが「仮に球団がいいって言おうが,子供券がその日にあった以上…子供券を大人券に変えて入るべき。そういう律することができなければ上に立つ者として,資格はないし,まして,応援団をやる資格はない。絶対にない」,「そんな幹部,執行部たちは辞めた方がいいよ。あんた,仮にもb新聞売っとるんだぞ。俺は,b新聞とは仲ええけども,役員の人とも仲ええわ。この話したわね。実際とんでもないことになる。特にあんたのとこ,仕事で自分の身銭にかかわっとるのに,ましてや週刊誌じゃないよ。新聞だよ」,「あんた,新聞売る資格もないぞ。b新聞言ったる。悪いことも悪いと言えん人間に新聞売らせんなって言って」,「50や100はすぐ解約したる」,「あんたこそ辞めるべきだと思うよ,俺は」などと言い,
2 Bが退店した後の同日午後7時頃から同日午後10時49分頃までの間,同店において,Aに対し,被告人Cが「俺は,別に表の人間でもやくざやっとるわけでもない。裏の人間でもない。闇の人間なんだ」,「あんた辞めた方がええ。あんたがガンだ。あんたが辞めるべきなんだ」,「あんたが辞めるまで闘ったるで。一番妨害強いぞ」などと言い,被告人Dが「俺は,ドーム始まって引きずり下ろされても,責任持てんよ」,「長であるあなたが,ファンとでなく,その球団体面ばっかり気にして,ファンじゃなくてそっち側よりになっちゃって,そんなことをするんであれば,だったら,俺たちも,本当にあのeの暴挙なんて,いつでも起こるぜっていうか,あれよりもっとひどいことが起こるぜ」などと言うと,被告人Cが続けて「cドームで起こしたろうか」,「大恥かきゃいいがや。あんたは,所詮,30人をまとめてるだけ。こいつは千人をまとめてる」などと言い,さらに被告人Cが「興信所使ってやって調べるよ」などと言い,
もしその要求に応じなければ,A及びBの自由,名誉及び財産に害を加えかねない旨を告知して脅迫し,よって,同月20日,A及びBに,それぞれ同応援団団長及び同応援団事務局長を辞任させ,もってA及びBに義務のないことを行わせたものである。』
この事件は、被害者に因縁をつけて、2時間または4時間にわたり、執拗にプロ野球の応援団団長及び応援団事務局長を辞任するよう迫った事案でした。自らの意に沿わない者を正当な手段によらず排除しようとしたものです。保護者において、教職員の生徒指導や学校の運営体制に意見があるとしても、それを主張する場合は、手紙や、口頭であっても穏当に述べて改善を求めるのが相当であると言えますが、その範囲を逸脱して長時間にわたり繰り返し謝罪を要求するなどのクレーム行為があれば、強要罪の罪責に問われる可能性があるということです。
更に、クレーム行為が繰り返されることにより、この対応をすることで、学校や店舗の運営に支障を来した場合には、威力業務妨害罪の成否も問題となり得ます。クレーム対応をすることにより学校や店舗の通常業務ができなくなることが法益侵害と評価されます。通常は、クレーム対応の時間や回数が多い場合に刑事事件化されますが、例外的に動画配信によって店舗の信用が棄損されたと被害者側が感じている場合などには処分が重くなる場合があります。
大阪地裁令和3年3月1日威力業務妨害被告事件判決
『 (罪となるべき事実)
被告人は,大阪市〈以下省略〉所在の洋服店「a」を経営するAの業務を妨害しようと考え,分離前の相被告人Bと共謀の上,令和2年5月1日午後4時59分頃から午後5時4分頃までの間,同区〈以下省略〉先路上において,Aに対し,動画撮影状態にした携帯電話機を差し向けてその様子を動画撮影しながら,上記店舗で購入したTシャツ1枚が偽ブランド品であるとの虚偽の事実に基づいて上記Tシャツの返品を要求し,「偽物でしょ。」「日本人だまして楽しいですか。」などと言い,Aに被告人及びBへの無用の対応を余儀なくさせてその正常な業務に支障を生じさせ,もって威力を用いてAの業務を妨害したものである。』
『(量刑の理由)
本件は,動画投稿サイトの投稿者である被告人らが,動画撮影の一環として,被害店舗で購入した商品が偽ブランド品であると因縁をつけて返品を要求し,併せて対応する被害者に罵声を浴びせるなどし,被害者が正当な店舗運営業務に従事することを妨げた事案である。
業務が妨害されたのは約5分間と長時間ではないが,被害者は,いわれのない因縁を付けられ,業務を妨害されるとともに困惑や怒りを感じ,本件犯行時に撮影した動画が拡散されたことによって被害店舗の信用が損なわれたと感じて厳罰を希望している。また,被告人らは,視聴者の興味を惹くようなトラブルが起こることを期待してあえて因縁を付け,挑発的な言動に出たのであり,本件は,計画的かつ確信的な犯行である。
本件犯行を主導したのは共犯者であるが,被告人も,売名と収益を目的に積極的に加担し,犯行後には共犯者が本件犯行時に撮影した動画を編集して投稿しているのであって,相応の刑事責任を負うことは免れない。
一方で,被告人には,本件犯行を認めて反省し,謝罪動画や謝罪文を作成して被害者への謝罪の念を表していること,みるべき前科はなく,更生して二度と他人に迷惑をかけないことを誓っていることなど,酌むべき事情もあることから,刑の執行を猶予することとして,主文のとおり刑を定めた。』
本件は、店舗に対して偽ブランド品であるとのクレームを付けて返品対応を要求した事件で、正当な店舗運営業務が妨げられ、クレーム対応に要した時間は約5分間でしたが、店員に対して罵声を浴びせている場面を動画撮影して動画配信したことにより店舗の信用が損なわれてしまった事案でした。
また、正当な権利行使であっても、金銭を要求する権利行使の方法が、社会通念上一般に忍容すべき相当な範囲を逸脱すれば、恐喝罪が成立する可能性も生じます。契約上認められる正当な主張であっても、主張方法が相当性を欠けば刑事罰の対象となり得る場合があるということです。
最高裁昭和30年10月14日判決
『他人に対して権利を有する者が、その権利を実行することは、その権利の範囲内であり且つその方法が社会通念上一般に忍容すべきものと認められる程度を超えない限り、何等違法の問題を生じないけれども、右の範囲程度を逸脱するときは違法となり、恐喝罪の成立することがあるものと解するを相当とする(昭和二六年(れ)二四八二号同二七年五月二〇日第三小法廷判決参照)。本件において、被告人等が所論債権取立のために執った手段は、原判決の確定するところによれば、若し債務者松川正一において被告人等の要求に応じないときは、同人の身体に危害を加えるような態度を示し、且同人に対し被告人及川隆司及び同内田信吉等は「俺達の顔を立てろ」等と申向け松川正一をして若しその要求に応じない時は自己の身体に危害を加えられるかも知れないと畏怖せしめたというのであるから、もとより、権利行使の手段として社会通念上、一般に忍容すべきものと認められる程度を逸脱した手段であることは論なく、従って、原判決が右の手段により松川正一をして金六万円を交付せしめた被告人等の行為に対し、被告人遠藤寛の松川正一に対する債権額のいかんにかかわらず、右金六万円の全額について恐喝罪の成立をみとめたのは正当であって、所論を採用することはできない。』
このように、学校に対して保護者がクレームする場合でも、店舗に対して顧客がクレームする場合でも、主張する内容に合理性を欠いている場合や、合理性のある主張内容であっても主張方法が相当性を逸脱している場合は、保護者や顧客側にも、刑事責任を生じる場合があるということを認識したうえで対応することが大切です。相当な主張方法を逸脱しないための方法として、「内容証明郵便も含めて、手紙による連絡を行う」「弁護士などの第三者を介在させる」「裁判所の民事調停を申し立てる(調停委員が介在する)」「会話の録音やビデオ録画により事実関係を保存する」などの方法が考えられます。
3、民事事件
(1)教師の損害賠償責任
浦和地裁昭和60年2月22日判決
『 一 請求原因(当事者)の事実は当事者間に争いがない。
二 そこで、まず、請求原因(一)(U教諭の行為)について判断するに、U教諭が昭和五七年七月、K中二年一組の教室において、原告J及びその他数人の生徒の頭を出席簿で叩いたことは、当事者間に争いがなく、〈証拠〉を総合すると、U教諭が原告Jの頭部を出席簿で叩いた経緯は次のとおりであることが認められる。
すなわち、昭和四七年七月当時、K中全校生徒に対する日課表及び週時程表によれば、同校生徒に対する朝の日課及び週時程は、月曜日を除き、火曜日から土曜日までは共通であつて、午前八時一〇分から同一五分まで登校(ここまでは月曜日も同じ。)、八時一五分から同三〇分まで清掃、八時三〇分から同四〇分まで朝自習(この間、職員の打合せのための集会がある。)、八時四〇分から同四五分まで各教室での朝の会、その五分後の八時五〇分から九時四〇分までは一時限と定められていたこと、右朝自習は、教師らが職員室で朝の打合せのため会合を開いている間、生徒らに自学自習の態度を身につけさせるため、通常一〇分程度でできる復習問題を出題して解答させるものであつたこと、当時K中では、とかく朝自習や授業開始時にチャイムが鳴つても着席しない生徒がかなりいたため、規律正しい落着いた生徒の育成を期して、同年七月から生活目標として「チャイムとともに着席しよう」をスローガンに掲げ、授業の開始時のみならず時間中もみだりに離席してはならないことを生徒に徹底させることにし、U教諭もこれを口頭で生徒に注意したほか、右のスローガンを紙に書いて教室内に貼り一層の徹底を図つていたこと、同月九日(金曜日)も前記日課表のとおり各教室で朝自習が行われたが、その間、U教諭は職員室で、朝自習の見回り役であつたS教諭(以下「S教諭」という。)から、二年二組は朝自習の態勢に入つていたが、U教諭の二年一組は出歩いている生徒もいたとの報告を受けたこと、朝自習の答案用紙は教師が教室へ行つて答を合せてから集めるので、それまでの間生徒は席を立つ必要はないと考えていたU教諭は、職員室での会合が終了した同日午前八時四〇分を少し過ぎたころ、二年一組の教室(〇市〇町所在)へ赴いたところ、廊下側から一列目、最後部の原告Jの席が空席で、同原告だけが自席から四つほど前の席の男子生徒の傍に立つて話をしているのが見えたこと、そこでU教諭は教室の後部出入口の戸口付近に立つて原告Jの方を向いて無言の注意を与えていたが、同原告はなかなか自席に戻らなかつたこと、原告Jは当時一三歳、身長一六〇センチメートル余、体重五〇キログラム余の健康な男子で、少年野球チームの選手をしていたが、以前から落着きがなく、授業が始まつてもなかなか席に着かなかつたり、授業中にノートをとらなかつたりする受講態度があまりよくない生徒であり、いつもはU教諭の姿を見たときはすぐに自席に戻つていたが、この日はなかなか自席に戻らず、少し経つてから、自分の話が終つたらしくU教諭の立つているすぐそばの自席に戻ってきたこと、そこでU教諭は、七月の生活目標に定める規律に違反しながら素直に改悛の態度を示さない原告Jに対し、強く注意を促す意味で、片手に持つていた縦5.5センチメートル、横二〇センチメートル、重さ約二八二グラムのボール紙製の出席簿で、立つている同原告の頭を一回叩いたこと、しかしさほど強く叩いたわけではなく、原告Jもこれによつて気持が悪くなつたり体調を崩したりしたことは全くなかつたこと、U教諭が原告Jの頭を叩いた際、同原告が、「そんなにぶつなよ。立つていたのは俺だけではない。」という趣旨のことを言つたので(同原告の右発言の事実は争いがない。)、U教諭は右の時間中席を立つたことを自認した他の五人の生徒に対しても、注意を促す意味で同様に出席簿で一回ずつ頭を叩いたこと、以上の事実を認めることができ、右認定に反する〈証拠〉はいずれも伝聞や推測を内容とし、前掲各証拠に照らして措信し難く、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。
ところで、学校教育における懲戒の方法としての有形力の行使は、そのやり方如何では往々にして生徒に屈辱感を与え、いたずらに反抗心を募らせ、所期の教育効果を挙げ得ない場合もあるので、生徒の心身の発達に応じて慎重な教育上の配慮のもとに行うべきであり、このような配慮のもとに行われる限りにおいては、状況に応じ一定の限度内で懲戒のための有形力の行使が許容されるものと解するのが相当である。学校教育法一一条、同施行規則一三条の規定も右の限度における有形力の行使をすべて否定する趣旨ではないと考える。
そこで、本件について考えるに、U教諭が原告Jに対して前記行為に及んだ経緯は前記認定のとおりであるところ、右認定の経緯や原告宗彦の反則の程度、同原告の年令、健康状態等を総合して判断するときは、U教諭の右行為は口頭による注意に匹敵する行為であつて、教師の懲戒権の許容限度内の適法行為であるというべきである。』
『三 次に、請求原因(二)(O教諭の行為)について判断するに、O教諭が昭和五七年七月一六日午後、K中の美術室において、同校の生徒の保護者が見ている前で、黒板に「番長K」、「副番長I」、「中番長K」、「裏番長T」と書いたことは当事者間に争いがなく、〈証拠〉を総合すると、O教諭が前記のとおり黒板に生徒の氏名を書くに至つた経緯は次のとおりであることが認められる。
すなわち、K中では昭和五六年ころ三年生の一部につつばりグループ(いわゆる番長グループ)が形成されていて、一般の生徒と違つた乱れた服装をしたり、教師に反抗的態度をとつたりしていたが、同年一二月ころ、三年生から二年生グループの引き継ぎがなされ、新たに当時二年生の訴外Kが番長に、訴外Kが副番長に選ばれたこと、そして、翌昭和五七年一月と二月には、K中とO市立M中学校の各つつばりグループがO市内の公園等で対決したりしていたが、両校教師が早期に察知して解散させ、事なきを得ていたこと、次いで、同年七月六日、三年に進級していたKとKは、二年生につつぱりグループの引き継ぎをすることを考え、原告Jを含む二年生一七名をK中の体育館裏に呼び出して、「つつぱるか、つつぱらないか。」、「ひつぱつていく奴は誰だ。」などと言つてリーダーの選出を指示し、番長に訴外Kを決めた後、集まつた二年生の互選により副番長に原告J、中番長に訴外K、裏番長に訴外Tがそれぞれ選出されたこと、そしてさらに、Kらはカンパを指示し、その場で五〇〇円ずつ集め、残り数万円は同月二四、五日ころまでに集めさせることにしたこと、学校側は、同月一〇日ころ、生徒の右のような動き(但し、カンパの点は除く。)を知るに及び、大事に至らぬ前に早期に関係生徒の個別指導を行う方針を決定し、各生徒の担任がその指導に当たることになつたこと、しかし、U教諭と原告Jとは当時必ずしもうまくいつていなかつたので、代わりにS教諭がこれにあたることになり、同月一六日午前、S教諭は原告Jを校内の図書室に呼んで話をしたところ、同原告はつつぱりグループの番長等の名前や自分が副番長になつたことを打ち明け、S教諭の説得に応じて、K、Kの両名に対し、つつぱるのを止める旨明言することを誓つたこと、しかし、学校側では原告Jらが直接Kらにその旨を言いに行くのは危険であると考え、教師のいる所でその話をさせることにし、同日昼ころ、校内応接室にK、Kのほか二年生のK、K、T及び原告Jの六名を呼び集めたこと、そこで原告Jは教師一〇名のいる前でKとKに対し、つつぱるのを止める旨を明言し、これに対しKらは、「つつぱるのを止める以上、学校の規則を守つていくのだぞ。少しでも乱れた服装をしたら許さないぞ。」と言つたこと、また、学年主任のO教諭はKとKに対し、今後このようなことで原告Jらとかかわりを持たないように注意して解散したこと、学校側はこれらの事態を重く見て、前日すでに電話等で連絡済みの原告Iを含む関係保護者一七名ほどに、二年生全体の保護者会終了後の同日午後四時ころ、人目につきにくい校内の美術室に集合して貰い、保護者にまず事態を正確に理解して貰うため、生活指導主任のO教諭からつつぱりグループのこれまでの活動等を具体的に話して貰うことにしたこと、そこで、O教諭は、「彼らが話し合いで決めたというのは、番長K、副番長I、中番長K、裏の番長Tである。」と言いながら、約八センチメートル角の大きさの文字で黒板にチョークで右四名の氏名と役割を書き(右板書の事実は争いがない。)、さらに続けて、「教師の指導によつて、右四名が自主的に三年生の前でつつぱりを止めると断つた、事件の早期発見と生徒の勇気ある行動で解決できたことは大変よかつた。しかし、つつぱりグループの三年生に目をつけられ、呼び出された生徒には服装の乱れなどがあつて、それが目をつけられた一つの原因にもなつているので、夏休みを控え、家庭でも十分注意して欲しい。今後は学校と家庭とが互いによく連携し合い、生徒の健全な育成を期したい。」と述べ、約三〇分で解散し、保護者の多くは学校側の措置に感謝し、原告Iも、「Jが十分に注意すればよいことだ。大変迷惑をかけました。」との趣旨の発言をしていたこと、この説明会の効果は直ちに現われ、翌七月一七日には関係保護者から学校に、前記カンパのための集金がなされていることが通報され、二年生のつつぱりグループが既に集金していた金四万〇五〇〇円を保護者に返還する措置をとり、その後は夏休み期間中はもとより現在に至るまで非行が報告されていないこと、以上の各事実を認めることができる。もつとも、〈証拠〉には右認定に反する記載があるが、これらの書面はいずれも本訴提起後作成されたものであつて、本件記録と照合すると、少なくともその本文は原告Iの筆跡によるものと認められ、内容において伝聞又は推測にわたる部分が多く、前掲各証拠に照らして措信し難く、これを採用することはできない。また、前記認定に反する原告I本人尋問の結果も前掲各証拠に照らして措信し難く、他に前記認定を左右するに足りる証拠はない。
ところで、中学校の生徒がつつぱりグループに属し、副番長の地位にあると公表されることは、当該生徒の素行の悪さを強く印象づける不名誉な事柄であるから、教師がこれをその保護者以外の者に公表するに当つては、教育上十分配慮し、慎重になされるべきことは言うまでもない。しかしながら、本件においては、生徒の生活指導を直接担当するO教諭が、生徒の健全な育成を期し、家庭の協力を求める趣旨で、つつぱりグループの実態を知らない保護者に対し、事の重大さとその実態を正確に理解して貰うため、特定の関係保護者しか集まつていない会場で、前記認定のような経緯と方法のもとに、事実に基づいて生徒の氏名と役割を公表したことには、その教育的配慮に欠けるところはなかつたものというべきである。』
この裁判例では、席につかない生徒を、「片手に持つていた縦5.5センチメートル、横二〇センチメートル、重さ約二八二グラムのボール紙製の出席簿で、立つている同原告の頭を一回叩いた」行為、保護者17名の前で、「黒板に「番長K」、「副番長I」、「中番長K」、「裏番長T」と書いた」行為のいずれも、生徒の健全な育成を期して行ったものであり、教育的配慮に欠けることはないと判断し、損害賠償責任を否定しています。学校外で行われたのであれば違法性を帯びる可能性のある暴行行為や名誉棄損行為であっても、学校内で、生徒指導の目的で、相当な手段で行われたものについては、正当業務行為として違法性を阻却し得るということになります。
(2)顧客側の損害賠償責任
長野地裁飯田支部令和4年8月30日判決
『本件は、医療機器等の取引交渉の過程において、原告ら(営業側)が、被告Y2(顧客側)から、種々の暴行、脅迫等を受け、精神的苦痛を被ったとして、被告Y2及びその使用者である被告法人に対し、民法709条所定の不法行為責任及び民法715条1項所定の使用者責任に基づく損害賠償請求として、各慰謝料200万円及びこれに対する令和元年11月12日(暴行・脅迫による直接被害が生じた日)から支払済みまで平成29年法律第44号による改正前の民法所定の年5%の割合による各遅延損害金の連帯支払を求める事案である。』
『第3 当裁判所の判断
1 認定事実
刑事事件における原告らの各証言(甲16、17)によれば、令和元年11月12日の出来事として、以下の事実が認められる。
(1) 原告らは、令和元年11月12日午前8時30分頃、被告Y2に超音波診断装置等の見積書を提出するため、b病院を訪れた。
(2) 上記見積書を受け取った被告Y2は、原告X2に対し、既に見積書を受け取っていた血液ガス分析装置について、メモ用紙とペンを渡して値引額を書くように迫り、さらに、b病院職員のBからカッターナイフを受け取り、カッターナイフの刃を出したり引っ込めたりしながら値引額を書くように迫った。
(3) 上記被告Y2の言動で追い詰められた原告X2は、値引には応じられないものの、商談をまとめるため、メモ用紙にサンプルを1個提供する旨を書こうとした。
(4) 原告X2が値引額を書いてしまうと思った原告X1は、原告X2の背後から、原告X2が持っていたメモ用紙とペンの上に原告X1の右手を覆い被せた。
(5) 上記原告X1の行動に苛立った被告Y2は、「要らんことをするんじゃない」などと言いながら、カッターナイフを持っていた右手を振りかぶり、原告X1の右手の甲に当たる寸前でカッターナイフをひっくり返し、カッターナイフの刃の背面部の先端部分(通常は物を切る際に用いない部分)を原告X1の右手の甲に押し当て、被告Y2側に引き、原告X1の右手の甲に、出血を伴う約1mの傷(甲5)を負わせた。
(6) 続いて、被告Y2は、原告X1の左背後に回り、原告X1が首から提げていた携帯電話のネックストラップを両手で持ち、原告X1の喉仏辺りでクロスさせ、5秒から10秒ほど、原告X1の首を絞めた。』
『前記2のとおり、原告X1は、被告Y2から、カスタマーハラスメントとも言うべき暴行・脅迫等を日常的に受けており、その最たるものが令和元年11月12日の暴行であった。そして、同日の暴行により、原告X1が負った傷害結果自体は、右手の甲に出血を伴う切創で、通院治療を受けずに自然治癒したものであり(甲5、16)、比較的軽微であったものの、同日の暴行態様は、カッターナイフという鋭利な刃物を用い、ネックストラップで5~10秒ほど首を絞めるという、生命を脅かしかねない危険かつ悪質なものであったことに照らせば、原告X1の恐怖感は相当に大きかったものと容易に想像できる。また、原告X1は、自身に何ら落ち度がないにもかかわらず、最大手の顧客であるb病院との取引関係を壊さないように配慮せざるを得ない弱い立場にあったことから、理不尽な暴行・脅迫等に耐え、通院や被害届の提出も躊躇していたものであり(甲16)、原告X1の屈辱感も相当に大きかったものと容易に想像できる。
以上の事情に加え、被告らが暴行・脅迫等を否認し、被告Y2に対する暴行被告事件について有罪判決が確定しても(前提事実2)イ)、何らの慰謝の措置も講じていないことも併せて考慮すると、原告X1の慰謝料額は40万円が相当である。』
この事案では、カスタマーハラスメント行為の過程でカッターナイフの背の部分を押し付けられ出血を伴う切創を生じたものの通院することなく自然治癒した事案でしたが、顧客側に40万円の慰謝料額の賠償義務が認定されたものでした。
4、東京都カスタマーハラスメント防止条例
令和8年4月1日より、東京都カスタマーハラスメント防止条例が施行されていますので概要を御案内致します。今後同様の条例制定、対策整備が日本各地の自治体で進行するものと思われます。
※参考URL、東京都産業労働局のカスハラ対策支援サイト
https://www.nocushara.metro.tokyo.lg.jp/
東京都カスタマーハラスメント防止条例は、カスハラ防止に関する基本理念を定め、カスハラ行為を定義し、東京都、顧客等、就業者及び事業者の責務を明らかにするとともに、カスタマー・ハラスメントの防止に関する施策の基本的な事項を定めたものです。この条例では、個別具体的なカスタマーハラスメント行為に関して、刑事上の罰則規定や、民事上の賠償責任を定める規定はありませんが、第4条でカスタマーハラスメント行為の禁止は明記されており、東京都内における民事上の契約責任や不法行為責任の法解釈に間接的に影響するものと思われます。この条例では、カスタマーハラスメントを「顧客等から就業者に対し、その業務に関して行われる著しい迷惑行為であって、就業環境を害するものをいう。」と定義しています(2条5号)。著しい迷惑行為とは、「暴行、脅迫その他の違法な行為又は正当な理由がない過度な要求、暴言その他の不当な行為をいう。」と定義されています(2条4号)。
東京都カスタマーハラスメント防止条例
第1条(目的)この条例は、カスタマー・ハラスメントの防止に関し、基本理念を定め、東京都(以下「都」という。)、顧客等、就業者及び事業者の責務を明らかにするとともに、カスタマー・ハラスメントの防止に関する施策(以下「カスタマー・ハラスメント防止施策」という。)の基本的な事項を定めることにより、顧客等の豊かな消費生活、就業者の安全及び健康の確保並びに事業者の安定した事業活動を促進し、もって公正かつ持続可能な社会の実現に寄与することを目的とする。
第2条(定義)この条例において、次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。
一号 事業者 都の区域内(以下「都内」という。)で事業(非営利目的の活動を含む。)を行う法人その他の団体(国の機関を含む。)又は事業を行う場合における個人をいう。
二号 就業者 都内で業務に従事する者(事業者の事業に関連し、都の区域外でその業務に従事する者を含む。)をいう。
三号 顧客等 顧客(就業者から商品又はサービスの提供を受ける者をいう。)又は就業者の業務に密接に関係する者をいう。
四号 著しい迷惑行為 暴行、脅迫その他の違法な行為又は正当な理由がない過度な要求、暴言その他の不当な行為をいう。
五号 カスタマー・ハラスメント 顧客等から就業者に対し、その業務に関して行われる著しい迷惑行為であって、就業環境を害するものをいう。
第3条(基本理念)
1項 カスタマー・ハラスメントは、顧客等による著しい迷惑行為が就業者の人格又は尊厳を侵害する等就業環境を害し、事業者の事業の継続に影響を及ぼすものであるとの認識の下、社会全体でその防止が図られなければならない。
2項 カスタマー・ハラスメントの防止に当たっては、顧客等と就業者とが対等の立場において相互に尊重することを旨としなければならない。
第4条(カスタマー・ハラスメントの禁止)何人も、あらゆる場において、カスタマー・ハラスメントを行ってはならない。
第11条(カスタマー・ハラスメントの防止に関する指針の作成)
1項 都は、カスタマー・ハラスメントの防止に関する指針(以下「指針」という。)を定めるものとする。
2項 指針においては、次に掲げる事項を定めるものとする。
一号 カスタマー・ハラスメントの内容に関する事項
二号 顧客等、就業者及び事業者の責務に関する事項
三号 都の施策に関する事項
四号 事業者の取組に関する事項
五号 前各号に掲げるもののほか、カスタマー・ハラスメントを防止するために必要な事項
3項 都は、指針を定め、又はこれを変更したときは、速やかに、これを公表するものとする。
条例11条1項を受けて、カスタマーハラスメント防止に関するガイドラインが定められました。
※参考URL、カスタマー・ハラスメントの防止に関する指針(ガイドライン)
https://www.hataraku.metro.tokyo.lg.jp/plan/kasuharashishin/index.html
ガイドラインでは、条例2条4号の「著しい迷惑行為」のうち、「正当な理由がない過度な要求、暴言その他の不当な行為」とは、
「客観的に合理的で社会通念上相当であると認められる理由がなく、要求内容の妥当
性に照らして不相当であるものや、大きな声を上げて秩序を乱すなど、行為の手段・
態様が不相当であるものを意味する。
相当性の判断に当たっては、当該行為の目的、当該行為を受けた就業者の問題行動
の有無や内容・程度を含む当該行為が行われた経緯や状況、就業者の業種・業態、業務の内容・性質、当該行為の態様・頻度・継続性、就業者の属性や心身の状況、行為者との関係性など、様々な要素を総合的に考慮することが適当である。
以上を踏まえると、正当な理由に基づき、社会通念上相当であると認められる手段・態様による、顧客等から就業者への申出(苦情・意見・要望等)自体は妨げられるものではない。ただし、その後の交渉や話し合いの過程で違法又は不当な行為があった場合、その時点で著しい迷惑行為に該当する可能性がある。」としています。
さらに、ガイドラインでは、東京都内で顧客対応に従事する就業者の安全を確保するために、事業者(雇用者、現場監督者)として、顧客に対して、「行為の中止要請」や「退去要請」や「出入り禁止通告」や「商品やサービスの提供停止通告」を行うことが求められるとしています。これらの対応について、原因となった行為の特定や、対応措置を行った事実の特定などの資料を保存することが必要でしょう。
「事業者においては、カスタマー・ハラスメントが発生した場合、行為者である顧客等に対して、就業者への行為を止めるよう要請するとともに、あらかじめ定めた対応方針に従い、現場監督者等からの退去要請や出入り禁止、商品やサービスの提供停止の通告等の対処を行うことが求められる。その際、恣意的で正当な理由のない退去要請や出入り禁止、商品やサービスの提供の拒否がないよう、十分留意する必要がある。」としています。
5、具体的な対応方法
まずは、校長先生による保護者への対応となります。それでも解決が難しそうであれば、法的な手段を予定した準備となります。刑事事件についても民事事件についても、法的手続きにおいて権利義務の存否を法的に確定させていくためには、事実関係の保存が何より大事なことになります。裁判所が事実認定するための物証が必要です。音声や映像や写真や文書の資料をなるべく多く保存することが必要です。目撃証言も必要ですから、教員でも保護者でも、従業員でも他の顧客でも、なるべく多くの関係者の見聞を記録に残すことが必要です。
証拠になり得るものを列挙致します。
・防犯カメラ映像
・ICレコーダー録音データ
・相手方との連絡したメールなどの記録
・トラブル内容を示す関係者の陳述書(面談に立ち会った人物全員分)
・暴行や傷害によるアザなどを撮影した写真
・暴行や傷害について皮膚科など診療所を受診した診断書
・クレームの結果精神疾患を患った場合は精神科・診療内科の診断書
・学校や店舗のトラブル対応方法について記載した規約類
・学校や店舗の業務日誌(クレーム対応状況を記載)
・現場監督者から当該顧客に対してクレーム行為を止めるよう要請した事実の記録
・現場監督者から当該顧客に対して退去要請した事実の記録
・現場監督者から当該顧客に対して出入り禁止を通達した事実の記録
・現場監督者から商品やサービスの提供停止の通告を行った事実の記録
クレームを主張する保護者や顧客と面会するときは、必ず、複数名で対応するようにして下さい。校長と教諭、教諭と教頭など、学校内部の複数名で対応するのも良いですが、PTA役員など、第三者の立ち合いを要請することも検討なさって下さい。陳述書を作成する場合は、いわゆる5W1H(誰が、何時、何処で、何を、どうして、どのように)の事実関係を丁寧に記載することが大切です。陳述書に個人的な感情を記載する必要はありませんが、「怒鳴られて嫌な気持ちになりました」など、素直な感想を書くことは構わないでしょう。
また、保護者が子供に対する不適切な指導や懲戒があったと主張している場合は、子供の権利を保護する自治体などの相談窓口や専門委員が設置されている場合がありますので、そちらを案内することも検討なさって下さい。
・こどもオンブズマン(各自治体の条例により設置)
https://www.city.tokyo-nakano.lg.jp/kosodate/kosodatesite_ohirune/sodan/kodomosoudan/ombudsman.html
・子どもの人権専門委員(人権擁護委員)
https://www.moj.go.jp/JINKEN/jinken18.html
正式な法律事件にする前に、代理人弁護士が話し合いに同席して、穏当な話し合いができないかどうか、調整することもあります。
代理人弁護士は、これ以上揉めるようだと、学校や店舗側が被害者として、刑事民事の法律事件として取り扱わざるを得ないということを穏当に丁寧に説明することができます。
弁護士が従来より定期的に相談している場合は、継続的な顧問契約を締結して、顧問弁護士として話し合いに同席する方法もあります。お困りの場合は、経験のある弁護士事務所にご相談なさり、一緒に考えて対応されると良いでしょう。
以上
関連事例集
- 美容室の業務に対するクレーム・対策
- 業務妨害を受けた場合の対応|告訴と民事保全による保護
- まつげエクステ店の美容師法違反事件|無許可営業に伴う罰則と対応
- ネット上の誹謗中傷発言への対応
- クチコミサイトの違法性判断
その他の事例集は下記のサイト内検索で調べることができます
参考条文
学校教育法
11条 校長及び教員は、教育上必要があると認めるときは、文部科学大臣の定めるところにより、児童、生徒及び学生に懲戒を加えることができる。ただし、体罰を加えることはできない。
37条1項 小学校には、校長、教頭、教諭、養護教諭及び事務職員を置かなければならない。
37条12項 教諭は、児童の教育をつかさどる。
※平成19年2月5日文部科学省局長通知(18文科初第1019号)
学校教育法第11条に規定する児童生徒の懲戒・体罰に関する考え方
1 体罰について
(1) 児童生徒への指導に当たり、学校教育法第11条ただし書にいう体罰は、いかなる場合においても行ってはならない。教員等が児童生徒に対して行った懲戒の行為が体罰に当たるかどうかは、当該児童生徒の年齢、健康、心身の発達状況、当該行為が行われた場所的及び時間的環境、懲戒の態様等の諸条件を総合的に考え、個々の事案ごとに判断する必要がある。
(2) (1)により、その懲戒の内容が身体的性質のもの、すなわち、身体に対する侵害を内容とする懲戒(殴る、蹴る等)、被罰者に肉体的苦痛を与えるような懲戒(正座・直立等特定の姿勢を長時間にわたって保持させる等)に当たると判断された場合は、体罰に該当する。
(3) 個々の懲戒が体罰に当たるか否かは、単に、懲戒を受けた児童生徒や保護者の主観的な言動により判断されるのではなく、上記(1)の諸条件を客観的に考慮して判断されるべきであり、特に児童生徒一人一人の状況に配慮を尽くした行為であったかどうか等の観点が重要である。
(4) 児童生徒に対する有形力(目に見える物理的な力)の行使により行われた懲戒は、その一切が体罰として許されないというものではなく、裁判例においても、「いやしくも有形力の行使と見られる外形をもった行為は学校教育法上の懲戒行為としては一切許容されないとすることは、本来学校教育法の予想するところではない」としたもの(昭和56年4月1日東京高裁判決)、「生徒の心身の発達に応じて慎重な教育上の配慮のもとに行うべきであり、このような配慮のもとに行われる限りにおいては、状況に応じ一定の限度内で懲戒のための有形力の行使が許容される」としたもの(昭和60年2月22日浦和地裁判決)などがある。
(5) 有形力の行使以外の方法により行われた懲戒については、例えば、以下のような行為は、児童生徒に肉体的苦痛を与えるものでない限り、通常体罰には当たらない。
○ 放課後等に教室に残留させる(用便のためにも室外に出ることを許さない、又は食事時間を過ぎても長く留め置く等肉体的苦痛を与えるものは体罰に当たる)。
○ 授業中、教室内に起立させる。
○ 学習課題や清掃活動を課す。
○ 学校当番を多く割り当てる。
○ 立ち歩きの多い児童生徒を叱って席につかせる。
(6) なお、児童生徒から教員等に対する暴力行為に対して、教員等が防衛のためにやむを得ずした有形力の行使は、もとより教育上の措置たる懲戒行為として行われたものではなく、これにより身体への侵害又は肉体的苦痛を与えた場合は体罰には該当しない。また、他の児童生徒に被害を及ぼすような暴力行為に対して、これを制止したり、目前の危険を回避するためにやむを得ずした有形力の行使についても、同様に体罰に当たらない。これらの行為については、正当防衛、正当行為等として刑事上又は民事上の責めを免れうる。
2 児童生徒を教室外に退去させる等の措置について
(1) 単に授業に遅刻したこと、授業中学習を怠けたこと等を理由として、児童生徒を教室に入れず又は教室から退去させ、指導を行わないままに放置することは、義務教育における懲戒の手段としては許されない。
(2) 他方、授業中、児童生徒を教室内に入れず又は教室から退去させる場合であっても、当該授業の間、その児童生徒のために当該授業に代わる指導が別途行われるのであれば、懲戒の手段としてこれを行うことは差し支えない。
(3) また、児童生徒が学習を怠り、喧騒その他の行為により他の児童生徒の学習を妨げるような場合には、他の児童生徒の学習上の妨害を排除し教室内の秩序を維持するため、必要な間、やむを得ず教室外に退去させることは懲戒に当たらず、教育上必要な措置として差し支えない。
(4) さらに、近年児童生徒の間に急速に普及している携帯電話を児童生徒が学校に持ち込み、授業中にメール等を行い、学校の教育活動全体に悪影響を及ぼすような場合、保護者等と連携を図り、一時的にこれを預かり置くことは、教育上必要な措置として差し支えない。
※平成25年3月13日文部科学省局長通知(24文科初第1269号)
体罰の禁止及び児童生徒理解に基づく指導の徹底について(通知)
1 体罰の禁止及び懲戒について
体罰は、学校教育法第11条において禁止されており、校長及び教員(以下「教員等」という。)は、児童生徒への指導に当たり、いかなる場合も体罰を行ってはならない。体罰は、違法行為であるのみならず、児童生徒の心身に深刻な悪影響を与え、教員等及び学校への信頼を失墜させる行為である。
体罰により正常な倫理観を養うことはできず、むしろ児童生徒に力による解決への志向を助長させ、いじめや暴力行為などの連鎖を生む恐れがある。もとより教員等は 指導に当たり、児童生徒一人一人をよく理解し、適切な信頼関係を築くことが重要であり、このために日頃から自らの指導の在り方を見直し、指導力の向上に取り組むことが必要である。懲戒が必要と認める状況においても、決して体罰によることなく、児童生徒の規範意識や社会性の育成を図るよう、適切に懲戒を行い、粘り強く指導することが必要である。
ここでいう懲戒とは、学校教育法施行規則に定める退学(公立義務教育諸学校に在籍する学齢児童生徒を除く。)、停学(義務教育諸学校に在籍する学齢児童生徒を除く。)、訓告のほか、児童生徒に肉体的苦痛を与えるものでない限り、通常、懲戒権の範囲内と判断されると考えられる行為として、注意、叱責、居残り、別室指導、起立、宿題、清掃、学校当番の割当て、文書指導などがある。
2 懲戒と体罰の区別について
(1)教員等が児童生徒に対して行った懲戒行為が体罰に当たるかどうかは、当該児童生徒の年齢、健康、心身の発達状況、当該行為が行われた場所的及び時間的環境、懲戒の態様等の諸条件を総合的に考え、個々の事案ごとに判断する必要がある。この際、単に、懲戒行為をした教員等や、懲戒行為を受けた児童生徒・保護者の主観のみにより判断するのではなく、諸条件を客観的に考慮して判断すべきである。
(2)(1)により、その懲戒の内容が身体的性質のもの、すなわち、身体に対する侵害を内容とするもの(殴る、蹴る等)、児童生徒に肉体的苦痛を与えるようなもの(正座・直立等特定の姿勢を長時間にわたって保持させる等)に当たると判断された場合は、体罰に該当する。
3 正当防衛及び正当行為について
(1)児童生徒の暴力行為等に対しては、毅然とした姿勢で教職員一体となって対応し、児童生徒が安心して学べる環境を確保することが必要である。
(2)児童生徒から教員等に対する暴力行為に対して、教員等が防衛のためにやむを得ずした有形力の行使は、もとより教育上の措置たる懲戒行為として行われたものではなく、これにより身体への侵害又は肉体的苦痛を与えた場合は体罰には該当しない。また、他の児童生徒に被害を及ぼすような暴力行為に対して、これを制止したり、目前の危険を回避したりするためにやむを得ずした有形力の行使についても、同様に体罰に当たらない。これらの行為については、正当防衛又は正当行為等として刑事上又は民事上の責めを免れうる。
4 体罰の防止と組織的な指導体制について
(1)体罰の防止
1. 教育委員会は、体罰の防止に向け、研修の実施や教員等向けの指導資料の作成など、教員等が体罰に関する正しい認識を持つよう取り組むことが必要である。
2. 学校は、指導が困難な児童生徒の対応を一部の教員に任せきりにしたり、特定の教員が抱え込んだりすることのないよう、組織的な指導を徹底し、校長、教頭等の管理職や生徒指導担当教員を中心に、指導体制を常に見直すことが必要である。
3. 校長は、教員が体罰を行うことのないよう、校内研修の実施等により体罰に関する正しい認識を徹底させ、「場合によっては体罰もやむを得ない」などといった誤った考え方を容認する雰囲気がないか常に確認するなど、校内における体罰の未然防止に恒常的に取り組むことが必要である。また、教員が児童生徒への指導で困難を抱えた場合や、周囲に体罰と受け取られかねない指導を見かけた場合には、教員個人で抱え込まず、積極的に管理職や他の教員等へ報告・相談できるようにするなど、日常的に体罰を防止できる体制を整備することが必要である。
4. 教員は、決して体罰を行わないよう、平素から、いかなる行為が体罰に当たるかについての考え方を正しく理解しておく必要がある。また、機会あるごとに自身の体罰に関する認識を再確認し、児童生徒への指導の在り方を見直すとともに、自身が児童生徒への指導で困難を抱えた場合や、周囲に体罰と受け取られかねない指導を見かけた場合には、教員個人で抱え込まず、積極的に管理職や他の教員等へ報告・相談することが必要である。
(2)体罰の実態把握と事案発生時の報告の徹底
1. 教育委員会は、校長に対し、体罰を把握した場合には教育委員会に直ちに報告するよう求めるとともに、日頃から、主体的な体罰の実態把握に努め、体罰と疑われる事案があった場合には、関係した教員等からの聞き取りのみならず、児童生徒や保護者からの聞き取りや、必要に応じて第三者の協力を得るなど、事実関係の正確な把握に努めることが必要である。あわせて、体罰を行ったと判断された教員等については、体罰が学校教育法に違反するものであることから、厳正な対応を行うことが必要である。
2. 校長は、教員に対し、万が一体罰を行った場合や、他の教員の体罰を目撃した場合には、直ちに管理職へ報告するよう求めるなど、校内における体罰の実態把握のために必要な体制を整備することが必要である。
また、教員や児童生徒、保護者等から体罰や体罰が疑われる事案の報告・相談があった場合は、関係した教員等からの聞き取りや、児童生徒や保護者からの聞き取り等により、事実関係の正確な把握に努めることが必要である。
加えて、体罰を把握した場合、校長は直ちに体罰を行った教員等を指導し、再発防止策を講じるとともに、教育委員会へ報告することが必要である。
3. 教育委員会及び学校は、児童生徒や保護者が、体罰の訴えや教員等との関係の悩みを相談することができる体制を整備し、相談窓口の周知を図ることが必要である。
5 部活動指導について
(1) 部活動は学校教育の一環であり、体罰が禁止されていることは当然である。成績や結果を残すことのみに固執せず、教育活動として逸脱することなく適切に実施されなければならない。
(2)他方、運動部活動においては、生徒の技術力・身体的能力、又は精神力の向上を図ることを目的として、肉体的、精神的負荷を伴う指導が行われるが、これらは心身の健全な発達を促すとともに、活動を通じて達成感や、仲間との連帯感を育むものである。ただし、その指導は学校、部活動顧問、生徒、保護者の相互理解の下、年齢、技能の習熟度や健康状態、場所的・時間的環境等を総合的に考えて、適切に実施しなければならない。
指導と称し、部活動顧問の独善的な目的を持って、特定の生徒たちに対して、執拗かつ過度に肉体的・精神的負荷を与える指導は教育的指導とは言えない。
(3)部活動は学校教育の一環であるため、校長、教頭等の管理職は、部活動顧問に全て委ねることなく、その指導を適宜監督し、教育活動としての使命を守ることが求められる。
※東京都カスタマー・ハラスメント防止条例(令和六年一〇月一一日、条例第一四〇号)
東京都カスタマー・ハラスメント防止条例を公布する。
東京都カスタマー・ハラスメント防止条例
東京は、多様な産業と高度な都市機能とが集積した世界有数の都市であり、日本の首都として、我が国の経済を 牽引している。その基盤は、多岐にわたる仕事を通じて発揮される人の力である。東京が今後も持続的に発展していくためには、働く全ての人が持てる力を十分に発揮することにより、事業者が安定した事業活動を行い、誰もが等しく豊かな消費生活を営むことができる環境を創出していかなければならない。
そのためには、働く人の安全及び健康を害する様々なハラスメントを未然に防止する必要がある。とりわけ、顧客等からの著しい迷惑行為であるカスタマー・ハラスメントは、働く人を傷つけるのみならず、商品又はサービスの提供を受ける環境や事業の継続に悪影響を及ぼすものとして、個々の事業者にとどまらず、社会全体で対応しなければならない。また、東京で働く人に影響する様々な手段によるカスタマー・ハラスメントを、東京都の区域内にとどまらず、あらゆる場面で防止することが重要である。
もっとも、顧客等による苦情や意見、要望は、業務の改善や新たな商品又はサービスの開発につながるものであることは言うまでもない。また、働く人は、商品又はサービスを提供する就業者であると同時にそれらの提供を受ける顧客等でもあり、誰もがカスタマー・ハラスメントを受ける側にも行う側にもなり得るという視点も不可欠である。
東京都は、このような認識の下、顧客等と働く人とが対等な立場において相互に尊重する都市をつくりあげるとともに、カスタマー・ハラスメントのない公正かつ持続可能な社会を目指し、この条例を制定する。
(目的)
第一条 この条例は、カスタマー・ハラスメントの防止に関し、基本理念を定め、東京都(以下「都」という。)、顧客等、就業者及び事業者の責務を明らかにするとともに、カスタマー・ハラスメントの防止に関する施策(以下「カスタマー・ハラスメント防止施策」という。)の基本的な事項を定めることにより、顧客等の豊かな消費生活、就業者の安全及び健康の確保並びに事業者の安定した事業活動を促進し、もって公正かつ持続可能な社会の実現に寄与することを目的とする。
(定義)
第二条 この条例において、次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。
一 事業者 都の区域内(以下「都内」という。)で事業(非営利目的の活動を含む。)を行う法人その他の団体(国の機関を含む。)又は事業を行う場合における個人をいう。
二 就業者 都内で業務に従事する者(事業者の事業に関連し、都の区域外でその業務に従事する者を含む。)をいう。
三 顧客等 顧客(就業者から商品又はサービスの提供を受ける者をいう。)又は就業者の業務に密接に関係する者をいう。
四 著しい迷惑行為 暴行、脅迫その他の違法な行為又は正当な理由がない過度な要求、暴言その他の不当な行為をいう。
五 カスタマー・ハラスメント 顧客等から就業者に対し、その業務に関して行われる著しい迷惑行為であって、就業環境を害するものをいう。
(基本理念)
第三条 カスタマー・ハラスメントは、顧客等による著しい迷惑行為が就業者の人格又は尊厳を侵害する等就業環境を害し、事業者の事業の継続に影響を及ぼすものであるとの認識の下、社会全体でその防止が図られなければならない。
2 カスタマー・ハラスメントの防止に当たっては、顧客等と就業者とが対等の立場において相互に尊重することを旨としなければならない。
(カスタマー・ハラスメントの禁止)
第四条 何人も、あらゆる場において、カスタマー・ハラスメントを行ってはならない。
(適用上の注意)
第五条 この条例の適用に当たっては、顧客等の権利を不当に侵害しないように留意しなければならない。
(都の責務)
第六条 都は、第三条に規定する基本理念(以下「基本理念」という。)にのっとり、顧客等、就業者及び事業者に対し、カスタマー・ハラスメントの防止に関する情報の提供、啓発及び教育、相談及び助言その他必要な施策を行うものとする。
(顧客等の責務)
第七条 顧客等は、基本理念にのっとり、カスタマー・ハラスメントに係る問題に対する関心と理解を深めるとともに、就業者に対する言動に必要な注意を払うよう努めなければならない。
2 顧客等は、都が実施するカスタマー・ハラスメント防止施策に協力するよう努めなければならない。
(就業者の責務)
第八条 就業者は、基本理念にのっとり、顧客等の権利を尊重し、カスタマー・ハラスメントに係る問題に対する関心と理解を深めるとともに、カスタマー・ハラスメントの防止に資する行動をとるよう努めなければならない。
2 就業者は、その業務に関して事業者が実施するカスタマー・ハラスメントの防止に関する取組に協力するよう努めなければならない。
(事業者の責務)
第九条 事業者は、基本理念にのっとり、カスタマー・ハラスメントの防止に主体的かつ積極的に取り組むとともに、都が実施するカスタマー・ハラスメント防止施策に協力するよう努めなければならない。
2 事業者は、その事業に関して就業者がカスタマー・ハラスメントを受けた場合には、速やかに就業者の安全を確保するとともに、当該行為を行った顧客等に対し、その中止の申入れその他の必要かつ適切な措置を講ずるよう努めなければならない。
3 事業者は、その事業に関して就業者が顧客等としてカスタマー・ハラスメントを行わないように、必要な措置を講ずるよう努めなければならない。
(区市町村との連携)
第十条 都は、カスタマー・ハラスメント防止施策の実施に当たっては、特別区及び市町村との連携を図るよう努めるものとする。
(カスタマー・ハラスメントの防止に関する指針の作成)
第十一条 都は、カスタマー・ハラスメントの防止に関する指針(以下「指針」という。)を定めるものとする。
2 指針においては、次に掲げる事項を定めるものとする。
一 カスタマー・ハラスメントの内容に関する事項
二 顧客等、就業者及び事業者の責務に関する事項
三 都の施策に関する事項
四 事業者の取組に関する事項
五 前各号に掲げるもののほか、カスタマー・ハラスメントを防止するために必要な事項
3 都は、指針を定め、又はこれを変更したときは、速やかに、これを公表するものとする。
(財政上の措置)
第十二条 都は、カスタマー・ハラスメント防止施策を推進するため、必要な財政上の措置を講ずるよう努めるものとする。
(施策の推進)
第十三条 都は、指針に基づき、次に掲げるカスタマー・ハラスメント防止施策を実施するものとする。
一 都の支援事業等に関する情報の提供
二 カスタマー・ハラスメントの防止に資する行動に関する啓発及び教育
三 就業環境に関する相談及び助言
四 消費生活に関する相談及び助言
五 就業者の安全及び健康の確保に関する相談及び助言
六 前各号に掲げるもののほか、カスタマー・ハラスメントを防止するために必要な施策
2 都は、カスタマー・ハラスメント防止施策を効果的に推進するため、カスタマー・ハラスメント防止施策の実施及び当該実施状況等の検証に当たっては、関係機関等の意見を聴き、施策に反映するよう努めるものとする。
(事業者による措置等)
第十四条 事業者は、顧客等からのカスタマー・ハラスメントを防止するための措置として、指針に基づき、必要な体制の整備、カスタマー・ハラスメントを受けた就業者への配慮、カスタマー・ハラスメント防止のための手引の作成その他の措置を講ずるよう努めなければならない。
2 就業者は、事業者が前項に規定するカスタマー・ハラスメント防止のための手引を作成したときは、当該手引を遵守するよう努めなければならない。
附則
(施行期日)
1 この条例は、令和七年四月一日から施行する。
(検討)
2 都は、社会環境の変化及びこの条例の規定の施行の状況その他カスタマー・ハラスメントの防止に関する取組の状況を勘案し、必要があると認めるときは、この条例の規定について検討を加え、その結果に基づいて所要の措置を講ずるものとする。
判例
名古屋地裁平成30年6月20日強要被告事件判決(事実認定部分)
『被告人両名は,平成30年1月17日当時のa応援団団長であったA及び同応援団事務局長でb新聞を販売する会社の役員であったBに対し,Aがcドームに不正入場したなどとして因縁を付け,A及びBにそれぞれ同応援団団長及び同応援団事務局長を辞任させようと考え,共謀の上,
1 同日午後5時頃から同日午後7時頃までの間,名古屋市甲区乙丙丁目丁番戊号のd乙店において,A及びBに対し,被告人Cが「仮に球団がいいって言おうが,子供券がその日にあった以上…子供券を大人券に変えて入るべき。そういう律することができなければ上に立つ者として,資格はないし,まして,応援団をやる資格はない。絶対にない」,「そんな幹部,執行部たちは辞めた方がいいよ。あんた,仮にもb新聞売っとるんだぞ。俺は,b新聞とは仲ええけども,役員の人とも仲ええわ。この話したわね。実際とんでもないことになる。特にあんたのとこ,仕事で自分の身銭にかかわっとるのに,ましてや週刊誌じゃないよ。新聞だよ」,「あんた,新聞売る資格もないぞ。b新聞言ったる。悪いことも悪いと言えん人間に新聞売らせんなって言って」,「50や100はすぐ解約したる」,「あんたこそ辞めるべきだと思うよ,俺は」などと言い,
2 Bが退店した後の同日午後7時頃から同日午後10時49分頃までの間,同店において,Aに対し,被告人Cが「俺は,別に表の人間でもやくざやっとるわけでもない。裏の人間でもない。闇の人間なんだ」,「あんた辞めた方がええ。あんたがガンだ。あんたが辞めるべきなんだ」,「あんたが辞めるまで闘ったるで。一番妨害強いぞ」などと言い,被告人Dが「俺は,ドーム始まって引きずり下ろされても,責任持てんよ」,「長であるあなたが,ファンとでなく,その球団体面ばっかり気にして,ファンじゃなくてそっち側よりになっちゃって,そんなことをするんであれば,だったら,俺たちも,本当にあのeの暴挙なんて,いつでも起こるぜっていうか,あれよりもっとひどいことが起こるぜ」などと言うと,被告人Cが続けて「cドームで起こしたろうか」,「大恥かきゃいいがや。あんたは,所詮,30人をまとめてるだけ。こいつは千人をまとめてる」などと言い,さらに被告人Cが「興信所使ってやって調べるよ」などと言い,
もしその要求に応じなければ,A及びBの自由,名誉及び財産に害を加えかねない旨を告知して脅迫し,よって,同月20日,A及びBに,それぞれ同応援団団長及び同応援団事務局長を辞任させ,もってA及びBに義務のないことを行わせたものである。』
大阪地裁令和3年3月1日威力業務妨害被告事件判決
『 (罪となるべき事実)
被告人は,大阪市〈以下省略〉所在の洋服店「a」を経営するAの業務を妨害しようと考え,分離前の相被告人Bと共謀の上,令和2年5月1日午後4時59分頃から午後5時4分頃までの間,同区〈以下省略〉先路上において,Aに対し,動画撮影状態にした携帯電話機を差し向けてその様子を動画撮影しながら,上記店舗で購入したTシャツ1枚が偽ブランド品であるとの虚偽の事実に基づいて上記Tシャツの返品を要求し,「偽物でしょ。」「日本人だまして楽しいですか。」などと言い,Aに被告人及びBへの無用の対応を余儀なくさせてその正常な業務に支障を生じさせ,もって威力を用いてAの業務を妨害したものである。』
『(量刑の理由)
本件は,動画投稿サイトの投稿者である被告人らが,動画撮影の一環として,被害店舗で購入した商品が偽ブランド品であると因縁をつけて返品を要求し,併せて対応する被害者に罵声を浴びせるなどし,被害者が正当な店舗運営業務に従事することを妨げた事案である。
業務が妨害されたのは約5分間と長時間ではないが,被害者は,いわれのない因縁を付けられ,業務を妨害されるとともに困惑や怒りを感じ,本件犯行時に撮影した動画が拡散されたことによって被害店舗の信用が損なわれたと感じて厳罰を希望している。また,被告人らは,視聴者の興味を惹くようなトラブルが起こることを期待してあえて因縁を付け,挑発的な言動に出たのであり,本件は,計画的かつ確信的な犯行である。
本件犯行を主導したのは共犯者であるが,被告人も,売名と収益を目的に積極的に加担し,犯行後には共犯者が本件犯行時に撮影した動画を編集して投稿しているのであって,相応の刑事責任を負うことは免れない。
一方で,被告人には,本件犯行を認めて反省し,謝罪動画や謝罪文を作成して被害者への謝罪の念を表していること,みるべき前科はなく,更生して二度と他人に迷惑をかけないことを誓っていることなど,酌むべき事情もあることから,刑の執行を猶予することとして,主文のとおり刑を定めた。』