質問
夫と離婚し、現在、私が知的障害のある、小学1年生の子どもを監護しています。離婚後、元夫からは、養育費を一度も支払ってもらっておらず、これまで、子どもにかかる生活費や教育費、医療費等は、私が一人で負担してきました。
子どもには、知的障害があり、定期的な通院のほか、療育やリハビリテーションを受ける必要があります。また、学校生活においても、特別な配慮が必要であり、通常の子どもと比べて、医療費や療育費、教育費等の負担が大きくなっています。
これまでは、何とか私自身で費用を負担してきましたが、今後も、療育等を継続していく必要があり、私一人で負担していくことに不安を感じています。元夫に養育費の支払を求めたいと考えていますが、元夫からは、「離婚した以上、子どもの費用は自分に関係ない」と言われています。
このような場合、元夫に対して養育費を請求することはできるのでしょうか。また、子どもの障害により、通常よりも多くかかる医療費や療育費、教育費等について、一般的な養育費とは別に、元夫にも負担してもらうことはできるのでしょうか。
さらに、子どもは、知的障害のため、将来、就労して経済的に自立することが難しいと見込まれています。子どもが20歳になった後も、元夫に対して引き続き養育費の支払を求めることはできるのでしょうか。
回答
養育費は、未成熟子が経済的・社会的に自立するまでに必要となる生活費、教育費、医療費等について、父母がそれぞれの収入や生活状況等に応じて分担するものです。養育費の額は、原則として、父母双方の収入等を基礎として標準算定方式によって算定され、その算定結果を簡易迅速に確認するため、裁判所が公表している算定表が用いられます。また、いつまで支払うかということは決まっていませんが、原則は20歳までとされています。
もっとも、子どもに障害がある場合には、通常の子どもと比べて、医療費、療育費、教育費その他の特別な費用が必要となることがあります。このような場合には、障害のために通常よりも特に必要となる費用について、通常の養育費とは別に、父母の収入等に応じた追加負担が認められる可能性があります。
ただし、子どもに障害があるという事情のみをもって、直ちに養育費の増額が認められるわけではありません。障害によって実際にどのような費用が、どの程度必要となっているのか、公費・助成によって負担されている部分があるのか等を具体的に明らかにする必要があります。そのため、領収書、診療明細書、療育機関の資料等を準備し、特別費用の必要性や金額を具体的に示すことが重要です。
また、養育費の支払終期は、一般に、子どもが満20歳になるまでとされていますが、障害の程度や就労能力等から、20歳を超えても経済的・社会的に自立することが困難であり、引き続き扶養を必要とする場合には、原則として子供自身が父親に扶養義務の履行として金銭の請求をすることになります。但し、20歳以降についても、養育費が認められる可能性もあります。20歳以上で扶養の必要があるが、自分で請求したりお金の管理ができないという場合、養育している親が養育費として請求できるのです。この点については、請求の可否、請求できる金額について障害の内容・程度だけでなく、就労の可能性、収入の見込み、将来必要となる医療費や療育費等を踏まえて、個別具体的に判断されます。
したがって、子どもに障害がある場合には、障害の内容や程度だけでなく、これに伴って現実に生じている特別費用や、将来的な自立可能性について具体的に整理し、それらを裏付ける資料を準備することが重要です。
父母間で養育費について合意できない場合には、家庭裁判所に養育費請求調停・審判を申し立て、子どもの状況や父母双方の収入その他一切の事情を踏まえて、養育費の額や支払期間について判断を求めることになります。
解説
1 養育費の概要
養育費とは、未成熟子(経済的・社会的に自立していない子)が自立するまで要する費用をいい、生活に必要な経費、教育費、医療費等がこれに含まれます。
この養育費については、直接の規定はありませんが、民法766条で、離婚の際に父母の協議により、子の監護に要する費用(養育費)の分担について定めるものとされていること、親子間の扶養義務を定めた同法877条1項が根拠とされています。この扶養義務には、生活保持義務(扶養義務者と同程度の生活水準を被扶養者にも保障する義務)と生活扶助義務(扶養義務者自身の生活に支障のない範囲で被扶養者を扶養する義務)の2種類があり、親の未成熟子に対する扶養義務は、従前より、生活保持義務を内容とするものと解されていました。
令和8年4月1日に施行された改正民法においても、同法817条の12第1項は、父母は、子が自己と同程度の生活を維持することができるよう扶養しなければならない旨を定めており、従前の解釈が条文上も明確にされたものといえます。
2 養育費の計算方法(子どもに障害がある場合の特殊性)
⑴ 養育費については、実務上、いわゆる標準算定方式(父母双方の基礎収入(総収入から養育費に優先して支払うべき公租公課、職業費、特別経費等を控除したもの)の合計額を、父母それぞれの最低生活費及び子の生活費を踏まえて按分するという算定方式)によって計算されることになります。
この方式によれば、父母の基礎収入さえ分かれば、裁判所の算定表(平成30年度司法研究(養育費、婚姻費用の算定に関する実証的研究)の報告について | 裁判所)に基づき、養育費を簡易迅速に把握することができます。例えば、父の基礎収入が年1000万円(給与所得)、母の基礎収入が0円、母と同居する子(0~14歳)が一人であるとすると、養育費は月額12~14万円程度となります。
なお、無収入であるものの、潜在的稼働能力がある場合には、原則として、賃金センサス(政府が毎年発表している「賃金構造基本統計調査」の結果をもとに、労働者の平均賃金をまとめた資料)に基づき、基礎収入が認定されることになりますが、乳幼児を監護している場合には、潜在的稼働能力がないものとして、基礎収入は0円と認定されることがあります。
ただし、給与所得者について基礎収入が年2000万円よりも多い場合、事業所得者について基礎収入が年1567万円よりも多い場合、子が4人以上いる場合、義務者において扶養すべき者が他にもいる場合には、算定表を用いることはできず、個別具体的な計算が必要となります。
⑵ 基礎収入の認定の仕方については、給与所得者である場合と事業所得者である場合とで異なります。
ア まず、給与所得者である場合には、原則として、源泉徴収票の「支払金額」又は課税証明書の「給与の収入金額」が基礎収入と認定されます。
もっとも、相手方から源泉徴収票又は課税証明書が提出されない場合には、その余の資料から基礎収入が認定されることになります。例えば、給与明細書を用いる場合には、直近3か月の平均の給与所得から通勤手当や旅費等の非課税所得を控除したものが基礎収入と認定されます。
イ 次に、事業所得者である場合には、原則として、確定申告書の「課税される所得金額」に、税務上、控除されるものの、現実には支出されていない費用を加えたものが基礎収入と認定されます。すなわち、「所得金額」の「合計」額から「社会保険料控除」額を差し引き、「青色申告特別控除額」及び現実には支出されていない「専従者給与(控除)額の合計額」を加えたものが基礎収入と認定されるのが原則です。
⑶ さらに、子どもに障害がある場合には、通常の子どもと比べて、医療費、療育費、教育費その他の費用が多く必要となることがあります。
もっとも、子どもに障害があるという事情のみをもって、直ちに養育費の加算が認められるわけではありません。裁判所の算定表には、通常必要となる医療費や教育費が既に一定程度考慮されているためです。
そのため、養育費の加算を求めるためには、まず、障害があることによって実際にどのような費用が追加で発生しているのかを具体的に明らかにする必要があります。
例えば、障害のために、毎月の療育費として3万円、通院・リハビリ費用として月1万円が必要となっている場合には、年間で合計48万円の費用が発生することになります。このように、実際にかかっている費用を領収書等によって具体的に示すことが重要です。
ただし、実際にかかった費用の全額が、そのまま「特別費用」として認められるとは限りません。通常の養育費によって賄われるべき費用や、公費・助成によって負担されている部分等を考慮した上で、障害のために特別に必要となっている費用の範囲が検討されます。
この特別費用については、「実際にかかった費用から一律に〇万円を差し引く」といった決まった計算方法があるわけではありません。個々の費用について、障害のために特に必要となっているものか、その金額は相当なものか、公費等による補助があるか等を踏まえて、父母が分担すべき金額が判断されます。
そして、特別費用として父母が分担することが相当とされた場合には、その費用について、父母それぞれの収入等に応じて負担割合を定め、その割合に応じて算出した相手方の負担額を、通常の養育費に加算することになります。
3 養育費の支払始期・終期(子どもに障害がある場合の特殊性)
⑴ 養育費の支払始期については、実務上、養育費の支払請求時とされています。この点、文献上は、養育費の支払請求権の発生要件として扶養義務者の認識も要求されるからとされています。ただ、ここでいう「認識」とは、養育費の支払請求があったことの認識を意味すると考えられますが、前述したとおり、養育費の実質的根拠が親子間の扶養義務にある以上、そのような認識が果たして本当に必要であるのか、疑義が残るところです。
通常は、養育費請求調停(養育費の支払いについて、父母間での話合いがまとまらない場合に、これを定めるために、家庭裁判所に申し立てる法的手続)の申立時(例外的に、養育費請求審判を申し立てる場合には、同審判の申立時)が養育費の支払請求時、すなわち、養育費の支払始期とされます。
もっとも、内容証明郵便等により、養育費請求調停・審判の申立て以前に、養育費の支払請求を行っていることを立証できる場合には、その請求時が養育費の支払始期とされます。
⑵ 他方、養育費の支払終期については、離婚の際の協議により決めるのが原則ですが、子どもが満20歳になるまでと定められるのが一般的です。これは、通常、子どもが20歳に達する頃には、社会的・経済的に自立し、「未成熟子」ではなくなると考えられるからです。(なお、令和4年4月1日に施行された改正民法において、同法4条は、年齢十八歳をもって、成年とする旨を定め、成人年齢を20歳から18歳に引き下げていますが、法務省は、従前どおり、親は、子どもが満20歳になるまで養育費の支払義務を負うものと考えられるとの見解を示しています。)。
このようなことから、家庭裁判所の調停や審判でも20歳までとする場合が多いようです。最も、両親が大学を卒業しているなど大学進学の可能性が高い場合は卒業が見込める22歳とする場合もあります。もっとも、障害がある子どもについては、20歳に達した後も、障害の程度や就労能力等によっては、経済的・社会的に自立することが困難であり、なお「未成熟子」として扶養を必要とする場合があります。このような場合には、家庭裁判所の審判において、子どもの障害の程度、就労の可能性、収入の状況等を踏まえ、なお「未成熟子」に当たるとして、20歳を超える期間についても、養育費の支払義務を認める判断が示されることがあります。
20歳を超える子供の場合、原則として扶養義務の問題となりますが、扶養とすると請求権者が子供自信となり、子供が父親に請求するか母親がその代理人として請求することになり、子どもが父母の一方のもとで療養生活を送るなど、現に扶養を受けている場合には、養育費の問題として取り扱ったほうが実際に即していることから、養育費の請求として母親への支給を認められることもあります(東京高裁昭和46年3月15日決定参照)。参照の裁判例は、婚姻中の婚姻費用分担請求事件です。婚姻費用として成人しているが、介護が必要な子供の生活費を養育費、婚姻費用として請求した事件です。法律を厳密に解すると、成人している子供の介護費用は扶養の問題なので婚姻費用ではないし、養育費も認められないという扱いも可能でしょうが、子供が費用義務の請求をしていない、できないという事情を考慮して、介護の費用を婚姻費用として認めたものです。家庭裁判所は法律を杓子定木に適用していないことがわかります。
4 養育費請求調停・審判
父母間で養育費について合意して、養育費の額や支払方法等を定めるのが原則です。他方、父母間の話合いによって合意できない場合には、家庭裁判所に養育費請求調停・審判を申し立てることになります。
養育費の支払請求については、調停前置主義が採用されているため、まずは、調停を申し立てなければならず、いきなり審判を申し立てることはできないのが原則です。なお、調停については、相手方の住所地を管轄する家庭裁判所に申立てを行うことになります。
養育費請求調停では、父母双方の収入、資産、生活状況、子の監護状況、子の年齢や教育費その他一切の事情について、当事者双方から事情を聴取し、必要に応じて資料等の提出を求めるなどして、裁判官1名と調停委員2名で構成される調停委員会において、紛争に関する事情を把握した上で、解決案を提示したり、紛争解決のために必要な助言を行ったりして、合意形成を目指して話合いが進められることになります。
このように、調停は、あくまでも裁判所における話合いの手続ですので、当事者双方の合意が成立しなかった場合には、調停自体は不成立として終了します。
もっとも、その場合には、自動的に審判手続へ移行し、最終的には、裁判官が、必要な審理を行った上で、父母双方の収入や資産、子の生活状況その他一切の事情を考慮して、養育費の額や支払方法等について判断を示すことになります。
以上
関連事例集
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- QA790:養育費と扶養請求の関係
- QA27:養育費の取り決めと給与差押え
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参考条文
【民法】
第4条(成年)
年齢十八歳をもって、成年とする。
第766条(離婚後の子の監護に関する事項の定め等)
1 父母が協議上の離婚をするときは、子の監護をすべき者又は子の監護の分掌、父又は母と子との交流、子の監護に要する費用の分担その他の子の監護について必要な事項は、その協議で定める。この場合においては、子の利益を最も優先して考慮しなければならない。
2 前項の協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、家庭裁判所が、同項の事項を定める。
3 家庭裁判所は、必要があると認めるときは、前二項の規定による定めを変更し、その他子の監護について相当な処分を命ずることができる。
4 前三項の規定によっては、監護の範囲外では、父母の権利義務に変更を生じない。
第817条の12(親の責務等)
1 父母は、子の心身の健全な発達を図るため、その子の人格を尊重するとともに、その子の年齢及び発達の程度に配慮してその子を養育しなければならず、かつ、その子が自己と同程度の生活を維持することができるよう扶養しなければならない。
2 父母は、婚姻関係の有無にかかわらず、子に関する権利の行使又は義務の履行に関し、その子の利益のため、互いに人格を尊重し協力しなければならない。
第877条(扶養義務者)
1 直系血族及び兄弟姉妹は、互いに扶養をする義務がある。
2 家庭裁判所は、特別の事情があるときは、前項に規定する場合のほか、三親等内の親族間においても扶養の義務を負わせることができる。
3 前項の規定による審判があった後事情に変更を生じたときは、家庭裁判所は、その審判を取り消すことができる。
判例
【東京高裁昭和46年3月15日決定】
主 文
原審判を次のとおり変更する。
抗告人は相手方に対し、婚姻から生ずる費用の分担として、本決定確定と同時に金九万円、昭和四六年三月より別居状態が解消するにいたるまで一月金六万円を毎月末日限り、相手方の住所に送金して支払え。
理 由
(抗告の趣旨および理由)
抗告人は、「原審判を取り消す。相手方の申立を棄却する。」旨の裁判を求め、その理由とするところは、別紙・理由書に記載のとおりである。
(当裁判所の判断)
一 抗告理由第一点について
右抗告理由の要旨は、原審において相手方(原審申立人)は抗告人(原審相手方)に対し、「抗告人は相手方に対し昭和四三年一一月より婚姻から生ずる費用として毎月相当額を支払う」ことを求める旨を申立てているのであるから、原審では別居状態にある抗告人が相手方に支払うべき相手方自身だけの婚姻から生ずる費用の分担額を審理判断すれば足り、かつそれをもつて限度としなければならないにもかかわらず、原審判は相手方の生活費のほか、抗告人と相手方との間の成年の子たる長女牧村喜美子(昭和二三年七月三日生れ)の義育費を含む月額六万円を分担し送金すべき旨を命じており、原審判には相手方の求める申立事項を越えてした違法があるというのである。
もともと夫婦は相互に協力し扶助する権利義務を有し、夫婦とその間の未成熟の子をもつて構成する婚姻共同生活を維持継続するために必要とする費用、すなわち婚姻から生ずる費用を各自の資産、収入その他いつさいの事情を考慮して分担すべきものである(民法七六〇条参照)。もつとも夫婦および未成熟の子が同居して円満な婚姻共同生活を続けている場合には夫婦間における婚姻費用の分担が問題となることは少ないが、夫婦間で生活費分担の程度方法について対立を生じ、あるいは婚姻共同生活に破綻を生じ夫婦が別居し、その一方と未成熟の子とが同居するような事態を生じた場合には、婚姻から生ずる費用の分担額、方法などを協議または調停、審判によつて具体的に確定することが現実の問題として提起されるのである。そして、夫婦の一方が別居する他方に対して、婚姻に関する費用の分担を求める旨を家庭裁判所に申立てるにあたり、申立人自身の生活費のほか、自己と同居する未成熟の子の生活費を併せて請求することは、本来あるべき婚姻共同生活を維持継続するために必要な費用であるから当然に許容されるべきところであり、しかもこの場合に右未成熟の子がすでに成年に達しているときでも、その子と右相手方(未成熟子の親)との間の扶義料支払いに関する具体的内容が確定し、またはその子が自身の権利にもとづき右相手方に対し独立して扶養料請求の申立てをしていないかぎり、右と同様に解するのが相当である。これを本件についてみるに、本件記録および原審判挙示の証拠をあわせ考えれば、相手方は原審において、当初はともかく、抗告人との間の長女喜美子が仙台から帰り、相手方と同居生活を始めてから後は、相手方自身の生活費のほか、自己と同居する長女喜美子の生活費を含む婚姻から生ずる費用の分担を求める旨申立ての範囲を黙示的に拡張していると推認されること(家事審判のごとき非訟事件の申立ての範囲を拡張する場合には、必ずしも書面をもつて明示的にすることを必要としないものと解すべきである)、長女喜美子は昭和二三年七月三日生れであつて、すでに成年に達しているが、生来病弱で再三にわたつて入院加療を続け、現在もなお自宅でもつぱら母親たる相手方の世話になり病養生活を送つており、とうてい相手方と離れ独立して生活を営むに足る能力を具備せず、法律上の未成熟子とみるのが相当であること、長女喜美子と抗告人との間に扶養料支払いに関する具体的内容が確定しておらず、しかも同人が自身の権利にもとづき抗告人に対し独立して扶養料請求の申立てをしていないことを認めることができる。してみると、相手方は抗告人に対し、自身の生活費のほか、長女喜美子の生活費を併せた婚姻から生ずる費用の分担に関する審判を求める旨を申立てているのであり、しかも右のごとき審判を求めることは何ら妨げないところであつて、右申立を認容した原審判は相手方の求める申立事項を超えてした違法はない。これに反する抗告人の所論は、その余の点につき判断するまでもなく、失当たるを免れない。
二 抗告理由第二点について
右抗告理由の要旨は、原審で本件と抗告人申立ての離婚調停事件が事実上併合されて進行したが、昭和四四年六月一八日の調停期日に「抗告人は相手方に対し生活費として調停継続中毎月二万五、〇〇〇円を各月二〇日限り支払う」旨の合意が成立し、抗告人はその合意にしたがつて、同年六月から翌四五年一一月まで相手方に右合意にかかる金額を支払つてきたのであるから、原審判は離婚調停が不成立となつた時から後の婚姻から生ずる費用の分担に関する審判をすべきであるにもかかわらず、原審判は調停により成立した右合意を無視し、調停継続中の相手方の生活費についてまでも、昭和四五年一月以降月額一万円の不足分があると説示し、その不足分の支払いを命じており、したがつて右審判には当事者間の合意によつて成立した調停を無視してした違法がある、というにある。
本件記録ならびに東京家庭裁判所昭和四四年家(イ)第二、二七二号夫婦関係調整事件(申立人、牧村清、相手方、牧村孝子)記録によると、本件が昭和四四年二月二一日東京家庭裁判所に申立てられ同年四月二八日その第一回調停期日が関かれたが、その直後の同年同月三〇日抗告人より相手方に対し離婚調停を求める夫婦関係調整事件が右裁判所に申立てられたので(同庁昭和四四年家(イ)第二二七二号。以上、別件という)、同裁判所調停委員会では本件と別件を事実上併合し、以後同一の期日に両事件の調停を進めていたこと、右調停委員会では両事件の調停を進めるにつき、まず暫定的に相手方の生活費につき当事者間に合意を成立させる必要があるとし、本件第三回調停期日、別件第二回調停期日が同時に開かれた昭和四四年六月一八日、本件を別件に併合する旨の正式な決定をしたうえ調整を試みた結果、当事者間に、「抗告人は相手方に対し、昭和四四年六月以降調停事件係属中、毎月二万五、〇〇〇円あてを、各月二〇日限り相手方住所に送金して支払う」旨の暫定的な合意が成立し、その旨の手続要領を記載した調停期日調書が作成されたこと、抗告人が右合意に従い同年六月から同年八月まで、相手方住所に毎月生活費として金二万五、〇〇〇円を送金したことが認められる。右の事実によると、昭和四四年六月一八日の調停期日に当事者間に成立した前記合意は、本件ならびに別件に関する相手方の生活費の最終的合意ではなく、単に調停進行中における中間的暫定的措置としてされたものというべきである。そうだとすれば、原審判が右合意の存在を度外視し、諸般の事情を考慮したうえ、昭和四五年一月以降月額一万円の不足分があると判断し、これが支払いを命じたことには何らの違法も存しない。右と異る抗告人の所論は採用できない。
なお、抗告人は昭和四四年一〇月一七日の本件第六回調停期日に、「抗告人は相手方に対し相手方および長女喜美子の生活費として昭和四四年九月以降調停係属中毎月五万円を支払う」旨の調停が成立し、抗告人が昭和四四年九月以降毎月申立人の生活費として金三万円、長女喜美子の生活費として金二万円、合計五万円を支払うようになつた旨の原審判の事実認定は誤りであつて、抗告人は長女喜美子に二万五、〇〇〇円を送ることを承諾しただけである。と主張している。本件記録によると、抗告人が昭和四四年九月より同四五年九月まで毎月五万円を相手方および喜美子の両名に立し生活費として送金を続けた事実を認めることができるが、前記第六回調停期日(原審判八丁表六行目には、上記第六回調停期日の開かれたのが「昭和四五年一〇月一七日」であるとされているが、それは「昭和四四年一〇月一七日」の明らかな誤りであるので、そのように訂正する。)に所論のごとき内容の調停が成立したかどうか、および右五万円の趣旨が原審判説示のとおりであるか、それとも抗告人主張のとおりであるかは明らかでないが、仮に抗告人主張のごとき趣旨の中間的な調停が成立し、それに従つた履行がなされたとしても、相手方が抗告人に対し相手方自身および長女喜美子の従前の生活費の不足分および将来の生活費を婚姻から生ずる費用の分担として請求しうることは前示のとおりであるため、原審判の結論に影響を与えるものではなく、所論は採るを得ない。
三 抗告理由第三点について
右抗告理由の要旨は、申立人は昭和四三年一一月からの婚姻から生ずる費用の分担を抗告人に対し求めているが、抗告人が昭和四三年一一月より一時送金をしなかつた事由は、相手方代理人弁護士山田直大との離婚条件についての合意を相手方が一方的に撤回したのみでなく、抗告人は昭和四二年一一月から同四三年一〇月までの間にすでに十分な金員(この金額総計は原審判の認めた相手方の生活費月額二万八、二〇〇円の二四か月分以上に相当する)を交付ずみであつたからであり、そのほか右期間中にまゆみの入院のため抗告人は総額一二〇万円余を支出した事実があり、これを主張したにもかかわらず、原審判はこれを看過した違法がある、というのである。
婚姻から生ずる費用の分担に関する審判をするについては、夫婦の資産、収入その他一切の事情を考慮して判断すべきであるため、これを審理する家庭裁判所としては、当事者双方の主張に則り夫婦の資産、収入のほか、生活歴、職業歴、夫婦間の金銭授受の実態その他諸般の事情をできるだけ詳細に調査することが必要であるけれども、それらのすべてを審判書の理由に説示する必要はなく、審判主文が導き出されるのに必要と認められる限度で説示すれば足りるというべきである。本件についてこれをみるに、原審判は当事者双方の主張を詳細に検討し、抗告人主張事実の含まれる各証拠をも総合勘案したうえ、抗告人につき昭和四五年一月以降同年九月までの不足分合計九万円の支払義務と同年一〇月以降の毎月の分担額六万円の支払義務を形成し、相手方に対しこれが支払いを命じているが、その理由として説示するところは必要にして十分であると認められる。したがつて、抗告人の前記主張事実が原審判の理由中に説示されていないからといつて、直ちに原審裁判所がその事実を看過したものということはできず、所論は採用の限りでない。
四 抗告理由第四点について
右抗告理由の要旨は、原審判は抗告人と相手方との婚姻生活破綻の責任が抗告人に重いと説示しているが、それはむしろ逆であり、責任の軽重の判断につき事実誤認の違法がある、というにある。
原審判挙示の証拠をあわせ考えれば、抗告人と相手方とが別居するにいたつた経過およびその後の状況などについては原審判認定のとおりの事実(ただし本決定で訂正する部分を除く。)を認めることができる。そして、右事実にもとづき、抗告人と相手方が別居し、その婚姻生活が破綻状態に立ちいたつたことの主要な責任が抗告人にあるとする原審判の説示は相当であつて、これに反する抗告人の所論は採用できない。
五 そこで進んで職権をもつて原審判の適合につき判断する。
原審判挙示の証拠によると、該審判説示のとおりの事実(ただし、本決定で訂正した部分を除く。)を認めることができその事実から、抗告人につき婚姻から生ずる費用の分担として昭和四五年一月以降同年九月までの不足分合計九万円の支払義務と同年一〇月以降毎月六万円ずつの分担額支払義務を形成し、相手方に対しこれが支払いを命じた原審判は相当というべきである。しかして、当審においてさらにその後の事実を調査したところ、相手方作成の当庁昭和四六年二月一四日受付の書面、抗告代理人作成の同年同月一五日付の回答書および当庁書記官が同年同月二二日相手方との間になした電話聴収書によると、抗告人は原審判の命ずるところにより、昭和四五年一一月より同四六年一月までの婚姻より生ずる費用の分担として毎月六万円を相手方および長女喜美子の両名宛に送金し、昭和四六年二月分として六万円を送付すべきところ、抗告人において相手方ら居住家屋に架設され相手方らの使用した昭和四六年一月分の電話使用料一、一九四円を立替え支払つたため、そのうち一、〇〇〇円を差引く旨の書面を添え、右使用料受領の領収証を同封し、残額五万九、〇〇〇円を相手方および喜美子宛の現金書留郵便で送金したことが認められる。右の事実によると、抗告人は原審判の命じた婚姻から生ずる費用の分担額のうち昭和四五年一一月より同四六年二月までに支払うべき毎月六万円ずつの債務を完済し、該債務はすでに消滅したものといわねばならない。
六 よつて、原審判主文第一項を前項で説示した限度において変更することとし(なお原審判は主文第二項において、臨時に必要な処分を命じているが、本決定はその告知とともに確定し、右処分を命ずる必要がないので、これを付さない)、主文のとおり決定する。
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