質問
飲酒中のけんかで相手をけがさせ、全治3週間と聞いています。私にも顔のあざ等があります。相手から100万円を請求されましたが、金額に納得できません。謝罪や賠償をどう進めればよいでしょうか。
回答
けがをさせた責任が認められる場合でも、請求された100万円をそのまま支払う義務が確定するわけではありません。治療費、休業損害、慰謝料等の内訳、因果関係、証拠を確認します。他方の行動や自分のけがも重要ですが、けんかだから自動的に責任が半分になるわけでもありません。刑事事件への対応と民事の示談を並行して検討し、感情的な直接交渉が難しければ弁護士を窓口にしてください。
解説
1 診断書の「全治3週間」と金額の関係
診断書の全治見込みは、診察時点での医学的な予測です。それだけで実際の治療期間、休業の必要性、後遺症の有無、慰謝料が一律に決まるわけではありません。
けがの部位・程度、診療内容、実際の通院、仕事への支障、既往症等を確認します。相手の請求を全て不当と決め付けず、裏付けを求めて項目ごとに検討しましょう。
2 損害賠償の主な項目
治療費、薬代、必要な通院交通費、休業損害、入通院慰謝料等が問題になります。後遺症が残れば後遺障害慰謝料や逸失利益等を検討する場合があります。壊れた眼鏡等の物損も、原因と金額の確認が必要です。
診療明細・領収書、診断書、勤務先の休業証明、給与・確定申告資料、通院記録等を基に計算します。実際に収入が減ったか、治療のため休む必要があったか等も問題になります。請求書の名称だけで損害が成立するものではありません。
3 相手にも責任がある場合
先に誰が何をしたか、凶器、暴力の程度、挑発、回避可能性、時間的な経過等を整理します。損害の発生・拡大について被害者側にも落ち度があれば過失相殺(民法722条2項)を検討しますが、故意の加害行為との関係を含め個別判断です。
自分にもけががあるときは受診し、写真や診断書を保存します。自分の損害賠償請求が成立するかも検討できます。ただし、双方の債権があるからといって自由に相殺できるとは限らず、故意による不法行為や生命・身体侵害債務に関する民法509条の制限にも注意が必要です。
4 正当防衛と飲酒の影響
急迫不正の侵害を防ぐため、やむを得ず行った行為であれば、刑法36条や民法720条の正当防衛が問題になります。しかし、反撃が過大だった、攻撃終了後に報復した等の事情により結論は変わります。
酒を飲んでいた、覚えていないというだけで責任を免れるわけではありません。刑事・民事とも、当時の行動、意思・能力、酔った経緯等を検討します。記憶を埋めるために推測の事実を相手や警察へ説明しないでください。
5 防犯映像・目撃者等の証拠
日時、場所、店名、目撃者、入退店・決済記録、相手とのメッセージ、現場とけがの写真を保存します。防犯映像は保存期間が短いことがあるため、弁護士等を通じて早期の保全を検討します。
相手を問い詰めたり、目撃者に有利な話をするよう求めたりすると、新たな紛争や捜査上の問題を生じさせます。自分に不利な部分も含めて記録を残し、弁護士に正確に説明してください。
6 傷害の刑事手続と示談
人を負傷させた場合は傷害罪等が問題となり、傷害罪は告訴がなければ起訴できない犯罪ではありません。被害届を取り下げても必ず捜査・処分が終わるものではありません。
謝罪、治療費等の支払い、示談、再接触防止は処分や量刑の判断資料になり得ますが、不起訴・罰金・釈放が保証されるものではありません。逮捕・勾留の危険がある場合は、民事金額だけでなく刑事弁護を早期に相談してください。
7 示談書で確認すること
対象の出来事、責任の整理、支払額と期限、分割時の扱い、接触・連絡の方法、清算範囲等を明確にします。刑事処分に関する被害者の意向も、本人の自由な意思で確認します。相手の代理人がいる場合はその窓口を尊重しましょう。
治療が続いている段階で全損害を確定させるのが難しければ、先に争いのない治療費を支払う、将来の後遺症を留保する等の合意も検討します。後から必ず追加請求できる又は必ずできないと決め付けず、文言と経緯を確認します。
8 高額請求や脅しへの対処
金額の根拠を文書で求め、支払う範囲と理由を説明しながら交渉します。刑事事件を避けたい気持ちから、即日で支払えない額の借用書等へ署名する前に相談してください。
本当に被害がある人が示談金を求めること自体は直ちに違法ではありません。一方、暴力、執拗な威迫、勤務先への暴露を使う金銭要求等は別の法的問題になり得ます。危険時は警察へ連絡し、交渉記録を保存します。
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本稿は2026年10月22日時点で確認した法令・公表資料に基づく一般的な説明です。契約・出生・行為等の時期によって旧法や経過措置が問題となり、個別の結論は資料と事情により異なります。
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参考条文
主な関係条文は以下のとおりです(要旨・参照箇所)。リンク先で全文と施行状況を確認できます。
判例・公的参考資料
最高裁昭和43年3月15日判決は、損害全体を把握しにくい段階の少額示談について、予想できなかった後遺症等の損害まで放棄した趣旨とは解されない場合があるとしました。当事務所No.1199で解説しています。交通事故の判例ですが、示談の対象範囲を慎重に定める必要性を考える上で参考になります。けんかの損害額や責任割合を一律に決める判例ではありません。
参考資料・PDF・書式