弁護士費用の用意が困難な場合(平成20年7月10日更新)


質問:交通事故で片目を失明していました。私は失業して全く収入がありません。運転者のミスだと思うので、訴訟を提起したいと思っているのですが、訴訟費用も支払えない状況です。何か方法ないでしょうか。



回答・解説:

1、 訴訟にかかる費用として、訴訟費用(印紙、郵券)と弁護費用(最初に用意する着手金、裁判終結後に支払う報酬に分かれます)がありますが、費用が用意できない場合の対策としては以下のものが考えられます。

@ 訴訟費用については訴訟救助の申立て(民事訴訟法82条−86条)。
A 弁護士費用等については厳格な審査がありますが平成16年に設立された独立行政法人日本司法支援センター(いわゆる法テラス)の法律扶助により弁護士費用、訴訟費用の立替払いをうけ分割して返済し(例えば毎月1万円程度)終了時に手数料等を支払い清算することが出来ます。
B 更に、公的制度とは無関係に貴方が個別的に依頼する法律事務所との協議、委任契約により勝訴した場合のみ訴訟により得た経済的利益額から弁護士費用を支払うという方式(一般的には経済的利益の20%前後が多いと思われます)もございます。収入等の審査もありませんし万が一敗訴の場合弁護士費用は不要(実費を除く)ということになりますので敗訴による弁護士費用負担の危険性を除くことが出来ます。

2、 運転者に落ち度があれば裁判で運転者、車両所有者に対して不法行為に基づく損害賠償請求訴訟を提起できます。しかし、たとえ訴訟を自分で起こすとしても、一定額の印紙(請求額の1%以下で額が多ければ低額になります、1000万円ですと5万円)と送達用の切手(東京地裁、通常訴訟6400円)を裁判所に納付しなければなりません。また、病院が事実を争ってきた場合には、証人として、担当医師を申請することも必要となる場合もあります。この場合には、証人の旅費(旅客運賃実費)や日当(1日8000円)も必要となってきます。しかし、訴訟費用を用意できないからといって、泣き寝入りに終わってしまうのでは、問題です。そこで、民事訴訟法82条以下に訴訟救助の制度というものが規定されております。

3、 民事訴訟法82条の制度趣旨は、国民の裁判を受ける権利(憲法32条)を保障するためにあります。わが国は法治国家ですから紛争の自力救済は許されませんので必ず裁判所を通じて私的な紛争を解決しなければならないのです。しかし、公的な裁判制度を利用する場合、最低限の手続費用である訴訟費用(民事訴訟費用等に関する法律で定める費用、裁判費用と当事者費用からなります)がかかるのです。これは私的紛争ですから当事者に最低限の費用を負担してもらう意味と、濫訴を防止する意味もございます。ところが、生活状況によっては訴訟費用さえも準備できないことがありますから、国家として裁判を受け利権利を実質的に保障するため訴訟救助が用意されているのです。

4、 この場合の要件は、@訴訟費用を支払う資力がないこと、A事件が勝訴の見込みがないとはいえないこと、が必要です。@の要件があるといえるには、生活費も出せない状況であることが必要と考えられており、厳しい要件となっています。またこの要件をみたすことを示すには、民生委員の生活扶助を受けている旨の証明書などが必要となります。

5、 この訴訟救助の申立ては、申立人が訴訟係属すべき裁判所に対し事件を特定して行うことが必要です。病院に対して不法行為に基づく損害賠償請求をするのであれば、「不法行為地」を管轄する裁判所に訴え提起することになりますので、訴訟救助の申立ても同じ裁判所にすることになります。その際、前述の要件を示す資料を提出し、裁判所が、救助の申立てに理由がありと認めた場合には、決定で救助する旨の判断をすることになります。これによって、印紙を貼付する必要もなくなりますし、証人の費用も支払が猶予されることになります。支払猶予ですから勝訴の場合に相手方から支払いを受け裁判所に支払います(民訴85条)。

6、 しかし、民事裁判の紛争が複雑で、弁護士を依頼する場合の費用、弁護費用については本人訴訟が建前になっている関係上訴訟救助の対象になっていません。しかし、裁判費用の額から言えば、弁護士費用の方が金額的にも大きく、重要な事件であれば法的専門家の必要性は不可欠ですから弁護費用を用意できなければ実質的に裁判を受ける権利の保障は有名無実になってしまいます。そこで法律扶助制度というものがあります。これは、訴訟費用だけでなく、弁護士費用も裁判が終了するまで立て替えてくれます。頼みたい弁護士がいるのに費用が用意できない場合(そもそも依頼しようとする弁護士がいない場合も利用できます)、訴訟費用や弁護士費用を払う余裕がないようなときに、裁判を受ける権利を実質的に保障し国民の権利の平等な実現を図るため、法律の専門家による援助や、裁判のための費用を援助するのが法律扶助の制度です。法律扶助については、財団法人法律扶助協会が事業として行ってきましたが、総合法律支援法の成立に基づいて平成16年10月2日に日本司法支援センター(通称「法テラス」)が業務を開始し従来の民事法律扶助事業を引き継ぎました。

7、 弁護士に依頼する裁判費用を立て替える条件ですが、日本司法支援センターの運営によると、@勝訴の見込み、A依頼者の資力、B法律扶助の趣旨の観点から費用立替の諾否を判断いたします。この制度は、一時的裁判費用の立替ですが依頼者の資力の要件も厳格になっています。例えば、単身者の場合、手取りで182000円以下の収入が目安となっております。また、これを上回る場合でも、家賃、医療費の支出がある場合には考慮されるとのことです。但し、勝訴、敗訴にかかわらず立て替えてもらった費用は返済しなければなりません。依頼する弁護士が決まっていれば、担当弁護士と話し合って手続をしてください 。具体的に立替制度を受けるためには、無料法律相談を受け、新たに勝訴の見込みの説明、下記の申告した内容を裏付ける書類の提出が必要です。

必要書類 世帯全体の記載のある住民票(本籍地の記載されたもの)、
収入証明書類の例 給与明細・納税証明(非課税証明)・確定申告書の写し・生活保護受給証明書・年金証書(通知書)

8、 次に、公的制度を利用しないで個別的に依頼する弁護士と協議し、費用が用意できないことを説明し、勝訴した時のみその経済的利益から弁護士費用を支払うという契約により交渉を開始し、訴えを提起することもできます。例えば、勝訴の可能性が不確実な場合などの方法です。この方式は、審査等は不要であり弁護士との協議、了解のみで開始でき、弁護士に最初に支払う費用(着手金)は不要になりますし万が一敗訴の場合弁護士費用はかからないという利点がありますが、実費程度の準備は必要ですし、幾分報酬が多めになる場合もございます(一般的には訴訟により獲得する経済的利益の20%前後)。弁護士報酬の自由化に伴いこの様な方式も増えているようです。信頼する弁護士との信頼関係が大切です。

9、 このように、最初に裁判費用を用意できなくても交渉、訴訟を提起する方法がありますので、資力がないという理由のみで訴訟を諦める必要はないと思います。大切なのは、本当に運転者の過失があったのかということです。詳細については最寄りの法律事務所にご相談してください。


※参考条文
民事訴訟法第82条(救助の付与)訴訟の準備及び追行に必要な費用を支払う資力がない者又はその支払により生活に著しい支障を生ずる者に対しては、裁判所は、申立てにより、訴訟上の救助の決定をすることができる。ただし、勝訴の見込みがないとはいえないときに限る。
2 訴訟上の救助の決定は、審級ごとにする。
第83条(救助の効力等)訴訟上の救助の決定は、その定めるところに従い、訴訟及び強制執行について、次に掲げる効力を有する。
一 裁判費用並びに執行官の手数料及びその職務の執行に要する費用の支払の猶予
二 裁判所において付添いを命じた弁護士の報酬及び費用の支払の猶予
三 訴訟費用の担保の免除
2 訴訟上の救助の決定は、これを受けた者のためにのみその効力を有する。
3 裁判所は、訴訟の承継人に対し、決定で、猶予した費用の支払を命ずる
第85条(猶予された費用等の取立方法)訴訟上の救助の決定を受けた者に支払を猶予した費用は、これを負担することとされた相手方から直接に取り立てることができる。この場合において、弁護士又は執行官は、報酬又は手数料及び費用について、訴訟上の救助の決定を受けた者に代わり、第七十一条第一項、第七十二条又は第七十三条第一項の申立て及び強制執行をすることができる。

民事訴訟費用等に関する法律
第1条(趣旨)民事訴訟手続、民事執行手続、民事保全手続、行政事件訴訟手続、非訟事件手続、家事審判手続その他の裁判所における民事事件、行政事件及び家事事件に関する手続(以下「民事訴訟等」という。)の費用については、他の法令に定めるもののほか、この法律の定めるところによる。

第2条 (当事者その他の者が負担すべき民事訴訟等の費用の範囲及び額)民事訴訟法その他の民事訴訟等に関する法令の規定により当事者等(当事者又は事件の関係人をいう。第四号及び第五号を除き、以下同じ。)又はその他の者が負担すべき民事訴訟等の費用の範囲は、次の各号に掲げるものとし、その額は、それぞれ当該各号に定めるところによる。
一  次条の規定による手数料
   その手数料の額(第九条第三項又は第五項の規定により還付される額があるときは、その額を控除した額)
二  第十一条第一項の費用
   その費用の額
三  執行官法 (昭和四十一年法律第百十一号)の規定による手数料及び費用
   その手数料及び費用の額
四  当事者等(当事者若しくは事件の関係人、その法定代理人若しくは代表者又はこれらに準ずる者をいう。以下この号及び次号において同じ。)が口頭弁論又は審問の期日その他裁判所が定めた期日に出頭するための旅費、日当及び宿泊料(親権者以外の法定代理人、法人の代表者又はこれらに準ずる者が二人以上出頭したときは、そのうちの最も低額となる一人についての旅費、日当及び宿泊料) 次に掲げるところにより算定した旅費、日当及び宿泊料の額

総合法律支援法
第1条(目的)この法律は、内外の社会経済情勢の変化に伴い、法による紛争の解決が一層重要になることにかんがみ、裁判その他の法による紛争の解決のための制度の利用をより容易にするとともに弁護士及び弁護士法人並びに司法書士その他の隣接法律専門職者(弁護士及び弁護士法人以外の者であって、法律により他人の法律事務を取り扱うことを業とすることができる者をいう。以下同じ。)のサービスをより身近に受けられるようにするための総合的な支援(以下「総合法律支援」という。)の実施及び体制の整備に関し、その基本理念、国等の責務その他の基本となる事項を定めるとともに、その中核となる日本司法支援センターの組織及び運営について定め、もってより自由かつ公正な社会の形成に資することを目的とする。
   第二章 総合法律支援の実施及び体制の整備
第2条(基本理念)総合法律支援の実施及び体制の整備は、次条から第七条までの規定に定めるところにより、民事、刑事を問わず、あまねく全国において、法による紛争の解決に必要な情報やサービスの提供が受けられる社会を実現することを目指して行われるものとする。
第3条(情報提供の充実強化)総合法律支援の実施及び体制の整備に当たっては、法による紛争の迅速かつ適切な解決に資するよう、裁判その他の法による紛争の解決のための制度を有効に利用するための情報及び資料のほか、弁護士、弁護士法人及び隣接法律専門職者の業務並びに弁護士会、日本弁護士連合会及び隣接法律専門職者団体(隣接法律専門職者が法律により設立を義務付けられている法人及びその法人が法律により設立を義務付けられている法人をいう。以下同じ。)の活動に関する情報及び資料が提供される態勢の充実強化が図られなければならない。
第4条(民事法律扶助事業の整備発展)総合法律支援の実施及び体制の整備に当たっては、資力の乏しい者にも民事裁判等手続(裁判所における民事事件、家事事件又は行政事件に関する手続をいう。以下同じ。)の利用をより容易にする民事法律扶助事業が公共性の高いものであることにかんがみ、その適切な整備及び発展が図られなければならない。

第5条(国選弁護人等の選任態勢の確保)総合法律支援の実施及び体制の整備に当たっては、迅速かつ確実に国選弁護人(刑事訴訟法 (昭和二十三年法律第百三十一号)の規定に基づいて裁判所若しくは裁判長又は裁判官が被告人又は被疑者に付する弁護人をいう。以下同じ。)及び国選付添人(少年法 (昭和二十三年法律第百六十八号)の規定に基づいて裁判所が少年に付する弁護士である付添人をいう。以下同じ。)の選任が行われる態勢の確保が図られなければならない。

第6条(被害者等の援助等に係る態勢の充実)総合法律支援の実施及び体制の整備に当たっては、被害者等(犯罪により害を被った者又はその者が死亡した場合若しくはその心身に重大な故障がある場合におけるその配偶者、直系の親族若しくは兄弟姉妹をいう。以下同じ。)が刑事手続に適切に関与するとともに、被害者等が受けた損害又は苦痛の回復又は軽減を図るための制度その他の被害者等の援助に関する制度を十分に利用することのできる態勢の充実が図られなければならない。

第7条(連携の確保強化)総合法律支援の実施及び体制の整備に当たっては、国、地方公共団体、弁護士会、日本弁護士連合会及び隣接法律専門職者団体、弁護士、弁護士法人及び隣接法律専門職者、裁判外紛争解決手続(裁判外紛争解決手続の利用の促進に関する法律 (平成十六年法律第百五十一号)第一条 に規定する裁判外紛争解決手続をいう。第三十条第一項第六号及び第三十二条第三項において同じ。)を行う者、被害者等の援助を行う団体その他の者並びに高齢者又は障害者の援助を行う団体その他の関係する者の間における連携の確保及び強化が図られなければならない。
第8条(国の責務)国は、第二条に定める基本理念(以下「基本理念」という。)にのっとり、総合法律支援の実施及び体制の整備に関する施策を総合的に策定し、及び実施する責務を有する。
第9条(地方公共団体の責務)地方公共団体は、総合法律支援の実施及び体制の整備が住民福祉の向上に寄与するものであることにかんがみ、その地域における総合法律支援の実施及び体制の整備に関し、国との適切な役割分担を踏まえつつ、必要な措置を講ずる責務を有する。
第10条(日本弁護士連合会等の責務)日本弁護士連合会及び弁護士会は、総合法律支援の意義並びに弁護士の使命及び職務の重要性にかんがみ、基本理念にのっとり、会員である弁護士又は弁護士法人による協力体制の充実を図る等総合法律支援の実施及び体制の整備のために必要な支援をするよう努めるものとする。
2  弁護士及び弁護士法人は、総合法律支援の意義及び自らの職責にかんがみ、基本理念にのっとり、総合法律支援の実施及び体制の整備のために必要な協力をするよう努めるものとする。
3  隣接法律専門職者及び隣接法律専門職者団体は、総合法律支援の意義及び自らの職責にかんがみ、基本理念にのっとり、総合法律支援の実施及び体制の整備のために必要な協力をするよう努めるものとする。
第11条(法令上の措置等)政府は、第八条の施策を実施するため必要な法制上又は財政上の措置その他の措置を講じなければならない。
第12条(職務の特性への配慮)この法律の運用に当たっては、弁護士及び隣接法律専門職者の職務の特性に常に配慮しなければならない。


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