新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.1639、2015/10/02 12:00 https://www.shinginza.com/qa-hanzai.htm
【刑事、電車内の喧嘩(暴行,傷害)と刑事事件、簡易書式適用例対象事件と弁護士の必要性について】


電車内の喧嘩(暴行、傷害)と刑事事件


質問:電車内で他の乗客とトラブルになってしまい,つい手を出してしまいました。当日は飲み会の帰りで酒がかなり進んでいたこともあって,気が大きくなっていました。深夜の電車内で人が多かったのですが,私の横にリュックサックを掲げる男性がおり,何回もぶつかってきたので強めに注意しました。相手の男性もこれに対してかなり怒ったようで,口論になってしまいました。私はついかっとなって,その男性の顔を3回程殴ってしまいましたのです。私と男性は,そのまま駅を降り,駅員に連れられ駅員室に行き,そのまま警察に行くことになりました。取調べがあり事実は認めたので,逮捕はされずに家に帰って来たのですが,今後私はどうなってしまうのでしょうか。その男性は,私が殴ったことによって,軽い怪我をしたそうです。本件について,今後,弁護士を立てるなどした方が良いでしょうか。



回答:

1 現在あなたは,相手の男性に暴行を加え,怪我を負わせたということで,傷害罪の被疑者として捜査の対象となっています。相手の態度にも問題はあるかもしれませんが,刑事事件としての扱いを免れることはできません。警察による取調べその他の捜査の後,検察庁に事件が送致され,最終的な処分を受けることになります。例外的に警察だけの捜査で終わる場合もあり、これを微罪処分と言いますが、傷害罪の場合は微罪処分にはならず、必ず検察官に送致されることになります。怪我の程度が不明ですので確実な回答はできませんが、処罰が必要となれば罰金刑が予想されます。もちろん、けがの程度が軽い場合、また示談が成立している場合には検察官の判断で不起訴処分となり処罰されないこともあります。

 仮に罰金刑となると、罰金刑も法律上の前科に該当することになり,また,勤務先に連絡があった場合には,前科があるとして職場から懲戒処分を受けることもあり得ますので,本件は何とか不起訴処分にしてもらう必要があります。

2 もっとも,本件においては,事件を検察に送致する際に通常の送致方法ではなく,簡易かつ定型的な捜査資料のみで送致する「簡易書式例適用事件」としての送致があり得るところです。簡易書式例による送致の場合,検察官も簡易かつ定型的な軽微事案と評価されるのが通例で,処罰価値は低いものとして,不起訴処分が選択されることが多いといえます。

3 このように不起訴処分の可能性を限りなく高くするためには簡易書式例適用事件として適用を受ける必要があり、そのためには犯行が単純であり,かつ,証拠の明らかなものであること,偶発的犯行で凶器を用いていないことなどの事実を警察に主張することが必要です。また,傷害罪における処分価値を決めるに際して最も重要なのは,被害者との示談の有無ですので,並行して示談交渉を進めていく必要があるでしょう。

  示談交渉及び警察との交渉においては弁護人を通じて行うことが必要と思われますので,お困りであれば,弁護士に相談した方が良いでしょう。

4 傷害罪に関する事例集としては,その他1002番1464番644番805番1489番1540番等をご参照ください。


解説:

第1 あなたが現在置かれている法的な地位

 1 被疑者としての地位

   今回あなたは,電車内において男性と口論になり,結果,男性の顔面を3回程殴ってしまったということですので,そのことによってどのような法的地位にあるのかについて検討していきます。

 (1)成立する犯罪(傷害罪)

   人を殴打する行為は,「人の身体に対して有形力を行使」したものとして,刑法上の暴行罪(刑法208条)に該当することになります。さらに,暴行によって,相手が怪我をしたということですので,皮膚の表皮剥脱などの身体の機能障害を引き起こしたということで,刑法上の傷害罪(刑法204条)に該当します。
傷害罪に該当した場合,15年以下の懲役又は50万円以下の罰金刑に処せられることになります。

   この点,先方が荷物をぶつけてきたことが契機とはなっていますが,あちらから手を出してきたわけではないので,正当防衛は成立せず,犯罪としては成立することになります。

 (2)刑事事件としての扱い

   本件では傷害罪が成立することになりますが,例え電車内での喧嘩のような軽微事案であったとしても,一度警察で話をしている以上,被害届が出されているものと考えられ、今後は刑事事件の被疑者として捜査ないし刑事処分の対象になってしまいます。

   本件では,逮捕などの身体拘束はされていませんので,在宅事件として捜査の対象になっています。今後は,警察で取調べがなされ,検察庁に事件が送致され,検察官が適宜取調べを行った後,最終的な刑事処分がなされることとなります。

   最終的な刑事処分としては,特段前科などがなければ,いきなり懲役刑を選択されることは少ないでしょう。本件では,おそらく罰金刑が選択されることになります。若しくは今回に限り,起訴を猶予する起訴猶予処分(不起訴処分)が選択されることもあります。

   ただし,刑事処分をどうするかは検察官の裁量に委ねられるところで,個別の事情によって処分内容は変動するところです。したがって,有利な事情については可能な限り主張しておく必要があります。この点,捜査機関への交渉が必要になりますが,弁護士を選任した上で詳細に準備しておくことが有用と思われます。弁護士が行う具体的活動については,後述します。

 2 今後想定される社会的な不利益

 (1)前科による不利益

   以上のとおり,本件は傷害罪に該当する以上,想定される刑罰としては罰金刑となる可能性が高いでしょう。罰金刑であっても法律上の前科には該当しますので,納付する罰金と併せ,前科を受けたという事実が残ってしまいます。

   この点を回避するためには,被害者に誠実に対応することなど,有利な情状をしっかりと集めて,検察官に不起訴処分(起訴猶予)にしていただくよう十分な活動を行っていく必要があるでしょう。

 (2)その他の不利益(勤務先での処分)

   法律上の前科による不利益は,上記にとどまりません。本件のような刑事事件が発生した場合,警察などの捜査機関から,あなたの勤務先に対し,連絡が行くことが往々にしてあります。

   通常の会社においては,その従業員が刑法上罰せられ法律上の前科に科せられた場合に,何らかの懲戒処分を行う旨の就業規則を設けているのが通例です。懲戒処分の内容としては,戒告,減給の他,最も重い処分として懲戒解雇があります。

   勤務先(会社)が従業員が前科に科せられた事実(その前提として犯罪行為があったことも含まれます。)を認知した場合,懲戒処分をするか否かの判断をせざるを得ません。

   懲戒処分の選択については,会社にある程度の裁量が認められているところであり,一般的には会社が選択した懲戒処分に服する必要があります。懲戒処分の内,懲戒解雇に関しては労働契約法その他関連労働法によって厳しく制限されているところですが,場合によっては非行の程度としては大きいものとして,懲戒解雇が選択されることもないとはいえません。懲戒解雇となった場合,労働審判などの法的手続で解雇の無効を争うことになりますが,かなりの時間と費用が掛かり負担が大きいですので,そもそも法律上の前科になることを避け,懲戒処分自体を避けるという観点が極めて重要になるでしょう。

第2 今後の対策

 1 簡易な送致方法に関する交渉

 (1)事件の検察官への送致

   上記のとおり,本件は傷害罪という刑事事件として在宅捜査の対象になっているところです。
   その際,まずは警察署の方で,被害者やあなたその他の関係者への事情聴取,現場の見分などといった所定の捜査を行い,必要な捜査が終わった段階で,検察庁へ刑事事件を送ることになります。警察が所定の捜査を終え,事件を検察に引き継ぐことを「送致」といいます。マスコミ用語でいう「書類送検」とは一般的にこのことを指します。

   警察は,犯罪の捜査をした場合には,速やかに書類及び証拠物と共に事件を検察官に送致する義務を負っています(刑事訴訟法246条)。いわゆる,全件送致主義というものです。

 (2)微罪処分の例外

   このように,警察は刑事事件の捜査を終えた場合には,関係書類と共に事件を検察官に送致して引き継ぐ必要があるのですが,これには例外があります。刑事訴訟法246条も「法律に特別の定のある場合」には,送致が不要な場合を認めています。いわゆる「微罪処分」というものです。

   微罪処分の具体的内容としては,犯罪捜査規範193条以下に規定があります。微罪処分に該当する場合には,1月毎にその内容を検察官に報告すれば足り,事件送致がなされることはありません。すなわち,別途検察官から刑事処分がなされることは一切ありません。

   ただし,微罪処分は,検察官による捜査が不要な程度の特定の極めて軽微な事件について例外を認めるものであり,一定の軽微な犯罪類型ないし事情に該当することが必要です。人に対する暴行事件も微罪処分に該当しますが,暴行を超えて,人に怪我を負わせたという傷害事件については,微罪処分の対象になりません。
 
(3)簡易書式例対象事件の例外

   警察が刑事事件として認知した事案で微罪処分に該当しない場合は,上に述べたとおり,詳細な捜査資料(供述調書など)を作成した上で検察庁に事件を送致する必要があります(通常送致)。

   しかし,全ての刑事事件について詳細な捜査資料を作成して事件を送致することは,警察署の事件処理を膨大にさせるものであり,人的資源からも限界があります。そこで,微罪処分には該当しないけれども,一定の軽微な事案類型に該当する場合には,「司法警察員捜査書類簡易書式例対象事件」(以下「簡易書式例対象事件」といいます。)として,捜査資料作成の簡易化が図られています。

   簡易書式例対象事件に該当する場合,捜査資料については定型化された記載事項に限定されており,簡易に資料の作成ができるものとされています。これにより,軽微かつ定型的な事件について,送致までの手順が簡略化され,早期の送致が可能となっているのです(なお,少年事件における簡易送致の制度とは異なります)。

   簡易書式例による送致は,上記の微罪処分とは異なり,検察庁に送致自体はされるので,検察庁による判断はなされます。したがって,刑事処分を受けないことまで前提とする制度ではありません。

   ただし,既に上で述べたように,簡易書式例送致は,軽微かつ定型的な事件に限って適用がなされることを前提としますから,通常の送致と比較して,不起訴処分(起訴猶予)になる可能性は高いものです。したがって,警察署に対し,簡易書式例事件の扱いにするよう交渉することは有用といえます。

   簡易書式例対象事件として何が指定されているか,及び,具体的な手続については,以下のホームページが参考になります。

<参考HP>宮城県警察ホームページ
http://www.police.pref.miyagi.jp/hp/jouhou_senta/eturansiryou/pdf/tiiki/syorihannitokijyunn.pdf

  本件のような傷害罪においては,「1 犯行が単純であり,かつ,証拠の明らかなもの」「(4)傷害、暴行 偶発的犯行で凶器を用いないもの」に該当する場合には,簡易書式例適用事件として,簡易的な送致方法によることができるとされています。

  本件でも,電車内での些細な口論が契機となった犯行で,かつ暴行態様も軽微なものに過ぎませんので,簡易書式例としての扱いは十分に考えられるところです。もっとも,犯行自体偶発的でない,軽微でないなどとして,警察署として通常送致の判断をする可能性も十分にあります。リスク回避の観点からも,弁護士を通じて,簡易書式例適用に関する交渉を行うことが必要といえるでしょう。

 2 弁護士への依頼,具体的な弁護活動

   本件は傷害罪の被疑者として在宅捜査を受ける地位にあるわけですが,上で述べたとおり法律上の前科のリスクがあること,それに伴う諸々の社会的不利益が想定されることから,何もせずにいるのは得策ではありません。本件は刑事事件ですので,適切な弁護人を立てて,以下のとおり活動を行ってもらうことが有用でしょう。

(1)警察との交渉(勤務先連絡等の阻止)

  本件では勤務先に連絡があり,それに伴う懲戒処分の危険があるわけですから,まずは弁護士を通じて警察に伺い,勤務先の連絡を阻止するよう交渉することが必要です。

  もちろん,勤務先への連絡は警察の判断で行うもので,必ずしも止めることはできませんが,職務外の非行であり勤務先は関係ないこと,今後の捜査において勤務先への連絡は必要不可欠ではないこと,場合によっては代理人弁護士から必要な情報提供は行うことなどを告げ,勤務先への連絡阻止活動を行うことは重要な意味があります。

  さらに,本件は在宅捜査であり,証拠隠滅や逃亡のおそれありとして逮捕などの身体拘束がなされる可能性は高いものではありませんが,改めて警察に身体拘束が不要であることを主張しておくことも必要でしょう。

 (2)被害者との示談交渉

   また,本件のような被害者のいる犯罪においては,被害者との示談交渉を行うことが必要です。示談交渉においては,あなたの反省の態度を示すため謝罪を行い,また与えてしまった精神的苦痛を慰謝するための示談金を支払う代わりに,相手方に法的に許してもらう(宥恕といいます。)よう話をしていくことになります。

   もっとも,示談交渉については本人で進めることは一般的には困難ですので(被害者が加害者に対し直接金銭賠償の要求を行うことは事件の性質上難しいと思われます。),経験のある代理人弁護士を選任して,交渉に当たってもらうことが必要です。

   示談交渉を行うためには,まずは被害者の連絡先(住所)といった情報開示を受ける必要がありますが,その情報は警察が被害者に了承を得て開示を受けなくてはなりません。警察に対して,本人に謝罪の意向があり示談交渉を行いたいということで,連絡先の開示を求めることが必要です。

   連絡先の開示を得られれば,あとは被害者との交渉になります。この点は,被害感情に留意しつつ慎重に交渉を行うほかありません。被害者の方に謝罪を受け入れていただければ,示談合意書という書面をしっかり残しておくことが必要です。

   上に述べたとおり,最終的な処分を決めるに際しては被害者への謝罪,被害の回復,被害感情が重要であり,もっとも望ましいのは,被害者に宥恕の意思表示を得られることでしょう。

 (3)簡易書式例適用,その他処分軽減のための警察(捜査機関)との交渉

   上で述べたように,本件は簡易書式例適用の対象になり得るところです。簡易書式による送致の場合,不起訴処分になる可能性がより高まります。したがって,簡易書式例の適用要件に沿うよう,警察宛ての意見書を作成し,交渉を行うことは有効です。

   意見書においては,被害者との示談交渉の経過を報告し,示談合意書などの書面を提出し,被害者との関係が円満に清算されたことを主張しつつ,上記適用要件に従い,単純かつ偶発的な犯行にとどまること,極めて軽微な犯罪であることなどから,簡易な送致方法によるべき旨を主張することになります。この点については,事件の態様,被害結果,日時等から,簡易処分例の適用が相当であることを詳細に意見書に記載し,説得的な主張を行うことが重要です。

   警察が弁護人の主張を受け入れれば,簡易書式例による検察官への送致をするになります。
また,簡易送致後は検察官が最終的な刑事処分を決定することになります。必要に応じて,あなたの取調べなどを行うことになりますが,その際にも被害者との関係が円満に清算されていることなど,簡易書式例によっているとおり極めて軽微な事件であり不起訴が相当であることなどを主張していくことになるでしょう。

   以上,警察などの捜査機関,被害者との示談交渉などの交渉が必要になりますので,お困りであればこれらの経験を有する弁護士への相談をお薦めします。

<参照条文>
刑法
 第二十七章 傷害の罪
(傷害)
第二百四条  人の身体を傷害した者は、十五年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。

(暴行)
第二百八条  暴行を加えた者が人を傷害するに至らなかったときは、二年以下の懲役若しくは三十万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する。

刑事訴訟法
第二百四十六条  司法警察員は、犯罪の捜査をしたときは、この法律に特別の定のある場合を除いては、速やかに書類及び証拠物とともに事件を検察官に送致しなければならない。但し、検察官が指定した事件については、この限りでない。

犯罪捜査規範
  第十章 送致及び送付

(送致及び送付の指揮)
第百九十三条  捜査を行つた事件について送致又は送付の手続をとるに当たつては、警察本部長又は警察署長の指揮を受けて行わなければならない。

(関連事件の送致及び送付)
第百九十四条  第十一章(少年事件に関する特則)に規定する場合を除き、関連する事件は、原則として、一括して送致又は送付するものとする。

(送致書及び送付書)
第百九十五条  事件を送致又は送付するに当たつては、犯罪の事実及び情状等に関する意見を付した送致書又は送付書を作成し、関係書類及び証拠物を添付するものとする。

(送致又は送付後の捜査と追送)
第百九十六条  警察官は、事件の送致又は送付後においても、常にその事件に注意し、新たな証拠の収集及び参考となるべき事項の発見に努めなければならない。
2  事件の送致又は送付後において、新たな証拠物その他の資料を入手したときは、速やかにこれを追送しなければならない。

(余罪の追送致(付))
第百九十七条  事件の送致又は送付後において、当該事件に係る被疑者につき、余罪のあることを発見したときは、検察官に連絡するとともに、速やかにその捜査を行い、これを追送致(付)しなければならない。

(微罪処分ができる場合)
第百九十八条  捜査した事件について、犯罪事実が極めて軽微であり、かつ、検察官から送致の手続をとる必要がないとあらかじめ指定されたものについては、送致しないことができる。

(微罪処分の報告)
第百九十九条  前条の規定により送致しない事件については、その処理年月日、被疑者の氏名、年齢、職業及び住居、罪名並びに犯罪事実の要旨を一月ごとに一括して、微罪処分事件報告書(別記様式第十九号)により検察官に報告しなければならない。

(微罪処分の際の処置)
第二百条  第百九十八条(微罪処分ができる場合)の規定により事件を送致しない場合には、次の各号に掲げる処置をとるものとする。
一  被疑者に対し、厳重に訓戒を加えて、将来を戒めること。
二  親権者、雇主その他被疑者を監督する地位にある者又はこれらの者に代わるべき者を呼び出し、将来の監督につき必要な注意を与えて、その請書を徴すること。
三  被疑者に対し、被害者に対する被害の回復、謝罪その他適当な方法を講ずるよう諭すこと。

(犯罪事件処理簿)
第二百一条  事件を送致し、又は送付したときは、長官が定める様式の犯罪事件処理簿により、その経過を明らかにしておかなければならない。


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