新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.1468、2013/9/6 00:00 https://www.shinginza.com/qa-seikyu.htm

【題材】財産開示手続の申立て,相手方の資産の調査方法,東京高等裁判所平成21年3月31日決定

質問:個人的に貸した金銭の回収が出来ずに困っています。相手方に1000万円の支払を命じる判決が出て確定したのですが,強制執行できるような資産が相手方にあるのか分かりません。相手方に財産があるか分からないような場合に使える,財産開示手続という制度があるようなのですが,どのようなものなのでしょうか。資産の調査を含め,弁護士に依頼した方が良いのでしょうか。



回答
1 まずは期限を区切って相手方に判決内容の金額を支払うように請求する内容証明郵便を送ります。期限を過ぎた場合には直ちに強制執行に入る旨を警告することによって,任意の弁済を促します。

2 その後も連絡が無いような場合には,相手方の所有する財産に対して強制執行を行う必要がありますが,その前提として債務者の有する財産(不動産,動産,債権)をしっかりと調査する必要があります。不動産登記簿の取得,勤務先(給与債権)の把握,預金口座の差押,自宅に対する動産執行等の手段が考えられます。

3 これらの調査・強制執行でも全額の弁済に不十分である場合,財産開示手続を執行裁判所に申立て,債務者を出頭させ,現在の財産状況について質問することができます(期日前には債務者に財産目録を提出させます)。これによって,強制執行の前提となる財産状況の把握が可能です。
  債務者の資産調査,財産開示の申立てについては,専門的な知識等が必要な場合がありますので,弁護士に相談されることをお勧めします。

4 その他財産開示手続に関する事例集としては,その他756番,1136番、1364番をご参照ください。

解説:

第1 財産開示制度について
  1 強制執行における債務者の財産特定の必要性
    金銭債権について,判決等の債務名義(民事執行法第22条参照。)を取得した場合には,債務者の有する財産(不動産,動産,債権等)に対して,それぞれ強制執行を行うことができるようになります。
しかしながら,強制執行を行うためには,原則として執行の対象となる債務者の財産を特定した上で,執行裁判所に強制執行の申立てをしなければなりません。差し押さえるべき財産を特定しないのであれば,執行裁判所がどの財産に強制執行をかけて良いのか分からなくなってしまうし,また,無関係な第三者の有する財産に対して執行をかけてしまうと第三者の財産権が強く制約されることになってしまうからです。
    ただ,債務者の有する財産については,債権者がその全てを把握しているわけではなく,債務者の財産が一切不明であるような場合もあります。このような場合,結局財産が不明ということで回収ができないということになってしまうのであれば,せっかく判決を取得しても実質的には意味が無いことになってしまいます。
   私的自治の原則からいえば債権者は自ら債務者の財産を調査して権利を行使しなければならないので、本制度は例外ですが、そもそも私的自治の原則は、権利行使を適正、公平、迅速低廉に行うために認められた制度であり、債務者に対し財産の開示を求めることは矛盾しません。例外的制度ですから要件の解釈は厳格になります。
  2 財産開示制度の概要
そこで,債務者の財産が不明,執行に不十分な場合に備え,債権者の権利実現の実効性を図るという見地から,平成15年改正の民事執行法により,財産開示手続制度が制定されました(民事執行法第196条以下参照)。財産開示手続の趣旨について,東京高裁平成21年3月31日決定は「過料の制裁を背景として,債務者のプライバシーに属する情報である財産に関する情報の開示を強制する」ものであるとしています。
財産開示手続の概要,流れについては,以下のとおりです(他には756番,1136番の事例集をご参照下さい)。
(1)財産開示手続の申立て
まずは,一定の執行力のある債務名義の正本(本件では判決正本)を有している債権者が,執行裁判所に財産開示手続の申立てを行う必要があります。
その上で,執行裁判所が財産開示の要件を具備しているか,財産開示の実施決定をするかどうかの判断をします。財産開示申立ての実際の要件については,第2以下で詳述します。
(2)財産開示期日の呼出,財産目録作成の要請
財産開示の実施決定がなされると,執行裁判所が財産開示期日を指定して,申立人(債権者)及び開示義務者(債務者)を呼び出します。また,当該開示義務者(債務者)に対して開示期日の前に財産目録を提出するように求めます。
(3)財産開示期日(民事執行法第199条)
  開示義務者である債務者は,財産開示期日に出頭し,宣誓の上で財産開示期日における債務者の財産状況について開示をしなければなりません。執行裁判所を通じて,債務者に対し債務者の財産に関して質問をすることができます。
  債務者が財産開示期日に出頭しないことや,財産状況に関する虚偽の陳述をすることを防止するために,出頭しない場合や虚偽の陳述をした場合には,30万円以下の過料があります(民事執行法第206条第1項)。
(4)以上の手続により,過料の制裁を担保にしつつ,債務者を裁判所に出頭させてその財産状況を陳述させることによって,強制執行の実効性を図ることができます。債権者は開示された財産状況を前提に,強制執行を行うかどうかの判断が可能となります。
  出頭しない債務者を強制的に期日に出頭させるという手続きはありません。債務者によっては過料を支払っても出頭しない方法を選択する者もいるのが現状でこの点財産開示制度の限界と言えます。私的自治の原則の例外的制度でありやむを得ません。

第2 財産開示制度の要件,具体的な資産の調査について
   財産開示手続の概要は,以上述べたとおりですが,実際にはどのような要件を満たしていれば,申立てを行うことができるのでしょうか。この点については,民事執行法第197条に規定があり,下記1〜3の要件をいずれも満たす必要があります。以下,債務者の資産調査方法を含め,順次検討していきます。
1 執行開始要件を備えていること(民事執行法第197条第1項但書)
   財産開示手続を実施するためには,強制執行と同様に執行開始要件を備えている必要があります。具体的には,民事執行法第29条から31条に定めるように,確定判決等の債務名義を,債務者に送達していることなどが必要です。
2 財産開示申立て前3年以内に財産開示期日において債務者がその有する財産について陳述をしていないこと(民事執行法第197条第3項本文)
   3年前に財産を開示しているのであれば,短期間のうちに財産状況に大きな変動が生じることは少ないであろうとの考慮,濫用的な財産開示申立ての防止という観点から,財産開示手続の再実施については3年間の制限が課されています。
3 財産開示の必要性があること(民事執行法第197条第1項)
   これが,最も重要な要件になります。財産開示手続は債務者に大きな負担を強いるものであり,特に財産状況というプライバシー性の高い情報を公開するものですので,財産開示手続を行うことの必要性が強く要求されます。
具体的には民事執行法第197条第1項1号,2号のいずれかの要件を満たしていることが必要です。

(1)強制執行又は担保権の実行における配当等の手続(申立ての日より6月以上前に終了したものを除く。)において,申立人が当該金銭債権の完全な弁済を得ることができなかったこと(1号)
   ア すなわち,一度債務者に強制執行を行ったにもかかわらず,完全な弁済を受けることができなかったこと,しかも,それが財産開示手続申立ての6か月前であることが必要です。ただし,単に強制執行を行って財産が無いとの理由で空振りに終わっただけでは足りず,「配当等の手続」までなされたことが必要となっています。これは,債務者の預金口座が無いことを知っていながら差押えの手続を行う場合など,無意味な執行をすることのみで1号要件を満たすことを防止するためです。
     ここにいう「配当等の手続」については,判例上も厳格な運用がなされています。東京高裁決定平成21年3月31日によれば「配当又は弁済金の交付」(民事執行法第84条第2項参照)に限定されるとの立場を採用し,実務上もそのように運用されています(限定説)。すなわち,具体的に差押えをして金銭に換算し配当まで行うことが必要であり,例えば動産執行を行い単に執行不能となった場合は含まれないことになります。
   イ 1号申立てを行うために必要な資料としては,例えば,実際の配当内容を示す配当表謄本・弁済金交付計算書謄本や,不動産競売開始決定正本,債権差押命令謄本等の客観的資料が必要です。
(2)知れている財産に対する強制執行を実施しても、申立人が当該金銭債権の完全な弁済を得られないことの疎明があったこと(2号)
 ア 強制執行を行い「配当等の手続」を経ることが難しい場合には,1号の申立ては行うことはできません。そうすると,2号の要件を検討することが必要になります。
ここにいう「疎明」とは,執行裁判所に対して「一応確からしい」との心証を抱かせる説明のことです。具体的には,債権者として通常要求されるべき程度の調査を行い,判明した財産に対して強制執行を行ったとしても,完全な債権の弁済を受けられないことについて,ある程度の客観的資料を基にしつつ,一応確からしいということを執行裁判所に伝えることが必要です。ここにいう具体的な財産ごとに通常行うべき資産調査は,以下のとおりです。
 イ 不動産の調査
   財産開示の必要性の要件を満たすためには,債務者が居住している不動産を調査したが,債務者が所有していないか,所有していたとしても抵当権が設定されておりオーバーローン状態になっているなど剰余(不動産執行によって配当を得ること)が不可能であることが必要です。
 今回,相手方の居住する場所は分かっているとのことであれば,まずは債務者居住の不動産(土地,建物)の調査を行うべきです。その他,債務者が関係する不動産が分かるのであれば,その点も調査を行います。
 具体的には,不動産登記簿謄本(登記事項証明書)を取り寄せ,所有者が誰であるかを調べることになります。所有者が債務者であれば,その不動産を強制執行することができることになりますし,そうでなければ,登記簿を裁判所に提出して財産開示の必要性があることの疎明資料とすることができます。
また,仮にその不動産がオーバーローンである等無剰余である場合には,登記簿に加えて,固定資産評価証明書,不動産会社の無料査定書等,無剰余であることの疎明資料を添付する必要があります。
 ウ 動産の調査
   債務者が所有する財産について,調査したものの不明であること,若しくは所有する動産について価値が無いこと,が必要です。
   例えば,債務者居住の不動産に対して動産執行を行ったものの,差し押さえるべき財産が無いとされた場合には,その動産執行不能調書の謄本を財産開示の必要性の疎明資料として提出する必要があります。また,動産執行を行うことも困難ということであれば,代理人弁護士が作成した調査報告書を提出することでも代用できます。
 エ 債権の調査
   個人が債務者の場合には,勤務先を調査したが不明であること,預貯金債権について調査したが不明であること,若しくはこれらの債権だけでは完全な弁済を受けられないことが必要です。
   債務者と銀行振込でやり取りを行っていたのであれば,振込票などから振込口座が分かるかもしれません。その振込口座に対して,まず差押(債権執行)を行うべきでしょう。
また,保有する口座が不明な場合には,債務者の居住地周辺の銀行支店に対する債権執行を行うことも可能です。ただし,最高裁決定平成23年9月20日は,大規模な金融機関の全ての店舗又は貯金事務センターを対象として順位付けをする「全店一括順位方式」については否定的な立場を明らかにしており,差押に当たっては銀行支店の特定が必要となります。
   また,個人に対しては給与債権の差押えも有効ですので,勤務先が判明している場合には,勤務先給与債権の差押をまず行うべきです。過去の債務者とのやり取り,資料から勤務先に関する何らかの情報があるのであれば,そこから調査を行う必要があります。
以上のように債権執行を行ったが配当が受けられなかったとき,若しくは必要な調査を行ったが,債務者の預貯金口座や勤務先が不明であった場合であっても,当該債権差押命令正本,代理人弁護士名義の調査結果報告書等を疎明資料として,財産開示の必要性を疎明することができます。
   オ このように,一通り各種の財産(不動産,動産,債権)について調査を行った結果,完全な弁済を受けることができないことがある程度確からしいということになれば,上記イ〜エにおいて述べたような各種の疎明資料(書面であることが必要です。)を執行裁判所に提出して,民事執行法第197条第1項2号による財産開示の必要性を疎明することができるでしょう。

第3 まとめ
   財産開示を申し立てるに当たっての手続は,以上のとおりです。まず,財産開示の必要性を疎明するためにも,債務者の所有するであろう財産(不動産,動産,債権)について十分な調査を行うことが必要になります。また,調査(執行)結果については,しっかりと書面に残しておく必要があるでしょう。
   その上で,財産開示手続を申し立てて,債務者に財産状況を開示の上強制執行を行うこととなります。債務者の資産の調査方法,財産開示の申立てに際しては,ある程度専門的知識も必要となってまいりますので,お困りの際には弁護士に相談されることをお勧めします。
   財産開示手続でも回収の目処が立たない場合、債権者による破産申立手続を検討すると良いでしょう。裁判所に選任された破産管財人の強力な権限により、債務者の財産を保全して配当させることができます。


<参照判例>
東京高等裁判所平成21年3月31日決定
主文
 1 本件抗告を棄却する。
 2 抗告費用は,抗告人の負担とする。
 
理由
 1 本件抗告の趣旨及び理由
 本件抗告の趣旨は,「原決定を取り消す。相手方について財産開示手続を実施する。」というものであり,その理由は,「抗告理由書」に記載のとおりであるが,要するに,本件財産開示手続申立ては,民事執行法(以下「法」という。)197条1項1号を理由とするものであるところ,原決定は,本件申立てに先立つ執行手続(東京地方裁判所平成20年(ル)第8275号債権差押命令申立事件。以下「本件執行」という。)において配当又は弁済金の交付を受けたことがないことを抗告人が自認しているから,同号の要件を満たさないとして,申立てを却下したが,同号は,講学上,執行不奏功の場合をいうと理解されており,「配当等」を「配当又は弁済金の交付」と限定する必要はなく,不動産執行が無剰余等の理由で取り消しになった場合,動産執行が執行不能で終了した場合等が含まれるのであるから,債権執行で当該金銭債権の完全な弁済を得られなかった場合も「配当等」に含まれると解すべきであって,この点の解釈を誤った原決定は不当であり,取り消されるべきというものである。
 2 当裁判所の判断
  (1) 当裁判所も,本件申立ては理由がないから,これを却下するのが相当と判断する。その理由は次のとおりである。
  (2) 財産開示手続は,過料の制裁を背景として,債務者のプライバシーに属する情報である財産に関する情報の開示を強制するものであることから,この手続を実施するのは,債権者が強制執行等の申立てを行うためにこの手続を利用する必要性がある場合に限ることとし,その必要性がある場合として,法197条1項1号で「強制執行又は担保権の実行における配当等の手続(申立ての日より6月以上前に終了したものを除く。)において,申立人が当該金銭債権の完全な弁済を得ることができなかつたとき。」,同項2号で「知れている財産に対する強制執行を実施しても,申立人が当該金銭債権の完全な弁済を得られないことの疎明があったとき。」と規定している。このような財産開示の必要性について,同項1号は,これに該当する事実があれば,それだけで当該必要性があるとみなされる形式的な要件であり,同項2号は,具体的事案に応じて必要性の疎明が要求されることを示す実質的な要件である。
 同項1号がそれだけで必要性があるとみなされる要件である以上,その要件は明確な一義的基準であることが必要であって,その解釈は形式的・制限的に行うべきものと解されるところ,法84条3項において「配当又は弁済金の交付」をもって「(以下「配当等」という。)」と明示していることからすれば,同項1号にいう「配当等」とは,「配当又は弁済金の交付」をいうものと解される。また,そう解することが,濫用防止のための財産開示の必要性の要件として,迅速性・公平性を図り,かつ,定形性・画一性を旨とする民事執行法の法構造と調和するというべきである。
  (3) これに対し,抗告人は,同項1号の規定は「配当等」と定められているものの,講学上,執行不奏功の場合をいうものと理解されているから,「配当等」を「配当又は弁済金の交付」と限定する必要はなく,不動産執行が無剰余等の理由で取り消しになった場合,あるいは動産執行が執行不能で終了した場合等が「配当等」に含まれると解される以上,債権執行により回収ができなかった場合を別に扱う必要はないと主張する。
 しかしながら,この財産開示制度は,平成15年法律第134号による民事執行法の一部改正により新設されたものであり,法197条1項1号の規定は,改正法案の審議過程においては,開示制度の運用により一定の不利益を受けることになる債務者を保護し,申立ての濫用を防止する観点から,「強制執行を試みたが不奏効に終わったこと等をこの手続の申立要件とする」(法制審議会担保・執行法制部会「担保・執行法制の見直しに関する要綱中間試案との担保・執行法制の見直しに関する要綱中間試案」)ことが検討されたが,これについては,動産執行がほとんど執行不能で終了している現状に鑑み,無意味な動産執行の手続を踏ませるだけであるとの意見が出される(上記中間試案に対する各高等裁判所及び各地方裁判所の意見・平成14年5月最高裁判所事務総局民事局・判例タイムズ1094号74頁等)などして更に検討が重ねられた結果,最終的には,民事執行実務に照らして有効に機能する一義的で明確な要件として,法84条3項を受けた「配当等の手続(申立ての日より6月以上前に終了したものを除く。)において,申立人が当該金銭債権の完全な弁済を得ることができなかったとき」が定められたものと理解される。また,そう解してこそ,「配当等」の要件としての「申立ての日より6月以上前に終了したものを除く」ことも時的限界を画す明確な基準として機能すると解される。さらに,上記のように解することが,法197条1項1号の要件を明確かつ一義的な形式的要件として捉えて迅速に処理し,それ以外の必要性の要件については,同2号により疎明を求めて審査することにより,公平で柔軟な処理を目指す現在の民事執行実務に調和する(現在,東京,大阪をはじめ多くの庁ではこの解釈によっている(東京地方裁判所執行部における財産開示の運用状況,金融法務事情1804号28頁以下,大阪地方裁判所(本庁)における財産開示制度の運用状況,同1805号28頁以下))というべきである。
 確かに,「配当等」につき,これを「配当又は弁済金の交付」に限定せず,抗告人の主張するような場合を含むとする見解もあるが,以上述べたところから,同見解を採用することはできない。
 また,前記のように,「配当等」を限定的に解したとしても,執行が不奏功に終わったことは,同条同項2号の有力な疎明資料になることは明らかであり,開示の道を閉ざすことになるわけではない。
 これに対し,抗告人は,債権執行においては,取立権を取得し,あるいは転付命令により被差押債権自体を取得して強制換価を実現することを予定し,配当に至る場合は稀であるから,同項1号の「配当等」を「配当又は弁済金の交付」に限定すると,同号の要件から債権執行を事実上締め出すことになって不当であるとも主張するが,その前提事実の認識には疑問があり,採用できない。
 さらに,抗告人は,「配当等」を要件としたのは,例えば預金口座が存在しないことを承知のうえで債権差押の申立てをした場合のような無意味な執行申立てを避けるためであり,本件執行のように預金口座が存在した場合は,無意味な執行申立てとはいえないから,同項1号の趣旨に反するものではないと主張するが,「配当等」を「配当又は弁済金の交付」の趣旨で理解すべきことは前記のとおりであるし,上記のような場合を含めるとすると,どの程度までの事情があれば,この要件を充足しているといえるのか,6か月の始期をどの時点とすべきかなどの実質的な判断を要し,形式的要件による執行手続の迅速性を害し,かえって債権者の利益を害しかねないものであり,相当ではない。
 以上のとおり,抗告人の主張はいずれも理由がない。
  (4) なお,本件において,抗告人は,当初法197条1項2号での申立てをしたところ,疎明資料の追完で暗礁に乗り上げたと主張するが,一件記録によれば,原審において,抗告人が提出した登記記録上の土地建物の地番・家屋番号と債務者である相手方本店及び支店所在地の住居表示とが同一場所であることの資料を求めたところ,抗告人において,法197条1項2号による申立てを,「配当等」の解釈について判断を求めるため,あえて同項1号の申立てに訂正したというのであるから,同項2号による申立てにおいて,抗告人に過重な負担を求めたとも,現実的な不都合が生じたともいえないというべきである。
  (5) そうすると,抗告人は,本件執行に関し債権差押命令正本及び第三債務者の陳述書を提出するのみで,配当又は弁済金の交付の手続に至ったことを認めるに足りる資料を提出しないから,法197条1項1号による本件申立ては,その要件を欠くといわざるを得ない。
 3 以上のとおりであって,本件抗告は理由がないから,これを棄却することとして,主文のとおり決定する。

<参照条文>
民事執行法
(債務名義)
第二十二条  強制執行は、次に掲げるもの(以下「債務名義」という。)により行う。
一  確定判決
二  仮執行の宣言を付した判決
三  抗告によらなければ不服を申し立てることができない裁判(確定しなければその効力を生じない裁判にあつては、確定したものに限る。)
三の二  仮執行の宣言を付した損害賠償命令
四  仮執行の宣言を付した支払督促
四の二  訴訟費用、和解の費用若しくは非訟事件(他の法令の規定により非訟事件手続法 (平成二十三年法律第五十一号)の規定を準用することとされる事件を含む。)若しくは家事事件の手続の費用の負担の額を定める裁判所書記官の処分又は第四十二条第四項に規定する執行費用及び返還すべき金銭の額を定める裁判所書記官の処分(後者の処分にあつては、確定したものに限る。)
五  金銭の一定の額の支払又はその他の代替物若しくは有価証券の一定の数量の給付を目的とする請求について公証人が作成した公正証書で、債務者が直ちに強制執行に服する旨の陳述が記載されているもの(以下「執行証書」という。)
六  確定した執行判決のある外国裁判所の判決
六の二  確定した執行決定のある仲裁判断
七  確定判決と同一の効力を有するもの(第三号に掲げる裁判を除く。)

第四章 財産開示手続
(管轄)
第百九十六条  この章の規定による債務者の財産の開示に関する手続(以下「財産開示手続」という。)については、債務者の普通裁判籍の所在地を管轄する地方裁判所が、執行裁判所として管轄する。

(実施決定)
第百九十七条  執行裁判所は、次のいずれかに該当するときは、執行力のある債務名義の正本(債務名義が第二十二条第二号、第三号の二、第四号若しくは第五号に掲げるもの又は確定判決と同一の効力を有する支払督促であるものを除く。)を有する金銭債権の債権者の申立てにより、債務者について、財産開示手続を実施する旨の決定をしなければならない。ただし、当該執行力のある債務名義の正本に基づく強制執行を開始することができないときは、この限りでない。
一  強制執行又は担保権の実行における配当等の手続(申立ての日より六月以上前に終了したものを除く。)において、申立人が当該金銭債権の完全な弁済を得ることができなかつたとき。
二  知れている財産に対する強制執行を実施しても、申立人が当該金銭債権の完全な弁済を得られないことの疎明があつたとき。
2  執行裁判所は、次のいずれかに該当するときは、債務者の財産について一般の先取特権を有することを証する文書を提出した債権者の申立てにより、当該債務者について、財産開示手続を実施する旨の決定をしなければならない。
一  強制執行又は担保権の実行における配当等の手続(申立ての日より六月以上前に終了したものを除く。)において、申立人が当該先取特権の被担保債権の完全な弁済を得ることができなかつたとき。
二  知れている財産に対する担保権の実行を実施しても、申立人が前号の被担保債権の完全な弁済を得られないことの疎明があつたとき。
3  前二項の規定にかかわらず、債務者(債務者に法定代理人がある場合にあつては当該法定代理人、債務者が法人である場合にあつてはその代表者。第一号において同じ。)が前二項の申立ての日前三年以内に財産開示期日(財産を開示すべき期日をいう。以下同じ。)においてその財産について陳述をしたものであるときは、財産開示手続を実施する旨の決定をすることができない。ただし、次に掲げる事由のいずれかがある場合は、この限りでない。
一  債務者が当該財産開示期日において一部の財産を開示しなかつたとき。
二  債務者が当該財産開示期日の後に新たに財産を取得したとき。
三  当該財産開示期日の後に債務者と使用者との雇用関係が終了したとき。
4  第一項又は第二項の決定がされたときは、当該決定(第二項の決定にあつては、当該決定及び同項の文書の写し)を債務者に送達しなければならない。
5  第一項又は第二項の申立てについての裁判に対しては、執行抗告をすることができる。
6  第一項又は第二項の決定は、確定しなければその効力を生じない。

(期日指定及び期日の呼出し)
第百九十八条  執行裁判所は、前条第一項又は第二項の決定が確定したときは、財産開示期日を指定しなければならない。
2  財産開示期日には、次に掲げる者を呼び出さなければならない。
一  申立人
二  債務者(債務者に法定代理人がある場合にあつては当該法定代理人、債務者が法人である場合にあつてはその代表者)

(財産開示期日)
第百九十九条  開示義務者(前条第二項第二号に掲げる者をいう。以下同じ。)は、財産開示期日に出頭し、債務者の財産(第百三十一条第一号又は第二号に掲げる動産を除く。)について陳述しなければならない。
2  前項の陳述においては、陳述の対象となる財産について、第二章第二節の規定による強制執行又は前章の規定による担保権の実行の申立てをするのに必要となる事項その他申立人に開示する必要があるものとして最高裁判所規則で定める事項を明示しなければならない。
3  執行裁判所は、財産開示期日において、開示義務者に対し質問を発することができる。
4  申立人は、財産開示期日に出頭し、債務者の財産の状況を明らかにするため、執行裁判所の許可を得て開示義務者に対し質問を発することができる。
5  執行裁判所は、申立人が出頭しないときであつても、財産開示期日における手続を実施することができる。
6  財産開示期日における手続は、公開しない。
7  民事訴訟法第百九十五条 及び第二百六条 の規定は前各項の規定による手続について、同法第二百一条第一項 及び第二項 の規定は開示義務者について準用する。

(陳述義務の一部の免除)
第二百条  財産開示期日において債務者の財産の一部を開示した開示義務者は、申立人の同意がある場合又は当該開示によつて第百九十七条第一項の金銭債権若しくは同条第二項各号の被担保債権の完全な弁済に支障がなくなつたことが明らかである場合において、執行裁判所の許可を受けたときは、前条第一項の規定にかかわらず、その余の財産について陳述することを要しない。
2  前項の許可の申立てについての裁判に対しては、執行抗告をすることができる。

(財産開示事件の記録の閲覧等の制限)
第二百一条  財産開示事件の記録中財産開示期日に関する部分についての第十七条の規定による請求は、次に掲げる者に限り、することができる。
一  申立人
二  債務者に対する金銭債権について執行力のある債務名義の正本(債務名義が第二十二条第二号、第三号の二、第四号若しくは第五号に掲げるもの又は確定判決と同一の効力を有する支払督促であるものを除く。)を有する債権者
三  債務者の財産について一般の先取特権を有することを証する文書を提出した債権者
四  債務者又は開示義務者

(財産開示事件に関する情報の目的外利用の制限)
第二百二条  申立人は、財産開示手続において得られた債務者の財産又は債務に関する情報を、当該債務者に対する債権をその本旨に従つて行使する目的以外の目的のために利用し、又は提供してはならない。
2  前条第二号又は第三号に掲げる者であつて、財産開示事件の記録中の財産開示期日に関する部分の情報を得たものは、当該情報を当該財産開示事件の債務者に対する債権をその本旨に従つて行使する目的以外の目的のために利用し、又は提供してはならない。

(強制執行及び担保権の実行の規定の準用)
第二百三条  第三十九条及び第四十条の規定は執行力のある債務名義の正本に基づく財産開示手続について、第四十二条(第二項を除く。)の規定は財産開示手続について、第百八十二条及び第百八十三条の規定は一般の先取特権に基づく財産開示手続について準用する。

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