公然ワイセツ・強制ワイセツを連続して行なった場合の対策・被害者への接触がなくても強制ワイセツ罪は成立するか

刑事|公然わいせつ|強制わいせつ|住居侵入|最高裁昭和45年1月29日判決|東京高裁昭和29年5月29日判決

目次

  1. 質問
  2. 回答
  3. 解説
  4. 関連事例集
  5. 参考条文・判例

質問:

今朝方、自宅に警察がやって来て、30歳になる息子が警察署への任意同行を求められ、そのまま警察署で逮捕されました。路上で小学生の女児の見ている前で陰部を露出させた、公然わいせつの容疑と聞いています。刑事さんの話によれば、アルバイト先近くのマンションのエレベーターの中で同じく小学生の女児の目の前に陰部を突き出したという別件で告訴がされており、既に息子を犯人として捜査中であったとのことでした。息子は、同様の行為をこれまで20回以上繰り返してきたと言っているそうです。息子はこの後どうなってしまうのでしょうか。

回答:

1.息子さんの行為は、①公然わいせつ、②強制わいせつ、③住居侵入の各犯罪に該当すると考えられますが、余罪を含め、如何なる範囲の事実につき如何なる罪名によって処分するかについては検察官の裁量事項とされています。そのため、まずは息子さんと接見した上での詳細な事実関係の聴き取りと捜査機関との協議によって、今後の身柄拘束期間や終局処分の見通しを明らかにする必要があります。

2.本件では、逮捕に引き続き、勾留(延長分を含めて勾留請求の日から最大20日間)という身柄拘束手続きが予想されます。また、勾留期間が満了しても、余罪の強制わいせつ事件で再び逮捕・勾留(最大で23日間の身柄拘束)される可能性が高いと思われます。罪質や余罪の点に照らして、勾留の裁判に対する準抗告はまず認められませんので、弁護活動の基本的方針としては、被害者らと早急に示談し、公判請求回避を要請するとともに、示談成立に伴い勾留の要件が事後的に消滅したとして、身柄解放を要請していくべきことになると思われます。

3.本件は放っておくと公判請求された上、懲役2年程度の実刑判決(執行猶予がつかない懲役刑となり刑務所に行くことになります)となる可能性が高いと思われます。公判請求を回避するためには、勾留期間内の示談成立が不可欠ですので、早急な対応が必要となります。また、公判請求されたとしても実刑を避けるためには被害者との示談が必要です。時間的な余裕はありませんから直ちに刑事事件やわいせつ関係の事件に経験のある弁護士に相談して下さい。

4.公然わいせつに関する関連事例集参照。

解説:

1.(犯罪構成要件該当性)

あなたの息子さんがしてしまった行為は、以下の各犯罪に該当すると考えられます。

(1)公然わいせつ

公然わいせつ罪は「公然とわいせつな行為をした」場合に成立する犯罪であり、法定刑は6月以下の懲役若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料とされています(刑法174条)。

本罪は、一次的には社会の健全な性的風俗を保護法益とする社会的法益に対する罪であり、健全な性的風俗が害される危険のある行為を処罰するものです。かかる見地から、「公然」とは、わいせつ行為を不特定又は多数人の認識しうる状態を指し、必ずしも不特定多数の人に目撃されている必要はないと解されています(最高裁昭和32年5月22日決定)。そのため、不特定多数人が目撃しうる路上やマンションのエレベーター内でわいせつ行為をした場合、そこに人がいたかどうかに拘りなく、公然性を満たすことになります。

次に、「わいせつな行為」とは、裁判例上「その行為者又はその他の者の性欲を刺激興奮又は満足させる動作であって、普通人の正常な性的羞恥心を害し善良な性的道義観念に反するもの」を指すとされています。これだけでは如何なる行為がわいせつ行為にあたるのか必ずしも明らかではありませんが、少なくとも陰部を露出する行為が「わいせつな行為」に該当することは間違いないでしょう。

本罪が成立するためには、これらの他に主観的構成要件要素として故意、すなわち、路上等で自己の陰部を露出していることの認識・認容が必要となりますが、ご相談内容からすると、息子さんは小学生の女児をわざと狙って自己の陰部を見せつけているようですので、故意も問題なく肯定されると考えてよいでしょう。

したがって、息子さんの行為は公然わいせつ罪に該当することになります。同罪の保護法益及び犯罪構成要件の詳細につきましては、当事務所事例集1034番をご覧頂ければと思います。

(2)強制わいせつ

強制わいせつ罪は「13歳以上の男女に対し、暴行又は脅迫を用いてわいせつな行為をした」場合及び「13歳未満の男女に対し、わいせつな行為をした」場合に成立する犯罪であり、法定刑は6月以上10年以下の懲役と、公然わいせつと比較して相当重い刑が規定されています(刑法176条)。わいせつ行為の客体が13歳以上の場合、本罪が成立するためには、わいせつ行為が暴行・脅迫の手段を用いて行なわれる必要がありますが、本件のように行為の客体が13歳未満の場合は、加害行為に対する抵抗力がなく手段の如何を問わず本罪が成立することになります(刑法176条後段)。

本罪における「わいせつ」は、公然わいせつ罪におけるのと同様、「徒に性欲を興奮又は刺激せしめ、かつ、普通人の正常な性的羞恥心を害し、善良な性的道義観念に反するもの」をいうと解されています。問題は被害者への身体的接触がない場合にわいせつ行為の該当性が肯定されるかどうかですが、本罪は個人の集合体としての公衆の利益を保護する公然わいせつ罪とは異なり、個人の性的自由を直接侵害する個人的法益に対する罪であるところ、その性的自由には身体的接触がある場合のみならず、広く行為者に性的満足を与えうる行為を受け入れるか否かの決定の自由も含まれると考えられるので、本罪の成立に必ずしも身体的接触は必要ではないと解すべきでしょう。例えば、裸にして写真を撮影する行為、人前で裸にする行為等です。

東京高裁昭和29年5月29日判決。この判決では、衣服をはぎ取り写真撮影をして、さらに陰部まで手指をもって開き撮影行為を行っていますから、ワイセツ行為との評価は当然です。最高裁昭和45年1月29日判決も裸体にさせての写真撮影行為はワイセツ行為と認定しています。

息子さんの行為は、被害者との身体的接触は伴いませんが、女児の面前で陰部をみせつけたり突き出したりして性的に興奮し、これにより女児も性的羞恥心を害されたということですから、強制わいせつ罪の「わいせつな行為」に該当することになります。

また、本罪の成立には主観的要件として、①被害者が13歳未満であること及び自己がわいせつ行為をしていることの認識・認容(故意)と②わいせつの意図・傾向が必要ですが(傾向犯、ご相談内容からすると、息子さんは年少の女児をわざと狙ってわいせつ行為をしているようですので、これらの要件も本件では問題なく肯定されると見てよいでしょう。

傾向犯に関する判例 最高裁昭和45年1月29日判決。後記参照。報復侮辱の手段として被害者を脅迫して裸体にさせて写真撮影行為につきワイセツ行為の意図がない場合は成立しない旨の判断をしています。脅迫、強要罪ということになるでしょう。

したがって、息子さんが女児の面前で陰部を露出し突き出す等した行為は強制わいせつ罪にあたりうることになります。

(3)住居侵入

刑法130条前段は「正当な理由がないのに、人の住居…に侵入し」た者を3年以下の懲役又は10万円以下の罰金に処するものとしています。ここでいう「侵入」の意義については、住居侵入罪の保護法益をどのように捉えるかに関連して見解の対立がありますが、同罪の保護法益を自己の住居への他人の立入りを認めるか否かの自由と捉える立場から、住居権者の意思に反する立入りを意味すると考えるのが標準的な見解であり、判例もこの立場に立っています。

息子さんが女児にわいせつ行為をする目的でマンション内に立ち入ったとすれば、マンション住民(管理組合等)の意思に反する立入りといえるため、本罪の「侵入」にあたり、住居侵入罪が成立することになります。

(4)三罪の関係

息子さんが小学生の女児の面前で陰部を露出する等した行為は、強制わいせつ行為を公然と行ったものといえ、このような場合、上記のとおり、理論上は公然わいせつ罪(刑法174条)と強制わいせつ罪(刑法176条)の両罪が成立することになります。これらは1つの行為が2個以上の罪名に触れるものとして観念的競合となり(大判明治43年11月17日)、重い方の強制わいせつの刑の範囲内で処分が決定されることになります(刑法54条1項前段)。また、住居侵入と強制わいせつ・公然わいせつとは、手段・目的の関係にあるため、牽連犯としてやはり重い方の強制わいせつの刑の範囲内で処分が決定されることになります(刑法54条1項後段)。

そして、余罪(逮捕勾留の要件となっている被疑事実とは別の犯罪)との関係は併合罪となり(刑法45条前段)、最大で懲役15年の刑の範囲内で処分が決定されることになります(刑法47条前段)。

もっとも、ありのままの事実をいかなる犯罪に構成して起訴するか否かについては検察官に広範な訴追裁量権が認められおり(刑事訴訟法248条)、全部不起訴も認められる以上、捜査機関が把握した事実関係の一部のみを切り出して起訴することも原則的に認められると解されています。そのため、理論上は強制わいせつ罪にあたりうる行為であっても、その行為態様や犯行時の状況等によっては、公然わいせつ罪として捜査・処分されることもありえます(これを実務上「罪名を落とす」と呼びます)。

本件では、エレベーター内での別件については強制わいせつ罪での捜査が進められているとのことですが、その他の余罪が如何なる被疑罪名で捜査・処分されることになるのかの見通しについては、息子さん本人と接見した上での詳細な事実関係の聴き取りと捜査機関との協議によって明らかにする必要があります。特にその他の余罪の立件予定の有無については、今後の身柄拘束期間や終局処分の見通しを明らかにする上で非常に重要であるため、直ちに対応する必要があります。

2.(刑事手続の見通し)

まず、息子さんの身柄についてですが、逮捕に引き続いての勾留が予想されます。本件では、息子さんの行為自体は女児の面前で陰部を露出したにとどまるものであり、身体的接触はないことから、行為自体の悪質性は一般的な強制わいせつ事犯と比較して重いとはいえないものの、同種余罪が20件以上あり、常習性が顕著であること、余罪を含めた捜査の必要性が高いと考えられることからすると、何ら弁護人をつけずに放置するとなると、ほぼ確実に検察官による勾留請求が認められたうえ(勾留期間は10日間。刑事訴訟法208条1項)、更に10日間、勾留期間が延長される(逮捕と合わせて最長23日間。刑事訴訟法208条2項)可能性が高いと思われます。

加えて、公然わいせつ事件での勾留期間が満期となっても、余罪の強制わいせつ事件で再び逮捕・勾留(最大で23日間の身柄拘束)される可能性が高いと思われます(逮捕・勾留の効力の範囲は人単位ではなく事件単位が基準となるため(刑事訴訟法60条1項、61条、64条1項、200条1項、203条1項等参照)、公然わいせつ罪での逮捕・勾留に引き続き強制わいせつ罪での逮捕・勾留が可能となります。)。

なお、裁判官の行った勾留の裁判及び勾留延長の裁判に対しては、不服申立のための手続として準抗告というものがありますが(刑事訴訟法429条1項2号)、強制わいせつという罪質の重い犯罪で、かつ、余罪が多数疑われるとなると、準抗告が認められる可能性は殆どないでしょう(なお、勾留の要件及び被疑者・被告人の身柄拘束からの解放のための活動の詳細については、当事務所事例集1142番をご参照下さい。)。

そして、通常は勾留期間満了時に検察官が起訴するか不起訴にするかの決定をすることになりますが、強制わいせつという罪質の重い犯罪の事件であり、告訴がされており、余罪も多数疑われるとなると、公判請求された上、有罪となった場合、懲役2年程度の実刑となる可能性が高いと思われます。起訴された場合、被疑者勾留が自動的に被告人勾留に切り替わることとなり(刑事訴訟法208条1項、60条2項参照)、公訴提起の日から2か月間、特に継続の必要がある場合にはさらに1か月ごとの勾留期間の更新が予定されているため(刑訴法60条2項本文)、起訴後も長期間の身体拘束が予想されます。もちろん、判決で実刑になれば、引き続き勾留・収監されることになります。

なお、起訴後は保釈(刑訴法88条)という手続きにより保釈が取り消されるまでは勾留されないことになっています。そして、一般的に強制わいせつ等の事件においては保釈が認められるためには被害者との示談が必要と考えられます。

3.(本件における対応)

(1)示談交渉等の必要性

上記のような事態を回避するためには、被疑者段階のなるべく早期に弁護人を付けて接見、捜査官との協議・交渉により、事実関係を把握し、立件予定の余罪の範囲及び刑事手続の見通しを明らかにした上で、立件が予定されている余罪を含め、被害者らと示談交渉をしていくことが必要となります。特に、強制わいせつ罪は告訴がなければ公訴を提起することができない親告罪であり(刑法180条1項、176条後段)、検察官による公訴提起よりも前でなければ告訴の取消しができない一方、告訴の取消しをした者は同一の事件につき更に告訴をすることができないとされているため(刑事訴訟法237条2項、同条1項)、被害者との間で示談が成立し、告訴を取り消してもらうことができた場合、検察官が本件につき息子さんを強制わいせつ罪で起訴することはできなくなるということになります。強制わいせつ罪は法定刑の短期が懲役6月という重罪であり(刑法176条後段)、本罪により起訴されると被害者の宥恕がない限り実刑となる可能性が高いことから、実刑判決、さらにはその前段階としての公判請求を回避しようとすれば、被害者らとの示談が必須といえます。

ただし、前記のとおり、息子さんには強制わいせつと公然わいせつの両罪が成立していると考えられるので、示談が成立し、告訴取消しにより親告罪である強制わいせつ罪による起訴ができなくなったとしても、非親告罪である公然わいせつ罪で起訴される可能性があります。余罪が多数あること、常習性が強く疑われること等からすれば、少なくとも略式起訴(罰金刑)は覚悟する必要があります。公判請求を阻止して略式起訴に止めてもらえるかどうかが事件の焦点になるでしょう。

公然わいせつ罪は、一次的には社会の健全な性的風俗という社会・公共の利益を保護法益とする、社会的法益に対する罪ではありますが、かかる社会・公共の利益は社会の構成員たる個人の法益を抽象化・一般化したものですので、その利益を最も侵害された社会の構成員である当の被害者から宥恕を得ることができれば、検察官の終局処分の決定にあたって、不起訴処分等の判断に大きく考慮されることになります。

また、示談と併せて贖罪寄付をすることで、息子さんの反省と謝罪の意を客観的に示すことができ、公判請求回避をより確実なものとすることができるでしょう。

(2)未成年者が被害者の場合の注意点

被害者が未成年者の場合、未成年者は有効な法律行為ができないため(民法5条1項、2項参照)、示談交渉の相手方は被害者の法定代理人または親権者(通常は両親)となります。被害者の両親が被害者の代理人として告訴しているような場合、示談の成立に伴い、両親に被害者の代理人として告訴を取り消してもらうことになります(刑事訴訟法240条後段)。また、被害者の法定代理人は被害者と独立して告訴することができるため(刑事訴訟法231条1項、230条)、強制わいせつ罪での公判請求の回避を確実にするためには、被害者及び両親の全員と示談して、告訴権放棄の合意を得る必要があります。 わいせつ事犯で、かつ、被害者が未成年者となると、一般的に被害者側の被害感情が強いことから、示談交渉が難航することが多いですが、こればかりは弁護士の力量が物を言うところです。経験のある弁護士をよく選んで依頼されることを強くお勧めいたします。

(3)身柄拘束期間の短期化に向けた活動

前述のとおり、本件では検察官との勾留阻止交渉や勾留の裁判に対する準抗告が奏功する可能性は殆どないと思われます。息子さんの罪質、想定される刑事処分の重さや余罪の点で、勾留の要件である罪証隠滅のおそれや逃亡のおそれがあると判断される可能性が高いためです(刑事訴訟法207条1項、60条1項2号・3号)。したがって、結局のところ、余罪を含めた被害者との早期の示談成立が結果として息子さんの早期の身柄解放に結びつくといえます。本件は、示談が成立し、被害弁償をするとともに被害者から告訴取消しや宥恕を得ることができていれば、略式処分相当の事案といえ、実刑等の重大な結果は想定し難くなることから、通常は罪証隠滅や逃亡の主観的な動機を欠くものとして、罪証隠滅や逃亡のおそれ(刑事訴訟法207条1項、60条1項2号・3号)は消滅すると思われますし、勾留の必要性(相当性)も事後的に欠けることになると思われます(刑事訴訟法207条1項、87条)。

本件では、まずは路上での公然わいせつ事件の被害者と早急に示談を成立させ、検察官に釈放要請をする必要があります。検察官が釈放要請に応じない場合、裁判官に対する勾留取消請求(刑事訴訟法207条1項、87条1項)によって積極的に身柄解放を求めていく必要があります。勾留取消請求を行った場合、裁判官が勾留を取り消す決定をするにあたっては検察官の意見を聴かなければならないとされており(刑事訴訟法207条1項、92条2項・1項)、その過程で数日間かかることがありますが、本件のように別件での逮捕・勾留が予定されている場合であれば、捜査機関の判断で、裁判官の決定を待たずして被疑者を釈放し、直ちに別件で逮捕することも多いように思います。いずれにしても、息子さんの身柄拘束期間が少しでも短縮されるのであれば、弁護人としては躊躇なく勾留取消請求を行うことになるでしょう。その結果、別件で逮捕・勾留されたとしても、行うべき弁護活動としては、路上での公然わいせつ事件と同様、被害者との早期の示談交渉と示談成立を受けての釈放要請又は勾留取消請求を行うべきこととなります。

検察官としては勾留期間満了時(勾留請求の日から原則10日間。勾留延長があった場合、20日間。)までに息子さんを起訴するか否かの決定をする必要があるため、公判請求を回避するためには勾留期間内に示談を成立させる必要があります(刑事訴訟法208条1項・2項)。対応に急を要する事態といえますので、直ちに経験のある弁護士に相談されることを強くお勧めいたします。

以上

関連事例集

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※参照条文・判例

刑法

(併合罪)

第四十五条 確定裁判を経ていない二個以上の罪を併合罪とする。ある罪について禁錮以上の刑に処する確定裁判があったときは、その罪とその裁判が確定する前に犯した罪とに限り、併合罪とする。

(有期の懲役及び禁錮の加重)

第四十七条 併合罪のうちの二個以上の罪について有期の懲役又は禁錮に処するときは、その最も重い罪について定めた刑の長期にその二分の一を加えたものを長期とする。ただし、それぞれの罪について定めた刑の長期の合計を超えることはできない。

(一個の行為が二個以上の罪名に触れる場合等の処理)

第五十四条 一個の行為が二個以上の罪名に触れ、又は犯罪の手段若しくは結果である行為が他の罪名に触れるときは、その最も重い刑により処断する。

(住居侵入等)

第百三十条 正当な理由がないのに、人の住居若しくは人の看守する邸宅、建造物若しくは艦船に侵入し、又は要求を受けたにもかかわらずこれらの場所から退去しなかった者は、三年以下の懲役又は十万円以下の罰金に処する。

(公然わいせつ)

第百七十四条 公然とわいせつな行為をした者は、六月以下の懲役若しくは三十万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する。

(強制わいせつ)

第百七十六条 十三歳以上の男女に対し、暴行又は脅迫を用いてわいせつな行為をした者は、六月以上十年以下の懲役に処する。十三歳未満の男女に対し、わいせつな行為をした者も、同様とする。

(親告罪)

第百八十条 第百七十六条から第百七十八条までの罪及びこれらの罪の未遂罪は、告訴がなければ公訴を提起することができない。

民法

(未成年者の法律行為)

第五条 未成年者が法律行為をするには、その法定代理人の同意を得なければならない。ただし、単に権利を得、又は義務を免れる法律行為については、この限りでない。

2 前項の規定に反する法律行為は、取り消すことができる。

刑事訴訟法

第六十条 裁判所は、被告人が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由がある場合で、左の各号の一にあたるときは、これを勾留することができる。

一 被告人が定まつた住居を有しないとき。

二 被告人が罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき。

三 被告人が逃亡し又は逃亡すると疑うに足りる相当な理由があるとき。

○2 勾留の期間は、公訴の提起があつた日から二箇月とする。特に継続の必要がある場合においては、具体的にその理由を附した決定で、一箇月ごとにこれを更新することができる。但し、第八十九条第一号、第三号、第四号又は第六号にあたる場合を除いては、更新は、一回に限るものとする。

第六十一条 被告人の勾留は、被告人に対し被告事件を告げこれに関する陳述を聴いた後でなければ、これをすることができない。但し、被告人が逃亡した場合は、この限りでない。

第六十四条 勾引状又は勾留状には、被告人の氏名及び住居、罪名、公訴事実の要旨、引致すべき場所又は勾留すべき刑事施設、有効期間及びその期間経過後は執行に着手することができず令状はこれを返還しなければならない旨並びに発付の年月日その他裁判所の規則で定める事項を記載し、裁判長又は受命裁判官が、これに記名押印しなければならない。

第八十七条 勾留の理由又は勾留の必要がなくなつたときは、裁判所は、検察官、勾留されている被告人若しくはその弁護人、法定代理人、保佐人、配偶者、直系の親族若しくは兄弟姉妹の請求により、又は職権で、決定を以て勾留を取り消さなければならない。

第九十二条 裁判所は、保釈を許す決定又は保釈の請求を却下する決定をするには、検察官の意見を聴かなければならない。

○2 検察官の請求による場合を除いて、勾留を取り消す決定をするときも、前項と同様である。但し、急速を要する場合は、この限りでない。

第二百条 逮捕状には、被疑者の氏名及び住居、罪名、被疑事実の要旨、引致すべき官公署その他の場所、有効期間及びその期間経過後は逮捕をすることができず令状はこれを返還しなければならない旨並びに発付の年月日その他裁判所の規則で定める事項を記載し、裁判官が、これに記名押印しなければならない。

第二百三条 司法警察員は、逮捕状により被疑者を逮捕したとき、又は逮捕状により逮捕された被疑者を受け取つたときは、直ちに犯罪事実の要旨及び弁護人を選任することができる旨を告げた上、弁解の機会を与え、留置の必要がないと思料するときは直ちにこれを釈放し、留置の必要があると思料するときは被疑者が身体を拘束された時から四十八時間以内に書類及び証拠物とともにこれを検察官に送致する手続をしなければならない。

第二百七条 前三条の規定による勾留の請求を受けた裁判官は、その処分に関し裁判所又は裁判長と同一の権限を有する。但し、保釈については、この限りでない。

第二百八条 前条の規定により被疑者を勾留した事件につき、勾留の請求をした日から十日以内に公訴を提起しないときは、検察官は、直ちに被疑者を釈放しなければならない。

○2 裁判官は、やむを得ない事由があると認めるときは、検察官の請求により、前項の期間を延長することができる。この期間の延長は、通じて十日を超えることができない。

第二百三十条 犯罪により害を被つた者は、告訴をすることができる。

第二百三十一条 被害者の法定代理人は、独立して告訴をすることができる。

第二百三十七条 告訴は、公訴の提起があるまでこれを取り消すことができる。

○2 告訴の取消をした者は、更に告訴をすることができない。

第二百四十条 告訴は、代理人によりこれをすることができる。告訴の取消についても、同様である。

第二百四十八条 犯人の性格、年齢及び境遇、犯罪の軽重及び情状並びに犯罪後の情況により訴追を必要としないときは、公訴を提起しないことができる。

第四百二十九条 裁判官が左の裁判をした場合において、不服がある者は、簡易裁判所の裁判官がした裁判に対しては管轄地方裁判所に、その他の裁判官がした裁判に対してはその裁判官所属の裁判所にその裁判の取消又は変更を請求することができる。

二 勾留、保釈、押収又は押収物の還付に関する裁判

≪判例参照≫

最高裁昭和45年1月29日判決。

(判決抜粋)

しかし、職権により調査するに、刑法一七六条前段のいわゆる強制わいせつ罪が成立するためには、その行為が犯人の性欲を刺戟興奮させまたは満足させるという性的意図のもとに行なわれることを要し、婦女を脅迫し裸にして撮影する行為であつても、これが専らその婦女に報復し、または、これを侮辱し、虐待する目的に出たときは、強要罪その他の罪を構成するのは格別、強制わいせつの罪は成立しないものというべきである。本件第一審判決は、被告人は、内妻工藤すずが本件被害者山崎道子の手引により東京方面に逃げたものと信じ、これを詰問すべく判示日時、判示アパート内の自室に山崎を呼び出し、同所で右工藤と共に山崎に対し「よくも俺を騙したな、俺は東京の病院に行つていたけれど何もかも捨ててあんたに仕返しに来た。硫酸もある。お前の顔に硫酸をかければ醜くなる。」……と申し向けるなどして、約二時間にわたり右山崎を脅迫し、同女が許しを請うのに対し同女の裸体写真を撮つてその仕返しをしようと考え、「五分間裸で立つておれ。」と申し向け、畏怖している同女をして裸体にさせてこれを写真撮影したとの事実を認定し、これを刑法一七六条前段の強制わいせつ罪にあたると判示し、弁護人の主張に対し、「成程本件は前記判示のとおり報復の目的で行われたものであることが認められるが、強制わいせつ罪の被害法益は、相手の性的自由であり、同罪はこれの侵害を処罰する趣旨である点に鑑みれば、行為者の性欲を興奮、刺戟、満足させる目的に出たことを要する所謂目的犯と解すべきではなく、報復、侮辱のためになされても同罪が成立するものと解するのが相当である」旨判示しているのである。そして、右判決に対する控訴審たる原審の判決もまた、弁護人の法令適用の誤りをいう論旨に対し、「報復侮辱の手段とはいえ、本件のような裸体写真の撮影を行なつた被告人に、その性欲を刺戟興奮させる意図が全くなかつたとは俄かに断定し難いものがあるのみならず、たとえかかる目的意思がなかつたとしても本罪が成立することは、原判決がその理由中に説示するとおりであるから、論旨は採用することができない。」と判示して、第一審判決の前示判断を是認しているのである。

してみれば、性欲を刺戟興奮させ、または満足させる等の性的意図がなくても強制わいせつ罪が成立するとした第一審判決および原判決は、ともに刑法一七六条の解釈適用を誤つたものである。

もつとも、年若い婦女(本件被害者は本件当時二三年であつた)を脅迫して裸体にさせることは、性欲の刺戟、興奮等性的意図に出ることが多いと考えられるので、本件の場合においても、審理を尽くせば、報復の意図のほかに右性的意図の存在も認められるかもしれない。しかし、第一審判決は、報復の意図に出た事実だけを認定し、右性的意図の存したことは認定していないし、また、自己の内妻と共同してその面前で他の婦女を裸体にし、単にその立つているところを写真に撮影した本件のような行為は、その行為自体が直ちに行為者に前記性的意図の存することを示すものともいえないのである。しかるに、控訴審たる原審判決は、前記の如く「報復侮辱の手段とはいえ、本件のような裸体写真の撮影を行つた被告人に、その性欲を刺戟興奮させる意図が全くなかつたとは俄かに断定し難いものがある」と判示しているけれども、何ら証拠を示していないし、また右意図の存在を認める理由を説示していないのみならず、他の弁護人の論旨に対し本件第一審判決には、事実誤認はないと判示し控訴を棄却しているのであるから、原判決は、本件被告人に報復の手段とする意図のほかに、性欲を刺戟興奮させる意図の存した事実を認定したものでないこと明らかである。してみれば、原判決は、強制わいせつ罪の成否に関する第一審判決の判断を是認し維持したものといわなければならない。

要するに、原判決には刑法一七六条の解釈適用を誤つた違法があり、判決の結果に影響を及ぼすことが明らかであつて、原判決を破棄しなければ著しく正義に反するものと認める。

そして、第一審判決の確定した事実は強制わいせつ罪にはあたらないとしても、所要の訴訟手続を踏めば他の罪に問い得ることも考えられ、また原判決の示唆するごとく、もし被告人に前記性的意図の存したことが証明されれば、被告人を強制わいせつ罪によつて処断することもできる次第であるから、さらにこれらの点につき審理させるため刑訴法四一一条一号四一三条により原判決を破棄し、本件を原裁判所に差し戻すべきものとする。

よつて、裁判官入江俊郎、同長部謹吾の反対意見があるほか裁判官全員一致の意見により主文のとおり判決する。