新銀座法律事務所|刑事事件・痴漢
痴漢の疑いで逮捕されたとき――本人・家族の初動と弁護活動
更新:
突然の逮捕の連絡を受けたときは、まず本人の居場所と手続の段階を確認しましょう。このページでは、行為を認める場合と否認する場合を区別し、接見、早期釈放、証拠保全、示談、仕事への対応を説明します。
質問:家族が痴漢の疑いで逮捕されました。何から始めればよいですか?
警察から、夫・妻・子どもなどの家族が痴漢の疑いで逮捕されたと連絡がありました。本人が認めているのか、身に覚えがないと言っているのかも分かりません。いつ帰れるのか、会社や学校への影響、示談の必要性が心配です。
回答:居場所と逮捕時刻を確認し、早期に弁護士の接見を依頼してください
最初に必要なのは、本人の説明と手続の状況を正確に把握することです。警察署名、担当部署・担当者、逮捕時刻、疑われている罪名を控え、弁護士に接見を依頼してください。認める事件と否認する事件では対応が異なり、家族が先に謝罪や事実の承認を約束することは避けます。
逮捕された全員が23日間拘束されるわけではありません。勾留請求をしないよう求める活動、裁判官への意見提出、準抗告等により早期釈放を目指すことができます。弁護士への相談を待つ間も手続は進みますので、連絡時に「逮捕中」と最初に伝えてください。
解説1.本人と家族が最初に確認すること
- 本人の居場所と状況:警察署・留置施設、罪名、逮捕の日時、送致・勾留の有無を確認します。家族に知らされた内容と、本人の認識が同じとは限りません。
- 弁護士の接見:身体拘束中の本人は、弁護人等と立会人なしで相談できます(刑事訴訟法39条)。捜査上の接見指定等が問題になる場合もありますが、家族の面会とは異なる権利です。
- 当番弁護士・国選弁護:依頼先が分からないときは、警察署等を通じて弁護士会の当番弁護士を呼ぶ方法があります。初回接見は原則無料です。勾留後、資力等の要件を満たせば被疑者国選弁護の対象となり得ます。逮捕直後に国選弁護人が自動的に付くわけではありません。
- 健康・生活上の事情:持病、服薬、通院、家族の介護、仕事・学校の予定を弁護士に伝えます。面会や差入れの可否・時間・品目は留置施設に確認します。
- 被害者等への接触:本人や家族が相手の住所・連絡先を探したり、撤回を迫ったりしないでください。被害の拡大や、証拠隠滅のおそれの判断につながることがあります。
本人がまだ逮捕されていない場合、任意の取調べでは原則として出頭を断り、途中で退去することができます(刑事訴訟法198条1項)。ただし、現行犯逮捕や令状による逮捕の場合とは異なります。現在の扱いを確認し、暴力的な抵抗や危険な逃走はせず、弁護士への連絡を求めてください。
解説2.適用される罪と、2023年・2025年の改正
「痴漢」は日常用語であり、一つの罪名ではありません。行為の内容、場所、相手の状態、年齢などにより、不同意わいせつ罪、都道府県の迷惑防止条例違反等が問題になります。被害者・行為者の性別は問いません。
| 主な類型 | 法定刑と注意点 |
|---|---|
| 不同意わいせつ罪(刑法176条) | 6か月以上10年以下の拘禁刑。罰金刑はありません。暴行・脅迫だけでなく、不意打ち、恐怖・驚愕等により同意しない意思を形成・表明・全うすることが困難な状態を作り、又はその状態に乗じたわいせつ行為等が対象です。 |
| 東京都迷惑防止条例5条1項1号・8条1項2号 | 公共の場所・公共の乗物における、正当な理由のない一定の身体接触を処罰します。通常の類型は6か月以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金。 |
| 同条例の常習違反(8条8項) | 上記身体接触を常習として行った場合は1年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金。「3回目から」という機械的な基準ではありません。 |
2023年7月13日施行の改正で「強制わいせつ」「準強制わいせつ」は不同意わいせつ罪に整理され、2025年6月1日から懲役・禁錮に代わる拘禁刑が導入されました。過去の行為には行為時の法律や経過措置を確認します。
「服の上なら条例違反、服の中なら刑法」と単純に区別することはできません。着衣の上からの行為でも刑法上の犯罪に該当し得ます。詳しい要件と条例の条文は痴漢に関する法律・条例の解説をご覧ください。
解説3.逮捕・勾留・起訴までの流れ
勾留を請求する場合
裁判官が理由・必要性を審査。却下されれば釈放。
勾留が認められた場合
勾留請求日から原則10日以内。やむを得ない事由があれば延長は通じて10日以内。
途中でも準抗告・取消請求等による釈放を検討。
釈放・在宅の場合
身体拘束せずに捜査を続けることがあります。
釈放=不起訴ではありません。
呼出しや証拠確認への対応を弁護士と相談します。
成人の一般的な一事件を簡略化した図です。逮捕・勾留の各段階で釈放される可能性があり、起訴後の勾留や別事件の逮捕は別に検討します。不同意わいせつ罪には罰金刑がなく、同罪のまま略式罰金で終える手続はありません。
通常の成人の一事件では、逮捕段階の最大72時間と、勾留・延長の最大20日を合わせて「起訴前は最大23日」と説明されます。ただし、常にこの期間拘束されるわけではなく、起訴後まで含めた身体拘束の上限でもありません。勾留延長には、検察官の請求に加え、裁判官がやむを得ない事由を認めることが必要です。
起訴前に「保釈金を払って出る」という制度はありません。保釈は起訴後の制度です。起訴前は勾留を防ぐ活動や準抗告、勾留取消請求などを検討します。裁判所:刑事事件Q&A(逮捕・勾留・保釈・国選弁護等)
解説4.早期釈放のために説明・準備すること
勾留には犯罪の嫌疑に加えて、住居不定、罪証隠滅のおそれ、逃亡のおそれ等の法定の理由と、勾留の必要性が問題になります(刑事訴訟法60条・207条等)。単に仕事が忙しいことだけで釈放されるわけではありませんが、住居、職業、家族の支援、証拠の収集状況、関係者への接触可能性を具体的に示すことが大切です。
- 検察官が勾留を請求する前に、身元引受け・出頭確保等の資料と意見を提出する。
- 勾留請求後は、裁判官に勾留の理由・必要性がないことを説明する。
- 勾留・延長の決定後も、準抗告や取消請求等の適否を検討する。
- 通勤経路の変更や接触回避など、相手方に働きかけないための実行可能な計画を作る。
最高裁平成26年11月17日決定は、地下鉄内の痴漢否認事件で、相手方に接触する具体的事情などを踏まえ、罪証隠滅の現実的可能性を検討し、勾留を認めた決定を取り消しました。「否認しているから必ず勾留」という扱いをせず、個別事情に基づいて判断することが重要です。最高裁平成26年11月17日決定(裁判所PDF)
解説5.取調べ・供述調書への対応
被疑者には黙秘権があり、自己の意思に反して供述する必要はありません(憲法38条、刑事訴訟法198条2項)。どの点を説明するか、回答を控えるかは、事実関係を弁護士と整理して判断します。早く帰りたいという理由で、していない行為を認めることは避けてください。
話す場合には、自分で見聞きしたこと、推測、覚えていないことを分けます。「酔っていて覚えていない」は、行為をしたことの承認とも、していないことの証明とも同じではありません。飲酒やストレスだけで当然に責任がなくなることもありません。
供述調書は閲覧又は読み聞かせで確認し、違う部分は訂正を求めます。内容に納得できなければ署名・押印を拒むことができます。訂正の申立てや拒否について弁護士に伝え、取調べの日時・担当者・発言内容をできる範囲で記録してください。
解説6.身に覚えがない場合――客観的な資料を早く確保する
痴漢をしていない、別人と取り違えられた、混雑による偶然の接触だったなどの場合は、何が争点かを整理します。相手方を攻撃することと、証拠に基づいて疑いを争うことは別です。被害を申告した方の氏名・写真等をSNSに掲載しないでください。
| 確認事項 | 保存・調査する資料の例 |
|---|---|
| 移動と位置関係 | 日時、路線、乗降駅、車両・ドア位置、立ち位置、向き、周囲の混雑、両手と所持品の位置を記録。交通系IC履歴等は元データのまま保存。 |
| 映像・目撃情報 | 駅・車内等の防犯カメラ、目撃者、駅員等の対応。映像は上書きされることがあるため、弁護士を通じて早期の保存・捜査を求める。 |
| 接触と物的証拠 | 衣服、所持品、繊維等の鑑定の必要性。資料を削除・改変せず、保全方法を弁護士と確認する。 |
| 説明の経過 | 誰がいつどのように犯人を特定したか、現場で何を話したか、本人の説明がどう記録されたかを整理する。 |
最高裁平成21年4月14日判決は、満員電車内の旧強制わいせつ事件で、具体的な証拠関係に照らして合理的な疑いが残るとして無罪を言い渡しました。ただし、「被害者供述だけなら常に無罪」「抵抗しなかったなら被害はない」という判例ではありません。供述の信用性は、観察条件や客観的証拠、出来事の経過を総合して検討します。最高裁平成21年4月14日判決(判決全文・当事務所掲載PDF)
弁護士が本人の説明を早期に書面化することは役立つ場合がありますが、確定日付を付ければ内容が真実と証明されるわけではありません。刑事訴訟法322条等による証拠能力と、内容の信用性は別の問題です。提出するかどうかも含めて弁護方針を検討します。
解説7.認める場合の謝罪・示談と再発防止
行為を認める場合は、被害を受けた方の苦痛と生活への影響を踏まえ、弁護士を通じて謝罪・被害弁償・再発防止を検討します。被害者には示談に応じる義務はなく、直接の連絡、面会、謝罪文の受領を望まない場合もあります。意思を尊重して進めてください。
示談では対象となる事実、支払額・方法、接触を避ける方法、民事上の清算範囲、処罰についての意向等を、双方が理解したうえで定めます。供述変更や被害届・告訴の撤回を強要してはいけません。金額は被害の内容等で異なり、一定額を払えば必ず解決する仕組みではありません。
示談成立や告訴取消しだけで、不起訴・釈放が保証されるわけではありません。不同意わいせつ罪は非親告罪で、告訴がなくても起訴できます。示談や被害回復は重要な判断材料ですが、嫌疑、事案の重さ、前歴、再発防止等を踏まえ、検察官が処分を判断します(刑事訴訟法248条)。
再発防止は反省文だけで終わらせず、生活上の問題、飲酒、移動方法、家族等の支援を見直し、必要に応じて専門機関の相談・治療等を検討します。治療歴や相談歴があるだけで処分が決まるものではありません。
解説8.不起訴・罰金・正式裁判、勤務先や報道への対応
不起訴には、嫌疑がない・十分でない場合と、犯罪の成立を前提に起訴猶予とする場合などがあります。不起訴は裁判所の無罪判決と同じではありません。略式命令による罰金も有罪の裁判であり、確定すれば前科となります。条例違反でも自動的に罰金で終わるとは限りません。
略式手続には本人が異議を述べない旨の書面が必要です。説明を理解しないまま同意しないでください。略式命令に不服がある場合の正式裁判の請求期間は、告知を受けた日から14日以内です。不同意わいせつ罪は罰金刑の定めがないため、同罪のまま略式罰金にすることはできません。
逮捕だけで当然に解雇が有効となるわけではありません。実際の事実、就業規則、業務との関係、欠勤等を踏まえて判断します。家族は無断欠勤を防ぐ連絡方法を弁護士と相談し、虚偽の診断書や説明資料を作らないでください。公務員・資格職の行政上の扱いは職種と処分内容で異なります。
勤務先への照会や報道、公表の可能性を完全に排除することはできません。弁護士からプライバシー、誤認の可能性、家族等への影響について具体的な配慮を求めることはできますが、「絶対に知られない」と保証できるものではありません。
解説9.現在の警察庁通達と、被害に遭った方への案内
警察庁の2023年3月31日通達は、早期の目撃者確保、防犯カメラ映像・微物等の証拠保全と裏付け捜査を求めるとともに、事情聴取等での被害者の負担や二次被害を軽減する方針を示しています。旧記事が紹介していた2009年の通達だけを現在の捜査方針として扱わず、現行の公表資料も確認します。警察庁:痴漢事犯対策の更なる推進について(2023年3月31日通達・PDF)
被害に遭った方は、安全を優先し、駅員や周囲の人に助けを求め、緊急の場合は110番へ連絡してください。声を出せなかったことやすぐに申告できなかったことは、同意していたことを意味しません。性別や年齢にかかわらず、警察庁:性犯罪被害相談電話「#8103」や内閣府:性犯罪・性暴力被害者への支援を利用できます。被害弁償の請求や示談の判断についても弁護士に相談できます。
新銀座法律事務所への無料相談
痴漢の疑いで逮捕された方のご家族、任意の取調べを受けている方、否認・示談・早期釈放への対応を知りたい方はご相談ください。 まずは無料の電話相談をご利用ください。概要を伺い、弁護士から5分程度を目安に一般的な見解をご案内します。
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電話のほか、LINE・メールフォームからも受付できます。お名前、都道府県、電話番号、相談の概要をお知らせください。LINE・メールからの受付も、原則として弁護士から電話で回答します。ご家族からの相談では、本人の氏名・年齢、警察署、逮捕日時、疑われている罪名、本人の説明、弁護士の有無を分かる範囲でお知らせください。本人に無理に詳しい説明や認否を迫る必要はありません。接見等の緊急対応が必要な場合は最初にお伝えください。
接見、示談交渉、身柄解放に向けた申立て、公判弁護、詳しい資料検討等のご依頼は、範囲と費用を確認して別途契約します。弁護士費用の案内もご覧ください。受付と回答は同時とは限りません。期限や緊急の事情は最初にお伝えください。最新の受付方法・時間は相談案内ページでご確認ください。無料相談の受付のみで接見や弁護活動が開始されるわけではありません。
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確認日:2026年9月28日。法令・条例は施行時点と経過措置を確認してください。判例は本文記載の裁判年月日によります。
- e-Gov法令検索:刑法(176条・177条等)
- e-Gov法令検索:刑事訴訟法(39条・60条・198条・203条以下等)
- 東京都例規集:公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例
- 法務省:性犯罪関係の法改正等Q&A
- 法務省:拘禁刑下の矯正処遇等について
- 裁判所:刑事事件Q&A(逮捕・勾留・保釈・国選弁護等)
- 最高裁平成21年4月14日判決(判決全文・当事務所掲載PDF)
- 最高裁平成26年11月17日決定(裁判所PDF)
- 警察庁:痴漢事犯対策の更なる推進について(2023年3月31日通達・PDF)
- 警察庁:生活安全局の通達一覧
- 警察庁:性犯罪被害相談電話「#8103」
- 内閣府:性犯罪・性暴力被害者への支援
旧条例の固定PDFへの案内は、拘禁刑への改正を反映した東京都例規集へのリンクに更新しました。判例PDFは歴史的な裁判の記録ですので、旧罪名・旧刑名の記載を保持しています。2023年の警察庁通達も発出当時の資料として参照し、刑罰は現行条文で確認してください。