新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.1060、2010/11/19 13:15 https://www.shinginza.com/rikon/index.htm

【民事・財産分与と詐害行為・一般債権者の保護と財産分与の性質】 

質問:結婚して7年になる夫が、事業に失敗し、多額の借金を抱えています。家でも口論が絶えなくなり、このまま一緒に暮らしていくことは難しいと思うようになったので、協議のうえ、離婚することにしました。夫の財産は、自宅マンションと、事業用テナントマンションの2件あるのですが、私が離婚に際して、財産分与として自宅マンションを譲り受けた場合、夫の債権者から差し押さえられることはありますか。

回答:
 まず、自宅マンションに抵当権設定登記がなされているかどうかによります。抵当権設定登記がある場合、あなたへの移転登記より抵当権設定登記の方が優先しますので、今後ローンの支払い等が滞ることがあれば、差し押さえ(競売の申立)られてしまいます。これに対し、抵当権設定登記がない物件の場合は、詐害行為の問題となります。判例上、財産分与として相当な額の範囲内であれば、詐害行為とならないとされています。夫婦の全財産、財産形成への寄与の度合い等のさまざまな事情を総合的に考慮して判断されることなので、専門家へのご相談をお勧めします。

解説:
1.この問題を理解するには、債務者の責任財産、詐害行為取消権、財産分与という民法の3つの制度について理解する必要があります。

2.責任財産
 債務者が任意に債務を履行しない場合、債権者はその財産を差し押さえ、換価して債権の満足を得るという強制執行の方法が認められます。債務者の財産のうちには、特定の債権者に担保として供しているものも含まれます(抵当権付き不動産など)が、担保を持たない一般の債権者は、これらの担保に供された財産以外の財産にかかっていかなければなりません。これら一般債権者にとって、強制執行の引当てとなるべき債務者の財産を「責任財産(一般財産)」とよびます。担保を有する特定の債権者ではない一般債権者が共同で担保的価値に期待している財産という意味で、「共同担保」とよぶこともあります。
 債務を負っている者といえども、自分の財産の管理処分は自由に行えるのが原則です。しかし、一般債権者は、ときとして、責任財産の散逸について大きな利害を有します。この関係を調整するために、民法は責任財産の保全の観点から、債務者の財産処分の自由に一定の制限を加える制度を設けています。
 一つは「債権者代位権」です(民法423条)。簡単に言うと、債務者が既に無資力であるにもかかわらず、行使できる権利を行使しないでいる場合に、債権者は自分の債権を保全するために、債務者に代わってその権利を行使できるという制度です。債務者が債権回収を怠っている間に回収不能になってしまうおそれがあります。債権者は代位権を行使することにより責任財産の減少を阻止することができるのです。
 もう一つが「債権者取消権」です(民法424条)。簡単に言うと、債務者が無資力で、債権者に支払いができなくなることを知りつつ、自分の財産を他人へ処分してしまった場合に、債権者が後からそれを取り消せるという制度です。債権者は、取消権を行使することにより責任財産から離れてしまった不動産などの財産を取り戻す(責任財産へ組み入れる)ことができます。本質問では、これが問題になることがおわかりでしょう。

3.債権者取消権
 債権者取消権は、「債務者が債権者を害することを知ってした法律行為(詐害行為)」について行使できると規定されています。「債権者を害する」とは債務者が無資力であって、債権者に支払いができなくなることを意味します。既に無資力だったのに、さらに財産を処分する場合も含まれます。ご主人が既に債務超過の状態にあるとすれば、所有不動産を奥様に譲渡することは、詐害行為となる可能性が出てきます。裁判所は、不動産の譲渡は、無償譲渡だけでなく、相当対価による有償の譲渡も詐害行為となりうると判断しています(大審院明治39年2月5日判決など)。現金や売買代金債権だと、不動産の所有権登記名義よりも散逸しやすいという判断です。
 本件では、単なる贈与ではなく、離婚に伴う財産分与としての譲渡です。債権者取消権の規定は「財産権を目的としない法律行為については、適用しない。」とされており(民法424条2項)、これとの関係で、身分法上の行為に密接にかかわる財産分与が債権者取消しの対象となりうるのかについて、問題になります。

4.財産分与
 財産分与は、離婚をするに至った夫婦が、婚姻共同生活の継続中に共同で築いた財産を公平に分け合い、清算するという性格をその本質とします。ただ、実際には、有責配偶者から他方配偶者に対する慰謝料の要素や、離婚により生活基盤を失う経済的に弱い立場の配偶者に対する扶養の要素も事実上入ってくるので、その算定は複雑となります。
 結論としては、財産分与が離婚という身分行為を前提とすること、清算・慰謝料・扶養の複合という複雑な性質を有することを考慮すれば、純粋な財産的法律行為としてつねに債権者取消権の対象とするのは、妥当でなく、たとえ債務超過にあって、債権者を害することを知って財産分与をした場合であっても、原則として債権者から取消しはできないと解するべきです。これは、債権者の保護か、夫婦の他方の保護(一般的には夫名義の財産が多いので妻の権利の保護)を図るのが良いかという問題になります。夫婦の財産は一般的に夫名義となっていること、また、形成された夫名義の財産は有形無形の妻の寄与が考えられ夫の独立固有の財産とは評価できないこと等を考慮すると、離婚後の妻の生活の保護が重視される場合が多い、という背景があると考えられます。すなわち、夫名義の財産の実質は、妻の者も包含されているのですから、元々、一般債権者があてにする「責任財産」とは評価できないというのが理由になります。又、慰謝料の支払いは、故意過失により第三者の権利、利益を侵害する不法行為(民法709条、710条)が原因であり、そもそも一般債権者を侵害する意図で行われる性質のものではありませんから詐害行為という評価はできないでしょう。扶養的内容についてみると、離婚後の扶養責任は、経済的に弱い立場にある妻を保護し、夫婦独立対等の大原則(憲法24条、14条)を実質的に保障するものであり、夫婦関係に必然的に存在するもので、一般債権者はその範囲で元々責任財産として把握することができない性質のものです。
 ですからもちろん、夫婦の離婚後の生活の保護から離れ、財産分与を悪用して、故意に執行逃れをすることは許されません。最高裁昭和58年12月19日判決は、「分与者が既に債務超過の状態にあつて当該財産分与によつて一般債権者に対する共同担保を減少させる結果になるとしても、それが民法七六八条三項の規定の趣旨に反して不相当に過大であり、財産分与に仮託してされた財産処分であると認めるに足りるような特段の事情のない限り、詐害行為として、債権者による取消の対象となりえないものと解するのが相当である。」と判示して、財産分与が原則としては債権者取消しの対象とならないことと、例外的に不相当に過大な財産分与がなされた場合には、債権者取消しの対象となることを示しました。

5.具体的な判断要素
 財産分与が相当な額であるか、それとも不相当に過大であるかは、「当事者双方がその協力によって得た財産の額その他一切の事情を考慮して」判断されるものであり(民法768条3項)、実際には、たとえば、婚姻期間、離婚のきっかけ、財産の取得時期、利用状況(不動産であれば、被分与者の生活の本拠であるかどうかなど)、当事者の主観的意思(清算、扶養、慰謝料の趣旨で行ったものかどうかなど)、債務の残額、債務の原因(夫婦共同生活の維持のための借入であったかどうかなど)等の事情が考慮されます。
 判例には、複数の財産について行われた財産分与のうち、一部について過大だとして、部分的取消しを認めるものも見られます(東京地裁平成7年5月16日判決、最高裁平成12年3月9日判決)。

6.取消権行使の結果
 かりに、自宅マンションを財産分与として譲り受けた後に、これが過大な財産分与として債権者取消請求訴訟を起こされ、裁判に負けてしまった場合、移転登記は抹消され、マンションはご主人の名義に戻ることになります。その結果、ご主人の債権者から差押えを受ける可能性も再び生じるということになります。ご心配であれば、具体的資料を持参してお近くの弁護士事務所にご相談になると良いでしょう。

≪参照条文≫

憲法
第14条  すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。
第24条  婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない。
2  配偶者の選択、財産権、相続、住居の選定、離婚並びに婚姻及び家族に関するその他の事項に関しては、法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して、制定されなければならない。

民法
第423条 債権者は、事故の債権を保全するため、債務者に属する権利を行使することができる。ただし、債務者の一身に専属する権利は、この限りでない。
2 債権者は、その債権の期限が到来しない間は、裁判上の代位によらなければ、前項の権利を行使することができない。ただし、保存行為は、この限りでない。
第424条 債権者は、債務者が債権者を害することを知ってした法律行為の取消しを裁判所に請求することができる。ただし、その行為に負って利益を受けた者又は転得者がその行為又は転得の時において債権者を害すべき事実を知らなかったときは、この限りでない。
2 前項の規定は、財産権を目的としない法律行為については、適用しない。
第425条 前条の規定による取消しは、すべての債権者の利益のためにその効力を生ずる。
第426条 第424条の規定による取消権は、債権者が取消しの原因を知った時から2年間行使しないときは、時効によって消滅する。行為の時から20年を経過したときも、同様とする。
第709条  故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
第710条  他人の身体、自由若しくは名誉を侵害した場合又は他人の財産権を侵害した場合のいずれであるかを問わず、前条の規定により損害賠償の責任を負う者は、財産以外の損害に対しても、その賠償をしなければならない。
第768条3項 前項の場合には、家庭裁判所は、当事者双方がその協力によって得た財産の額その他一切の事情を考慮して、分与をさせるべきかどうか並びに分与の額及び方法を定める。

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