新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.1020、2010/4/26 12:06

【債権回収・破産免責の効力が及ぶ主債権の保証人はその消滅時効を援用できない】

質問:借受人が破産免責を受けた場合,連帯保証人は借受人に対する主たる債権の消滅時効を援用できるのでしょうか。個人事業を経営している知人に金銭を貸し付けていましたが,5年ほど前に破産免責決定がされてしまい,残金約1200万円が回収できなくなりました。ただ,貸付の際,借受人の息子に連帯保証をさせていたので,保証債務の履行を求めたところ,住宅ローンの返済もあるから分割にしてほしいといわれ,月々10万円ずつの分割を認めてあげました。それ以来,毎月きちんと支払われていたのですが,先月分から支払いがなくなりました。訝っていたところ,主債務について5年の商事消滅時効が完成したので援用するとの内容証明が届きました。確かに,破産免責がされたので知人にはもう1円も請求していませんが,これでは連帯保証を取った意味がありませんし,分割を認めてあげた恩を仇で返された思いです。残金は元利合計700万円弱もあります。何とかなりませんか。なお,分割が2回分滞ったときは一括請求できるという合意書を取ってあります。

回答:
 結論として,本件連帯保証人の主張する消滅時効援用は認められません。この点については理論的には様々な考え方が可能なところですが,実務上は,最高裁の判例もあり,確定しているといえます。債権回収の方法としては,もうすぐ滞納が2回分に達して期限の利益喪失条項が発動することに照らせば,まずは,その直後に自宅不動産の仮差押命令を申し立てるべきではないかと思います。そのうえで訴訟上の請求へ移るか,あるいは訴訟外であっても少なくとも公正証書による支払合意を目指すべきです。勿論,あなたご自身でそういった判例を連帯保証人に示して説得を試みることも自由ですが,連帯保証人の不誠実な態度からすると,それは避けて,不動産仮差押えを先行させた方が良い可能性があります。軽はずみな行動は避けて,まずは対応をお近くの弁護士にご相談なさってください。

解説:
【連帯保証人による主債務の消滅時効援用の可否一般】
 消滅時効によって債権を消滅させるには援用が必要ですが,時効の援用権者は法律上当事者に限定されています(民法145条)。ここにいう「当事者」とは,判例上,時効の援用によって直接権利を得たり,義務を免れたりする者をいい,連帯保証人は,主債務との関係でこの「当事者」にあたると解されています(大審院昭和8年10月13日判決)。そして,主債務と連帯保証債務は別個の債務で,主債務の時効中断事由に絶対効があること(民法457条1項)と,連帯保証人に対する訴訟上の請求による時効中断効が主債務にも及ぶこと(民法458条,434条)のほかは,消滅時効期間もそれぞれに進行します。そのため,連帯保証人は,自ら連帯保証債務を履行中であっても,その間に主債務の消滅時効が完成すれば,これを援用することができます。そして,連帯保証債務は,主債務の存在が前提となるので,主債務が時効消滅すると一緒に消滅してしまいます。講学上,これを保証債務の消滅における附従性といいます。こうしたことから,連帯保証人が着々と連帯保証債務を分割払いしてくれているので,このまま最後まで支払ってくれるだろうと思って主債務を放置していたところ,あるとき突然,主債務の消滅時効を援用されてしまうということがあり得ることになります。

【破産免責の効力が及ぶ債務の法的性質】
 それでは,主債務者である借受人が破産免責決定を受けたとき,連帯保証債務はどうなるでしょうか。主債務者が免責されることで主債務が消滅してしまって,保証債務の消滅における附従性により,連帯保証債務もなくなってしまうのでしょうか。
 いいえ,そうではありません。破産免責の効力を受ける債権は,裁判上の請求力と強制執行力を失うものの,裁判外での請求力と給付保持力が残されたものとして,依然存続すると解されています。強制的に権利を実現することはできないものの,債務者が任意に支払った場合にそれが有効な弁済となり,受け取ったものを不当利得して返さなくてよいという限度での効力が認められます。講学上,こうした性質を有する債権を自然債権といいますが,債務の側から見て「自然債務」と呼ぶことの方が多いでしょう。このように,免責によっても債務自体は存続するので,連帯保証債務が附従性によって消滅することはありません。破産法上,主債務者について免責を許可されても,保証人に対する権利には影響を及ぼさないことが明文で規定されている(破産法253条2項,旧破産法366条の13)のですが,その背景にはこうした自然債務の観念があると説明することができます。
 尚、権利は本来行使できるからこそ法的意味があるのに、権利行使できないような不完全不明朗な自然債務の概念がどうして必要なのか疑問もあると思います。しかし、権利義務の発生、消滅、内容の関係は全て私的自治の大原則により規律され、公正な法社会秩序を実現するために存在するのですから、当事者の法律権利関係を適正、公平に調整するためには、自然債務という不完全な権利関係も必要とされ存在することになります。本件でいえば、免責債権の根拠は、破産法の理想である経済的破綻者である破産者の再起公正を図り平等な自由競争を確保して公正な自由主義社会秩序を実現しようとするために(破産法1条)法が一定の要件のもとに例外的に債権者の権利行使を認めないというもので、債務者が更生後自発的に本来の債務を弁済することまでは禁止していません。このような微妙な関係を規律するためには自然債務という概念がどうしても必要なのです。消滅時効完成後援用された債務も同様の理由により自然債務と解釈されています。

【免責の効力が及ぶ主債務についての消滅時効援用の可否】
 ここまで,連帯保証人が借受人の主債務の消滅時効を援用することができることと,主債務者が破産免責を受けても主債務は自然債務として依然存続することをみてきました。では,連帯保証人は,自然債務として存続している主債務の消滅時効を援用することができるでしょうか。
 そもそも,その前提として,免責の効力が及んだ主債務について,その後も消滅時効期間の進行を観念することができるかが問題となります。そして,免責決定の効力を受ける債権は,債権者において訴えをもって履行を請求しその強制的実現を図ることができなくなり,この債権については,民法166条1項に定める「権利を行使することができる時」を起算点とする消滅時効の進行を観念することができないとしています。時効制度は、事実状態の尊重し権利関係の安定を図り、証拠散逸による債務者の不利益救済、権利の上に眠る者は保護されない等の理由に基づきますが、権利行使が法的に可能であることを前提としており、自然債務はそもそも権利行使自体が不可能なのですから時効制度が適用になる前提を欠くことになり理論的には妥当な解釈であると考えられます。
 このような考え方により,借受人が免責決定を受けた場合には,その免責決定の効力が及ぶ主債務の連帯保証人は,その債権についての消滅時効を援用することはできないと結論付けられることになります。これに対して,学説の中には,自然債務にも消滅時効期間の進行を観念する余地があるとして,債権者としては主債務の時効中断を図る必要がある(連帯保証人からすれば時効援用の可能性がある。)とする立場等もあります。いずれの立場もいくつもの論拠を持っていますが,ご相談に対するご回答の域から大きく逸れてしまいますので,ここで紹介することは省きます。詳しくお調べになりたいときは判例評釈等をご参照ください。

【最高裁平成11年11月9日第三小法廷判決】
 破産免責の効力が及ぶ主債権について消滅時効の進行を観念することができるか否かについて,これを否定する立場に立つことが示された初めての最高裁判決が上記小見出しに掲げた判決です。
 本判決の事案の概略を大雑把に説明すると次のとおりです。
 ある個人事業主Aが金融機関から借入れをした。
 原告(信用保証協会)がその借入れについて信用保証した。
 被告(個人)が原告に対するAの求償債務を連帯保証した。
 その後,Aは破産免責を受けた。
 原告は金融機関に代位弁済して,被告に対して保証債務の履行を求める訴訟を起こして勝訴した。
 しかし,それから5年(主債務の商事消滅時効期間)が経とうとしていたので,原告は 時効中断のため改めて被告に対して訴訟提起した。
 裁判所は,第一審,控訴審ともに,被告が主債務の消滅時効を援用することができない 以上,裁判をする意味がなく,訴えの利益がないとしてこれを却下する判決をした。
 そうしたところ,原告が上告をした。
 最高裁は,前記のとおり判断して上告を退けた。
 理論的には筋が通った判決と思われます。

【債権の管理・回収に向けてあなたがするべきこと】
 あなたに対して内容証明を送ってきた連帯保証人の主張は,裁判所ではほぼ間違いなく通らないでしょう。あなたとしては,そのことを返答して改めて支払を求めることが考えられます。もっとも,突然,今回のような態度に出た連帯保証人ですから,おとなしく言うことを聞くとは限りません。支払わないという強い意思を持っているか,それともわざわざ内容証明を出して支払を拒絶しようとするだけの事情(収入の減少等)があるとも予想されます。
 他方で,本件では間もなく期限の利益喪失条項が発動するようですから,あなたとしては,債権残高の全額を被担保債権として,連帯保証人の自宅不動産の仮差押えをすることも検討すべき選択肢といえます。連帯保証人に債務全額を一括弁済するだけの原資は見当たらないものの,順調に住宅ローンの返済が進んで,不動産に余剰価値が生じているということであれば,仮差押命令申立ては認めてもらえるでしょう。それを材料にすれば,引き続き分割払いを認めてあげるにしても,有利に交渉することができます。
 もっとも,この手法はあなたが採りうる選択肢のうちの一例にすぎません。仮差押命令申立てが認められるとしても,その前提として担保金(おそらくは,不動産の余剰価値か請求債権額のうち高い方の2割程度になるでしょうか。)を供託しなければならず,当面の費用がかかります。そこまでする必要性,緊急性がどこまであるかの検討が必要です。また,もう一度だけ分割を認めてあげるにしても,折角行動に出る以上は,確実な回収を期して和解内容を吟味すべきです。他方,知人の息子さんであってもこのような態度に出られた以上最早許せず,そして自宅不動産に強制執行をすれば確実に全額回収できる目処が立つということなら,訴訟提起して執行までしてしまうという強攻策も一応考えられます。あるいは,反対に,連帯保証人は話せば分かる人だということなら,法的手段には出ずに弁護士が代理人として内容証明で返答をして,本来なら一括請求だが当方の言うことを聞くなら今回に限り再度の分割合意をしてあげるという形で,任意の交渉をすることもできます。
 いずれにしても,債権管理上イレギュラーな事態に陥っていることは間違いないので,連帯保証人の言い分が裁判所では認められないだろうということで安心するだけでは足りません。あなたが抱える本当の問題はそこではなく,今後,どうやって回収を図っていくかという点にあるからです。その判断のためにはもう少し具体的にご事情を分析する必要がありますので,一度は弁護士にご相談されることをお勧めします。

【関係法令】

≪破産法≫
(目的)
第1条
この法律は、支払不能又は債務超過にある債務者の財産等の清算に関する手続を定めること等により、債権者その他の利害関係人の利害及び債務者と債権者との間の権利関係を適切に調整し、もって債務者の財産等の適正かつ公平な清算を図るとともに、債務者について経済生活の再生の機会の確保を図ることを目的とする。
(免責許可の決定の効力等)
第253条
1項
免責許可の決定が確定したときは、破産者は、破産手続による配当を除き、破産債権について、その責任を免れる。ただし、次に掲げる請求権については、この限りでない。
一号から七号まで 略
2項
免責許可の決定は、破産債権者が破産者の保証人その他破産者と共に債務を負担する者に対して有する権利及び破産者以外の者が破産債権者のために供した担保に影響を及ぼさない。
3項 略

≪民法≫
(時効の援用)
第145条
時効は、当事者が援用しなければ、裁判所がこれによって裁判をすることができない。
(消滅時効の進行等)
第166条
1項
消滅時効は、権利を行使することができる時から進行する。
2項 略


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