新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.915、2009/9/17 17:30 http://www.shinginza.com/qa-roudou.htm

【労働・兼業禁止の就業規則の有効性・解雇の有効性・合理的理由】

質問:私は,現在会社に勤めているのですが,最近数ヶ月間,週2日の頻度で,会社の就業時間終了後である午後7時から10時までの間,親戚の経営するコンビニでレジ打ちのアルバイトをしています。私のアルバイトを知った会社は,私の行為が就業規則上「会社の承認を得ないで在籍のまま他に雇われたとき」に該当するとして,私のことを解雇するようです。どうすればいいでしょうか。

回答:
1.就業規則上,兼職を禁止し,その違反を懲戒事由や解雇事由としている会社は相当数あります。裁判例では,兼職禁止が合理的といえる場合には,当該規定に基づく不利益処分も適法と判断しています。ご質問いただいたアルバイトの内容であれば,解雇事由に該当するほどの非違行為とはいえないものと思われます。会社から解雇をされた場合には,雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認を求める訴訟や労働審判を提起する等して,会社の処分を争うことができます。
2.事務所事例集786番743番,書式は, 「法の支配と民事訴訟実務入門 各論17,労働審判を自分でやる。」参照。

解説:
1.(兼業禁止規定の合理性について,問題点の指摘)公務員については,法律で兼業が禁止されています(国家公務員法101条1項,103条1項,地方公務員法38条1項等)が,民間企業の労働者については,兼業を直接規制する法律は存在しません。公務員については公務の中立と職務に専念する義務があることから法律で兼業を禁止していますが,民間企業については企業の利益を国が保護する必要はないことから法律では禁止していません。従って,法律上は就業時間外の時間の使い方は,本来労働者の自由に委ねられています。もっとも,企業としても従業員が職務に専念することは望ましいことですから,一般的には本件のように,企業は就業規則等で兼業を禁止する規定を設けています。この就業規則は雇用者が定める規定ですから,本来であれば労働者の自由であるはずの就業時間外の時間の使い方を就業規則で制限することができるのか,その有効性が問題となります。

2.(就業規則の有効性と労働契約法7条の関係)この点については,まず,使用者が合理的な労働条件が定められている就業規則を労働者に周知させていた場合には,労働契約の内容は,その就業規則で定める条件によることとされています(労働契約法7条本文)。労働者は労働契約を使用者と締結することにより被雇用者としての義務を負うことになります。従って,本来は就業規則について従うということが労働契約に定められていなければ就業規則自体に拘束力はないとも考えられるのですが,そのように個別に扱うことは無理があることから,使用者が一律にさだめた就業規則の内容が合理的でしかも,それが周知されている場合は,就業規則が当然に労働契約の内容となるという趣旨です。そこで,使用者が一方的に定める就業規則に定める兼職の禁止の条項が合理的といえるかを検討する必要があります。

3.(判例)東京地決昭和57.11.19は,兼業禁止規定の有効性について判断した裁判例ですが,本件でも参考になりますので,以下引用します。「法律で兼業が禁止されている公務員と異り,私企業の労働者は一般的には兼業は禁止されておらず,その制限禁止は就業規則等の具体的定めによることになるが,労働者は労働契約を通じて一日のうち一定の限られた時間のみ,労務に服するのを原則とし,就業時間外は本来労働者の自由であることからして,就業規則で兼業を全面的に禁止することは,特別な場合を除き,合理性を欠く。しかしながら,労働者がその自由なる時間を精神的肉体的疲労回復のため適度な休養に用いることは次の労働日における誠実な労働提供のための基礎的条件をなすものであるから,使用者としても労働者の自由な時間の利用について関心を持たざるをえず,また,兼業の内容によっては企業の経営秩序を害し,または企業の対外的信用,体面が傷つけられる場合もありうるので,従業員の兼業の許可について,労務提供上の支障や企業秩序への影響等を考慮したうえでの会社の承諾にかからしめる旨の規定を就業規則に定めることは不当とはいいがたく,したがつて,同趣旨の債務者就業規則第三一条四項の規定は合理性を有するものである。」上記の裁判例によれば,兼業を全面的に禁止することは原則として合理性を欠くとしつつも,兼業による労務提供上の支障や企業秩序への影響を考慮した上で,兼業について会社の承諾を求める旨の就業規則であれば合理性を有すると判断しています。

4.(判例の検討)この裁判例にしたがって判断すると,「会社の承認を得ないで在籍のまま他に雇われたとき」には解雇ができるという本件就業規則についても,兼職を全面的に禁止したものではなく,「労務提供上の支障や企業秩序への影響等」が明確な場合に限って兼職を禁止している旨の規定だと解さない限り,合理性は認められないでしょう。

5.(本件の検討)これを本件ついてみると,あなたの就労内容はレジ打ちという軽労働であり,勤務時間は3時間に限られ,勤務の頻度も週2日に限られています。したがって,あなたのアルバイトによって,会社に対する労務の提供に支障が生ずることはなく,また,企業の体外的信用を傷つける等,企業秩序へ悪影響を与えることもないと考えられますので,単なる余暇利用の範囲内の行為といえます。もっとも,本件就業規則は,従業員が二重就職をするについて,当該兼業の職務内容が会社に対する本来の労務提供に支障を与えるものではないか等の判断を会社に委ねる趣旨をも含むものとも解されます。それゆえ,会社はあなたの兼業先の職務内容にかかわらず,会社に対して兼業の具体的職務内容を告知してその承諾を求めることなく,無断で二重就職したこと,それ自体が企業秩序を阻害する行為であり,債務者に対する雇用契約上の信用関係を破壊する行為と評価される可能性があります。つまり,事前に会社に届け出ないで兼職をしたということだけで就業規則違反を理由に解雇を主張される危険があるということです。確かに,会社との無用な争いを避けるためには,届出をすることが望ましいことです。しかし,従業員としては事前に会社に届け出るということは気が引けることであることは間違いありませんし,できれば会社に内緒で兼業したいと考えるでしょう。そこで,後日会社に発覚した場合,問題になる場合がほとんど思われます。このような場合は,やはり,兼業先の仕事内容を考慮して具体的に検討することになると考えるべきでしょう。つまり,届け出を怠ったというだけでは解雇はできる,というように就業規則を解釈することはできないと考えるべきでしょう。仮にそのような内容の就業規則であれば,規則が合理性を欠き無効となると考えるべきでしょう。

6.(解雇処分が有効といえるか 民法の原則)次に,会社はあなたのことを解雇するといっているようですが,解雇については法律上様々な制約があります。まず,解雇に関する法律の定めがどのように規定されているのかについて簡単に説明します。民法627条1項は,「当事者が雇用の期間を定めなかったときは,各当事者は,いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において,雇用は,解約の申入れの日から二週間を経過することによって終了する。」と定め,期間の定めのない雇用契約について,各当事者に解約の自由を与えています。したがって,いかなる理由によっても労働者を解雇できるのが民法のたてまえです。しかし,解雇は労働者の生活に重大な影響をもたらすので,使用者の解雇には大幅な制約が課されており,上記の民法のたてまえは労働基準法・労働契約法などによって修正されています。

7.(労働法による修正)労働基準法20条は解雇の時期に関する定めであり,同条1項本文には,「使用者は,労働者を解雇しようとする場合においては,少くとも30日前にその予告をしなければならない。30日前に予告をしない使用者は,30日分以上の平均賃金を支払わなければならない。」と規定されています。これは,解雇される労働者に対し再就職などの準備の時間的余裕を与えるため,民法上の2週間の予告期間を延長した規定です。労働契約法16条は「解雇は,客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当であると認められない場合はその権利を濫用したものとして,無効とする。」と規定しています。これは,使用者に自由な解雇権があることを前提として,一定の場合には権利行使が濫用となり,それゆえに解雇が無効となるという趣旨の規定です。本件で,あなたの会社が,あなたを解雇するのであれば,解雇予告期間を設ける必要がありますし,即時解雇をするのであれば30日分以上の解雇予告手当てを支払う必要があります。上記の解雇時期の制約をクリアしたとしても,会社の解雇が客観的に合理的な理由を欠いていれば,権利濫用として無効となります。

8.(解雇の合理的理由)解雇の合理的理由については,大別すると下記の4つが挙げられます。
@労働者が労務を提供できなくなった場合や,労働能力または適格性を欠如・喪失した場合,
A労働者に義務違反や規律違反があった場合、
B事業の不振など経営上やむをえない必要のある場合、
Cユニオン・ショップ協定に基づく組合の解雇要求がある場合。
ショップとは本来職場という意味であり,ショップ制とは使用者と労働組合が職場に雇い入れる労働者の資格(労働組合員かどうか)の取り決めをいいます。ユニオンとは本来連合,連立という意味ですから,労働組合員でなくても従業員として採用はできるが一定期間内に労働組合加入が義務化されて,労働組合員でなくなると(他の労組に加入のための脱退は入りません)会社は労組の要求で解雇しなければならないシステムです。組合員の資格に関係なく従業員を採用できることを職場が開かれているのでオープンショップ制,組合員でないとそもそも採用もできないものをクローズドショップ制といいます。個人の尊厳保障の理念(憲法13条)から使用者に対して弱者である労働者側の権利を充実,対等化するため組合を組織化,強化するのが目的です。結社の自由もありますが,このような協定も労働者の実質的権利保護のため有効とされており(労働組合法7条1項但し書きによるショップ制の是認),日本では通常ユニオン.ショップが採用されています。以上のうち,@〜Bの理由については,裁判所は,一般的には,それらの事由が重大な程度に達しており,他に解雇回避の手段がなく,かつ,労働者に宥恕すべき事情がほとんどない場合に限って解雇の相当性を認めています。

9.(本件の結論)会社の承諾なくコンビニでアルバイトをしたあなたの行為は,Aの規律違反に該当します。しかし,前述のとおり,あなたのアルバイトによって,会社に対する労務の提供に支障が生ずることはなく,また,企業の体外的信用を傷つける等,企業秩序へ悪影響を与えることもないと考えられることから,規律違反の程度は重大とまではいえず,解雇処分が社会通念上相当とはいいがたいと考えられます。
  
<参照条文>

国家公務員法
(職務に専念する義務)
第101条1項  職員は,法律又は命令の定める場合を除いては,その勤務時間及び職務上の注意力のすべてをその職責遂行のために用い,政府がなすべき責を有する職務にのみ従事しなければならない。職員は,法律又は命令の定める場合を除いては,官職を兼ねてはならない。職員は,官職を兼ねる場合においても,それに対して給与を受けてはならない。
(私企業からの隔離)
第103条1項  職員は,商業,工業又は金融業その他営利を目的とする私企業(以下営利企業という。)を営むことを目的とする会社その他の団体の役員,顧問若しくは評議員の職を兼ね,又は自ら営利企業を営んではならない。

地方公務員法
(営利企業等の従事制限)
第38条1項  職員は,任命権者の許可を受けなければ,営利を目的とする私企業を営むことを目的とする会社その他の団体の役員その他人事委員会規則(人事委員会を置かない地方公共団体においては,地方公共団体の規則)で定める地位を兼ね,若しくは自ら営利を目的とする私企業を営み,又は報酬を得ていかなる事業若しくは事務にも従事してはならない。

労働契約法
7条本文 労働者及び使用者が労働契約を締結する場合において,使用者が合理的な労働条件が定められている就業規則を労働者に周知させていた場合には,労働契約の内容は,その就業規則で定める労働条件によるものとする。ただし,労働契約において,労働者及び使用者が就業規則の内容と異なる労働条件を合意していた部分については,第十二条に該当する場合を除き,この限りでない。
(解雇)
16条 解雇は,客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当であると認められない場合は,その権利を濫用したものとして,無効とする。

民法
(期間の定めのない雇用の解約の申入れ)
627条1項 当事者が雇用の期間を定めなかったときは,各当事者は,いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において,雇用は,解約の申入れの日から二週間を経過することによって終了する。

労働基準法
(解雇の予告)
20条1項 使用者は,労働者を解雇しようとする場合においては,少くとも30日前にその予告をしなければならない。30日前に予告をしない使用者は,30日分以上の平均賃金を支払わなければならない。但し,天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となつた場合又は労働者の責に帰すべき事由に基いて解雇する場合においては,この限りでない。

労働組合法
第七条  使用者は,次の各号に掲げる行為をしてはならない。
一  労働者が労働組合の組合員であること,労働組合に加入し,若しくはこれを結成しようとしたこと若しくは労働組合の正当な行為をしたことの故をもつて,その労働者を解雇し,その他これに対して不利益な取扱いをすること又は労働者が労働組合に加入せず,若しくは労働組合から脱退することを雇用条件とすること。ただし,労働組合が特定の工場事業場に雇用される労働者の過半数を代表する場合において,その労働者がその労働組合の組合員であることを雇用条件とする労働協約を締結することを妨げるものではない

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