法の支配と民事訴訟実務入門(平成20年8月13日改訂)
総論2、訴訟とは何でしょうか。どんな種類があるのですか。

Q:訴訟って一体何でしょうか。どのようなものがあるのですか。

A:
1. 訴訟とは、裁判所が法的な紛争について法律を適用し判断して紛争を公的に強制的に解決する法的手続きを言います。
2. 大きく分けて判断の対象により民事訴訟、刑事訴訟、行政訴訟等に分かれます。
3. 本書では、本人訴訟に関する説明を致しますので本人訴訟を起こしやすい民事訴訟を中心に解説いたします。

解説:
1. 訴訟とは、裁判所が法的な紛争について法律を適用し判断してその紛争を公的に強制的に解決する法的手続です。

2. 判断の当事者、対象が何かという観点から大きく分けると3つに分かれます。先ず、当事者が一般国民、私人でありその間の私的な法的紛争(お金の貸し借り、土地の明け渡し、夫婦間の離婚等)を対象とする民事訴訟があります。対等な当事者が互いに個人的な法的権利関係を争うものであり代理人をつけるか本人自身が行うかは自由になっています。

3. 次に、一般国民と被告人と国家機関たる検察官が当事者となり起訴状に書かれた公訴事実である犯罪事実の存否(判断の対象を訴因といいます。刑訴256条3項)を裁判所が判断し刑罰を科する刑事訴訟があります。巨大な組織を持つ国家機関である検察官と一市民の対立であり個人の生命、身体の自由を強制的に剥奪する手続ですから裁判の公平を実質的に確保保障するため本人の他に代理人である弁護人が原則的に必要です(憲法37条3項、刑訴289条)。

4. 最後に、当事者が国家組織である行政機関と行政作用を受けた相手方であり判断の対象が行政権行使の適法性の存否、行政作用により公的法律関係である行政訴訟があります。当事者の一方が国家機関であるが生命身体の自由を奪う手続ではないので民事事件と同じく本人が訴訟を行う事を原則としています。

5. 本人訴訟がなじみやすい民事訴訟について説明しますが、まず、私的な紛争を公的に解決します。訴訟の判断、結論は判決という形で裁判所から言い渡されますがその判断は確定すると公の判断として当事者及び第三者も繰り返し裁判を起こし再度蒸し返す事が出来ません。これを判決の既判力(民訴114条、115条)というのですが訴訟が紛争解決を目的としている以上当然の内容です。例えば、貸し金訴訟で勝訴確定すると新たに同じ事件で裁判を起こしても門前払いになります(訴えの却下。内容を判断するまでもなく訴訟が終了しますし、見過ごして判決されても上訴、再審事由になります。民訴318条、338条、)。

6. 次に裁判所の判断である判決には強制力があります。これは執行力(民事執行法22条)というのですが、裁判所の判断が確定したのに相手方が判断に従わない時は判決に基づきその時こそ相手方の財産を強制的に換価処分して満足を受けることが出来るのです。その点同じ裁判所で行われるのですが両当事者の了解、合意に基づく調停(民事調停法、家事審判法)とは異なります。

7. 以上のように民事訴訟の究極の目的は具体的私的紛争の解決ですから公に、そして強制的に権利実現を図っています。

≪条文参照≫
憲法、第37条  
3  刑事被告人は、いかなる場合にも、資格を有する弁護人を依頼することができる。被告人が自らこれを依頼することができないときは、国でこれを附する。

刑事訴訟法、第289条  死刑又は無期若しくは長期三年を超える懲役若しくは禁錮にあたる事件を審理する場合には、弁護人がなければ開廷することはできない。
2  弁護人がなければ開廷することができない場合において、弁護人が出頭しないとき若しくは在廷しなくなつたとき、又は弁護人がないときは、裁判長は、職権で弁護人を付さなければならない。
3  弁護人がなければ開廷することができない場合において、弁護人が出頭しないおそれがあるときは、裁判所は、職権で弁護人を付することができる。

民事訴訟法
(既判力の範囲)
第百十四条  確定判決は、主文に包含するものに限り、既判力を有する。
2  相殺のために主張した請求の成立又は不成立の判断は、相殺をもって対抗した額について既判力を有する。
(確定判決等の効力が及ぶ者の範囲)
第百十五条  確定判決は、次に掲げる者に対してその効力を有する。
一  当事者
二  当事者が他人のために原告又は被告となった場合のその他人
三  前二号に掲げる者の口頭弁論終結後の承継人
四  前三号に掲げる者のために請求の目的物を所持する者
2  前項の規定は、仮執行の宣言について準用する。

(上告受理の申立て)
第三百十八条  上告をすべき裁判所が最高裁判所である場合には、最高裁判所は、原判決に最高裁判所の判例(これがない場合にあっては、大審院又は上告裁判所若しくは控訴裁判所である高等裁判所の判例)と相反する判断がある事件その他の法令の解釈に関する重要な事項を含むものと認められる事件について、申立てにより、決定で、上告審として事件を受理することができる。

(再審の事由)
第三百三十八条  次に掲げる事由がある場合には、確定した終局判決に対し、再審の訴えをもって、不服を申し立てることができる。ただし、当事者が控訴若しくは上告によりその事由を主張したとき、又はこれを知りながら主張しなかったときは、この限りでない。
十  不服の申立てに係る判決が前に確定した判決と抵触すること。
民事執行法

(債務名義)
第二十二条  強制執行は、次に掲げるもの(以下「債務名義」という。)により行う。
一  確定判決
二  仮執行の宣言を付した判決
三  抗告によらなければ不服を申し立てることができない裁判(確定しなければその効力を生じない裁判にあつては、確定したものに限る。)
四  仮執行の宣言を付した支払督促
四の二  訴訟費用若しくは和解の費用の負担の額を定める裁判所書記官の処分又は第四十二条第四項に規定する執行費用及び返還すべき金銭の額を定める裁判所書記官の処分(後者の処分にあつては、確定したものに限る。)
五  金銭の一定の額の支払又はその他の代替物若しくは有価証券の一定の数量の給付を目的とする請求について公証人が作成した公正証書で、債務者が直ちに強制執行に服する旨の陳述が記載されているもの(以下「執行証書」という。)
六  確定した執行判決のある外国裁判所の判決
六の二  確定した執行決定のある仲裁判断
七  確定判決と同一の効力を有するもの(第三号に掲げる裁判を除く。)

民事調停法
(この法律の目的)
第一条  この法律は、民事に関する紛争につき、当事者の互譲により、条理にかない実情に即した解決を図ることを目的とする。
(調停事件)
第二条  民事に関して紛争を生じたときは、当事者は、裁判所に調停の申立をすることができる。
(管轄)
第三条  調停事件は、特別の定がある場合を除いて、相手方の住所、居所、営業所若しくは事務所の所在地を管轄する簡易裁判所又は当事者が合意で定める地方裁判所若しくは簡易裁判所の管轄とする。
家事審判法
第三章 調停
    第一節 通則
第十七条  家庭裁判所は、人事に関する訴訟事件その他一般に家庭に関する事件について調停を行う。但し、第九条第一項甲類に規定する審判事件については、この限りでない。
第十八条  前条の規定により調停を行うことができる事件について訴を提起しようとする者は、まず家庭裁判所に調停の申立をしなければならない。


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