法の支配と民事訴訟実務入門(平成20年9月4日改訂)
各論6、離婚訴訟を自分でやる。


質問
 夫の浮気が原因で離婚したいのですが、夫は離婚に反対です。子供二人で(3歳と6歳)、私はパートで月5万円ほどの収入で、夫は年収800万円の会社員です。貯金は結婚後貯めたもので夫名義のものが1000万円ほどあります。どのようにしたら離婚できるでしょうか。離婚の条件としてどのような主張が可能ですか。


回答

 貴女は、家庭裁判所で離婚調停を申し立てて、その中で親権、財産分与、養育費の話し合いをすることができます。調停がまとまらなければ、家庭裁判所で人事訴訟法に基づき離婚、親権、財産分与、養育費の請求を併せて請求することになります(人事訴訟法2条)。

解説

 永遠の愛を誓った夫婦でも不幸にして破綻する場合があります。自由主義国家では、私的自治の大原則から生まれながらに自由である人間が拘束されるのは基本的に自らの意思による契約に基づくことになります(他に過失責任)。婚姻も、身分・財産に関する総合的契約関係と構成することができますから、契約関係の解消もあり得るわけです。一般契約と同じように、合意でも(協議離婚、調停離婚)、理由があれば裁判でも(裁判離婚)、解約することの可能なのです。しかし、通常の財産的契約と異なる点は、婚姻・夫婦関係は「各論4婚姻費用」で述べたように、個人の尊厳確保の大前提となるだけでなく国家社会組織の最少単位であり、国家の基盤である構成員を決定する重要事項である婚姻関係をどう規制するかは、国家公共、社会秩序にかかわる重要問題です。すなわち税金、相続、教育、戦前は徴兵制度(兵役の義務)戸籍制度すべてに関連し、社会秩序形成の源になる問題です。婚姻家庭関係における親子関係もまた同様です。そこで、家庭関係における基本的身分秩序の核である婚姻、親子関係(養子関係)についてはその重要性から人事訴訟法が定められました。夫婦間、親子間の紛争ですから基本的には、民事訴訟と同じように訴訟手続(基本的には当事者主義、口頭弁論主義、対審、公開主義を採用しています)なのですが、訴訟手続きの原則を修正し特則を規定しています(法1条)。

 @ 当事者主義の内容である処分権主義(人訴19条)、弁論主義(法20条)を制限して職権探知主義も採用されます。当事者が勝手に離婚、親子関係を認める請求の認諾ができませんし、要件事実について自白しても裁判所は拘束されず、当事者が主張しなくても裁判の資料とすることができますし、証拠も裁判所自ら収集調べることができます。例えば、両当事者が離婚を求めていても、その他の条件(子の福祉等)により棄却されるような場合もあるわけです。このように、人事訴訟法では、客観的真実を重視し裁判所の後見的裁量権を認めることにより、家庭を構成する人間の個人の尊厳を実質的に守ろうとしているのです。

 A 判決は利害関係を有さない第三者にも及びます(法24条)。社会秩序の基本となるもので安定した画一的処理が必要となるからです。同じ趣旨から訴訟能力の拡大、紛争等の資料を有する検察官の関与等が認められています(法23)。


以下手続きについて説明します。

1 離婚について

民法763条から771条が離婚に関する法律です。大きく分けて協議上の離婚と裁判上の離婚の二つが定められています。
協議上の離婚は、夫婦の協議で離婚の合意が成立し、離婚届け出を提出することによって成立します。婚姻と反対と考えて良いでしょう。特に離婚についての理由は必要ありません。
協議ができない(話し合いがまとまらない)場合は、裁判上の離婚となり離婚の訴えを提起することになります。しかし、いきなり離婚の訴えを提起することはできません。婚姻費用の項で説明したように、人事に関する訴訟事件、家庭の問題はまず家庭裁判所の調停が必要とされています(家事審判法17、18)から、先ず家庭裁判所に離婚調停を申し立てる必要があります。調停については婚姻費用の項で説明したとおりですので参考にしてください。調停が成立して作成された調停調書は確定判決と同一の効力がありますから、調停成立により離婚となり、後は離婚の調停調書を役所に持って行って離婚届け出をすることになります。なお、他に審判離婚という手続きがありますがあまり使われていませんので省略します(家事審判法24条以下)。
協議も、調停も成立しない場合の最終手段として、離婚訴訟が用意されています。

2 離婚訴訟について

・離婚の原因
離婚訴訟を提起できるのは、民法770条1項1号から5号までの場合に限定されています。

民法第770条(裁判上の離婚)夫婦の一方は、次に掲げる場合に限り、離婚の訴えを提起することができる。
一  配偶者に不貞な行為があったとき。
二  配偶者から悪意で遺棄されたとき。
三  配偶者の生死が三年以上明らかでないとき。
四  配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき。
五  その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき。
2項 裁判所は、前項第一号から第四号までに掲げる事由がある場合であっても、一切の事情を考慮して婚姻の継続を相当と認めるときは、離婚の請求を棄却することができる。

また、各号に当たる場合でも婚姻の継続が相当と認められると裁判所が判断した場合、離婚は認められません(民770条2項)。このように説明すると離婚の原因は限定されるようですが、5号は「その他婚姻を継続しがたい重大な事由があるとき。」と規定しており、離婚の原因が1号から4号までに限定されているわけではありません。従って、民法で婚姻を継続しがたいと認められるか否かが、裁判上の離婚が認められるか否かの基準となります。離婚を申し立てる原告としては、この点についてどのような事実が婚姻を継続しがたい重大な事由に当たるのか具体的に主張し、その根拠を証拠として提出する必要があります。
また、争いのない事実や証拠から認められる事実が婚姻の継続を相当でない事実と判断するか否かは社会一般人の考え方を基準とします。一般社会人であれば、そのような事実があれば離婚してもやむを得ないと判断できるか、という問題です。浮気をしたのが1回だけで夫が謝罪し他に夫婦関係に問題がないような場合、それでも許せないので離婚をしたいと裁判所に申し出ても一般的な社会人であればそのような場合は離婚しない、と判断されることもあります。一般社会人の判断基準に従うということですから、裁判を起こす前に自分だけで判断することなく、数人の人に相談してみると良いでしょう。勿論、法律専門家である弁護士に相談することも必要だと思います。

・ 離婚訴訟の手続きについて

離婚の理由があると判断できる場合、離婚訴訟を提起することになります。離婚訴訟については、民事訴訟法ではなく人事訴訟法という法律が適用されることになっています(人訴1,2)。民事訴訟は権利があるかないかという問題を決める手続(訴訟手続)にふさわしい手続が定められていますが、離婚の場合は婚姻を継続すべきか否か夫婦間のすべての事情を考慮して過去のことだけでなく将来のことも考慮して結論を出す必要があることから訴訟手続とは違う手続によるとされているのです。いろいろな違いがありますが、一番の違いは担当する裁判所が家庭裁判所になるということでしょう(人訴4)。なお、離婚についての慰謝料を請求することがあります。これは離婚の原因について相手に責任がある場合、不法行為(民709,710)として相手に損害賠償を請求するとういう法律構成になり、損害賠償請求権があるか否かという訴訟事件になりますから、本来は地方裁判所に訴訟を提起するのですが、人事訴訟法17条1項は「人事訴訟に係る請求と当該請求の原因である事実によって生じた損害に関する請求とは、・・一の訴えですることができる。」と規定し離婚の原因となる事実によって損害賠償請求権が発生する場合は離婚訴訟で一緒に請求できるとされています。同じ事実を主張する訳ですから、離婚は家庭裁判所で、慰謝料は地方裁判所でというのでは当事者の負担が増えるだけですので一緒に家庭裁判所に訴えを起こせるとされているのです。

・ 訴状について

離婚訴訟の訴状の書式は次のとおりです。
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平成20年 4月  日
00家庭裁判所 御中
 離婚訴訟訴状           
              原 告   0 0  0 0 ?   
〒(住所)
 (本籍)
原告  0 0  0 0
〒(住所)
 (本籍)
被告  0 0  0 0

請  求  の  趣  旨
1 原告と被告を離婚する。
2 被告は原告に対し、金1000万円を支払え。
3 原告と被告の子、00(平成  年  月  日生)の親権者を原告とする。
4 原告は被告に対し、00が万20歳になるまで毎月金00円を支払え。
 との判決を求める。
請  求  の  理  由
1 当事者について
原告は(職業)で、被告は、(職業)である。
2 原告と被告は、(結婚の経緯)・・・・。
3 離婚の理由についての具体的な事実。
4 原告は00家庭裁判所に離婚の調停を申し立てたが不調になった。
5 以上のとおり、被告の行為は民法770条1項0号に当たるもので、原告らには婚姻関係を継続しがたい重大な事情が認められる。
6 さらに、このような離婚の原因を作りだした被告の行為は不法行為にあたり、原告の被った精神的損害は金500万円の慰謝料に相当するので、その支払いを求める。
7 子供の親権者
親権者は父親である原告とすべきである。その理由は・・・・
8 子供の養育費
  被告の年収は・・。原告の年収は・・・。その他の資産状況は・・・
  離婚後の養育費として子供が満20歳に至るまで毎月金00円の養育費を支払うのが相当である。
9 財産分与
  被告名義の財産として、・・・がある。その2分の1は原告に財産分与すべきである。
10 結論
 以上のとおりであり、原告は、離婚並びに被告に対し離婚にともなう慰謝料金500万円、財産分与として金500万円合計1000万円の支払いを求めるとともに、子の親権者を原告とし養育費として毎月金00円の支払いを求め本件訴訟を提起する。
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≪条文参照≫
民法
(不法行為による損害賠償)
第七百九条  故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
(財産以外の損害の賠償)
第七百十条  他人の身体、自由若しくは名誉を侵害した場合又は他人の財産権を侵害した場合のいずれであるかを問わず、前条の規定により損害賠償の責任を負う者は、財産以外の損害に対しても、その賠償をしなければならない。


(裁判上の離婚)
第七百七十条  夫婦の一方は、次に掲げる場合に限り、離婚の訴えを提起することができる。
一  配偶者に不貞な行為があったとき。
二  配偶者から悪意で遺棄されたとき。
三  配偶者の生死が三年以上明らかでないとき。
四  配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき。
五  その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき。
2  裁判所は、前項第一号から第四号までに掲げる事由がある場合であっても、一切の事情を考慮して婚姻の継続を相当と認めるときは、離婚の請求を棄却することができる。
(協議上の離婚の規定の準用)
第七百七十一条  第七百六十六条から第七百六十九条までの規定は、裁判上の離婚について準用する。


家事審判法
第十七条  家庭裁判所は、人事に関する訴訟事件その他一般に家庭に関する事件について調停を行う。但し、第九条第一項甲類に規定する審判事件については、この限りでない。
第十八条  前条の規定により調停を行うことができる事件について訴を提起しようとする者は、まず家庭裁判所に調停の申立をしなければならない。
○2  前項の事件について調停の申立をすることなく訴を提起した場合には、裁判所は、その事件を家庭裁判所の調停に付しなければならない。但し、裁判所が事件を調停に付することを適当でないと認めるときは、この限りでない。
第二十四条  家庭裁判所は、調停委員会の調停が成立しない場合において相当と認めるときは、当該調停委員会を組織する家事調停委員の意見を聴き、当事者双方のため衡平に考慮し、一切の事情を見て、職権で、当事者双方の申立ての趣旨に反しない限度で、事件の解決のため離婚、離縁その他必要な審判をすることができる。この審判においては、金銭の支払その他財産上の給付を命ずることができる。
○2  前項の規定は、第九条第一項乙類に規定する審判事件の調停については、これを適用しない。
人事訴訟法
(趣旨)
第一条  この法律は、人事訴訟に関する手続について、民事訴訟法 (平成八年法律第百九号)の特例等を定めるものとする。
(定義)
第二条  この法律において「人事訴訟」とは、次に掲げる訴えその他の身分関係の形成又は存否の確認を目的とする訴え(以下「人事に関する訴え」という。)に係る訴訟をいう。
一  婚姻の無効及び取消しの訴え、離婚の訴え、協議上の離婚の無効及び取消しの訴え並びに婚姻関係の存否の確認の訴え
二  嫡出否認の訴え、認知の訴え、認知の無効及び取消しの訴え、民法 (明治二十九年法律第八十九号)第七百七十三条 の規定により父を定めることを目的とする訴え並びに実親子関係の存否の確認の訴え
三  養子縁組の無効及び取消しの訴え、離縁の訴え、協議上の離縁の無効及び取消しの訴え並びに養親子関係の存否の確認の訴え
(人事に関する訴えの管轄)
第四条  人事に関する訴えは、当該訴えに係る身分関係の当事者が普通裁判籍を有する地又はその死亡の時にこれを有した地を管轄する家庭裁判所の管轄に専属する。
2  前項の規定による管轄裁判所が定まらないときは、人事に関する訴えは、最高裁判所規則で定める地を管轄する家庭裁判所の管轄に専属する。
(人事訴訟における訴訟能力等)
第十三条  人事訴訟の訴訟手続における訴訟行為については、民法第五条第一項 及び第二項 、第九条、第十三条並びに第十七条並びに民事訴訟法第三十一条 並びに第三十二条第一項 (同法第四十条第四項 において準用する場合を含む。)及び第二項 の規定は、適用しない。
2  訴訟行為につき行為能力の制限を受けた者が前項の訴訟行為をしようとする場合において、必要があると認めるときは、裁判長は、申立てにより、弁護士を訴訟代理人に選任することができる。
3  訴訟行為につき行為能力の制限を受けた者が前項の申立てをしない場合においても、裁判長は、弁護士を訴訟代理人に選任すべき旨を命じ、又は職権で弁護士を訴訟代理人に選任することができる。
4  前二項の規定により裁判長が訴訟代理人に選任した弁護士に対し当該訴訟行為につき行為能力の制限を受けた者が支払うべき報酬の額は、裁判所が相当と認める額とする。

(関連請求の併合等)
第十七条  人事訴訟に係る請求と当該請求の原因である事実によって生じた損害の賠償に関する請求とは、民事訴訟法第百三十六条 の規定にかかわらず、一の訴えですることができる。この場合においては、当該人事訴訟に係る請求について管轄権を有する家庭裁判所は、当該損害の賠償に関する請求に係る訴訟について自ら審理及び裁判をすることができる。
2  人事訴訟に係る請求の原因である事実によって生じた損害の賠償に関する請求を目的とする訴えは、前項に規定する場合のほか、既に当該人事訴訟の係属する家庭裁判所にも提起することができる。この場合においては、同項後段の規定を準用する。
3  第八条第二項の規定は、前項の場合における同項の人事訴訟に係る事件及び同項の損害の賠償に関する請求に係る事件について準用する。
(民事訴訟法 の規定の適用除外)
第十九条  人事訴訟の訴訟手続においては、民事訴訟法第百五十七条 、第百五十七条の二、第百五十九条第一項、第二百七条第二項、第二百八条、第二百二十四条、第二百二十九条第四項及び第二百四十四条の規定並びに同法第百七十九条 の規定中裁判所において当事者が自白した事実に関する部分は、適用しない。
2  人事訴訟における訴訟の目的については、民事訴訟法第二百六十六条 及び第二百六十七条 の規定は、適用しない。
(職権探知)
第二十条  人事訴訟においては、裁判所は、当事者が主張しない事実をしん酌し、かつ、職権で証拠調べをすることができる。この場合においては、裁判所は、その事実及び証拠調べの結果について当事者の意見を聴かなければならない。
(検察官の関与)
第二十三条  人事訴訟においては、裁判所又は受命裁判官若しくは受託裁判官は、必要があると認めるときは、検察官を期日に立ち会わせて事件につき意見を述べさせることができる。
2  検察官は、前項の規定により期日に立ち会う場合には、事実を主張し、又は証拠の申出をすることができる。

第二十四条  人事訴訟の確定判決は、民事訴訟法第百十五条第一項 の規定にかかわらず、第三者に対してもその効力を有する。


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