わいせつ罪の主観的要件

刑事|強制わいせつ罪の故意と主観的要件|平成29年11月29日最高裁判決|昭和45年1月29日最高裁判決との違い

目次

  1. 質問
  2. 回答
  3. 解説
  4. 関連事例集
  5. 参考判例

質問:

高校生の子供が居ます。友達同士で、ふざけあったのか、喧嘩なのか、いじめなのか分かりませんが、クラスメイトの服を脱がせて性器を触っている動画を撮影して仲間内で送信したという事件を起こしてしまいました。うちの子は加害者グループのメンバーになってしまいました。家庭内ではどうしてそんなことしてしまったのか、厳しく指導して本人も反省し、被害者生徒の保護者にも謝罪の意思を伝えているのですが、了解して頂けません。強制わいせつ罪で刑事告訴すると言われてしまいました。しかし、子供たちにわいせつの意図は無かったのです。そのような場合にも、強制わいせつ罪が成立してしまうのでしょうか。私たちはどうしたら良いでしょうか。

回答:

1、刑法41条により「十四歳に満たない者の行為は、罰しない。」とされていますが、高校生、15歳以上ですので刑法が適用されます。但し、20歳未満であれば少年法も適用されますので、刑事手続きとしては家庭裁判所の少年審判や逆送により一般成人と同じ刑事裁判に付される可能性があります。

2、刑法の強制わいせつ罪の成否については、従前は「刑法176条前段のいわゆる強制わいせつ罪が成立するためには,その行為が犯人の性欲を刺戟興奮させまたは満足させるという性的意図のもとに行なわれることを要し,婦女を脅迫し裸にして撮影する行為であっても,これが専らその婦女に報復し,または,これを侮辱し,虐待する目的に出たときは,強要罪その他の罪を構成するのは格別,強制わいせつの罪は成立しないものというべきである」として、性的意図を犯罪成立要件とするのが判例実務の立場でした(昭和45年1月29日最高裁判決)。

しかし、平成29年11月29日最高裁判決で判例変更し、強制わいせつ罪の成否に「性的意図」は犯罪成立要件はないと判示しました。わいせつ意図が全くない御相談のような事例では従前の実務では強制わいせつ罪の成立が否定されてきましたが、平成29年11月29日最高裁判決以降は、わいせつの意図がないというだけでは強制わいせつ罪が成立しないとは言えないことになりました。

3、ただし、強制わいせつ罪の成否を判断するにあたって、上記最高裁判決では、当該行為の非難可能性は「行為そのものが持つ性的性質の有無及び程度を十分に踏まえた上で,事案によっては,当該行為が行われた際の具体的状況等の諸般の事情をも総合考慮し,社会通念に照らし,その行為に性的な意味があるといえるか否かや,その性的な意味合いの強さを個別事案に応じた具体的事実関係に基づいて」判断される、としており、そのような個別具体的な事情の一つとして,「行為者の目的等の主観的事情を判断要素として考慮すべき場合があり得る」とされましたので、行為者の主観的要素は情状も含めて依然として考慮され得ることではあります。具体的事件の処理には事案を詳細に分析して、弁護活動を行う必要があります。

4、このような刑事処分の可能性から逆算して、被害者側との民事被害弁償交渉の内容や必要度も変わって参ります。性的意図は無かった、ふざけてただけ、などの弁解は通用しない可能性が高いのです。御心配であれば、経験のある弁護士に御相談なさり、最大限の民事刑事の弁護活動を行うべきでしょう。

5、わいせつ罪に関する関連事例集参照。

解説:

1、少年法などの適用関係

ご相談者様のお子さんは高校生ということで、14歳以上の未成年となりますので(刑法41条)、刑法の適用対象となりますし、同時に、少年法と児童福祉法が適用されます。そのため、まずは刑事手続きについての理解をしておく必要があります。

成人年齢を18歳とする民法改正に合わせて、少年法も令和3年5月に改正され、令和4年4月1日から施行されています。

※法務省の少年法改正解説ページ

https://www.moj.go.jp/keiji1/keiji14_00015.html

少年法では、全件送致主義により、警察署で認知した刑事事件は全て家庭裁判所に送致され少年審判に付されますが、一部の重大事件については、逆送と言って、家庭裁判所から検察官に送致され(少年法20条1項)、通常の刑事裁判手続きにかけられます。勿論、逆送を受けた検察官が不起訴処分にすることは有り得ます。

少年法20条(検察官への送致)

1項 家庭裁判所は、死刑、懲役又は禁錮に当たる罪の事件について、調査の結果、その罪質及び情状に照らして刑事処分を相当と認めるときは、決定をもつて、これを管轄地方裁判所に対応する検察庁の検察官に送致しなければならない。

2項 前項の規定にかかわらず、家庭裁判所は、故意の犯罪行為により被害者を死亡させた罪の事件であつて、その罪を犯すとき十六歳以上の少年に係るものについては、同項の決定をしなければならない。ただし、調査の結果、犯行の動機及び態様、犯行後の情況、少年の性格、年齢、行状及び環境その他の事情を考慮し、刑事処分以外の措置を相当と認めるときは、この限りでない。

少年法20条2項で、「原則逆送対象事件」が定められており、16歳以上の少年のとき犯した故意の犯罪行為により被害者を死亡させた罪の事件については、原則として検察官への逆送決定がなされることになります。

更に、18歳以上20歳未満の「特定少年」については、18歳以上の少年のとき犯した死刑,無期又は短期(法定刑の下限)1年以上の懲役・禁錮に当たる罪の事件についても、原則逆送対象事件に追加されています(少年法62条2項)。

少年法62条(検察官への送致についての特例)

1項 家庭裁判所は、特定少年(十八歳以上の少年をいう。以下同じ。)に係る事件については、第二十条の規定にかかわらず、調査の結果、その罪質及び情状に照らして刑事処分を相当と認めるときは、決定をもつて、これを管轄地方裁判所に対応する検察庁の検察官に送致しなければならない。

2項 前項の規定にかかわらず、家庭裁判所は、特定少年に係る次に掲げる事件については、同項の決定をしなければならない。ただし、調査の結果、犯行の動機、態様及び結果、犯行後の情況、特定少年の性格、年齢、行状及び環境その他の事情を考慮し、刑事処分以外の措置を相当と認めるときは、この限りでない。

一号 故意の犯罪行為により被害者を死亡させた罪の事件であつて、その罪を犯すとき十六歳以上の少年に係るもの

二号 死刑又は無期若しくは短期一年以上の懲役若しくは禁錮に当たる罪の事件であつて、その罪を犯すとき特定少年に係るもの(前号に該当するものを除く。)

法定刑の下限が1年以上の罪に掛かる罪には、強制わいせつ罪(刑法176条、6月以上10年以下の懲役)は含まれませんが、強制性交罪(刑法177条、5年以上20年以下の懲役)は含まれます。

家庭裁判所では、まず、家庭裁判所調査官による調査が行われ、必要に応じて少年鑑別所の鑑別が行われます(少年法17条1項)。鑑別所への送致は原則として2週間以内ですが、必要に応じて更新され、最長8週間収容されることがあります(少年法17条3項、同4項)。

調査官の調査に関する条文を引用します。

少年法8条(事件の調査)

1項 家庭裁判所は、第六条第一項の通告又は前条第一項の報告により、審判に付すべき少年があると思料するときは、事件について調査しなければならない。検察官、司法警察員、警察官、都道府県知事又は児童相談所長から家庭裁判所の審判に付すべき少年事件の送致を受けたときも、同様とする。

2項 家庭裁判所は、家庭裁判所調査官に命じて、少年、保護者又は参考人の取調その他の必要な調査を行わせることができる。

第9条(調査の方針)前条の調査は、なるべく、少年、保護者又は関係人の行状、経歴、素質、環境等について、医学、心理学、教育学、社会学その他の専門的智識特に少年鑑別所の鑑別の結果を活用して、これを行うように努めなければならない。

そして、調査官の調査を受けて、次の処分が行われます。

・審判不開始決定(少年法19条1項)

・児童相談所長送致(少年法18条1項)

・検察官送致(逆送、少年法20条1項)

・審判の結果として不処分決定(少年法23条2項)

・審判の結果として保護処分(少年法24条1項)

①児童自立支援施設送致

②児童養護施設送致

③保護観察所の保護観察に付する処分

④少年院送致

家庭裁判所から児童相談所に送致された場合は、児童福祉法の手続きにより、児童相談所の一時保護などの手続きが取られることになります。

2、平成29年以前の傾向犯の取り扱いと、刑法改正、判例変更

刑法176条の強制わいせつ罪は、「暴行又は脅迫を用いてわいせつな行為をした者」というのが刑法の構成要件となりますが、この「わいせつな行為」という文言解釈において、平成29年以前は、「傾向犯」として、行為者に「刑法176条前段のいわゆる強制わいせつ罪が成立するためには,その行為が犯人の性欲を刺戟興奮させまたは満足させるという性的意図のもとに行なわれることを要し,婦女を脅迫し裸にして撮影する行為であっても,これが専らその婦女に報復し,または,これを侮辱し,虐待する目的に出たときは,強要罪その他の罪を構成するのは格別,強制わいせつの罪は成立しないものというべきである」とする昭和45年1月29日最高裁判決の法解釈がありました。

この「性欲を刺激興奮させまたは満足させるという性的意図」が、犯罪の成立要件になるとされてきました。この主観的な要件は、条文上は明確なものではありませんでしたし、学説上も、この主観的要件を、主観的構成要件要素に位置づけるのか、主観的責任要素に位置づけるのか議論のあるところでした。

従って、御相談のような「わいせつ意図」が全くない事例では犯罪成立が否定される取り扱いが続きましたが、昭和45年から50年以上の時間が経過し、わいせつ事案の増加と、被害内容の多様化、それに伴う社会問題化、そして、人々のわいせつ行為に対する処罰意識・規範意識も変化し、平成16年に強制わいせつ罪の法定刑の上限が7年から10年に引き上げられたり、平成29年には、性的な被害に係る犯罪の実情にあわせて、男女いずれもがその行為の客体あるいは主体となり得るとされる強制性交等罪を新設するとともに、その法定刑を5年以上の有期懲役に引き上げたほか、強制わいせつ罪の非親告罪化も法改正によって行われました。

※平成29年刑法改正の概要(政府資料)

https://www.shinginza.com/H29keihoukaisei.pdf>

これらの法律事実の変化を受けて、平成29年11月29日最高裁判決は、従来の「傾向犯」の枠組みは維持できないと判例変更し、強制わいせつ罪の成否に「性的意図」は必要条件ではないと判示しました。

※平成29年11月29日最高裁判決抜粋

『元来,性的な被害に係る犯罪規定あるいはその解釈には,社会の受け止め方を踏まえなければ,処罰対象を適切に決することができないという特質があると考えられる。諸外国においても,昭和45年(1970年)以降,性的な被害に係る犯罪規定の改正が各国の実情に応じて行われており,我が国の昭和45年当時の学説に影響を与えていたと指摘されることがあるドイツにおいても,累次の法改正により,既に構成要件の基本部分が改められるなどしている。こうした立法の動きは,性的な被害に係る犯罪規定がその時代の各国における性的な被害の実態とそれに対する社会の意識の変化に対応していることを示すものといえる。

これらのことからすると,昭和45年判例は,その当時の社会の受け止め方などを考慮しつつ,強制わいせつ罪の処罰範囲を画するものとして,同罪の成立要件として,行為の性質及び内容にかかわらず,犯人の性欲を刺激興奮させ又は満足させるという性的意図のもとに行われることを一律に求めたものと理解できるが,その解釈を確として揺るぎないものとみることはできない。

イ そして,「刑法等の一部を改正する法律」(平成16年法律第156号)は,性的な被害に係る犯罪に対する国民の規範意識に合致させるため,強制わいせつ罪の法定刑を6月以上7年以下の懲役から6月以上10年以下の懲役に引き上げ,強姦罪の法定刑を2年以上の有期懲役から3年以上の有期懲役に引き上げるなどし,「刑法の一部を改正する法律」(平成29年法律第72号)は,性的な被害に係る犯罪の実情等に鑑み,事案の実態に即した対処を可能とするため,それまで強制わいせつ罪による処罰対象とされてきた行為の一部を強姦罪とされてきた行為と併せ,男女いずれもが,その行為の客体あるいは主体となり得るとされる強制性交等罪を新設するとともに,その法定刑を5年以上の有期懲役に引き上げたほか,監護者わいせつ罪及び監護者性交等罪を新設するなどしている。これらの法改正が,性的な被害に係る犯罪やその被害の実態に対する社会の一般的な受け止め方の変化を反映したものであることは明らかである。

ウ 以上を踏まえると,今日では,強制わいせつ罪の成立要件の解釈をするに当たっては,被害者の受けた性的な被害の有無やその内容,程度にこそ目を向けるべきであって,行為者の性的意図を同罪の成立要件とする昭和45年判例の解釈は,その正当性を支える実質的な根拠を見いだすことが一層難しくなっているといわざるを得ず,もはや維持し難い。』

このように、法解釈に当たっては、刑法でも民法でも、法規範に対応する立法事実が変化しているかどうかについても、慎重に審査することが必要であることが分かります。同じ言葉でも、時代によって意味合いが変化するのです。社会通念という言葉がありますが、民事手続きでも刑事手続きでも、人々の規範意識が法律の解釈適用に少なからず影響するのです。

注目すべき点は、昭和45年判決に2名の裁判官の反対意見が付されていたことです。抜粋を引用します(本稿の文末に全文引用してあります)。

『 裁判官入江俊郎の反対意見は、次のとおりである。

私は、いわゆる強制わいせつの罪に関する刑法一七六条の解釈につき、多数意見と根本的に立場を異にする。私は、本件第一審判決およびこれを是認した原判決の採用した同条の解釈が正当であつて、本件上告趣意に対する最高検察庁検察官の弁論における主張も充分理由があると考える。それ故、本件上告は、これを棄却すべきものである。私の右反対意見の理由は、次のとおりである。

一 刑法一七六条が、一七七条、一七八条とならんで、同法一七四条、一七五条に比し、より重い刑を定めたこと、および刑法一七六条の罪が、一八〇条一項により、一七七条、一七八条、一七九条の罪とともに親告罪とされ訴追にあたつて被害者の意思が尊重されるべきことを定めている所以は、性的しゆう恥心ないし性的清浄性が、各個人にとつて、精神的にも肉体的にも極めて重要な性的自由に属する事柄であり、個人のプライヴアシーと密接な関係をもつているものであることに鑑み、法が特にこのような個人の性的自由を保護法益としたからにほかならないものと考えられる。このことは。改正刑法準備草案が、現行刑法一七四条および一七五条の罪に相当する罪を風俗を害する罪の章下に入れ、同法一七六条、一七七条および一七八条の罪に相当する罪を姦淫の罪の章下に入れて、両者をはつきりと区別していることからも、了解しうるところである。そして、このような個人のプライヴアシーに属する性的自由を保護し尊重することは、まさに憲法一三条の法意に適合する所以であり、現時の世相下においては、殊にこれら刑法法条の重要性が認識されなければならないのであつて、これら法条の解釈にあたつては、個人をその性的自由の侵害から守り、その性的自由の保護が充分全うされるよう、配慮されなければならない。

従つて、これらの法条の罪については、行為者(犯人)がいかなる目的・意図で行為に出たか、行為者自身の性欲をいたずらに興奮または刺激させたか否か、行為者自身または第三者の性的しゆう恥心を害したか否かは、何ら結論に影響を及ぼすものではないと解すべきである。このことは、当裁判所大法廷判決(昭和二八年(あ)第一七一三号、同三二年三月一三日判決、刑集一一巻三号九九七頁)が、刑法一七五条のわいせつ文書につき、「猥褻性の存否は純客観的に、つまり作品自体からして判断されなければならず、作者の主観的意図によつて影響されるべきものではない。」としているのと相通ずるところがあるのである。』

多数意見は、「強制わいせつとはこういう行為じゃないか?」という、昭和45年当時の社会全般の法的非難感情を反映したものだったのかもしれませんが、少数意見は被害者の「性的しゆう恥心ないし性的清浄性が、各個人にとつて、精神的にも肉体的にも極めて重要な性的自由に属する事柄であり、個人のプライヴアシーと密接な関係をもつているものであることに鑑み、法が特にこのような個人の性的自由を保護法益としたからにほかならない」として、平成29年の刑法改正と最高裁判決を先取りするような意見を述べておられました。1970年代と言えば日本では未だセクハラという言葉も使われていなかった時代ですから、そのような時代に被害者側に目を向けた注目すべき意見でした。刑法の違法性に関する議論では、行為無価値論と結果無価値論という考え方があり、前者は行為の悪質性を違法性の根拠と考え、後者は法益侵害の結果発生を重視するものですが、上記反対意見は、結果無価値論を重視する考え方であったと評価することができます。

この傾向犯の主観的要件は必要なのか不要なのか、どのような意思内容とすべきか、50年間議論され続けてきたことが、最後に最高裁判所の判例変更に結実しているのです。これは刑法の教科書が書き換えられるような大きな解釈の変更でした。法解釈は生き物の様に常に動いていることを認識する必要があります。今後、故意以外の行為者の主観的要素がどのように取り扱われていくのか、議論が深まっていくことが期待されます。

3、平成29年最高裁判決以後の主観的要素

上記の様に判例変更があっても、犯罪の成否に故意以外の主観的要素が一切関与しなくなったのかと言えばそうではありません。平成29年判決も次のように判示しています。

『もっとも,刑法176条にいうわいせつな行為と評価されるべき行為の中には,強姦罪に連なる行為のように,行為そのものが持つ性的性質が明確で,当該行為が行われた際の具体的状況等如何にかかわらず当然に性的な意味があると認められるため,直ちにわいせつな行為と評価できる行為がある一方,行為そのものが持つ性的性質が不明確で,当該行為が行われた際の具体的状況等をも考慮に入れなければ当該行為に性的な意味があるかどうかが評価し難いような行為もある。その上,同条の法定刑の重さに照らすと,性的な意味を帯びているとみられる行為の全てが同条にいうわいせつな行為として処罰に値すると評価すべきものではない。そして,いかなる行為に性的な意味があり,同条による処罰に値する行為とみるべきかは,規範的評価として,その時代の性的な被害に係る犯罪に対する社会の一般的な受け止め方を考慮しつつ客観的に判断されるべき事柄であると考えられる。

そうすると,刑法176条にいうわいせつな行為に当たるか否かの判断を行うためには,行為そのものが持つ性的性質の有無及び程度を十分に踏まえた上で,事案によっては,当該行為が行われた際の具体的状況等の諸般の事情をも総合考慮し,社会通念に照らし,その行為に性的な意味があるといえるか否かや,その性的な意味合いの強さを個別事案に応じた具体的事実関係に基づいて判断せざるを得ないことになる。したがって,そのような個別具体的な事情の一つとして,行為者の目的等の主観的事情を判断要素として考慮すべき場合があり得ることは否定し難い。』

平成29年最高裁判決では、当該行為が刑法176条のわいせつな行為にあたるかどうかは客観的に判断されるべきであるが、その個別具体的な事情を判断する際の事情の一つとして、行為者の主観的事情も考慮され得ると判示しているのです。強要罪(1月以上3年以下の懲役)と、強制わいせつ罪(6月以上10年以下の懲役)の法定刑の違いが大きいので、重い罪の法的非難に値するかどうかを慎重に判断する必要があるとされたのです。

御相談の事案においては、御友人の服を脱がせて性器を触ったということですが、その触った回数や時間や、触り方などの行為態様を詳細に事実認定した上で、わいせつ罪の成否が審判されることになります。具体的証拠資料を拝見せず、お話を伺っただけでは何とも言えませんが、わいせつ罪の成立可能性も高い事案にも思われます。被害者が被害届を提出し、調書作成などにも積極的に応じている場合は、刑事手続きの懸念が大きい事案と言えるでしょう。

4、今後の対応方法

御相談では、被害者の親御さんが非常に立腹しており、ご相談者様の謝罪を受け入れてくださらないということです。

強制わいせつ罪の適用関係については、前述の通り、法改正や判例変更もありましたので、家庭裁判所の少年審判で逆送されてしまう可能性や保護処分や少年院送致されてしまう心配も大きいところです。高校生と言っても、1年生なのか、2年生なのか、3年生なのか、18歳にどれくらい近いのかということも影響します。手続きは余談を許さない状況と言えます。

そのような場合には、被害者の感情に寄り添って、どうして謝罪を受け入れてくださらないのか、真剣に考えて、被害者側に接触を取る努力をなさることをお勧めいたします。当人同士だと感情的になってしまう場合は、代理人弁護士などの第三者を入れることも考えられます。強制わいせつ罪は、非親告罪化され、刑事告訴は起訴の要件では無くなりましたが、被害者の宥恕・示談和解があるかどうかは処分の大きな要素であることに変わりは有りません。

仲間内でSNS送信して、情報が広がっていないかと被害者の親御さんがご心配なさっておられることも考えられます。仲間内でSNS送信した相手のひとりひとり全員に連絡し、スマートフォンなどを実際に確認し、画像や映像を削除してもらい、それを全部確認して記録するなど、被害者が心配していることをひとつひとつ対処し、それを丁寧に説明する姿勢も大事になってきます。

被害者も加害者も未成年で未来のある高校生ですから、刑事告訴して、調書を取って、事実が刑事記録として残っていくことも双方に良いことでは無いと思います。加害者生徒の真摯な反省の態度を文章にしたり、被害回復の努力を示すなどして、和解交渉の努力を継続する必要があります。警察署や家庭裁判所にも、随時、交渉状況を報告する必要があります。強制わいせつ罪が非親告罪化されたとしても、当事者間で宥恕するという和解が成立すれば、自ずから処分は穏便なものになっていきます。御心配であれば、わいせつ事案や少年事案に経験のある弁護士事務所に御相談なさり、最善策を模索されると良いでしょう。

以上です。

関連事例集

Yahoo! JAPAN

※参考判例

※最高裁判所平成29年11月29日判決、平成28年(あ)第1731号

児童買春,児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反,強制わいせつ,犯罪による収益の移転防止に関する法律違反被告事件

『主文

本件上告を棄却する。

当審における未決勾留日数中280日を本刑に算入する。

理由

1弁護人松木俊明,同園田寿の各上告趣意,同奥村徹の上告趣意のうち最高裁

昭和43年(あ)第95号同45年1月29日第一小法廷判決・刑集24巻1号1頁(以下「昭和45年判例」という。)を引用して判例違反,法令違反をいう点について

(1)第1審判決判示第1の1の犯罪事実の要旨は,「被告人は,被害者が13

歳未満の女子であることを知りながら,被害者に対し,被告人の陰茎を触らせ,口にくわえさせ,被害者の陰部を触るなどのわいせつな行為をした。」というものである。

原判決は,自己の性欲を刺激興奮させ,満足させる意図はなく,金銭目的であったという被告人の弁解が排斥できず,被告人に性的意図があったと認定するには合理的な疑いが残るとした第1審判決の事実認定を是認した上で,客観的に被害者の性的自由を侵害する行為がなされ,行為者がその旨認識していれば,強制わいせつ罪が成立し,行為者の性的意図の有無は同罪の成立に影響を及ぼすものではないとして,昭和45年判例を現時点において維持するのは相当でないと説示し,上記第1の1の犯罪事実を認定した第1審判決を是認した。

(2)所論は,原判決が,平成29年法律第72号による改正前の刑法176条

(以下単に「刑法176条」という。)の解釈適用を誤り,強制わいせつ罪が成立するためには,その行為が犯人の性欲を刺激興奮させ又は満足させるという性的意図のもとに行われることを要するとした昭和45年判例と相反する判断をしたと主張するので,この点について,検討する。

(3)昭和45年判例は,被害者の裸体写真を撮って仕返しをしようとの考えで,脅迫により畏怖している被害者を裸体にさせて写真撮影をしたとの事実につき,平成7年法律第91号による改正前の刑法176条前段の強制わいせつ罪に当たるとした第1審判決を是認した原判決に対する上告事件において,「刑法176条前段のいわゆる強制わいせつ罪が成立するためには,その行為が犯人の性欲を刺戟興奮させまたは満足させるという性的意図のもとに行なわれることを要し,婦女を脅迫し裸にして撮影する行為であっても,これが専らその婦女に報復し,または,これを侮辱し,虐待する目的に出たときは,強要罪その他の罪を構成するのは格別,強制わいせつの罪は成立しないものというべきである」と判示し,「性欲を刺戟興奮させ,または満足させる等の性的意図がなくても強制わいせつ罪が成立するとした第1審判決および原判決は,ともに刑法176条の解釈適用を誤ったものである」として,原判決を破棄したものである。

(4)しかしながら,昭和45年判例の示した上記解釈は維持し難いというべき

である。

ア 現行刑法が制定されてから現在に至るまで,法文上強制わいせつ罪の成立要件として性的意図といった故意以外の行為者の主観的事情を求める趣旨の文言が規定されたことはなく,強制わいせつ罪について,行為者自身の性欲を刺激興奮させたか否かは何ら同罪の成立に影響を及ぼすものではないとの有力な見解も従前から主張されていた。これに対し,昭和45年判例は,強制わいせつ罪の成立に性的意図を要するとし,性的意図がない場合には,強要罪等の成立があり得る旨判示しているところ,性的意図の有無によって,強制わいせつ罪(当時の法定刑は6月以上7年以下の懲役)が成立するか,法定刑の軽い強要罪(法定刑は3年以下の懲役)等が成立するにとどまるかの結論を異にすべき理由を明らかにしていない。また,同判例は,強制わいせつ罪の加重類型と解される強姦罪の成立には故意以外の行為者の主観的事情を要しないと一貫して解されてきたこととの整合性に関する説明も特段付していない。

元来,性的な被害に係る犯罪規定あるいはその解釈には,社会の受け止め方を踏まえなければ,処罰対象を適切に決することができないという特質があると考えられる。諸外国においても,昭和45年(1970年)以降,性的な被害に係る犯罪規定の改正が各国の実情に応じて行われており,我が国の昭和45年当時の学説に影響を与えていたと指摘されることがあるドイツにおいても,累次の法改正により,既に構成要件の基本部分が改められるなどしている。こうした立法の動きは,性的な被害に係る犯罪規定がその時代の各国における性的な被害の実態とそれに対する社会の意識の変化に対応していることを示すものといえる。

これらのことからすると,昭和45年判例は,その当時の社会の受け止め方などを考慮しつつ,強制わいせつ罪の処罰範囲を画するものとして,同罪の成立要件として,行為の性質及び内容にかかわらず,犯人の性欲を刺激興奮させ又は満足させるという性的意図のもとに行われることを一律に求めたものと理解できるが,その解釈を確として揺るぎないものとみることはできない。

イ そして,「刑法等の一部を改正する法律」(平成16年法律第156号)は,性的な被害に係る犯罪に対する国民の規範意識に合致させるため,強制わいせつ罪の法定刑を6月以上7年以下の懲役から6月以上10年以下の懲役に引き上げ,強姦罪の法定刑を2年以上の有期懲役から3年以上の有期懲役に引き上げるなどし,「刑法の一部を改正する法律」(平成29年法律第72号)は,性的な被害に係る犯罪の実情等に鑑み,事案の実態に即した対処を可能とするため,それまで強制わいせつ罪による処罰対象とされてきた行為の一部を強姦罪とされてきた行為と併せ,男女いずれもが,その行為の客体あるいは主体となり得るとされる強制性交等罪を新設するとともに,その法定刑を5年以上の有期懲役に引き上げたほか,監護者わいせつ罪及び監護者性交等罪を新設するなどしている。これらの法改正が,性的な被害に係る犯罪やその被害の実態に対する社会の一般的な受け止め方の変化を反映したものであることは明らかである。

ウ 以上を踏まえると,今日では,強制わいせつ罪の成立要件の解釈をするに当たっては,被害者の受けた性的な被害の有無やその内容,程度にこそ目を向けるべきであって,行為者の性的意図を同罪の成立要件とする昭和45年判例の解釈は,その正当性を支える実質的な根拠を見いだすことが一層難しくなっているといわざるを得ず,もはや維持し難い。

(5)もっとも,刑法176条にいうわいせつな行為と評価されるべき行為の中

には,強姦罪に連なる行為のように,行為そのものが持つ性的性質が明確で,当該行為が行われた際の具体的状況等如何にかかわらず当然に性的な意味があると認められるため,直ちにわいせつな行為と評価できる行為がある一方,行為そのものが持つ性的性質が不明確で,当該行為が行われた際の具体的状況等をも考慮に入れなければ当該行為に性的な意味があるかどうかが評価し難いような行為もある。その上,同条の法定刑の重さに照らすと,性的な意味を帯びているとみられる行為の全てが同条にいうわいせつな行為として処罰に値すると評価すべきものではない。そして,いかなる行為に性的な意味があり,同条による処罰に値する行為とみるべきかは,規範的評価として,その時代の性的な被害に係る犯罪に対する社会の一般的な受け止め方を考慮しつつ客観的に判断されるべき事柄であると考えられる。

そうすると,刑法176条にいうわいせつな行為に当たるか否かの判断を行うためには,行為そのものが持つ性的性質の有無及び程度を十分に踏まえた上で,事案によっては,当該行為が行われた際の具体的状況等の諸般の事情をも総合考慮し,社会通念に照らし,その行為に性的な意味があるといえるか否かや,その性的な意味合いの強さを個別事案に応じた具体的事実関係に基づいて判断せざるを得ないことになる。したがって,そのような個別具体的な事情の一つとして,行為者の目的等の主観的事情を判断要素として考慮すべき場合があり得ることは否定し難い。しかし,そのような場合があるとしても,故意以外の行為者の性的意図を一律に強制わいせつ罪の成立要件とすることは相当でなく,昭和45年判例の解釈は変更されるべきである。

(6)そこで,本件についてみると,第1審判決判示第1の1の行為は,当該行

為そのものが持つ性的性質が明確な行為であるから,その他の事情を考慮するまでもなく,性的な意味の強い行為として,客観的にわいせつな行為であることが明らかであり,強制わいせつ罪の成立を認めた第1審判決を是認した原判決の結論は相当である。

以上によれば,刑訴法410条2項により,昭和45年判例を当裁判所の上記見解に反する限度で変更し,原判決を維持するのを相当と認めるから,同判例違反をいう所論は,原判決破棄の理由にならない。なお,このように原判決を維持することは憲法31条等に違反するものではない。

2弁護人奥村徹の上告趣意のうち,その余の判例違反をいう点は,事案を異に

する判例を引用するものであって本件に適切でないか,引用の判例が所論のような趣旨を示したものではないから前提を欠くものであり,その余は,単なる法令違反,量刑不当の主張であって,刑訴法405条の上告理由に当たらない。

よって,刑訴法414条,396条,刑法21条により,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。』

※最高裁昭和45年1月29日判決

『 主 文

原判決を破棄する。

本件を札幌高等裁判所に差し戻す。

理 由

弁護人塩谷千冬の上告趣意中判例違反をいう点は、所論引用の判決は性欲の刺戟興奮以外の目的で婦女に暴行脅迫を加え裸体写真を撮つた行為が強制わいせつの罪を構成するか否かについては何ら判示していないから、本件に適切でなく、所論は不適法であり、その余の論旨及び弁護人高橋良祐の上告趣意は、いづれも単なる法令違反の主張で適法な上告理由にあたらない。

しかし、職権により調査するに、刑法一七六条前段のいわゆる強制わいせつ罪が成立するためには、その行為が犯人の性欲を刺戟興奮させまたは満足させるという性的意図のもとに行なわれることを要し、婦女を脅迫し裸にして撮影する行為であつても、これが専らその婦女に報復し、または、これを侮辱し、虐待する目的に出たときは、強要罪その他の罪を構成するのは格別、強制わいせつの罪は成立しないものというべきである。本件第一審判決は、被告人は、内妻Aが本件被害者Bの手引により東京方面に逃げたものと信じ、これを詰問すべく判示日時、判示アパート内の自室にBを呼び出し、同所で右Aと共にBに対し「よくも俺を騙したな、俺は東京の病院に行つていたけれど何もかも捨ててあんたに仕返しに来た。硫酸もある。

お前の顔に硫酸をかければ醜くなる。」 ……と申し向けるなどして、約二時間にわたり右Bを脅迫し、同女が許しを請うのに対し同女の裸体写真を撮つてその仕返しをしようと考え、「五分間裸で立つておれ。」と申し向け、畏怖している同女をして裸体にさせてこれを写真撮影したとの事実を認定し、これを刑法一七六条前段の強制わいせつ罪にあたると判示し、弁護入の主張に対し、「成程本件は前記判示のとおり報復の目的で行われたものであることが認められるが、強制わいせつ罪の被害法益は、相手の性的自由であり、同罪はこれの侵害を処罰する趣旨である点に鑑みれば、行為者の性欲を興奮、刺戟、満足させる目的に出たことを要する所謂目的犯と解すべきではなく、報復、侮辱のためになされても同罪が成立するものと解するのが相当である」旨判示しているのである。そして、右判決に対する控訴審たる原審の判決もまた、弁護人の法令適用の誤りをいう論旨に対し、「報復侮辱の手段とはいえ、本件のような裸体写真の撮影を行なつた被告人に、その性欲を刺戟興奮させる意図が全くなかつたとは俄かに断定し難いものがあるのみならず、たとえかかる目的意思がなかつたとしても本罪が成立することは、原判決がその理由中に説示するとおりであるから、論旨は採用することができない。」と判示して、第一審判決の前示判断を是認しているのである。

してみれば、性欲を刺戟興奮させ、または満足させる等の性的意図がなくても強制わいせつ罪が成立するとした第一審判決および原判決は、ともに刑法一七六条の解釈適用を誤つたものである。

もつとも、年若い婦女(本件被害者は本件当時二三年であつた)を脅迫して裸体にさせることは、性欲の刺戟、興奮等性的意図に出ることが多いと考えられるので、本件の場合においても、審理を尽くせば、報復の意図のほかに右性的意図の存在も認められるかもしれない。しかし、第一審判決は、報復の意図に出た事実だけを認定し、右性的意図の存したことは認定していないし、また、自己の内妻と共同してその面前で他の婦女を裸体にし、単にその立つているところを写真に撮影した本件のような行為は、その行為自体が直ちに行為者に前記性的意図の存することを示すものともいえないのである。しかるに、控訴審たる原審判決は、前記の如く「報復侮辱の手段とはいえ、本件のような裸体写真の撮影を行つた被告人に、その性欲を刺戟興奮させる意図が全くなかつたとは俄かに断定し難いものがある」と判示しているけれども、何ら証拠を示していないし、また右意図の存在を認める理由を説示していないのみならず、他の弁護人の論旨に対し本件第一審判決には、事実誤認はないと判示し控訴を棄却しているのであるから、原判決は、本件被告人に報復の手段とする意図のほかに、性欲を刺戟興奮させる意図の存した事実を認定したものでないこと明らかである。してみれば、原判決は、強制わいせつ罪の成否に関する第一審判決の判断を是認し維持したものといわなければならない。

要するに、原判決には刑法一七六条の解釈適用を誤つた違法があり、判決の結果に影響を及ぼすことが明らかであつて、原判決を破棄しなければ著しく正義に反するものと認める。

そして、第一審判決の確定した事実は強制わいせつ罪にはあたらないとしても、所要の訴訟手続を踏めば他の罪に問い得ることも考えられ、また原判決の示唆するごとく、もし被告人に前記性的意図の存したことが証明されれば、被告人を強制わいせつ罪によつて処断することもできる次第であるから、さらにこれらの点につき審理させるため刑訴法四一一条一号四一三条により原判決を破棄し、本件を原裁判所に差し戻すべきものとする。

よつて、裁判官入江俊郎、同長部謹吾の反対意見があるほか裁判官全員一致の意見により主文のとおり判決する。

裁判官入江俊郎の反対意見は、次のとおりである。

私は、いわゆる強制わいせつの罪に関する刑法一七六条の解釈につき、多数意見と根本的に立場を異にする。私は、本件第一審判決およびこれを是認した原判決の採用した同条の解釈が正当であつて、本件上告趣意に対する最高検察庁検察官の弁論における主張も充分理由があると考える。それ故、本件上告は、これを棄却すべきものである。私の右反対意見の理由は、次のとおりである。

一 刑法一七六条が、一七七条、一七八条とならんで、同法一七四条、一七五条に比し、より重い刑を定めたこと、および刑法一七六条の罪が、一八〇条一項により、一七七条、一七八条、一七九条の罪とともに親告罪とされ訴追にあたつて被害者の意思が尊重されるべきことを定めている所以は、性的しゆう恥心ないし性的清浄性が、各個人にとつて、精神的にも肉体的にも極めて重要な性的自由に属する事柄であり、個人のプライヴアシーと密接な関係をもつているものであることに鑑み、法が特にこのような個人の性的自由を保護法益としたからにほかならないものと考えられる。このことは。改正刑法準備草案が、現行刑法一七四条および一七五条の罪に相当する罪を風俗を害する罪の章下に入れ、同法一七六条、一七七条および一七八条の罪に相当する罪を姦淫の罪の章下に入れて、両者をはつきりと区別していることからも、了解しうるところである。そして、このような個人のプライヴアシーに属する性的自由を保護し尊重することは、まさに憲法一三条の法意に適合する所以であり、現時の世相下においては、殊にこれら刑法法条の重要性が認識されなければならないのであつて、これら法条の解釈にあたつては、個人をその性的自由の侵害から守り、その性的自由の保護が充分全うされるよう、配慮されなければならない。

従つて、これらの法条の罪については、行為者(犯人)がいかなる目的・意図で行為に出たか、行為者自身の性欲をいたずらに興奮または刺激させたか否か、行為者自身または第三者の性的しゆう恥心を害したか否かは、何ら結論に影響を及ぼすものではないと解すべきである。このことは、当裁判所大法廷判決(昭和二八年(あ)第一七一三号、同三二年三月一三日判決、刑集一一巻三号九九七頁)が、刑法一七五条のわいせつ文書につき、「猥褻性の存否は純客観的に、つまり作品自体からして判断されなければならず、作者の主観的意図によつて影響されるべきものではない。」としているのと相通ずるところがあるのである。

ところで、刑法一七六条は、「十三歳以上ノ男女ニ対シ暴行又ハ脅迫ヲ以テ猥褻ノ行為ヲ為シタル者ハ六月以上七年以下ノ懲役ニ処ス十三歳ニ満タサル男女ニ対シ猥褻ノ行為ヲ為シタル者亦同シ」と規定しているのであるから、同条の罪が成立するためには、行為者(犯人)がわいせつの行為にあたる事実を認識し、一三歳以上の男女に対しては暴行または脅迫をもつて、一三歳未満の男女に対してはその有無にかかわらず、これを実行すれば必要にして充分であると解すべきである。そして、右にいうわいせつの行為とは、普通人の性的しゆう恥心を害し、善良な性的道義観念に反する行為をいうものであり、ある行為がこの要件を充たすものであるか否かは、その行為を、客観的に、社会通念に従つて、換言すれば、その行為自体を普通人の立場に立つて観察して決すべきものである。けだし、このような行為が、性的自由の意義を正しく理解しえないと考えられる一三歳未満の男女に対して行なわれたり、一三歳以上の男女に対しては暴行脅迫の手段をもつて行なわれたりすれば、それだけで個人の性的自由が侵害されることになるからである。

二 私は、刑法一七六条の罪は、これを行為者(犯人)の性欲を興奮、刺激、満足させる目的に出たことを必要とするいわゆる目的犯ではないと考える。また、本条の罪をいわゆる傾向犯と解する余地も、まことに乏しいといわざるをえないと思う。

たとえ、動機ないし目的が報復、侮辱、虐待であつたとしても、その一事は何ら本条の罪の成立を妨げるものではなく、これと同趣旨を判示した第一審判決は正当であり、これを是認した原判決もまた相当であつて、何ら所論のような法令違反はない(原判決が、「しかし報復侮辱の手段とはいえ、本件のような裸体写真の撮影を行つた被告人に、その性欲を刺戟興奮させる意図が全くなかつたとは俄かに断定し難いものがあるのみならず」と判示したのは、原審が、本件多数意見のような考え方の存在することを顧慮してした念のためのものではないかと考えられるが、私はこれは全く蛇足無用の判示であると考える。)。

多数意見は、本条の罪を目的犯のごとく解するようであり、多数意見によれば、刑法一七六条前段のいわゆる強制わいせつの罪が成立するためには、その行為が犯人の性欲を刺激、興奮させまたは満足させるという性的意図のもとに行なわれることを要し、婦女を脅迫し裸にして撮影する行為であつても、これが専らその婦女に報復し、またはこれを侮辱し、虐待する目的に出たときは、強要罪その他の罪を構成するのは格別、強制わいせつの罪は成立しないものというべきであるというのであるが、私は、上記意見および次の諸点に鑑み、右多数意見には到底賛成できない。

(一)行為者が一定の目的・意図をもつて行為に出ることを必要とする犯罪については、刑法は、その各本条に、「……ノ目的ヲ以テ」(たとえば一五五条一項)とか、「……ヲ為ス為」(たとえば一〇七条)などの要件を付しているのである。

ところが、刑法一七六条には右のような文言はなく、明文上において、本条の罪を目的犯であると解すべき根拠がない。

(二)尤も、一定の目的・意図、すなわち主観的意図が構成要件として明示されていない犯罪でも、構成要件の解釈上、それを必要とするものがないわけではない。

たとえば、窃盗罪などの財産犯のごとく、これらの罪については、いわゆる不法領得の意思を必要とするというのが通説であり、また判例である。これは、たとえば窃盗罪についていうと、窃取という構成要件が、単に他人の所持する物を自己の所持に移すという客観的事実だけでなく、それに加えて、その物を自己の物にするという意思を必要とする行為であることによつて、はじめてこれを犯罪とする意味が生ずることによるのである。ところが、本条の罪のわいせつの行為については、解釈上、行為者(犯人)自身の性的意図を必要とする理由を見出だしえないことは、すでに前記一において述べたとおりである。すなわち本条は、個人(被害者)の性的自由を侵害する罪を定めた規定であり、その保護法益は個人のプライヴアシーに属する性的自由に存するのであつて、相手方(被害者)の性的自由を侵害したと認められる客観的事実があれば、当然に本条の罪は成立すると解すべく、行為者(犯人)に多数意見のいうような性的意図がないというだけの理由で犯罪の成立を否定しなければならない解釈上の根拠は、本条の規定の趣旨からみて、到底見出だしえないのである。

(三)多数意見によると、相手方(被害者)の性的自由が侵害されている場合でも、行為者(犯人)に多数意見のいうような性的意図がないときは、本条の罪としては処罰できないことになるのであるが、かくては、刑法が、性的自由の保護を、財産行為の自由の保護(強盗罪に関する二三六条、恐喝罪に関する二四九条参照)および公務員の職務行為の自由の保護(職務強要罪に関する九五条二項参照)などとともに、その他一般の行為の自由の保護(強要罪に関する二二三条参照)と区別して、特に重く保護しようとしている趣旨が没却されることになる。すなわち、多数意見のように本件行為を強要罪に関する刑法二二三条によつて処断するとすれば、その刑は三年以下の懲役にすぎないこととなり、刑法一七六条該当の行為が六月以上七年以下の懲役にあたるとされていることと対比し、極めて均衡を失することとなる。

本条は、行為者(犯人)に多数意見のいうような性的意図が必要とされるという点からではなく、相手方(被害者)の性的自由が侵害されるという点から、強要罪に関する刑法二二三条の特別規定となると理解してこそ、はじめてその法意が生かされることになると考えるのである。

(四)多数意見によると、相手方(被害者)の性的自由が侵害されている場合でも、行為者(犯人)に多数意見のいうような性的意図がないときは、非親告罪である強要罪その他の罪として訴追され、審理、判決されることになつて、刑法一八〇条一項が、性的自由の侵害を内容とする罪を特に親告罪として、訴追にあたつて被害者の意思を尊重すべきものとした趣旨が没却される点も、まことに不合理といわなければならない。

三 これを本件についてみるに、第一審判決およびこれを是認した原判決が適法に確定した事実関係の下において、また、記録に現われた諸証拠を照合すれば、本件で問題とされている行為は、まさに刑法一七六条前段の要件を充たすものというべきである。

以上の理由により、私は上告趣意中、判例違反をいう点については、引用の判例は、本件に適切でなく、正当な上告理由にあたらないとする点において多数意見に同調するが、その余の点については、多数意見には反対であり、本件上告はこれを棄却すべきものと考える。

裁判官長部謹吾は、裁判官入江俊郎の右反対意見に同調する。』