仮差押え成功後の手続き

民事|保全|仮差押|担保取消

目次

  1. 質問
  2. 回答
  3. 解説
  4. 関連事例集
  5. 参照条文

質問:

知人に対する貸金返還請求権があり、払って貰えないので弁護士さんに依頼して、不動産・債権(預貯金)の仮差押えをして貰いました。裁判所に申し立てをして、保証金を供託して、仮差押え命令を発令して頂き、仮差押えの登記(銀行に対する仮差押え命令の送達)がなされました。仮差押えは成功しました。これから弁護士さんと方針の打ち合わせをすることになっていますが、どのように考えたら良いでしょうか。

回答:

1、仮差押の手続きは、本訴を起こして判決を得るまでの間に、債務者にその財産を移転させないための仮の処分です。仮差押え命令は、民事保全法20条1項で「金銭の支払を目的とする債権について、強制執行をすることができなくなるおそれがあるとき、又は強制執行をするのに著しい困難を生ずるおそれがあるときに発することができる」と規定されているものです。

2、あくまで仮の処分ですから、それだけでは債権の回収等の目的を達することはできません。そのためには、仮処分後に債務者と協議して任意の弁済を受けるか、協議が出来ない場合は本訴を起こして判決を得て再度債権差押、不動産差押の手続きをとる必要があります。

3、不動産に対する仮差押えの執行は、不動産の登記簿に仮差押えの登記をすることにより行われます(民事保全法47条1項)。預貯金(債権)に対する仮差押えの執行は、債務者および銀行などの第三債務者に対する仮差押え命令の送達により行われます。債務者である預金の名義人に対する弁済を禁ずる仮差押え命令です(民事保全法50条1項)。不動産は、事実上売却することが出来ない状態となり、銀行預金であれば預金の引き出しができない状態となってしまいます。

4、このように仮差押えが成功した状態で、次のステップを検討することになりますが、もしも弁護士が辞任してしまったなど、代理人がついていない状態であれば、必ず代理人弁護士を依頼されることをお勧め致します。保全手続きは本案手続きと密接に関連しており、最終的に訴訟手続きの目的を達成できるかどうか、ほんの少しの手違いで手続き全体が台無しになってしまうことがあります。難しい手続きですので、弁護士が必要な手続きと言えます。

5、仮差押えが成功した状態における、民事保全法と民事訴訟法が規定する原則的な手続きは、本裁判(本案訴訟)の提起と、勝訴判決後の本執行申し立てということになります。不動産や預貯金を仮差押えしているのであれば、本案勝訴判決後に本差し押さえを行い、不動産であれば競売により換価して配当を受け、預貯金であれば銀行から取り立てて弁済に充当したり、裁判所の配当手続きにより、弁済を得ることができます。

6、仮差押えが成功して、本案訴訟の目的である請求債権の存否について当事者間で争いが無い場合は、仮差押え成功後に、「和解合意書」を締結し、「和解金の弁済」を受け、「保全取消の同意手続き」と「仮差押えの取下げ手続き」を同時に行い、更に「法務局に対する担保金の取り戻し」を行うことになります。この順番を少しでも間違えると和解金を受領できなかったり、担保金の取り戻しが著しく困難になってしまったりしてしまいます。弁護士さんと相談しながら間違えないように手続きされると良いでしょう。

7、仮差押に関する関連事例集参照。

解説:

1、仮差押え手続き

仮差押え命令は、民事保全法20条1項で規定された、裁判所の保全命令です。

民事保全法第20条(仮差押命令の必要性) 1項 仮差押命令は、金銭の支払を目的とする債権について、強制執行をすることができなくなるおそれがあるとき、又は強制執行をするのに著しい困難を生ずるおそれがあるときに発することができる。

御相談の案件の様に、金銭債権の弁済を求める訴訟手続きを検討している場合に、債務者が弁済に充てるべき財産(責任財産と言います)を処分してしまうなど、最終的な強制執行ができなくなってしまう恐れがある場合には、これを未然に防ぐために、判決確定前であっても、仮に債務者の財産を差し押さえすることができるとする手続きです。

一般に、民事訴訟を提起して、初回の口頭弁論期日が設定されるまでに1か月程度の期間を要しますし、請求している債権について債務者が「金額が違う」「弁済期が違う」「一部弁済ずみである」「借用書が無い」「金銭は受領したが貰ったものだ」など主張をした場合などには、争点整理や双方の主張立証が必要となり、第一審判決であっても、半年から1年程度の期間を要することも少なくありません。簡易裁判所(請求額140万円未満の事物管轄)や地方裁判所(請求額140万円以上の事物管轄)などで判決が出たとしても、争点が複雑な場合には仮執行宣言(民事訴訟法259条1項)が付かないこともあり、すぐには強制執行の申立てをすることができず、高等裁判所などの控訴審での審理が必要になる場合もあり、判決確定まで更に時間を要することになってしまいます。

このような手続きをやっている間に、債務者が、裁判で負けそうだなと思い、財産隠しをしてしまうと、債権者は勝訴判決をえても結局強制執行できなくなってしまうことになってしまいます。強制執行を妨害する目的による責任財産の隠匿行為は、刑法96条の2の強制執行妨害罪に抵触する行為ですが、刑罰法規違反であっても、実際に処分されてしまったら、債権者が弁済を得るという正義を実現することができなくなってしまいます。

刑法96条の2(強制執行妨害目的財産損壊等) 強制執行を妨害する目的で、次の各号のいずれかに該当する行為をした者は、三年以下の懲役若しくは二百五十万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。情を知って、第三号に規定する譲渡又は権利の設定の相手方となった者も、同様とする。

一号 強制執行を受け、若しくは受けるべき財産を隠匿し、損壊し、若しくはその譲渡を仮装し、又は債務の負担を仮装する行為

二号 強制執行を受け、又は受けるべき財産について、その現状を改変して、価格を減損し、又は強制執行の費用を増大させる行為

三号 金銭執行を受けるべき財産について、無償その他の不利益な条件で、譲渡をし、又は権利の設定をする行為

そこで、民事保全法では、厳格な証拠調べを経た確定判決が出る前であっても、簡易な「疎明」という手続により、債務者の財産を仮に差し押さえする保全手続きを認めているのです。

正式裁判を経る前の仮の命令ですから、万が一に間違いがあった時には、仮歳押さえ命令を受けた債務者に不測の損害が発生してしまうことになります。この損害賠償請求権を担保するために、保全命令の債権者は、事前に保証金として、裁判所が仮差押え発令時に命じた金額を法務局に供託することが必要になります。例えば、不動産評価額の1割とか、差し押さえされる預金の2割などの保証金の供託を命ぜられることになります。この金額は、事案内容や当事者相互の事情などを考慮してケースバイケースで裁判所が決定します。

民事保全法第14条(保全命令の担保) 1項 保全命令は、担保を立てさせて、若しくは相当と認める一定の期間内に担保を立てることを保全執行の実施の条件として、又は担保を立てさせないで発することができる。

2、保全執行手続き

保全命令の発令と同時に、保全執行手続きが行われます。

(1)不動産に対する仮差押え

不動産に対する仮差押えの執行は、裁判所書記官が法務局に嘱託して登記が行われ、不動産の登記簿に仮差押えの登記をすることにより行われます(民事保全法47条1項)。登記事項証明書を取得すると、所有権などが登記される甲区の最後に仮差押えの登記が入ることになります。

民事保全法第47条(不動産に対する仮差押えの執行)

1 民事執行法第四十三条第一項に規定する不動産(同条第二項の規定により不動産とみなされるものを含む。)に対する仮差押えの執行は、仮差押えの登記をする方法又は強制管理の方法により行う。これらの方法は、併用することができる。

2 仮差押えの登記をする方法による仮差押えの執行については、仮差押命令を発した裁判所が、保全執行裁判所として管轄する。

3 仮差押えの登記は、裁判所書記官が嘱託する。

4 強制管理の方法による仮差押えの執行においては、管理人は、次項において準用する民事執行法第百七条第一項の規定により計算した配当等に充てるべき金銭を供託し、その事情を保全執行裁判所に届け出なければならない。

5 民事執行法第四十六条第二項、第四十七条第一項、第四十八条第二項、第五十三条及び第五十四条の規定は仮差押えの登記をする方法による仮差押えの執行について、同法第四十四条、第四十六条第一項、第四十七条第二項、第六項本文及び第七項、第四十八条、第五十三条、第五十四条、第九十三条から第九十三条の三まで、第九十四条から第百四条まで、第百六条並びに第百七条第一項の規定は強制管理の方法による仮差押えの執行について準用する。

この仮差押え登記が入った後に、この被保全債権を請求債権として不動産の強制競売が行われると、競売の買受人への所有権移転登記と同時に、仮差押えよりも後に登記された「所有権登記」「抵当権登記」などの権利が全て消滅し、登記が抹消されてしますことになります(民事執行法59条2項)。仮差押え登記は法務局で取得できる登記簿謄本で何時でも誰でも確認することができますから、仮差押え登記後は、事実上、不動産の売却は不可能となってしまいます。売買代金を払って移転登記を受けても後日強制競売により、その所有権登記が抹消されてしまう可能性があるからです。

民事執行法59条(売却に伴う権利の消滅等)

1 不動産の上に存する先取特権、使用及び収益をしない旨の定めのある質権並びに抵当権は、売却により消滅する。

2 前項の規定により消滅する権利を有する者、差押債権者又は仮差押債権者に対抗することができない不動産に係る権利の取得は、売却によりその効力を失う。

3 不動産に係る差押え、仮差押えの執行及び第一項の規定により消滅する権利を有する者、差押債権者又は仮差押債権者に対抗することができない仮処分の執行は、売却によりその効力を失う。

4 不動産の上に存する留置権並びに使用及び収益をしない旨の定めのない質権で第二項の規定の適用がないものについては、買受人は、これらによつて担保される債権を弁済する責めに任ずる。

5 利害関係を有する者が次条第一項に規定する売却基準価額が定められる時までに第一項、第二項又は前項の規定と異なる合意をした旨の届出をしたときは、売却による不動産の上の権利の変動は、その合意に従う。

(2)債権に対する仮差押え

預貯金(債権)に対する仮差押えの執行は、債務者および銀行などの第三債務者に対する仮差押え命令の送達により行われます。第三債務者というのは、貸金などの債権を持っている債権者と、請求されている債務者の他に、第三者として、債務者に対する預金債務を負担している銀行など金融機関のような「債務者に対する債務を負っている者」のことです。

送達というのは、書留郵便に似ているものですが、郵便法58条で規定された郵便認証司という資格者が、法令要件を満たした書類の送達ができているかを確認して「送達報告書」に記載して届ける手続きです。

郵便法58条(職務) 郵便認証司は、次に掲げる事務(以下この章において「認証事務」という。)を行うことを職務とする。

一号 内容証明の取扱いに係る認証(総務省令で定めるところにより、当該取扱いをする郵便物の内容である文書の内容を証明するために必要な手続が適正に行われたことを確認し、当該郵便物の内容である文書に当該郵便物が差し出された年月日を記載することをいう。)をすること。

二号 特別送達の取扱いに係る認証(総務省令で定めるところにより、当該取扱いをする郵便物が民事訴訟法第百三条から第百六条までに掲げる方法により適正に送達されたこと及びその送達に関する事項が同法第百九条の書面に適正に記載されていることを確認し、その旨を当該書面に記載し、これに署名し、又は記名押印することをいう。)をすること。

仮差押え命令書は、銀行などの第三債務者に対して、債務者である預金の名義人に対する弁済を仮に禁ずる命令です(民事保全法50条1項)。仮に、この命令に反して第三債務者が債務者に弁済したとしても、仮差押債権者との関係では弁済がないものとして処理されます。

預金仮差押え命令の主文例を記載します。

『債権者の債務者に対する上記債権の執行を保全するため,債務者の第三債務者に対する別紙仮差押債権目録記載の債権は,仮に差し押さえる。第三債務者は,債務者に対し,仮差押えに係る債務の支払いをしてはならない。債務者は,上記仮差押債権額を供託するときは,この決定の執行の停止又は執行処分の取消しを求めることができる。』

(3)保全執行が完了した状態

このように、保全執行が完了した状態になると、不動産は、事実上売却することが出来ない状態となり、銀行預金であれば預金の引き出しができない状態となります。預貯金も不動産も、債務者にとって、自分の財産でありながら、自由に処分することができない状態になってしまったのです。

(4)弁護士の必要性

このように仮差押えが成功した状態になると、債務者から裁判所や保全命令の申立てをした債権者のところに「今すぐ元に戻せ」などという「クレーム」が来たりすることがあります。特に発令直後は、債務者が興奮していることも多く、取り扱いが難しい状態であることが多いのです。

そこで、次のステップを検討することになりますが、もしも弁護士が辞任してしまったなど、代理人がついていない状態であれば、必ず代理人弁護士を依頼されることをお勧め致します。

弁護士は冷静な第三者として法律問題を仲介することができますし、保全手続きは本案手続きと密接に関連しており、最終的に訴訟手続きの目的を達成できるかどうか、ほんの少しの手違いで手続き全体が台無しになってしまうことがあります。難しい手続きですので、弁護士が必要な手続きと言えます。

3、仮差押え後に法令上予定された手続き

前記の民事保全法20条1項で「強制執行をすることができなくなるおそれがあるとき、又は強制執行をするのに著しい困難を生ずるおそれがあるとき」と規定されているのは、勝訴判決後の強制執行に支障があることを予防するためでした。

つまり、法が本来予定しているのは、債権者が債務者に弁済を請求し、支払いを得ることが出来ない場合には、民事訴訟を提起し、勝訴判決を得て、債務者の財産に対する強制執行を経て、そこから弁済を得て債権の満足を得るという債権回収の手続きです。

債権に対する強制執行であれば、差し押さえ命令の送達を行い、(1)差し押さえの競合が無ければ(執行費用と差し押さえ債権の弁済ができる時)、取り立て権に基づく債権者による第三債務者に対する直接の取り立て、(2)差し押さえの競合を生じた場合(複数の差し押さえがあり、全債権者の弁済が両立できない時)は、第三債務者が法務局に差し押さえられた債権の全額を供託し、執行裁判所の裁判所書記官が配当表を作成し、配当期日に配当が実施されます。

不動産に対する強制執行であれば、一般に強制競売の申し立てが為され、競売開始決定があると、差し押さえ登記が嘱託され、執行官による現況調査が行われ、執行官に同行した不動産鑑定士が評価人として評価書を作成し、最低売却価額が決まり、入札が実施され、買受代金の納付後に、配当が実施されます。ここまで通常は半年以上の期間を要することになります。

4、仮差押え後に実務上行われる手続き

しかし、本案訴訟や強制執行の手続きを減ることは債権者と債務者の双方にとって負担が大きく、また時間も掛かってしまうことから債権債務の存在に争いがない場合は双方の代理人弁護士を介するなどして、双方が少しずつ譲歩することにより、円滑に和解を締結するなどして、仮差押えを解消する手続きをとるのが望ましいといえます。そこで本稿では和解の場合について以下説明します。

(1)仮差押え後の和解合意書

この和解合意書は、普通の民事事件の訴訟提起前の和解合意書(示談書)とは異なります。民法や商法など実体法上の権利義務関係(債権債務関係の存否についての取り決め)の他に、訴訟法上の権利義務関係(訴訟法上効力を生じている権利義務関係)についても取り決め(合意)をする必要があるためです。通常の和解合意書や示談書では、まず、当事者間の債権債務を定めて、その弁済方法を定めて、最後に双方に債権債務が残っていないという清算条項を定めて合意書が完成しますが、仮差押え成功後の和解では、「仮差押えの解除」「担保金の取り戻し」についても、合意して手続きする必要があるのです。そして、これらの事項について、少しでも順番を間違えると、仮差押えをした意味が無くなってしまう危険があるので注意を要します。以下、時系列に従って、合意書に記載して履行していくべき内容を説明します。

(2)実体法上の権利義務関係(債権債務関係)についての合意

まず、仮差押えの原因となった、請求債権について、当事者間の意見を確認し、その債権債務関係について、合意して、その内容を合意条項として定めます。貸金債権の問題であれば、「当事者間に弁済未了の貸金債権が金〇〇円存在することを相互に確認した」というような内容を定めます。

(3)弁済方法についての合意

次に、合意した債権債務関係のうち、全部または一部を弁済する合意を定めます。内金〇〇円を弁済した時は、残金を免除するという合意が行われることが多いです。

この条項を定める場合に、債務者側が、「先に仮差押えを取り下げないと弁済できない」と言ってくることがあります。一見合理的な主張にも思えてしまいますが、先に取り下げをしてしまうと、仮差押えされた財産が再び隠匿・処分されてしまったりして、結局二度と戻ってこなくなってしまう場合がありますので注意が必要です。

また、分割弁済の場合は仮差押えの取り下げ手続きをしないで、完済後に取り下げることにした方が良いでしょう。この場合も、供託した担保保証金だけ取り戻すこともできます。

どうしても債務者に仮差押えされた財産以外の弁済原資が無いという場合には、仮差押えされた財産自体を譲り受ける和解方法も検討なさってください。債権であれば、債権譲渡通知を第三債務者(金融機関)に送付し、不動産であれば、代物弁済を登記原因として所有権そのものを譲り受けてしまう方法が考えられます。それでもどうしても、弁済後の仮差押え取り下げの合意が出来ない場合は、仕方ないことですが、合意を諦め、前記の通り本案訴訟後の本執行という原則的な手続きを選択せざるを得ないことになります。この見極めは、法律専門家の弁護士でないと判断が難しい事項だと言えます。

(4)弁済を確認後に、担保取り消しの同意と、仮差押えの取り下げ。

債権者にとっては、和解金の弁済を受けることができても、最終的に、仮差押え発令時に納付した担保金が戻ってこないと、債権回収が完了したことにはなりません。担保金は、数十万円から数百万円にも上ることがあり、これを確実に取り戻すことが必要となるのです。

※裁判所の担保取消解説ページ

https://www.courts.go.jp/tokyo/saiban/minzi_section09/tanpo_torikesi/index.html

保全命令に伴って命ぜられ供託された担保金を取り戻す(引き出して受領する)ためには、供託原因が消滅していることを証明する保全執行裁判所の証明書が必要になります。仮差押えの手続きと担保保証金の供託の手続きは別の手続きだからです。

供託原因の消滅は、民事訴訟法79条の1項から3項のいずれかの事由を満たしている必要があります。

民事訴訟法79条(担保の取消し)

1 担保を立てた者が担保の事由が消滅したことを証明したときは、裁判所は、申立てにより、担保の取消しの決定をしなければならない。

2 担保を立てた者が担保の取消しについて担保権利者の同意を得たことを証明したときも、前項と同様とする。

3 訴訟の完結後、裁判所が、担保を立てた者の申立てにより、担保権利者に対し、一定の期間内にその権利を行使すべき旨を催告し、担保権利者がその行使をしないときは、担保の取消しについて担保権利者の同意があったものとみなす。

4 第一項及び第二項の規定による決定に対しては、即時抗告をすることができる。

1項は、法的に供託原因が消滅している状態であり、仮差押えの債権者が民事訴訟を提起して勝訴し判決確定した場合を指します。勝訴判決の正本と確定証明書を添付して、担保取り消しの申し立てを行います。

2項は、仮差押えの債務者(仮差押えを受けた人)の同意がある場合です。仮差押えの保証金は債務者の損害賠償請求権を担保するためのものですから、債務者が同意すれば担保を維持する必要性が無いことになるのです。裁判所に対して同意書を提出しますが、万一にも過誤が無いように、同意書に押印された印鑑について市区町村発行の印鑑証明書を添付することが必要とされています。なお、実務上のことですが、債務者の「担保取消決定正本の受書」(日付空欄のもの)、債務者の「即時抗告権放棄の上申書」(日付空欄のもの)を申し立て時に添付することが必要です。

3項は、訴訟が終了または未提起の場合に、担保提供者の申立てにより、裁判所が担保権利者(債務者)に対して一定期間内に損害賠償請求権を行使すべき旨を催告し、その期間内に権利行使の届け出が無かった場合には担保取消の同意があったものとみなす手続きです。

担保提供者(債権者)としては、仮差押えの取下げ書と共に、上記いずれかの書面を添付して担保取消の申立てと「供託原因消滅証明の申請」を行います。

(5)供託金の取戻し請求

裁判所から担保取消決定が通知されたら、同時に交付される「供託原因消滅証明書」を供託所に持参して、管轄法務局供託課の払い渡し係で、「供託金払い渡し請求書」と記載し、「供託原因消滅証明書」を添付して、供託金の取り戻し請求の申請を行います。なお、供託金を納付した者が供託金を下ろすことを「取り戻し」と言い、被供託者が供託金を下ろして受領することを「還付を受ける」と言います。それぞれ必要書類が異なります。代理人によって供託金の取り戻し請求を行う場合は、本人名義の銀行口座に振り込みする場合を除いて、代理人に対する委任状と委任状に押印した印鑑の印鑑証明書が必要となります。

5、さいごに

仮差押えが成功して、本案訴訟の目的である請求債権の存否について当事者間で争いが無い場合は、仮差押え成功後に、「和解合意書」を締結し、「和解金の弁済」を受け、「保全取消の同意手続き」と「仮差押えの取下げ手続き」を同時に行い、更に、「法務局に対する担保金の取り戻し」を行うことになります。この順番を少しでも間違えると和解金を受領できなかったり、担保金の取り戻しが著しく困難になってしまったりしてしまいます。弁護士さんと相談しながら間違えないように手続きされると良いでしょう。

以上です。

関連事例集

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参照条文

民事訴訟法79条(担保の取消し)

1 担保を立てた者が担保の事由が消滅したことを証明したときは、裁判所は、申立てにより、担保の取消しの決定をしなければならない。

2 担保を立てた者が担保の取消しについて担保権利者の同意を得たことを証明したときも、前項と同様とする。

3 訴訟の完結後、裁判所が、担保を立てた者の申立てにより、担保権利者に対し、一定の期間内にその権利を行使すべき旨を催告し、担保権利者がその行使をしないときは、担保の取消しについて担保権利者の同意があったものとみなす。

4 第一項及び第二項の規定による決定に対しては、即時抗告をすることができる。