再開発の書類受け取り拒否

民事|都市再開発法|書類受け取り拒否の手続き上の効果|千葉地裁平成8年6月10日決定

目次

  1. 質問
  2. 回答
  3. 解説
  4. 関連事例集
  5. 参照条文

質問:

駅前で飲食店を経営していますが、この度区域内の一括建て替えをするという再開発の話が出ています。準備組合が設立され、もう少しで本組合が設立されると聞きました。組合担当者が来て「ビルの建て替えで建築費が掛かるので床面積が減ってしまう。新築ビルになるので現在の路面店の場所は用意できない。家賃が倍になるので退去した方が良い。」などと理不尽な説明を受け、「借家権消滅希望申出書」のサインを求められました。私は長年店舗を賃借して運営してきましたので、借家権者が保護されることは知っています。あまりにも理不尽な説明なので突っぱねていれば良いと思って、ある時から書類の受け取りなどの対応を拒否するようになりました。納得できる条件が出るまで拒否しようと思います。このような交渉方針のままで良いでしょうか。

回答:

1、準備組合や本組合からの書類の受け取りを拒否するという対応を改め、自分の主張を伝えて交渉する必要があります。おっしゃるような交渉方針は、家主と借家人の間の「借地借家法の正当事由」が問題となっている事案であれば、ある程度通用する方式かも知れません。借家人の権利は借地借家法で守られており、建物賃貸借契約の更新拒絶や解除は、賃貸人側からの相当な退去費用の提示など「正当事由(いわゆる立退料の提示を含む)」を具備することが要件とされているからです。正当事由の立証責任は家主・賃貸人側にあります。

2、しかし、都市再開発法が適用される第一種市街地再開発事業は法律構成が異なります。従来の賃貸人と賃借人の民間私人同士の法律問題とは異なり、都再法の手続きは公益目的を実現するための「都市計画事業」となっています。区域内住民により組織される「再開発準備組合」の発議による都市計画案の提出があり、学識経験者による「都市計画審議会」を経て、都知事や県知事などの「市街地再開発事業の都市計画決定」を経て、従前の土地建物の権利が移動したり消滅したりする「権利変換」が行われる、複雑な手続きとなっています。この手続きの内容を理解しないと、思わぬ結果に至ってしまう場合があります。

3、再開発とは若干異なる場面ですが、公益事業である東京湾横断道路の建設に際して不法占拠者に対する断行仮処分が認められた判例がありますので、御紹介します。納得できないからといってやみくもに書類の受け取りを拒否したり、法的な反論をしなかったりしていると、結局は再開発組合の主張が通ってしまい、強制執行による立ち退きを余儀なくされてしまうリスクがあります。再開発手続きに関して納得できない事情がある場合は、都再法の手続きに精通した弁護士に相談し、一緒に証拠資料を整理した上で適切な法的主張を行っていくことが必要です。

解説:

1、借地借家法が適用される通常の立ち退き

建物賃貸借契約に基づいて店舗用建物を賃借し、賃料を継続的に支払って営業している場合、この契約を当事者間で「更新拒絶」したり「解除」したりするためには、借地借家法の要件を満たす必要があります。賃貸人側からの退去要求は、一方的な手紙などで簡単に進めることができません。賃貸人から「更新拒絶通知」や「賃貸契約解除通知」を送ったとしても、それが法的に有効かどうかは別問題となり、実際に強制執行で明け渡しを実現するには、最終的には裁判所の確定判決を得る必要があるのです。賃貸人にも事情はあるかもしれませんが、賃借人にも建物を現に占有し、営業し、ビジネスを継続しているという事情があるからです。建物は、人の生活やビジネスの本拠となる重要な資産ですから、これを借り受ける権利である借家権も法的な保護に値すると考えられているのです。

借地借家法第27条第1項は「建物の賃貸人が賃貸借の解約の申入れをした場合においては、建物の賃貸借は、解約の申入れの日から六月を経過することによって終了する。」と規定していますが、賃貸人からの解約申し入れについて、借地借家法第28条は「正当事由」が必要であると規定しています。

借地借家法第28条を引用します。

『(建物賃貸借契約の更新拒絶等の要件)

第二十八条 建物の賃貸人による第二十六条第一項の通知又は建物の賃貸借の解約の申入れは、建物の賃貸人及び賃借人(転借人を含む。以下この条において同じ。)が建物の使用を必要とする事情のほか、建物の賃貸借に関する従前の経過、建物の利用状況及び建物の現況並びに建物の賃貸人が建物の明渡しの条件として又は建物の明渡しと引換えに建物の賃借人に対して財産上の給付をする旨の申出をした場合におけるその申出を考慮して、正当の事由があると認められる場合でなければ、することができない。』

正当な事由の判断要素としては、

賃貸人側の事情として、「賃貸人自身の建物使用の必要性(契約締結時から現在までの事情変更)」、「建物の老朽化による建て替えの必要性」、「法改正等による容積率緩和を活用して建物の敷地の有効利用の必要性」、「相続や債務整理などで売却(現金化)の必要があること」などが考えられ、

賃借人側の事情として、「賃借人自身の建物使用の必要性(契約締結時から事情が変化していないこと)」、「転居した場合の事業の継続可能性(継続困難性)」、「立退き料の提供を受けていること(現実の移転費用に不足は無いか)」などが考えられ、それらの要素を裁判所が総合的に判断することになります。

賃貸人と賃借人双方の建物利用の必要性や、建物老朽化による大地震による倒壊の危険性などは、主に相対的な事情となりますので、正当事由を補完するための立ち退き費用(金銭条件)の提供の有無やその提案内容が問題となります。具体的には、実際の転居に必要となる引っ越し費用や、転居に伴って商業変更登記申請が必要になったり、転居ハガキなどを送ったり、転居に伴って営業が一時的に減少してしまう得意先喪失補償などの営業補償、新しい転居先を借りるのに必要な賃料差額や賃借経費、借家権の価値を観念できる場合は借家権価格、入居時に権利金を差し入れている場合はその償却残などが考慮に入ることになります。借家権価格は、様々な事情が影響して形成される複雑な性質がありますので一義的に決めることが難しい場合もあり、賃貸人と賃借人双方が不動産鑑定士の借家権価格鑑定書を提出して争う場合もあります。

このような借地借家法の正当事由の有無という問題の成否を決める場合には、簡易裁判所の宅地建物調停や、地方裁判所の建物明け渡し請求訴訟などの民事訴訟を経ることが必要であり、通常は1年以上の期間を要する手続きとなります。第一審判決が出ても、高等裁判所に控訴審を申し立てることが出来ますし、最高裁判所に上告できる場合もあります。

簡易裁判所の宅地建物調停であれば、建築士や弁護士などの専門知識を有する調停委員が話し合いの仲介をして下さいますし、民事訴訟の場合は、原告側(家主側)に更新拒絶意思表示に正当事由があることの立証責任(通常人が疑いを差し挟まない程度の高度の蓋然性と言われる証明の程度に至らなければ敗訴するリスク)がありますので、請求棄却を求める答弁書を提出する必要はありますが、賃借人側として、ある程度、受け身の対応でも問題が少ない場合もあります。ご相談者様がお考えになっている対応方法でも大きな不利益を被らずに済む場合があります。

2、都市再開発法に基づく明け渡し請求

しかし、都市再開発法に基づく、組合からの明け渡し請求は、上記の借地借家法が適用される家主からの明け渡し請求とは根本的に構造が異なるものになります。

(1)都市計画事業

都市再開発法による区域内一括建て替えの手続きは、都市計画法上の「都市計画事業」として施行されます(都再法6条1項)。これは簡単に言えば、土地収用法の強制収用手続きを援用し得る手続きということになります(都市計画法69条)。少し長くなりますが条文も引用します。

都市再開発法6条(都市計画事業として施行する市街地再開発事業)

1項 市街地再開発事業の施行区域内においては、市街地再開発事業は、都市計画事業として施行する。

都市計画法69条(都市計画事業のための土地等の収用又は使用) 都市計画事業については、これを土地収用法第三条各号の一に規定する事業に該当するものとみなし、同法の規定を適用する。

土地収用法

第1条(この法律の目的)この法律は、公共の利益となる事業に必要な土地等の収用又は使用に関し、その要件、手続及び効果並びにこれに伴う損失の補償等について規定し、公共の利益の増進と私有財産との調整を図り、もつて国土の適正且つ合理的な利用に寄与することを目的とする。

第2条(土地の収用又は使用)公共の利益となる事業の用に供するため土地を必要とする場合において、その土地を当該事業の用に供することが土地の利用上適正且つ合理的であるときは、この法律の定めるところにより、これを収用し、又は使用することができる。

第3条(抜粋)(土地を収用し、又は使用することができる事業)土地を収用し、又は使用することができる公共の利益となる事業は、次の各号のいずれかに該当するものに関する事業でなければならない。

一 道路法(昭和二十七年法律第百八十号)による道路、道路運送法(昭和二十六年法律第百八十三号)による一般自動車道若しくは専用自動車道(同法による一般旅客自動車運送事業又は貨物自動車運送事業法(平成元年法律第八十三号)による一般貨物自動車運送事業の用に供するものに限る。)又は駐車場法(昭和三十二年法律第百六号)による路外駐車場

二 河川法(昭和三十九年法律第百六十七号)が適用され、若しくは準用される河川その他公共の利害に関係のある河川又はこれらの河川に治水若しくは利水の目的をもつて設置する堤防、護岸、ダム、水路、貯水池その他の施設

三 砂防法(明治三十年法律第二十九号)による砂防設備又は同法が準用される砂防のための施設

四 運河法(大正二年法律第十六号)による運河の用に供する施設

五 国、地方公共団体、土地改良区(土地改良区連合を含む。以下同じ。)又は独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構が設置する農業用道路、用水路、排水路、海岸堤防、かんがい用若しくは農作物の災害防止用のため池又は防風林その他これに準ずる施設

六 国、都道府県又は土地改良区が土地改良法(昭和二十四年法律第百九十五号)によつて行う客土事業又は土地改良事業の施行に伴い設置する用排水機若しくは地下水源の利用に関する設備

七 鉄道事業法(昭和六十一年法律第九十二号)による鉄道事業者又は索道事業者がその鉄道事業又は索道事業で一般の需要に応ずるものの用に供する施設

七の二 独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構が設置する鉄道又は軌道の用に供する施設

八 軌道法(大正十年法律第七十六号)による軌道又は同法が準用される無軌条電車の用に供する施設

八の二 石油パイプライン事業法(昭和四十七年法律第百五号)による石油パイプライン事業の用に供する施設

九 道路運送法による一般乗合旅客自動車運送事業(路線を定めて定期に運行する自動車により乗合旅客の運送を行うものに限る。)又は貨物自動車運送事業法による一般貨物自動車運送事業(特別積合せ貨物運送をするものに限る。)の用に供する施設

九の二 自動車ターミナル法(昭和三十四年法律第百三十六号)第三条の許可を受けて経営する自動車ターミナル事業の用に供する施設

十 港湾法(昭和二十五年法律第二百十八号)による港湾施設又は漁港漁場整備法(昭和二十五年法律第百三十七号)による漁港施設

十一 航路標識法(昭和二十四年法律第九十九号)による航路標識又は水路業務法(昭和二十五年法律第百二号)による水路測量標

十二 航空法(昭和二十七年法律第二百三十一号)による飛行場又は航空保安施設で公共の用に供するもの

要するに、堤防やダムや道路や飛行場や電車の線路など、公益上どうしても必要な施設を整備するために認められた強制収用の手続きと同じカテゴリーに属する事業として都市再開発法の手続きが整備されているのです。民間対民間の請求権の存否に関する事件とは根本的に構造が異なることを理解する必要があります。

(2)行政代執行

実際に適用されることは稀ですが、都市再開発法98条2項では、行政代執行による行政庁の強制的な明け渡しの実施が可能であることが規定されています。

都再法98条(土地若しくは物件の引渡し又は物件の移転の代行及び代執行)

第2項 第九十六条第三項の場合において土地若しくは物件を引き渡し、又は物件を移転すべき者がその義務を履行しないとき、履行しても十分でないとき、又は履行しても明渡しの期限までに完了する見込みがないときは、都道府県知事等は、施行者の請求により、行政代執行法(昭和二十三年法律第四十三号)の定めるところに従い、自ら義務者のなすべき行為をし、又は第三者をしてこれをさせることができる。

行政代執行法第2条 法律(法律の委任に基く命令、規則及び条例を含む。以下同じ。)により直接に命ぜられ、又は法律に基き行政庁により命ぜられた行為(他人が代つてなすことのできる行為に限る。)について義務者がこれを履行しない場合、他の手段によつてその履行を確保することが困難であり、且つその不履行を放置することが著しく公益に反すると認められるときは、当該行政庁は、自ら義務者のなすべき行為をなし、又は第三者をしてこれをなさしめ、その費用を義務者から徴収することができる。

これは裁判所の確定判決や強制執行などの手続きを経ずに、行政庁が直接、実力で明け渡しを実現するという手続であり、極めて強力な権限が行政庁に与えられていることになります。警察官(警察官も行政権に属する公務員です)が現行犯人を逮捕するのと少し似ていますが、行政庁が行政権(行政サービス)の行使として実力を用いることがあるということなのです。法令を運用し市民の生命身体財産の安全を守るという行政権の行使そのものに、その一部に、実力行使が含まれている(含まれ得る)と考えることができます。行政権に関する、日々発生する多数の全ての物事の可否に裁判所の判断が必要であるということになってしまうと却って行政権を機能させることが出来なくなってしまうからです。

行政庁が裁判手続きを経ずに実力で代執行するというのは、例えば、建築基準法違反で隣地や道路に対して倒壊する恐れのある危険な建物を撤去したり、相続人不明の老朽化した空き家がゴミ捨て場の状態になっており不審火などの危険がある場合に撤去したり、道路に掛かって通行の妨げとなる違法建築物を撤去するなどの行為が考えられます。

都市再開発法の手続きにおいては、行政代執行の執行者は都道府県知事ですから、市街地再開発組合からの請求があればこれを審査して代執行としての明け渡しを実施する可能性があることになります。都市計画事業として施行される第一種市街地再開発事業には、このような強力な権限が与えられているということを理解する必要があります。

(3)都市再開発法の手続き

但し、この都市計画事業を進行させるために、都市再開発法では、都市計画法の都市計画審議会を経た都市計画決定と、再開発組合の総会決議と、権利変換計画の縦覧手続きと、審査委員の同意手続きが要求されています。勿論、権利変換計画は、都再法73条から82条までの法令要件を満たす必要があります。

都市計画法77条(都道府県都市計画審議会)

1 この法律によりその権限に属させられた事項を調査審議させ、及び都道府県知事の諮問に応じ都市計画に関する事項を調査審議させるため、都道府県に、都道府県都市計画審議会を置く。

2 都道府県都市計画審議会は、都市計画に関する事項について、関係行政機関に建議することができる。

3 都道府県都市計画審議会の組織及び運営に関し必要な事項は、政令で定める基準に従い、都道府県の条例で定める。

第18条(都道府県の都市計画の決定)

1 都道府県は、関係市町村の意見を聴き、かつ、都道府県都市計画審議会の議を経て、都市計画を決定するものとする。

2 都道府県は、前項の規定により都市計画の案を都道府県都市計画審議会に付議しようとするときは、第十七条第二項の規定により提出された意見書の要旨を都道府県都市計画審議会に提出しなければならない。

3 都道府県は、国の利害に重大な関係がある政令で定める都市計画の決定をしようとするときは、あらかじめ、国土交通省令で定めるところにより、国土交通大臣に協議し、その同意を得なければならない。

4 国土交通大臣は、国の利害との調整を図る観点から、前項の協議を行うものとする。

都市再開発法

第43条(審査委員)

1 組合に、この法律及び定款で定める権限を行なわせるため、審査委員三人以上を置く。

2 審査委員は、土地及び建物の権利関係又は評価について特別の知識経験を有し、かつ、公正な判断をすることができる者のうちから総会で選任する。

3 前二項に規定するもののほか、審査委員に関し必要な事項は、政令で定める。

第84条(審査委員及び市街地再開発審査会の関与)

1 施行者は、権利変換計画を定め、又は変更しようとするとき(政令で定める軽微な変更をしようとする場合を除く。)は、審査委員の過半数の同意を得、又は市街地再開発審査会の議決を経なければならない。この場合においては、第七十九条第二項後段の規定を準用する。

2 前項の規定は、前条第二項の意見書の提出があつた場合において、その採否を決定するときに準用する。

第32条(総会の議事等)

1 総会は、総組合員の半数以上の出席がなければ議事を開くことができず、その議事は、この法律に特別の定めがある場合を除くほか、出席者の議決権の過半数で決し、可否同数のときは、議長の決するところによる。

2 議長は、総会において選任する。

3 議長は、組合員として総会の議決に加わることができない。ただし、次条の規定による議決については、この限りでない。

4 総会においては、前条第八項の規定によりあらかじめ通知した会議の目的である事項についてのみ議決することができる。

第33条(特別の議決) 特別決議事項(第三十条第一号及び第三号に掲げる事項のうち政令で定める重要な事項並びに同条第九号から第十一号までに掲げる事項をいう。以下同じ。)は、総組合員の三分の二以上が出席し、出席者の議決権の三分の二以上で、かつ、施行地区内の宅地について所有権を有する出席者の議決権及び施行地区内の宅地について借地権を有する出席者の議決権のそれぞれの三分の二以上で決する。この場合においては、その有する議決権を当該特別決議事項に同意するものとして行使した者(以下この条において「同意者」という。)が所有する施行地区内の宅地の地積と同意者の施行地区内の借地の地積との合計(第二十条第二項ただし書の場合にあつては、施行地区内の宅地の地積に同意者が有する当該宅地の所有権の共有持分の割合の合計を乗じて得た面積)が、施行地区内の宅地の総地積と借地の総地積との合計の三分の二(同項ただし書の場合にあつては、施行地区内の宅地の総地積の三分の二)以上でなければならない。

これらの手続きのそれぞれの段階において、組合側の手続きミスや違法行為が無かったかどうか、チェックする必要があります。行政行為は全て法律の根拠に基づき適法に施行されなければならないという、法律に基づく行政の原理(法律の留保の原理)は、都市再開発法の手続きにも当てはまります。組合設立認可基準を定める都再法17条1号と2号には、適法性要件が定められていますが、この原理は、当然、全ての都市再開発法の手続きの段階で必要な要件なのです。

都再法17条(認可の基準) 都道府県知事は、第十一条第一項から第三項までの規定による認可の申請があつた場合において、次の各号のいずれにも該当しないと認めるときは、その認可をしなければならない。

一 申請手続が法令に違反していること。

二 定款又は事業計画若しくは事業基本方針の決定手続又は内容が法令(事業計画の内容にあつては、前条第三項に規定する都道府県知事の命令を含む。)に違反していること。

三 事業計画又は事業基本方針の内容が当該第一種市街地再開発事業に関する都市計画に適合せず、又は事業施行期間が適切でないこと。

四 当該第一種市街地再開発事業を遂行するために必要な経済的基礎及びこれを的確に遂行するために必要なその他の能力が十分でないこと。

(4)組合からの明け渡し請求

都市再開発法では、次のようなステップで手続きが進み、最後に組合からの「明け渡し請求通知」が発行されることになります(都再法96条1項)。

・都市計画審議会を経た市街地再開発事業の都市計画決定(都再法7条)

・再開発組合の設立認可申請及び事業計画認可申請(都再法11条1項)

・権利変換計画の承認決議(都再法32条)

・権利変換計画に対する審査委員の同意(都再法84条)

・権利変換計画の縦覧および意見書採択手続(都再法83条)

・権利変換計画の認可申請(都再法72条)

・権利変換計画の認可公告および通知(都再法86条)

・通常損失補償協議(都再法97条)

・通常損失補償の供託(都再法92条)

・明け渡し請求通知(都再法96条)

都市再開発法第96条(土地の明渡し)

1 施行者は、権利変換期日後第一種市街地再開発事業に係る工事のため必要があるときは、施行地区内の土地又は当該土地に存する物件を占有している者に対し、期限を定めて、土地の明渡しを求めることができる。ただし、第九十五条の規定により従前指定宅地であつた土地を占有している者又は当該土地に存する物件を占有している者に対しては、第百条第一項の規定による通知をするまでは、土地の明渡しを求めることができない。

2 前項の規定による明渡しの期限は、同項の請求をした日の翌日から起算して三十日を経過した後の日でなければならない。

3 第一項の規定による明渡しの請求があつた土地(従前指定宅地であつた土地を除く。)又は当該土地に存する物件を占有している者は、明渡しの期限までに、施行者に土地若しくは物件を引き渡し、又は物件を移転しなければならない。ただし、第九十一条第一項又は次条第三項の規定による支払がないときは、この限りでない。

4 第一項の規定による明渡しの請求があつた土地(従前指定宅地であつた土地に限る。)又は当該土地に存する物件を占有している者は、明渡しの期限までに、施行者に土地を引き渡し、又は物件を移転し、若しくは除却しなければならない。ただし、次条第三項の規定による支払がないときは、この限りでない。

5 第九十五条の規定により建築物を占有する者が施行者に当該建築物を引き渡す場合において、当該建築物に、第六十六条第七項の承認を受けないで改築、増築若しくは大修繕が行われ、又は物件が付加増置された部分があるときは、第八十七条第二項の規定により当該建築物の所有権を失つた者は、当該部分又は物件を除却して、これを取得することができる。

6 第一項に規定する処分については、行政手続法第三章の規定は、適用しない。

このような手続きを経て再開発組合の理事長名義で明け渡し請求通知が発行されます。都再法96条6項に「第一項に規定する処分」とあるように、組合からの明け渡し請求は行政処分としての性質を有すると解され、行政不服審査法に基づく審査請求の対象となっています。行政処分の取り消し訴訟を提起することもできます。都市再開発法6条で再開発事業が都市計画事業として施行されることが定められており、再開発組合は、その施行者として認可されているので、都市計画事業の施行者として明け渡し請求の不利益処分としての行政処分を為し得ると解されているのです。

従って、この明け渡し請求については、通常の家主からの明け渡し請求と同じように考えることはできません。借地借家法の手続きと同じように考えていると思わぬ結果になってしまうこともあります。組合からの明け渡し請求が公益目的を実現するための行政処分としての性質を有することを理解した上で、手続きの瑕疵や違法性を争っていく必要があるのです。

3、判例紹介

再開発組合からの明け渡し請求に関して、民事保全法23条2項の仮地位仮処分の一種で、「明け渡し断行仮処分」の申立てがなされることがあります。この手続きにおいて、申し立てられた相手方(債務者といいます)の態度について、先例がありますので御紹介致します。

※千葉地裁平成8年6月10日決定

『第二 当裁判所の判断

一 被保全権利及び保全の高度の必要性について

本件の被保全権利及び仮の地位を定める仮処分に要求される保全の高度の必要性については、疎甲号各証により、疎明があるものと認める。

二 債務者審尋期日を指定しなかったことについて

1 次の(一)及び(二)の各事実は、当裁判所に顕著である。

(一) 債権者は、本件に先立ち、本件債務者、N興業株式会社ほか一名を債務者として別紙物件目録五記載の建物(以下「本件建物」という。)について処分禁止の仮処分及び占有移転禁止の仮処分を申し立て(当庁平成七年ョ第四八六号事件)、申立てのとおり仮処分決定がなされた。右決定正本はN興業株式会社には送達されたが、債務者に対しては、平成七年一二月二五日以降数度にわたり特別送達及び執行官送達が試みられたものの、いずれも不在のため不奏効に終わった。しかし、債務者の外国人登録上の住所は「千葉県木更津市○○○」とされているところ、これが変更された形跡は窺われないし、右仮処分決定正本の送達のため訪れた執行官に対し、送達場所である右住所地の建物の階下にあるN興業株式会社の従業員が、「債務者は海外旅行中である」あるいは「東京の別宅に出向いている」旨の陳述をし、債務者が右住所地に居住していることを否定していない(なお、債務者は、N興業株式会社の役員には就任していないが、右会社を含む「N興業グループ」の代表取締役である旨を表示した名刺を使用している。)ことなどから、平成八年四月一日、民事保全法第七条、民事訴訟法第一七二条により、書留郵便に付する送達が行われた。

(二) また、債権者は、右仮処分命令の申し立てと同時に、本件債務者を債務者として本件と同趣旨の処分(代替執行費用支払いを除く。)を内容とする建物収去土地明渡仮処分命令を申し立てた(当庁平成七年ョ第四八五号事件)。右事件については、当事者双方の審尋期日が平成八年一月一八日午後一時三〇分と定められたものの、債務者に対する審尋期日の呼出状、答弁書催告状、申立書副本及び疎明資料の写し等の送達が前記仮処分決定正本と同様の経過により不奏効に終わったため、期日変更、延期を余儀なくされ、同年三月一九日午後二時の審尋期日呼出状等の送達については、同月五日書留郵便に付する送達が行われた。そして、同月一九日の債務者不出頭の審尋期日において、債権者は本決定主文第二項第1項に当たる部分(いわゆる授権決定)の申立てを取り下げ、同月二八日本決定主文第一項に当たる部分につき仮処分決定がなされ、債務者に対する右決定正本の特別送達も不奏効に終わったため、右決定正本についても、同年四月一八日書留郵便に付する送達が行われた(なお、右仮処分決定は執行に至らず、同年六月四日仮処分命令申立てが取り下げられた。)。

2 また、疎甲号各証によれば、債権者は、平成四年六月ころ以降、債務者との間で別紙物件目録一ないし四の土地明渡しの交渉を重ねてきたが、債務者は、任意の明渡しに応じないばかりか、平成七年一一月六日の話し合いの席では、書類を受け取らないことで時間稼ぎをする趣旨の発言をし、同月八日には、建設省関東地方建設局千葉国道工事事務所長が発した同月七日付け明渡催告書の受領を拒否していること、平成八年三月一二日には、債務者の代理人と称する内藤某が、債権者の担当者に対し、裁判には出席しないし裁判所からの書類は一切受け取らない旨公言していること等の各事実が認められる(〈証拠略〉)。

3 右の事実関係によると、債務者が、裁判所からの書類の受領を拒絶して手続の進行を遅延させる意図を有していることは明らかである。そして、前記1(二)のとおり、本件と同趣旨の処分(代替執行費用支払いを除く。)を内容とする仮処分命令申立ての審理に関し、債務者に審尋期日への出頭と防御の機会が十分に与えられたことを考慮すれば、本件申立ての内容について債務者が意見を述べる機会は既にあったものと認めるのが相当である。したがって、本件申立てについて債務者審尋期日を指定することはしない。

三 代替執行費用支払いについて

債権者は、平成八年六月五日付け申立書により、本件建物収去等の代替執行費用支払いの申立てをなしているところ、右費用支払いは本決定主文第一項及び第二項第1項所定の仮処分命令の申立ての目的を達するために必要な処分と認めることができる。そして、債権者提出の見積書等から右費用を算定するに、金三一六七万一四七〇円を認めるのが相当である。

四 結論

以上によれば、本件申立ては理由があるので、債権者に金二三〇〇万円の担保(千葉地方法務局平成八年度金第五七六号)を立てさせて、これを認容し、申立費用については民事保全法第七条、民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり決定する。』

この事例では、債務者が処分禁止の仮処分及び占有移転禁止の仮処分の決定書の送達に際して債務者法人の従業員が「債務者は海外旅行中である」あるいは「東京の別宅に出向いている」旨の陳述をし、また、債権者担当者との協議において、書類を受け取らないことで時間稼ぎをする趣旨の発言をしたり、建設省関東地方建設局千葉国道工事事務所長が発した明渡催告書の受領を拒否したり、債務者の代理人と称する者が、債権者の担当者に対し、裁判には出席しないし裁判所からの書類は一切受け取らない旨公言していること等の各事実が認められ、「裁判所からの書類の受領を拒絶して手続の進行を遅延させる意図を有していることは明らかである」という事実認定がなされた特殊な事案でした。行政庁からの明け渡しの処分に対して、その手続きの瑕疵を争うとか適法性に異議を述べるなどの態度ではなく、ただひたすら、「書類受け取り拒否」「回答拒否」などの消極的な態度を取り続けた事案でした。

このように、債務者自ら、被保全権利の存否や、民事保全法上の保全の必要性の疎明について主張や反論などを一切放棄しているような事案においては、債務者自ら裁判を受ける権利を事実上放棄していると評価することもできるのであり、民事保全法23条4項「第二項の仮処分命令は、口頭弁論又は債務者が立ち会うことができる審尋の期日を経なければ、これを発することができない。ただし、その期日を経ることにより仮処分命令の申立ての目的を達することができない事情があるときは、この限りでない。」の例外に当たるものと解釈されてしまう可能性があります。

断行仮処分を申し立てられてしまった場合、あるいは申し立てられようとしている場合には、書類の受け取りを拒否し続けるなどの消極的な態度を取り続けるよりも、むしろ、占有者として、正々堂々と、再開発手続きの瑕疵について法的な主張を行っていく必要があるのです。全ての書類を適切な時期に受領し、異議申し立てできる場合は期限内に異議申し立てを行い、法的に争っていく態度を示すことが必要なのです。その場合は、闇雲に不当だなどと主張するのではなく、具体的な証拠資料を提示した上で、具体的にどの法律の何条に違反しているのか、どうして違反しているのか、具体的な法律の適用の可否について主張する必要があります。

3、さいごに

以上のように、建物賃貸借契約に基づいて建物を賃借して営業継続しているとしても、区域内一帯の再開発手続きが進行している場合には、通常の賃貸借契約の貸主と借主の関係の法律問題とは異なり、公益事業である市街地再開発事業の適法性や手続きの瑕疵があるかどうか、という問題について主張していくことが必要になりますので、ただ単に組合からの連絡を拒否しているだけの対応では御自身の権利を実現することが難しくなってしまう恐れがあります。再開発手続きに経験のある弁護士事務所に御相談なさり、どのような点が不満なのか、どうして立ち退きに応じることが出来ないのか、疑問点をぶつけてみると良いでしょう。手続きの瑕疵は、次のようなものが考えられます。思い当たる事情がないかどうか、検討なさってみてください。

(1)組合担当者から再入居家賃が倍以上になると嘘をつかれた。虚偽説明があった。

(2)組合担当者から不当な強要を受けた。応じないと不利益があると強迫を受けた。

(3)参加組合員と建築施工業者が癒着している。

(4)再開発組合理事長や理事など一部の組合員だけが過剰に利益を得ている。不公平な取り扱いがある。

(5)自分以外の借家人が全員「借家権消滅希望申出書」を提出し退去している。借家人が誰も再入居しないのはおかしいのではないか。

(6)都再法97条通損補償の提示額が、実際の転居の損失に到底不足している。その提示額を受領して実際に転居したら会社が倒産してしまう。

(7)組合から提示された仮店舗費用では実際に借りられる物件が存在しない。組合から提示された仮店舗物件では現在の集客を到底維持できない。このまま転居したら店舗が潰れてしまう。

(8)モデル権利変換で示された床面積が現在の半分近くまで減少しており、再入居後に事業を継続することが著しく困難である。

(9)権利変換される店舗の位置が、現在の1階角地から2階や3階に移動され、店舗を継続できる自信が持てない。

(10)権利変換の同意書を提出しないと通損補償金を受領できないと言われた。権利変換の同意書提出が何らかの条件に掛けられていた。

これらの事情を詳細に検討し、弁護士から見ても、誰から見てもその手続きは問題があると考えられるような場合には、たとえ断行仮処分を申し立てられたとしても恐れることは有りません。正当な主張を堂々と裁判所に提出し、公平な判断を仰げば良いのです。

以上です。

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参照条文
《参考条文》

○都市再開発法

第97条(土地の明渡しに伴う損失補償)

1 施行者は、前条の規定による土地若しくは物件の引渡し又は物件の移転により同条第一項の土地の占有者及び物件に関し権利を有する者が通常受ける損失を補償しなければならない。

2 前項の規定による損失の補償額については、施行者と前条第一項の土地の占有者又は物件に関し権利を有する者とが協議しなければならない。

3 施行者は、前条第二項の明渡しの期限までに第一項の規定による補償額を支払わなければならない。この場合において、その期限までに前項の協議が成立していないときは、審査委員の過半数の同意を得、又は市街地再開発審査会の議決を経て定めた金額を支払わなければならないものとし、その議決については、第七十九条第二項後段の規定を準用する。

4 第二項の規定による協議が成立しないときは、施行者又は損失を受けた者は、収用委員会に土地収用法第九十四条第二項の規定による補償額の裁決を申請することができる。

5 第八十五条第二項及び第三項、第九十一条第二項及び第三項、第九十二条並びに第九十三条の規定は、第二項の規定による損失の補償について準用する。