使用貸借権の権利変換について

都市再開発法|使用貸借権の権利主張|対策、方法

目次

  1. 質問
  2. 回答
  3. 解説
  4. 関連事例集

質問

再開発区域内の駅前建物を祖父より借り受けて住んでおります。祖父と孫の関係なので家賃は免除されております。この度、駅前再開発の話が進行し、再開発組合が設立されることになったと聞きました。それで、近隣住戸も含めて再入居とか立ち退きの補償の話が出ているのですが、組合担当者によると「あなたの権利は賃借権(借家権)じゃないので保護されないから権利変換されない、補償も引越代に限られる」と言われてしまいました。確かに家賃は払ってませんが、固定資産税や管理費は負担しており、もう10年近く住んでいるので、この場所に愛着もあります。本当に再入居はできないのでしょうか。補償は受けられないのでしょうか。



回答

1、再開発組合が設立されることになったということですので、都市再開発法に依る再開発、立ち退き、保障という問題となりますが、都市再開発法で保護される借家権は、借地借家法が適用される通常の建物賃借権であり、親族間などで無償居住させてもらっている、いわゆる「使用貸借権」は含まれていません。都市再開発法73条で権利変換される(再開発ビルに再入居)対象にはならないのが原則となります。

2、しかし、当事者間の法律関係が使用貸借なのか賃貸借なのかは、簡単に決められる問題ではありません。実務上は、物件調書作成時に組合から建物所有者に問い合わせを行い、賃貸借契約書の写しを含めた建物賃借権の届出がなければ、借家権者とはみなされない取り扱いが多いようです。物件調書の作成が終わっていないのであれば、建物所有者(祖父)の協力を得て低額賃料の賃借権として届出すべきであり、物件調書の作成が終わっていても、建物所有者と物件占有者が共同して組合に権利の届出を行うべきです。契約書が作成されていなくても、賃借権としての届出ができれば、権利変換の対象となり、再入居することができることになります。

3、明け渡しの補償に関しても、使用貸借権だからと言って一律に極めて低額の補償になってしまうとは限りません。使用貸借権でも、都市再開発法の権利変換期日までは正当に居住できる権利があり、都市再開発法96条1項により明け渡しを求められる立場であることに変わりは無く、都市再開発法97条のいわゆる「通常損失補償」を受けることができます。これは用地対策連絡会基準、いわゆる「用対連基準」によって算定されることが多いのですが、使用貸借権が賃借権に対する割合的評価の対象となる可能性がありますので精査が必要です。

4、関連事例集1822番ほか


解説

1、市街地再開発事業

市街地再開発事業は、都市部の土地高度利用(国民経済の発展)や、建物の不燃化や耐震化など、公共目的を推進するために、建物の建て替えや明け渡しについて一括処理を可能とする権利変換という特例を認めた都市再開発法によるビルの建て替え手続です。

都市再開発法第1条(目的) 
この法律は、市街地の計画的な再開発に関し必要な事項を定めることにより、都市における土地の合理的かつ健全な高度利用と都市機能の更新とを図り、もつて公共の福祉に寄与することを目的とする。

木造家屋の密集区域を鉄骨鉄筋コンクリート造の建物などの耐震不燃建物に建て替えることにより、建物の不燃化と耐震性向上を図ることができ、都市の防災機能を向上させることができます。建物の防災機能が向上することにより、当該建物の所有者や賃借人だけでなく、当該建物の周りの建物の所有者や賃借人の安全性も向上することになります。床面積の増大により人口過密地区を解消したり、上下水道の整備を促進できれば、伝染病の防疫など公衆衛生の向上に役立ちます。商業区域においては、高層ビルの建設により床面積が増加すれば商業機能を高めることにより、土地の高度利用による国民経済の振興というメリットを享受することもできます。当該建物の商業機能が高まったことの相乗効果により、街の賑わいが増大すれば、当該建物の周りの建物の所有者や賃借人も商業機能が高まったメリットを享受することができます。

土地建物は私有財産ですが、特に市街地においては単独で存在しているものではなく、区域一帯の中で隣地と共に存在し利用されており、ひとつの建物が倒壊したり火災になってしまうと、延焼類焼などにより周りの住人にも被害を巻き込んでしまうおそれがありますし、区域一帯が商業ビジネスで発展しているときに一区画の地主だけが反対してビルの建て替えができないことになってしまうと区域全体の経済発展が阻害されてしまいます。

そこで、市街地の木造家屋密集地区を中心に、行政による「再開発促進区」の都市計画決定(有識者等による都市計画審議会の議決)などを条件として、区域一帯の一括建て替えを促進する都市再開発法の権利変換手続が整備されることになったのです。自分が所有・賃借している土地建物だからと言って、公益性のある周辺一帯の建て替え手続に反対し続けることはできない仕組みになっているのです。

権利変換手続の概要を示します。

(1)区域一帯の地権者5名以上で再開発組合の設立を準備する任意団体を設立する(市街地再開発勉強会、再開発協議会、再開発準備組合など)

(2)参加組合員予定者となる不動産デベロッパーなどと協力し、行政協議を経て、都市計画審議会が審議する「再開発促進区」「市街地再開発事業」の原案を取りまとめる。

(3)都市計画の行政決定後に、再開発事業計画案と、再開発組合の定款など規約類を用意して、準備組合総会において、再開発組合設立認可申請を行う決議を行い、都道府県知事に対して本組合設立認可申請を行う。

(4)設立認可申請書類一式の審査を経て、市区町村が事業計画の縦覧を2週間行い、意見書の提出を募集する。意見書の審査を経て、事業計画と組合設立の認可公告がなされる。

(5)組合内において住戸選定会などを経て、権利変換計画の原案を作成し、2週間の縦覧を行い、意見書の提出を募集する。意見書の審査を経て、権利変換計画の認可申請を行う。

(6)行政の審査を経て、権利変換計画認可公告がなされる。通常、権利変換期日は認可公告の1~4週間後の期日が指定される。

2、権利変換期日における権利の消長と明け渡し

再開発区域内の建物に関する占有権限(所有権、借家権)は、権利変換計画に従い、権利変換期日に全て消滅し、建物所有権は再開発組合(市街地再開発事業の施行者)に移行し、全ての占有者は、明け渡しに伴う転居費用など損失補償の提供を受けて、ビルの建て替え期間の立退きをすべきことが法定されています。権利変換計画書には、従前建物の土地建物の特定と評価額が記載され、これに対応して割り当てられる(権利変換される)建て替え後の建物の面積と評価額と、敷地利用権の特定と評価額が記載されます。

※権利変換の書式はこちらを参照下さい(都市再開発法施行規則別記様式第10)。
https://www.shinginza.com/kenrihenkan.pdf
都市再開発法第87条(権利変換期日における権利の変換)
第1項 施行地区内の土地は、権利変換期日において、権利変換計画の定めるところに従い、新たに所有者となるべき者に帰属する。この場合において、従前の土地を目的とする所有権以外の権利は、この法律に別段の定めがあるものを除き、消滅する。
第2項 権利変換期日において、施行地区内の土地(指定宅地を除く。)に権原に基づき建築物を所有する者の当該建築物は、施行者に帰属し、当該建築物を目的とする所有権以外の権利は、この法律に別段の定めがあるものを除き、消滅する。ただし、第六十六条第七項の承認を受けないで新築された建築物及び施行地区外に移転すべき旨の第七十一条第一項の申出があつた建築物については、この限りでない。

権利変換期日に、建物所有権は従前大家から再開発組合に移転し、建物賃借権や使用貸借権は消滅することになります(都市再開発法87条2項)。

建物所有権が再開発組合に移転し建物賃借権が消滅すると、従前所有者や賃借人は建物を占有し続ける法律上の根拠を失いますが、都市再開発法では、組合からの明け渡し請求を受けるまでは引き続き占有継続することができると規定されています(都市再開発法96条1項)。組合からの明け渡し請求は、権利変換期日後に、30日以上の猶予をあけて通知する必要があります(都市再開発法96条2項)。これは通常、内容証明郵便で通知されます。実際の再開発手続においては、権利変換期日前から立ち退きが進行しているケースが多くなっています。

都市再開発法第96条(土地の明渡し)
第1項 施行者は、権利変換期日後第一種市街地再開発事業に係る工事のため必要があるときは、施行地区内の土地又は当該土地に存する物件を占有している者に対し、期限を定めて、土地の明渡しを求めることができる。ただし、第九十五条の規定により従前指定宅地であつた土地を占有している者又は当該土地に存する物件を占有している者に対しては、第百条第一項の規定による通知をするまでは、土地の明渡しを求めることができない。
第2項 前項の規定による明渡しの期限は、同項の請求をした日の翌日から起算して三十日を経過した後の日でなければならない。
第3項 第一項の規定による明渡しの請求があつた土地(従前指定宅地であつた土地を除く。)又は当該土地に存する物件を占有している者は、明渡しの期限までに、施行者に土地若しくは物件を引き渡し、又は物件を移転しなければならない。ただし、第九十一条第一項又は次条第三項の規定による支払がないときは、この限りでない。
第4項 第一項の規定による明渡しの請求があつた土地(従前指定宅地であつた土地に限る。)又は当該土地に存する物件を占有している者は、明渡しの期限までに、施行者に土地を引き渡し、又は物件を移転し、若しくは除却しなければならない。ただし、次条第三項の規定による支払がないときは、この限りでない。
第5項 第九十五条の規定により建築物を占有する者が施行者に当該建築物を引き渡す場合において、当該建築物に、第六十六条第七項の承認を受けないで改築、増築若しくは大修繕が行われ、又は物件が付加増置された部分があるときは、第八十七条第二項の規定により当該建築物の所有権を失つた者は、当該部分又は物件を除却して、これを取得することができる。
第6項 第一項に規定する処分については、行政手続法第三章の規定は、適用しない。

組合が明け渡しを求める場合は、事前に「権利を有する者が通常受ける損失」を補償する必要があります(都市再開発法97条1項、同96条3項)。

都市再開発法97条(土地の明渡しに伴う損失補償)
第1項 施行者は、前条の規定による土地若しくは物件の引渡し又は物件の移転により同条第一項の土地の占有者及び物件に関し権利を有する者が通常受ける損失を補償しなければならない。
第2項 前項の規定による損失の補償額については、施行者と前条第一項の土地の占有者又は物件に関し権利を有する者とが協議しなければならない。
第3項 施行者は、前条第二項の明渡しの期限までに第一項の規定による補償額を支払わなければならない。この場合において、その期限までに前項の協議が成立していないときは、審査委員の過半数の同意を得、又は市街地再開発審査会の議決を経て定めた金額を支払わなければならないものとし、その議決については、第七十九条第二項後段の規定を準用する。
第4項 第二項の規定による協議が成立しないときは、施行者又は損失を受けた者は、収用委員会に土地収用法第九十四条第二項の規定による補償額の裁決を申請することができる。
第5項 第八十五条第二項及び第三項、第九十一条第二項及び第三項、第九十二条並びに第九十三条の規定は、第二項の規定による損失の補償について準用する。

この通常損害補償額は、当事者(再開発組合と権利者)の協議により定めることができますが、当事者の協議が調わない場合は、審査委員の過半数の同意を得た金額を支払って明け渡しを求めることができます。占有者がこの金額に同意せず、弁済手続に協力しない(組合提示額を受領拒否する)場合は、法務局に対する弁済供託をすることができます。法務局に供託されると、法的には被供託者に弁済したのと同じ効力を有することになりますので(民法494条)、組合は、民事保全法に基づき占有者に対して明け渡しを求める仮処分を申し立てて、強制執行により明け渡しを実現することができます。

3、都市再開発法で保護される「借家権」とは

このように都市再開発法で権利変換の対象となり、再開発ビルに再入居することができる借家権は、借地借家法が適用される、建物賃借権、いわゆる「借家権」というものです。都市再開発法2条13号では次のように定義されています。民法では601条で賃貸借契約が定義され、借地借家法31条では建物賃借権の第三者対抗要件(貸主以外の者に対して賃借権の効力を主張できるための条件)が規定されています。

都市再開発法2条 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。
13号 借家権 建物の賃借権をいう。ただし、一時使用のため設定されたことが明らかなものを除く。

民法601条(賃貸借) 賃貸借は、当事者の一方がある物の使用及び収益を相手方にさせることを約し、相手方がこれに対してその賃料を支払うことを約することによって、その効力を生ずる。

借地借家法31条(建物賃貸借の対抗力) 建物の賃貸借は、その登記がなくても、建物の引渡しがあったときは、その後その建物について物権を取得した者に対し、その効力を生ずる。

つまり、賃料を支払って、建物の使用収益をさせる契約が建物賃貸借契約ということになります。他方で民法は使用貸借契約(民593条)という無償で使用収益させる契約を規定しており、違いは有償か無償かということになります。ですから、賃貸借と認めるには有償であれば足り、賃料は金銭以外の対価、例えば労働対価であっても構わないと解釈されています。

ですから、建物管理をする代わりに金銭による賃料無しで借り受ける契約も建物賃貸借契約であると解釈され得ることになります。建物は定期的に風通しをしないと木部が腐食したり、カビが生えるなどの損害を生じることがありますので、そこに居住して風通しして、清掃するなどして建物を維持管理するだけでも所有者に利益があると考えることができます。また、マンションなどの「修繕積立金」は、本来所有者が負担すべきものであり建物賃借人には支払い義務がありませんから、これを入居者が負担していた場合は、低額の賃料による建物賃貸借契約が存続していると主張し得ることになります。

親族間だから当事者間で細かい取り決めをしていなかったとしても、都市再開発法は、上記のように権利変換期日に再開発組合が建物所有権を取得する仕組みになっていますから、組合との関係で、当事者間の権利義務関係をどのように取り扱うか、慎重に検討することが必要です。

万一、権利変換計画作成前の物件調書作成時に賃借権は存在していない旨の届出をしてしまっていた場合に、権利変換計画の縦覧が終わっている場合でも、権利変換期日前であれば、建物所有者と建物占有者が合意して共同で届出すれば、権利変換計画を変更することが可能です(都市再開発法83条4項、都市再開発法施行令31条3号)。
都市再開発法83条4項 施行者が権利変換計画に必要な修正を加えたときは、その修正に係る部分についてさらに第一項からこの項までに規定する手続を行なうべきものとする。ただし、その修正が政令で定める軽微なものであるときは、その修正部分に係る者にその内容を通知することをもつて足りる。

都市再開発法施行令31条(縦覧手続を要しない権利変換計画の修正又は変更) 権利変換計画の修正又は変更のうち法第八十三条第四項ただし書又は第五項の政令で定める軽微な修正又は変更は、次に掲げるものとする。
1号 法第七十三条第一項第二号、第七号、第十二号、第二十二号又は第二十三号に掲げる事項の修正又は変更
2号 法第七十三条第一項第五号、第十号又は第十九号から第二十一号までに掲げる事項のうち氏名若しくは名称又は住所の修正又は変更
3号 法第七十三条第一項第十四号に掲げる事項のうち氏名又は住所の修正又は変更
4号 前三号に掲げるもののほか、権利変換計画の修正又は変更で、当該修正又は変更に係る部分について利害関係を有する者の同意を得たもの

権利変換計画を変更することが出来れば、あなたの占有権は、建物賃借権として権利変換の対象となり、再開発ビルに借家権を取得できることになります。

4、都市再開発法97条の通常損害補償

再開発の明け渡しに伴う損失補償は、一般の民事事件で適用される民法415条や709条の損害賠償方法である「実損害」ではなく、都市再開発法97条で「権利を有する者が通常受ける損失を補償しなければならない」と定められています。言わば「見込み額」の補償で足りると法定されているわけです。この補償金は、明け渡しの前に受領することができますが、明け渡し後に実損害との差額が発生しても、これを別途請求することはできない仕組みになっています。このように都市再開発法97条が実損害の弁償を求めず、損失の見込み額の補償で足りると定めているのは、再開発の建て替え手続を簡素化し、一括処理することにより建て替えのスピードアップを図る趣旨であると考えられます。勿論、これは占有者が受ける損失の一部を補償しなくても良い(補償額を減らしても良い)という趣旨ではなく、その算定と弁済方法を民法の一般原則から少し変える手続になっているだけです。

民法415条(債務不履行による損害賠償) 債務者がその債務の本旨に従った履行をしないときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。債務者の責めに帰すべき事由によって履行をすることができなくなったときも、同様とする。

民法709条(不法行為による損害賠償) 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

都市再開発法第97条(土地の明渡しに伴う損失補償) 第1項 施行者は、前条の規定による土地若しくは物件の引渡し又は物件の移転により同条第一項の土地の占有者及び物件に関し権利を有する者が通常受ける損失を補償しなければならない。

都市再開発法97条の損失補償額の算定は、過去の土地収用手続や再開発手続などで蓄積された統計データを基に作成された用対連基準に従って算出されることが多くなっています。

再開発組合が提示する概算額は、いわゆる「用対連基準」に基づいて算出されています。

これは、土地収用法に基づく損失補償の基準として定められた政令「土地収用法第88条の2の細目等を定める政令」に基づいて定められた国土交通省訓令である「公共用地の取得に伴う損失補償基準要綱(昭和37年6月29日閣議決定)」に基づいて、中央省庁、公団、公社などの関係機関により設立された用地対策連絡協議会が細目を定めた「公共用地の取得に伴う損失補償基準(昭和37年10月12日用地対策連絡会決定)」のことを指します。現在では、国土交通省の「公共用地の取得に伴う損失補償基準」も策定され、ほぼ同じ内容となっております。

※国土交通省の公共用地の取得に伴う損失補償基準
https://www.shinginza.com/kijunn.pdf

※国土交通省の公共用地の取得に伴う損失補償基準の運用方針
https://www.shinginza.com/kijun2.pdf

※国土交通省損失補償取扱要領
https://www.shinginza.com/kijun3.pdf

※公共用地の取得に伴う損失補償基準細則
https://www.shinginza.com/kijun4.pdf

5、使用貸借権者の97条通損補償

権利変換期日までに賃借権の届出ができない場合、再開発組合から「使用貸借権者」として取り扱われてしまいますが、都市再開発法の権利変換期日までは正当に居住できる権利があり、建物所有者や借家権者と同様に都市再開発法96条1項により明け渡しを求められる立場であることに変わりは無く、都市再開発法97条のいわゆる「通常損失補償」を受けることができます。

通常損失補償額ですが、前記の通り使用貸借権は権利変換されませんので、いわゆる「再入居(仮移転して戻って来るために必要な補償)」の計算にはなりませんが、当該建物の占有を失うことにより生ずる損失の補償を受けることができると主張すべきでしょう。具体的には、現在の使用状況を、他の場所に移転して再現するのに必要な費用を請求することになります。転居費用や、どうしても移動できない工作物の再構築費用ということになります。

さらに、使用貸借権を喪失する対価として、使用貸借権の補償を求めることができる可能性がありますので、補償額の計算方法を御案内致します。

国土交通省の公共用地の取得に伴う損失補償基準(平成13年1月6日、国土交通省訓令第76号、最近改正令和2年1月21日国土交通省訓令第49号)
第14条(使用貸借による権利に対する補償)使用貸借による権利に対しては、当該権利が賃借権であるものとして前条の規定に準じて算定した正常な取引価格に、 当該権利が設定された事情並びに返還の時期、使用及び収益の目的その他の契約内容、使用及び収益の状況等を考慮して適正に定めた割合を乗じて得た額をもって補償するものとする。

公共用地の取得に伴う損失補償基準細則(昭和38年3月7日、用地対策連絡会決定、最近改正令和2年3月17日)
第3 基準第13条(使用貸借による権利に対する補償)は、次により処理する。 賃借権に乗ずべき適正に定めた割合は、通常の場合においては、3分の1程度を標準とするものとする。

国税庁、財産評価基本通達94(借家権の評価)
借家権の価額は、次の算式により計算した価額によって評価する。ただし、この権利が権利金等の名称をもって取引される慣行のない地域にあるものについては、評価しない。
(昭41直資3-19・平11課評2-12外・平16課評2-7外改正)
借家権の価格の算式 上記算式における「借家権割合」及び「賃借割合」は、それぞれ次による。
借家権の価格=家屋の価格(財産評価基本通達89)×借家権割合×賃借割合
(1) 「借家権割合」は、国税局長の定める割合による。
(2) 「賃借割合」は、次の算式により計算した割合による。
賃借割合=Aのうち賃貸借している各独立部分の床面積の合計÷当該家屋の各独立部分の床面積の合計(A)

財産評価基本通達89(家屋の評価)
家屋の価額は、その家屋の固定資産税評価額(地方税法第381条((固定資産課税台帳の登録事項))の規定により家屋課税台帳若しくは家屋補充課税台帳に登録された基準年度の価格又は比準価格をいう。以下この章において同じ。)に別表1に定める倍率を乗じて計算した金額によって評価する。

(昭41直資3-19・平3課評2-4外・平16課評2-7外改正) 東京国税局長通達(平成 30 年分)
借家権割合 財産評価基本通達 94(借家権の評価)の定めにより借家権の価額を評価する場合における借家権割合は、100分の30です。
なお、借家権の価額は、その権利が権利金等の名称をもって取引される慣行のない地域にあるものについては評価しません。

つまり、借家権が「権利金」などの名称で取引される慣行のある地域にある場合、建物の価額に3割を乗じて借家権価格を算出し、さらに3割を乗じて使用貸借権の価格を算出することになります。結局建物価格の9パーセントを使用貸借権と評価すべき算出方法があることになります。

実際には、昨今の不動産賃貸市場動向では、借家権が権利金を伴って取引流通する場面も減ってきていますので使用貸借権の価格を観念することが難しい事例も多いのかも知れませんが、使用貸借の経緯や、予定された貸借期間の内容などにより、使用貸借権の経済的価値を主張し得る可能性があります。再開発(準備)組合との粘り強い交渉が必要となります。

具体的には、実態に即して、まずは賃料を支払っていなくても有償で借りていた賃借権であるという主張をすること、それが認められないのであれば使用貸借権の消滅に対する通常損失補償を請求することになります。なお、賃借権や使用貸借権の通損補償を請求すると所有者、賃貸人、ご相談の場合は、祖父に損害が生じるのではないかという心配を持つかもしれません。しかし、その点はご心配は不要です。賃借権があるからと言って所有者の権利変換手続きが不利になるということはありませんし、損失補償によって所有者、賃貸人が不利益を被るということは、権利変換手続きではありません。もちろん、立替後の新築ビルについて権利変換で祖父が取得した建物についてどのように使用するかという問題は残りますが、それは相談者と祖父と協議して決めればよいことです。お困りでしたら経験のある弁護士事務所に御相談なさると良いでしょう。

以上

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