個人根保証の規律に関する民法改正が賃貸借契約に及ぼす影響

民事|賃貸借契約の個人根保証|2020年4月1日改正民法施行

目次

  1. 質問
  2. 回答
  3. 解説
  4. 関連事例集
  5. 参照条文
  6. 参照判例

質問

今般、民法改正により、連帯保証人の責任に制限が設けられることになったという話を聞きました。私は居住用マンションの賃貸業等を営む会社を経営しています。これまで、入居にあたっては、必ず親族等と帯保証契約を締結してきました。

今後、連帯保証人との関係でどのような制限を受けるのか、契約締結ないし契約更新において留意すべき点は何か等について教えてください。

回答

1 2020年4月1日に改正民法が施行されることに伴い、従来の貸金等個人根保証の規律が個人根保証一般に拡大されることになりました。施行日以降に新たに賃貸借契約を締結するにあたって、連帯保証人を付す場合は、従来の連帯保証条項に極度額の定めを設けなければ、根保証契約は無効となり、担保としての機能を失ってしまうことになります。改正前に締結した賃貸借契約が2020年4月1日以降に更新の時期を迎えるような場合の取り扱いが問題となりますが、保証契約自体の更新を行わない限り改正前民法が適用されることになります(附則21条)。反対に保証契約自体の更新を行った場合は、改正民法が適用される結果、極度額の定めのない根保証契約は無効となります。

2 極度額は、個人の根保証人が負う最大限の負担額を保証契約時に示して、根保証人になるかどうかを判断させるためのものであり、連帯保証条項に具体的な金額を表示するのが通常でしょう。極度額に上限を設ける条文は設けられていないため、理論上は極度額を非常に高額に設定することも出来てしまいます。しかしこの点については、保証の目的や保証人の資力等に鑑み、設定した極度額が不当に高いといえるような場合は、公序良俗違反(民法90条)を理由に当該根保証契約が無効となる可能性もあり、注意が必要といえるでしょう。

3 次に、どのような場合に保証の対象となる債務が確定するのか、という元本確定事由が問題となります。改正民法では、(1)根保証人の財産に強制執行又は担保権の実行がなされたとき、(2)主たる債務者又は保証人が死亡したとき、(3)根保証人が破産手続開始決定を受けたとき、の3点が個人根保証契約一般における元本確定事由とされました(改正民法465条の4第1項)。元本が確定すると、その時点以降の債務は保証の対象となりません。そのため、賃借人に新たな連帯保証人を立てるよう依頼するか、保証会社の利用に切り替えるか、損害保険でカバーするかを検討すべきことになります。

4 これに加え、今回の民法改正では、契約締結時における主債務者から連帯保証人への情報提供義務及び債権者から連帯保証人への情報提供義務に関する規定が新設されました。まず、事業のために生じる債務の個人保証を依頼するときは、債務者は、当該個人に対して債務者の財産や収支、債務の状況、担保として提供するものがあるか等を説明しなければならないとされました(改正民法465条の10第1項)。その上で、債務者がその説明をせず、事実と異なる説明をしたこと(以下「不実の説明等」)によって個人が保証人となった場合で、債権者が不実の説明等があったことを知っていたか又は知ることができたときは、当該個人保証人は保証契約を取り消すことができるとされました(同条第2項)。

次に、保証人が主債務者の委託を受けて保証をした場合において、保証人の請求があったときは、債権者は、保証人に対し、遅滞なく、主たる債務の元本及び主たる債務に関する利息、違約金、損害賠償その他その債務に従たる全てのものについての不履行の有無並びにこれらの残額及びそのうち弁済期が到来しているものの額に関する情報を提供しなければならないとされました(改正民法458条の2)。

さらに、主たる債務者が期限の利益を有する場合において、その利益を喪失したときは、債権者は、保証人に対し、その利益の喪失を知った時から二箇月以内に、その旨を通知しなければならないとされ(改正民法458条の3第1項)、期間内に通知をしなかったときは、債権者は、保証人に対し、主たる債務者が期限の利益を喪失した時から同項の通知を現にするまでに生じた遅延損害金(期限の利益を喪失しなかったとしても生ずべきものを除く。)に係る保証債務の履行を請求することができないとの規定が設けられました(同条第2項)。

5 以上を前提に、改正民法の施行日である2020年4月1日以降に、賃借人や連帯保証人(個人根保証人)との間でトラブルが発生しないように、事前に契約書の書式変更、情報提供関係の確認書類雛形の作成等を準備しておく必要があろうかと思います。

6 その他本件に関連する事例集はこちらをご覧ください。

解説

第1 はじめに

2020年4月1日の改正民法の施行により、現行民法に規定のある貸金等個人根保証の規律が個人根保証一般に拡充されることになりました。個人根保証とは、不特定の債務について個人が保証人となる保証をいいます。

個人根保証契約の規律が、不動産賃貸借の実務にどのような影響を及ぼすのかについて、以下解説いたします。

第2 個人根保証人の極度額による責任制限について

1 現行の貸金等根保証契約に関する規律について

平成16年の民法改正において、一定の範囲に属する不特定の債務を主たる債務とする根保証契約であって、その債務の範囲に金銭の貸渡し又は手形の割引を受けることによって負担する債務が含まれるもの(貸金等根保証契約)の保証人は、極度額を限度として責任を負うことが規定され(現行民法465条の2第1項)、極度額を書面又は電磁的記録で定めない貸金等根保証契約は無効とされました(同条2項・3項、446条2項・3項)。

2 対象の拡大と賃貸借契約への影響について

今回の改正では、その対象を貸金債務等に限定することなく、個人根保証一般に拡大されることになりました(改正民法465条の2第2項)。

ところで、賃貸借契約における賃借人の債務に関する連帯保証は、賃貸借契約という継続的契約から生じる賃借人の債務を包括的に保証するという性質を有するため、根保証契約の一つといえます。

そのため、改正民法の施行日である2020年4月1日以降、新たに賃貸借契約を締結する際に連帯保証人を付す場合は、従来の連帯保証条項に極度額の定めを設けなければ、当該根保証契約は無効となり、人的担保としての機能を失ってしまうことになります。

3 契約の更新が施行日後に行われた場合の適用関係について

上記に関連し、施行日前に締結した賃貸借契約が施行日である2020年4月1日以降に更新の時期を迎えるような場合の取り扱いが問題となります。

改正民法附則第21条は「施行日前に締結された保証契約に係る保証債務については、なお従前の例による。」と定めており、字義通りに解せば、根保証契約自体の更新(再契約)を行わない限り、改正前民法が適用されることになるでしょう。

賃貸借契約が施行日後に更新された場合は、当初の根保証契約はもはや「施行日前に締結された保証債務」とはいえないのではないか、という疑問も無くはないですが、賃貸借契約と根保証契約は別個の契約であることから、上記の解釈が自然と思われます。

そもそも、賃貸借契約締結時の保証人が賃貸借契約更新後も保証人としての責任を負うのか問題もありますが、この点については次の最高裁判例があります。最高裁の判例では「期間の定めのある建物の賃貸借において、賃借人のために保証人が賃貸人との間で保証契約を締結した場合には、反対の趣旨をうかがわせるような特段の事情のない限り、保証人が更新後の賃貸借から生ずる賃借人の債務についても保証の責めを負う趣旨で合意がされたものと解するのが相当」としています(最判平成9年11月13日判タ969号126頁)。この立場からすれば、更新前の保証契約は、特に合意しなくても継続していることになり、この保証契約については旧法が適用されることになると考えられます。

反対に、根保証契約自体の更新を行う場合は、改正民法が適用される結果、極度額を書面で定めない限り契約が無効となります。

4 極度額の定め方について

極度額とは、元本、利息、損害賠償等、保証債務に関する全てを含んだ、保証人が負坦する最大限の金額のことです。

極度額は、個人の根保証人が負う最大限の負担額を保証契約時に示して、根保証人になるかどうかを判断させるためのものですから、具体的な金額表示がなされるのが一般的で、たとえば以下のような規定を設けることになるでしょう。

「丙(連帯保証人)は、甲(賃貸人)に対し、乙(賃借人)が本契約上負担する一切の債務を極度額XX円の範囲内で連帯して保証する。」

なお、極度額を制限するような規定は特段存在しないため、理論上は極度額を非常に高額に設定することも出来てしまいます。とはいえ、保証の目的や保証人の資力等に鑑み、設定した極度額が不当に高いといえるような場合は、公序良俗違反(民法90条)を理由に当該根保証契約が無効となる可能性もあり、注意が必要といえるでしょう。具体的な金額については、一概には、決められませんが一般居住用建物であれば家賃の1年程度であれば公序良俗違反とは言えないでしょう。

5 元本の確定事由について

次に、どのような場合に保証の対象となる債務が確定するのか、という元本確定事由が問題となります。

改正民法では、(1)根保証人の財産に強制執行又は担保権の実行がなされたとき、(2)主たる債務者又は保証人が死亡したとき、(3)根保証人が破産手続開始決定を受けたとき、の3点が個人根保証契約一般における元本確定事由とされました(改正民法465条の4第1項)。

従来、貸金等根保証契約の元本確定事由として、主債務者の財産に対して強制執行・ 担保権の実行がなされた場合や、主債務者が破産手続開始決定を受けた場合が規定されておりましたが、この点に関しては従来どおりの扱いとし、個人根保証契約一般への適用の拡大はなされませんでした。主債務者の財産に対して強制執行・ 担保権の実行がなされた場合や、主債務者が破産手続開始決定を受けた場合でも、賃貸借契約は終了することなく継続されることが想定されるため、その場合に保証人の責任のみが消滅してしまうことは賃貸人に対して生ずる不利益が大きい、という理由によります。

また、5年以内に元本を確定させることとした貸金等根保証の規律(現行民法465条の3第1項・2項)も、個人根保証一般への拡大は見送られました。不動産賃貸借契約においては、借地借家法等の規律により一定期間の契約の継続が強行法規的に要請されているにも関わらず、その途中で保証人の責任のみが元本確定期日の経過により消滅してしまうのは賃貸人にとって不利益が大きい、という理由によります。

元本が確定すると、それまでに発生している滞納家賃や損害賠償債務等を極度額の範囲内で負担することになり、その時点以降の債務は保証の対象となりません。そのため、それ以降に発生する債務に関する担保については、賃借人に新たな連帯保証人を立てるよう依頼するか、保証会社の利用に切り替えるか、損害保険でカバーするかを検討すべきことになります。

第3 情報提供義務に関する規律

これに加え、今回の民法改正では、契約締結時における主債務者から連帯保証人への情報提供義務及び債権者から連帯保証人への情報提供義務に関する規定が新設されました。

1 契約締結時における主債務者から連帯保証人への情報提供義務について

主債務者は、債務の範囲に事業のために負担する債務が含まれる根保証の委託をするときは、委託を受ける者に対し、財産及び収支の状況(1号)、主たる債務以外に負担している債務の有無並びにその額及び履行状況(2号)、主たる債務の担保として他に提供し、又は提供しようとするものがあるときは、その旨及びその内容(3号)を、それぞれ提供しなければならないこととされました(改正民法465条の10第1項)。

その上で、主債務者が各号の情報を提供せず、又は事実と異なる情報を提供したために委託を受けた者がその事項について誤認をし、それによって保証契約の申込み又はその承諾の意思表示をした場合において、主たる債務者がその事項に関して情報を提供せず又は事実と異なる情報を提供したことを債権者が知り又は知ることができたときは、保証人は、保証契約を取り消すことができるとされました(同条第2項)。これらは、保証人が個人の場合に限った規定です(同条3項)。

あくまでも事業のために負担する債務が含まれる根保証の委託を行う場合の規定ですから、賃貸借契約にかかる個人根保証人との関係でいえば、事務所・工場等の事業のために利用する物件の賃貸借契約にかかる個人根保証人に対して情報提供義務が課されるのであって、居住用住宅の賃貸借契約にかかる個人根保証人に対する関係では義務は発生いたしません。

改正民法施行後、事業用物件の賃貸借契約を締結する際に連帯保証人を付す場合は、保証契約の取消しリスクを回避するために、賃借人(法人等)が連帯保証人(個人根保証人)に当該賃借人の財産状況等について正しい情報提供を行ったことを書面上に残しておくことが肝要です。具体的には、連帯保証条項に以下のような規定を盛り込むことになるでしょう。

「乙(賃借人)は、丙(連帯保証人)に対し、本契約に先立ち、下記項目について別紙のとおり情報提供を行い、丙は当該情報の提供を受けたことを確認する。

(1) 乙の財産及び収支の状況

(2) 乙が主債務以外に負担している債務の有無並びにその額及び履行状況

(3) 乙が主債務について甲に担保を提供していない事実」

2 債権者から連帯保証人に対する情報提供義務について

(1) 次に、保証人が主債務者の委託を受けて保証をした場合において、保証人の請求があったときは、債権者は、保証人に対し、遅滞なく、主たる債務の元本及び主たる債務に関する利息、違約金、損害賠償その他その債務に従たる全てのものについての不履行の有無並びにこれらの残額及びそのうち弁済期が到来しているものの額に関する情報を提供しなければならないとされました(改正民法458条の2)。

保証人が主債務者の不履行の有無を事前に知り、遅延損害金等を含む多額の保証債務の履行を不意に求められる事態を回避するために設けられた規定です。

この義務に違反した場合のサンクション(制裁)等は特段規定されていないものの、照会に正確に応じなかったことを理由に、債務不履行による損害賠償請求や保証契約の解除を主張される可能性があるため、注意を要します。

(2) さらに、主たる債務者が期限の利益を有する場合において、その利益を喪失したときは、債権者は、保証人に対し、その利益の喪失を知った時から二箇月以内に、その旨を通知しなければならないとされました(改正民法458条の3第1項)。

期間内に通知をしなかったときは、債権者は、保証人に対し、主たる債務者が期限の利益を喪失した時から同項の通知を現にするまでに生じた遅延損害金(期限の利益を喪失しなかったとしても生ずべきものを除く。)に係る保証債務の履行を請求することができない、とのサンクションも設けられました(同条第2項)。

もっとも、賃料債務は毎月発生するもので、分割払いとして期限の利益が付されたものではないため、賃貸借の場面でこの規定が問題となることは基本的にはないでしょう(滞納家賃等に関し分割支払いの合意を取り交わしたような場合くらいです。)。

第4 まとめ

以上、改正民法による個人根保証契約の規律が、不動産賃貸借の実務にどのような影響を及ぼすのかについて、解説して参りました。

改正民法の施行日である2020年4月1日以降に、賃借人や連帯保証人(個人根保証人)との間でトラブルが発生しないように、事前に契約書の書式変更、情報提供関係の確認書類雛形の作成等を準備しておく必要があろうかと思います。

賃貸業を営まれている事業者の方は、改正民法の施行日前に法律事務所で契約書のチェック等をしてもらうと良いでしょう。

以上

関連事例集

その他の事例集は下記のサイト内検索で調べることができます。

Yahoo! JAPAN

参照条文
改正民法(新旧対照表

(主たる債務の履行状況に関する情報の提供義務)
第四百五十八条の二 保証人が主たる債務者の委託を受けて保証をした場合 において、保証人の請求があったときは、債権者は、保証人に対し、遅滞なく、 主たる債務の元本及び主たる債務に関する利息、違約金、損害賠償その他その 債務に従たる全てのものについての不履行の有無並びにこれらの残額及びその うち弁済期が到来しているものの額に関する情報を提供しなければならない。

(主たる債務者が期限の利益を喪失した場合における情報の提供義務)
第四百五十八条の三 主たる債務者が期限の利益を有する場合において、その 利益を喪失したときは、債権者は、保証人に対し、その利益の喪失を知った時から二箇月以内に、その旨を通知しなければならない。
2 前項の期間内に同項の通知をしなかったときは、債権者は、保証人に対し、 主たる債務者が期限の利益を喪失した時から同項の通知を現にするまでに生じた遅延損害金(期限の利益を喪失しなかったとしても生ずべきものを除く。) に係る保証債務の履行を請求することができない。
3 前二項の規定は、保証人が法人である場合には、適用しない。

(個人根保証契約の保証人の責任等)
第四百六十五条の二 一定の範囲に属する不特定の債務を主たる債務とする保証契約(以下「根保証契約」という。) て゛あって保証人か゛法人て゛ないもの (以 下「個人根保証契約」という。) の保証人は、主たる債務の元本、主たる債務に関する利息、違約金、損害賠償その他その債務に従たる全てのもの及ひ゛その保 証債務について約定された違約金又は損害賠償の額について、その全部に係る 極度額を限度として、その履行をする責任を負う。
2 個人根保証契約は、前項に規定する極度額を定めなければ、その効力を生じない。
3 第四百四十六条第二項及び第三項の規定は、個人根保証契約における第一項に規定する極度額の定めについて準用する。

(個人貸金等根保証契約の元本確定期日)
第四百六十五条の三 「個人根保証契約であってその主たる債務の範囲に金銭 の貸渡し又は手形の割引を受けることによって負担する債務(以下「貸金等債 務」という。) か゛含まれるもの (以下「個人貸金等根保証契約」という。) において主たる債務の元本の確定すへ゛き期日 (以下「元本確定期日」という。) の定めか゛ある場合において、その元本確定期日か゛その個人貸金等根保証契約の締結の日から五年を経過する日より後の日と定められているときは、その元本確定期日の定めは、その効力を生し゛ない。
2 個人貸金等根保証契約において元本確定期日の定めがない場合(前項の規定により元本確定期日の定めがその効力を生じない場合を含む。) には、その元本確定期日は、その個人貸金等根保証契約の締結の日から三年を経過する日とする。
3 個人貸金等根保証契約における元本確定期日の変更をする場合において、変更後の元本確定期日がその変更をした日から五年を経過する日より後の日と なるときは、その元本確定期日の変更は、その効力を生じない。たた゛し、元本確定期日の前二箇月以内に元本確定期日の変更をする場合において、変更後の元本確定期日が変更前の元本確定期日から五年以内の日となるときは、この限りでない。
4 第四百四十六条第二項及び第三項の規定は、個人貸金等根保証契約における元本確定期日の定め及びその変更(その貸金等根保証契約の締結の日から三年以内の日を元本確定期日とする旨の定め及び元本確定期日より前の日を変更後の元本確定期日とする変更を除く。) について準用する。

(個人根保証契約の元本の確定事由)
第四百六十五条の四 次に掲げる場合には、個人貸金等根保証契約における主 たる債務の元本は、確定する。 たた゛し、第一号に掲げる場合にあっては、強制 執行又は担保権の実行の手続の開始があったときに限る。
一 債権者が、保証人の財産について、金銭の支払を目的とする債権についての強制執行又は担保権の実行を申し立てたとき。
二 保証人が破産手続開始の決定を受けたとき。
三 主たる債務者又は保証人が死亡したとき。
2 前項に規定する場合のほか、個人貸金等根保証契約における主たる債務の元本は、次に掲げる場合にも確定する。たた゛し、第一号に掲げる場合にあっては、強制執行又は担保権の実行の手続の開始があったときに限る。
一 債権者が、主たる債務者の財産について、金銭の支払を目的とする債権についての強制執行又は担保権の実行を申し立てたとき。
二 主たる債務者が破産手続開始の決定を受けたとき。

(契約締結時の情報の提供義務)
第四百六十五条の十 主たる債務者は、事業のために負担する債務を主たる債務とする保証又は主たる債務の範囲に事業のために負担する債務が含まれる根 保証の委託をするときは、委託を受ける者に対し、次に掲げる事項に関する情 報を提供しなければならない。
一 財産及び収支の状況
二 主たる債務以外に負担している債務の有無並びにその額及び履行状況
三 主たる債務の担保として他に提供し、又は提供しようとするものがあると きは、その旨及びその内容
2 主たる債務者が前項各号に掲げる事項に関して情報を提供せず、又は事実と異なる情報を提供したために委託を受けた者がその事項について誤認をし、それによって保証契約の申込み又はその承諾の意思表示をした場合において、主たる債務者がその事項に関して情報を提供せず又は事実と異なる情報を提供 したことを債権者が知り又は知ることができたときは、保証人は、保証契約を 取り消すことができる。
3 前二項の規定は、保証をする者が法人である場合には、適用しない。

参考判例
最高裁判所平成9年11月13日判決

建物の賃貸借は、一時使用のための賃貸借等の場合を除き、期間の定めの有無にかかわらず、本来相当の長期間にわたる存続が予定された継続的な契約関係であり、期間の定めのある建物の賃貸借においても、賃貸人は、自ら建物を使用する必要があるなどの正当事由を具備しなければ、更新を拒絶することができず、賃借人が望む限り、更新により賃貸借関係を継続するのが通常であって、賃借人のために保証人となろうとする者にとっても、右のような賃貸借関係の継続は当然予測できるところであり、また、保証における主たる債務が定期的かつ金額の確定した賃料債務を中心とするものであって、保証人の予期しないような保証責任が一挙に発生することはないのが一般であることなどからすれば、賃貸借の期間が満了した後における保証責任について格別の定めがされていない場合であっても、反対の趣旨をうかがわせるような特段の事情のない限り、更新後の賃貸借から生ずる債務についても保証の責めを負う趣旨で保証契約をしたものと解するのが、当事者の通常の合理的意思に合致するというべきである。もとより、賃借人が継続的に賃料の支払を怠っているにもかかわらず、賃貸人が、保証人にその旨を連絡するようなこともなく、いたずらに契約を更新させているなどの場合に保証債務の履行を請求することが信義則に反するとして否定されることがあり得ることはいうまでもない。

以上によれば、期間の定めのある建物の賃貸借において、賃借人のために保証人が賃貸人との間で保証契約を締結した場合には、反対の趣旨をうかがわせるような特段の事情のない限り、保証人が更新後の賃貸借から生ずる賃借人の債務についても保証の責めを負う趣旨で合意がされたものと解するのが相当であり、保証人は、賃貸人において保証債務の履行を請求することが信義則に反すると認められる場合を除き、更新後の賃貸借から生ずる賃借人の債務についても保証の責めを免れないものというべきである。

四 これを本件についてみるに、前記事実関係によれば、前記特段の事情はうかがわれないから、本件保証契約の効力は、更新後の賃貸借にも及ぶと解すべきであり、被上告人において保証債務の履行を請求することが信義則に反すると認めるべき事情もない本件においては、上告人は、本件賃貸借契約につき合意により更新された後の賃貸借から生じた健三の被上告人に対する賃料債務等についても、保証の責めを免れないものといわなければならない。これと同旨の原審の判断は、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。右判断は、所論引用の判例に抵触するものではない。論旨は、右と異なる見解に立って原判決を論難するものであって、採用することができない。

よって、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。