No.1750|顧問弁護士について

合同会社の利益相反取引における承認手続

会社法|業務執行社員が所有する不動産を合同会社が買い受ける場合の手続|社員の過半数の同意を得たことを証する書面(同意書)の作成

目次

  1. 質問
  2. 回答
  3. 解説
  4. 参考書式
  5. 関連事例集

質問

合同会社を経営しています。この度私が個人で所有する不動産を会社名義で購入することとなりました。何か注意する点はありますか?

回答

合同会社がその会社の「業務執行社員」個人が所有する不動産を買い受ける場合、当該不動産売買契約は会社法第595条に定める利益相反行為に当たります。

利益相反行為は株式会社では「取締役」と会社の間の取引ついて問題となりますが、合同会社では「業務執行社員」と会社との間で問題となります。利益相反行為については、合同会社では原則として当該社員を除いた「過半数の社員の同意」を得る必要があります。

合同会社における利益相反取引は、株式会社の場合と同様、上記のような売買契約の他、業務執行社員個人の債務を保証する為に会社所有の不動産に担保をつける行為や、取引する会社の代表者が同一であるような場合に生じます。

但し、合同会社における特殊な事情としては、合同会社の代表者には法人も就任することができることから、通常の取引においても利益相反か否かを検討するケースが多く、かつ、複雑になることも予想されます。

上記売買契約に基づく所有権移転登記の申請に際しては、「社員の過半数の同意を得たことを証する書面(同意書)」を添付して申請します。

「社員の過半数の同意を得たことを証する書面(同意書)」の雛形は参考書式に掲載しているので、ご参照ください。

解説

1 合同会社とは

合同会社は、平成18年の新会社法施行に伴って導入された会社形態で、従来の有限会社と同様に有限責任社員のみで構成される法人です。比較的小規模の事業、例えば、個人企業の法人成り、シニア層や主婦層の起業、ベンチャー企業、子会社、合弁企業の設立、などで用いられる法人形式です。合同会社は社員全員が有限責任社員から構成され、原則として社員全員が業務執行権を有し、全員が会社を代表します。「所有と経営」が一致する点で株式会社と異なっています。

但し、定款で直接業務執行権を有する社員(以下「業務執行社員」)を定めるか、あるいは、定款で総社員の同意によって業務執行社員を定めることができる旨を設ければ、業務執行権を有する社員と業務執行権を有しない社員を並存させることができるとされています。

業務執行権社員は原則として会社の代表権を有するとされています。これについても定款に別段の定めを設けることにより、業務執行社員の中から会社を代表する社員を定めることもできます。なお、業務執行社員以外の者から代表社員を選任することはできません(第599条3項)。

この業務執行社員については、株式会社における取締役との大きな違いがあります。それは、銀行、信用金庫、保険会社等の特定の業種の会社を除いて、法人でも業務執行社員になることができるとされている点です。業務執行社員である法人を代表者とすることも可能です。

業務執行者が法人である場合には、当該法人が職務執行者を選んで、その者に実際の業務執行を行わせることになります(第598条)。なおこの職務執行者については当該法人の代表者が兼務することはできません。また当該法人が代表者である場合には職務代行者は登記すべき事項とされていますので注意が必要です。

会社法

(業務の執行)
第590条 社員は、定款に別段の定めがある場合を除き、持分会社の業務を執行する。

(法人が業務を執行する社員である場合の特則)
第598条 法人が業務を執行する社員である場合には、当該法人は、当該業務を執行する社員の職務を行うべき者を選任し、その者の氏名及び住所を他の社員に通知しなければならない。
2 (略)

(持分会社の代表)
第599条 業務を執行する社員は、持分会社を代表する。ただし、他に持分会社を代表する社員その他持分会社を代表する者を定めた場合は、この限りでない。
2 前項本文の業務を執行する社員が二人以上ある場合には、業務を執行する社員は、各自、持分会社を代表する。
3 持分会社は、定款又は定款の定めに基づく社員の互選によって、業務を執行する社員の中から持分会社を代表する社員を定めることができる。
4 持分会社を代表する社員は、持分会社の業務に関する一切の裁判上又は裁判外の行為をする権限を有する。
5 前項の権限に加えた制限は、善意の第三者に対抗することができない。

2 利益相反取引

業務執行社員が会社と取引をする場合には、当該取引は利益相反取引にあたり、当該社員以外の社員の過半数の承認を得る必要があります(会社法第595条1項)。利益相反取引の考え方については株式会社のそれと同様になります。

この承認の規定については定款で別段の定めを設けることができますので、この規定より更に強化する規定(例えば「他の社員全員の同意」)を設けることも可能です。

会社と業務執行社員が直接取引をする場合の他、代理人として取引を行う場合も利益相反取引に該当しますし、業務執行社員以外の者との間の取引であっても実質的に会社と当該業務執行社員との利益が相反する場合には、その取引も含まれます。この取引には、会社の単独行為である業務執行社員の債務免除も含まれます。利益相反取引では、会社と業務執行社員の間の取引ですから、双方の利益が対立することになり、無条件に認めてしまえば会社財産が毀損されて、出資者や会社債権者の権利を侵害することになりかねませんので、業務執行社員の独断では進められないように規制されているのです。

特に合同会社においては、業務執行社員に法人がなることができるため、その取引が利益相反取引に該当するか否かは、慎重に検討する必要があるといえます。幅広い取引を行う企業が業務執行社員となっている場合には、利益相反が疑われる取引も頻繁に出てくると思いますので、利益相反について懸念やご心配がある場合には弁護士等の専門家に助言を求められてもいいでしょう。

なお、業務執行権を有しない社員については、利益相反取引の規定は適用されません。

会社法

(利益相反取引の制限)
第五百九十五条 業務を執行する社員は、次に掲げる場合には、当該取引について当該社員以外の社員の過半数の承認を受けなければならない。ただし、定款に別段の定めがある場合は、この限りでない。
一 業務を執行する社員が自己又は第三者のために持分会社と取引をしようとするとき。
二 持分会社が業務を執行する社員の債務を保証することその他社員でない者との間において持分会社と当該社員との利益が相反する取引をしようとするとき。
2 民法第百八条 の規定は、前項の承認を受けた同項第一号の取引については、適用しない

3 承認手続き

株式会社においては、利益相反取引は「取締役」と会社との間で問題となり、承認は当該取締役を除いた取締役の過半数の賛成が必要となります。

合同会社における利益相反行為の承認は、当該業務執行社員以外の過半数の社員の賛成が必要となります。なお、この場合の「社員」には、業務執行社員の他、業務執行権を有しない社員がいる場合には、その社員も含まれますので注意が必要です。ご相談のケースでは、当該売買による所有権移転登記を申請する際には、この過半数の社員の承認を証する書面が必要となります。書面には各社員の署名又は記名及び実印を押印し、印鑑証明書を添付します。

ここで合同会社において利益相反取引が行われ、そこに利害関係を有する第三者として関わることとなる場合(例えば、今回の会社が買い受ける不動産を更に第三者が買い受ける予定であるような場合)に注意するべき点があります。

株式会社であれば、承認機関である取締役の氏名が登記事項として登記事項証明書に記載されますので、登記事項証明書と「取締役会議事録」ないし「取締役の過半数の一致を証する書面」をつき合わせて確認すれば承認に必要な取締役の人数やその氏名等が明らかとなり、承認決議が適法になされたのかどうかを確認することができます。しかし、合同会社については、業務執行社員は登記事項であるものの、業務執行権を有しない社員については登記事項とはされていません。よって、今回の利益相反取引に対する承認が正当になされたのか否かを登記事項証明書から判断できないということになります。

しかし、株式会社において株主の氏名が定款の絶対的記載事項とされていないのと異なり、合同会社においては社員の氏名が定款の絶対的記載事項とされています。そこで、合同会社において承認決議が正当になされたか否かについては、「定款」と「過半数の一致を証する書面」をつき合わせることで確認することできます。この点、実際に所有権移転登記を行うにあたっては、この過半数の一致の有無を確認する為に定款の添付を要するか否かについては、法務局によって対応が分かれているようです。

例えば、社員が当該業務執行社員のみの会社(いわゆる1人会社)においては、当該取引について特段の承認は不要となりますが、所有権移転登記の申請に際しては、「過半数の一致を証する書面」が添付できませんので、社員が当該業務執行社員しかいないことを証明するために定款の添付を要求されることもあるようです。

ちなみに利害関係人以外の社員が1人しか居ない場合であっても、その1名による承認「決議」が必要と解されています。そして承認を証する書面として同意書を作成する必要があります(参考判例、最高裁判所昭和46年11月5日判決)。

最高裁判所、昭和46年11月5日判決抜粋

上告代理人高松滋の上告理由について。

被上告人らが訴外D製造株式会社から本件土地を含む宅地一筆を買受けるにつき同会社の取締役会の承認を受けた旨の原判決の事実認定・判断は、挙示の証拠に照らして肯認することができないものではない。所論のように、取締役会に出席した三人の取締役のうち、被上告人ら両人が決議につき特別の利害関係を有する者であるため、議決権を行使しうる取締役が他の一人にすぎなかつたとしても、その一人の取締役によつて決議がなされえないものではなく、有効な取締役会の決議があつたものと認めることは妨げられないというべきである。右認定・判断に所論の違法はなく、論旨は、ひつきよう、原審の専権に属する証拠の取捨判断および右事実認定を非難し、さらに独自の見解を主張して原判決の違法をいうものであつて、採用することができない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

4 承認を得ないでした利益相反取引の効力

他の社員の過半数の同意を得ないでした利益相反取引は、会社と当該業務執行社員との間では無効になりますが、取引の安全を確保する点から、新たに取引に入った第三者に対しては当該取引について承認が得られていないことを知っていた場合を除いてその無効を第三者に対抗できないとされています。

手形取引に関する事例ですが、最高裁の判例がありますので紹介します。(最高裁判所昭和46年10月3日判決)。

最高裁判所、昭和46年10月3日判決抜粋

ところで、手形が本来不特定多数人の間を転々流通する性質を有するものであることにかんがみれば、取引の安全の見地より、善意の第三者を保護する必要があるから、会社がその取締役に宛てて約束手形を振り出した場合においては、会社は、当該取締役に対しては、取締役会の承認を受けなかつたことを理由として、その手形の振出の無効を主張することができるが、いつたんその手形が第三者に裏書譲渡されたときは、その第三者に対しては、その手形の振出につき取締役会の承認を受けなかつたことのほか、当該手形は会社からその取締役に宛てて振り出されたものであり、かつ、その振出につき取締役会の承認がなかつたことについて右の第三者が悪意であつたことを主張し、立証するのでなければ、その振出の無効を主張して手形上の責任を免れえないものと解するのを相当とする(この判旨に反する大審院明治四二年(オ)第二七九号同年一二月二日民事聯合部判決、民録一五輯九二六頁は、これを採らない。)。したがつて、この場合には、手形法一六条二項の適用はなく、その解釈適用につき所論のような論議をなす余地はないのである。

トラブルの原因となりますので、利益相反取引の承認手続きは遺漏無く行い、関係書類をきちんと保管しておくべきでしょう。御心配であれば、お近くの法律事務所にご相談なさると良いでしょう。

以上

参考書面

同意書(過半数の一致を証する書面)

同 意 書

1 買主 本 店
     商 号  合同会社 A
     代表者

2 売主 住 所
     氏 名  A(合同会社A代表社員)

3 売買契約日   平成  年  月  日

4 売買代金    金       円

5 所有権移転の時期 売買代金支払い完了時

不動産の表示
(略)

以上

当会社が当会社の業務執行社員である A が所有する前記不動産について、重要な事実の開示を受けたうえで上記内容にて買い受けることについて、会社法第595条の定めるところに従い、当該業務執行社員以外の社員  名中  名の同意があったことを証するため、本同意書を作成し、各社員が署名捺印する。

平成 年 月 日

合同会社 A

 社員    B          実印

 社員    C          実印

 社員    D          実印

 社員    E          実印

※各社員の印鑑証明書を添付する。

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