新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.1694、2016/07/08 12:00 https://www.shinginza.com/qa-fudousan.htm

【民事、東京高裁平成23年11月24日判決、東京地裁平成17年6月23日判決】

居住用マンションの店舗事務所使用について

質問:
居住用マンションを購入し入居しましたが、隣の住戸の住人が、自宅住所で法人登記を行い、ネット通販会社を運営しているようです。宅配便会社の配達員や、会社への来客など、住人でない人物の往来も増えているようで不快に感じています。これらの行為をやめさせることはできませんか。ベランダに会社名の横断幕を掲げている行為もあるのですが、これをやめさせることはできませんか。



回答:
1、居住用マンションとは、区分所有建物の管理組合の管理規約で、「区分所有者は、その専有部分を専ら住宅として使用するものとし、他の用途に供してはならない。」という規約を有するマンションです。

2、居住用マンションでは、事業用途に専有部分を使用することは、規約により禁止されていますから、管理組合では、区分所有法57条1項にもとづき、区分所有者に対して共同利益背反行為を停止することを請求することができます。

3、共同利益背反行為が著しく、利用禁止請求手続では共同生活の維持を図ることが困難であるときは、区分所有法60条1項に基づき、訴訟により、占有者の専有部分に対する賃貸借契約の解除(所有者は個人で法人が賃貸借等により運営しているとなると賃貸借契約の解除が問題となります。)明け渡しの請求をすることができます。

4、外壁やベランダは占有部分ではなく、共用部分となる場合が多いので管理組合の了解なく看板を設置する行為も、不当使用行為となり得ますので、止めさせることも撤去することもできます。


解説:

1、居住用マンションとは、区分所有建物の管理組合の管理規約で、「区分所有者は、その専有部分を専ら住宅として使用するものとし、他の用途に供してはならない。」という規約を有するマンションです。この規約を住居専用規定と言います。

※参考URL、国土交通省、標準管理規約(単棟型)
http://www.mlit.go.jp/common/001123378.pdf

管理規約参考条文
第**条(専有部分の用途)区分所有者は、その専有部分を専ら住宅として使用するものとし、他の用途に供してはならない。

 この規約条項は、国土交通省の標準管理規約にも含まれており、市場で新築され流通する多くのマンションで採用されている条項になります。通常、マンションは居住用に販売され、購入して居住するものですから、平穏で良好な住環境を維持するために、不特定多数の部外者の往来を廃し、騒音、悪臭などを防止するために、このような条項が設けられています。国土交通省の管理規約に付属するコメントには、「住宅としての使用は、専ら居住者の生活の本拠があるか否かによって判断する。したがって利用方法は、生活の本拠であるために必要な平穏さを有することを要する。」と記載されています。

 さて、そもそも、マンションの管理規約とはどういうものでしょうか。区分所有法3条と30条には、次のような規定があります。

区分所有法第3条 (区分所有者の団体)区分所有者は、全員で、建物並びにその敷地及び附属施設の管理を行うための団体を構成し、この法律の定めるところにより、集会を開き、規約を定め、及び管理者を置くことができる。一部の区分所有者のみの共用に供されるべきことが明らかな共用部分(以下「一部共用部分」という。)をそれらの区分所有者が管理するときも、同様とする。

区分所有法第30条(規約事項)
第1項 建物又はその敷地若しくは附属施設の管理又は使用に関する区分所有者相互間の事項は、この法律に定めるもののほか、規約で定めることができる。
第2項 一部共用部分に関する事項で区分所有者全員の利害に関係しないものは、区分所有者全員の規約に定めがある場合を除いて、これを共用すべき区分所有者の規約で定めることができる。
第3項 前二項に規定する規約は、専有部分若しくは共用部分又は建物の敷地若しくは附属施設(建物の敷地又は附属施設に関する権利を含む。)につき、これらの形状、面積、位置関係、使用目的及び利用状況並びに区分所有者が支払つた対価その他の事情を総合的に考慮して、区分所有者間の利害の衡平が図られるように定めなければならない。
第4項 第一項及び第二項の場合には、区分所有者以外の者の権利を害することができない。
第5項 規約は、書面又は電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によつては認識することができない方式で作られる記録であつて、電子計算機による情報処理の用に供されるものとして法務省令で定めるものをいう。以下同じ。)により、これを作成しなければならない。


 このように、管理規約は、区分所有者相互に適用される、マンションの敷地と建物の管理及び使用に関する合意ということになります。管理規約は、マンション新築時に管理組合が結成されたときに、創立総会で採択され効力を生じます。区分所有者相互の関係では、当事者の契約や合意と同じように、法規範性を有することになります。区分所有法では、マンションの所有権を取得した者は当然に管理組合の構成員となりますので、管理組合の創立総会に参加していない者でも、相続や売買により区分所有権を取得した場合は、当該マンションの管理組合の組合員となり、管理規約の適用を受けることになります。


2、居住用マンションでは、専有部分を事業用途に使用することは、規約により禁止されていますから、区分所有法6条1項及び区分所有法57条1項にもとづき、管理組合は区分所有者に対して共同利益背反行為を停止や結果の除去を請求することができますし、予防のための必要な措置をとることも請求できます。


第6条(区分所有者の権利義務等)
第1項 区分所有者は、建物の保存に有害な行為その他建物の管理又は使用に関し区分所有者の共同の利益に反する行為をしてはならない。

第57条(共同の利益に反する行為の停止等の請求)
第1項 区分所有者が第六条第一項に規定する行為をした場合又はその行為をするおそれがある場合には、他の区分所有者の全員又は管理組合法人は、区分所有者の共同の利益のため、その行為を停止し、その行為の結果を除去し、又はその行為を予防するため必要な措置を執ることを請求することができる。


 ここで、「区分所有者の共同の利益に反する行為」というのは、(1)不当毀損行為と、(2)不当使用行為が含まれると解釈されています。不当毀損行為は、区分所有法6条1項前段の、「建物の保存に有害な行為」とされ、建物の躯体部分の強度に影響するような増改築・改修行為が含まれると解釈されています。不当使用行為は、不当毀損行為以外の、区分所有者の共同の利益に反する行為です。例えば、騒音や悪臭を撒き散らしたり、廊下に自転車や物置などの私物を継続的に置いて通行の妨げとなっているなどの行為が典型事例として考えられます。

 居住用マンションにおいては、「その専有部分を専ら住宅として使用するものとし、他の用途に供してはならない」という住居専用規定がありますから、この用途に違反して事業用に使用されている場合も、不当使用行為に含まれる可能性があることになります。

 実際に、事業用の使用行為が管理規約に違反し共同利益背反行為と認定され、使用禁止命令が判決で命じられるかどうかは、当該住戸の所在地で法人登記がなされているなどの事情があっても、それだけで単純に判断されるものではありません。管理規約の成立の経緯や、実際の適用状況(当該住戸だけが違反しているのか、他の住戸にも違反は見られるのか、それぞれの違反の程度)、当該住戸の実際の利用状況、当該事業行為の必要性の程度、これによって他の区分所有者が被る不利益の態様、程度などの諸事情を比較考量して決定されることになります。使用禁止請求に関する判例をいくつかご紹介致します。

東京高裁平成23年11月24日判決
『主文 被控訴人は、別紙物件目録記載の建物を税理士事務所として使用してはならない。』
『前記認定事実によれば、昭和58年に住居専用規定が設けられた当時、本件マンションの2階以上の階において、皮膚科医院及び歯科医院として使用されていた区分所有建物が各1戸あったが、いずれも遅くとも平成6年ころまでに業務を廃止し、住居として使用されるに至っていることが認められる。住居専用規定が設けられて以降、控訴人は、新たに本件マンションの区分所有権を取得した者に対し、本件管理規約の写しを交付してその周知を図り、住居専用規定に反すると考えられる使用方法がある場合には、住居専用規定に反する使用方法とならないよう努め、被控訴人が税理士事務所としての使用を継続して、住居専用規定の効力を争っているのを除き、順次住居専用規定に沿った使用方法になるよう使用方法が変化してきていることが認められる。上記の認定事実に照らせば、住居専用規定が被控訴人主張のように規範性を欠如しているものとは認めがたい。』
『住居専用規定は、本件マンションの2階以上において、住居としての環境を確保するための規定であり、2階以上の専有部分を税理士事務所として営業のために使用することは共同の利益に反するものと認められる。』

 この高裁判決では、現実のマンションの管理状況を審査して、住居専用規定が概ね守られており空文化していないとして、規範性を維持していると判断し、かつ、税理士事務所として使用することが、住居としての環境を確保する区分所有者の共同の利益に反する行為であると認定し、使用禁止命令を発令しました。


東京地裁平成17年6月23日判決
『原告が、住戸部分を事務所として使用している大多数の用途違反を長期間放置し、かつ、現在に至るも何らの警告も発しないでおきながら、他方で、事務所と治療院とは使用態様が多少異なるとはいえ、特に合理的な理由もなく、しかも、多数の用途違反を行っている区分所有者である組合員の賛成により、被告乙山及び丁原に対して、治療院としての使用の禁止を求める原告の行為は、クリーンハンズの原則に反し、権利の濫用といわざるを得ない。』

 本件は、JR総武線の駅から250mに位置し、都市計画上の商業地域に指定された地域に立地する居住用マンションにおいて、カイロプラクティック治療院として住戸が使用されていたことから、管理組合により使用禁止を求めて提訴された事案でした。判決では、完全予約制であっても、カイロプラクティック治療院としての使用は、居住者の生活の平穏を損なう恐れが高いものといわざるを得ず、住居専用規定に違反していると、判断しています。ただし、当該マンションの住居部分29戸のうち、24戸において事務所使用が確認されているので、規約に違反している組合員による多数決の決議により差し止め請求の法的手続を採ることが決議されており、クリーンハンズの原則に反し、権利の濫用にあたるので、原告は請求できないという結論を出しています。クリーンハンズの原則というのは、法律の保護を求める者は、法律違反(ここでは管理規約違反)をしない「綺麗な手」で請求しなければならないという法原則です。自ら管理規約違反をしている多数派組合員により使用禁止請求がなされているので、権利の濫用として権利の行使ができないと判断されています。各種法令や契約内容により、形式的には権利があるように見えていても、いわば自己矛盾があるので権利行使が制限されるべきであるという考え方です。権利濫用が禁止されるのは、民法1条3項に定められた私法の基本原則によるものです。

民法第1条(基本原則)
第1項 私権は、公共の福祉に適合しなければならない。
第2項 権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない。
第3項 権利の濫用は、これを許さない。


 従って、管理組合の立場で、用途違反の住戸に対して使用禁止を求めていく場合には、当該住戸が法人登記されているとか、事業行為が行われている証拠を提示するだけでなく、当該マンション全体の利用状況、普段の管理状況にも注意を払う必要があるということになります。その際、当該マンションが、都市計画上のどのような用途地域に所在しているかも影響があることになります。例えば、駅前徒歩1分で都市計画図で商業地域に指定されている立地で、1階に商業テナントが入居しており、2階以上の住戸において管理規約で住居専用規定が定められていたとしても、実際には多数の組合員(区分所有者)が法人登記をして事務所使用をしているなどの事情がみられる場合には、違反している組合員による使用禁止請求の決議が、権利濫用であると判断されてしまうリスクがあることになります。


3、共同利益背反行為が著しく、利用禁止請求手続では共同生活の維持を図ることが困難であるときは、区分所有法60条1項に基づき、訴訟により、占有者の専有部分に対する賃貸借契約の解除と明け渡しの請求をすることができます。


区分所有法第60条(占有者に対する引渡し請求)
第1項 第五十七条第四項に規定する場合において、第六条第三項において準用する同条第一項に規定する行為による区分所有者の共同生活上の障害が著しく、他の方法によつてはその障害を除去して共用部分の利用の確保その他の区分所有者の共同生活の維持を図ることが困難であるときは、区分所有者の全員又は管理組合法人は、集会の決議に基づき、訴えをもつて、当該行為に係る占有者が占有する専有部分の使用又は収益を目的とする契約の解除及びその専有部分の引渡しを請求することができる。


 この規定は、区分所有法57条の使用禁止請求に比べて、「共同生活上の障害が著しく」という要件と、「他の方法によってはその障害を除去して共用部分の利用の確保その他の区分所有者の共同生活の維持を図ることが困難である」という要件、更に「集会の決議」という要件、「訴えをもって」という要件が加重されています。単なる使用禁止命令だけでなく、契約解除や引渡命令まで法的に強制する手段ですので、要件が厳しくなっています。本来、占有部分については他の区分所有者は何ら権利を有していませんから、当該占有部分の区分所有者に、管理組合に対して占有部分を引き渡せとは言えないのが原則ですが、本条項で特別に管理組合への引き渡しを可能としています。また、居住用マンションの専有分で営業する場合は区分所有と営業する占有者は賃貸借契約を締結することが多くみられることからこと建物賃貸借契約の解除も管理組合ができることも認めた規定です。
過去の判例では、暴力団事務所としての使用があったケース(最高裁昭和62年7月17日判決)や、宗教団体の修行所として使用があったケース(横浜地裁平成12年9月6日判決)などで、本条が適用された事例がありました。通常の事務所使用(取扱説明書などの技術文書作成会社)でも本条が適用された事例がありますので、ご紹介致します。

東京地裁八王子支部平成5年7月9日判決
『本件建物のように住居専用部分と店舗専用部分からなる複合住宅において、本件管理規約及び使用細則の定める右専用部分の区画に従って利用することは、居住者の良好な環境を維持する上で基本的で重要な事柄であり、区分所有者である居住者の共同生活上の利益を維持・管理するために不可欠な要件であると認められる。
即ち、本件建物は一階一六戸を店舗専用部分、二階ないし七階三八戸を住居専用部分と明確に区画している複合用途のマンションであるが、このようなマンションにおいては、当初から、右の明確な区画の維持によって良好な住環境を確保することが予定されている。その二階の住居専用部分(二百五号)が被告会社の事務所として使用されること自体により、周囲の居住環境に変化をもたらすことは否定できない。更に、被告会社の管理規約違反を放置すると、住居専用部分と店舗専用部分との区画が曖昧になり、やがては居住環境に著しい変化をもたらす可能性が高いばかりでなく、管理規約の通用性・実効性、管理規約に対する信頼を損なう、ひろく、他の規約違反を誘発する可能性さえある。
加えて、管理組合が繰り返して被告会社に対し、用途違反を是正し、本件専有部分から退去するよう勧告したが、これに対する被告会社の対決・強硬の態度が変わらず、本件が本件建物における他の事例とは事案を異にしていることなど、前記1(一)ないし(三)の事実関係も併せ考えると、被告会社の前記三1(二)の事務所使用は、建物の管理又は使用に関し区分所有者の共同の利益に反する行為(建物の区分所有等に関する法律第六条一項)で、それによる区分所有者の共同生活上の障害が著しく、他の方法によってその障害を除去して区分所有者の共同生活の維持を図ることが困難であるとき(同法六〇条1項)に当たるものというべきである。』


 この判例で注目すべき点は、「他の方法によってはその障害を除去して共用部分の利用の確保その他の区分所有者の共同生活の維持を図ることが困難である」といういわゆる補充性の要件について、当事者間の従来の交渉経緯が大きく影響していることです。「管理組合が繰り返して被告会社に対し、用途違反を是正し、本件専有部分から退去するよう勧告したが、これに対する被告会社の対決・強硬の態度が変わらず、本件が本件建物における他の事例とは事案を異にしていること」が重視されて、補充性の要件が認定されています。従って、使用禁止命令(区分所有法57条1項)に留まらず、賃貸借契約解除と明け渡し(同法60条1項)まで求める場合は、補充性の要件を満たすために、訴訟提起に至る段階における交渉の経緯についても詳細に記録を残しておくことが重要であると言えるでしょう。


4、外壁やベランダに看板を設置する行為も、不当使用行為となり得ます。

これらの行為では、通常、区分所有法17条1項に基づき、@ベランダや外壁が共用部分と言えるかどうか、A看板設置行為が管理組合総会決議が必要な変更行為にあたるかどうか、という2点が法的論点となります。ベランダや外壁は通常共用部分であり、看板を掲げる行為は共用部分に対する変更となり、必要な総会決議を経ていないということになれば、管理組合としては、規約違反及び、共用部分の所有権者として物権的請求権に基づき、妨害排除請求として看板の撤去を請求しうることになります。

区分所有法第17条(共用部分の変更)
第1項 共用部分の変更(その形状又は効用の著しい変更を伴わないものを除く。)は、区分所有者及び議決権の各四分の三以上の多数による集会の決議で決する。ただし、この区分所有者の定数は、規約でその過半数まで減ずることができる。

 @の論点について、区分所有建物の共用部分は、区分所有法2条4項及び4条に規定されています。これには「法律上当然の共用部分(法定共用部分)」と「規約により共用部分となるもの(規約共用部分)」の2種類があります。前者は、共用廊下や階段やエレベーター室などがあり、後者は集会室などがあります。バルコニーは専有部分以外の建物の部分であり、災害時の避難経路ともなっていることから、法定共用部分と解釈されています。国土交通省の標準管理規約8条と別表第二と14条で、バルコニーは専用使用権が設定された共用部分とされています。

区分所有法第2条(定義)
第4項 この法律において「共用部分」とは、専有部分以外の建物の部分、専有部分に属しない建物の附属物及び第四条第二項の規定により共用部分とされた附属の建物をいう。
同法第4条(共用部分)
第1項 数個の専有部分に通ずる廊下又は階段室その他構造上区分所有者の全員又はその一部の共用に供されるべき建物の部分は、区分所有権の目的とならないものとする。
第2項 第一条に規定する建物の部分及び附属の建物は、規約により共用部分とすることができる。この場合には、その旨の登記をしなければ、これをもつて第三者に対抗することができない。


 Aの論点については、共用部分の形状または効用を確定的に変更することですが、改良行為を含む軽微な変更については通常の管理行為に含まれるものとして区分所有法18条の普通決議で対応可能とされています。

 この問題について、分譲マンションの店舗及び車庫の上の外壁と陸屋根の接続部分(パラペット)に看板が設置された事例に関する判例がありますので、ご紹介致します。

大阪高裁昭和62年11月10日判決
『一階車庫部分の陸屋根(屋上)は、本件マンションの基本的構造部分であり、しかも二階以上の区分所有者の避難用空間ないし通路としての機能・目的をも兼ね備えているから、共用部分に当たることは明らかであるところ、本件パラペット部分は、右陸屋根に接着し、かつ、その先端の保護ないし危険防止のためのものとみられるから、その構造上、右共用部分たる陸屋根と同様の性質を帯有するものと認めるのが相当である。』
『本件看板は本件パラペット部分の外壁面に大幅な改装を加えるほか、ビスを用いて物品をコンクリート壁面に固定したものであつて、壁面の損傷拡大の危険なしとしないこと、本件看板の撤去にそれほど困難を伴わないとしても、その設置が一時的なものではないこと、マンションの建物の外観は専有部分の経済的価値に大きな影響を与えるが、本件看板は規模のかなり大きなものであつて、その設置が本件マンションの外観にあたえる影響は少なくないことなどの諸点を考えると、本件パラペット部分に看板を設置することは、同部分の物理的性状を著しく変えるものといえるから、建物区分法上、共用部分の変更に該当するものというべきである。』
『以上によれば、第一審原告は、共用部分たる本件パラペット部分の共有持分権から生ずる物権的請求権に基づき、保存行為として、第一審被告に対し、右部分の外壁面に設置された本件看板の撤去(塗装部分の消去を含む)を求めることができるというべきであり、したがって第一審原告の本件請求は理由がある。』

 この判例で注目すべき点は、「マンションの建物の外観は専有部分の経済的価値に大きな影響を与える」とした上で、「本件看板は規模のかなり大きなものであつて、その設置が本件マンションの外観にあたえる影響は少なくないことなどの諸点を考えると、本件パラペット部分に看板を設置することは、同部分の物理的性状を著しく変えるものといえる」と判断していることです。そもそも看板というのは外から見えなければ意味が無いものですから、この判例の理屈で言えば、管理組合の承諾の無い大きな看板はほとんどのケースで規約違反になってしまう可能性が高いと考えられます。

 この判例で問題となったパラペット部分というのは一般に馴染みが薄いかも知れませんが外壁の一部と考えることができますので、マンションの外観に変更を加える点で、ベランダ(バルコニー)に看板を設置することも同様に考えることができます。ベランダの看板の撤去を求める場合は、管理組合から当該区分所有者に対処を請求し、協議がまとまらない場合は、裁判上の請求を検討することになります。お困りの場合は資料を持参してお近くの法律事務所にご相談なさると良いでしょう。


<参照条文>

区分所有法18条(共用部分の管理)
第1項 共用部分の管理に関する事項は、前条の場合を除いて、集会の決議で決する。ただし、保存行為は、各共有者がすることができる。
第2項 前項の規定は、規約で別段の定めをすることを妨げない。
第3項 前条第二項の規定は、第一項本文の場合に準用する。
第4項 共用部分につき損害保険契約をすることは、共用部分の管理に関する事項とみなす。

国土交通省標準管理規約
第8条(共用部分の範囲)対象物件のうち共用部分の範囲は、別表第2に掲げるとおりとする。
別表第2 共用部分の範囲
1 エントランスホール、廊下、階段、エレベーターホール、エレベーター室、共用トイレ、屋上、屋根、塔屋、ポンプ室、自家用電気室、機械室、受水槽室、高置水槽室、パイプスペース、メーターボックス(給湯器ボイラー等の設備を除く。)、内外壁、界壁、床スラブ、床、天井、柱、基礎部分、バルコニー等専有部分に属さない「建物の部分」
2 エレベーター設備、電気設備、給水設備、排水設備、消防・防災設備、インターネット通信設備、テレビ共同受信設備、オートロック設備、宅配ボックス、避雷設備、集合郵便受箱、各種の配線配管(給水管については、本管から各住戸メーターを含む部分、雑排水管及び汚水管については、配管継手及び立て管)等専有部分に属さない「建物の附属物」
3 管理事務室、管理用倉庫、清掃員控室、集会室、トランクルーム、倉庫及びそれらの附属物
第14条(バルコニー等の専用使用権)
第1項 区分所有者は、別表第4に掲げるバルコニー、玄関扉、窓枠、窓ガラス、一階に面する庭及び屋上テラス(以下この条、第21条第1項及び別表第4において「バルコニー等」という。)について、同表に掲げるとおり、専用使用権を有することを承認する。
第2項 一階に面する庭について専用使用権を有している者は、別に定めるところにより、管理組合に専用使用料を納入しなければならない。
第3項 区分所有者から専有部分の貸与を受けた者は、その区分所有者が専用使用権を有しているバルコニー等を使用することができる。



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