新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.1652、2015/11/13 12:00 https://www.shinginza.com/qa-souzoku.htm

【登記、「遺産分割による代償譲渡」の登記申請を法務局はなぜ認めないのか、最高裁判所平成20年12月11日判決】

代償分割が行われた場合の登記方法

質問:
両親が相次いで他界し、3人兄弟で遺産分割協議をしています。主な遺産は自宅土地建物のみで、預貯金などもありません。私は長男で、弟と妹が居ります。両親ともに遺言書はありません。兄弟間で、実家を売却するような遺産分割はしないという点では合意ができていますが、弟と妹は、実家を長男である私に相続させるから、代わりに、私が昔から所有しているワンルームマンションをそれぞれ1室譲渡しろと要求してきました。それぞれ、実家の土地建物の時価の3分の1に相当する価値に満たないものですが、弟と妹は実家を守ってくれるなら同意すると言ってくれています。このような遺産分割は可能でしょうか。税金の関係はどうなりますか?



回答:
1、遺産分割は、遺産(相続財産)を分割するのですが、遺産の分割が困難で相続人全員の了解が得られない場合、相続人が有している固有の財産を他の相続人に譲渡して、遺産分割を成立させることも可能です。このような方法を代償分割と言います。通常は相続人が他の相続人に金銭を支払うというのが多いと考えられますが、その他の価値のあるものを代償として譲渡することも可能です。従って、ご相談のようにマンションの一室を譲渡するということも相続人間の合意により可能です。

2、問題となるのは、相続人の固有財産であるマンションを譲渡する場合には、どのような登記原因で登記すればよいかというです。
 この点について、法務局は「遺産分割による贈与」または「遺産分割による交換」という登記原因により、従来登記してきました。代償分割による譲渡は、単なる「贈与」や「交換」とも異なりますが、民法に「代償分割」という法形式が無いために、苦肉の策として編み出された登記原因の公示方法です。この点については疑問点もあり、最高裁判所の判例もありますが、現在の登記実務では、代償分割の場合、上記の二つの登記原因しか認めていません。そのため「遺産分割による代償譲渡」を登記原因として登記申請しても補正を命じられることになります。

3、税金については、今回の遺産分割について課税されるのは、相続税と、譲渡所得税と、不動産取得税です。問題となるのは、「遺産分割による贈与」という登記原因で登記した場合に、贈与税が課せられないかという点です。この点については、遺産分割による代償譲渡であることを説明すれば、贈与税は課せられません。但し、税務署は、贈与という文言があると贈与税の申告について問い合わせてくる可能性が高いといえますので、代償譲渡であることを説明できるようにしておく必要があります。


解説:

1 遺産分割

 遺産分割とは、被相続人の死亡により、相続人全員の共有状態となっている相続財産について、それぞれ相続人固有の財産とすることをいいます。民法では、遺産分割については、次の順番で行うよう条文が設けられています。

@遺言による相続分の指定(民法908条)
 被相続人が遺言で相続分を指定をしている場合にはそれに従います。
A相続人間の協議(民法907条1項)
 相続人全員で協議を行います。
B家庭裁判所における分割(民法907条2項)
 相続人間で協議が整わない場合、または協議ができない場合には家庭裁判所に分割を請求します。

第907条(遺産の分割の協議又は審判等)
第1項 共同相続人は、次条の規定により被相続人が遺言で禁じた場合を除き、いつでも、その協議で、遺産の分割をすることができる。
第2項 遺産の分割について、共同相続人間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、各共同相続人は、その分割を家庭裁判所に請求することができる。
第3項 前項の場合において特別の事由があるときは、家庭裁判所は、期間を定めて、遺産の全部又は一部について、その分割を禁ずることができる。
第908条(遺産の分割の方法の指定及び遺産の分割の禁止)被相続人は、遺言で、遺産の分割の方法を定め、若しくはこれを定めることを第三者に委託し、又は相続開始の時から五年を超えない期間を定めて、遺産の分割を禁ずることができる。


2 遺産分割の方法

 ご相談のように、遺言がない場合の遺産分割協議ではまず相続人間の協議での分割を試みます。そして、それぞれの相続分に応じて遺産の帰属先を決定していくことになりますが、その方法には以下のようなものがあります。

@現物分割:遺産をその状態のままで取得者を決める分割方法。同じような価値の不動産が3件あれば、それぞれ1件ずつ相続しますし、一筆の土地であれば価値が同じになるように3分割の分筆登記を行って、それぞれが各筆を取得することになります。
A換価分割:遺産を売却して、その売却代金を相続人間で分ける分割方法
B代償分割:共同相続人のうちの一部の者が遺産を多く相続し、その代わりに他の相続人に代償金を取得させる分割方法
 
@は一般的に行われている分割方法です。Aの換価分割は、一度法定相続人全員の共有名義の相続登記をした後に、第三者に売却をして、その売却代金を分割します。Bの代償分割は、遺産の主な物が不動産のみで、かつ、その不動産を今後も維持する必要がある場合などに選択される方法です。今回ご相談いただいた遺産分割の方法は、この「B代償分割」に該当します。法定相続分による分割が容易な現金や預貯金は別として、不動産について安易に法定相続分で共有とする分割をしてしまうと、将来的に共有者間での不動産の維持(補修や売却等)に関する考え方に相違が発生したり、次の相続(孫の世代が相続人)が開始した場合にはさらに権利関係が複雑になっていくというデメリットを抱えるため、できる限り共有関係を回避する方向での遺産分割がなされる傾向にあります。


3 相続人固有の不動産による代償分割と登記

 代償分割は金銭による代償金の支払いが原則です。しかし、不動産を取得する相続人が代償金相当の金銭を用意できない場合には、その相続人の所有する固有の不動産を他の相続人に差し出すことによって代償金の支払いに代える分割方法も認められています。このことは、金銭が用意できる場合でも相続人が特定の不動産の取得を希望する場合も同様です。

 特定の不動産を代償譲渡する場合の登記原因ですが、従前の登記実務の取り扱いでは、「遺産分割による交換」あるいは「遺産分割による贈与」とされ、それ以外の登記原因は認められていません。この点について、「遺産相続による代償譲渡」という登記原因の登記申請を受理しない法務局の処分について最高裁の判例は、処分の取消という判断を示しました。しかし、最高裁の判例の後も法務局、受理しても登記原因を従来から認めている「遺産分割による交換」あるいは「遺産分割による贈与」への補正を命じています。
遺産については、遺産分割協議により取得した不動産を登記する場合の登記原因は「相続」となります。しかし、代償相続の場合に取得する財産は、被相続人の遺産ではなく他の相続人の固有の財産ですから「相続」により取得したのではありませんから登記原因も相続とはなりません。そこで上記のような登記原因となります。問題は、なぜ「遺産相続による代償譲渡」という登記原因による登記ができないのかという点です。
なお、「遺産分割」という登記原因もありますが、これは、遺産について遺産分割協議成立前に法定相続分で相続の登記を完了している場合、後日遺産分割協議が成立して、その協議書に基づいて登記をする場合の登記原因ですので、代償譲渡とは関係がありません。

 しかし、相続人が遺産分割のために自己の固有の不動産を譲渡するという、分割方法は単なる「交換」でも「贈与」でもなく、「遺産分割に際しての代償としての譲渡」が法律上の原因といえますから、「交換」「贈与」どちらの登記原因も物権変動を正確に公示しているとはいえません。また「贈与」と公示した場合には、贈与税が課税される懸念もあります。

 登記制度を物権変動を正確に公示する制度と考え、その為に登記原因を登記簿に記載するのであるとすれば、物権変動を正確に表していない上記の登記原因を認め、それ以外の登記原因(「遺産分割による代償譲渡」という登記原因)を認めない法務局の対応は、どこに原因があるのでしょうか。

 この点については、そもそも「登記原因」とはどのようなものなのでしょうか。理解しておく必要がります。

 不動産登記法における「登記原因」とは不動産登記法第5条2項但書から「登記の原因となる事実又は法律行為」であるとされています(「売買」「相続」「処分禁止の仮処分」など)。事実または法律行為を登記簿に記載することにより物権変動の原因を明らかにするのが不動産登記法の趣旨と考えらます。そのためには、端的に物権変動の原因が明らかにされている必要があり、事実または法律行為について最小限に分析して記載する必要があることになります。そうだとすると「登記原因」として記載される事実なり法律行為は限定されている必要があることになります。登記原因は、不動産登記法や民法等の法律によって例示列挙等により定められているものではないのです。

 例えば所有権が移転する場合の登記原因には様々なものがありますが、この場合に登記実務上認められている「登記原因」は、「売買」「贈与」など民法の典型契約として規定された法律行為のほか、法務省の先例、通達等により決められているのです。

 そして、「登記原因」は同法59条3号によって、原因日付とともに権利に関する登記の登記事項と定められ(「平成○年○月○日売買」「平成○年○月○日相続」など)、これについては、登記の申請時において登記原因証明情報を提供するものとして(同法61条)、申請時の申請情報における登記原因と当該登記原因証明情報の内容が合致しない場合には当該登記申請を却下するものされています(同法25条)。

不動産登記法
(登記がないことを主張することができない第三者)
第五条  (略)
第2項 他人のために登記を申請する義務を負う第三者は、その登記がないことを主張することができない。ただし、その登記の登記原因(登記の原因となる事実又は法律行為をいう。以下同じ。)が自己の登記の登記原因の後に生じたときは、この限りでない。
(権利に関する登記の登記事項)
第五十九条  権利に関する登記の登記事項は、次のとおりとする。
一号 登記の目的
二号 申請の受付の年月日及び受付番号
三号 登記原因及びその日付
四号 登記に係る権利の権利者の氏名又は名称及び住所並びに登記名義人が二人以上であるときは当該権利の登記名義人ごとの持分
五〜八(略)
(申請の却下)
第二十五条  登記官は、次に掲げる場合には、理由を付した決定で、登記の申請を却下しなければならない。ただし、当該申請の不備が補正することができるものである場合において、登記官が定めた相当の期間内に、申請人がこれを補正したときは、この限りでない。
一〜七(略)
八号 申請情報の内容が第六十一条に規定する登記原因を証する情報の内容と合致しないとき。
九〜十三(略)

 以上から、今回のケースで、自分の所有する不動産を移転する際の登記原因を「遺産分割による代償譲渡」と表示することができないのは、移転の原因となった事実あるいは法律行為を明らかにしているとは言えないからと考えられます。譲渡というのは結果であって譲渡された原因が何なのか明らかになっていないためです。ただ、遺産分割による代償という制限的な文言が入ってくると、移転の原因は明らかになっているのでは、という疑問も残ります。

 そのような中、代償分割を定める調停調書に基づいて「遺産分割による代償譲渡」を登記原因とする登記申請した事例がありましたが、法務局において「登記原因証明情報が添付されていない」として却下されたため、受理を求める裁判が起こされました。この裁判では最高裁において、代償分割を定めた調停調書が登記原因証明情報として不足することは無いから受理すべきであると判断されました(最判平成20年12月11日判決)。この判例は、「遺産分割による代償譲渡」を登記原因とする登記申請を認めるべきだと判断したとも解釈できますが、その後の登記実務においては、当該判決を受けて「遺産分割による代償譲渡」を登記原因とする登記申請は受理しないとの民事局先例(平成21年3月13日民二第645号民事局第二課長回答)が出されています。

 登記実務(法務局の登記官のコンセンサス)では、先例の積み重ねによって蓄積されてきた登記原因を変更したり新たな登記原因を増やしたりすることに抵抗があると考える立場に立っているようです。登記原因が増えることは、登記を閲覧する国民からみれば、その意味合いをどのように理解すべきか、混乱を招く恐れがあると考えているのかもしれません。

 確かに、「代償分割」という言葉は実務上は定着した言葉ですが、共有物分割に際しての方法として民法で明記されていない概念である以上、「代償譲渡」についても、法令上その内容が不明確な文言と考えることもでき、登記原因として公示することは差し控えるべきだという価値判断が働いているものと思われます。登記原因を物権変動の原因となる事実あるいは法律行為とすると「代償譲渡」という文言は法律行為としての表現としては不正確あるいは分析不十分と評価できることは否定できないでしょう。

 よって、以上のことから実際に遺産分割で不動産による代償譲渡を行う場合においては、「遺産分割による代償譲渡」を登記原因とする移転登記はできないため、従来からの「遺産分割による贈与」ないし「遺産分割による交換」によって登記をする必要があります。

 つまり、登記実務当局としては、前記最高裁判所判例を、「代償分割を定めた調停調書を登記原因証明情報として申請する登記申請は受理すべきであるが、登記原因を新設すべきことまで判断したものではないので、従来の登記原因のいずれかにあてはめるよう補正することを申請者に指導できる。」と解釈して運用しているわけです。このような解釈方法は、登記実務に関わりあいの無い一般市民からは理解しにくいものかもしれませんが、登記原因の登記方法に関する従来の登記実務を考慮すれば全く違和感の無い、むしろ自然な解釈方法ということができるものです。

 この「遺産分割による贈与」を登記原因として登記する場合には、今回の不動産の譲渡については、贈与税の課税対象とされる可能性が生じますので、次項で述べるように代償分割による譲渡であって、単なる贈与ではないことを協議書ないし調書上明記しておく必要があるでしょう。

【登記申請却下処分取消請求事件】
最高裁判所平成20年12月11日判決
       主   文
1 原判決を破棄し,第1審判決を取り消す。
2 高知地方法務局登記官が平成18年10月5日付けでした上告人の同法務局同年9月11日受付第19865号所有権移転登記申請を却下する旨の決定を取り消す。
3 訴訟の総費用は被上告人の負担とする。
       理   由
 上告代理人Aの上告受理申立て理由について
1 本件は,登記義務者である上告人が,登記権利者と共同して,上告人名義の建物について所有権移転登記を申請したところ,高知地方法務局登記官から不動産登記法(以下「法」という。)61条所定の登記原因を証する情報(以下「登記原因証明情報」という。)の提供がないことを理由に申請を却下する旨の決定(以下「本件処分」という。)を受けたため,その取消しを求める事案である。
2 原審の適法に確定した事実関係の概要は,次のとおりである。
(1)上告人ほか4名の相続人の間で,平成18年6月15日,高知家庭裁判所において遺産分割調停が成立し,第1審判決別紙のとおりの調停調書(以下「本件調書」という。)が作成された。
 本件調書には,上告人が,被相続人の遺産である土地を取得した代償として,他の相続人2名(以下「本件譲受相続人」という。)に対し,同年8月末日限り,上告人所有の建物(以下「本件建物」という。)を持分2分の1ずつの割合で譲渡する旨の条項(以下「本件条項」という。)がある。なお、本件調書において,本件建物の譲渡は,上告人の本件譲受相続人に対する代償金支払義務があることを前提としてその支払に代えて行われるものとはされておらず,また,その譲渡に関し,本件譲受相続人から上告人に対して反対給付が行われるものとはされていない。
(2)上告人は,本件譲受相続人と共同して,平成18年9月11日,本件建物につき,登記原因及びその日付の記載を「平成18年6月15日遺産分割による代償譲渡」とし,登記原因証明情報として本件調書を添付した所有権移転登記の申請(以下「本件申請」という。)をした。 
(3)高知地方法務局登記官は,平成18年10月5日,本件申請につき,添付された本件調書には登記の原因となる事実又は法律行為(法5条2項)の記載がなく,登記原因証明情報の提供がないことを理由として,法25条9号の規定によりこれを却下する旨の本件処分をした。
3 原審は,上記事実関係の下において,本件処分は適法であると判断した。その理由の要旨は,次のとおりである。
 本件申請において登記原因証明情報として添付された本件調書中の本件条項には,上告人が遺産取得の代償として本件建物を譲渡する旨が記載されているものの,それがいかなる法律行為によるものであるかが特定明示されていない。本件条項をみても,本件建物の譲渡が有償であるか無償であるか,有償であるとして,だれとの間でどのような対価関係に立つものであるか等が必ずしも明らかではなく,物権変動の原因となる法律行為の特定がされているとは認められない。
 したがって,本件調書には,登記の原因となる法律行為を特定する記載がなく,本件調書は登記原因証明情報とはなり得ないので,本件申請は登記原因証明情報の提供を欠くというべきである。
4 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
 前記事実関係によれば,本件条項による合意は,上告人が遺産分割によって被相続人の遺産である土地を取得する代償として本件建物を本件譲受相続人に譲渡することを内容とするものであり,その譲渡は,代償金支払義務があることを前提としてその支払に代えて行われるものとはされておらず,また,本件建物の譲渡自体について本件譲受相続人から上告人に対して反対給付が行われるものとはされていないというのであるから,上記の合意は,上告人が本件譲受相続人に対し,遺産取得の代償として本件建物を無償で譲渡することを内容とするものであるということができる。
 そうすると,本件調書中の本件条項の記載は,登記の原因となる法律行為の特定に欠けるところがなく,当該法律行為を証する情報ということができるから,登記原因証明情報の提供を欠くことを理由に本件申請を却下した本件処分は違法というべきである。
5 以上と異なる原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨はこの趣旨をいうものとして理由があり,原判決は破棄を免れない。そして,以上説示したところによれば,本件処分の取消しを求める上告人の請求は理由があるから,これを棄却した第1審判決を取消し,上告人の請求を認容すべきである。
 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
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【法務省民二第646号平成21年3月13日民事局民事第二課長通知】
(通知)
標記について、別紙甲号のとおり東京法務局民事行政部長から当職あて照会があり、別紙乙号のとおり回答したので、この旨管下登記官に周知方取り計らい願います。

別紙甲号
二不登1第40号
平成21年3月4日
法務省民事局民事第二課長殿
東京法務局民事行政部長
「遺産分割による代償譲渡」を登記原因とする所有権移転の登記の可否について(照会)
登記原因を「平成年月日遺産分割による代償譲渡」とした所有権の移転の登記の申請は受理されないものと考えますが、近時、最高裁判所第一小法廷において、遺産分割調停調書に、相続人が遺産取得の代償としてその所有する建物を他の相続人に譲渡する旨の条項があるばあいにおいて、上記調書を添付してされた上記建物の所有権の移転の登記申請につき、登記原因証明情報の提供を欠くことを理由に却下した処分を違法とした判断が示されていることから、いささか疑義がありますので照会します。
参考:最高裁判所平成20年12月11日第一小法廷判決

別紙乙号

法務省民二第645号
平成21年3月13日
東京法務局民事行政部長殿
法務省民事局民事第二課長
「遺産分割による代償譲渡」を登記原因とする所有権移転の登記の可否について(回答)
本月4日付け2不登1第40号をもって照会のあった標記の件については、貴見のとおりと考えます。
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4 代償分割と税金

 代償分割が行われた場合、代償財産の交付を受けたことについては、相続税の課税価格として評価される(贈与税は掛からない)ことになります。相続税基本通達11の2−9を引用しますので、参考になさって下さい。贈与税が掛からないことを確実にするために、遺産分割協議書や調停調書などで、「代償分割」という文言を使うなど、代償分割であることが明示されるように工夫されると良いでしょう。

相続税基本通達11の2−9 代償分割の方法により相続財産の全部又は一部の分割が行われた場合における法第11条の2第1項又は第2項の規定による相続税の課税価格の計算は、次に掲げる者の区分に応じ、それぞれ次に掲げるところによるものとする。(平4課資2-231追加)
(1) 代償財産の交付を受けた者 相続又は遺贈により取得した現物の財産の価額と交付を受けた代償財産の価額との合計額
(2) 代償財産の交付をした者 相続又は遺贈により取得した現物の財産の価額から交付をした代償財産の価額を控除した金額
(注) 「代償分割」とは、共同相続人又は包括受遺者のうち1人又は数人が相続又は包括遺贈により取得した財産の現物を取得し、その現物を取得した者が他の共同相続人又は包括受遺者に対して債務を負担する分割の方法をいうのであるから留意する。

※参考URL、国税庁タックスアンサー
http://www.nta.go.jp/taxanswer/sozoku/4173.htm


 代償分割で譲渡される資産(代償財産)が不動産である場合は、不動産を時価で譲渡したことになりますので、譲渡した方(相続不動産を単独相続して、代わりに固有不動産を譲渡した相続人)に譲渡所得税が掛かり、譲渡を受けた方(相続不動産を取得しない代わりに、単独相続する相続人から別の不動産の譲渡を受けた相続人)に不動産取得税(都道府県税)が掛かることになります。

@譲渡所得税について

 代償譲渡の代償として交付した相続人固有の不動産は、「履行時」の時価でその資産を譲渡したこととなり、交付した相続人には所得税が課税されます。譲渡所得の計算は、譲渡時の時価から譲渡費用と取得時の取得価格を控除したものが、譲渡所得となります。取得価格を証する書面が無い場合は、譲渡価格の5パーセントを取得価格として課税されることがありますので注意が必要です。

A不動産取得税について

 代償として相続人固有の不動産を取得した相続人には、「履行時」の時価により不動産を取得したものとして地方税である不動産取得税が課税されます。土地も建物も、固定資産評価額に、税率を乗算するのが税額計算の原則となります。


5 最後に

 今回のようなご兄弟からの提案のような遺産分割方法は可能です。ただ、税金の問題がありますので、遺産分割協議書については、その点を踏まえた上で検討、作成する必要があります。通常法律事務所では遺産分割協議が成立しない場合の協議の段階はもちろん、合意が成立している場合でも、遺産分割協議書の作成のみ、あるいは、遺産分割協議書の作成とその後の登記手続きについてのご依頼も受けておりますので、お気軽にご相談ください。


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