新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.1613、2015/06/07 12:00 https://www.shinginza.com/qa-seikyu.htm

【民事、法テラス、民事法律扶助制度、訴訟救助、法律事務所を送達場所とする旨の上申書

法テラスの利用と訴訟救助,被告が住居所不明の場合の訴状送達方法


質問:
 私は、学生ですが知人に100万円を貸していました。しかし、知人と連絡が取れなくなってしまいました。100万円については裁判をしてでも取り戻したいのですが、私には資力がありません。裁判等のための弁護士費用を立て替えてくれる制度として法テラスというのがあると聞いたのですが、どのように利用したら良いのでしょうか。
詳しい事情は次のとおりです。
 私は,知人に全財産である100万円程度のお金を騙し取られました。一連のやり取りについては,全てLINEに証拠として残っています。返してほしいと言っても,正当に受け取ったものだからと主張して一切応じてくれず,ついにはLINEをブロックされてしまいました。心配になって当該知人の住所地に直接伺ってみると,何と別の人がそこに住んでいました。そこで,携帯電話に連絡したところ,すぐに電話を切られてしまい,着信拒否にされてしまいました。
 途方に暮れていたところ,当該知人から依頼を受けたとする弁護士から内容証明郵便が届き,以後知人との直接のやり取りは控えるよう忠告すると共に,何か連絡があれば当該代理人宛に連絡するよう要請するというような内容が記載されていました。
 私としては,一刻も早く訴訟提起して100万円を取り戻したいのですが,現在私は学生で収入源がアルバイト程度しかないですし,金銭的に力になってくれる人も周りに居ない状況です。弁護士さんに依頼すると当然費用がかかるでしょうし,訴訟を提起するにあたって印紙代というのが別途かかるとも聞いたことがあるのですが,これらを支払えない場合は諦めるしかないのでしょうか。
 また,訴訟を経験したことのある知人の話では,被告とすべき知人の住居所が不明なため,そもそも訴状を送達できないのではないかとのことです。どうすれば良いでしょうか。

回答:

1 ご相談者様に弁護士費用を負担する経済能力がない場合でも,法テラスの審査が通れば,法テラスが弁護士費用を一時的に立て替えてくれます(民事法律扶助制度)。立替金は割賦償還の形式で償還する必要がありますが,月に5000円程度の償還と負担も少ない上に,事件終結まで償還を猶予してもらうこともできます。そのため,法テラスの審査が通れば,ご相談者様も金銭面を気にすることなく訴訟追行できると言えます。

 なお,法テラスが立て替えるのは原則として弁護士費用に限られますが,訴状提出時に必要な印紙代等の訴訟費用は,裁判所から訴訟救助の決定を受けることができれば免除されます。

 まずは,法テラスの審査を受けに行きましょう。法テラスの審査を受けるには、法テラスの無料法律相談から弁護士に依頼して審査を受ける方法と、あらかじめ法テラスと契約している弁護士を通じて審査を受ける方法があります。

3 次に,被告の住居所が不明な場合の送達先ですが,本件のように被告側に代理人が就いているようなケースでは,訴状についても被告代理人の事務所を送達先とすることができる場合があります。

  詳しくは解説をご参照ください。


解説:

第1 民事法律扶助の利用と訴訟救助決定の獲得

1 民事法律扶助制度の利用の流れ

 (1)「法テラス」は、正式には「日本司法支援センター」という名前の独立行政法人で、国民が法律的なサービスを円滑に受けることが可能とすることを目的としています。その事業のうちの一つである民事法律扶助とは,経済的にお困りの方が法的トラブルにあったときに,無料で法律相談を行い(「法律相談援助」),弁護士費用の立替えを行う(「代理援助」「書類作成援助」)制度です。法テラスでは無料での法律相談も受け付けていますから、この無料法律相談から相談した弁護士あるいは法テラスの紹介する弁護士から代理援助を利用することが可能です。但し、無料法律相談が混んでいて予約がすぐに取れないという場合もありますからその場合は、法テラスと契約している弁護士に直接相談し、そこで代理援助を利用するということもできます。本件でも,弁護士に依頼する経済的余裕がないということで、裁判所における民事事件に関する手続又はそれに先立つ示談交渉等における弁護士費用と実費の立替えを求めるべく,代理援助の制度を使うことになります。

(2)援助開始決定まで

 個別事件について,法テラスの代理援助・書類作成援助を利用するには,審査に回付して,援助開始決定を受ける必要があります。

ア 申込み先

 基本的には,依頼する弁護士が所属する弁護士会に対応した法テラス事務所に申し込むことになります。当事務所の弁護士は東京弁護士会に所属しているため,東京に所在する法テラス(法テラス東京,法テラス多摩,法テラス上野,法テラス池袋,法テラス八王子)に申し込むことになります。

イ 審査

 @資力基準に該当すること,A勝訴の見込みがないとはいえないこと,B民事法律扶助の趣旨に適することが援助開始決定を受けるための要件です。なお,Bについては,通常あまり問題となりません。

 申込みにあたって,あらかじめ以下の資料を提出すると共に,後日法テラスに実際に赴いて審査面談が行われることになります。

   (ア)提出書類

1 資力基準該当性を判断するための資料として,生活保護受給証明書,給与証明書,確定申告書の写し,各種公的年金又は手当等の受給書・通知等が挙げられます。ご自分の収入状況によって収入を証明できるこれらの書類が必要となります。ご相談者様の場合は,所得がないことを示す所得証明や学生であることを示す学生証の写し等を提出することになります。

2 勝訴の見込みを判断するために,申込みにあたっては,援助申込書,法律相談票,事件調書等の提出が義務付けられています。このうち特に重視されるのが,法律相談票の相談概要欄及び事件調書の事件概要欄(申込者の主張の要旨,予想される争点,証拠方法の概略,処理方針,訴額,勝訴・和解成立の見込み,相手方の支払い能力及び執行の可能性等を代理人弁護士が記載する)の記載です。また,これらの記載だけでは不十分と判断された場合は,審査面談の前に,訴状案を起案するよう法テラスから指示されることもあります。ご相談者様のケースでは,客観的な証拠としてのLINEデータが存在することを記載することになります。

   (イ)審査面談

      最終的に援助決定を出すか否か決めるために,法テラスの審査員が本人から直接話を聞くことになります。あらかじめ提出していた資料を基に,より具体的に,依頼の経緯について説明を求められることになります。

      本件の場合,客観的な証拠があるので,審査が通る可能性は十分にあるといえます。


(3)援助開始決定後

ア 代理援助契約書の作成

 援助開始決定後は,被援助者,受任・受託者(弁護士),法テラスの三者で契約を締結し,代理援助契約書が作成されます。

イ 訴訟費用の立替え

    契約書記載の実費や着手金は,法テラスが弁護士に立替払いします。決定書又は契約書に記載のある場合を除いて,弁護士に直接費用を支払う必要はありません。

ウ 立替金の償還

    立替費用については,援助開始決定後,原則として月額5千円〜1万円ずつ償還することになっています。ただし,事情によっては,償還金額を減額又は増額する場合があります。また,生活保護を受けている方又はそれに準じる程度に生計が困難である方については,事件進行中の償還を猶予する場合があります。

    ご相談者様は現在学生であり,資力に乏しいとのことですから,事件終結まで償還を猶予される可能性があります。


2 訴訟救助決定

 (1)訴訟上の救助とは

 訴訟上の救助(民事訴訟法82条1項本文)とは,訴訟費用(実質的には訴状に貼る印紙代のこと。本件の請求金額は100万円ですから、訴状に張る印紙は1万円です。100万円までは1パーセント、それを超えるとパーセントが少なくなります。)を支払う資力の乏しい者でも,裁判を受ける権利を保障するため,訴訟費用の支払を猶予する制度です。

 ただし,申立ての内容等から裁判に勝つ見込みがないことが明らかなときは,認められないことがあります(同条2項)。また,最低限必要な郵券代数千円程度は本人が負担する必要があります(訴状提出の際に裁判所に提出する郵便切手を予納郵券と言いますが金額は裁判所によって異なり、6000円程度と考えておけばよいでしょう。確実な金額は訴状を提出する裁判所で確認が必要です)。

 (2)申立ての方法

    訴訟救助を申し立てるときは、訴状には印紙を貼らずに、訴状と一緒に訴訟救助申立書を提出します。

(3)要件と本件の見通し

 訴訟救助の決定を受けるための要件は,訴訟費用を支払う資力がないこと及び勝訴の見込みがないとはいえないことです。

 まずは,代理援助の決定書の写しを提出することになります。しかし,資料として足りないと判断されてしまう場合もあり,その場合は,別途報告書等を提出することになります。

 ご相談者様は,学生であり,また金銭的に頼れる人もいないとのことですから,報告書等を求められたとしても,最終的には訴訟上の救助決定を受けられる可能性が十分にあると思われます。


第2 訴状の送達先について

1 原則

   当事者、法定代理人又は訴訟代理人は、送達を受けるべき場所(日本国内に限る。)を受訴裁判所に届け出なければならないとされています(民事訴訟法104条1項)。この規定を根拠に,訴訟代理人が就いた場合は,代理人の所属する法律事務所を送達場所として届け出るのが通常です。

 もっとも,訴状を被告に送達する場合,通常は訴訟代理人が就いているか否か不明であることから,民事訴訟法103条1項に従い,被告の住所,居所等に送達することになるのです。

 本件において,相手方は,ご相談者様が把握していた住所から既に引っ越してしまっています。そこで,住民票の除票が取得可能であれば取得し,仮に住民票が移っていれば,当該移転先に相手方が住んでいるか否かを確認することになります。他方,住民票が移っていなければ,住所の調査が必要になります。調査の上、所在が判明すればその住所を被告の住所として記載しますが、住民票上の住所も、併せて記載しおく必要があります。これは後日判決により強制執行する必要があった場合、本人の確認を住民票上の住所と同一ということで行う必要があるためです)。所在が不明な場合は、住民票上の住所を記載しておくことになります。この場合、被告への訴状の送達はできないことになりますから、公示送達の手続きにより送達することになります。なお、被告の住所が不明の場合でもご相談のように弁護士が代理人となっている場合,「訴訟代理人の法律事務所を送達場所とするよう要請する上申書」を裁判所に提出することになります。その場合は委任状等の提出が必要になりますので、説明します。


2 被告に訴訟代理人が就くことが判明している場合の例外

 本件ケースのように,既に被告から依頼を受けた弁護士が居ることが判明している場合,当該弁護士が被告訴訟代理人となることが確実といえれば,訴状送達段階から法律事務所を送達場所としても支障はないといえます。そこで,上記1記載の調査をしたにもかかわらず被告の住居所が判明しない場合,被告訴訟代理人の法律事務所を送達場所とする旨の上申書を裁判所に提出することが考えられます。実際に,当事務所が担当した事件でそのような扱いが認められた例も存在します。

 なお,この場合,あらかじめ被告訴訟代理人となる弁護士と連絡を取り,訴訟委任状を裁判所に提出してもらう等の協力を得る必要があります。また,訴状の当事者欄の記載は,被告の住居所を不明とした上で,最後の住所地を記載しておく必要があります。

 その他、住所地は判明しているが居留守を使うなどして郵便物の受領を拒否している場合には「付郵便送達」が検討され、職場のみ判明している場合は「就業場所送達」が検討され、住所も居所も不明であって文書受領権限のある代理人も居ない場合は「公示送達」が検討されることになります。


第3 まとめ

   これまで述べてきたとおり,本件ケースでは,法テラスの民事法律扶助制度及び裁判所の訴訟救助制度を利用し,訴訟終結までほとんど金銭的負担なく訴訟追行できる可能性が十分にあります。また,送達場所の上申書等も活用することで,被告の居場所が分からなくても問題なく訴訟を進められるといえます。諦める必要はありません。

   但し、判決が出たとしても実際に100万円を回収できるか否かは別の問題です。判決が出た場合は被告が任意に支払うのか、任意の支払いは期待できないので強制執行までする必要があるのか、その場合強制執行する資産はあるのかという点はあらかじめ検討しておく必要があります。判決が出ると、実際に支払ったかどうかとは関係なく弁護士費用として報酬が発生しますから、100万円回収できなくても費用が発生することになります。尚、強制執行の費用についても事前に弁護士と相談しましょう。最低でも20乃至30万円は必要となるでしょう。

   なお、「金銭を騙し取られた」ということですが、行為態様が悪質であれば、警察署に被害相談を行い、詐欺罪での被害届を提出することも検討すると良いでしょう。但し、詐欺罪として立件されるためには、最初から返すつもりが無く欺いて金銭を受領したという行為の立証が必要となりますので、金銭貸借の形式がある場合は、警察も民事不介入として被害届の受理に慎重になる場合もありますので、詳細かつ丁寧に説明することが必要となるでしょう。

以上

【参照条文】
民事訴訟法
(救助の付与)
第八十二条  訴訟の準備及び追行に必要な費用を支払う資力がない者又はその支払により生活に著しい支障を生ずる者に対しては、裁判所は、申立てにより、訴訟上の救助の決定をすることができる。ただし、勝訴の見込みがないとはいえないときに限る。
2  訴訟上の救助の決定は、審級ごとにする。
(救助の効力等)
第八十三条  訴訟上の救助の決定は、その定めるところに従い、訴訟及び強制執行について、次に掲げる効力を有する。
一  裁判費用並びに執行官の手数料及びその職務の執行に要する費用の支払の猶予
二  裁判所において付添いを命じた弁護士の報酬及び費用の支払の猶予
三  訴訟費用の担保の免除
2  訴訟上の救助の決定は、これを受けた者のためにのみその効力を有する。
3  裁判所は、訴訟の承継人に対し、決定で、猶予した費用の支払を命ずる。

(送達場所)
第百三条  送達は、送達を受けるべき者の住所、居所、営業所又は事務所(以下この節において「住所等」という。)においてする。ただし、法定代理人に対する送達は、本人の営業所又は事務所においてもすることができる。
2  前項に定める場所が知れないとき、又はその場所において送達をするのに支障があるときは、送達は、送達を受けるべき者が雇用、委任その他の法律上の行為に基づき就業する他人の住所等(以下「就業場所」という。)においてすることができる。送達を受けるべき者(次条第一項に規定する者を除く。)が就業場所において送達を受ける旨の申述をしたときも、同様とする。
(送達場所等の届出)
第百四条  当事者、法定代理人又は訴訟代理人は、送達を受けるべき場所(日本国内に限る。)を受訴裁判所に届け出なければならない。この場合においては、送達受取人をも届け出ることができる。
2  前項前段の規定による届出があった場合には、送達は、前条の規定にかかわらず、その届出に係る場所においてする。
3  第一項前段の規定による届出をしない者で次の各号に掲げる送達を受けたものに対するその後の送達は、前条の規定にかかわらず、それぞれ当該各号に定める場所においてする。
一  前条の規定による送達
     その送達をした場所
二  次条後段の規定による送達のうち郵便の業務に従事する者が日本郵便株式会社の営業所(郵便の業務を行うものに限る。第百六条第一項後段において同じ。)においてするもの及び同項後段の規定による送達
     その送達において送達をすべき場所とされていた場所
三  第百七条第一項第一号の規定による送達
     その送達においてあて先とした場所

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