新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.1571、2014/12/15 12:00 https://www.shinginza.com/seinen-kouken.htm

【家事事件、成年後見人等の報酬額のめやす、大阪家庭裁判所平成19年2月8日審判】

成年被後見人の親族への扶養料援助、介護報酬の支払い

質問:
85歳の父親が最近、軽い認知症になりかかっています。意識がはっきりしていて金銭の相談ができるときもあれば、あまり論理的な話はできないような時もあります。父は賃貸アパートや賃貸マンションも数戸ですが所有しているので契約の際の契約書作成や契約立会いなどに苦慮するようになってきました。知人から成年後見人の制度があるとアドバイスされましたが、私が成年後見の申立をして、私が成年後見人に就任することは可能でしょうか。私が後見人に選任されないことが明らかになった場合申し立てを取り下げることはできますか。なお、現在、父親から介護の費用として、生活費等の必要経費とは別に毎月5万円を受け取っています。この取り決めに従って、成年後見人に選任された後も、この介護の費用を受け取ることは可能でしょうか。



回答:
1、 成年後見人の資格について、民法847条で欠格事由が定められています。欠格事由に該当しない方であれば、どなたでも、家庭裁判所の選任を受けて、成年後見人に就任することができます。

2、 成年後見人の選任は、家庭裁判所の審判事項です。家庭裁判所は「成年被後見人の心身の状態並びに生活及び財産の状況、成年後見人となる者の職業及び経歴並びに成年被後見人との利害関係の有無、成年被後見人の意見その他一切の事情を考慮し(民法843条4項)」、後見人を選任することになりますが、実務上は、成年被後見人の同居親族が申立人となり、自分自身を成年後見人候補者として推薦している場合であって、他の扶養義務者全員に異論が無い場合は、申立人が成年後見人として選任されるケースも多い様です。ご相談の場合も、あなたが成年後見人に選任されることは可能です。

3、成年被後見人から、成年後見人に対して介護の費用を支払うことについては、そもそも扶養義務者が被後見人の生活費等とは別に介護の費用を請求できるか、という問題があります(被後見人の生活費等は当然被後見人が負担すべきですが、ここでの問題は必要経費ではなく介護の報酬に当たります)。扶養義務の範囲内の介護であれば、義務の履行であり介護の費用を請求することはできないと考えられるからです。もちろん扶養義務を超えるような介護をしている場合は、扶養義務の履行とは別に介護を行っていることになり介護の費用(報酬)を請求できることになります。そしてこの扶養義務を超える介護か否かは、成年後見人が判断することになります。成年後見人が善管注意義務を負担する管理者として、適切な支払いかどうか判断していくことになりますから、自分で受領する金員の妥当性を判断することになり、お手盛りとなり成年被後見人の利益を害するのではないか疑問となります。

 このように成年被後見人と成年後見人の利害が対立する場合は、本来は被後見人の特別代理人を選任して、成年後見人と特別代理人とで協議して決めるのが原則です(民法860,826条 但し、成年後見監督人が選任されている場合は、必要ありません)。しかし、金額もそれほど多額でない場合まで、特別代理人を選任する必要があるか、については疑問です。そこで、他の扶養義務者から介護の報酬を受領することの了解を得て、その上で、特別代理人の選任が必要か否か家庭裁判所に事前に相談するのが良いでしょう。

4、御相談者が成年後見人に選任されない可能性が高くなっても、家庭裁判所の許可がないと申立を取り下げることはできません。成年後見の制度は被後見人の保護が目的ですから、選任の必要を家庭裁判所が検討し、後見人の選任が必要となれば、選任して被成年後見人を保護する必要があり、家裁の許可がない限り申立は取り下げることはできません(家事事件手続法121条)。家裁の許可を得るためには成年後見制度の趣旨に反しない理由が具体的に必要になりますので、個人的な不都合だけでは取下げは認められないでしょう。

5、関連事例集1065番参照。
   

解説:

1、 成年後見人は、当人の判断能力に障害があり、「精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある者について」、本人、配偶者、四親等内の親族などの申立によって、家庭裁判所により後見開始の審判がなされます(民法7条)。

 ご相談のケースのように、認知症によって、賃貸アパートや賃貸マンションの、入居契約締結などの行為が困難となってきた場合にも、成年後見人の申立をすることができます。この判断能力の障害については、医師による鑑定や、診断書の提出によって確認されます。

 成年後見人の資格について、民法847条で欠格事由が定められていますが、欠格事由に該当しない方であれば、どなたでも、家庭裁判所の選任を受けて、成年後見人に就任することができます。

民法第847条(後見人の欠格事由)
次に掲げる者は、後見人となることができない。
一号  未成年者
二号  家庭裁判所で免ぜられた法定代理人、保佐人又は補助人
三号  破産者
四号  被後見人に対して訴訟をし、又はした者並びにその配偶者及び直系血族
五号  行方の知れない者

 これを見ると、同居している通常の親子関係では、子供が成年後見人候補者となって、親を成年被後見人とする成年後見の申立をすることができることが分かります。

2、 成年後見人の選任は、家庭裁判所の審判事項と定められですから、「成年後見人を選任するには、成年被後見人の心身の状態並びに生活及び財産の状況、成年後見人となる者の職業及び経歴並びに成年被後見人との利害関係の有無、成年被後見人の意見その他一切の事情を考慮し(民法843条4項)」、裁判所が選任することになりますが、実務上は、成年被後見人の同居親族が申立人となり、自分自身を成年後見人候補者として推薦している場合であって、他の扶養義務者全員に異論が無い場合は、申立人が成年後見人として選任されるケースも多い様です。

 他方、成年被後見人の実子が数名居て、この実子間で意見の相違が見られる場合(紛争性がある場合)や、成年被後見人の財産が多額で、資産の種類も多様で、財産管理に職業的な専門知識が必要であるような場合には、成年後見開始審判の申立人が推薦する成年後見人候補者がいる場合でも、裁判所に設置された候補者リストの中から専門職、例えば人の権利義務に関する法律問題に精通した弁護士等の後見人が選任されることになるケースが多いと言えます。

3、 後見人の職務は、事理弁識能力(民法7条)を失ってしまった本人に代わって、様々な財産上の契約を締結したり(民法859条1項)、本人の療養看護に関する事務(民法858条)を行うことです。

第858条(成年被後見人の意思の尊重及び身上の配慮)
成年後見人は、成年被後見人の生活、療養看護及び財産の管理に関する事務を行うに当たっては、成年被後見人の意思を尊重し、かつ、その心身の状態及び生活の状況に配慮しなければならない。
第859条(財産の管理及び代表)
第1項 後見人は、被後見人の財産を管理し、かつ、その財産に関する法律行為について被後見人を代表する。

 この858条の療養看護の事務というのは、成年後見人自身が成年被後見人の介護を行うという意味ではなく、成年被後見人の財産の範囲内で、成年被後見人の生活や療養看護に配慮して、必要な介護サービスを締結して、その契約が適切に実施履行されているかどうか、定期的にチェックするというものです。

 後見人の職務には委任契約の規定が適用され(民法869条)、善良なる管理者の注意(いわゆる善管注意義務、民法644条)を負担することになりますので、成年被後見人の資産状況に照らして、法外な(合理性のない)介護報酬を支払う契約は維持することができないと思われます。

 善良なる管理者の注意とは、その者の職業,その属する社会的・経済的地位に応じて一般的に要求される程度の注意義務をいいます。善管注意義務の基本判例を引用します。

最高裁判所昭和46年6月10日判決「おもうに、銀行が当座勘定取引契約によつて委託されたところに従い、取引先の振り出した手形の支払事務を行なうにあたつては、委任の本旨に従い善良な管理者の注意をもつてこれを処理する義務を負うことは明らかである。したがつて、銀行が自店を支払場所とする手形について、真実取引先の振り出した手形であるかどうかを確認するため、届出印鑑の印影と当該手形上の印影とを照合するにあたつては、特段の事情のないかぎり、折り重ねによる照合や拡大鏡等による照合をするまでの必要はなく、前記のような肉眼によるいわゆる平面照合の方法をもつてすれば足りるにしても、金融機関としての銀行の照合事務担当者に対して社会通念上一般に期待されている業務上相当の注意をもつて慎重に事を行なうことを要し、かかる事務に習熟している銀行員が右のごとき相当の注意を払つて熟視するならば肉眼をもつても発見しうるような印影の相違が看過されたときは、銀行側に過失の責任があるものというべく、偽造手形の支払による不利益を取引先に帰せしめることは許されないものといわなければならない。」

 従って、同居親族が成年後見人に就任した場合でも、弁護士などの専門職の成年後見人が就任した場合でも、本人が介護サービスを受けて、代金の支払いを為す場合は、本人の財産状況に照らして妥当な範囲の支出しか認められないことになります。

4 更に、被後見人の扶養義務者が介護の報酬を請求できるかについては、扶養義務の範囲であれば義務の履行であり、報酬は発生しないことから、扶養義務の履行を超える介護か否かの検討が必要になります。この点について、家庭裁判所では、同居する親族が成年被後見人の介護を実際に行っているケースであっても、本人の利益を考慮して、原則として介護報酬を支払うことは消極的に考えているようです(東京家庭裁判所後見センター、後見センターレポート3号、平成25年9月など)。

 成年被後見人の介護については、介護保険の要介護認定を受けて、介護支援専門員(ケアマネージャー)にケアプランを作成してもらい、これに従って介護保険の給付サービスを受けるというのが原則になります。

 但し、介護保険の給付では不足する部分(ヘルパー不在日の介護など)について、複数の実子のうちで1名だけが仕事を退職または休職するなどして介護にあたっているようなケースでは、成年後見人から家庭裁判所に事前相談することにより、個別具体的な事例ごとに、介護報酬を支払う契約が認められることもあります。

 同居親族が成年後見人となっているケースでは、後見人の報酬申立手続きの中で、身上看護に関する付加報酬として加味されることもあります。東京家庭裁判所の例を引用します。

※参考文書(東京家庭裁判所、成年後見人等の報酬額のめやす、平成25年1月)
https://www.shinginza.com/kouken-housyu.pdf

 これによると、成年被後見人の管理すべき財産が5000万円を超える場合の後見人の月額基本報酬は月額5〜6万円であり、身上監護等に特別困難な事情があった場合には50パーセントの範囲内で相当額の付加を行うことができると定められています。月額で言えば、最高で7万5千円〜9万円ということになります。

 また、親族との間で介護契約を締結するなどして介護報酬を支払う場合は、寄与分を定める審判における療養介護の評価方法に関する先例や、交通事故事案における親族の自宅付添費の判例などが参考となることもあります。いくつか判例をご紹介致します。

大阪家庭裁判所平成19年2月8日審判
認知症の症状が顕著となった被相続人に3度の食事を摂らせ、排便の対応など献身的に行っていた相手方に対し、同期間3年間について1日8千円の寄与分を認めた審判。

札幌地裁平成17年1月27日判決
高次脳機能障害(3級3号)等併合1級の大学生(女・症状固定時23歳)について、入院付添費(日額2000円、213日間)のほか、退院後もしばらくは着替えや入浴を自立して行うことができず、母親が一緒に自宅等に起居し介助等がなければ通学・通院のみならず日常生活の必要な行動等をすることができなかったとして、退院後症状固定までの通院期間(542日間)、日額7000円の付添費を認めた。

大阪地裁平成17年3月25日判決
意識障害、排尿排便障害、嚥下障害等(1号3級)で立位・座位を保持できない財団勤務の被害者(男性・症状固定時45歳)について、症状固定までの在宅介護について、主たる介護者(3人の子供を抱えた妻)1名と補助的介護者1名の必要性を認め、主たる介護者について日額9000円、補助的介護者につき土日のみ(全期間の7分の2)日額2000円、281日間合計268万円の付添費を認めた。

ご相談のケースの月額5万円援助というのは、相談者様が成年後見人に選任され、成年被後見人の資産が5000万円を越えている場合であって、実際に介護に要する時間や、介護の作業の内容によっては、成年後見人就任後も維持される可能性は十分にあると言えますが、実際の実務では、家庭裁判所がケースバイケースで判断していくことになりますので、申立後に家庭裁判所に相談されると良いでしょう。


※参考条文

第7条(後見開始の審判)
 精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある者については、家庭裁判所は、本人、配偶者、四親等内の親族、未成年後見人、未成年後見監督人、保佐人、保佐監督人、補助人、補助監督人又は検察官の請求により、後見開始の審判をすることができる。

民法第843条(成年後見人の選任)
第1項 家庭裁判所は、後見開始の審判をするときは、職権で、成年後見人を選任する。
第2項 成年後見人が欠けたときは、家庭裁判所は、成年被後見人若しくはその親族その他の利害関係人の請求により又は職権で、成年後見人を選任する。
第3項 成年後見人が選任されている場合においても、家庭裁判所は、必要があると認めるときは、前項に規定する者若しくは成年後見人の請求により又は職権で、更に成年後見人を選任することができる。
第4項 成年後見人を選任するには、成年被後見人の心身の状態並びに生活及び財産の状況、成年後見人となる者の職業及び経歴並びに成年被後見人との利害関係の有無(成年後見人となる者が法人であるときは、その事業の種類及び内容並びにその法人及びその代表者と成年被後見人との利害関係の有無)、成年被後見人の意見その他一切の事情を考慮しなければならない。

第847条(後見人の欠格事由)
次に掲げる者は、後見人となることができない。
一号  未成年者
二号  家庭裁判所で免ぜられた法定代理人、保佐人又は補助人
三号  破産者
四号  被後見人に対して訴訟をし、又はした者並びにその配偶者及び直系血族
五号  行方の知れない者

第858条(成年被後見人の意思の尊重及び身上の配慮)
成年後見人は、成年被後見人の生活、療養看護及び財産の管理に関する事務を行うに当たっては、成年被後見人の意思を尊重し、かつ、その心身の状態及び生活の状況に配慮しなければならない。

第859条(財産の管理及び代表)
第1項 後見人は、被後見人の財産を管理し、かつ、その財産に関する法律行為について被後見人を代表する。
第2項 第八百二十四条ただし書の規定は、前項の場合について準用する。

第877条(扶養義務者)
第1項 直系血族及び兄弟姉妹は、互いに扶養をする義務がある。
第2項 家庭裁判所は、特別の事情があるときは、前項に規定する場合のほか、三親等内の親族間においても扶養の義務を負わせることができる。
第3項 前項の規定による審判があった後事情に変更を生じたときは、家庭裁判所は、その審判を取り消すことができる。
(申立ての取下げの制限)

家事事件手続法
第百二十一条  次に掲げる申立ては、審判がされる前であっても、家庭裁判所の許可を得なければ、取り下げることができない。
一  後見開始の申立て
二  民法第八百四十三条第二項 の規定による成年後見人の選任の申立て
三  民法第八百四十五条 の規定により選任の請求をしなければならない者による同法第八百四十三条第三項 の規定による成年後見人の選任の申立て


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