新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.1542、2014/08/31 12:00 https://www.shinginza.com/rikon/qa-rikon-isyaryo.htm

【民事 相互不倫事例における慰謝料請求側・被請求側の具体的対応  最高裁昭和54年3月30日判決  最高裁昭和57年3月4日判決】

相互不倫事例(ダブル不倫事例)における慰謝料請求側・被請求側の具体的対応


質問:
@ 私はA男と申します。会社員をしておりますが,部下の女性C子と不貞 行為をしてしまいました。現在,C子の夫であるD介から慰謝料請求を受けています。何とか慰謝料を支払う金額は抑えられないでしょうか。
今のところ妻のB美に不貞行為の事実を告白しようか迷っています。

A 私はD介と申します。私の妻であるC子は,会社の上司のA男と不貞行為をしました。妻とは話あった結果,離婚しないことに決めました。A男に対しては当然慰謝料を請求したいと思いますが,A男は自分の妻B美に浮気の事実を話していないようです。B美にも浮気の事実を報告してやりたいのですが,問題ないでしょうか。

回答:

@ 1 配偶者のいることを知りつつ女性と不貞行為(性行為)をした場合,その女性の配偶者に対して,慰謝料を支払う法的義務が生じます。したがって,あなたはD介さんに慰謝料を支払う法的義務が生じます。
一方で,不貞行為を行ったあなたとC子さんは,共同不法行為者として不真正連帯債務者の関係にあります。従ってあなたがD介さんの損害を全額賠償した場合,あなたは賠償した金額の一部(原則として半分ですが、具体的事情により割合が決まります)をC子さんに求償請求することができます。
D介さんとC子さんが婚姻関係を継続するのであれば,C子さんに求償請求しないことを条件とすることで,慰謝料の一部の支払いを免れることが可能です。
2 また,あなたの妻であるB美さんは,C子さんに対して慰謝料請求権を有しています。従って,B美さんに事実を告白した上で,C子さんに対する慰謝料請求権を行使してもらえば,互いの夫婦間で慰謝料請求権が打消し合う関係にあるとして,実質上慰謝料の支払いを免れる形で解決できる場合があります。

A あなたは,A男さんに慰謝料を請求することができます。
    慰謝料請求することを考えた場合,B美さんに事実を告げることは得策ではありません。B美さんがA男さんと離婚する考えが無かった場合,B美さんからC子さんに対して慰謝料請求をされてしまう危険があります。
    このような危険を避けるため、また慰謝料の金額を多くするには、B美さんに報告しない条件を付与し示談する方が良いでしょう。

B 相互に不貞関係が生じている場合は,多数の当事者間において法律関係が成立し,婚姻関係を解消するか否かにもよって非常に複雑な関係となります。
    どのように法律関係を整理するのがあなたにとって有利なのか,また和解する際にはどのような条項で書面を作成したらよいのか,弁護士等の専門家への相談をお勧めします。

不貞行為の関連事務所事例集1476番1183番987番921番783番596番501番178番参照。


解説:

1 不貞行為をした場合の慰謝料請求権

 (1) 慰謝料請求権の根拠

  自己の配偶者が第三者と不貞行為を行った場合,その第三者に対して慰謝料を請求することができます。その根拠は,いくつかの説がありますが、裁判例では配偶者が第三者と肉体関係をもつことは,夫婦の婚姻共同生活の平和の維持という法的に保護される権利利益を侵害する行為として,民法上の不幸行為となる、とされています(最判昭和54年3月30日民集33巻2号303頁等参照)。

  ただし,不貞行為の時点で既に夫婦関係が破たんしていた場合や,第三者が婚姻関係の存在を全く認識していなかった場合は,慰謝料請求をすることができません。夫婦関係が破綻している場合は、「保護すべき夫婦の婚姻共同生活の平和」がないことになり、相手が結婚していることを全く知らなかった場合は、故意がないために不法行為は成立しません。

  また,不貞行為をされた者は,不貞行為をした配偶者に対しても慰謝料請求をすることができます。夫婦間には互いに貞操義務が存在するため,それに反して夫婦の婚姻共同生活の平和を害する不貞行為は,当然に不法行為となるためです。

(2) 不貞行為をした当事者間の関係

  上記のように,不貞行為を働いた当事者は,いずれも被害者に対して慰謝料の支払い義務を負うことになりますが,不法行為当事者間の関係は,共同不法行為者の関係に立ちます。

  共同不法行為とは,ある不法行為を共同して行った当事者のことを指します。不貞行為は互いに同意の上で行われるのが通常ですから,その不法行為については両方が共同して責任を負うことになります。そして民法719条によれば,共同不法行為者は,「各自が連帯してその損害を賠償する責任を負う」とされています。これは,共同不法行者は,被害者に対して,各自がその不法行為によって発生した損害の全額を賠償する義務を負うものであることを意味し,請求者は,共同不法行為者の何れに対しても,損害全額の賠償を請求できることになります。この共同不法行為者間の負う義務を,民法上不真正連帯債務といいます(最判昭和57年3月4日判時1042号87頁)。

  このように,不真正連帯債務の場合,請求権者に対しては,全額の支払義務を負う一方で,共同不法行為者間の内部においては,各自の責任に応じた負担部分の割合が存在します。原則的には各自の負担割合は平等とされますが,各自の当該不幸行為に対する責任の度合いが異なる場合は,不平等な負担割合が認定されることもあります。

  なお,不真正連帯債務の立つ関係当事者の一人が,自分の負担割合を超える損害賠償義務を履行した場合は,他の共同不法行為者の負担部分について,他の共同不法行為者に請求することができます(最判昭和63年7月1日)。これを求償といいます。

  このことを前提に,本事例での各当事者間における法律関係を検討します。

2 当事者間の法律関係

 (1) DとACの関係
   本件でD介は,妻C子と不貞行為に及んだA男に対して慰謝料請求をすることができます。また,D介は,自分の妻C子に対しても慰謝料請求権を有することになります。

   そしてD介は,ACの何れに対しても損害全額の賠償を請求することができます。D介に生じた精神的な損害の額を200万円とした場合,D介はAに200万円全額の請求をすることもできますし,AとCに対して100万円ずつの支払いを請求することもできます。

   本件でDは,Cと離婚する意思が無いので,Aに対して200万円全額の請求をすることになるでしょう。

 (2) Aの取り得る対応

  ア 求償権の主張

   では,全額を請求されたAは,どのような対応を取ればよいでしょうか。まず考えられる対応としては,Dに全額を支払った後で,Cに対してその負担割合に応じて求償権を行使することを宣言することが考えられます。

   例えば負担割合を各2分の1とした場合,のちにCに対して100万円を求償する意思を宣言します。
すると,DがCと離婚しない場合,DとCの財布は今後も実質同一であると考えられますから,Dとしては,結局Cに求償されるのであればと,Aに対する全額の請求は断念し,当初からAの負担割合に応じた金額(100万円)の支払いで納得することになります。

   ただしこの場合でも,AC間の負担割合については争い残ります。不貞行為の場合,当事者の片方が一方的に不貞関係を迫った場合などは,迫った側の方の責任が大きいとして負担割合が多く認められる場合があります。
   本件でも,AはCの上司という立場ですから,仮にAが上司としての地位を利用してCに執拗に不貞関係を迫ったという事情があると,Aの負担割合が大きくなる場合も考えられます。

   従ってAとしては,Cも不貞関係に積極的だったとうかがわせる証拠類(メール等)があれば保存しておくべきです。

   この場合、Aとしては、自分で不貞行為をしながら、慰謝料の半分を相手の妻に請求するというわけですから、請求なり減額交渉の説明は相手の感情を害さないように注意をして交渉する必要があります。また、全体の損害額をいくらにするのかというのは、加害者と被害者で決める場合はあくまで合意による決定で、合意にかかわらない者、本件ではC子との関係では損害額が決まるわけではありませんので、あくまでA男とD介との間の交渉なり合意における効力しかないことを念頭にいておく必要があります。

  イ 夫婦四者間での合意

   また,仮にAが妻Bに不貞行為の事実を告白する場合,妻Bも含めて四者間で慰謝料について合意することが考えられます。

   Bも,Dと同様に,AC間の不貞行為によって精神的損害を受けていることになりますから,BはCに対して慰謝料請求権を有することになります。このBのCに対する慰謝料請求権によって,DのAに対する慰謝料請求権を実質的に相殺してしまうわけです。上の求償権の場合と同じ理屈で,DとしてはCに請求されては困るわけですから,最終的には相殺に合意せざるを得ない結果となるでしょう。

   なお,これは相殺される両当事者が全く別の主体ですから,民法上の相殺(民法505条以下)には該当しません。従って,和解合意の成立によって解決する場合には,きちんと四当事者間で債権債務関係が消滅したことを明確にする必要があります。後の紛争を回避するためにも,弁護士に相談した上で和解交渉に臨んだ方が良いでしょう。

   なお,仮に慰謝料の請求権利者間で被害の程度が異なる場合,完全な形で上記の実質的相殺が難しい場合もあります。極端な例でいえば,B美が特にAの不倫を気にしていないのに対し,D男がショックでうつ病に罹患してしまった場合などは,Dの方がBよりも請求できる精神的損害の金額が大きくなるため,全額を実質的な相殺で解決することが不可能となります。

   したがってBとしては,Aに協力しようとする場合でも,Dに対する関係では,ACの不貞行為で離婚しかねないほどの大きな精神的被害が受けた旨を主張できた方が良いいことになります

 (3) Dの取り得る方法

   ここで,Dの側から見た場合,どのようにして慰謝料の請求をすべきか検討してみます。上で述べたとおり,Cと離婚する意思がない限りは,Aによる求償権の行使またはBからのCに対する慰謝料請求権の行使により,実質的に十分な慰謝料の支払いを受けられない可能性が高いといえます。

   この点については,まず上で述べた主張@Aの方が不貞行為に主導的であり負担割合が大きいとの主張やABよりも自己の方が不貞行為による精神的な損害が大きいとの主張を構築することが考えられます。

   しかし,Aが未だ妻Bに不貞行為の事実を告白していないのであれば,そのまま報告させないで慰謝料を請求した方が良い場合もあります。一般的にAとしては,妻にわざわざ不貞行為を告白することは避けたいと考えますから,その場合はAに不利な形の和解でも,早期解決のインセンティブを有しています。感情的な面は存在しますが,金銭的には,Bへの報告を避けて,Aが早期解決を望むうちに,有利な条件での慰謝料の交渉をすることも検討すべきです。

   かといってあまりに多額な慰謝料をAに対して請求してしまうと,Aが観念して妻Bに報告してしまう場合も考えられます。どこまでであればAにとってもメリットがある提案として早期支払い受諾の可能性があるか,際どいところでの交渉が重要となります。経験のある弁護士への相談をお勧めします。

3 最後に

  上記のとおり,相互に不倫関係が生じている場合,当事者間の法律関係が非常に複雑となります。和解で解決を図るにしても,求償等の関係もありますので,後に争いが生じないよう,求償権の放棄・不行使等適切な条項を含んだ合意書を作成する必要があります。

  専門家に対応方法を相談したうえで,交渉にあたってもらうのが最善でしょう

≪参照条文≫
民法
(共同不法行為者の責任)
第七百十九条  数人が共同の不法行為によって他人に損害を加えたときは,各自が連帯してその損害を賠償する責任を負う。共同行為者のうちいずれの者がその損害を加えたかを知ることができないときも,同様とする。
2  行為者を教唆した者及び幇助した者は,共同行為者とみなして,前項の規定を適用する。

≪参照判例≫
共同不法行為者間の求償権の行使について
(最判昭和63年7月1日民集42巻6号451頁)
被用者がその使用者の事業の執行につき第三者との共同の不法行為により他人に損害を加えた場合において,右第三者が自己と被用者との過失割合に従って定められるべき自己の負担部分を超えて被害者に損害を賠償したときは,右第三者は,被用者の負担部分について使用者に対し求償することができるものと解するのが相当である。けだし,使用者の損害賠償責任を定める民法七一五条一項の規定は,主として,使用者が被用者の活動によって利益をあげる関係にあることに着目し,利益の存するところに損失をも帰せしめるとの見地から,被用者が使用者の事業活動を行うにつき他人に損害を加えた場合には,使用者も被用者と同じ内容の責任を負うべきものとしたものであって,このような規定の趣旨に照らせば,被用者が使用者の事業の執行につき第三者との共同の不法行為により他人に損害を加えた場合には,使用者と被用者とは一体をなすものとみて,右第三者との関係においても,使用者は被用者と同じ内容の責任を負うべきものと解すべきであるからである。

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