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- No.1505|
学習塾の途中退塾
民事|クーリングオフ|中途解約|学習塾・特定商取引法・特定継続的役務提供契約・役務提供事業者・約款・規約・契約・パソコン教室・結婚相談所・家庭教師・エステティック
質問
私は,以前の塾講師仲間と共同して学習塾を経営しているのですが,受講している児童の母親から,「塾の授業がよくないから子供をやめさせたい。」と言われました。私の技量を否定され,いい気はしませんでしたが,意向どおり,途中で退塾させることにしました。
私たちの塾では,受講は1年ごと,途中退塾の際には一切返金しないことで保護者の方々にも合意いただいていたため,特に返金はしない旨伝えたところ,消費生活センターから,「全額返金するように」との通知がありました。一切返金なしということで事前にきちんと合意ができているのに,返金せよなどということが法的にとおるのでしょうか。また,仮に返金するとしても,今まで受講した分の授業料等については,先方もすでに利益を得ているのですから,返却などということにはならないのではないでしょうか。
回答
1 学習塾における塾と保護者との契約は、特定商取引に関する法律(以下「特商法」といいます。)第4章に定める、特定継続的役務提供契約に該当するものとして,「特商法」の適用があります。そのため,保護者が児童を退塾させる方法として,同法に定められている,クーリング・オフと中途解約が考えられます(なお,細部に多少の差異はあるものの,パソコン教室・結婚相談所・家庭教師・エステティックなども,学習塾同様,特定継続的役務提供にあたるものとして,同様の規制を受けることになります)。
2 クーリング・オフは、「特商法」所定事項を記載した契約書を交付して8日経過していない場合や,契約書を交付していても記載に不備がある場合には,クーリング・オフができ,全額を返金しなければなりません。あなたの塾の場合,中途解約の条項に不備があるようですので,全額を返金する必要が出てきてしまいます。
3 中途解約は,クーリング・オフ期間経過後であっても,理由がなくても解約ができる制度です。中途解約の場合には,あなたがご指摘されたとおり,今まで受講した分の授業料については,先方もすでに利益を得ているため,返却はしないという扱いになります。
4 以上のとおり,事業者側にとってはそれなりに厳しいものですが,特商法上は以上のような制度となっています。そのため,規約を法令に則したものに改めない方が,経営上は有利であると考えるかたもいらっしゃるかもしれません。
しかしながら,規約の条項に定めていなくとも特商法によってクーリング・オフや中途解約は可能ですし,書面の記載不備により,いつまでもクーリング・オフによる全額返金のリスクを負うよりは,中途解約による返金の限度にとどまるほうが,むしろ事業者にとっては有利といえます。なお,記載不備の書面交付は刑事罰の対象ともなりえます。いずれにせよ,クーリング・オフや中途解約が明記されたところでやめようなどとは思わない契約内容であれば問題はなく,法令順守の観点からも,交付書面の整備は事業者にプラスになろうと思われます。
長期的な観点から見れば,規約を一度専門家に見てもらい,必要に応じ条項を法令に則したものに改めることが不可欠と思われます。
5 クーリングオフ一般について参考となる当事務所事例集として1574番,1194番,767番,751番参照。
6 その他の関連事例集参照。
解説
1 民法の原則と消費者保護法制
民法上,契約は当事者間の意思の合致に基づいて成立し,一度成立した契約には相互に拘束されるのが原則です。従って、民法上は約束違反等の事情がなければ解約はできないことになっています。これは、私的自治の原則といって近代市民法の大原則ですが、その前提は対等な当事者間の契約です。しかし、現代社会では事業者と消費者の契約においては、両者は対等な当事者とは言えません。そこで、弱い立場にある消費者を保護する目的で一連の消費者の保護に関する法律が定められ(消費者契約法や割賦販売法)、特定商取引法でも、消費者を保護するという見地から、解約に関する特別な定めをしています。
「特商法」41条2項は「国民の日常生活に係る取引において有償で継続的に提供される役務であって」[役務の提供を受ける者の知識の向上する目的を実現させることをもって誘因が行われ」[役務の性質上目的が実現されるかどうか確実でないもの]と政令で定める取引を特定継続的役務提供契約とする、としています。政令では、学習塾の場合、2カ月を超える契約で、総額5万円以上を支払う場合は特定継続的役務提供契約に該当すると定められています。本件のような学習塾の場合,特商法の特定継続的役務提供契約に関する規定の適用があります。そのため,保護者が児童を退塾させる方法として,同法上,クーリング・オフと中途解約が考えられます(なお,パソコン教室・結婚相談所・家庭教師・エステティックなども,学習塾同様,特定継続的役務提供にあたるものとして,同様の規制を受けることになります。エステティックについては1か月を超える契約)。
2 クーリング・オフ
まず,特定継続的役務提供契約においては,いったんは契約を結んだものの,その後考え直して契約を取りやめたいという場合に,意思表示の撤回(いわゆる「クーリング・オフ」)の制度があります(特商法48条)。このクーリング・オフという制度は,理由如何を問わず,無条件に申込の意思表示を撤回できるという制度です。
クーリング・オフの期間は,法令所定事項について契約内容を明らかにする書面を交付したときから8日以内とされています(同法48条1項・42条2項)。また,クーリング・オフがされた場合の効果としては,次のようなものがあります。
すなわち,事業者は,消費者に対して損害賠償金または違約金の支払いを請求できず(同条4項),役務提供がすでに行われていたときでも,事業者は,消費者に対して役務の対価等の金銭の支払を請求できません(同条6項)。また,役務提供契約に関連して事業者が受領した金銭は,速やかに消費者に返還する必要があります(同条7項)。そして,これらに反する特約で消費者に不利益なものは,すべて無効とされます(同条8項)。つまり,①違約金は発生せず,また,②仮にすでに授業を受けていたとしても,その対価について支払う必要はなく,③仮に既に対価が支払われているのであれば,その返還をしなければならないため,クーリング・オフがなされた場合,受け取った金銭の全額を返金しなければならないのです。学習塾の場合教科書や問題集などを購入すると考えられますが、その代金は「役務提供契約に関連して事業者が受領した金銭」に該当しますからこれらの代金の返還も必要になります。
つまり,交付する契約書に法令所定事項すべてについての十分な記載がない限り,学習塾側としては,いつでもクーリング・オフを受け,受領した金額の全額返金をしなければならないリスクを常に負い続けることとなります。また,その記載の仕方も細かい規制があり,それをクリアできなければ,やはり同様のリスクを負い続けます。
3 中途解約
特商法所定の要件を満たす書面が交付されていた場合,書面交付日より8日を経過した後は,クーリング・オフはできません。もっとも,学習塾など政令で定められたいくつかの継続的契約の類型(既に述べた特商法上の「特定継続的役務提供契約」に該当する類型の契約)については,契約を継続していく中で実際のサービス内容や効果がわかってくるという面があること,長期間の間に事情が変更することもあることなどから,中途解約が認められています(特商法49条)。
この場合,役務提供開始前であれば,契約の締結および履行のために通常要する費用の額(初期費用)を超える金額を請求することはできません(同法49条2項2号)。そして,学習塾の場合における上記「通常要する費用の額」は,1万1000円が上限です(同法施行令16条)。
役務提供開始後であれば,提供された役務の対価に相当する額と契約解除によって通常生じる損害の額とを合算した額を超える金額を請求することはできません(同法49条2項1号)。そして,学習塾の場合における「契約解除によって通常生じる損害の額」は,「2万円または1か月分の対価に相当する額のいずれか低い額」が上限です(同法49条2項1号・同法施行令15条)。
4 まとめ
以上のとおり,事業者側にとってはそれなりに厳しいものですが,特商法上は以上のような制度となっています。そのため,規約を法令に則したものに改めない方が,経営上は有利であると考えるかたもいらっしゃるかもしれません。
しかしながら,規約の条項に定めていなくとも特商法によってクーリング・オフや中途解約は可能ですし,書面の記載不備により,いつまでもクーリング・オフによる全額返金のリスクを負うよりは,中途解約による返金の限度にとどまるほうが,むしろ事業者にとっては有利といえます。なお,記載不備の書面交付は刑事罰の対象ともなりえます。いずれにせよ,クーリング・オフや中途解約が明記されたところでやめようなどとは思わない契約内容・サービス内容であれば何ら問題はなく,法令順守の観点からも,交付書面の整備は事業者にプラスになろうと思われます。
長期的な観点から見れば,規約を一度専門家に見てもらい,必要に応じ条項を法令に則したものに改めることが不可欠と思われます。
さらには,契約前に契約書とは別に契約の概要を示した書面を交付する義務(特商法42条1項)や,業務・財産状況記載書類の備え置き・開示義務(同法45条1項)などもあります。
これらについて一度チェックをする意味でも,専門家に相談されることが望ましいでしょう。
関連事例集
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参考条文
判例