新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.1461、2013/08/10 00:00 https://www.shinginza.com/qa-jiko.htm
【民事、自転車同士の交通事故、未成年者の責任能力大審院大正6年4月30日判決】

質問:
「15歳の子どもが朝自転車に乗っていて,交差点で一時停止をしなかったため,左側から走ってきた自転車とぶつかってしまいました。子どもに怪我はありませんでしたが,相手は倒れて頭をどこかに打ち付けたらしく瘤ができて腫れていました。相手は60代の女性で通勤途中であったとのことです。お互い急いでいたので,その場で連絡先だけを交換しました。子どもから上記のような話を聞いて,私が,事故翌日の夜に被害者の女性のところに電話をかけて話を聞いたところ,被害者から通勤災害として治療費は会社の保険で支払ってくれそうだという話を聞きました。また,被害者は事故の当日に会社の専門医に診てもらい,1か月後に再検査を受ける予定であるとのことでした。私は,被害者に対して見舞金を払おうとしたのですが,示談のときにということで受け取ってもらえませんでした。なお,お互い,自転車保険には加入しておりませんでした。私としては,この件を早く終わらせたいのですが,私に何かできることはないでしょうか。」



(回答):
1 後遺症の点が確定しないと、最終的な解決はできませんのですぐに解決というわけにはいきません。しかし、何もしないで待っているということではなく事故の内容について警察を通じて確認しておく必要があります。

2 まず,被害者に電話をして,被害者の氏名と住所を確認してください。
 次に,記憶が鮮明なうちに,子どもさん(以下,「加害者」と言います。)と一緒に警察に今回の事故のことを届出してください。

3 そして,届け出をした警察などで交通事故証明書の申請用紙を手に入れ,交通事故届出をした警察と事故発生現場などを記載してから,加害者と一緒に最寄りの自動車安全運転センター事務所に申請用紙を出してください。10日程度で,申請者の住所に交通事故証明書が郵送されてきます。

4 警察に事故の届け出をすると,通常,1〜2時間程度拘束されますが事故現場においてどのような事故が起こったかの検証作業が行われます(現場検証といいます)。その日のうちに,取り調べを受けて,調書が作られることもあります。加害者は警察官から色々質問されることになります。疑問に思ったことがある場合には,躊躇しないで警察官に尋ねるようにしてください。
  本件において,加害者は,道路交通法違反や重過失致傷罪(刑法第211条第1項後段)などに問われる可能性もありますが,事件化される可能性はそれほど高くはないでしょう。

5 被害者は症状が固定するまで通院を続けることになると思います。本件では,被害者は労災給付を受けられそうですので,その費用は,労災で賄われることになります。被害者の症状固定を経過した後,労働局から子どもさんに対して被害者に支払われた分について求償請求がされる場合があります。その場合には,求償に応じなければなりません。
  ただ,被害者の治療が完治するのを待っていると,被害者の記憶が薄れたり,被害者にとって都合のいいように記憶を改ざんされてしまう可能性があります。そのために早い段階で,加害者被害者双方の過失割合についての合意を取り,過失割合合意書を交わしておくと良いでしょう。

6 示談については後遺症が確認される必要がありますから、被害者の症状が固定するのを待って,被害者との示談を進めましょう。症状固定したかどうかは、被害者の治療をしている医師の診断書が参考になります。通常は事故から1年以内に症状固定し、それ以後の症状は後遺症として診断されることになります。当事者同士では示談がうまくできそうにないということであれば,お近くの法律事務所に相談して, 弁護士に示談代行してもらうこともできます。

7 交通事故に関する損害賠償請求については,事務所事例集902番,991番, 760番, 522番もホームページでご参照ください。また,自転車事故と刑法犯罪については,事務所事例集805番もホームページでご参照ください。


(解説):

1 自転車の交通事故と民事上の責任
(1)責任発生根拠と支払義務者
   本件で,加害者は,民法709条により,被害者に対して損害賠償責任を負ってい
  ます。これは自動車事故と同じで何ら変わるところがありません。
   また,本件で加害者は15歳ということなので,加害者には責任能力(民法712
  条)があると判断される可能性が高いため,相談者を含めたその両親については民法
  714条の適用がなく,被害者に対して監督者責任を負わないものと思われます。
  事理弁職能力とは、ことの是非善悪を理解する程度の能力と解されています(大審院大正4年5月12日判決)。
@大審院大正6年4月30日判決 では、12歳2カ月の子供が空気銃で撃つぞといいながら、銃撃して子どもの左目を失明させた事件で責任能力を否定していますが、一般的に14歳乃至15歳では責任能力が認められています。尚、判旨は「民法第七百十二条ニ「行為ノ責任ヲ弁識スルニ足ルヘキ知能」ト謂ウハ固ヨリ道徳上不正ノ行為タルコトヲ弁識スル知能ノ意ニアラス加害行為ノ法律上ノ責任ヲ弁識スルニ足ルヘキ知能ヲ指スモノト解スルヲ相当トス」としています。

Aその他大審院大正10年4月3日判決では、同様に空気銃で遊んでいて他人の目を失明させた12歳7カ月の子の責任能力を否定しています。

Bただ、得意先に行くため印刷用インキ等を背負い自転車を運転していた事故で11歳1カ月の店員に責任能力を認めた大審院4年5月12日判決もあります。この判決は、店員として働いていたという点を重視し、是非の弁別能力を認めたものと考えられます。判旨は「不法行為ニ於ケル加害者カ加害行為ノ当時二十歳未満ノ未成年者ナリシ場合ニ之レヲシテ賠償ノ責任ヲ負ハシムルニハ裁判所ハ先ツ其責任能力ノ有無ヲ調査シ其未成年者カ加害行為ノ当時ニ於テ其智能既ニ不法行為ノ何タルヤ換言スレハ是非善悪ヲ識別スルコトヲ得ルノ程度ニ発達シ責任能力ヲ具有スルノ事実ヲ肯定シ且ツ之ヲ判文ニ明示スルコトヲ要スルハ勿論ナリト雖モ」と判断しています。

 もっとも,監督義務者である親に不注意があり,その不注意と未成年者の不法行為によって発生した損害との間に相当因果関係があれば,一般の不法行為責任(709条)を負わされるとするのが判例ですので,親の責任が全くないとは言い切れません。子どもさんには資力がないことが通常のため,損害賠償責任は将来就職してから支払うということにならざるを得ないことが多いでしょう。しかし,それでは,被害者の十分な保護にならないということで,通常は両親に対して事実上責任追及がされるものと思われます。

(2)自転車事故の過失相殺
   もっとも,被害者にも過失がある場合には,その限度で加害者の損害賠償責任は減額されます(民法722条第2項,過失相殺)。
   本件のように,自転車同士の交通事故の場合には,自動車同士の交通事故に準じて過失割合が決められるのが通常です。ただ,自動車運転者と異なり,自転車運転者は運転免許を所持する必要はありませんので,自転車運転者の運転能力は人によって様々です。こうした運転能力も過失割合を決めるに際して別途考慮される場合もあります。

(3)被害者に発生する損害の内容
   それでは,実際には,本件で加害者はどのような内容の損害賠償責任を負う可能性があるのでしょうか。
   一般的に被害者に発生した損害は
    (積極損害 + 消極損害 + 慰謝料)×相手方の過失割合(%)
  の計算式によって算定されます。以下,簡単に説明します。
  
ア 積極損害
    積極損害とは,本件では事故を理由として実際に被害者が支出した費用のことです。具体的には,治療費・入院費,通院交通費,入通院雑費,装具実費,及び遅延損害金などが考えられます。
  
イ 消極損害
    消極損害とは,本件では事故がなければ将来得ることができたはずの利益のことです。具体的には,休業損害や後遺症による逸失利益などが考えられます。

ウ 慰謝料
    慰謝料とは,被害者の精神的苦痛に対して支払われる賠償金のことです。具体的には,入通院慰謝料や後遺症慰謝料が考えられます。
  
エ 過失割合
    実務上は,集積した過去の事案を分析して得られた下記の三つの基準をベースに,本件事案に近い判例等の事故類型に当てはめるなどして基本過失割合を出し,過失修正要素を考慮の上,最終的な過失割合を決定していくことが通常です。
                    記
    ・「民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準」(別冊判例タイムズ16号)
    ・「交通事故損害額算定基準」(いわゆる青本)
    ・「民事交通事故訴訟損害賠償額算定基準」(いわゆる赤本)

(4)自転車事故の加害者としてとるべき対応
  ア 自転車事故発生状況の把握
    事故を起こしてしまうと,焦ってしまって,事故の内容が曖昧になってしまいがちです。まずは,自分が起こしてしまった事故がどのようなものか落ち着いて自分で検証してみましょう。事故はいつ発生したのか(例:●月●日●時ころ),事故発生現場はどこなのか(例:●●交差点),実際の衝突場所はどこなのか(例:●●交差点の右側車線の信号機の下),衝突時の当事者の移動の仕方はどのようなものだったのか(例:被害者が時速10km程度のスピードで自転車運転をしていたところ,急に自転車が右側から時速20km程度の猛スピードで飛び出してきた。通常自転車の速度は時速15キロ程度といわれています。),
   衝突前に加害者と相手方はそれぞれどのような状態であったのか(例:被害者は普通に運転していたが加害者は音楽を聴いていた),などをしっかりとメモにとっておくことが大切です。
  イ 被害者の氏名・住所・電話番号の確認
    加害者になって,慌ててしまいその場から逃走してしまうと,後でひき逃げとして重い刑罰を科せられることにもなりかねません。まずは,誠実にお互いの素性を確認しておきましょう。基本は,身分証明書を見せ合い,近くのコンビニでコピーを取らせてもらうか,その場でメモをとることです。ただ,被害者がどうしても身分証明書を示したがらない場合には,110番通報をして警察立ち会いのもとで被害者の素性を確認した方がいいでしょう。
  ウ 被害者の救護、被害状況の確認
    交通事故を起こしてしまった加害者は,可能な限り被害者を救護し、誠実な対応をとるようにしましょう。現場で可能な応急処置と、119番で救急車への連絡や、病院への搬送などです。交通事故の加害者は被害者を救護する法的義務を有しますので、被害者救護を放棄してしまった場合、事案によっては保護責任者遺棄罪(刑法218条、いわゆるひき逃げ)の責任を問われる場合もありますので注意が必要です。
    そのうえで,事故後早いうちに,被害者の負傷状況を直接確認するようにしてください。電話ではなく,直接見て確認するようにしてください。携帯電話にカメラ機能が付いている場合など、写真撮影が可能な場合は、現場記録として写真撮影すると良いでしょう。
    
  エ 警察への通報・届出
    交通事故を起こした場合,警察に通報して届け出をしてください。
    道路交通法第72条第1項には,「車両等の交通による人の死傷又は物の毀損(交通事故)があった・・・場合において,当該車両等の運転者は,警察官が現場にいるときは当該警察官に,警察官が現場にいないときは直ちに最寄りの警察署の警察官に 当該交通事故が発生した日時及び場所,当該交通事故における死傷者の数及び負傷者の負傷の程度並びに損壊した物及びその損壊の程度,当該交通事故に係る車両等の積載物 並びに当該交通事故について講じた措置を報告しなければならない。」と定められています。ここでいう「車両」には,自動車,原動機付自転車だけはでなく,軽車両も含まれています。自転車は,軽車両にあたります(道路交通法第2条第8号・第11号)。したがって,自転車同士の事故であっても, 道路交通法に基づき,警察に事故を報告する義務があります。この義務を怠ると,3月以下の懲役又は5万円以下の罰金に処せられる可能性があります(道路交通法第119条第1項第10号)。
    警察に通報しておくことは,事故の内容を明確化しておく意味においても大切です。労災申請や保険金請求をする場合には,自動車安全運転センターが発行する「交通事故証明書」が必要となりますが,これは警察への届け出がなされていないと発行されません。

  オ 交通事故証明書の申請
    警察署・交番には,交通事故証明書の申請用紙が備え付けられています(自動車安全運転センター事務所にも備え付けられています)。警察に事故の届け出をしたら,申請用紙をもらってください。
    申請ができるのは,交通事故の加害者又は被害者その他親族など利害関係がある人です。本件のような人身事故については,交通事故証明書は,事故発生から5年が経過すると原則発行されませんので,注意してください。
    申請は,自動車安全運転センターの窓口ですることができますが,郵便為替での申込みや,自動車安全運転センターWEBページ上からもすることができます。
  カ 自転車事故発生状況の共通認識化
    早い段階で,加害者は被害者の方と連絡をとり,本件の事故がどのようにして発生したかの認識を共通化しておきましょう。
    被害の状況がどのようなものであったかを確認しておくことも大切です。怪我をしている場所はどこか,痛いところはどこか,だけでなく「その他の部分については怪我や痛みはない」ということまで確認しておくようにしてください。後々,本件事故をおよそ無関係な痛みについてまで加害者の責任にされてしまうこともありますので,注意が必要です。
    そのうえで,お互いの過失割合がどのようなものであったかの合意をとり,過失割合合意書を交わしておきましょう。過失割合がお互いどの程度か分からなかったり,争いがある場合には,お近くの法律事務所に相談して,弁護士立ち会いのもとで合意書を交わすことを検討すべきです。過失割合についてはかなり類型化されており一般的判断が可能です。
  キ 損害内容の精査
    加害者が適正な損害賠償請求をするためには,どのような賠償義務を負っているかをしっかり把握しておくことが大切です。被害者から,示談の際に損害の内容を示されても,それを全て鵜呑みにするのではなく,損害の費目を明示してもらったうえ,可能な限り領収書等も示してもらうようにしてください。
    被害者が主張する損害額が妥当なものか疑問がある場合には,お近くの法律事務所に相談して,弁護士に検討してもらうようにしてください。    

(5)第三者行為災害としての労災  
   本件で,被害者は通勤災害として治療費は会社の保険で支払ってくれそうだという話をしています。これは,労災保険の適用があるということでしょう。
   労災保険は,業務上の事由又は通勤による労働者の傷病等に対して所定の給付等を行うことを目的としていますが(労災保険法第1条),これらの災害には通勤途中に交通事故に遭った場合も含まれます。このように,労災保険関係にある当事者(政府,事業主及び受給権者)以外の方(これを「第三者」と言います。)による不法行為などで労働者が通勤災害等を被った場合の災害を労災保険制度上「第三者行為災害」と呼びます。
   交通事故に遭った場合,通常は健康保険で病院にかかることができます(健康保険法第57条にはその点を前提にしたと解されています)。しかしながら,本件のように通勤途上の怪我で労災保険の対象となる場合は,健康保険の対象とはなりません(健康保険法第55条第1項)。「労災」によるけがや病気で治療を受ける場合は,所要の手続きはありますが,治療費は労災保険で見ることから,健康保険とは違って保険診療分の患者の自己負担はありません(労災保険法第13条第1項第2項)。「労災」なのに健康保険証を使うと,患者として本来負担する必要のない一部負担金を病院に払うことにもなります。
   第三者行為災害に該当する場合は,被災労働者である被害者は,第三者に対して損害賠償請求権を取得すると同時に,労災保険に対しても給付請求権を取得することになります(労災保険法第12条の4第1項)。しかし,同一の事由について,両者から重複して損害の填補を受けることは不合理であるなどの理由から,労災保険法上次のような調整がされます。すなわち,先に労災保険から給付を行った場合は,政府が給付の価格の限度で被災労働者等が有する損害賠償請求権を取得します(労災保険法第12条の4第1項)。これにより,政府は労災給付相当額を第三者に請求します(これを「求償」と言います。)。本件でも,被害者の治療費が労災で賄われるということであれば,加害者は後日政府より労災給付相当額を求償される可能性があります。
(6)示談について
   上述(5)の労災保険法上の調整おいて,被災労働者が労災給付を受けるよりも先に第三者(本件では加害者)から損害賠償を受けている場合は,政府は労災保険の給付額からその額を差し引いて支給されます(労災保険法第12条の4第2項。これを「控除」と言います。)。
   そのため,労災保険の受給権者である被災労働者等と第三者との間で,被災労働者等の有する全ての損害賠償についての示談が成立し,受給権者が示談額以外の損害賠償請求権を放棄した場合,政府は,原則として示談成立以後の労災保険の給付を行わないことになっています。ですから,示談をする場合には,被災労働者は,予め所轄の労働基準監督署に連絡し,示談成立後には,速やかに,示談書の写しをもって労働局か労働基準監督署にその旨申し出なければなりません。
   このようなこともあり,被害者に労災の適用がある場合には,示談がまとまるのは遅れがちです。そのため,加害者としては,示談の前提となる事故状況や損害内容の明確化をしておくことが,何より大切なのです。

2 交通事故と刑事上の責任
(1)責任内容
   上述のとおり,道路交通法上自転車は軽車両に分類されますが,自転車については自動車のように行政処分となる反則金制度(いわゆる青切符)はありませんので,摘発を受けると刑事罰の対象となります(いわゆる赤切符)。

   本件では,事情によって,加害者には以下の犯罪が成立する可能性があります。
   ・重過失致傷罪(刑法第211条第1項後段,5年以下の懲役又は100万円以下の罰金)
   ・車道の右側走行(道交法第17条第1項及び第4項・第119条第1項第2号の2,3月以下の懲役又は5万円以下の罰金)
   ・信号無視(道交法第7条・第119条第1項第1号の2,3月以下の懲役又は5万円以下の罰金)
   ・交差点での一時停止違反(道交法第43条・第119条第1項第2号,3月以下の懲役又は5万円以下の罰金)
(2)示談について
   上述した示談は,加害者と被害者との間における民事上の法律関係を清算するためのものです。ですから,このような示談は,刑罰権を有する国と刑罰を受けるかもしれない加害者との関係である刑事上の法律関係においては意味を持たないのが原則です。
   しかしながら,検察官は,犯罪事実が認められると考えられる場合でも,諸般の事情を考慮して,起訴しない判断をする権限を持っています(起訴便宜主義)。そして,もし民事上の示談が成立していれば,そのことがこの諸般の事情の一つとして考慮されます。すなわち,示談が成立していれば,事実上,検察官が起訴猶予処分にする可能性がとても高くなります。
   このように,交通事故の損害賠償に関する示談は,加害者の刑事上の責任においても大きな意味を持ちます。そのため,刑事上の責任が問われる可能性がある場合には,検察官によって起訴される前に被害者と示談をしておく必要があります。このような場合には,弁護士を入れることで早期に示談をまとめられる可能性があります。お近くの法律事務所にすぐに相談してください。

3 民事賠償責任の解決手段

(1) 示談交渉による示談書作成
当事者間で協議して、示談書(和解契約書、和解合意書)を作成することにより、民事問題を解決する方法です。和解合意書には通常、「今後一切相互に何らの請求を行わない」という清算条項が入ります。合意書は、法的効力がありますので、作成を弁護士に依頼するか、弁護士に相談の上で作成することをお勧めいたします。勿論、示談交渉自体を代理人弁護士に依頼することもできます。

(2) 自転車ADRセンター
裁判外紛争解決手続の利用の促進に関する法律に基づき法務大臣に認証された民間の裁判外紛争解決手続(ADR)を利用することも検討してください。自転車の事故に関するADRは、一般財団法人日本自転車普及協会が運営する「自転車ADRセンター」があります。自転車の事故防止活動や安全啓発活動に従事した経験者や、弁護士などの調停委員が3名選任され、公平な調停案の形成が期待できます。

http://www.moj.go.jp/KANBOU/ADR/jigyousya/ninsyou0123.html

(3)簡易裁判所の民事調停
示談交渉で合意が成立しない場合は、裁判所で調停委員を入れて、話し合いをすることもできます。民事調停法によれば、民事に関する紛争が生じた場合、紛争の当事者は裁判所に民事調停を申し立てることができます。そして、調停においては、当事者の互譲により、条理にかない実情に即した解決を図ることを目的とし、当事者の合意に基づく調停の成立のための協議が行われます(民事調停法1条、同2条)。このように、調停は協議、話し合いによる円満な解決を目的とする制度です。管轄は、原則として、相手方の住所、居所、営業所若しくは事務所の所在地を管轄する簡易裁判所です(民事調停法3条)。

(4) 簡易裁判所又は地方裁判所の民事訴訟
加害者側から被害者側に対して民事訴訟で賠償責任の限度を確認する手段として、「債務不存在確認訴訟」という手続があります。相手方の請求額と自分の主張額との差額が訴えの利益(民事訴訟法8条1項)になります。訴えの利益額が140万円未満の場合は簡易裁判所に、それ以上の場合は地方裁判所に提起することができます。裁判ですので、相手方が不出頭の場合は擬制自白(民事訴訟法159条)により勝訴することもできますので、相手方が示談交渉を拒否している場合でも、ある程度強制的に債権債務の額を確定させることができます。

関連法令:

<民法>

(不法行為による損害賠償)
第709条 
 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は,これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

(責任能力)
第712条  
 未成年者は、他人に損害を加えた場合において、自己の行為の責任を弁識するに足りる知能を備えていなかったときは、その行為について賠償の責任を負わない。


(責任無能力者の監督義務者等の責任)
第714条  
 前2条の規定により責任無能力者がその責任を負わない場合において、その責任無能力者を監督する法定の義務を負う者は、その責任無能力者が第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、監督義務者がその義務を怠らなかったとき、又はその義務を怠らなくても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。
2 (略)

(損害賠償の方法及び過失相殺)
第722条  (略)
2  被害者に過失があったときは、裁判所は、これを考慮して、損害賠償の額を定めることができる。

<刑法>

(業務上過失致死傷等)
第211条  
 業務上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた者は、五年以下の懲役若しくは禁錮又は百万円以下の罰金に処する。重大な過失により人を死傷させた者も、同様とする。
2 (略)

<道路交通法>

(定義)
第2条  この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。
一〜七 (略)
八  車両 自動車、原動機付自転車、軽車両及びトロリーバスをいう。
十一  軽車両 自転車、荷車その他人若しくは動物の力により、又は他の車両に牽引され、かつ、レールによらないで運転する車(そり及び牛馬を含む。)であつて、身体障害者用の車いす、歩行補助車等及び小児用の車以外のものをいう。
十一の二〜二十三 (略) 
2,3 (略)

(交通事故の場合の措置)
第72条  交通事故があつたときは、当該交通事故に係る車両等の運転者その他の乗務員(以下この節において「運転者等」という。)は、直ちに車両等の運転を停止して、負傷者を救護し、道路における危険を防止する等必要な措置を講じなければならない。この場合において、当該車両等の運転者(運転者が死亡し、又は負傷したためやむを得ないときは、その他の乗務員。以下次項において同じ。)は、警察官が現場にいるときは当該警察官に、警察官が現場にいないときは直ちに最寄りの警察署(派出所又は駐在所を含む。以下次項において同じ。)の警察官に当該交通事故が発生した日時及び場所、当該交通事故における死傷者の数及び負傷者の負傷の程度並びに損壊した物及びその損壊の程度、当該交通事故に係る車両等の積載物並びに当該交通事故について講じた措置を報告しなければならない。
2〜4 (略)

第119条  次の各号のいずれかに該当する者は、3月以下の懲役又は5万円以下の罰金に処する。
一  (略)
一の二  第7条(信号機の信号等に従う義務)・・・の規定に違反した車両等の運転者
一の三 ,一の四 (略)
二  ・・・第43条(指定場所における一時停止)の規定の違反となるような行為をした者
二の二  第17条(通行区分)第1項から第4項まで若しくは第6項・・・の規定の違反となるような行為をした者
三 〜九 (略)
十  第72条(交通事故の場合の措置)第1項後段に規定する報告をしなかつた者
十一 〜十五 (略)
2  (略)

<労働災害補償保険法>

第1条  労働者災害補償保険は、業務上の事由又は通勤による労働者の負傷、疾病、障害、死亡等に対して迅速かつ公正な保護をするため、必要な保険給付を行い、あわせて、業務上の事由又は通勤により負傷し、又は疾病にかかつた労働者の社会復帰の促進、当該労働者及びその遺族の援護、労働者の安全及び衛生の確保等を図り、もつて労働者の福祉の増進に寄与することを目的とする。

第12条の4 政府は、保険給付の原因である事故が第三者の行為によつて生じた場合において、保険給付をしたときは、その給付の価額の限度で、保険給付を受けた者が第三者に対して有する損害賠償の請求権を取得する。
2  前項の場合において、保険給付を受けるべき者が当該第三者から同一の事由について損害賠償を受けたときは、政府は、その価額の限度で保険給付をしないことができる。

第13条  療養補償給付は、療養の給付とする。
2  前項の療養の給付の範囲は、次の各号(政府が必要と認めるものに限る。)による。
一  診察
二  薬剤又は治療材料の支給
三  処置、手術その他の治療
四  居宅における療養上の管理及びその療養に伴う世話その他の看護
五  病院又は診療所への入院及びその療養に伴う世話その他の看護
六  移送
3  政府は、第一項の療養の給付をすることが困難な場合その他厚生労働省令で定める場合には、療養の給付に代えて療養の費用を支給することができる。

<健康保険法>

(他の法令による保険給付との調整)
第55条  被保険者に係る療養の給付又は入院時食事療養費、入院時生活療養費、保険外併用療養費、療養費、訪問看護療養費、移送費、傷病手当金、埋葬料、家族療養費、家族訪問看護療養費、家族移送費若しくは家族埋葬料の支給は、同一の疾病、負傷又は死亡について、労働者災害補償保険法 (昭和二十二年法律第五十号)、国家公務員災害補償法 (昭和二十六年法律第百九十一号。他の法律において準用し、又は例による場合を含む。)又は地方公務員災害補償法 (昭和四十二年法律第百二十一号)若しくは同法 に基づく条例の規定によりこれらに相当する給付を受けることができる場合には、行わない。
2,3 (略)

(損害賠償請求権)
第57条  保険者は、給付事由が第三者の行為によって生じた場合において、保険給付を行ったときは、その給付の価額(当該保険給付が療養の給付であるときは、当該療養の給付に要する費用の額から当該療養の給付に関し被保険者が負担しなければならない一部負担金に相当する額を控除した額。次条第一項において同じ。)の限度において、保険給付を受ける権利を有する者(当該給付事由が被保険者の被扶養者について生じた場合には、当該被扶養者を含む。次項において同じ。)が第三者に対して有する損害賠償の請求権を取得する。
2  前項の場合において、保険給付を受ける権利を有する者が第三者から同一の事由について損害賠償を受けたときは、保険者は、その価額の限度において、保険給付を行う責めを免れる。

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