新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.1457、2013/07/01 00:00 https://www.shinginza.com/qa-roudou.htm

【有期労働契約から無期労働契約への転換、労働契約法第18条、平成25年4月1日改正施行】

質問:私は有期労働契約者として数回の契約更新を繰り返しながら会社に8年くらい勤めています。最近,法改正がなされて有期労働契約者であっても何度も繰り返し更新している場合には,無期労働契約者になることができると聞いたのですが本当でしょうか。



回答:

1 確かに,近年,労働契約法が改正され改正労働契約法では第18条で一定の場合には,有期労働契約者であっても無期労働契約者に転換できる権利が制定されました。そして,当該規定は平成25年4月1日より施行(簡単にいえば実際に適用されるようになる日)されています。
2 改正労働契約法18条により無期転換権が認められる要件は,同一の使用者との間で(要件@)有期労働契約が反復更新されて5年を超える場合に(要件A)労働者が使用者に申込をすれば(要件B),使用者が当該申込を承諾したものとみなされ,無期労働契約が成立することとなります。
3 しかし,改正労働契約法18条の適用要件Aである5年の期間の算定は,平成25年4月1日以降に開始される有期労働契約に限られるので,平成25年3月31日以前を契約の初日とする有期労働契約は通算契約期間の算定には含まれません(改正法附則2項)。
  そのため,あなたの有期労働契約がこれまでに更新を繰り返し,通算8年間契約が続いていたとしても,これまでの期間を基礎として改正労働契約法18条の適用はありません。
  しかし,今後,平成25年4月1日以降に開始される有期労働契約を結ぶ場合には,当該規定は非常に大きく影響してきますので,今から当該規定をよく理解するために,ご参考にしてください。

4.労働法関連事例集1441番、 1416番、1327番、1317番,1283番,1201番,1141番,1133番,1117番,1062番,925番,915番,842番,786番,763番,762番,743番,721番,700番、657番,642番,624番,458番,365番,73番,5番。手続は995番,879番参照。  



解説:
(労働法条文解釈の指針)

先ず労働法における雇用者,労働者の利益の対立について申し上げます。本来,資本主義社会において私的自治の基本である契約自由の原則から言えば労働契約は使用者,労働者が納得して契約するものであれば,特に不法なものでない限り,どのような内容であっても許されるようにも考えられますが,契約時において使用者は経済力、情報力、契約内容からも雇う立場上有利な地位にあるのが一般的ですし,労働力を提供して賃金をもらい生活する関係上労働者は長期間にわたり指揮命令を受けて拘束される従属的性格を有する契約でもあり,常に対等な契約を結べない危険性を有しています。
 しかし,そのような状況は個人の尊厳を守り,人間として値する生活を保障した憲法13条,平等の原則を定めた憲法14条の趣旨に事実上反しますので,法律は民法の雇用契約の特別規定である労働法等(基本労働三法等)により,労働者が対等に使用者と契約でき,契約後も実質的に労働者の権利を保護すべく種々の規定をおいています。法律は性格上おのずと抽象的規定にならざるをえませんから,その解釈にあたっては使用者,労働者の実質的平等を確保するという観点からなされなければならない訳ですし,雇用者の利益は営利を目的にする経営する権利(憲法29条の私有財産制に基づく企業の営業の自由)であるのに対し,他方労働者の利益は毎日生活し働く権利ですし,個人の尊厳確保に直結した権利ですから,おのずと力の弱い労働者の利益をないがしろにする事は許されないことになります。
 ちなみに,労働基準法1条は「労働条件は,労働者が人たるに値する生活を営むための必要を満たすべきものでなければならない。」第2条は「労働条件は労働者と使用者が,対等の立場において決定すべきものである。」と規定するのは以上の趣旨を表しています。従って,労働契約の文言にとらわれず,以上の趣旨を踏まえて労働法の改正を理解し,法規の解釈が必要です。


1 労働契約法の改正
 有期労働契約は,労働期間が定められている契約であり,パート労働,派遣労働をはじめ,いわゆる正社員以外の労働形態に多く見られる労働契約の形式です。現在,有期労働契約で働く人は全国で約1200万人と推計されます。
有期労働契約は使用者にとって有利な面も多く,この雇用形態を利用した企業が増えています。しかし,有期労働契約は労働者にとってみれば不安定な面が大きく,労働契約法の改正は,こうした問題に対処し,働く人が安心して働き続けることができる社会を実現することを目的として制定されました。
労働契約法の改正点は以下の3点です。今回は(1)無期労働契約転換権をご説明します。
(1)労働契約法18条 無期労働契約者への転換(平成25年4月1日施行)
有期労働契約が繰り返し更新されて通算5年を超えたときは,労働者の申込により,期間の定めのない労働契約(無期労働契約)に転換できるというルール。
(2)労働契約法19条「雇止め法理」の法定化(平成24年8月10日施行)
最高裁の判例で確立した「雇止め法理」が,そのままの内容で法律に規定されたもので,一定の場合には,使用者による雇止めが認められなくなるルール。
(3)労働契約法20条不合理な労働条件の禁止(平成25年4月1日施行)
有期労働契約者と無期労働契約者との間で,期間の定めがあることによる不合理な労働条件の相違を設けることを禁止するルール。
2 無期労働契約転換権
(1) 要件・効果
  同一の使用者との間で(要件@)有期労働契約が反復更新されて5年を超える場合に(要件A)労働者が使用者に申込をすれば(要件B),使用者が当該申込を承諾したものとみなされ,無期労働契約が成立する(効果)。

ア 要件@「同一の使用者」
   同一の使用者とは,労働契約を締結する法律上の主体が同一であることをいい,事業場単位ではなく法人であれば法人単位で,個人事業者であれば個人事業者単位で判断されます。
   形式的に労働契約の使用者を変更させているだけで,就業実態に変化がなく,それが同条を免れる意図でなされている場合には「同一の使用者」とみなされます。

イ 要件A・通算契約期間
(ア)原 則
・更新が1回以上行われていること
     →労働基準法14条により原則,有期労働契約の上限は3年とされていますが,有期の建設工事等のように特例で3年以上の有期労働契約が認められている場合で,それが5年を超えていたとしても1回も更新がなければ労働契約法18条1項の適用はありません。
・同一の使用者との間で締結された2以上の有期労働契約の通算が5年を超えていること。
(イ)例外:クーリング
同条1項の通算契約期間の計算方法については,同条2項及び「労働契約法第十八条一項の通算契約期間に関する基準を定める省令」で定められています。クーリングとは,労働契約期間の算定にあたって各労働契約の間に一定の無契約期間があった場合にはその空白期間より前の有期労働契約は,通算契約期間に含まないというルールです。空白期間の直前の有期労働契約の期間(複数の有期労働契約が間を置かずに連続して更新されている場合には,それらの期間を合算した期間)によってクーリングの対象となる空白期間も下記のとおり異なってきます。

@有期労働契約が1年以上の場合
      6か月以上
A有期労働契約が1年未満の場合
      その期間に2分の1を乗じて得た期間(1か月未満の端数が生じたときは,1か月に切り上げて計算することとなります。)

有期労働契約の期間 空白期間 
2カ月以下 1か月未満
2カ月以上4カ月以下 2カ月未満
4か月以上6カ月以下 3か月未満
6か月以上8カ月以下 4か月未満
8か月以上10カ月以下 5か月未満
10か月以上12カ月以下 6か月未満

(ウ)留意点
・育児休暇等によって6か月以上勤務していない場合
     休暇で6カ月以上勤務していなかったとしても契約自体が続いていればクーリングの対象にはなりません。
・別の会社での勤務
     無契約の時に他の会社と労働契約を締結していたとしても通算契約期間の算定には影響しません。
・同条の対象となる有期労働契約
同条の適応は,平成25年4月1日以降に開始される有期労働契約に限られるので,平成25年3月31日以前を契約の初日とする有期労働契約は通算契約期間の算定には含まない(改正法附則2項)。
・事前に無期転換権を放棄させること
労働者に対して事前に無期転換権を放棄することを条件に有期労働契約を締結することは,法の趣旨を潜脱することとなるため,無効と解さています。

ウ 要件B・労働者の申込
   通算契約期間が5年を超えることとなる有期労働契約の初日から末日までの間に労働者から使用者に対して申込をする必要があります。労働者が申込をせず,使用者がさらに有期労働契約を更新した場合には有期労働契約が有効に成立しますが,労働者はその更新の都度,無期労働契約転換申込権を有することとなります。
   例えば,3年の有期労働契約を結んでいたものが更新され,さらに3年の有期労働契約を締結した場合には,労働者は,その更新された3年の有期労働契約の初日から無期労働契約への転換申込権を有することとなり,申込をした場合にはその有期労働契約の満了日の翌日から無期労働契約が成立したこととなります。

(2)効  果
  申込のあった有期労働契約の満期の翌日から無期労働契約が成立したこととなります。そのため,使用者が契約を有期労働契約の満期をもって契約を終了させようとするためには解雇する必要があり,解雇の為の客観的合理性・社会通念上の相当性の要件が必要となります。
  また,無期労働契約転換後の労働条件は,原則的には期間の定め以外は従前の契約内容と同一のものとなります。しかし,就業規則や個別の契約で労働条件を変更することができるようにしておくことも可能です。

≪参考条文≫

労働契約法
(有期労働契約の期間の定めのない労働契約への転換)
第十八条  同一の使用者との間で締結された二以上の有期労働契約(契約期 間の始期の到来前のものを除く。以下この条において同じ。)の契約期間を通算した期間(次項において「通算契約期間」という。)が五年を超える労働者が、当該使用者に対し、現に締結している有期労働契約の契約期間が満了する日までの間に、当該満了する日の翌日から労務が提供される期間の定めのない労働契約の締結の申込みをしたときは、使用者は当該申込みを承諾したものとみなす。この場合において、当該申込みに係る期間の定めのない労働契約の内容である労働条件は、現に締結している有期労働契約の内容である労働条件(契約期間を除く。)と同一の労働条件(当該労働条件(契約期間を除く。)について別段の定めがある部分を除く。)とする。
2 当該使用者との間で締結された一の有期労働契約の契約期間が満了した日と当該使用者との間で締結されたその次の有期労働契約の契約期間の初日との間にこれらの契約期間のいずれにも含まれない期間(これらの契約期間が連続すると認められるものとして厚生労働省令で定める基準に該当する場合の当該いずれにも含まれない期間を除く。以下この項において「空白期間」という。)があり、当該空白期間が六月(当該空白期間の直前に満了した一の有期労働契約の契約期間(当該一の有期労働契約を含む二以上の有期労働契約の契約期間の間に空白期間がないときは、当該二以上の有期労働契約の契約期間を通算した期間。以下この項において同じ。)が一年に満たない場合にあっては、当該一の有期労働契約の契約期間に二分の一を乗じて得た期間を基礎として厚生労働省令で定める期間)以上であるときは、当該空白期間前に満了した有期労働契約の契約期間は、通算契約期間に算入しない。

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