少年事件・触法少年の手続きと弁護活動
民事|触法少年|少年法|児童相談所
目次
質問:
女の子がズボンを脱いだ状態であったことは確かなようです。今後どのような手続になり,どのような処分が下されるのでしょうか。
また,今の段階で弁護士を付けることは出来るのでしょうか。
回答:
1.13歳ということですから,犯罪は成立しませんから刑事処分を受けることはありません。しかし,犯罪が成立しなくても,犯罪行為と同様な行為があった場合は少年法上の触法少年として,児童相談所,家庭裁判所に送致され,児童自立支援施設または児童養護施設送致や児童相談所長送致といった処分を受けることがあります。
2.警察官による触法少年についての調査の段階で,少年及び保護者は,付添人を選任できます(少年法6条の3)。但し,付添人は弁護士に限られています。この付添人は,少年に対して法的助言を行うとともに,警察の調査が任意・適正に行われるように監視し,また,児童相談所に対する働きかけや意見を提出することで,触法少年の権利を擁護する活動を行います。
3.なお警察官による,調査の結果,犯罪事実が認められなかったとしても当該少年が「要保護児童」(児童福祉法6条の2第8項)と認められる場合は,少年を児童相談所に通告します(児童福祉法25条)。
4.付添人の具体的弁護活動としては,強制ワイセツ,強姦に該当する行為であれば,被害者との示談が必要不可欠になります。刑事上の責任はなくても,民事上は,本人(民法713条)又は,親権者(民法714条)が責任を負うことになり,この責任を果たすことが重要です。民事上の責任能力は,刑事上の責任能力と異なる判断がなされています。713条は,「自己の行為の責任弁識するに足りる知能」と規定していますが,判例上,「その知能がことの是非善悪を識別できる程度に発達していること」と解釈されています(大審院大正4年5月12日判決)。通常13歳程度で認められることが多いと思われます。本件では,女子の洋服を脱がしワイセツ行為をすることが違法なことと理解できると考えられ, 本人が民事上の責任を負うことになるでしょう。しかし弁済能力がないので,代わりに両親がその責任を果たすことが必要です。親権者の教育,監護の義務を事実上怠ったと評価できますし,少年の教育監護は,触法少年の賠償責任を事実上果たすことも重要な要素になるからです。示談を行い,二度と違法行為を行わないという誓約書,謝罪文も不可欠でしょう。被害者側の宥恕文言が表示された上申書も大切です。触法少年に対する処分は,結局,親権者両親の家庭の教育監護が十分に行われるかどうかという視点から判断されるからです。適正な弁護活動が行われれば,児童相談所への連絡阻止,児童相談所の処置,家裁への送致,処分も阻止,軽減できる可能性があるでしょう。
5.少年事件に関する関連事例集参照。
解説:
1.少年法の基本趣旨
少年の刑事事件についてどうして刑法の他に少年法が規定されているのか簡単に説明します。刑法とは犯罪と刑罰に関する法律の総称であり,刑罰は犯罪に対する法律上の効果として行為者に科せられる法益の剥奪,制裁を内容とする強制処分です。刑法の最終目的は国家という社会の法的秩序を維持するために存在します。どうして罪を犯した者が刑罰を受けるかという理論的根拠ですが,刑罰は,国家が行為者の法益を強制的に奪うわけですから,近代立憲主義の原則である個人の尊厳の保障,自由主義(本来人間は自由であり,その個人に責任がない以上社会的に個々の人が最大限尊重されるという考え方),個人主義(全ての価値の根源を社会全体ではなく個人自身に求めるもの,民主主義の前提です)の見地から,刑罰の本質は個人たる行為者自身に不利益を受ける合理的理由が不可欠です。
その理由とは,自由に判断できる意思能力を前提として犯罪行為者が犯罪行為のような悪いことをしてはいけないという社会規範(決まり)を守り,適法な行為を選択できるにもかかわらずあえて違法行動に出た態度,行為に求める事が出来ます(刑法38条1項)。そして,その様な自分を形成し生きて来た犯罪者自身の全人格それ自体が刑事上の不利益を受ける根拠となります(これを刑法上道義的責任論といいます。判例も同様です。対立する考え方に犯罪行為者の社会的危険性を根拠とし,社会を守るために刑罰があるとする社会的責任論があります)。
すなわち,刑事責任の大前提は行為者の自由意志である是非善悪を弁別し,その弁別にしたがって行動する能力(責任能力)の存在が不可欠なのです。この能力は,画一的に刑法上14歳以上と規定されていますから,少年であっても理論的には直ちに刑罰を科すことが出来るはずです。しかし,少年は刑事的責任能力としての最低限の是非善悪の弁別能力があったとしても総合的に見れば精神的,肉体的な発達は不十分,未成熟であり,周りの環境に影響を受けやすく人格的には成長過程にあります。従って,少年に対して形式上犯罪行為に該当するからといって直ちに成人と同様に刑罰を科するよりは,人格形成の程度原因を明らかにして犯罪の動機,原因,実体を解明し少年の性格,環境を是正して適正な成長を助けることが少年の人間としての尊厳を保障し,刑法の最終目的である適正な法社会秩序の維持に合致します。又,道義的責任論の根拠は,元々その人間が違法行為をするような全人格を形成してきた態度にあり,未だ成長過程にある未成熟な少年に刑罰を直ちに科す事は道義的責任論からも妥当ではありません。
そこで,人格性格の矯正が可能な少年については処罰よりも性格の矯正,環境の整備,健全な教育育成を主な目的とした保護処分制度(保護観察,少年院送致等)及び少年に特別な手続(観護措置,鑑別所送致)が優先的に必要となるのです。更に少年の捜査等の刑事手続,家庭裁判所の裁判等の判断についても以上の観点から適正な解釈が求められます。触法少年は,刑事責任能力がありませんから何らかの処分の必要性がないようにも思われるかもしれません。しかし,少年の精神的,肉体的未発達,未成熟度は責任能力がある犯罪少年よりも大きく,少年法の趣旨からさらに少年を保護する必要性は大きいといわざるを得ません。そこで,触法少年について少年法等は特別の手続きを用意しています。犯罪行為を実際に行っていない虞犯少年も同様の趣旨で規定されています。
2.用語について
(1)少年法における少年とは
少年法における少年とは,二十歳に満たない者をいい(少年法2条1項),男女を問いません。
(2)虞犯少年とは
虞犯少年とは,少年法3条1項3号イないしニに該当する事由があり,かつ,その性格または環境に照らして,将来,罪を犯し,または刑罰法令に触れる行為をするおそれのある少年をいいます(少年法3条1項3号参照)。
(3)触法少年とは
触法少年とは,十四歳に満たないで刑罰法令に触れる行為をした少年をいいます(少年法3条2号)。
(4)犯罪少年とは
犯罪少年とは,罪を犯した少年をいいます(少年法3条1号)。
(5)鑑別所とは
鑑別所とは,少年の科学的な調査と診断を行うことを目的とした法務省管轄の専門施設をいいます(少年院法16条)。
(6)保護観察とは
保護観察とは,少年を家庭や職場に置いたまま,保護観察官や保護司が指導監督と補導援護を加え,少年の改善更生を図るものです(少年法24条1項1号)。
(7)試験観察とは
試験観察とは,裁判官が調査の結果又は審判を行った結果,少年に対していかなる処分をするか直ちに決めることが困難な場合に,おおよそ3か月から4か月間位の期間,少年を家庭裁判所調査官の観察に付する制度をいいます(少年法25条)。
試験観察には,在宅試験観察と補導委託の2種類があります。
(8)知事又は児童相談所長送致とは
知事又は児童相談所長送致とは,児童福祉法による措置に委ねるために,児童福祉機関に事件を送致する処分をいいます(少年法18条)
(9)児童自立支援施設とは
児童自立支援施設とは,不良行為をなす児童などに必要な指導を行い,その自立を支援することを目的とする施設をいいます(児童福祉法44条)。
(10)児童養護施設とは
児童養護施設とは,環境上養護を要する児童を養護し,併せてその自立を支援することを目的とする施設をいいます(児童福祉法41条)。
(11)少年院とは
少年院とは,生活指導,教科教育,職業補導,情操教育,医療措置等を施すことにより,非行性の矯正を行うことを目的とする男女別の収容施設をいいます(少年院法1条)。
3.触法事件について
(1)触法事件の特性
触法少年とは,上述したように14歳未満で刑罰法令に触れる行為をした少年であり(少年法3条1項2号),その年齢は,触法行為の時点を基準に判断します。14歳未満の少年は,刑事責任能力がなく(刑法41条),刑罰法令に触れる行為を行っても犯罪は成立しません。従って,刑罰を科すことはできませんから,刑事裁判もできませんし,警察が捜査をすることも許されません(逮捕・勾留もされません)。そこで,少年の中でも特別の手続が定められています。
低年齢の子どもが非行に至る背景には,虐待やいじめなどの家庭や学校の問題,精神疾患,発達途上の障害といった複雑な成育上の問題がある場合が多く,福祉的・教育的観点を持った専門の機関が非行に至った原因や背景を探ることではじめて少年にとって適切な処遇が実現できることから,触法少年の調査・処遇は,原則として児童福祉機関による措置に委ね,児童福祉機関が相当と認めた場合にのみ家裁に送致し,その場合にのみ家裁は審判に付することができるという「児童福祉機関先議」の原則がとられています(児童福祉法25条,27条,少年法3条2項)。
(2)付添人制度
2007年少年法改正により,触法事件に対する警察の調査権限が明文化されました。これに伴い,少年及び保護者は,警察官による触法調査に関し,いつでも付添人を選任できることになりました(少年法6条の3)。この付添人は,少年に対して法的助言を行うとともに,警察の調査が任意・適正に行われるように監視し,また,児童相談所に対する働きかけや意見を提出することで,触法少年の権利を擁護するためのものです。
家裁送致後の付添人制度は以前から存在しましたが,これとは別個に警察の調査段階での弁護士付添人の選任権が認められたことにより,少年の手続保障を確保し,その言い分を処遇に反映させることが可能となりました。
(3)触法事件の手続
ア 警察官による調査
警察において,事件が発覚し,触法少年が発見されると,当該事件に関して警察官による調査が開始されます。
警察官は,客観的な事情から合理的に判断して,触法少年であると疑うに足りる合理的な理由がある者を発見した場合,必要があるときは,事件について調査をすることができます(少年法6条の2第1項)。本件では相手となっている女子の保護者から警察に通報があったと考えられます。
通常警察官は,調査に当たりまず少年,保護者等を呼び出して,強制にあたらない範囲で質問することになります(少年法6条の4第1項および2項)。
なお,本件の事案とは離れますが,殺人,放火等の重大な触法事件の場合,警察は,触法少年を発見するとただちに「要保護児童」として児童相談所に少年の身体とともに通告し(児童福祉法25条,少年警察活動規則22条1項2号。),多くの場合,通告を受けた児童相談所に一時保護がなされます。一時保護とは,子どもの生命身体の安全を確保するため緊急に子どもを保護者と分離する必要がある場合など,児童相談所長が必要であると認めるときに,子どもを一時保護所に入所させ,あるいは適当な第三者に委託する処分です(児童福祉法33条1項)。この一時保護がなされることになれば,警察は,少年を事実上身体拘束して調査を行うこととなります。よって,一時保護がなされない場合と比べて,虚偽の申述書等が作成される危険がより一層高まることに注意が必要となります。
イ 児童相談所長への通告・送致
警察官は,触法調査の結果,当該少年が「要保護児童」(児童福祉法6条の2第8項)と認められる場合は,少年を児童相談所に通告します(児童福祉法25条)。
また,少年法22条の2第1項各号に掲げる罪(故意の犯罪行為により被害者を死亡させた罪,死刑又は無期,短期2年以上の懲役もしくは禁固に当たる罪)にかかる刑罰法令に触れる場合,家裁の審判に付するのが相当と思料する場合は,警察官は事件を児童相談所長に送致しなければなりません(少年法6条の6)。この場合には,送致を受けた児童相談所長は,調査の結果,家裁送致の必要がないと認められない限り,家裁送致手続をとらなければなりません(少年法6条の7第1項)。
なお,通告と送致は,いずれも事件を児童相談所に係属させるための行為ですが,別個の制度であり対象も異なるため(通告の対象は少年,送致の対象は事件),通告がなされた場合に送致することもできます。
ウ 児童相談所による調査,措置,家庭裁判所送致
児童相談所は,警察から通告あるいは送致を受けた事件について,福祉的観点から調査を行います。具体的には,担当の児童福祉司や児童心理司が,少年の成育歴,性格,家庭環境,学校・地域での状況,心理・精神面からの判定・診断を行います。
児童相談所長は,これらの調査を踏まえ,担当者会議や援助方針会議を開き,当該少年に対する措置を決定します。
(ア)児童相談所長は,福祉的措置を相当と判断した場合は,当該措置を自らとります。福祉的措置には,児童または保護者への訓戒・誓約書の提出,児童福祉司等の指導,児童福祉施設(児童養護施設,児童自立支援施設)入所措置,里親委託があります(児童福祉法27条1項1号ないし3号)。
(イ)一方,家裁の審判に付するのを相当と認めたときは,事件を家裁に送致する措置をとります(児童福祉法27条1項4号)。触法事件は,児童相談所長のみが家裁への送致権限を有し(少年法3条2項),送致するかどうかは児童相談所長の判断に委ねられます。児童相談所から家裁に事件が送致された場合,警察が保管していた証拠物も家裁に送付されます(少年法6条の6第2項)。
エ 家庭裁判所による調査・審判
児童相談所長から家裁に送致された場合,審判期日までの間に家裁調査官による調査が行われ,審判を経て決定が言い渡されます。なお,家裁は,観護措置の必要があると判断した場合は,観護措置をとれるので,少年はこの時点で少年鑑別所に収容される可能性があります。
審判の結果,処分がなされます。処分には,審判不開始(少年法19条1項),不処分(少年法23条2項),保護処分(少年法24条1項),検察官送致(少年法19条2項,20条,23条1項・3項),都道府県知事または児童相談所長送致(少年法18条,23条1項)の5種類があります。そして,保護処分には,保護観察(24条1項1号),児童自立支援施設または児童養護施設送致(24条1項2号),少年院送致(24条1項3号)の3種類があります。もっとも,少年院送致については,おおむね12歳以上であり,特に必要と認める場合に限られます(少年院法2条2項,5項,少年法24条1項ただし書き)。
触法少年の場合は,児童自立支援施設または児童養護施設送致や児童相談所長送致といった福祉的措置がとられることが一般的です。
4.本件の取扱い
(1)以上が触法事件の大まかな手続の流れになります。本件の場合,警察において,無理やり脱がした事実があったと判断された場合,強制わいせつ罪(刑法176条)に該当し,児童相談所に送致されます。そして,仮にレイプした,すなわち,強姦行為があったと判断された場合には,強姦罪は,短期2年以上の懲役に当たる罪なので(刑法177条後段),児童相談所は,家裁に送致する可能性が高いということになります。
児童相談所又は家裁においていかなる処分がなされるかは,証拠等の存在にかかってくる面が大きいです。息子さんが,13歳ということで,少年院送致の可能性があります。
(2)付添人の具体的弁護活動としては,強制ワイセツ,強姦に該当する行為であれば,被害者との示談が必要不可欠になります。刑事上の責任はなくても,民事上は,本人(民法713条)又は,親権者(民法714条)が責任を負うことになり,この責任を果たすことが重要です。民事上の責任能力は,刑事上の責任能力と異なる判断がなされています。713条は,「自己の行為の責任弁識するに足りる知能」と規定していますが,判例上,「その知能がことの是非善悪を識別できる程度に発達していること」と解釈されています(大審院大正4年5月12日判決)。通常13歳程度で認められることが多いと思われます。
本件では,女子の洋服を脱がしワイセツ行為をすることが違法なことと理解できると考えられ本人が民事上の責任を負うことになるでしょう。しかし弁済能力がないので,代わりに両親がその責任を果たすことが必要です。親権者の教育,監護の義務を事実上怠ったと評価できますし,少年の教育監護は,触法少年の賠償責任を事実上果たすことも重要な要素になるからです。示談を行い,二度と違法行為を行わないという誓約書,謝罪文も不可欠でしょう。被害者側の宥恕文言が表示された上申書も大切です。触法少年に対する処分は,結局,親権者両親の家庭の教育監護が十分に行われるかどうかという視点から判断されるからです。適正な弁護活動が行われれば,児童相談所への連絡阻止,児童相談所の処置,家裁への送致,処分も阻止,軽減できる可能性があるでしょう。
適正な処分がなされるようにするためには,警察での調査段階から付添人を付けることが重要となります。早期にお近くの法律事務所に相談し,触法事件の手続きについて,助言を受けつつ対応されることをおすすめします。
5.少年事件の手続概略図
(1)虞犯少年の手続の概略
「参考資料1」をご参照ください。
(2)触法少年の手続の概略
「参考資料2」をご参照ください。
(3)犯罪少年の手続の概略
「参考資料3」をご参照ください。
以上