新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.1416、2013/02/21 00:00 https://www.shinginza.com/qa-roudou.htm

【労働・労働契約法の平成24年、25年改正と雇止め・最高裁昭和49年7月22日判決・最高裁昭和61年12月4日判決】

質問:私は,有期労働者として働いていたのですが,この度,会社から期間満了に伴い会社から更新をしないと言われました。長年この会社で働いてきたのに,いきなりこの更新をしないと言われ戸惑っています。この様な会社の対応は正当なものといえるのでしょうか。

回答:
1.原則的には,有期労働契約であれば,使用者が更新を拒否すれば,契約期間の満了により雇用契約が終了します(これを「雇止め」といいます。)。
2.もっとも,これまでの裁判例から,@有期労働契約であったとしてもその契約が反復更新され,その雇止めが無期労働契約の解雇と社会通念上同視できると認められる場合(最高裁昭和49年7月22日判決(東芝柳町工場事件)),またはA労働者が有期労働契約の期間満了時においてその有期労働契約が更新されるものと期待することにつき合理的な理由があると認められる場合(最高裁昭和61年12月4日判決(日立メディコ事件))には,解雇に関する法理を類推適用して,その更新拒否が客観的な合理性を欠き,社会通念上相当とは認められないときには,雇止めを無効とする裁判上のルールが確立しています。そして,この度労働契約法が改正され,労働契約法(以下「法」といいます。)第19条1号,2号(注:平成25年4月1日前は第18条となります。)としてこのルールが条文化されて,平成24年8月10日から施行となりました。
3.法19条の手続要件として,契約期間中または期間満了から遅滞なく,使用者に対し更新の申込をしなければなりません。ただ,この申込は要式行為ではないので,使用者の雇止めに対し「嫌だ」などの,何らかの反対の意思表示をすれば足ります。
4.法19条1号,2号に該当するかはこれまでの裁判例同様,@当該雇用の臨時性・常用性(仕事が季節的、臨時的なものか),A更新の回数(裁判例では5回の更新であれば要件を満たす),B雇用の通算期間,C契約期間管理の状況,D雇用継続の期待をもたせる使用者の言動の有無などを総合考慮して,個々の事案ごとに判断されます。そのため,具体的なご事情をお伺いしなければ明確な判断をすることは出来かねますが,法19条の適用の可能性はありますので,弁護士に一度御相談してみてください。また,有期労働者ということであれば,雇止め法理の他に,無期労働契約への転換や不合理な労働条件の禁止の条文が追加され,これらは平成25年4月1日から施行されますので,この点についても弁護士に相談をしてみてください。
5.関連事例集1327番、1317番,1283番,1201番,1141番,1133番,1117番,1062番,925番,915番,842番,786番,763番,762番,743番,721番,700番、657番,642番,624番,458番,365番,73番,5番。手続は995番,879番参照。

解説:
1 雇止め法理の条文化
(1)雇止め
  有期労働契約の場合,使用者が更新を拒否すると期間の満了とともに終了するのが原則です。有期労働契約で,使用者が契約の更新を拒否することを「雇止め」といいます。もっとも,これまでに裁判例では,有期労働契約であっても一定の場合には解雇に関する法理を類推適用し,有期労働者の保護をはかってきました(雇止め法理)。

(2)これまでの裁判例
  このたびの労働契約法の改正で制定された法19条1号,2号は下記2つの最高裁判例の要件を明文で規定しました。下記判例は,他でも多く紹介されているところですので,本解説ではその概要を簡単に説明するにとどめたいと思います。

  ア 最高裁昭和49年7月22日判決(東芝柳町工場事件)
    本判例では,裁判所は,有期労働契約が期間の満了毎に当然更新を重ねてあたかも期間の定めのない契約と実質的に異ならない状態で存在していた場合には,解雇に関する法理を類推すべきであると判示しました。
  イ 最高裁昭和61年12月4日判決(日立メディコ事件)
    本判例では,裁判所は,有期労働契約の期間満了後も雇用関係が継続されるものと期待することに合理性が認められる場合には,解雇に関する法理が類推されるものと解せられると判示しました。

2 労働契約法の改正
  ア 労働契約法第19条
    上記判例上確立された雇止め法理を条文化し,あらかじめ有期労働契約の更新ルールを明確にしておくことで,雇止めをめぐる紛争を防止することを目的として,労働契約法が改正され,第19条に雇止め法理が条文化されました(注:平成25年4月1日前は第18条となります。)。

(有期労働契約の更新等)
  第19条 有期労働契約であって次の各号のいずれかに該当するものの契約期間が満了する日までの間に労働者が当該有期労働契約の更新の申込みをした場合又は当該契約期間の満了後遅滞なく有期労働契約の締結の申込みをした場合であって、使用者が当該申込みを拒絶することが、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないときは、使用者は、従前の有期労働契約の内容である労働条件と同一の労働条件で当該申込みを承諾したものとみなす。
一  当該有期労働契約が過去に反復して更新されたことがあるものであって、その契約期間の満了時に当該有期労働契約を更新しないことにより当該有期労働契約を終了させることが、期間の定めのない労働契約を締結している労働者に解雇の意思表示をすることにより当該期間の定めのない労働契約を終了させることと社会通念上同視できると認められること。
二  当該労働者において当該有期労働契約の契約期間の満了時に当該有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があるものであると認められること。
イ 要件
 (ア)実体的要件
    @(@)有期労働契約が過去に反復して更新されたことがあるものであって,その契約期間の満了時に当該有期労働契約を更新しないことにより当該有期労働契約を終了させることが,期間の定めのない労働契約を締結している労働者に解雇の意思表示をすることにより当該期間の定めのない労働契約を終了させることと社会通念上同視できると認められる場合(1号)(A)労働者において当該有期労働契約の契約期間の満了時に当該有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があるものであると認められる場合(2号)に,A使用者が当該申込みを拒絶することが、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないとき。
 (イ)手続的要件
    契約期間または契約期間満了後遅滞なく契約更新の申込をすること。この申込は要式行為ではなく,雇止めの意思表示に対して「嫌だ」というような何らかの反対の意思表示をすればいいと解されています。
    また,期間満了後の申込の場合には,「遅滞なく」されることが必要ですが,正当な又は合理的理由による申込の遅滞は許容されると解されています。
 (ウ)効果
    上記要件を満たす契約更新の申込があった場合には,雇止めが無効となるため,使用者は、従前の有期労働契約の内容である労働条件と同一の労働条件で当該申込みを承諾したものとみなされます。

3 本件について
  まず,本件に関しては,雇止めを争うのであれば法19条が更新の申込をすることを要件としていますので,使用者に対して更新の意思表示をすることが必要です。
  そして,法19条1号,2号に当たるかの判断は,これまでの裁判例同様,当該雇用の臨時性・常用性,更新の回数,雇用の通算期間,契約期間管理の状況,雇用継続の期待をもたせる使用者の言動の有無などを総合考慮して,個々の事案ごとに判断されます。そのため,具体的なご事情をお伺いしなければ明確な判断をすることは出来かねますが,法19条の適用の可能性はありますので,弁護士に一度御相談してみてください。

4 労働契約法のその他の改正
  ちなみに,労働契約法の改正で,雇止め法理の他に,無期労働契約への転換の申し込み及び不合理な労働条件の禁止も条文化され,これらについては平成25年4月1日から施行となりますので,簡単に解説します。
(1)無期労働契約への転換(法18条)
  平成25年4月1日以降に開始した有期労働契約の通算期間が5年を超える場合,その契約期間の初日から末日までの間に無期転換の申込ができるようになりました。
(2)不合理な労働条件の禁止(法20条)
  同一の使用者との間で労働契約を締結している,有期労働者と無期労働者の間で,期間の定めがあることにより不合理に労働条件を相違させることを禁止しました。不合理かは,職務の内容,配置の変更の範囲,その他の事情を考慮して判断されます。

≪参考判例≫

・最高裁昭和49年7月22日判決(東芝柳町工場事件)
(判決の要旨)
「(略)原判決は、以上の事実関係からすれば、本件各労働契約においては、Yとしても景気変動等の原因による労働力の過剰状態を生じないかぎり契約が継続することを予定していたものであつて、実質において、当事者双方とも、期間は一応2か月と定められてはいるが、いずれかから格別の意思表示がなければ当然更新されるべき労働契約を締結する意思であつたものと解するのが相当であり、したがつて、本件各労働契約は、期間の満了毎に当然更新を重ねてあたかも期間の定めのない契約と実質的に異ならない状態で存在していたものといわなければならず、本件各傭止めの意思表示は右のような契約を終了させる趣旨のもとにされたのであるから、実質において解雇の意思表示にあたる、とするのであり、また、そうである以上、本件各傭止めの効力の判断にあたつては、その実質にかんがみ、解雇に関する法理を類推すべきであるとするものであることが明らかであつて、上記の事実関係のもとにおけるその認定判断は、正当として首肯することができ、その過程に所論の違法はない。
そこで考えるに、就業規則に解雇事由が明示されている場合には、解雇は就業規則の適用として行われるものであり、したがつてその効力も右解雇事由の存否のいかんによつて決せらるべきであるが、右事由に形式的に該当する場合でも、それを理由とする解雇が著しく苛酷にわたる等相当でないときは解雇権を行使することができないものと解すべきである。ところで、本件臨就規8条はYにおける基幹臨時工の解雇事由を列記しており、そのうち同条3号は契約期間の満了を解雇事由として掲げているが、上記のように本件各労働契約が期間の満了毎に当然更新を重ねて実質上期間の定めのない契約と異ならない状態にあつたこと、及び上記のようなYにおける基幹臨時工の採用、傭止めの実態、その作業内容、Xらの採用時及びその後におけるXらに対するY側の言動等にかんがみるときは、本件労働契約においては、単に期間が満了したという理由だけではYにおいて傭止めを行わず、Xらもまたこれを期待、信頼し、このような相互関係のもとに労働契約関係が存続、維持されてきたものというべきである。そして、このような場合には、経済事情の変動により剰員を生じる等Yにおいて従来の取扱いを変更して右条項を発動してもやむをえないと認められる特段の事情の存しないかぎり、期間満了を理由として傭止めをすることは、信義則上からも許されないものといわなければならない。しかるに、この点につきYはなんら主張立証するところがないのである。もつとも、前記のように臨就規8条は、期間中における解雇事由を列記しているから、これらの事由に該当する場合には傭止めをすることも許されるというべきであるが、この点につき原判決はYの主張する本件各傭止めの理由がこれらの事由に該当するものでないとしており、右判断はその適法に確定した事実関係に照らしていずれも相当というべきであつて、その過程にも所論の違法はない。そうすると、YのしたXらに対する本件傭止めは臨就規8条に基づく解雇としての効力を有するものではなく、これと同趣旨に出た原判決に所論の違法はない。(以下略)」

・最高裁昭和61年12月4日判決(日立メディコ事件)
(判決の要旨)
「(略)原審の確定した右事実関係の下においては、本件労働契約の期間の定めを民法90条に違反するものということはできず、また、5回にわたる契約の更新によつて、本件労働契約が期間の定めのない契約に転化したり、あるいはXとYとの間に期間の定めのない労働契約が存在する場合と実質的に異ならない関係が生じたということもできないというべきである。(中略)
原判決は、本件雇止めの効力を判断するに当たつて、次のとおり判示している。
(1) P工場の臨時員は、季節的労務や特定物の製作のような臨時的作業のために雇用されるものではなく、その雇用関係はある程度の継続が期待されていたものであり、Xとの間においても5回にわたり契約が更新されているのであるから、このような労働者を契約期間満了によつて雇止めにするに当たつては、解雇に関する法理が類推され、解雇であれば解雇権の濫用、信義則違反又は不当労働行為などに該当して解雇無効とされるような事実関係の下に使用者が新契約を締結しなかつたとするならば、期間満了後における使用者と労働者間の法律関係は従前の労働契約が更新されたのと同様の法律関係となるものと解せられる。(2) しかし、右臨時員の雇用関係は比較的簡易な採用手続で締結された短期的有期契約を前提とするものである以上、雇止めの効力を判断すべき基準は、いわゆる終身雇用の期待の下に期間の定めのない労働契約を締結しているいわゆる本工を解雇する場合とはおのずから合理的な差異があるべきである。(3) したがつて、後記のとおり独立採算制がとられているYのP工場において、事業上やむを得ない理由により人員削減をする必要があり、その余剰人員を他の事業部門へ配置転換する余地もなく、臨時員全員の雇止めが必要であると判断される場合には、これに先立ち、期間の定めなく雇用されている従業員につき希望退職者募集の方法による人員削減を図らなかつたとしても、それをもつて不当・不合理であるということはできず、右希望退職者の募集に先立ち臨時員の雇止めが行われてもやむを得ないというべきである。
原判決の右判断は、本件労働契約に関する前示の事実関係の下において正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。(中略)
そして、原審は、次のように認定判断している。すなわち、YにおいてはP工場を一つの事業部門として独立採算制をとつていたことが認められるから、同工場を経営上の単位として人員削減の要否を判断することが不合理とはいえず、本件雇止めが行われた昭和46年10月の時点において、P工場における臨時員の雇止めを事業上やむを得ないとしたYの判断に合理性に欠ける点は見当たらず、右判断に基づきXに対してされた本件雇止めについては、当時のYのXに対する対応等を考慮に入れても、これを権利の濫用、信義則違反と断ずることができないし、また、当時のP工場の状況は同工場の臨時員就業規則74条2項にいう「業務上の都合がある場合」に該当する。
右原審の認定判断も、原判決挙示の証拠関係及びその説示に照らしていずれも肯認することができ、その過程に所論の違法はない。(以下略)」

≪参考条文≫
労働契約法
(有期労働者の更新等)
第19条 有期労働契約であって次の各号のいずれかに該当するものの契約期間が満了する日までの間に労働者が当該有期労働契約の更新の申込みをした場合又は当該契約期間の満了後遅滞なく有期労働契約の締結の申込みをした場合であって、使用者が当該申込みを拒絶することが、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないときは、使用者は、従前の有期労働契約の内容である労働条件と同一の労働条件で当該申込みを承諾したものとみなす。
一 当該有期労働契約が過去に反復して更新されたことがあるものであって、  その契約期間の満了時に当該有期労働契約を更新しないことにより当該有期労働契約を終了させることが、期間の定めのない労働契約を締結している労働者に解雇の意思表示をすることにより当該期間の定めのない労働契約を終了させることと社会通念上同視できると認められること。
二 当該労働者において当該有期労働契約の契約期間の満了時に当該有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があるものであると認められること。

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