新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.1410、2013/02/12 10:33 https://www.shinginza.com/qa-roudou.htm

【労働・試用期間・業務不適格による本採用拒否の可否・使用者側による教育指導の有無・大阪地裁昭和45年10月9日判決・高橋ビルディング事件】

質問:
私は26歳,大卒,女性です。試用期間後の採用拒否について教えてください。第二新卒で入った会社で,3か月の試用期間満了後に本採用を拒否されました。クビにされたこと自体も納得できませんが,理由がとても納得できるものではありません。本採用拒否の理由は,「勤務成績が悪く,改善の見込みがない。」というものでした。直属の女性上長が人事部長に対してそのような報告をしたようです。確かに即戦力のような働きをしていなかったことは事実です。けれど,配属先の上長が私のことを気に入らなかったようで,仕事について質問をしても「忙しいのに邪魔をしないで。」とか「そんなことも分からないでうちに来たの。」とか,まともに取り合ってもらえずに無視,放置をされたことも原因だと思います。内定後に業界紙の購読を始めるなど,私なりに早く一人前になろうという努力はしていたのに,自分の存在価値を否定されたみたいで悔しいです。



回答:
1.試用期間経過後の本採用拒否は,法律上は解雇になります。使用者は,試用期間中の従業員が本採用に堪えないと判断したとき,本採用を拒否(解雇)することができますが,気に入らなければ自由に本採用を拒否(解雇)できるというものではありません。客観的に合理的な理由が存在し,社会通念上相当なものとして認められる場合に限り,試用期間中ということで留保していた解約権を行使できると解されています。
2.業務不適格や勤務成績不良は,本採用拒否の典型的な理由ですが,そのような理由があるといえるためには,使用者側にも従業員に対する教育を実施し,相応の努力を尽くすことが必要です。
3.そのような義務が果たされないで業務不適格や勤務成績不良を理由に本採用拒否をされた場合,法的手続によって本採用拒否の効力を否定し,従業員としての地位があることを裁判所によって認めてもらうことが考えられます。
4.試用期間中に突然の解雇がされた事案に関する当事例集1117番も合わせてご参照ください。その他の関連事例集642番,925番,657番,842番,762番,923番,1317番,を参考に参照してください。手続は,995番, 法の支配と民事訴訟実務入門,各論3,「保全処分手続,仮差押,仮処分を自分でやる。」,各論17,「労働審判を自分でやる。」,書式ダウンロード労働審判手続申立参照。

解説:

【試用期間の意義】
 試用期間とは,本採用決定前の「試みの期間」であって,その間に労働者の人物,能力,勤務態度等を評価して社員としての適格性を判定し,本採用するか否かを決めるための期間をいいます。
 試用期間付きの雇用契約の法的性質については,本採用後の契約とは別個の予備的な契約ではなく,期間中に一定の解約権(解雇権)が使用者側に留保されているものの,本採用後の契約と一体のものであると解されています(三菱樹脂事件,最高裁昭和48年12月12日判決)。

【労働契約法上の解雇制限と試用期間付き契約の必要性】
 期間の定めのない雇用契約について,民法は,「各当事者は,いつでも解約の申入れをすることができ」,「解約の申入れの日から二週間を経過することによって終了する」と規定していますが,使用者側からの一方的解約である解雇については,労働契約法によって制限がされています。すなわち,「解雇は,客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当であると認められない場合は,その権利を濫用したものとして,無効」とされています。こうした解雇制限は,一方当事者である労働者にとってはとてもありがたい規定です。
 しかしながら,他方当事者である企業側にしてみれば大きなリスクです。一旦雇い入れると,仮に適格性が十分といい難くても,上記のような制限を乗り越えて解雇が認められるかどうかに不安を残すことになります。また,募集,審査,採用,教育のすべての過程にコストがかかっているのに,その従業員が不適格だった場合にはそれらのコストが無駄だったともいえ,それどころかその不適格な従業員を放出することも許されないとなると,企業としては新規採用に二の足を踏まざるを得なくなります。
 そもそも,採用決定の当初には,採用した労働者の資質・性格・能力などの適格性を把握することは至難の業です。限られた期間,限られた資料から,一度締結すると解約がとても難しい長期の契約を結ぶに足りるだけの判断材料が得られるということの方がむしろ普通ではないでしょう。
 こうした理由から,期間の定めのない雇用契約の締結にあたって試用期間を設ける必要性は大きいといえます。

【本採用拒否(留保解約権行使)の可否基準】
 かといって,試用期間中であればいつでも自由に本採用拒否ができるとは解されていません。いくら使用者側に試用期間を設ける必要性があるとはいえ,労働者側がどんな不利益をも甘受しなければならないとはいえず,双方の権利・利益の衝突を調整するのに必要な限度というものがあります。
 判例上,試用期間中の使用者に留保された解約権の行使は,解約権留保の趣旨・目的に照らして,客観的に合理的な理由が存在し,社会通念上相当なものとして是認されることができる場合にのみ許されると解されています(前掲最判昭和48年12月12日)。
 客観的に合理的な理由や,社会通念上の相当性など,通常の解雇における制限と同様の用語が要件として掲げられていますが,通常の解雇に比べ,あてはめの段階で比較的緩やかに判断されることになります。

【業務不適格・勤務成績不良を理由とする本採用拒否】
 本採用拒否の典型的な理由としては,勤務態度や成績の不良,業務遂行能力の不足,協調性の欠如などが挙げられます。しかし,形式的にそういう理由を述べれば本採用拒否が正当化されるわけではありません。
 実務上も,能力や適性の欠如を理由として本採用を拒否した事例においては,@能力や適性が不足していることが,それを裏付ける具体的な事実からどれくらい立証できているか,A不足していると判断した評価の妥当性が問題とされることが多いでしょう。
 また,仮に成績が振るわないことが客観的なデータで認められる場合であったとしても,Bその従業員に対して,上司が繰り返し注意や指導をしたが改まらなかったという事情があれば,本採用拒否が有効とされる方向に考慮され易くなりますが,逆に,ろくに注意や指導をしていなかった場合には,その成績不振を当該従業員の能力不足のせいにしていいのかという点について疑義が持たれて,本採用拒否が無効とされる可能性が増してくるでしょう。
 やや古い下級審判例になりますが,大阪地判昭和45年10月9日(高橋ビルディング事件)が「会社においても教育的観点から試用期間中の者に若干責められるべき事実があるとしても,これに対して直ちに解雇をもって臨むことなく合理的な範囲内でその矯正,教育に尽すべき義務があるものといわねばならない。」と判示していることは,現代においても参考にしうるかと思います。

【本件の検討】
 法的な対応としては,本採用拒否の効力を争って,あなたが今もなおこの会社の従業員としての地位があることの確認を求めて,労働審判を申し立てることが妥当でしょう。復職を希望する場合は当然この手段によりますが,仮に復職を希望せず,最終的に金銭解決(和解金の支払と引換えに退職する方法)を狙うにしても,まずは,本採用の拒否が不当であり会社の従業員としての地位のあること主張するのがよいでしょう。
 あなたの言い分によると,会社が期待した成績に達していない部分があること自体は認めるとしても,会社側(特に直属の上長)がきちんと新入社員を指導・教育しなかったという事情があるようです。
 会社側が従業員に対する指導・教育を怠った場合にまで,業務不適格や勤務成績不良を理由とする本採用拒否が許されるわけではないことは上記のとおりですから,本件についても,この点を主張していくことが考えられます。
 中途採用とはいえ,いわゆる第二新卒については,いわゆるヘッドハンティングされた管理職のように即戦力となることが要求されるとはいえないでしょう。業界誌の購読を始めていたという事情も,あなたの熱心な姿勢を裏付ける一つの資料にはなるかと思います。
 もっとも,中心的な争いになると予想されるのは,試用期間中,あなたがどのような仕事振りだったか,試用期間中の従業員としてどのように振る舞ったか,会社側があなたの教育・指導にどのような努力をしたかという具体的な事実経過になるでしょう。労働審判手続に通じた弁護士といえども,本件の具体的な事実を体験したのはあなたご自身です。労働審判申立てに向けての準備の中では,その体験をきちんと整理して,弁護士と打ち合わせを重ねていくことが重要になります。

≪参照法令≫

【労働契約法】
(解雇)
第十六条  解雇は,客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当であると認められない場合は,その権利を濫用したものとして,無効とする。

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