新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.1319、2012/8/8 11:59 https://www.shinginza.com/qa-souzoku.htm

【相続遺言・添え手によって書かれた自筆証書遺言の効力・最高裁昭和62年10月8日判決・東京地裁平成18年12月26日判決】

質問:母が死亡し,姉が遺言書を保管していました。姉の説明では,母親は脳梗塞の後遺症で右手が少し麻痺して字が思うように書けなかったので,母親が遺書を書いているとき手を添えていたということでした。そのような遺言書も有効といえるのでしょうか。

回答:
1.遺言には,公正証書遺言等いくつかの種類がありますが(民法967条等),お母様が自分で書いたということは自筆証書遺言ということになります。自筆証書遺言は,その作成方法や訂正方法について厳格に規定がされており(民法968条),その方式違背があることも少なくありません。自筆証書遺言の作成にあたっては,遺言者が,遺言書の全文,日付及び氏名を自書し,押印をしなくてはならないものとされています(民法968条1項)。そこで,自筆証書遺言が民法の方式にのっとって作成されているか,よく検討する必要があります。
2.本件では,遺言者が自書したといえるか問題となります。自書したと言えるためには,文字を知っていて筆記することができる自書能力があることが必要となりますが,他人に添え手をされて書かれた遺言書が自書と認められる要件は
@遺言者が遺言書の作成時に自書能力を有していたこと。
A他人の添え手が,単に始筆や改行の際や行間を整えるときなどに遺言者の手を用紙の正しい位置に導くにとどまるか,または,遺言者の手の動きが遺言者の望みに任されていて,遺言者は添え手をした他人から単に筆記を容易にするための支えを借りただけであること。
B添え手をした他人の意思が介入した形跡のないことが筆跡から判定できる場合こと
以上3点が満たされれば,他人に手を添えられて書いたとしても,自書されたものとして有効と考えられます。判例もこのような場合に限り有効であると判断しています(最高裁昭和62年10月8日判決)。本件でもこれらの要件が具備されているか否か検討が必要になります。
3.関連事例集論文1265番1092番710番674番参照。

解説:
(遺言制度の趣旨)
  遺言制度の趣旨(法的には「いごん」と読みますが,「ゆいごん」でも間違いではありません。)についてまずご説明いたします。遺言とは定義的には一定の方式に従って遺言者が死亡した後の法律関係を定める最終的意思を表示する法律行為を言います。資本主義,自由主義を採るわが国の基本的社会制度として私有財産制度(憲法29条),私的自治の原則(国家は私人間の法律関係に関与しません。)が定められており,国民の生活関係(私人間の法律関係)では契約自由の原則(法律行為自由の原則,基本的に法律関係を契約等法律行為として理論的に整理します。例えば婚姻も契約です。)が採用されていますから,原則的に国民は生前誰でも,自分の財産等を自由にどのような方式によっても処分する事ができる事になっています。
  従って,権利者が死亡後も自由に自分の財産処分ができる事は理の当然であり,法律行為である以上自由に認めてもいいようにも思いますが,遺言という法律行為の特殊性から種々の制限があります。その特殊性とは,意思表示した遺言者が死亡後に生じる法律関係を内容としており法律関係,効果が発生した時には肝心の当事者である遺言者がこの世にはいないわけです。従って,遺言は,遺言者の財産処分等の最終的意思を内容としているところにあります。すなわち,遺言者死亡後は遺言の内容すなわち意思内容を当然変更できませんから財産等処分の最終意思ということになるわけです。私有財産制を基本とする限りここがもっとも尊重しなければならない点です。
  遺言者の最終意思である遺言の内容を忠実に実現し且利害関係人の争いをなくすためには,効力発生時遺言者が存在せず事情を確認できないという特殊性から,遺言者の意思解釈の違い,偽造変造の可能性もあり,事前に厳格な方式を定め書面による事を原則とし,書面の記載内容も法律によって要件を定め詳細に規定しているのです。そういう意味で法律行為自由の原則の例外規定となっています。
  従って,以上のような決まりに反すると遺言は基本的に無効と言う事になってしまいます。又遺言は遺言者の最終意思であって財産等の処分を内容としており,遺言者は利益を受ける関係にありませんし,取引行為ではありませんから20歳以上の法律行為能力は不要であり,15歳程度の意思能力(物事に対する一応の判断能力,法的に事理弁職能力といいます。)があれば有効です(民法961条)。ただ,形式的に遺言の要件を厳格に解釈すると,私有財産制の基本である遺言者の最終意思実現を阻害する危険があるので,各要件も遺言者の最終意思実現を図るという制度趣旨から,遺言された状況を詳細に検討して解釈されることになります。

1 (自筆証書遺言について)
  遺言は,民法の定める方式に従ったものであることが必要とされています(民法960条,967条〜984条)。
  遺言の方式は厳格に法定されていますが,これは,遺言が偽造・変造されることを防ぎ,被相続人の真の意思を実現しようとするためです。遺言が効力を発生するのは遺言者が死亡した時ですから,あやふやな遺言書では遺言者の意思を確認することができないため,遺言書が有効となる要件をあらかじめ定めて置き,有効な要件を満たしたもののみが遺言書として認められることになっています。他方であまりに要件を厳格に解すると,遺言者の意思が実現されないことになってしまいます。遺言の有効性を判断するにはそのような立場から検討する必要があります。
  特に自筆証書遺言の場合は,作成に関しては,遺言者が全文,日付及び氏名を自書し,押印をしなくてはならいものとされ(民法968条1項),加除や変更に関しては,遺言者がその場所を指示し,これを変更した旨を付記して特にこれに署名し,かつ,その変更の場所に印を押さなければならないものとされています(同条2項)。
  このような自筆証書遺言において,自書が要件とされているのは,筆跡によって本人が書いたものであることが判定でき,それ自体で遺言者の真意(財産等処分の最終意思)が分かるようにするためです。

2 (添え手がなされた場合の自筆証書遺言の有効性)
  他方,自筆証書遺言は,公正証書遺言等の他の方式の遺言と異なり,立会なくして作成することができる点で,偽造・変造の危険が大きく,遺言者の真意かどうかについて紛争になりやすい側面もあります。
  そこで,自書されたといえるかどうかについては遺言書だけで遺言者の真意が判断できるかという見地から厳しく判断すべきものとされています。遺言者が自筆証書遺言を作成するにあたり,他人の添え手がなされた場合も遺言者の意思に基づいているのか疑問もあることから次の点が検討される必要があります。
@遺言者が証書作成時に自書能力を有していたか。
A他人の添え手が,単に始筆や改行の際,あるいは字配りや行間を整える際に,遺言者の手を用紙の正しい位置に導くにとどまるか,または,遺言者の手の動きが遺言者の望みに任されていて,遺言者は添え手をした他人から単に筆記を容易にするための支えを借りただけであるといえたか。
B添え手が前記のような態様のものにとどまること,すなわち添え手をした他人の意思が介入した形跡のないことが,筆跡のうえで判定できること。

  この様な要件を満たす場合に,自書の要件を満たし,遺言は有効と考えられます(最高裁昭和62年10月8日判決,遺言不存在確認請求事件)。遺言制度の趣旨から遺言者の最終意思確認という視点から妥当な要件です。ただ,この解釈要件は,自筆証書遺言の要件を例外的に緩和したものですから認定が厳格慎重になり,無効確認訴訟における被告はこの要件を裏付ける証拠資料を積極的に準備,提出する必要があります。

3 (本件の場合の対応)
  本件においても上記の点を具体的に検討する必要があります。すなわち
@お母さんが脳梗塞で倒れた後の状況。後遺症で手に麻痺が残っていてペンもしっかり握れなかったり,リハビリ経過も思わしくないというような状況があったか。
A整った文字など書けないような状況であったにもかかわらず,遺言書では誤記や書き損じがなく,おおむね整った字が書かれているような状況があったか

  このような場合は,遺言が無効であるとされることがあります。同じような事案で自筆証書遺言が無効にされた裁判例もあります(東京地裁平成18年12月26日判決)。
  遺言が無効か否かは,最終的には遺言書無効確認訴訟という裁判を地方裁判所に提起することになります。その前に遺産分割の協議をし,そこで遺言書の効力について相続人間で話し合って解決することも可能です。相続人間で遺言書の有効性について争いがある場合は,遺言書は無効を確認する判決があるまでは有効なものとして遺言書に従って執行することは可能ですから,無効を主張する相続人から無効の確認訴訟を提起する必要があります。
  具体的に遺言が無効となるかどうかの判別がご自身では難しいこともあるかと思いますし,その上での兄弟姉妹間での交渉もしづらいこともあるかと思いますが,その場合は,法律問題の専門家である弁護士に一度ご相談されることをお勧めします。

4 (判例検討)
参考判例
○最高裁昭和62年10月8日判決(抜粋)
病気その他の理由により運筆について他人の添え手による補助を受けてされた自筆証書遺言は,(1)遺言者が証書作成時に自書能力を有し,(2)他人の添え手が,単に始筆若しくは改行にあたり若しくは字の間配りや行間を整えるため遺言者の手を用紙の正しい位置に導くにとどまるか,又は遺言者の手の動きが遺言者の望みにまかされており,遺言者は添え手をした他人から単に筆記を容易にするための支えを借りただけであり,かつ,(3)添え手が右のような態様のものにとどまること,すなわち添え手をした他人の意思が介入した形跡のないことが,筆跡のうえで判定できる場合には,「自書」の要件を充たすものとして,有効であると解するのが相当である。

○東京地裁平成18年12月26日判決遺言無効確認請求事件(抜粋)
 前記遺言を有効と解釈する要件の厳格性から妥当な判決でしょう。

「 自筆証書遺言は,遺言者が遺言書の全文,日付及び氏名を自書し,押印しなければならず(民法968条1項),それが有効に成立するためには,遺言者が遺言当時自書能力,すなわち遺言者が字を知り,かつ,これを筆記する能力を有していたことを要する。本件遺言書のように,運筆について他人の添え手による補助を受けてされた自筆証書遺言が「自書」の要件を充たすためには,@遺言者が証書作成時に自書能力を有し,A他人の添え手が,単に始筆若しくは改行にあたり若しくは字の間配りや行間を整えるため遺言者の手を用紙の正しい位置に導くにとどまるか,又は遺言者の手の動きが遺言者の望みに任されており,遺言者は添え手をした他人から単に筆記を容易にするための支えを借りただけであり,かつ,B添え手が上記のような態様のものにとどまること,すなわち添え手をした他人の意思が介入した形跡のないことが筆跡の上で判定できることを要する(最高裁昭和62年10月8日第一小法廷判決・民集41巻7号1471頁)。
 上記認定事実によれば,亡Aは,もともと読み書きの能力に何ら問題はなかったが,平成14年10月16日,多発性脳梗塞を発症して右片麻痺,高次脳機能障害及び失見当識が生じ,同年12月24日には左脳出血,脳室穿破により右片麻痺及び高次脳機能障害は顕著に悪化し,その後若干の改善はみられたが,書字については,麻痺した右手で書く意思は認められるものの,字にならず(平成15年4月7日),鉛筆をうまく握れず,なぐり書きをしただけで,字のように見えても判読することができないものであり(同年5月21日),筆圧が弱く,字を書くことができず(同月26日及び28日),曲線を書きなぐるだけで,字にはならなかった(同年7月12日及び16日)のであり,ふじの温泉病院に転院して以降,障害老人の日常生活自立度はC(1日中ベッド上で過ごし,排泄,食事,着替において介助を要する状態)であり,書字について「模写が可能であるが字形を保つのが困難である。」とされ(同年9月8日),同月22日のMMSEの結果も4点であり,同年10月6日には,カレンダーを見ても当日の日付を答えることができず,漢字で書かれた自分の名前を複写するよう指示されても,字を書くことができず,音読するように指示されても,音読することができず,また,菜の花の塗り絵をするように指示され,軽く手を動かすものの,直ぐに止めてしまい,手を貸すと多少その動作を続けたが,持続しないという状態であった。
 そして,日本赤十字社医療センターリハビリテーション科の医師であるD(以下「D医師」という。)らの意見書(甲37。以下「D意見書」という。)によれば,本件遺言書に記載されている画数の多い字や小さな字を書くには,Brステージにおいてステージ6の機能が必要であるとされているところ,亡AのBrステージは,3ないし5程度であったことからすると,亡Aは,自力では発病前の筆跡を保持した文字を書くことはもちろん,他の者が判読することができる程度の文字すら書くことはできなかったものと認められる。
 ところが,本件遺言書には歪んだ字がいくつか見られるが,「そんぽ」の「ぽ」の字の「゜」は,円の始点と終点が一致し,きれいな円形を保っているし,「A」の「春」の字の「日」は,書き始めから書き終わりまではみ出すことなく形が保たれて完結しているなど,おおむね整った字が書かれており,また,被告の供述によれば,本件遺言書は,練習なしに書き始めたというのであるが,前記認定のとおり,亡Aの右上肢の片麻痺及び高次脳機能障害の程度が相当程度悪化していたことを考えると,誤記,書き損じが全くないのは不自然であり,被告が単に亡Aの手を支えるため背後から亡Aの右手の甲を上から握っただけで,亡Aの望むままに運筆したのであれば,本件遺言書のような字を書くことはできなかったものと認められ,また,本件遺言書作成経過を再現した写真撮影報告書(乙58)に添付された「ゆい言書」に記載された字の筆跡は,本件遺言書に記載された字の筆跡と似ている。
 以上のことからすると,亡Aが本件遺言書作成当時,自書能力を有していたとは断じ難い上,被告が本件遺言書作成の際にした添え手は,単に始筆,改行,字の間配りや行間を整えるため亡Aの手を用紙の正しい位置に導くにとどまり,又は亡Aの手の動きが望みに任され,被告から単に筆記を容易にするための支えを借りたにとどまるというものではなく,その筆跡上,被告の意思が介入した形跡のないことが判定できるようなものではない。
 これに対し,被告は,亡Aが,リハビリとして書字の練習をしており,本件遺言書作成以前にも自らの氏名を書くことができたとして証拠(乙10の1ないし10の4,乙25の1ないし25の9,乙30)を提出するけれども,亡Aが実際に同証拠のとおりに字を書いたのを見たというのは被告だけであるし,亡Aが他人の補助なしに字を書くことができるようになったのであれば,診療録等にもその旨の記載がされるはずあるが,かかる記載は一切見られない。上記乙10の1ないし10の4,乙25の1ないし25の9中の黄色のマーカーがされている字及び線(被告が亡Aにおいて記載したと主張するもの)には,比較的整った字の記載から乱雑な線の集まりにすぎず到底文字とはいえないものまでが混在しており,これらは,むしろ,亡Aが他人の補助がなければ字を書こうとしても到底字とはいえないものしか書けなかったことを示すものである(甲7の13中の平成15年7月12日,同月16日の記載,同年8月14日の乙69の記載もそのようなものである。)。また,E医師は,@手を添えられた場合は,書ける可能性はあると思う,A婚姻届を書くことも可能だったと考えられるとの意見を述べている(甲39,乙74)けれども,上記@は,どのような添え手がされたかが問題であって,亡Aが十分な書字能力を有していたことの根拠とはならないし,上記Aは上記の黄色マーカー部分すべてを亡Aが自ら記載したことが前提とされているところ,上記のとおりそのように認めることはできない。さらに,F医師(以下「F医師」という。)の意見書(乙67の1)には,「実際に字を書いたりしたのだとすると,書字能力がないとは言えない」,「右手の機能も残っていて,字も書けていたということから,むしろ遺言書や結婚届を書くことができた可能性が高い」との記載があるが,亡Aが実際に字を書くことができたという事実の根拠が不明であり,前記の認定判断を左右するものではない。
 したがって,本件遺言書は,亡Aの自書によるものと認めることはできず,本件遺言は形式的要件を欠き,無効というべきである。」

5 (公正証書遺言)
  本件では,お母様が既に亡くなっておられるということで使えませんが,ご存命中であれば,「添え手」による遺言書の有効性に心配が残る場合には,法律事務所に相談し,公証人による遺言公正証書の作成を検討して下さい。法律事務所では,事前に公証役場に遺言書の文案を送り,遺言者の健康状態や意思確認の方法や署名が困難な事を打ち合わせて,遺言公正証書を作成しています。必要な場合は,公証人が病院や自宅に出張することもできます。遺言公正証書であれば,本人が自筆署名できない場合でも,当人の意思確認をした上で公証人が代筆することが法律上も認められています(公証人法39条4項)。公正証書遺言であれば法的効力の面で御心配が不要になると考えることができます。

《参照条文》

○民法
(遺言の方式)
第九百六十条  遺言は,この法律に定める方式に従わなければ,することができない。 (普通の方式による遺言の種類)
第九百六十七条  遺言は,自筆証書,公正証書又は秘密証書によってしなければならない。ただし,特別の方式によることを許す場合は,この限りでない。
(自筆証書遺言)
第九百六十八条  自筆証書によって遺言をするには,遺言者が,その全文,日付及び氏名を自書し,これに印を押さなければならない。
2  自筆証書中の加除その他の変更は,遺言者が,その場所を指示し,これを変更した旨を付記して特にこれに署名し,かつ,その変更の場所に印を押さなければ,その効力を生じない。
(公正証書遺言)
第九百六十九条  公正証書によって遺言をするには,次に掲げる方式に従わなければならない。
一  証人二人以上の立会いがあること。
二  遺言者が遺言の趣旨を公証人に口授すること。
三  公証人が,遺言者の口述を筆記し,これを遺言者及び証人に読み聞かせ,又は閲覧させること。
四  遺言者及び証人が,筆記の正確なことを承認した後,各自これに署名し,印を押すこと。ただし,遺言者が署名することができない場合は,公証人がその事由を付記して,署名に代えることができる。
五  公証人が,その証書は前各号に掲げる方式に従って作ったものである旨を付記して,これに署名し,印を押すこと。
(公正証書遺言の方式の特則)
第九百六十九条の二  口がきけない者が公正証書によって遺言をする場合には,遺言者は,公証人及び証人の前で,遺言の趣旨を通訳人の通訳により申述し,又は自書して,前条第二号の口授に代えなければならない。この場合における同条第三号の規定の適用については,同号中「口述」とあるのは,「通訳人の通訳による申述又は自書」とする。
2  前条の遺言者又は証人が耳が聞こえない者である場合には,公証人は,同条第三号に規定する筆記した内容を通訳人の通訳により遺言者又は証人に伝えて,同号の読み聞かせに代えることができる。
3  公証人は,前二項に定める方式に従って公正証書を作ったときは,その旨をその証書に付記しなければならない。
(秘密証書遺言)
第九百七十条  秘密証書によって遺言をするには,次に掲げる方式に従わなければならない。
一  遺言者が,その証書に署名し,印を押すこと。
二  遺言者が,その証書を封じ,証書に用いた印章をもってこれに封印すること。
三  遺言者が,公証人一人及び証人二人以上の前に封書を提出して,自己の遺言書である旨並びにその筆者の氏名及び住所を申述すること。
四  公証人が,その証書を提出した日付及び遺言者の申述を封紙に記載した後,遺言者及び証人とともにこれに署名し,印を押すこと。
2  第九百六十八条第二項の規定は,秘密証書による遺言について準用する。
(方式に欠ける秘密証書遺言の効力)
第九百七十一条  秘密証書による遺言は,前条に定める方式に欠けるものがあっても,第九百六十八条に定める方式を具備しているときは,自筆証書による遺言としてその効力を有する。
(秘密証書遺言の方式の特則)
第九百七十二条  口がきけない者が秘密証書によって遺言をする場合には,遺言者は,公証人及び証人の前で,その証書は自己の遺言書である旨並びにその筆者の氏名及び住所を通訳人の通訳により申述し,又は封紙に自書して,第九百七十条第一項第三号の申述に代えなければならない。
2  前項の場合において,遺言者が通訳人の通訳により申述したときは,公証人は,その旨を封紙に記載しなければならない。
3  第一項の場合において,遺言者が封紙に自書したときは,公証人は,その旨を封紙に記載して,第九百七十条第一項第四号に規定する申述の記載に代えなければならない。(成年被後見人の遺言)
第九百七十三条  成年被後見人が事理を弁識する能力を一時回復した時において遺言をするには,医師二人以上の立会いがなければならない。
2  遺言に立ち会った医師は,遺言者が遺言をする時において精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く状態になかった旨を遺言書に付記して,これに署名し,印を押さなければならない。ただし,秘密証書による遺言にあっては,その封紙にその旨の記載をし,署名し,印を押さなければならない。
(証人及び立会人の欠格事由)
第九百七十四条  次に掲げる者は,遺言の証人又は立会人となることができない。
一  未成年者
二  推定相続人及び受遺者並びにこれらの配偶者及び直系血族
三  公証人の配偶者,四親等内の親族,書記及び使用人

(共同遺言の禁止)
第九百七十五条  遺言は,二人以上の者が同一の証書ですることができない。
     第二款 特別の方式
(死亡の危急に迫った者の遺言)
第九百七十六条  疾病その他の事由によって死亡の危急に迫った者が遺言をしようとするときは,証人三人以上の立会いをもって,その一人に遺言の趣旨を口授して,これをすることができる。この場合においては,その口授を受けた者が,これを筆記して,遺言者及び他の証人に読み聞かせ,又は閲覧させ,各証人がその筆記の正確なことを承認した後,これに署名し,印を押さなければならない。
2  口がきけない者が前項の規定により遺言をする場合には,遺言者は,証人の前で,遺言の趣旨を通訳人の通訳により申述して,同項の口授に代えなければならない。
3  第一項後段の遺言者又は他の証人が耳が聞こえない者である場合には,遺言の趣旨の口授又は申述を受けた者は,同項後段に規定する筆記した内容を通訳人の通訳によりその遺言者又は他の証人に伝えて,同項後段の読み聞かせに代えることができる。
4  前三項の規定によりした遺言は,遺言の日から二十日以内に,証人の一人又は利害関係人から家庭裁判所に請求してその確認を得なければ,その効力を生じない。
5  家庭裁判所は,前項の遺言が遺言者の真意に出たものであるとの心証を得なければ,これを確認することができない。
(伝染病隔離者の遺言)
第九百七十七条  伝染病のため行政処分によって交通を断たれた場所に在る者は,警察官一人及び証人一人以上の立会いをもって遺言書を作ることができる。
(在船者の遺言)
第九百七十八条  船舶中に在る者は,船長又は事務員一人及び証人二人以上の立会いをもって遺言書を作ることができる。
(船舶遭難者の遺言)
第九百七十九条  船舶が遭難した場合において,当該船舶中に在って死亡の危急に迫った者は,証人二人以上の立会いをもって口頭で遺言をすることができる。
2  口がきけない者が前項の規定により遺言をする場合には,遺言者は,通訳人の通訳によりこれをしなければならない。
3  前二項の規定に従ってした遺言は,証人が,その趣旨を筆記して,これに署名し,印を押し,かつ,証人の一人又は利害関係人から遅滞なく家庭裁判所に請求してその確認を得なければ,その効力を生じない。
4  第九百七十六条第五項の規定は,前項の場合について準用する。
(遺言関係者の署名及び押印)
第九百八十条  第九百七十七条及び第九百七十八条の場合には,遺言者,筆者,立会人及び証人は,各自遺言書に署名し,印を押さなければならない。
(署名又は押印が不能の場合)
第九百八十一条  第九百七十七条から第九百七十九条までの場合において,署名又は印を押すことのできない者があるときは,立会人又は証人は,その事由を付記しなければならない。
(普通の方式による遺言の規定の準用)
第九百八十二条  第九百六十八条第二項及び第九百七十三条から第九百七十五条までの規定は,第九百七十六条から前条までの規定による遺言について準用する。
(特別の方式による遺言の効力)
第九百八十三条  第九百七十六条から前条までの規定によりした遺言は,遺言者が普通の方式によって遺言をすることができるようになった時から六箇月間生存するときは,その効力を生じない。
(外国に在る日本人の遺言の方式)
第九百八十四条  日本の領事の駐在する地に在る日本人が公正証書又は秘密証書によって遺言をしようとするときは,公証人の職務は,領事が行う。
公証人法第39条 公証人ハ其ノ作成シタル証書ヲ列席者ニ読聞カセ又ハ閲覧セシメ嘱託人又ハ其ノ代理人ノ承認ヲ得且其ノ旨ヲ証書ニ記載スルコトヲ要ス
2項 通事ヲ立会ハシメタル場合ニ於テハ前項ノ外通事ヲシテ証書ノ趣旨ヲ通訳セシメ且其ノ旨ヲ証書ニ記載スルコトヲ要ス
3項 前二項ノ記載ヲ為シタルトキハ公証人及列席者各自証書ニ署名捺印スルコトヲ要ス4項 列席者ニシテ署名スルコト能ハサル者アルトキハ其ノ旨ヲ証書ニ記載シ公証人之ニ捺印スルコトヲ要ス
5項 証書数葉ニ渉ルトキハ公証人ハ毎葉ノ綴目ニ契印ヲ為スコトヲ要ス

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