新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.1307、2012/7/19 13:32 https://www.shinginza.com/qa-hanzai-higai.htm

【刑事事件発生と被害示談契約の関連・傷害被害にあった場合】

質問:先日,同棲相手と喧嘩となり肋骨を骨折するケガを負いました。幸いなことに入院はしておらず,完治まで3カ月間,月に2回ずつ通院しただけです。通院の際に1回1万円合計6万円を支払った他には,特に費用を出していません。また,デスクワークのため,仕事も休まずに済み,仕事にも影響しませんでした。相手は逮捕され,現在勾留されています。昨日,弁護人に就いた弁護士さんが突然職場にやってきて,50万円で示談の申入れを受けました。示談金の額が妥当なものか分からなかったので,弁護士の人には帰ってもらいました。相手方の弁護士の人は,後日連絡をくれるようです。示談金が妥当なものであれば示談をしようと考えています。本件の場合には,示談金の目安は幾らくらいでしょうか。また,同棲相手とは,二度と会いたくないと考えています。相手が私に会いに来ないようにするための方法はありますか。そして,相手の弁護士の人に騙されて変な契約を結びたくないので,相手の弁護士と代わりに交渉してくれるよう弁護士に頼むことはできますか。
(検索キーワード:傷害 骨折 被害者 被害者側 示談 示談金 妥当 相場 交渉 )

回答:
1.示談金の目安について
  詳細な事情によって変動は致しますが,本件では100万から150万程度になると考えられます。算定の方法につきましては,解説をご覧ください。

2.加害者が二度と被害者に近づかないことについて
  示談書の中に接近禁止条項というものを盛り込むことで,事実上,相手が会いに来ないようにすることができます。

3.被害者側の弁護士について
  加害者側の弁護士との交渉をしてもらうために,被害者は弁護士を頼むことが出来ます。この場合には,以下の様なメリットがあります。
  ・相手方の弁護士と話さなくて良くなる。
  ・不当に安い示談金で示談されることを防ぐことができる。
  ・不当な内容での示談を防ぐことができる。
  ・示談金の支払いを確保する手段を講じることができる。
  ・加害者に名前や住所を知らせないようにすることができる。
  ・示談書の中に,実効性が高い接近禁止条項を盛り込むことができるなど。

4.最後に
  犯罪の被害に遭われ大変な思いをされているなか,被害者として不当な状況におかれないためにも,一度お近くの法律事務所にご相談いただければと思います。以下は,詳しい解説となっております。気になる点つき,適宜ご参照ください。事務所事例集論文528番794番894番1034番1063番1164番1249番にも犯罪被害に関する事例等関連する問題が掲載されておりますので,適宜ご参照ください。

解説:
1.(示談金の目安について)
  示談とは,すでに生じている紛争について裁判外で当事者により話し合いにより解決する契約です。和解と同じと考えて良いのですが,和解の場合は,紛争について当事者双方が譲り合って解決する契約とされていることから示談とは区別する見解もあります。示談契約において紛争解決のために支払われる金額を示談金と言います。
  このように,示談金の額は,紛争を解決することに納得できる金額となり,決まった金額があるわけではありません。被害者が納得できる金額を示談金として要求することは法律上問題ありません。

  ただ,そのようにいっても示談をまとめようとすれば,基準が必要になり,その基準としては交通事故の場合の損害賠償金額が用いられるのが一般的です。これを相場として考えることもできます。
  交通事故の損害賠償として,@治療費等の実損害(治療等のために出費した金額),A仕事を休んだりしたことにより損害(逸失利益と言います),B入通院慰謝料が挙げられます。交通事故以外の示談の場合もこの3要素について積算することになります。本件の場合には,仕事は休んでいないということですから「慰謝料」に「治療費」を足した額が示談金の目安となります(但し,通常は痛みのため仕事はできないが,特に休めなかったので無理して仕事をしたような場合は休業損害を請求することもできますが,通常は慰謝料等で加算されることになります)。
  慰謝料を算定するにあたっては『民事交通事故訴訟・損害賠償額算定基準』が参考になります。同書には,交通事故における入通院慰謝料に関する表が掲載されています。
  この表は,交通事故という過失によって生じてしまった身体加害についての慰謝料の目安を示した表です。そのため,本件の様な故意行為による場合には,故意加算として,表に則り算出された額に1.2倍〜1.3倍して得られた額を慰謝料の目安とするのが通常です。加害行為が悪質な場合に1.3倍を超えて主張することも許されます。
  このような計算のもと本件を検討すると,表に則り算出される額である73万円に,故意加算として1.2倍〜1.3倍をすることとなり,87.6万円〜94.9万円が慰謝料の目安となります。
  「治療費」は実際に医療機関に支払った金額です。本件では合計6万円を支払ったということですからこの金額が加算されます。
  なお,通院のための交通費や診断書作成費用等も損害として加算することができます。

  本件では,加害被害によって治療費を支出したに止まりますが,事案によっては,付添人が必要となったり,将来の介護が必要となったり,仕事を休まざるを得なくなる場合もあるかと思います。この様な場合,加害者に対して付添費用・介護費用・休業損害を請求できる可能性があります。
  また,頭部などに傷害行為を受けている場合,被害後数年したのちに,身体に影響がでることもあります。こうした数年後に発生する障害について,示談書面の内容によっては請求が困難となる可能性となってしまうこともあり得ます。こうした事態を避けるためには,示談合意書の内容に注意する必要があります。
  以上計算すると,加害者の代理人弁護士の提案する50万円という示談金は低廉に過ぎるといえるでしょう。また,相手が逮捕勾留されているということは,示談して刑事処分を受けないようにすることが相手の目的と考えられます。あなたとすれば,警察の取り調べを受けており時間的にも損害を被っている訳ですから,これまで説明した損害賠償の金額より示談金として多めに受け取ることは何ら問題ないと言えます。

2.(刑事手続の説明)
  本件での傷害行為の犯人とされる同棲相手は,刑事訴訟法上の被疑者という立場,マスコミでいう「容疑者」という立場で逮捕・勾留されています。刑事手続につきましては,事例集794番の解説≪迷惑防止条例違反の在宅被疑者≫が参考になります。

3.(民事上の法律関係,示談の説明)
(1)当事者間の法律関係
  当事者間の法律関係である民事上の状況について説明します。刑事上の法律関係が刑罰権を有する国と刑罰を受けるかもしれない被疑者・被告人との関係であるのに対し,民事上の法律関係は,被害者であるあなたと加害者との関係です。あなたは,被疑者(加害者)に対して不法行為に基づく損害賠償(慰謝料)請求権を有していると考えられます(民法709条)。

(2)示談の意味について
  この民事上の法的責任の清算として,被疑者弁護人は「示談」の交渉を行っています。すなわち,示談とは,厳密な法律用語ではありませんが,民事上の紛争を訴訟等の法的手続によることなく,当事者の話し合い等で解決する行為です。民法典には和解契約として規定されています(民法695条)。本件のような事案に即した言い方をすると,加害者が被害者に対して,深くお詫びし,その印としてお金を支払うなどし,被害者がそれを了承・受領することで,民事上の法律関係(不法行為に基づく損害賠償に関する紛争)を清算するということになるでしょう。示談(和解契約)は,当事者間で約束することで成立しますが,後日確認する必要がありますので,通常は,書面で「示談書」「和解合意書」が作成されることになります。書面は,当事者間で適宜の書面を作成しても良いですが,法的効力に万全を期すのであれば,公証役場に行って「公正証書(民事執行法22条5号)」として作成したり,簡易裁判所で,「即決和解調書(民事訴訟法275条)」として作成すると良いでしょう。

民法695条(和解) 和解は,当事者が互いに譲歩をしてその間に存する争いをやめることを約することによって,その効力を生ずる。
民法696条(和解の効力) 当事者の一方が和解によって争いの目的である権利を有するものと認められ,又は相手方がこれを有しないものと認められた場合において,その当事者の一方が従来その権利を有していなかった旨の確証又は相手方がこれを有していた旨の確証が得られたときは,その権利は,和解によってその当事者の一方に移転し,又は消滅したものとする。

(3)示談に応じることのメリット
  意外に誤解が多いのですが,警察は犯人を逮捕して処罰するまでが仕事であり,それ以上(被害者に対する民事賠償など)はあまり協力してくれません。警察官の職務が刑罰法規に基づいた被疑者の検挙と事件捜査にあることから,民事不介入の原則が働いているのです。加害者から謝罪の申出があった場合に,これを取り次いでくれる警察官もいますが(被害者の電話番号や氏名を弁護人に開示していいかを確認する。),「起訴になってから話し合いなさい。」「相手方を刺激しない方がいいです。」等と起訴便宜主義の趣旨を理解しておらず全く取り次いでくれない警察官もいます。被疑者を捜査し公訴を提起し処罰するという職務の性質上,被害者との間で示談が成立するとせっかく捜査しても(起訴を前提にした捜査の努力が無になってしまうので,)起訴されないことになってしまうことを嫌がる警察官もいます。
  本来,刑罰法規が制定されている制度趣旨(立法目的)は,国民及び社会の法益の保護と,治安の維持にあるわけですから,被害者のある犯罪事件において,加害者と被害者の間で真摯な謝罪と宥恕(謝罪を受け容れて許すこと)があり,民事賠償も合意して履行完了することは,逮捕勾留や刑事裁判を経るより早期の事件解決になることであって望ましいことであり,刑事訴訟法でもそのような事態を想定して,検察官の起訴便宜主義(刑事訴訟法248条)を規定しているわけですが,この制度趣旨を正しく理解していないと,「示談成立に協力しない」という態度になってしまうものと思われますが,刑罰法規全体の趣旨から言って非常に残念なことだと思います。

刑事訴訟法第248条 犯人の性格,年齢及び境遇,犯罪の軽重及び情状並びに犯罪後の情況により訴追を必要としないときは,公訴を提起しないことができる。

  このため,起訴前の段階で弁護士を依頼せず,黙っていると(何ら弁護活動を行わないでいると),示談の打診を知らされないまま刑事手続が全て終わっていた,ということもありえます。
  加害者(被疑者)とすれば,量刑上刑事の処分が決まる前に示談したいという気持ちが強いので,慰謝料等請求するのであれば刑事の処分が決まる前に話し合いをした方が,示談金の交渉が有利に運ぶ場合もあります。悪質な加害者の場合,刑事処分が終わると示談に応じない人もいますからこの点は重要です。もちろん,起訴された後でも損害賠償の請求は可能ですし,刑事事件の手続きの中でも損害賠償を請求する手続きもあります。

(4)示談が刑事手続きに及ぼす事実上の効力について
@(示談と法の支配の関係)
  上記のとおり,示談はあくまで民事上の法律関係の清算です。そのため,示談が成立したからといっても,検察官は,正式裁判を求める公判請求が出来なくなるわけではありません(強姦罪のような親告罪で被害者の告訴がないと刑事裁判ができない犯罪については示談の際,告訴を取り消すということが示談の重要な条項になりますから,その場合は公判請求ができないことになります)。ただし,検察官は,犯罪事実が認められると考えられる場合でも,諸般の事情を考慮して,起訴しない判断をする権限を持っています(刑訴248条,起訴便宜主義)。そして,もし民事上の示談が成立していれば,そのことがこの諸般の事情の重要な要素として考慮されるでしょう。有体に言えば,示談が成立していれば,事実上,検察官は,正式裁判を求める公判請求をすることなく,起訴猶予処分または,略式罰金処分にする可能性が高くなります。
  民亊上の示談が刑事上の手続きに大きな効力を持つのは,傷害(生命身体の自由に対する罪,財産罪に対する罪である窃盗罪等)のように個人的な保護法益に関する犯罪です。その理由は,法の支配に求められます。そもそも告訴権(告訴とは,被害者が警察等に対し,犯罪事実を申告して,犯人の処罰を求める意思表示を行う行為です。刑訟230条。被害者のほか,被害者の法定代理人等一定の範囲の者にも告訴権があります。刑訴法231条から234条。)が被害者等に認められる理由は,法の支配の理念が根底にあります。個人主義,自由主義から人間は生まれながらに自由であり,本来これを奪うことは出来ませんが(憲法13条),行為者が義務を負い,とりわけ,生命身体の自由を剥奪,制限されるのは,国民が委託した立法府により定められた正義にかなう公正,公平な法によらなければならず,個人による報復,自力救済は一切禁止されることになります。これを適正手続きの保障,自力救済禁止の原則といいます(憲法31条,32条,76条)。法治国家の存在自体がこれを裏付けています。

  このような構造から明文はありませんが,被害者は自力救済禁止の反射的効果として国家に対して適正な刑事裁判を通じて被告人を処罰して欲しいという抽象的な処罰を求める請求権( 処罰請求権)を有していると考えることができます。この権利は,刑法(刑罰)の本質(応報刑か目的刑か)をどのようにとらえるかに関係なく,認められることになります。被害者の刑事告訴権(刑事訴訟法230条)はこのような構造から当然に導かれる権利と考えることができます。従って,規定がなくても理論的に当然認められる権利と言ってよいでしょう。刑事裁判で近時認められた 被害者の公判廷での被害者参加,意見陳述も,この被害者の抽象的処罰請求権の具現化と位置付けることができます(刑訴316条の33,同38以下参照)。示談は,通常「処罰請求権を事実上放棄する。」「許す。」「宥恕する。」という言葉が記載されています。この短い文章が,刑事手続きに絶大な効果を及ぼします。この言葉が入っていない示談書,和解合意書は処罰請求権の放棄がないので刑事手続き上効果が低いといわざるを得ません。仮に刑事弁護人が示談書にこの言葉の記載漏れを生じせしめた場合,量刑に大きな差異を生じ責任問題になる場合があります。
  以上から,早期の被害弁償を受けず,自ら手間暇の負担をし,民事の裁判所が認める限度の賠償を請求できれば構わないから,刑事処分を課してほしいというご希望である場合には,起訴前の示談に応じるべきではありません。

A(示談と余罪の関係)
  示談の他の罪に対する効果。実務上,余罪があっても逮捕された犯罪に関し示談が成立すると余罪捜査が終結する場合があります。例えば,窃盗等の余罪がある犯罪では,捜査担当者がいくら捜査活動をしても結局は示談により不起訴処分になるので,確実に立件できる他の事件に力点が移るからであるといわれています。余罪があれば,早急に告訴があった罪について弁護人がまず示談を急ぐのはその辺に理由があるようです。傷害について,窃盗等の財産に対する罪と同一に論ずることができるかは一概には言えません。ただ,余罪関係があるような犯罪では,波及効果が大きくその分示談金は高めになる可能性がありますので難しい算定となります。刑事事件に関する専門的弁護士のアドヴァイスが必要となる領域になるでしょう。

4.(犯罪被害にあった際には)
  お知り合いに弁護士がいないような場合,示談交渉等で被疑者の弁護人と話をすることに漠然とした不安を抱くかもしれません。加害者側の弁護士は,被害者に対して相当気を使っているのが通常ですが,交渉の相手方であることは変わりありません。加害者側から提案があったときは一旦返事を保留にさせてもらって,あなたの側も弁護士に相談したうえで回答することや,交渉窓口を弁護士にすることも考えられます。
  
  被害者の方が弁護士を依頼することのメリットを列挙致しますので,ご参考になさって下さい。
・@相手方及び相手方弁護士と直接話さなくて良くなる。
    法的に間違った事を話してしまわないか,不利な事を話してしまわないか,心配する必要が無くなります。また,示談書作成に関して,相手方本人または代理人と連絡することを回避することができます。
・A不当に安い示談金で示談されることを防ぐことができる。
    弁護士同士の話し合いであれば,事実関係を評価して,類似事件の裁判例などを参考に相当額について協議することができます。
・B不当な内容での示談を防ぐことができる。
    弁護士同士の話し合いであれば,事実関係を評価して,必要な和解条項を協議しますので,想定外の条項を排除することができます。
・C示談金の支払いを確保する手段を講じることができる。
    弁護士同士の話し合いであれば,示談書作成と,示談金の授受は同時に行うのが原則です。先に示談書を作成してしまい,後日の支払いがなされないというケースを回避することができます。
・D加害者に名前や住所を知らせないようにすることができる。
    弁護士同士の話し合いにより,示談書の開示を警察検察限りとし,加害者本人に示談書に記載された住所氏名を開示しない様,合意することができます。
・E示談書の中に,実効性が高い接近禁止条項を盛り込むことができる。
    弁護士同士の話し合いにより,当事者間の新たなトラブルを回避するための方策として,通勤経路の変更や,特定店舗の利用禁止などを当事者間で合意することができます。

  デメリットは,弁護士費用が必要になるということです。示談金の20%前後は覚悟する必要があります。

≪参照条文≫

<刑法>
(傷害)
第204条 人の身体を傷害した者は,15年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。
【刑事訴訟法】
第二百三十条  犯罪により害を被つた者は,告訴をすることができる。
二百三十七条  告訴は,公訴の提起があるまでこれを取り消すことができる。
○2  告訴の取消をした者は,更に告訴をすることができない。
第二百四十条  告訴は,代理人によりこれをすることができる。告訴の取消についても,同様である。
第二百四十一条  告訴又は告発は,書面又は口頭で検察官又は司法警察員にこれをしなければならない。
○2  検察官又は司法警察員は,口頭による告訴又は告発を受けたときは調書を作らなければならない。
第二百四十二条  司法警察員は,告訴又は告発を受けたときは,速やかにこれに関する書類及び証拠物を検察官に送付しなければならない。
第二百四十三条  前二条の規定は,告訴又は告発の取消についてこれを準用する。
第二百四十六条  司法警察員は,犯罪の捜査をしたときは,この法律に特別の定のある場合を除いては,速やかに書類及び証拠物とともに事件を検察官に送致しなければならない。但し,検察官が指定した事件については,この限りでない。
第二百九十条の二  裁判所は,次に掲げる事件を取り扱う場合において,当該事件の被害者等(被害者又は被害者が死亡した場合若しくはその心身に重大な故障がある場合におけるその配偶者,直系の親族若しくは兄弟姉妹をいう。以下同じ。)若しくは当該被害者の法定代理人又はこれらの者から委託を受けた弁護士から申出があるときは,被告人又は弁護人の意見を聴き,相当と認めるときは,被害者特定事項(氏名及び住所その他の当該事件の被害者を特定させることとなる事項をいう。以下同じ。)を公開の法廷で明らかにしない旨の決定をすることができる。
一  刑法第百七十六条 から第百七十八条の二 まで若しくは第百八十一条 の罪,同法第二百二十五条 若しくは第二百二十六条の二第三項 の罪(わいせつ又は結婚の目的に係る部分に限る。以下この号において同じ。),同法第二百二十七条第一項 (第二百二十五条又は第二百二十六条の二第三項の罪を犯した者を幇助する目的に係る部分に限る。)若しくは第三項 (わいせつの目的に係る部分に限る。)若しくは第二百四十一条 の罪又はこれらの罪の未遂罪に係る事件
二  児童福祉法第六十条第一項 の罪若しくは同法第三十四条第一項第九号 に係る同法第六十条第二項 の罪又は児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律第四条 から第八条 までの罪に係る事件
三  前二号に掲げる事件のほか,犯行の態様,被害の状況その他の事情により,被害者特定事項が公開の法廷で明らかにされることにより被害者等の名誉又は社会生活の平穏が著しく害されるおそれがあると認められる事件
○2  前項の申出は,あらかじめ,検察官にしなければならない。この場合において,検察官は,意見を付して,これを裁判所に通知するものとする。
○3  裁判所は,第一項に定めるもののほか,犯行の態様,被害の状況その他の事情により,被害者特定事項が公開の法廷で明らかにされることにより被害者若しくはその親族の身体若しくは財産に害を加え又はこれらの者を畏怖させ若しくは困惑させる行為がなされるおそれがあると認められる事件を取り扱う場合において,検察官及び被告人又は弁護人の意見を聴き,相当と認めるときは,被害者特定事項を公開の法廷で明らかにしない旨の決定をすることができる。
第二百九十九条  検察官,被告人又は弁護人が証人,鑑定人,通訳人又は翻訳人の尋問を請求するについては,あらかじめ,相手方に対し,その氏名及び住居を知る機会を与えなければならない。証拠書類又は証拠物の取調を請求するについては,あらかじめ,相手方にこれを閲覧する機会を与えなければならない。但し,相手方に異議のないときは,この限りでない。
○2  裁判所が職権で証拠調の決定をするについては,検察官及び被告人又は弁護人の意見を聴かなければならない。
第二百九十九条の二  検察官又は弁護人は,前条第一項の規定により証人,鑑定人,通訳人若しくは翻訳人の氏名及び住居を知る機会を与え又は証拠書類若しくは証拠物を閲覧する機会を与えるに当たり,証人,鑑定人,通訳人若しくは翻訳人若しくは証拠書類若しくは証拠物にその氏名が記載されている者若しくはこれらの親族の身体若しくは財産に害を加え又はこれらの者を畏怖させ若しくは困惑させる行為がなされるおそれがあると認めるときは,相手方に対し,その旨を告げ,これらの者の住居,勤務先その他その通常所在する場所が特定される事項が,犯罪の証明若しくは犯罪の捜査又は被告人の防御に関し必要がある場合を除き,関係者(被告人を含む。)に知られないようにすることその他これらの者の安全が脅かされることがないように配慮することを求めることができる。
第二百九十九条の三  検察官は,第二百九十九条第一項の規定により証人の氏名及び住居を知る機会を与え又は証拠書類若しくは証拠物を閲覧する機会を与えるに当たり,被害者特定事項が明らかにされることにより,被害者等の名誉若しくは社会生活の平穏が著しく害されるおそれがあると認めるとき,又は被害者若しくはその親族の身体若しくは財産に害を加え若しくはこれらの者を畏怖させ若しくは困惑させる行為がなされるおそれがあると認めるときは,弁護人に対し,その旨を告げ,被害者特定事項が,被告人の防御に関し必要がある場合を除き,被告人その他の者に知られないようにすることを求めることができる。ただし,被告人に知られないようにすることを求めることについては,被害者特定事項のうち起訴状に記載された事項以外のものに限る。

<犯罪被害者等の権利利益の保護を図るための刑事手続に付随する措置に関する法律>
(被害者等による公判記録の閲覧及び謄写)
第三条  刑事被告事件の係属する裁判所は,第一回の公判期日後当該被告事件の終結までの間において,当該被告事件の被害者等若しくは当該被害者の法定代理人又はこれらの者から委託を受けた弁護士から,当該被告事件の訴訟記録の閲覧又は謄写の申出があるときは,検察官及び被告人又は弁護人の意見を聴き,閲覧又は謄写を求める理由が正当でないと認める場合及び犯罪の性質,審理の状況その他の事情を考慮して閲覧又は謄写をさせることが相当でないと認める場合を除き,申出をした者にその閲覧又は謄写をさせるものとする。
2  裁判所は,前項の規定により謄写をさせる場合において,謄写した訴訟記録の使用目的を制限し,その他適当と認める条件を付することができる。
3  第一項の規定により訴訟記録を閲覧し又は謄写した者は,閲覧又は謄写により知り得た事項を用いるに当たり,不当に関係人の名誉若しくは生活の平穏を害し,又は捜査若しくは公判に支障を生じさせることのないよう注意しなければならない。
第五章 民事上の争いについての刑事訴訟手続における和解
(民事上の争いについての刑事訴訟手続における和解)
第十三条  刑事被告事件の被告人と被害者等は,両者の間における民事上の争い(当該被告事件に係る被害についての争いを含む場合に限る。)について合意が成立した場合には,当該被告事件の係属する第一審裁判所又は控訴裁判所に対し,共同して当該合意の公判調書への記載を求める申立てをすることができる。
2  前項の合意が被告人の被害者等に対する金銭の支払を内容とする場合において,被告人以外の者が被害者等に対し当該債務について保証する旨又は連帯して責任を負う旨を約したときは,その者も,同項の申立てとともに,被告人及び被害者等と共同してその旨の公判調書への記載を求める申立てをすることができる。
3  前二項の規定による申立ては,弁論の終結までに,公判期日に出頭し,当該申立てに係る合意及びその合意がされた民事上の争いの目的である権利を特定するに足りる事実を記載した書面を提出してしなければならない。
4  第一項又は第二項の規定による申立てに係る合意を公判調書に記載したときは,その記載は,裁判上の和解と同一の効力を有する。
(和解記録)
第十四条  前条第一項若しくは第二項の規定による申立てに基づき公判調書に記載された合意をした者又は利害関係を疎明した第三者は,第三章及び刑事訴訟法第四十九条 の規定にかかわらず,裁判所書記官に対し,当該公判調書(当該合意及びその合意がされた民事上の争いの目的である権利を特定するに足りる事実が記載された部分に限る。),当該申立てに係る前条第三項の書面その他の当該合意に関する記録(以下「和解記録」という。)の閲覧若しくは謄写,その正本,謄本若しくは抄本の交付又は和解に関する事項の証明書の交付を請求することができる。ただし,和解記録の閲覧及び謄写の請求は,和解記録の保存又は裁判所の執務に支障があるときは,することができない。
2  前項に規定する和解記録の閲覧若しくは謄写,その正本,謄本若しくは抄本の交付又は和解に関する事項の証明書の交付の請求に関する裁判所書記官の処分に対する異議の申立てについては民事訴訟法 (平成八年法律第百九号)第百二十一条 の例により,和解記録についての秘密保護のための閲覧等の制限の手続については同法第九十二条 の例による。
3  和解記録は,刑事被告事件の終結後は,当該被告事件の第一審裁判所において保管するものとする。
(民事訴訟法 の準用)
第十五条  前二条に規定する民事上の争いについての刑事訴訟手続における和解に関する手続については,その性質に反しない限り,民事訴訟法第一編第三章第一節 (選定当事者及び特別代理人に関する規定を除く。)及び第四節 (第六十条を除く。)の規定を準用する。
(執行文付与の訴え等の管轄の特則)
第十六条  第十三条に規定する民事上の争いについての刑事訴訟手続における和解に係る執行文付与の訴え,執行文付与に対する異議の訴え及び請求異議の訴えは,民事執行法 (昭和五十四年法律第四号)第三十三条第二項 (同法第三十四条第三項 及び第三十五条第三項 において準用する場合を含む。)の規定にかかわらず,当該被告事件の第一審裁判所(第一審裁判所が簡易裁判所である場合において,その和解に係る請求が簡易裁判所の管轄に属しないものであるときは,その簡易裁判所の所在地を管轄する地方裁判所)の管轄に専属する。
   第六章 刑事訴訟手続に伴う犯罪被害者等の損害賠償請求に係る裁判手続の特例
    第一節 損害賠償命令の申立て等
(損害賠償命令の申立て)
第十七条  次に掲げる罪に係る刑事被告事件(刑事訴訟法第四百五十一条第一項 の規定により更に審判をすることとされたものを除く。)の被害者又はその一般承継人は,当該被告事件の係属する裁判所(地方裁判所に限る。)に対し,その弁論の終結までに,損害賠償命令(当該被告事件に係る訴因として特定された事実を原因とする不法行為に基づく損害賠償の請求(これに附帯する損害賠償の請求を含む。)について,その賠償を被告人に命ずることをいう。以下同じ。)の申立てをすることができる。
一  故意の犯罪行為により人を死傷させた罪又はその未遂罪
二  次に掲げる罪又はその未遂罪
イ 刑法 (明治四十年法律第四十五号)第百七十六条 から第百七十八条 まで(強制わいせつ,強姦,準強制わいせつ及び準強姦)の罪
ロ 刑法第二百二十条 (逮捕及び監禁)の罪
ハ 刑法第二百二十四条 から第二百二十七条 まで(未成年者略取及び誘拐,営利目的等略取及び誘拐,身の代金目的略取等,所在国外移送目的略取及び誘拐,人身売買,被略取者等所在国外移送,被略取者引渡し等)の罪
ニ イからハまでに掲げる罪のほか,その犯罪行為にこれらの罪の犯罪行為を含む罪(前号に掲げる罪を除く。)
2  損害賠償命令の申立ては,次に掲げる事項を記載した書面を提出してしなければならない。
一  当事者及び法定代理人
二  請求の趣旨及び刑事被告事件に係る訴因として特定された事実その他請求を特定するに足りる事実
3  前項の書面には,同項各号に掲げる事項その他最高裁判所規則で定める事項以外の事項を記載してはならない。
(申立書の送達)
第十八条  裁判所は,前条第二項の書面の提出を受けたときは,第二十一条第一項第一号の規定により損害賠償命令の申立てを却下する場合を除き,遅滞なく,当該書面を申立ての相手方である被告人に送達しなければならない。
(管轄に関する決定の効力)
第十九条  刑事被告事件について刑事訴訟法第七条 ,第八条,第十一条第二項若しくは第十九条第一項の決定又は同法第十七条 若しくは第十八条 の規定による管轄移転の請求に対する決定があったときは,これらの決定により当該被告事件の審判を行うこととなった裁判所が,損害賠償命令の申立てについての審理及び裁判を行う。
(終局裁判の告知があるまでの取扱い)
第二十条  損害賠償命令の申立てについての審理(請求の放棄及び認諾並びに和解(第十三条の規定による民事上の争いについての刑事訴訟手続における和解を除く。)のための手続を含む。)及び裁判(次条第一項第一号又は第二号の規定によるものを除く。)は,刑事被告事件について終局裁判の告知があるまでは,これを行わない。
2  裁判所は,前項に規定する終局裁判の告知があるまでの間,申立人に,当該刑事被告事件の公判期日を通知しなければならない。
(申立ての却下)
第二十一条  裁判所は,次に掲げる場合には,決定で,損害賠償命令の申立てを却下しなければならない。
一  損害賠償命令の申立てが不適法であると認めるとき(刑事被告事件に係る罰条が撤回又は変更されたため,当該被告事件が第十七条第一項各号に掲げる罪に係るものに該当しなくなったときを除く。)。
二  刑事訴訟法第四条 ,第五条又は第十条第二項の決定により,刑事被告事件が地方裁判所以外の裁判所に係属することとなったとき。
三  刑事被告事件について,刑事訴訟法第三百二十九条 若しくは第三百三十六条 から第三百三十八条 までの判決若しくは同法第三百三十九条 の決定又は少年法 (昭和二十三年法律第百六十八号)第五十五条 の決定があったとき。
四  刑事被告事件について,刑事訴訟法第三百三十五条第一項 に規定する有罪の言渡しがあった場合において,当該言渡しに係る罪が第十七条第一項各号に掲げる罪に該当しないとき。
2  前項第一号に該当することを理由とする同項の決定に対しては,即時抗告をすることができる。
3  前項の規定による場合のほか,第一項の決定に対しては,不服を申し立てることができない。
(時効の中断)
第二十二条  損害賠償命令の申立ては,前条第一項の決定(同項第一号に該当することを理由とするものを除く。)の告知を受けたときは,当該告知を受けた時から六月以内に,その申立てに係る請求について,裁判上の請求,支払督促の申立て,和解の申立て,民事調停法 (昭和二十六年法律第二百二十二号)若しくは家事審判法 (昭和二十二年法律第百五十二号)による調停の申立て,破産手続参加,再生手続参加,更生手続参加,差押え,仮差押え又は仮処分をしなければ,時効の中断の効力を生じない。
    第二節 審理及び裁判等
(任意的口頭弁論)
第二十三条  損害賠償命令の申立てについての裁判は,口頭弁論を経ないですることができる。
2  前項の規定により口頭弁論をしない場合には,裁判所は,当事者を審尋することができる。
(審理)
第二十四条  刑事被告事件について刑事訴訟法第三百三十五条第一項 に規定する有罪の言渡しがあった場合(当該言渡しに係る罪が第十七条第一項各号に掲げる罪に該当する場合に限る。)には,裁判所は,直ちに,損害賠償命令の申立てについての審理のための期日(以下「審理期日」という。)を開かなければならない。ただし,直ちに審理期日を開くことが相当でないと認めるときは,裁判長は,速やかに,最初の審理期日を定めなければならない。
2  審理期日には,当事者を呼び出さなければならない。
3  損害賠償命令の申立てについては,特別の事情がある場合を除き,四回以内の審理期日において,審理を終結しなければならない。
4  裁判所は,最初の審理期日において,刑事被告事件の訴訟記録のうち必要でないと認めるものを除き,その取調べをしなければならない。
(審理の終結)
第二十五条  裁判所は,審理を終結するときは,審理期日においてその旨を宣言しなければならない。
(損害賠償命令)
第二十六条  損害賠償命令の申立てについての裁判(第二十一条第一項の決定を除く。以下この条から第二十八条までにおいて同じ。)は,次に掲げる事項を記載した決定書を作成して行わなければならない。
一  主文
二  請求の趣旨及び当事者の主張の要旨
三  理由の要旨
四  審理の終結の日
五  当事者及び法定代理人
六  裁判所
2  損害賠償命令については,裁判所は,必要があると認めるときは,申立てにより又は職権で,担保を立てて,又は立てないで仮執行をすることができることを宣言することができる。
3  第一項の決定書は,当事者に送達しなければならない。この場合においては,損害賠償命令の申立てについての裁判の効力は,当事者に送達された時に生ずる。
4  裁判所は,相当と認めるときは,第一項の規定にかかわらず,決定書の作成に代えて,当事者が出頭する審理期日において主文及び理由の要旨を口頭で告知する方法により,損害賠償命令の申立てについての裁判を行うことができる。この場合においては,当該裁判の効力は,その告知がされた時に生ずる。
5  裁判所は,前項の規定により損害賠償命令の申立てについての裁判を行った場合には,裁判所書記官に,第一項各号に掲げる事項を調書に記載させなければならない。
    第三節 異議等
(異議の申立て等)
第二十七条  当事者は,損害賠償命令の申立てについての裁判に対し,前条第三項の規定による送達又は同条第四項の規定による告知を受けた日から二週間の不変期間内に,裁判所に異議の申立てをすることができる。
2  裁判所は,異議の申立てが不適法であると認めるときは,決定で,これを却下しなければならない。
3  前項の決定に対しては,即時抗告をすることができる。
4  適法な異議の申立てがあったときは,損害賠償命令の申立てについての裁判は,仮執行の宣言を付したものを除き,その効力を失う。
5  適法な異議の申立てがないときは,損害賠償命令の申立てについての裁判は,確定判決と同一の効力を有する。
6  民事訴訟法第三百五十八条 及び第三百六十条 の規定は,第一項の異議について準用する。
(訴え提起の擬制等)
第二十八条  損害賠償命令の申立てについての裁判に対し適法な異議の申立てがあったときは,損害賠償命令の申立てに係る請求については,その目的の価額に従い,当該申立ての時に,当該申立てをした者が指定した地(その指定がないときは,当該申立ての相手方である被告人の普通裁判籍の所在地)を管轄する地方裁判所又は簡易裁判所に訴えの提起があったものとみなす。この場合においては,第十七条第二項の書面を訴状と,第十八条の規定による送達を訴状の送達とみなす。
2  前項の規定により訴えの提起があったものとみなされたときは,損害賠償命令の申立てに係る事件(以下「損害賠償命令事件」という。)に関する手続の費用は,訴訟費用の一部とする。
3  第一項の地方裁判所又は簡易裁判所は,その訴えに係る訴訟の全部又は一部がその管轄に属しないと認めるときは,申立てにより又は職権で,決定で,これを管轄裁判所に移送しなければならない。
4  前項の規定による移送の決定及び当該移送の申立てを却下する決定に対しては,即時抗告をすることができる。
(記録の送付等)
第二十九条  前条第一項の規定により訴えの提起があったものとみなされたときは,裁判所は,検察官及び被告人又は弁護人の意見(刑事被告事件に係る訴訟が終結した後においては,当該訴訟の記録を保管する検察官の意見)を聴き,第二十四条第四項の規定により取り調べた当該被告事件の訴訟記録(以下「刑事関係記録」という。)中,関係者の名誉又は生活の平穏を著しく害するおそれがあると認めるもの,捜査又は公判に支障を及ぼすおそれがあると認めるものその他前条第一項の地方裁判所又は簡易裁判所に送付することが相当でないと認めるものを特定しなければならない。
2  裁判所書記官は,前条第一項の地方裁判所又は簡易裁判所の裁判所書記官に対し,損害賠償命令事件の記録(前項の規定により裁判所が特定したものを除く。)を送付しなければならない。
(異議後の民事訴訟手続における書証の申出の特例)
第三十条  第二十八条第一項の規定により訴えの提起があったものとみなされた場合における前条第二項の規定により送付された記録についての書証の申出は,民事訴訟法第二百十九条 の規定にかかわらず,書証とすべきものを特定することによりすることができる。
(異議後の判決)
第三十一条  仮執行の宣言を付した損害賠償命令に係る請求について第二十八条第一項の規定により訴えの提起があったものとみなされた場合において,当該訴えについてすべき判決が損害賠償命令と符合するときは,その判決において,損害賠償命令を認可しなければならない。ただし,損害賠償命令の手続が法律に違反したものであるときは,この限りでない。
2  前項の規定により損害賠償命令を認可する場合を除き,仮執行の宣言を付した損害賠償命令に係る請求について第二十八条第一項の規定により訴えの提起があったものとみなされた場合における当該訴えについてすべき判決においては,損害賠償命令を取り消さなければならない。
3  民事訴訟法第三百六十三条 の規定は,仮執行の宣言を付した損害賠償命令に係る請求について第二十八条第一項の規定により訴えの提起があったものとみなされた場合における訴訟費用について準用する。この場合において,同法第三百六十三条第一項 中「異議を却下し,又は手形訴訟」とあるのは,「損害賠償命令」と読み替えるものとする。
    第四節 民事訴訟手続への移行
第三十二条  裁判所は,最初の審理期日を開いた後,審理に日時を要するため第二十四条第三項に規定するところにより審理を終結することが困難であると認めるときは,申立てにより又は職権で,損害賠償命令事件を終了させる旨の決定をすることができる。
2  次に掲げる場合には,裁判所は,損害賠償命令事件を終了させる旨の決定をしなければならない。
一  刑事被告事件について終局裁判の告知があるまでに,申立人から,損害賠償命令の申立てに係る請求についての審理及び裁判を民事訴訟手続で行うことを求める旨の申述があったとき。
二  損害賠償命令の申立てについての裁判の告知があるまでに,当事者から,当該申立てに係る請求についての審理及び裁判を民事訴訟手続で行うことを求める旨の申述があり,かつ,これについて相手方の同意があったとき。
3  前二項の決定及び第一項の申立てを却下する決定に対しては,不服を申し立てることができない。
4  第二十八条から第三十条までの規定は,第一項又は第二項の規定により損害賠償命令事件が終了した場合について準用する。
    第五節 補則
(損害賠償命令事件の記録の閲覧等)
第三十三条  当事者又は利害関係を疎明した第三者は,裁判所書記官に対し,損害賠償命令事件の記録の閲覧若しくは謄写,その正本,謄本若しくは抄本の交付又は損害賠償命令事件に関する事項の証明書の交付を請求することができる。
2  前項の規定は,損害賠償命令事件の記録中の録音テープ又はビデオテープ(これらに準ずる方法により一定の事項を記録した物を含む。)に関しては,適用しない。この場合において,これらの物について当事者又は利害関係を疎明した第三者の請求があるときは,裁判所書記官は,その複製を許さなければならない。
3  前二項の規定にかかわらず,刑事関係記録の閲覧若しくは謄写,その正本,謄本若しくは抄本の交付又はその複製(以下この条において「閲覧等」という。)の請求については,裁判所が許可したときに限り,することができる。
4  裁判所は,当事者から刑事関係記録の閲覧等の許可の申立てがあったときは,検察官及び被告人又は弁護人の意見(刑事被告事件に係る訴訟が終結した後においては,当該訴訟の記録を保管する検察官の意見)を聴き,不当な目的によるものと認める場合,関係者の名誉又は生活の平穏を著しく害するおそれがあると認める場合,捜査又は公判に支障を及ぼすおそれがあると認める場合その他相当でないと認める場合を除き,その閲覧等を許可しなければならない。
5  裁判所は,利害関係を疎明した第三者から刑事関係記録の閲覧等の許可の申立てがあったときは,検察官及び被告人又は弁護人の意見(刑事被告事件に係る訴訟が終結した後においては,当該訴訟の記録を保管する検察官の意見)を聴き,正当な理由がある場合であって,関係者の名誉又は生活の平穏を害するおそれの有無,捜査又は公判に支障を及ぼすおそれの有無その他の事情を考慮して相当と認めるときは,その閲覧等を許可することができる。
6  損害賠償命令事件の記録の閲覧,謄写及び複製の請求は,当該記録の保存又は裁判所の執務に支障があるときは,することができない。
7  第四項の申立てを却下する決定に対しては,即時抗告をすることができる。
8  第五項の申立てを却下する決定に対しては,不服を申し立てることができない。
(民事訴訟法 の準用)
第三十四条  特別の定めがある場合を除き,損害賠償命令事件に関する手続については,その性質に反しない限り,民事訴訟法第二条 ,第十四条,第一編第二章第二節,第三章(第四十七条から第五十一条までを除く。),第四章,第五章(第八十七条,第九十一条,第二節第二款,第百十六条及び第百十八条を除く。),第六章及び第七章,第二編第一章(第百三十三条,第百三十四条,第百三十七条第二項及び第三項,第百三十八条第一項,第百三十九条,第百四十条,第百四十五条並びに第百四十六条を除く。),第三章(第百五十六条の二,第百五十七条の二,第百五十八条,第百五十九条第三項,第百六十一条第三項及び第三節を除く。),第四章(第二百三十五条第一項ただし書及び第二百三十六条を除く。),第五章(第二百四十九条から第二百五十五条まで並びに第二百五十九条第一項及び第二項を除く。)及び第六章(第二百六十二条第二項,第二百六十三条及び第二百六十六条第二項を除く。),第三編第三章,第四編並びに第八編(第四百三条第一項第一号,第二号及び第四号から第六号までを除く。)の規定を準用する。

民事執行法第22条(債務名義)
強制執行は,次に掲げるもの(以下「債務名義」という。)により行う。
一  確定判決
二  仮執行の宣言を付した判決
三  抗告によらなければ不服を申し立てることができない裁判(確定しなければその効力を生じない裁判にあつては,確定したものに限る。)
三の二  仮執行の宣言を付した損害賠償命令
四  仮執行の宣言を付した支払督促
四の二  訴訟費用若しくは和解の費用の負担の額を定める裁判所書記官の処分又は第四十二条第四項に規定する執行費用及び返還すべき金銭の額を定める裁判所書記官の処分(後者の処分にあつては,確定したものに限る。)
五  金銭の一定の額の支払又はその他の代替物若しくは有価証券の一定の数量の給付を目的とする請求について公証人が作成した公正証書で,債務者が直ちに強制執行に服する旨の陳述が記載されているもの(以下「執行証書」という。)
六  確定した執行判決のある外国裁判所の判決
六の二  確定した執行決定のある仲裁判断
七  確定判決と同一の効力を有するもの(第三号に掲げる裁判を除く。)

民事訴訟法第275条(訴え提起前の和解)
第1項 民事上の争いについては,当事者は,請求の趣旨及び原因並びに争いの実情を表示して,相手方の普通裁判籍の所在地を管轄する簡易裁判所に和解の申立てをすることができる。
第2項 前項の和解が調わない場合において,和解の期日に出頭した当事者双方の申立てがあるときは,裁判所は,直ちに訴訟の弁論を命ずる。この場合においては,和解の申立てをした者は,その申立てをした時に,訴えを提起したものとみなし,和解の費用は,訴訟費用の一部とする。
第3項 申立人又は相手方が第一項の和解の期日に出頭しないときは,裁判所は,和解が調わないものとみなすことができる。
第4項 第一項の和解については,第二百六十四条及び第二百六十五条の規定は,適用しない。


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