新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.1295、2012/6/28 12:13 https://www.shinginza.com/qa-souzoku.htm

【親族法・非嫡出子の法定相続分は憲法違反か・大阪高等裁判所平成23年8月24日決定・最高裁平成20年6月4日判決(国籍法違憲判決)】

質問:私の家庭は母子家庭なのですが,先日,私の父が亡くなりました。父は,家庭がありながら私の母と男女の関係になり,私が生まれました。父は私を認知しましたが,その後は父は母に一度も連絡を取らなかったようで,その後も母と父は結婚をしませんでした。なお,父と籍を入れている女性と父との間には,2人の子がいますが,その女性は父の死亡時にはすでに亡くなっており,父の作った遺言等は特にないようです。私の母は,父には父なりの事情があると言って我慢し,3年前に他界しました。しかし,私自身は,我慢し続けていた母のことを考えるにつけ,居ても立ってもいられません。私には,父側に何か法的に請求できることはないのでしょうか。

回答:
1.民法上,あなたはお父様の非嫡出子にあたり,お父様の相続権者となります。ただし,民法900条4号によって,その相続分は嫡出子(今回のケースではあなた以外の2人の子)の2分の1とされています。もっとも,同規定についてはその合憲性が議論されているところであり,裁判所において違憲無効であると判断される可能性もあるところです。
2.平成7年,最高裁において同規定の合憲判断がなされ,以後裁判例ではこの結論に従った判断がなされてきました。しかし,平成23年,大阪高裁において,平成7年以降国内外の情勢が著しく変化したこと等を理由に,同規定の違憲判決がなされました。この判決の前提となる最高裁平成20年6月4日判決(国籍法違憲判決)も重要です。
3.法律婚の尊重と嫡出子・非嫡出子間の相続分の区別の合理的関連性については,現在までの国内外の情勢の変化をふまえてさらに詳細に調査・検討がなされる必要があると思われますが,それ如何では最高裁での判例変更がなされることもありうるものと考えられます。いずれにしても,争ってみる価値は十分あるケースだと思われますので,専門家にご相談をされることをおすすめいたします。
4.(私見)法定相続権の制度趣旨から考えると,非嫡出子の相続分を差別する理由を見いだすことはできません。自由主義,私有財産制の下(憲法29条),遺言自由の原則があり,法定相続制度も結局は,被相続人の合理的意思を推定した結果として存在します。この大原則を動かすことはできません。被相続人が認知し,自らの戸籍に実子として記載し特に遺言により特別な意思表示をしていない以上,非嫡出子の法定相続分を排除し差別する合理的意思を推定することはできないからです。国家は,私有財産制の基本である法定相続制度を法律婚の維持という別個の目的により介入することは許されないでしょう。法律婚の維持という政策は,憲法13条,幸福追求権に基づく結婚自由の大原則がある以上,本来国民の自由意思,婚姻観に任されるものであり,国家が強制しうる性格のものではなく,これを出生について何の責任もない非嫡出子の犠牲のもとに成り立たせようとすることは,3重の意味(私有財産制への介入と婚姻自由という幸福追求権への悪影響,責任のない非嫡出子の権利侵害)で不当な取り扱いといわざるを得ないように思います。遠からず最高裁の判例も変更されるでしょう。
5.当事務所事例集論文660番参照。

解説:
1 (現行民法上の規定(非嫡出子の相続分を,嫡出子の相続分の2分の1とする規定)と当該規定の違憲性の問題)

  我が国の民法においては,死亡した被相続人の子らの相続分は,全部(配偶者がいない場合)または2分の1(配偶者がいる場合)となります。そして,子同士の相続分は均等であるのが原則ですが(民法900条4号本文),非嫡出子の相続分については,嫡出子の相続分の2分の1とされています(同号但書)。そのため,あなたの場合,現行法制度のもとでは父の遺産の5分の1の相続分を有していることになります。
  他方,憲法14条は,すべて国民は法の下に平等であり,社会的身分・門地等により,経済的・社会的関係等において差別されないことを謳っています。そして,憲法というのは民法等の各法律の上位規範ですので,憲法に違反するような法律は無効となります(憲法98条1項)。もっとも,現実的には,実際に法的な不利益が生じた段階で,適用のあった法律が無効であると主張して訴訟を提起し,違憲判決が確定した場合に,当該事件に限ってその法律の適用が排除されることになります(個別的効力説)。そしてその場合,本件でいえば,あなたの相続分は3分の1になります。)。そこで,この民法900条4号の規定が憲法14条に反して無効となるのではないかということについて,以前から争いがあるのです。
  学説においても,合憲説,違憲説の双方の見解があるところです。合憲説は,法律婚を尊重するとともに,非嫡出子にも2分の1の相続分を認めて保護を図ったという立法理由に合理性があり,またその立法理由と当該規定との間にも合理的関連性があることなどを理由とするものです。他方,違憲説には,法律婚の尊重という立法理由と本件規定との合理的関連性がないことを指摘するものや,社会実情との乖離を指摘するもの,合理性判断にあたってはより厳格な合理性を要求し,そのような厳格な合理性はないことを指摘するものなどがあります。

2 (平成7年最高裁決定)
  この問題について,平成7年7月5日,最高裁判所大法廷において,裁判(決定)がなされました(以下,「平成7年最高裁決定」といいます。)。その要旨は以下のとおりです。
  「法定相続分の規定は,遺言や相続放棄や遺産分割協議などによってこれと異なる配分をなしうる,補充的な規定に過ぎない。そして,相続制度は,その国における婚姻ないし親子関係に関する規律等を総合考慮した上での立法府の合理的な判断にゆだねられているのであって,立法理由に合理的根拠があり,かつその区別が立法理由との関連で著しく不合理でなく,立法府の合理的裁量判断の限界を超えていなければ,違憲ではない。
法律婚主義を採用する結果,嫡出子と非嫡出子の区別が生じ差異が生じることはやむを得ない。そして,本件規定の立法理由は,法律上の配偶者との間の子である嫡出子の立場を尊重するとともに,被相続人の子である非嫡出子の立場にも配慮して,非嫡出子に嫡出子の2分の1の法定相続分を認めることにより,非嫡出子を保護しようとしたものであり,法律婚の尊重と非嫡出子の保護の調整を図ったものである。このような立法理由には合理的な根拠があり,かつ嫡出子と非嫡出子との上記区別は,立法理由との関連で著しく不合理であり,立法府の合理的裁量判断の限界を超えるものではない。」
  一般論として,最高裁判所の判決には,当該個別事例に対する既判力を除き,抽象的な法的拘束力はないものと考えられていますが,最高位の司法機関が下した判断の先例として,後の裁判を事実上拘束するものです。そのため,これ以後の裁判では,この判例を前提とした判断がなされてきました。

3 (平成23年大阪高裁決定)
  このような状況のもと,平成23年8月24日,大阪高裁は,民法900条4号但書が違憲である旨の裁判(決定)をしました(以下,「平成23年大阪高裁決定」といいます。)。その要旨は以下のとおりです。(なお,この事案では大阪高裁の決定に対する最高裁判所への特別抗告はされず,そのまま決定の法的効力が確定しています。)
  「子の法律上の取り扱いを嫡出か非嫡出かにより区別することは,本人の意思によっては左右できないことによる区別となるうえ,非嫡出子の法定相続分を嫡出子の法定相続分より少なくすることは,法が非嫡出子を嫡出子より劣位に置くことを認める結果となり,法が非嫡出子に対するいわれない差別を助長する結果になりかねないことをも考慮すれば,立法府の裁量権を考慮しても,その具体的な区別と立法目的との間に合理的関連性が認められるかについては慎重に検討する必要がある。
  平成7年最高裁決定以後,相続親族に関連する国内的・国際的な環境の変化が著しく,相続分平等化を促す事情が多く生じており(なお,最高裁平成20年6月4日・国籍法違憲判決も参照。),それらを考慮すれば,法律婚を尊重するとの本件規定の立法目的と嫡出子と非嫡出子の相続分を区別することが合理的に関連するとはいえず,立法府の合理的裁量判断の限界を超えている。」
  この裁判例は,平成7年最高裁決定の判断枠組みを前提としながらも,平成7年最高裁決定以後,国内外の情勢の変化が著しく,相続分平等化を促す事情が多く生じている等の事実関係をその判断枠組みにあてはめて,結論としては,立法目的と嫡出子・非嫡出子の相続分を区別することが合理的に関連するとはいえないとしています。

4 (考察)
(1) 平成7年最高裁決定について
  平成7年最高裁決定は,相続法制度を俯瞰しながら当該規定の位置づけをとらえ,立法理由を検討してその合理的根拠を示しており,その点は説得的なのではないかと思います。しかしながら,嫡出子と非嫡出子との間の相続分の区別が,立法理由との関連において著しく不合理かどうかについては,詳細な検討に踏みこまないままにこれを否定しているように思われます。少なくとも現在の国内外の情勢を鑑みれば,この点について十分な説示がなされているとはいえないのではないかと思います。

(2) 平成23年大阪高裁決定について
  平成23年大阪高裁決定の判決理由中第3第2項(1)第4段落では,「平成7年決定(最高裁決定)以後,法制審議会における相続分平等化等を内容とする答申,我が国における婚姻,家族生活,親子関係における実態の変化や国民意識の多様化,市民的及び政治的権利に関する国際規約28条1項により設置される委員会の意見,諸外国における国際的な区別撤廃の進捗等,国内的,国際的な環境の変化が著しく,相続分平等化を促す事情が多く生じているといえる。なお,上記国籍法に関する最高裁判決により国籍取得に関する区別が違憲とされ,戸籍や住民票において嫡出・非嫡出を区別しない表示が採用されるようになり,児童扶養手当法施行令が改正されるなど嫡出子と非嫡出子とを区別して取り扱わないことが公的な場面において一般化しつつあるともいえる。その他,抗告人が指摘する条約の規定等をも考慮すれば,本件の相続開始時においては,法律婚を尊重するとの本件規定の立法目的と嫡出子と非嫡出子の相続分を区別することが合理的に関連するとはいえず,このような区別を放置することは,立法府に与えられた合理的な裁量判断の限界を超えているというべきである」とされています。これについては,次のことがいえるのではないかと思います。

  すなわち,ここで挙げられている事情の中には,法定相続分の区別のみならず,広く嫡出子か非嫡出子かによる法的効果の区別全般と立法目的との合理的関連性を否定する事情になるものも多く存在し,法定相続分の区別と直接関連する事情については,抽象的ないし間接的なものにとどまっているように思われます。しかし,法律婚主義を採用する以上,両者に法的効果の差異が生じること自体は,憲法14条下においても当然想定されうるところですので,嫡出子か非嫡出子かによる法的効果の区別のうち,特に当該区別と立法目的の間に合理的関連性があるかどうかについて,さらに個別具体的な検討が必要なのではないかと思います。そのため,これらの事情が,「嫡出子と非嫡出子の区別が,法定相続分という場面で,2分の1という効果を生じさせている」という個別の法的効果の区別と立法目的との合理的関連性の判断に関して,具体的にどのように影響してくるのか,さらに詳細な論理を展開させ,その論理展開にあたってさらに必要となる事実関係があれば,それを具体的に摘示しつつ論理を展開させていく必要性があるだろうと思います。

(3) 平成20年最高裁・国籍法違憲判決の検討
  ア ここで,平成23年大阪高裁決定が参照判例として引用している平成20年6月4日最高裁判決(国籍法違憲判決)(以下、「平成20年最高裁判決」といいます。)をみると,同判決は,国籍法3条1項のうち,日本国民である父と日本国民でない母との間に出生し,父から出生後に認知された子について日本国籍を認めていない部分のみを違憲無効としています。その要旨は以下のとおりです。
   「憲法10条(「日本国民たる要件は,法律でこれを定める。」)の規定は,国籍は国家の構成員としての資格であり,国籍の得喪に関する要件を定めるに当たってはそれぞれの国の歴史的事情,伝統,政治的,社会的及び経済的環境等,種々の要因を考慮する必要があることから,これをどのように定めるかについて,立法府の裁量判断にゆだねる趣旨のものである。ただ,立法府に与えられた裁量権を考慮しても,なおそのような区別をすることの立法目的に合理的な根拠が認められない場合,又はその具体的な区別と立法目的との間に合理的関連性が認められない場合には,当該区別は,合理的な理由のない差別として違憲となる。
    日本国籍は,我が国の構成員としての資格であるとともに,我が国において基本的人権の保障,公的資格の付与,公的給付等を受ける上で意味を持つ重要な法的地位でもあるから,父母の婚姻により嫡出子たる身分を取得するか否かというような,子にとっては自らの意思や努力によっては変えることのできない事柄をもって日本国籍取得に区別を生じさせることに合理的な理由があるか否かについては,慎重に検討することが必要である。
    国籍法3条1項は,同法の基本的な原則である血統主義を基調としつつ,日本国民との法律上の親子関係の存在に加え我が国との密接な結び付きの指標となる一定の要件を設けて,これらを満たす場合に限り出生後における日本国籍の取得を認めることとしたものであって,この立法目的自体には,合理的な根拠がある。
今日では,出生数に占める非嫡出子の割合が増加するなど,我が国の家族生活や親子関係の実態も変化し多様化してきている。加えて,近年,我が国の国際化の進展に伴い国際的交流が増大することにより,日本国民である父と日本国民でない母との間に出生する子が増加しているところ,両親の一方のみが日本国民である場合には,同居の有無など家族生活の実態においても,法律上の婚姻やそれを背景とした親子関係の在り方についての認識においても,両親が日本国民である場合と比べてより複雑多様な面があり,その子と我が国との結び付きの強弱を両親が法律上の婚姻をしているか否かをもって直ちに測ることはできない。
    また,諸外国においては,非嫡出子に対する法的な差別的取扱いを解消する方向にあり,さらには,自国民である父の非嫡出子について準正を国籍取得の要件としていた多くの国において,認知等により自国民との父子関係の成立が認められた場合にはそれだけで自国籍の取得を認める旨の法改正が行われている。
    以上のような国内外の社会的環境等の変化に照らしてみると,準正を出生後における届出による日本国籍取得の要件としておくことについて,立法目的との間に合理的関連性を見いだすことがもはや難しくなっているというべきである。
   また,同じ非嫡出子の間でも,日本人である母の非嫡出子や日本人である父から胎児認知された非嫡出子は日本国籍を取得するにもかかわらず,日本人である父から出生後に認知された子に限り,準正がなければ日本国籍を取得できないというのは著しい差別的取り扱いと言わざるを得ない。
以上からすれば,国籍法3条1項のうち,日本国民である父と日本国民でない母との間に出生し,父から出生後に認知された子について日本国籍を認めていない部分は違憲無効である。」

イ そこで,本件の民法900条4号但書のケース(以下,「相続分のケース」といいます。)と,平成20年最高裁判決のケース(以下,「国籍取得のケース」といいます。)を,以下比較検討してみます。
 (ア)適用場面
    まず,両規定の適用場面について考えると,相続分のケースは,相続という場面において区別が問題となるもので,遺言や遺産分割協議によってはその適用が排除される,補充的なものです。他方で,国籍取得のケースは,日本国籍という,日本法によって日本国民としての各権利が保障されるための前提となる法的地位について,その区別が問題となるものです。
その意味で,相続分のケースにおいては,適用場面の衡量という観点からすれば,制限される法的地位の重要性がより高いといえる国籍取得のケースよりは合理性を認められやすいといえるでしょう。
 (イ)立法目的と規定との結びつき
    次に,立法目的と規定との結びつきについて検討します。
相続分のケースでは,立法目的は法律婚の尊重で,そのためには父母の婚姻が尊重されるべきで,そのためには父母が婚姻している子(嫡出子)のみが原則として相続分を有するべきである(ただし,非嫡出子についても,その保護のために2分の1を認める)という結びつきが想定されます。これに対し,国籍取得のケースは,日本国との結びつきを要するという立法目的のため,父母の婚姻が必要とされ,準正による嫡出子であることが必要とされるという結びつきが想定されています。
    前者においては,父母の婚姻の尊重と嫡出子のみ相続分を有することとの結びつきの合理性が問題となるでしょう。他方,後者においては,日本国との結びつきを判断する際に父母が婚姻していることを要する合理性が問題となります。
    この点,前者については,子の相続分への制限が親の法律婚への抑制となり得るのか,たとえば子の相続時点においては親の婚姻形態を変更できず,時系列を考えたときに抑制の効果がどれほどあるのか,あるいは夫婦相互の関係ないし周囲との関係や思想・信念等から決定されることの多い夫婦の婚姻形態を決める際に,子の相続分という事後の法律的な一側面を,果たしてどの程度念頭に置くのか,大いに疑問を感じるところです。また,嫡出子か非嫡出子かで相続分が異なるかどうかにかかわらず,配偶者の相続分は2分の1であって,法律婚上の配偶者を保護することに資するわけでもありませんし,他方で,事実婚上の配偶者に相続分がないことも,嫡出子か非嫡出子かで相続分が異なるかどうかによって変化するわけではなく,配偶者自身の相続分には何らの影響もないのであって,その意味でも法律婚の尊重にどの程度資するのかには疑問があります。
    一方,後者についても,平成20年最高裁判決において指摘があるとおり,親子関係の多様化,両親の一方のみが日本国民であるケースの増加とその場合の親子関係の在り方の複雑多様性,国外の法改正の状況などからして,父母の婚姻をもって日本国との結びつきを認める一律の要件とすることが合理的であるのかどうか,疑問のあるところです。

 (ウ)代替手段
    今度は,代替手段について検討します。
    相続分のケースにおいては,遺言制度・遺産分割協議という代替手段があります。他方で,国籍取得のケースにおいては,帰化制度という代替手段があります。
    もっとも,前者については,遺言者である被相続人ないし共同相続人という非嫡出子以外の者の意思が必要ですし,さらに言えば,それらの意思がない場合に初めて法定相続分という問題が顕在化するものであって,実質的にこれらが代替手段として機能するといえるかどうかにも疑問があります(死後の扶養を案じる被相続人が,予め補完的に使用するという限度での予防的な代替機能にとどまるものでしょう。)。後者についても,帰化は法務大臣の裁量行為であり,たとえ簡易帰化(国籍法8条1号)をするとしても,同号所定の要件を満たす者であっても当然に日本国籍を取得するものではなく,十分な代替手段たりえているとはいえません。ただ,相続分のケースでは,他者の意思にのみ依存している代替手段しかなく,国籍取得のケースに比してより合理性を減じる要素の1つとなるところと思われます。

 (エ)国籍取得のケース固有の問題点
    また,相続分のケースにはない問題として,国籍取得のケースにおいては,非嫡出子間における不均衡も生じているという点があります。すなわち,当時の国籍法においては,同じ非嫡出子の間でも,日本人である母の非嫡出子や日本人である父から胎児認知された非嫡出子は日本国籍を取得するにもかかわらず,日本人である父から出生後に認知された子に限り,準正がなければ日本国籍を取得できない制度となっています。また,これに関しては,父が日本人か母が日本人かによって不均衡が生じてくるという意味で,両性の平等という側面からの問題点も観念しうるところです。
   平成20年最高裁判決においては,これらの観点もふまえて,立法理由との間に合理的関連性がないとの判断がなされています。

 (4) 法律婚を尊重するという立法目的の合理性についても,次のようなことも考えられます。すなわち,たとえば一度法律婚をして嫡出子が生まれたものの,全くうまくいかずに短期間で離婚・別居し,のちに新たな相手を見つけたものの,法律婚を敬遠して事実婚をし,非嫡出子が生まれて,以後長きに渡って家族で平穏幸せに生活していたような場合などであっても,家族としてずっと一緒に暮らしていた非嫡出子はすぐに別居した嫡出子の2分の1の相続分となります。しかし,価値判断としてそれで適当なのかという問題意識もあるでしょう。
    これに対しては,遺言を作成しておけばよい,あるいは法律婚を放棄するということは,そもそもこのような法的効果を生じるものなのだという説明もあろうと思います。しかしながら,遺言の作成も結局は相続人の意思にかかるものですし,法律婚の効果についても,これは現時の法制度の問題であって,憲法上の価値判断のレベルに乗せた議論の反論として十分なのかという疑問もあるかもしれません(なお,平成7年最高裁決定においては,本来相続分がゼロである非嫡出子の相続分を2分の1にまで引き上げたという論理構成がされていますが,これについても,当時の法制度の基礎となっている,「非嫡出子の本来的な相続分はゼロである」という前提自体について憲法14条の議論をすべきであって,その議論を待たずに上記のような論理構成をとっている同決定は,必ずしも説得的な説示ができているわけではないように思われます。)。

 (5) 最後に,立法目的の合理性の議論はひとまず置くとして,立法目的と当該区別との合理的関連性について私見を述べます。
    民法900条4号但書は,親の相続という財産法上の一場面における補充的な規定ではあるものの,法律婚の尊重という立法目的を達成するための手段としての合理性には大いに疑問があります。(3)(イ)で述べたとおり,事実婚の夫婦の子の相続分に制限を加えたところで,親の事実婚への抑制や法律婚の尊重には結びつかないのではないかと考えられるためです。また,代替手段についても,(3)(ウ)で述べたとおり,その実効性に疑問があります。
    ただ,平成7年最高裁決定において同規定について合憲である旨の判断がなされていることとの関係で,同規定が違憲と判断される場合であっても,平成7年以降の,社会的意識の多様化,実態の多様化,諸外国の国籍法性の傾向・法改正状況などの国内外の情勢の変化によって,同決定の判断枠組みによって判断してもなお,同決定とは異なる結論になることが導かれる必要があります。そして,その間の具体的な変化を示す事実関係について,4項(2)等で指摘した観点等も踏まえながら,さらに立ち入った調査・検討を加える必要があるのだろうと思います。また,平成21年9月30日最高裁決定においては,平成7年最高裁決定を引用して同規定の合憲性を認めており,最高裁レベルで違憲判決が出るためには,詳細な事実の指摘と説得的な論理が必要となるように思います。
    いずれにせよ,その調査・検討の結果如何では,最高裁での判例変更がなされることもありうるものと思われます。

5 (結論)
  平成23年大阪高裁判決によって,下級審でも,民法900条4号但書につき違憲判断がなされ,非嫡出子の法定相続分が増加する可能性は高まったといえますし,最高裁においても,違憲判断がなされる可能性はあるといえます。ご相談のケースは,最高裁判所による違憲判決が出る前の現時点においても,争ってみる価値は十分あるケースだと思われますので,専門家にご相談をされることをおすすめいたします。

≪参照条文≫

○民法
(法定相続分)
第九百条 同順位の相続人が数人あるときは,その相続分は,次の各号の定めるところによる。
一 子及び配偶者が相続人であるときは,子の相続分及び配偶者の相続分は,各二分の一とする。
二 配偶者及び直系尊属が相続人であるときは,配偶者の相続分は,三分の二とし,直系尊属の相続分は,三分の一とする。
三 配偶者及び兄弟姉妹が相続人であるときは,配偶者の相続分は,四分の三とし,兄弟姉妹の相続分は,四分の一とする。
四 子,直系尊属又は兄弟姉妹が数人あるときは,各自の相続分は,相等しいものとする。ただし,嫡出でない子の相続分は,嫡出である子の相続分の二分の一とし,父母の一方のみを同じくする兄弟姉妹の相続分は,父母の双方を同じくする兄弟姉妹の相続分の二分の一とする。
○憲法
第十四条 すべて国民は,法の下に平等であつて,人種,信条,性別,社会的身分又は門地により,政治的,経済的又は社会的関係において,差別されない。
2 華族その他の貴族の制度は,これを認めない。
3 栄誉,勲章その他の栄典の授与は,いかなる特権も伴はない。栄典の授与は,現にこれを有し,又は将来これを受ける者の一代に限り,その効力を有する。
第九十八条 この憲法は,国の最高法規であつて,その条規に反する法律,命令,詔勅及び国務に関するその他の行為の全部又は一部は,その効力を有しない。
2 日本国が締結した条約及び確立された国際法規は,これを誠実に遵守することを必要とする。

≪参考文献≫

『平成3年度重要判例解説』(有斐閣)22頁

≪大阪高裁平成23年8月24日決定・平成23年(ラ)第578号≫
主文
 1 原審判を次のとおり変更する。
 2 被相続人の遺産を次のとおり分割する。
  (1) 原審判添付の別紙遺産目録(土地)記載2の土地を相手方Y1・2分の1,抗告人,相手方Y2,相手方Y3及び相手方Y4各8分の1の持分により,各当事者の共有取得とする。
  (2) 原審判添付の別紙遺産目録(現金,預・貯金,株券等)記載9から14までの各株式等の競売を命じ,その売却代金から競売費用を控除した残額を,相手方Y1に2分の1,抗告人,相手方Y2,相手方Y3及び相手方Y4に各8分の1ずつ分配する。
 3 手続費用は各自の負担とする。
理由
第1 抗告の趣旨
 1 原審判を取り消す。
 2 主文第2項に同じ。
 3 相手方Y1は,抗告人,相手方Y2,相手方Y3及び相手方Y4に対し,それぞれ75万円を支払え。
第2 事案の概要
 1 事案の要旨
 被相続人は,平成20年12月27日死亡し,相続が開始した。相続人は,妻であるY1,子である抗告人,相手方Y2,相手方Y3及び相手方Y4である。抗告人は,被相続人が婚姻していなかった時期に出生し,抗告人の母は,その後も被相続人と婚姻しなかった。相手方Y2,相手方Y3及び相手方Y4は,抗告人の出生後に被相続人と婚姻した者(後に離婚)が産んだ子である。被相続人と相手方Y1との間に子はない。
 相手方Y1は,平成22年5月30日,遺産分割を求めて調停を申し立てたが,同事件は,同年8月11日,調停不成立により原審判手続に移行した。
 2 原審判(平成23年4月20日)の要旨
 民法900条4号のうち,「嫡出でない子の相続分は,嫡出である子の相続分の二分の一とし,」という部分(民法900条4号ただし書前段 以下「本件規定」という。)は憲法14条1項に違反せず(最高裁判所平成7年7月5日大法廷決定・民集49巻7号1789頁 以下「平成7年決定」という。),法定相続分は,Y1について2分の1,抗告人について14分の1,相手方Y2,相手方Y3及び相手方Y4について各7分の1(14分の2)となる。
 本件全当事者は,審問期日において,原審判添付の別紙遺産目録(以下「目録」という。)(土地)記載1の土地及び目録(建物)記載1の建物(「吹田物件」)並びに目録(現金,預・貯金,株券等)記載15の株式(「本件株式」)を本件手続で分割する遺産から除外することを合意した。なお,吹田物件及び本件株式が被相続人の遺産であると確定するに足る資料はない。よって,吹田物件及び本件株式を本件手続における分割対象とはしない。目録(現金,預・貯金,株券等)記載1から8まで及び16から18までは金銭債権であり,同19(家庭用財産)は,その性質上,本件手続により分割すべき遺産であるとは認められない。
 被相続人から相手方Y1に自宅マンションのローンの支払資金600万円が贈与されたとは認められず,特別受益は認められない。
 目録(土地)記載2の土地(「姫里土地」)は,株式会社aが月額賃料80万円で賃借している土地であり,抗告人又は相手方らのいずれかが取得して現実に利用することは考えがたいから,法定相続分どおりの共有とするのが相当である。目録(現金,預・貯金,株券等)記載9から14までの株式等については,容易に換金できるので,競売するのが相当である。
 3 抗告理由の要旨
  (1) 本件規定(民法900条4号ただし書前段)の合憲性
 本件規定は,生まれにより人を差別しており,憲法14条1項,13条及び24条2項,市民的及び政治的権利に関する国際規約2条1項,24条1項及び26条並びに児童の権利に関する条約2条に反する。抗告人の法定相続分は,他の被相続人の子らと等しく,8分の1と解される。
  (2) 特別受益
 相手方Y1は,自宅マンションのローンの支払資金600万円を贈与された。これは,特別受益であり,相手方Y1は,他の相続人に対し,それぞれ75万円を支払うべきである。
第3 当裁判所の判断
 1 事実関係(一件記録)及び目録(現金,預・貯金,株券等)1から8まで,16から19までの除外
 原審判(更正後のもの。以下同じ。)2頁1行目から23行目に記載のとおりであるから,これを引用する。
 2 判断
  (1) 抗告人,相手方Y2,相手方Y3,相手方Y4の法定相続分について(本件規定の合憲性)
 当裁判所は,以下のとおり,本件規定は,法律婚の尊重という立法目的との合理的関連性を欠いており,憲法14条1項,13条及び24条2項に違反して無効であると判断する。
 憲法14条1項は,法の下の平等を定めているが,この規定は,事柄の性質に即応した合理的な根拠に基づくものでない限り,法的な差別的取扱いを禁止する趣旨であると解すべきである(最高裁昭和39年5月27日大法廷判決・民集18巻4号676頁等)。もっとも,相続に関する規律については,社会事情,国民感情などの諸事情や婚姻に関する規律等を総合的に考慮する必要があるから,立法裁量の余地は広いといえる(平成7年決定)。
 しかし,子の法律上の取扱いを嫡出か非嫡出かにより区別することは,本人の意思によっては左右できないことによる区別となる上,非嫡出子の法定相続分を嫡出子の法定相続分より少なくすることは,法が非嫡出子を嫡出子より劣位に置くことを認める結果となり,法が非嫡出子に対するいわれない差別を助長する結果になりかねないことをも考慮すれば,上記のような立法府に与えられた裁量権を考慮しても,その具体的な区別と立法目的との間に合理的関連性が認められるかについて,慎重に検討することが必要である(国籍法に関するものではあるが,最高裁判所平成20年6月4日大法廷判決・民集62巻6号1367頁参照。なお,同判決は,平成15年時点において,嫡出子と非嫡出子によって国籍取得に区別を認めている国籍法3条1項の規定は憲法14条1項に違反するものであったとする。)。
 被相続人が死亡した平成20年12月27日を基準に考えると,後記各最高裁判例における反対意見や一部の補足意見が指摘するとおり,平成7年決定以後,法制審議会における相続分平等化等を内容とする答申,我が国における婚姻,家族生活,親子関係における実態の変化や国民意識の多様化,市民的及び政治的権利に関する国際規約28条1項により設置される委員会の意見,諸外国における国際的な区別撤廃の進捗等,国内的,国際的な環境の変化が著しく,相続分平等化を促す事情が多く生じているといえる。なお,上記国籍法に関する最高裁判決により国籍取得に関する区別が違憲とされ,戸籍や住民票において嫡出・非嫡出を区別しない表示が採用されるようになり,児童扶養手当法施行令が改正されるなど嫡出子と非嫡出子とを区別して取り扱わないことが公的な場面において一般化しつつあるともいえる。その他,抗告人が指摘する条約の規定等をも考慮すれば,本件の相続開始時においては,法律婚を尊重するとの本件規定の立法目的と嫡出子と非嫡出子の相続分を区別することが合理的に関連するとはいえず,このような区別を放置することは,立法府に与えられた合理的な裁量判断の限界を超えているというべきである。
 なお,裁判により本件規定の違憲無効を宣言すると,法改正をするのとは異なり,既に現行法を前提に解決した遺産分割が再び争われるなど,さまざまな紛争を生じさせかねないという問題も指摘される。しかし,平成7年決定においても,区別の合理性に疑問を呈する意見が述べられ,それ以後本件の相続開始まで13年以上が経過し,非嫡出子が少数者として民主過程における代表を得難いことが明らかになったともいえるから,上記問題を理由に違憲無効との判断を避けるのは相当でない。
 本件規定を合憲とした平成7年決定,最高裁判所平成12年1月27日第一小法廷判決(裁判集民事196号251頁),同平成15年3月28日第二小法廷判決(裁判集民事209号347頁),同平成15年3月31日第一小法廷判決(裁判集民事209号397頁),同平成16年10月14日第一小法廷判決(裁判集民事215号253頁),同平成21年9月30日第二小法廷決定(裁判集民事231号753頁)は,いずれも本件の相続開始よりも8年以上前に開始した相続に関するものであり,本件とは事案を異にする。
 以上によれば,抗告人の法定相続分は,相手方Y2,相手方Y3,相手方Y4と同じく,8分の1となる。
  (2) 本件株式の遺産性,吹田物件の遺産性,相手方Y1の特別受益
 本件株式及び吹田物件を遺産分割の対象外とすべきこと及び特別受益が認められないことは,原審判3頁24行目から4頁24行目までに記載のとおりであるから,これを引用する。
  (3) 本件遺産の分割方法
   ア 姫里土地に関する事実関係
 原審判5頁13行目から22行目までに記載のとおりであるから,これを引用する。
   イ 分割方法
 被相続人の遺産分割を禁止すべき事情は認められない。
 姫里土地は,賃貸物件として,各相続人に上記の法定相続分どおりの持分割合により共有取得させるのが相当である。
 金融資産は容易に換金できるから,競売により売却代金を分割するのが相当である。
 3 抗告理由について
  (1) 本件規定の合憲性
 上記2(1)のとおりである。
  (2) 特別受益
 抗告人は,相手方Y1が自宅マンションのローンの支払資金600万円を贈与されたと主張する。しかし,これを認めるに足りる資料はないというほかない。
 4 以上のとおりであって,原審判は上記説示の限度で相当でないから,家事審判規則19条2項により,主文のとおり決定する。
 (裁判長裁判官 赤西芳文 裁判官 片岡勝行 裁判官 久留島群一)

≪最高裁平成7年7月5日判決・民集49−7―1789≫
       主   文
本件抗告を棄却する。
抗告費用は抗告人の負担とする。
       理   由
 抗告代理人榊原富士子,同吉岡睦子,同井田恵子,同石井小夜子,同石田武臣,同金住典子,同紙子達子,同酒向徹,同福島瑞穂,同小山久子,同小島妙子の抗告理由について
 所論は,要するに,嫡出でない子(以下「非嫡出子」という。)の相続分を嫡出である子(以下「嫡出子」という。)の相続分の二分の一と定めた民法九〇〇条四号ただし書前段の規定(以下「本件規定」という。)は憲法一四条一項に違反するというのである。
一 憲法一四条一項は法の下の平等を定めているが,右規定は合理的理由のない差別を禁止する趣旨のものであって,各人に存する経済的,社会的その他種々の事実関係上の差異を理由としてその法的取扱いに区別を設けることは,その区別が合理性を有する限り,何ら右規定に違反するものではない(最高裁昭和三七年(オ)第一四七二号同三九年五月二七日大法廷判決・民集一八巻四号六七六頁,最高裁昭和三七年(あ)第九二七号同三九年一一月一八日大法廷判決・刑集一八巻九号五七九頁等参照)。
 そこで,まず,右の点を検討する前提として,我が国の相続制度を概観する。
1 婚姻,相続等を規律する法律は個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して制定されなければならない旨を定めた憲法二四条二項の規定に基づき,昭和二二年の民法の一部を改正する法律(同年法律第二二二号)により,家督相続の制度が廃止され,いわゆる共同相続の制度が導入された。
 現行民法は,相続人の範囲に関しては,被相続人の配偶者は常に相続人となり(八九〇条),また,被相続人の子は相続人となるものと定め(八八七条),配偶者と子が相続人となることを原則的なものとした上,相続人となるべき子及びその代襲者がない場合には,被相続人の直系尊属,兄弟姉妹がそれぞれ第一順位,第二順位の相続人となる旨を定める(八八九条)。そして,同順位の相続人が数人あるときの相続分を定めるが(九〇〇条。以下,右相続分を「法定相続分」という。),被相続人は,右規定にかかわらず,遺言で共同相続人の相続分を定めることができるものとし(九〇二条),また,共同相続人中に,被相続人から遺贈等を受けた者(特別受益者)があるときは,これらの相続分から右受益に係る価額を控除した残額をもって相続分とするものとしている(九〇三条)。
 右のとおり,被相続人は,遺言で共同相続人の相続分を定めることができるが,また,遺言により,特定の相続人又は第三者に対し,その財産の全部又は一部を処分することができる(九六四条)。ただし,遺留分に関する規定(一〇二八条,一〇四四条)に違反することができず(九六四条ただし書),遺留分権利者は,右規定に違反する遺贈等の減殺を請求することができる(一〇三一条)。
 相続人には,相続の効果を受けるかどうかにつき選択の自由が認められる。すなわち,相続人は,相続の開始があったことを知った時から三箇月以内に,単純若しくは限定の承認又は放棄をしなければならない(九一五条)。
 九〇六条は,共同相続における遺産分割の基準を定め,遺産の分割は,遺産に属する物又は権利の種類及び性質,各相続人の年齢,職業,心身の状態及び生活の状況その他一切の事情を考慮してこれをする旨規定する。共同相続人は,その協議で,遺産の分割をすることができるが(九〇七条一項),協議が調わないときは,その分割を家庭裁判所に請求することができる(同条二項)。なお,被相続人は,遺言で,分割の方法を定め,又は相続開始の時から五年を超えない期間内分割を禁止することができる(九〇八条)。
2 昭和五五年の民法及び家事審判法の一部を改正する法律(同年法律第五一号)により,配偶者の相続分が現行民法九〇〇条一号ないし三号のとおりに改められた。すなわち,配偶者の相続分は,配偶者と子が共同して相続する場合は二分の一に(改正前は三分の一,配偶者と直系尊属が共同して相続する場合は三分の二に(改正前は二分の一,配偶者と兄弟姉妹が共同して相続する場合は四分の三に(改正前は三分の二)改められた。 
 また,右改正法により,寄与分の制度が新設された。すなわち,新設された九〇四条の二第一項は,共同相続人中に,被相続人の事業に関する労務の提供又は財産上の給付,被相続人の療養看護その他の方法により被相続人の財産の維持又は増加につき特別の寄与をした者があるときは,被相続人が相続開始の時において有した財産の価額から共同相続人の協議で定めたその者の寄与分を控除したものを相続財産とみなし,法定相続分ないし指定相続分によって算定した相続分に寄与分を加えた額をもってその者の相続分とする旨規定し,同条二項は,前項の協議が調わないとき,又は協議をすることができないときは,家庭裁判所は,同項に規定する寄与をした者の請求により,寄与の時期,方法及び程度,相続財産の額その他一切の事情を考慮して,寄与分を定める旨規定する。この制度により,被相続人の財産の維持又は増加につき特別の寄与をした者には,法定相続分又は指定相続分以上の財産を取得させることが可能となり,いわば相続の実質的な公平が図られることとなった。
3 右のように,民法は,社会情勢の変化等に応じて改正され,また,被相続人の財産の承継につき多角的に定めを置いているのであって,本件規定を含む民法九〇〇条の法定相続分の定めはその一つにすぎず,法定相続分のとおりに相続が行われなければならない旨を定めたものではない。すなわち,被相続人は,法定相続分の定めにかかわらず,遺言で共同相続人の相続分を定めることができる。また,相続を希望しない相続人は,その放棄をすることができる。さらに,共同相続人の間で遺産分割の協議がされる場合,相続は,必ずしも法定相続分のとおりに行われる必要はない。共同相続人は,それぞれの相続人の事情を考慮した上,その協議により,特定の相続人に対して法定相続分以上の相続財産を取得させることも可能である。もっとも,遺産分割の協議が調わず,家庭裁判所がその審判をする場合には,法定相続分に従って遺産の分割をしなければならない。
 このように,法定相続分の定めは,遺言による相続分の指定等がない場合などにおいて,補充的に機能する規定である。
二 相続制度は,被相続人の財産を誰に,どのように承継させるかを定めるものであるが,その形態には歴史的,社会的にみて種々のものがあり,また,相続制度を定めるに当たっては,それぞれの国の伝統,社会事情,国民感情なども考慮されなければならず,各国の相続制度は,多かれ少なかれ,これらの事情,要素を反映している。さらに,現在の相続制度は,家族というものをどのように考えるかということと密接に関係しているのであって,その国における婚姻ないし親子関係に対する規律等を離れてこれを定めることはできない。これらを総合的に考慮した上で,相続制度をどのように定めるかは,立法府の合理的な裁量判断にゆだねられているものというほかない。
 そして,前記のとおり,本件規定を含む法定相続分の定めは,右相続分に従って相続が行われるべきことを定めたものではなく,遺言による相続分の指定等がない場合などにおいて補充的に機能する規定であることをも考慮すれば,本件規定における嫡出子と非嫡出子の法定相続分の区別は,その立法理由に合理的な根拠があり,かつ,その区別が右立法理由との関連で著しく不合理なものでなく,いまだ立法府に与えられた合理的な裁量判断の限界を超えていないと認められる限り,合理的理由のない差別とはいえず,これを憲法一四条一項に反するものということはできないというべきである。
三 憲法二四条一項は,婚姻は両性の合意のみに基づいて成立する旨を定めるところ,民法七三九条一項は,「婚姻は,戸籍法の定めるところによりこれを届け出ることによつて,その効力を生ずる。」と規定し,いわゆる事実婚主義を排して法律婚主義を採用し,また,同法七三二条は,重婚を禁止し,いわゆる一夫一婦制を採用することを明らかにしているが,民法が採用するこれらの制度は憲法の右規定に反するものでないことはいうまでもない。
 そして,このように民法が法律婚主義を採用した結果として,婚姻関係から出生した嫡出子と婚姻外の関係から出生した非嫡出子との区別が生じ,親子関係の成立などにつき異なった規律がされ,また,内縁の配偶者には他方の配偶者の相続が認められないなどの差異が生じても,それはやむを得ないところといわなければならない。
 本件規定の立法理由は,法律上の配偶者との間に出生した嫡出子の立場を尊重するとともに,他方,被相続人の子である非嫡出子の立場にも配慮して,非嫡出子に嫡出子の二分の一の法定相続分を認めることにより,非嫡出子を保護しようとしたものであり,法律婚の尊重と非嫡出子の保護の調整を図ったものと解される。これを言い換えれば,民法が法律婚主義を採用している以上,法定相続分は婚姻関係にある配偶者とその子を優遇してこれを定めるが,他方,非嫡出子にも一定の法定相続分を認めてその保護を図ったものであると解される。
 現行民法は法律婚主義を採用しているのであるから,右のような本件規定の立法理由にも合理的な根拠があるというべきであり,本件規定が非嫡出子の法定相続分を嫡出子の二分の一としたことが,右立法理由との関連において著しく不合理であり,立法府に与えられた合理的な裁量判断の限界を超えたものということはできないのであって,本件規定は,合理的理由のない差別とはいえず,憲法一四条一項に反するものとはいえない。論旨は採用することができない。
 よって本件抗告を棄却し,抗告費用は抗告人に負担させることとし,裁判官園部逸夫,同可部恒雄,同大西勝也の各補足意見,裁判官千種秀夫,同河合伸一の補足意見,裁判官中島敏次郎,同大野正男,同高橋久子,同尾崎行信,同遠藤光男の反対意見があるほか,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり決定する。

≪最高裁平成20年6月4日判決・民集62−6−1367≫
       主   文
原判決を破棄する。
被上告人の控訴を棄却する。
控訴費用及び上告費用は被上告人の負担とする。
       理   由
上告代理人山口元一の上告理由第1ないし第3について
1 事案の概要
 本件は,法律上の婚姻関係にない日本国民である父とフィリピン共和国籍を有する母との間に本邦において出生した上告人が,出生後父から認知されたことを理由として平成15年に法務大臣あてに国籍取得届を提出したところ,国籍取得の条件を備えておらず,日本国籍を取得していないものとされたことから,被上告人に対し,日本国籍を有することの確認を求めている事案である。
2 国籍法2条1号,3条について
 国籍法2条1号は,子は出生の時に父又は母が日本国民であるときに日本国民とする旨を規定して,日本国籍の生来的取得について,いわゆる父母両系血統主義によることを定めている。したがって,子が出生の時に日本国民である父又は母との間に法律上の親子関係を有するときは,生来的に日本国籍を取得することになる。
 国籍法3条1項は,「父母の婚姻及びその認知により嫡出子たる身分を取得した子で20歳未満のもの(日本国民であった者を除く。)は,認知をした父又は母が子の出生の時に日本国民であった場合において,その父又は母が現に日本国民であるとき,又はその死亡の時に日本国民であったときは,法務大臣に届け出ることによって,日本の国籍を取得することができる。」と規定し,同条2項は,「前項の規定による届出をした者は,その届出の時に日本の国籍を取得する。」と規定している。同条1項は,父又は母が認知をした場合について規定しているが,日本国民である母の非嫡出子は,出生により母との間に法律上の親子関係が生ずると解され,また,日本国民である父が胎児認知した子は,出生時に父との間に法律上の親子関係が生ずることとなり,それぞれ同法2条1号により生来的に日本国籍を取得することから,同法3条1項は,実際上は,法律上の婚姻関係にない日本国民である父と日本国民でない母との間に出生した子で,父から胎児認知を受けていないものに限り適用されることになる。
3 原判決等
 上告人は,国籍法2条1号に基づく日本国籍の取得を主張するほか,日本国民である父の非嫡出子について,父母の婚姻により嫡出子たる身分を取得した者のみが法務大臣に届け出ることにより日本国籍を取得することができるとした同法3条1項の規定が憲法14条1項に違反するとして,上告人が法務大臣あてに国籍取得届を提出したことにより日本国籍を取得した旨を主張した。
 これに対し,原判決は,国籍法2条1号に基づく日本国籍の取得を否定した上,同法3条1項に関する上記主張につき,仮に同項の規定が憲法14条1項に違反し,無効であったとしても,そのことから,出生後に日本国民である父から認知を受けたにとどまる子が日本国籍を取得する制度が創設されるわけではなく,上告人が当然に日本国籍を取得することにはならないし,また,国籍法については,法律上の文言を厳密に解釈することが要請され,立法者の意思に反するような類推解釈ないし拡張解釈は許されず,そのような解釈の名の下に同法に定めのない国籍取得の要件を創設することは,裁判所が立法作用を行うものとして許されないから,上告人が同法3条1項の類推解釈ないし拡張解釈によって日本国籍を取得したということもできないと判断して,上告人の請求を棄却した。
4 国籍法3条1項による国籍取得の区別の憲法適合性について
 所論は,上記のとおり,国籍法3条1項の規定が憲法14条1項に違反する旨をいうが,その趣旨は,国籍法3条1項の規定が,日本国民である父の非嫡出子について,父母の婚姻により嫡出子たる身分を取得した者に限り日本国籍の取得を認めていることによって,同じく日本国民である父から認知された子でありながら父母が法律上の婚姻をしていない非嫡出子は,その余の同項所定の要件を満たしても日本国籍を取得することができないという区別(以下「本件区別」という。)が生じており,このことが憲法14条1項に違反する旨をいうものと解される。所論は,その上で,国籍法3条1項の規定のうち本件区別を生じさせた部分のみが違憲無効であるとし,上告人には同項のその余の規定に基づいて日本国籍の取得が認められるべきであるというものである。そこで,以下,これらの点について検討を加えることとする。
(1)憲法14条1項は,法の下の平等を定めており,この規定は,事柄の性質に即応した合理的な根拠に基づくものでない限り,法的な差別的取扱いを禁止する趣旨であると解すべきことは,当裁判所の判例とするところである(最高裁昭和37年(オ)第1472号同39年5月27日大法廷判決・民集18巻4号676頁,最高裁昭和45年(あ)第1310号同48年4月4日大法廷判決・刑集27巻3号265頁等)。
 憲法10条は,「日本国民たる要件は,法律でこれを定める。」と規定し,これを受けて,国籍法は,日本国籍の得喪に関する要件を規定している。憲法10条の規定は,国籍は国家の構成員としての資格であり,国籍の得喪に関する要件を定めるに当たってはそれぞれの国の歴史的事情,伝統,政治的,社会的及び経済的環境等,種々の要因を考慮する必要があることから,これをどのように定めるかについて,立法府の裁量判断にゆだねる趣旨のものであると解される。しかしながら,このようにして定められた日本国籍の取得に関する法律の要件によって生じた区別が,合理的理由のない差別的取扱いとなるときは,憲法14条1項違反の問題を生ずることはいうまでもない。すなわち,立法府に与えられた上記のような裁量権を考慮しても,なおそのような区別をすることの立法目的に合理的な根拠が認められない場合,又はその具体的な区別と上記の立法目的との間に合理的関連性が認められない場合には,当該区別は,合理的な理由のない差別として,同項に違反するものと解されることになる。
 日本国籍は,我が国の構成員としての資格であるとともに,我が国において基本的人権の保障,公的資格の付与,公的給付等を受ける上で意味を持つ重要な法的地位でもある。一方,父母の婚姻により嫡出子たる身分を取得するか否かということは,子にとっては自らの意思や努力によっては変えることのできない父母の身分行為に係る事柄である。したがって,このような事柄をもって日本国籍取得の要件に関して区別を生じさせることに合理的な理由があるか否かについては,慎重に検討することが必要である。
(2)ア 国籍法3条の規定する届出による国籍取得の制度は,法律上の婚姻関係にない日本国民である父と日本国民でない母との間に出生した子について,父母の婚姻及びその認知により嫡出子たる身分を取得すること(以下「準正」という。)のほか同条1項の定める一定の要件を満たした場合に限り,法務大臣への届出によって日本国籍の取得を認めるものであり,日本国民である父と日本国民でない母との間に出生した嫡出子が生来的に日本国籍を取得することとの均衡を図ることによって,同法の基本的な原則である血統主義を補完するものとして,昭和59年法律第45号による国籍法の改正において新たに設けられたものである。
 そして,国籍法3条1項は,日本国民である父が日本国民でない母との間の子を出生後に認知しただけでは日本国籍の取得を認めず,準正のあった場合に限り日本国籍を取得させることとしており,これによって本件区別が生じている。このような規定が設けられた主な理由は,日本国民である父が出生後に認知した子については,父母の婚姻により嫡出子たる身分を取得することによって,日本国民である父との生活の一体化が生じ,家族生活を通じた我が国社会との密接な結び付きが生ずることから,日本国籍の取得を認めることが相当であるという点にあるものと解される。また,上記国籍法改正の当時には,父母両系血統主義を採用する国には,自国民である父の子について認知だけでなく準正のあった場合に限り自国籍の取得を認める国が多かったことも,本件区別が合理的なものとして設けられた理由であると解される。
イ 日本国民を血統上の親として出生した子であっても,日本国籍を生来的に取得しなかった場合には,その後の生活を通じて国籍国である外国との密接な結び付きを生じさせている可能性があるから,国籍法3条1項は,同法の基本的な原則である血統主義を基調としつつ,日本国民との法律上の親子関係の存在に加え我が国との密接な結び付きの指標となる一定の要件を設けて,これらを満たす場合に限り出生後における日本国籍の取得を認めることとしたものと解される。このような目的を達成するため準正その他の要件が設けられ,これにより本件区別が生じたのであるが,本件区別を生じさせた上記の立法目的自体には,合理的な根拠があるというべきである。
 また,国籍法3条1項の規定が設けられた当時の社会通念や社会的状況の下においては,日本国民である父と日本国民でない母との間の子について,父母が法律上の婚姻をしたことをもって日本国民である父との家族生活を通じた我が国との密接な結び付きの存在を示すものとみることには相応の理由があったものとみられ,当時の諸外国における前記のような国籍法制の傾向にかんがみても,同項の規定が認知に加えて準正を日本国籍取得の要件としたことには,上記の立法目的との間に一定の合理的関連性があったものということができる。
ウ しかしながら,その後,我が国における社会的,経済的環境等の変化に伴って,夫婦共同生活の在り方を含む家族生活や親子関係に関する意識も一様ではなくなってきており,今日では,出生数に占める非嫡出子の割合が増加するなど,家族生活や親子関係の実態も変化し多様化してきている。このような社会通念及び社会的状況の変化に加えて,近年,我が国の国際化の進展に伴い国際的交流が増大することにより,日本国民である父と日本国民でない母との間に出生する子が増加しているところ,両親の一方のみが日本国民である場合には,同居の有無など家族生活の実態においても,法律上の婚姻やそれを背景とした親子関係の在り方についての認識においても,両親が日本国民である場合と比べてより複雑多様な面があり,その子と我が国との結び付きの強弱を両親が法律上の婚姻をしているか否かをもって直ちに測ることはできない。これらのことを考慮すれば,日本国民である父が日本国民でない母と法律上の婚姻をしたことをもって,初めて子に日本国籍を与えるに足りるだけの我が国との密接な結び付きが認められるものとすることは,今日では必ずしも家族生活等の実態に適合するものということはできない。
 また,諸外国においては,非嫡出子に対する法的な差別的取扱いを解消する方向にあることがうかがわれ,我が国が批准した市民的及び政治的権利に関する国際規約及び児童の権利に関する条約にも,児童が出生によっていかなる差別も受けないとする趣旨の規定が存する。さらに,国籍法3条1項の規定が設けられた後,自国民である父の非嫡出子について準正を国籍取得の要件としていた多くの国において,今日までに,認知等により自国民との父子関係の成立が認められた場合にはそれだけで自国籍の取得を認める旨の法改正が行われている。
 以上のような我が国を取り巻く国内的,国際的な社会的環境等の変化に照らしてみると,準正を出生後における届出による日本国籍取得の要件としておくことについて,前記の立法目的との間に合理的関連性を見いだすことがもはや難しくなっているというべきである。
エ 一方,国籍法は,前記のとおり,父母両系血統主義を採用し,日本国民である父又は母との法律上の親子関係があることをもって我が国との密接な結び付きがあるものとして日本国籍を付与するという立場に立って,出生の時に父又は母のいずれかが日本国民であるときには子が日本国籍を取得するものとしている(2条1号)。その結果,日本国民である父又は母の嫡出子として出生した子はもとより,日本国民である父から胎児認知された非嫡出子及び日本国民である母の非嫡出子も,生来的に日本国籍を取得することとなるところ,同じく日本国民を血統上の親として出生し,法律上の親子関係を生じた子であるにもかかわらず,日本国民である父から出生後に認知された子のうち準正により嫡出子たる身分を取得しないものに限っては,生来的に日本国籍を取得しないのみならず,同法3条1項所定の届出により日本国籍を取得することもできないことになる。このような区別の結果,日本国民である父から出生後に認知されたにとどまる非嫡出子のみが,日本国籍の取得について著しい差別的取扱いを受けているものといわざるを得ない。
 日本国籍の取得が,前記のとおり,我が国において基本的人権の保障等を受ける上で重大な意味を持つものであることにかんがみれば,以上のような差別的取扱いによって子の被る不利益は看過し難いものというべきであり,このような差別的取扱いについては,前記の立法目的との間に合理的関連性を見いだし難いといわざるを得ない。とりわけ,日本国民である父から胎児認知された子と出生後に認知された子との間においては,日本国民である父との家族生活を通じた我が国社会との結び付きの程度に一般的な差異が存するとは考え難く,日本国籍の取得に関して上記の区別を設けることの合理性を我が国社会との結び付きの程度という観点から説明することは困難である。また,父母両系血統主義を採用する国籍法の下で,日本国民である母の非嫡出子が出生により日本国籍を取得するにもかかわらず,日本国民である父から出生後に認知されたにとどまる非嫡出子が届出による日本国籍の取得すら認められないことには,両性の平等という観点からみてその基本的立場に沿わないところがあるというべきである。
オ 上記ウ,エで説示した事情を併せ考慮するならば,国籍法が,同じく日本国民との間に法律上の親子関係を生じた子であるにもかかわらず,上記のような非嫡出子についてのみ,父母の婚姻という,子にはどうすることもできない父母の身分行為が行われない限り,生来的にも届出によっても日本国籍の取得を認めないとしている点は,今日においては,立法府に与えられた裁量権を考慮しても,我が国との密接な結び付きを有する者に限り日本国籍を付与するという立法目的との合理的関連性の認められる範囲を著しく超える手段を採用しているものというほかなく,その結果,不合理な差別を生じさせているものといわざるを得ない。
カ 確かに,日本国民である父と日本国民でない母との間に出生し,父から出生後に認知された子についても,国籍法8条1号所定の簡易帰化により日本国籍を取得するみちが開かれている。しかしながら,帰化は法務大臣の裁量行為であり,同号所定の条件を満たす者であっても当然に日本国籍を取得するわけではないから,これを届出による日本国籍の取得に代わるものとみることにより,本件区別が前記立法目的との間の合理的関連性を欠くものでないということはできない。
 なお,日本国民である父の認知によって準正を待たずに日本国籍の取得を認めた場合に,国籍取得のための仮装認知がされるおそれがあるから,このような仮装行為による国籍取得を防止する必要があるということも,本件区別が設けられた理由の一つであると解される。しかし,そのようなおそれがあるとしても,父母の婚姻により子が嫡出子たる身分を取得することを日本国籍取得の要件とすることが,仮装行為による国籍取得の防止の要請との間において必ずしも合理的関連性を有するものとはいい難く,上記オの結論を覆す理由とすることは困難である。
(3)以上によれば,本件区別については,これを生じさせた立法目的自体に合理的な根拠は認められるものの,立法目的との間における合理的関連性は,我が国の内外における社会的環境の変化等によって失われており,今日において,国籍法3条1項の規定は,日本国籍の取得につき合理性を欠いた過剰な要件を課するものとなっているというべきである。しかも,本件区別については,前記(2)エで説示した他の区別も存在しており,日本国民である父から出生後に認知されたにとどまる非嫡出子に対して,日本国籍の取得において著しく不利益な差別的取扱いを生じさせているといわざるを得ず,国籍取得の要件を定めるに当たって立法府に与えられた裁量権を考慮しても,この結果について,上記の立法目的との間において合理的関連性があるものということはもはやできない。
 そうすると,本件区別は,遅くとも上告人が法務大臣あてに国籍取得届を提出した当時には,立法府に与えられた裁量権を考慮してもなおその立法目的との間において合理的関連性を欠くものとなっていたと解される。
 したがって,上記時点において,本件区別は合理的な理由のない差別となっていたといわざるを得ず,国籍法3条1項の規定が本件区別を生じさせていることは,憲法14条1項に違反するものであったというべきである。
5 本件区別による違憲の状態を前提として上告人に日本国籍の取得を認めることの可否
(1)以上のとおり,国籍法3条1項の規定が本件区別を生じさせていることは,遅くとも上記時点以降において憲法14条1項に違反するといわざるを得ないが,国籍法3条1項が日本国籍の取得について過剰な要件を課したことにより本件区別が生じたからといって,本件区別による違憲の状態を解消するために同項の規定自体を全部無効として,準正のあった子(以下「準正子」という。)の届出による日本国籍の取得をもすべて否定することは,血統主義を補完するために出生後の国籍取得の制度を設けた同法の趣旨を没却するものであり,立法者の合理的意思として想定し難いものであって,採り得ない解釈であるといわざるを得ない。そうすると,準正子について届出による日本国籍の取得を認める同項の存在を前提として,本件区別により不合理な差別的取扱いを受けている者の救済を図り,本件区別による違憲の状態を是正する必要があることになる。
(2)このような見地に立って是正の方法を検討すると,憲法14条1項に基づく平等取扱いの要請と国籍法の採用した基本的な原則である父母両系血統主義とを踏まえれば,日本国民である父と日本国民でない母との間に出生し,父から出生後に認知されたにとどまる子についても,血統主義を基調として出生後における日本国籍の取得を認めた同法3条1項の規定の趣旨・内容を等しく及ぼすほかはない。すなわち,このような子についても,父母の婚姻により嫡出子たる身分を取得したことという部分を除いた同項所定の要件が満たされる場合に,届出により日本国籍を取得することが認められるものとすることによって,同項及び同法の合憲的で合理的な解釈が可能となるものということができ,この解釈は,本件区別による不合理な差別的取扱いを受けている者に対して直接的な救済のみちを開くという観点からも,相当性を有するものというべきである。
 そして,上記の解釈は,本件区別に係る違憲の瑕疵を是正するため,国籍法3条1項につき,同項を全体として無効とすることなく,過剰な要件を設けることにより本件区別を生じさせている部分のみを除いて合理的に解釈したものであって,その結果も,準正子と同様の要件による日本国籍の取得を認めるにとどまるものである。この解釈は,日本国民との法律上の親子関係の存在という血統主義の要請を満たすとともに,父が現に日本国民であることなど我が国との密接な結び付きの指標となる一定の要件を満たす場合に出生後における日本国籍の取得を認めるものとして,同項の規定の趣旨及び目的に沿うものであり,この解釈をもって,裁判所が法律にない新たな国籍取得の要件を創設するものであって国会の本来的な機能である立法作用を行うものとして許されないと評価することは,国籍取得の要件に関する他の立法上の合理的な選択肢の存在の可能性を考慮したとしても,当を得ないものというべきである。
 したがって,日本国民である父と日本国民でない母との間に出生し,父から出生後に認知された子は,父母の婚姻により嫡出子たる身分を取得したという部分を除いた国籍法3条1項所定の要件が満たされるときは,同項に基づいて日本国籍を取得することが認められるというべきである。
(3)原審の適法に確定した事実によれば,上告人は,上記の解釈の下で国籍法3条1項の規定する日本国籍取得の要件をいずれも満たしていることが認められる。そうすると,上告人は,法務大臣あての国籍取得届を提出したことによって,同項の規定により日本国籍を取得したものと解するのが相当である。
6 結論
 以上のとおり,上告人は,国籍法3条1項の規定により日本国籍を取得したものと認められるところ,これと異なる見解の下に上告人の請求を棄却した原審の判断は,憲法14条1項及び81条並びに国籍法の解釈を誤ったものである。論旨はこの趣旨をいうものとして理由があり,その余の論旨について判断するまでもなく,原判決は破棄を免れない。そして,以上説示したところによれば,上告人の請求には理由があり,これを認容した第1審判決は結論において是認することができるから,被上告人の控訴を棄却すべきである。 
 よって,裁判官横尾和子,同津野修,同古田佑紀の反対意見,裁判官甲斐中辰夫,同堀籠幸男の反対意見があるほか,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。なお,裁判官泉徳治,同今井功,同那須弘平,同涌井紀夫,同田原睦夫,同近藤崇晴の各補足意見,裁判官藤田宙靖の意見がある。


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