新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.1189、2011/11/29 15:01 https://www.shinginza.com/rikon/index.htm

【親族・親権者指定の判断基準・継続性の原則・子どもの意思の尊重・乳幼児期における母性優先の原則・兄弟姉妹不分離の原則等・東京高裁昭和56年5月26日判決】

質問:私は、未成年の子どもの母親です。裁判上の離婚をする時、夫婦のどちらが子どもの親権者になるか、裁判所が決めると、聞きました。裁判では、どのようなことを主張すれば、親権者になれますか。

回答
1.裁判上の離婚をする場合、裁判所が親権者を指定する時には、継続性の原則、子どもの意思の尊重、乳幼児期における母性優先の原則、兄弟姉妹不分離の原則などの基準を総合的に考慮して、判断することに実務上なっています。したがって、これらの基準にご自身があてはまることを主張していくとよいでしょう。
2.親権について、書式集等事務所事例集:984番829番676番580番511番433番304番19番参照。

解説:
1.(親権について)
  ご相談についてはまず親権とは何かについて理解しておく必要があります。親権とは、未成年の子どもを養育監護し、その財産を管理し、その子を代理して法律行為をする権利です。子供との関係ではこれらについて義務を負っていることになります。
  親権の具体的内容には、身上監督権として、居所指定権(民法821条)、懲戒権(822条1項)、職業許可権(823条1項)、子どもの身分上の行為の代理権(民法811条2項、815条など)があり、また、財産管理権があります(民法824条)。もっとも、子どもと親権者がともに相続人になる遺産分割事件のように、親権者と子どもの利害が相反する関係にある場合には、親権を行う者は、その子どものために特別代理人の選任を家庭裁判所に請求しなければなりません(民法826条)。

2.(裁判上の離婚をする場合の親権者の指定)
  親権は婚姻中は父母が共同で行使することになっています。そして、離婚する場合には、協議離婚、裁判上の離婚を問わず父母の一方が親権者なることになっています。協議離婚では協議して親権者を決めるのですが、裁判上の離婚の場合は裁判所が、父母のうちどちらが親権者になるか、決めることになります(民法819条2項、この点については離婚後も父母であることは変わりがないことから離婚後も共同で親権を行使するという制度も諸外国では見られ、どちらかというと日本の制度は時代遅れとも言われていますので今後は変更される可能性もあります。)。

  裁判上の離婚の場合、離婚自体に争いがあるが、仮に離婚するのであれば、親権者をどちらにするか争いが無い場合もあるでしょう。そのような場合は、原則として当事者の判断が重視されることになるでしょう。しかし、親権者をどちらにするか、当事者の主張が相反する場合は、裁判所が親権者をどちらにするか判断する必要があります。そこで、どのような基準によって判断しているか、以下、説明します。

(1)継続性の原則
  この原則は、これまで一定期間以上平穏に子どもを監護してきた一方当事者を優先させるというものです。なぜなら、現状の養育環境で安定している親子関係に変更をくわえると、子どもの情緒を不安定にして、子どもの人格形成上好ましくないからです。長期間別居していた場合などは別居期間中どちらの親が看護していたのかが重要な基準となります。東京高裁昭和56年5月26日判決(後記参照)は、従来の2年半の別居状態での環境(兄弟が別々に各々の親の下で生活していた。)を考慮し、兄弟2人を父母別々に親権者として指定しています。

(2)子どもの意思の尊重
  15歳以上の未成年の子どもについては、親権者の指定、子どもの監護に関する処分について裁判をする場合には、その子どもの陳述を聴かなければならないことになっています(人訴法32条4項)。もっとも、裁判所は、小学校高学年の子どもであれば、子どもの意思を確認するようです。子どもの意思の確認は、家庭裁判所調査官の調査により実施され、この調査を踏まえて、裁判官自身が子どもに接し、子どもの意思を確認した上で、子どもが実際に安定した状況にあるかどうか観察しています。

(3)乳幼児期における母性優先の原則
  乳幼児は、特段の事情がない限り、母親に監護させることが子どもの福祉にかなうとした裁判例があります(東京高裁昭和56年5月26日判決、後記参照)。けれども、母親であるというだけで、親権者として適格性があるとはいえないと批判も多いので、母親としての役割を果たせる祖父母や兄弟姉妹がそばにいるかどうかといった事情も判断基準になっているようです。東京高裁昭和56年5月26日判決参照。

(4)兄弟姉妹不分離の原則
  この原則は兄弟姉妹を一緒に育てるべきというものです。なぜなら、両親の都合で、これまで一緒に育ってきた兄弟姉妹を離ればなれにすることはその後の子の成長過程においてその影響は好ましくないからです。もっとも、この原則は、裁判実務上、補充的な原則に過ぎないとされています。実際、東京高裁昭和56年5月26日判決は、不分離の原則より継続性の原則を重視しています。

(5)その他
  その他に、親権者の適格性として、監護意欲・能力、健康、性格、経済力、愛情などの監護能力、監護補助者の有無などが考慮され、子どもの事情として、心身の発達状況、環境変化への適応能力、健康状態、情緒的安定、年齢、兄弟姉妹関係等が考慮されます。
  例えば、母親に不貞行為があるというだけでは親権者として不適格と判断される事は少ないと言えますが、その他、母親の側に、家にほとんど帰ってこない育児放棄の状態に近いという事情がある場合や、暴力行為があるとか、児童虐待があるとか、犯罪行為を行っているとか、虚言癖があるとか、浪費癖があって金銭管理ができないとか、倫理的に不適切な言動が多いなど、特殊な事情がある場合は、父親の親権が認められやすいと言えます。このように、親権の決定に関して意見の相違がある場合は、事案ごとの個別事情が大切になってきますので、一度弁護士さんの相談を受けてみると良いでしょう。

3.以上のように、裁判所が親権者を指定する時には、継続性の原則、子どもの意思の尊重、乳幼児期における母性優先の原則、兄弟姉妹不分離の原則などの基準を総合的に考慮して、判断することになりますから、これらの基準にご自身が当てはまることを主張していくとよいでしょう。

4.(参考判例)

東京高裁昭和56年5月26日民二部判決、55(ネ)1037号(離婚請求、同反訴控訴事件)
継続性の原則を中心に、総合的要素から判断しており妥当な結論です。

判決抜粋
 「控訴人は、原判決中親権者の指定の点についてのみ不服を申し立てているので、以下その点のみについて判断することとする。 
 《証拠略》を総合すると、(一) 控訴人と被控訴人との夫婦仲は昭和五一年ごろから漸次悪化して葛藤が絶えず、昭和五二年二月一二日には被控訴人は、一郎及び二郎を残したまま控訴人方をとび出し、同年一一月控訴人方にもどるまで、肩書住所地所在の実家や、東京の弟方で過ごしていたことがあるが、この間、控訴人において右二人の子らを養育した(ただし、二郎については同年三月以降)こと、(二) 昭和五三年八月下旬、被控訴人は、控訴人との離婚の意思を固め、長野家庭裁判所飯山支部に離婚調停を申し立てるとともに実家に戻ったがその際、被控訴人が、二人の子らに被控訴人とともに控訴人方を出るかどうかたずねたところ、長男一郎は被控訴人と同行することを望み、二男二郎は控訴人方に残ることを望んだので、被控訴人は一郎のみを連れて実家に戻り、以来今日まで、控訴人が二郎を、被控訴人が一郎をそれぞれ養育してきていること、(三) 控訴人は、二郎と二人暮らしで、昭和三四年以来農業協同組合に勤務しており、二郎は、昭和五五年春には保育園を終えて小学校に入学し、控訴人は朝は二郎を登校させてから出勤し、平常は午後五時三〇分から六時ごろ帰宅し、八日に一回位宿直、一か月に一回位日直があること、(四) 控訴人方から約二〇〇メートル離れたところに控訴人の姉甲野春子(大正一五年生)が一人暮らしをしており、一か月のうち二〇日位は半日ほど衣類行商をしているが、平生、二郎の下校後や控訴人の宿日直の際は同女が二郎の世話をしており、春子が都合の悪いときは同女方から道路一つ隔てて隣り合せになっている控訴人の兄方(同人の妻と三人の子のほか、控訴人の母も同居している。)で二郎の世話をしていること、(五) 控訴人は子煩悩で二郎は同人によくなついており、春子や控訴人の兄方の家族にもなついていること、(六) 被控訴人は、実家で、農業や山仕事に従事する父(大正六年生)、母(同一三年生)、弟(昭和二七年生)とともに生活し、別居して実家に戻って以後○○○○企業センターに勤務しており、毎日午前七時三〇分ごろ出勤して午後五時三〇分ごろ帰宅し、約七万円ないし一四万円の月収があり、一郎は、昭和五六年二月現在、二郎と同じ小学校の五年在学中であるが、被控訴人の実家の家族にもよくなついていることが認められ、右認定に反する証拠はない。

  本件においては、このように既に控訴人と被控訴人は完全に別居し、その子を一人ずつ各別に養育するという状態が二年六月も続いており、その間、それぞれ異なる生活環境と監護状況の下で、別居当時、五歳四月であった二郎は八歳に近くなって小学校一年生を終えようとしており、九歳になったばかりで小学校三年生であった一郎は一一歳半となり、やがて五年生を終ろうとしている状況にある。離婚に際して子の親権者を指定する場合、特に低年齢の子の身上監護は一般的には母親に委ねることが適当であることが少なくないし、前記認定のような控訴人側の環境は、監護の条件そのものとしては、被控訴人側の環境に比し弱点があることは否めないところであるが、控訴人は、前記認定のとおり、昭和五三年八月以降の別居以前にも、被控訴人の不在中、四歳前後のころの二郎を約八か月間養育したこともあって、現在と同様な条件の下で二郎と過ごした期間が長く、同人も控訴人によくなついていることがうかがえる上、一郎についても、二郎についても、いずれもその現在の生活環境、監護状況の下において不適応を来たしたり、格別不都合な状況が生じているような形跡は認められないことに照らすと、現在の時点において、それぞれの現状における監護状態を変更することはいずれも適当でないと考えられるから、一郎の親権者は被控訴人と、二郎の親権者は控訴人と定めるのが相当である。
  よって、本件控訴は、原判決中、二郎に関する親権者の指定の部分の変更を求める限度において理由があるので、この点について原判決を取消して右のとおり定め、一郎に関する親権者の指定に関する部分は失当であるからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法九六条、九二条を適用して主文のとおり判決する。」

≪参考条文≫

民法
(協議上の離縁等)
第八百十一条  縁組の当事者は、その協議で、離縁をすることができる。
2  養子が十五歳未満であるときは、その離縁は、養親と養子の離縁後にその法定代理人となるべき者との協議でこれをする。
3  前項の場合において、養子の父母が離婚しているときは、その協議で、その一方を養子の離縁後にその親権者となるべき者と定めなければならない。
4  前項の協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、家庭裁判所は、同項の父若しくは母又は養親の請求によって、協議に代わる審判をすることができる。
5  第二項の法定代理人となるべき者がないときは、家庭裁判所は、養子の親族その他の利害関係人の請求によって、養子の離縁後にその未成年後見人となるべき者を選任する。
6  縁組の当事者の一方が死亡した後に生存当事者が離縁をしようとするときは、家庭裁判所の許可を得て、これをすることができる。
(養子が十五歳未満である場合の離縁の訴えの当事者)
第八百十五条  養子が十五歳に達しない間は、第八百十一条の規定により養親と離縁の協議をすることができる者から、又はこれに対して、離縁の訴えを提起することができる。
(居所の指定)
第八百二十一条  子は、親権を行う者が指定した場所に、その居所を定めなければならない。
(懲戒)
第八百二十二条  親権を行う者は、必要な範囲内で自らその子を懲戒し、又は家庭裁判所の許可を得て、これを懲戒場に入れることができる。
2  子を懲戒場に入れる期間は、六箇月以下の範囲内で、家庭裁判所が定める。ただし、この期間は、親権を行う者の請求によって、いつでも短縮することができる。
(職業の許可)
第八百二十三条  子は、親権を行う者の許可を得なければ、職業を営むことができない。
2  親権を行う者は、第六条第二項の場合には、前項の許可を取り消し、又はこれを制限することができる。
(財産の管理及び代表)
第八百二十四条  親権を行う者は、子の財産を管理し、かつ、その財産に関する法律行為についてその子を代表する。ただし、その子の行為を目的とする債務を生ずべき場合には、本人の同意を得なければならない。
(利益相反行為)
第八百二十六条  親権を行う父又は母とその子との利益が相反する行為については、親権を行う者は、その子のために特別代理人を選任することを家庭裁判所に請求しなければならない。
2  親権を行う者が数人の子に対して親権を行う場合において、その一人と他の子との利益が相反する行為については、親権を行う者は、その一方のために特別代理人を選任することを家庭裁判所に請求しなければならない。

人事訴訟法
(附帯処分についての裁判等)
第三十二条  裁判所は、申立てにより、夫婦の一方が他の一方に対して提起した婚姻の取消し又は離婚の訴えに係る請求を認容する判決において、子の監護者の指定その他子の監護に関する処分、財産の分与に関する処分又は標準報酬等の按分割合に関する処分(厚生年金保険法 (昭和二十九年法律第百十五号)第七十八条の二第二項 、国家公務員共済組合法 (昭和三十三年法律第百二十八号)第九十三条の五第二項 (私立学校教職員共済法 (昭和二十八年法律第二百四十五号)第二十五条 において準用する場合を含む。)又は地方公務員等共済組合法 (昭和三十七年法律第百五十二号)第百五条第二項 の規定による処分をいう。)(以下「附帯処分」と総称する。)についての裁判をしなければならない。
2  前項の場合においては、裁判所は、同項の判決において、当事者に対し、子の引渡し又は金銭の支払その他の財産上の給付その他の給付を命ずることができる。
3  前項の規定は、裁判所が婚姻の取消し又は離婚の訴えに係る請求を認容する判決において親権者の指定についての裁判をする場合について準用する。
4  裁判所は、第一項の子の監護者の指定その他子の監護に関する処分についての裁判又は前項の親権者の指定についての裁判をするに当たっては、子が十五歳以上であるときは、その子の陳述を聴かなければならない。

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