新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.1130、2011/7/12 9:45 https://www.shinginza.com/qa-souzoku.htm

【民事・相続・遺言・相続させるという文言の効果・遺贈・相続分の指定・遺産分割方法の指定との関係・代襲相続人に効果は及ぶか】

質問:先日,私の母が亡くなりました。母の法定相続人は,私のほか,数年前に亡くなった妹の息子ということになるのですが,母は,妹の息子が生まれるずっと以前に,「遺産全部を妹に相続させる」旨の遺言書を作成していました。妹の息子は,自分はいわゆる代襲相続人であるところ,母の遺言により母の遺産全部を相続することができると主張してきます。私は,母の遺産を相続することはできないのでしょうか。なお,母の遺言書には,遺産全部を妹に相続させる旨の条項,及び,遺言執行者の指定に係る条項の,2条しかありません。

回答:
1.(「相続させる」と書かれた遺言の効力についての昭和62年6月30日法務省民事局回答)
  特定不動産を3名の法定相続人に「均等に相続させる」という遺言書が残されたが,そのうち1名が遺言者より早く死亡した場合の登記申請の取り扱いに関しての問い合わせに対して,昭和62年6月30日法務省民事局回答(後記参照)は,「相続させる」という遺言の文言であっても,このような遺言は,遺贈と同様に扱うこととし,例えば,「あなたのお母さんが先に亡くなった場合には,あなたに相続させる」,というような文言が無い限りは,遺贈についての994条1項(「遺贈は,遺言者の死亡以前に受遺者が死亡したときは,その効力を生じない。」)と同様に考えて無効と判断し,無効部分は法定相続により登記申請すべきであるとしています。ただ,本回答では,相続させるという言葉の意味は,遺贈なのか,相続分の指定なのか,遺産分割方法の指定なのかは明確にされていません。
  
  いずれにしろ,本件で言うとあなたのお母さんに関する部分の遺言の部分は無効であるとして扱うべき,としています。あくまでも登記申請に関する見解ですが,その前提として実体法の解釈も含まれています。その後の下級審判例も,本件と同様のケースにおいて,遺言者の死亡以前に,相続人が死亡している場合に,代襲相続人(民法887条2項,3項参照)に特定財産を相続させる旨の記載が無い限り,遺言の該当部分は無効であるということを前提に判断をしていました(札幌高決昭61・3・17,東京地判平6・7・13,東京地判10・7・17,東京高判平11・5・18など)。

2.(東京高裁平成18年6月29日判決 後記掲載参照)
  他方で,東京高裁平成18年6月29日判決は,同様のケースで遺言の該当部分を遺産分割方法の指定(民法908条)と判断し,代襲相続人に対してもその地位が代襲相続され,遺産分割方法の指定として認めるとする判断がなされました。この高裁判決は,結論のみ検討すると両者の結論は相反するものです。

3.(最高裁平成23年2月22日判決 後記参照)
  そのような状況の下,近時,最高裁平成23年2月22日判決は,「『相続させる』旨の遺言は,当該遺言により遺産を相続させるものとされた推定相続人が遺言者の死亡以前に死亡した場合には,当該『相続させる』旨の遺言に係る条項と遺言書の他の記載との関係,遺言書作成当時の事情及び遺言者の置かれていた状況などから,遺言者が,上記の場合には,当該推定相続人の代襲者その他の者に遺産を相続させる旨の意思を有していたとみるべき特段の事情のない限り,その効力を生ずることはないと解するのが相当である。」としました。
  
  この判決に従うと,本件の場合,「母の遺言書には,遺産全部を妹に相続させる旨の条項,及び,遺言執行者の指定に係る条項の,2条しかありません。」とのことで,お母様より先に妹様が亡くなった場合に妹様が承継すべき遺産を妹様以外の者に承継させる意思を推知させる条項はない上,「母は,妹の息子が生まれるずっと以前に,遺産全部を妹に相続させる旨の遺言書を作成していました。」とのことで,お母様が自分より先に妹様が亡くなった場合に,遺産を承継する者についての考慮をしていたとは考えにくいことから,上記特段の事情があるとはいえず,お母様の遺言が効力を生ずることはないというべきことになります。したがって,相続は,法定相続によることとなり,お母様の遺産は,あなたと妹様の息子さん(代襲相続人)が2分の1ずつ相続することになります(民法887条2項,900条4号,901条1項)。

4.(まとめ)
  まず,遺言書に書かれた「相続させる」という文言が,遺贈なのか,相続分の指定なのか,遺産分割方法の指定なのかという解釈の問題があります。遺贈に該当すれば,遺言者より先に受贈者が死亡すれば994条から無効になるのは当然です。次に,相続分の指定,遺産分割方法の指定のいずれに該当するとしても,それ自体有効無効を決める決め手にはなりません。問題は,相続を指定された者が,遺言者より先に死亡した場合に遺言者がその死亡した相続人の代襲者に対しても効力を及ぼす意思を有していたかが判断の基準になります。私有財産制の理論的帰結として遺言自由,優先の大原則があり,遺言者は遺贈,相続分の指定,分割方法の指定等,遺産に関して自由に自ら決定処分することができます。従って,代襲相続人にその効力を及ぼすことができるかどうかは,唯一,遺言者の意思解釈による他はありません。遺言者は,相続開始時に存在しませんから,遺言者が残した遺言書,遺言時の状況,各推定相続人との生活,経済関係,推定相続人自身の生活経済状態等から遺言者の真意を確認することになります。
  
  従って,最高裁23年判決が「その者と各推定相続人との身分関係及び生活関係,各推定相続人の現在及び将来の生活状況及び資産その他の経済力,特定の不動産その他の遺産についての特定の推定相続人の関わりあいの有無,程度等諸般の事情」をもとに解釈し,原則として遺言上に表示されている推定相続人にしか効力が及ばないとしているのは理論的に当然のことであり,妥当な判断です。

  東京高裁18年判決も事案上検討の結果,遺言者は代襲相続人に対しても効力を及ぼす意思があったと判断したにすぎず,23年最高裁判決と矛盾するものではないと考えることができます。後述参照する平成3年4月19日最高裁判決も,遺言者の真意を検討し遺産分割方法の指定と認定していますが,代襲相続人への効果を論じておらず,同様な視点から見れば理論的に23年最高裁判決に反する判断ではありません。昭和62年6月30日法務省民事局回答も以上の視点からすると,代襲相続人に効力を及ぼす特別な事情がない限り,原則として,遺贈と同様に扱うこと,すなわち無効であるというのは理論的にも妥当な回答と思われます。

解説:

1.(相続させるという文言の意味)
  遺言に「相続させる」という文言がある場合,遺産分割方法の指定と解するのが,言葉の解釈としては妥当と思われます。しかし,他方で民法は,特定物の遺贈についても認めており(民法964条),相続とは別個に,相続人に特定物を遺贈する場合も,相続させるという文言を使用することも考えられることから遺贈と解することも可能です。そして,遺贈と考えると民法994条1項は,遺言者の死亡以前に受遺者が死亡した場合,遺言は無効としていることから,このような遺言は無効となってしまいます。そこで,遺産分割方法の指定なのか,遺贈なのか問題となります。

2.(登記実務との関係)
  そもそも,「相続させる」という遺言が相続分の指定なのか,遺贈なのか解釈が問題となったのは,次の点にありました。まず,不動産の相続登記に必要な登録免許税が相続なら不動産価格の6/1000,遺贈だと25/1000となっていることから,「相続させる」という文言を使って本来は遺贈であっても登録免許税の安くなるような遺言書を作成するという実務(特に公証人が作成する公正証書)が行われていたこと,また,遺贈としてしまうと,所有権移転登記をするためには,遺贈義務者である相続人全員と受遺者の共同申請になるという登記実務があったため,「相続させる」という文言が使用され,このような文言を登記原因とする「相続登記」を登記実務でも認めていました。

3.(平成3年4月19日の最高裁判決)
  ところが,このような相続の登記を認めていたところ,裁判所が登記抹消請求等の事案で,遺言で「遺贈」と明示しないかぎりは,その遺言は遺産分割方法の指定(ないし,相続分の指定を伴う遺産分割方法の指定)であって,遺産分割協議を経ない限りは物権移転の効果は生じない,従って,相続登記は無効という判断を前提とした判決を次々と出した時期があり,このような背景のもと,「相続させる」という遺言の文言は実質は遺贈と考えた方が良いのではないか,という問題が議論されるようになったのです。そこで,平成3年4月19日の最高裁判決(後記参照)は,「相続させる」との遺言は,特段の事情のない限り,「遺贈」ではなく,「遺産分割方法の指定」であるが,「何らの行為を要せずして,被相続人の死亡時に直ちに当該遺産が当該相続人に相続により承継される」として,相続の登記が有効であるということで,その妥当性を計り,「相続させる」という文言については遺贈ではないということで決着がついた,と言われています。

4.(平成3年最高裁判決と民事局通達の関係)
  とすると,一番初めに述べた民事局通達について,「相続させる」という遺言を平成3年最高裁判決のように「遺産分割方法の指定」(相続)と考えるなら,994条1項の問題ではなく,代襲相続の問題となるはずで,平成3年の最高裁判例と矛盾するのではないかという疑問が生じます。この点に関しては,この最高裁の判例も上述の通り,「相続させる」という遺言を「遺産分割方法の指定」(相続)としながらも「何らの行為を要せずして,被相続人の死亡時に直ちに当該遺産が当該相続人に相続により承継される」として,遺贈とも捉えることができるような言い回しをしていることもあり,上記の民事局回答は平成3年の最高裁判例と明らかに矛盾するものではないと解されてきました。

  実際,すでに紹介したように,その後の下級審判例も,本件と同様のケースにおいて,遺言者の死亡以前に,相続人が死亡している場合に,代襲相続人に特定財産を相続させる旨の記載が無い限り,遺言の該当部分は無効であるということを前提に判断をしていました(札幌高決昭61・3・17,東京地判平6・7・13,東京地判10・7・17,東京高判平11・5・18など)。これらの判例は,遺言を無効とするのに,上述した遺贈と同視できるという理由のほか,相続分の指定といっても遺言時にいない相続人(代襲相続人)に相続分を指定することはできないということを理由としています。

5.(東京高裁平成18年6月29日判決)
  他方で,東京高裁平成18年6月29日判決は,同様のケースで遺言の該当部分を有効とし,代襲相続を認めるとする判断がなされました。この判決は,「代襲相続は,被相続人が死亡する前に相続人に死亡や排除・欠格といった代襲原因が発生した場合,相続における衡平の観点から相続人の有していた相続分と同じ割合の相続分を代襲相続人に取得させるのであり,代襲相続人が取得する相続分は相続人から承継して取得するものではなく,直接被相続人に対する代襲相続人の相続分として取得するものである。」とした上で,「相続人に対する遺産分割方法の指定による相続がされる場合においても,この指定により同相続人の相続の内容が定められたにすぎず,その相続は法定相続による相続と性質が異なるものではない」から,「相続させる」という遺言について,その名宛人が遺言者より先に死亡していたとしても,代襲相続を認めることが,代襲相続制度を認めた法の趣旨に沿い,また,それが,被相続人の意思にも合致し,相続人間の衡平に資するのであり,かかる遺言を遺贈と解釈するのは妥当でないとしています。

  従来の判例等は,実質的には,遺贈に関する994条1項との均衡を重視し,また,被相続人は,死亡した相続人の利益のためだけに遺産分割方法の指定をしたのであって,当該相続人が先に死亡したことで,この相続人が被相続人を相続することはありえなくなったとみるべきことなどを理由としていましたが,上記平成18年東京高裁判決は,逆に,上記平成3年4月19日最高裁判決が「相続させる」との遺言について,遺贈では無く遺産分割方法の指定(相続)としたこととの整合性を重視し,また,また,そのように解することが,代襲制度を認めた法の趣旨,被相続人の意思に合致し,相続人間の衡平に資するとしたわけです。

6.(最高裁平成23年2月22日判決について)
  そのような状況の下,近時,最高裁平成23年2月22日判決は,「『相続させる』旨の遺言は,当該遺言により遺産を相続させるものとされた推定相続人が遺言者の死亡以前に死亡した場合には,当該『相続させる』旨の遺言に係る条項と遺言書の他の記載との関係,遺言書作成当時の事情及び遺言者の置かれていた状況などから,遺言者が,上記の場合には,当該推定相続人の代襲者その他の者に遺産を相続させる旨の意思を有していたとみるべき特段の事情のない限り,その効力を生ずることはないと解するのが相当である。」としました。

  同判決は,その理由として,「被相続人の遺産の承継に関する遺言をする者は,一般に,各推定相続人との関係においては,その者と各推定相続人との身分関係及び生活関係,各推定相続人の現在及び将来の生活状況及び資産その他の経済力,特定の不動産その他の遺産についての特定の推定相続人の関わりあいの有無,程度等諸般の事情を考慮して遺言をするものである。このことは,遺産を特定の推定相続人に単独で相続させる旨の遺産分割の方法を指定し,当該遺産が遺言者の死亡の時に直ちに相続により当該推定相続人に承継される効力を有する『相続させる』旨の遺言がされる場合であっても異なるものではなく,このような『相続させる』旨の遺言をした遺言者は,通常,遺言時における特定の推定相続人に当該遺産を取得させる意思を有するにとどまるものと解される。」ということを挙げています。

7.(最高裁23年判決と平成18年東京高裁判決の比較検討)
  前記平成18年東京高裁判決については,今回のように遺言で相続分の指定を受けた者が,被相続人より先に死亡した場合に,代襲相続を遺言に明示しない限り,当然にその部分については無効という紋切り型の判例の流れがあったところ,遺言者の意思を事例ごとに解釈して,その部分の遺言につき有効な場合がありうることを示した点について意味があるものと考えます。
  
  実際,前記平成18年東京高裁判決も,有効とする解釈をとることが,被相続人の遺言時の意思に反しないかを「念のため」検討するとして,問題となった公正証書遺言の作成後,かつ,当該公正証書遺言で「相続させる」とした相続人の死亡後に,被相続人が作成途中であった(印鑑がおされていなかった)自筆遺言に,代襲相続人である孫について財産を与える趣旨が読み取れたという事実を認定していますので,遺言者の意思を意識していることは明らかです。そして,上記平成23年最高裁判決が,「当該推定相続人の代襲者その他の者に遺産を相続させる旨の意思を有していたとみるべき特段の事情」の考慮要素として,「当該『相続させる』旨の遺言に係る条項と遺言書の他の記載との関係」のみならず,「遺言書作成当時の事情及び遺言者の置かれていた状況」を挙げている点には,前記平成18年東京高裁判決の考え方への配慮が見られるのではないかと思料いたします。

8.(まとめ)
  まず,遺言書に書かれた「相続させる」という文言が,遺贈なのか,相続分の指定なのか,遺産分割方法の指定なのかという解釈の問題があります。この解釈の違いですが,遺贈,分割方法の指定なら,指名された法定相続人の法定相続分は変更ありませんから他に遺産があれば相続が可能です。又,相続分の指定であれば他に遺産があってもさらに取得することはできないことになります。仮に,遺贈に該当すれば遺言者より先に受贈者が死亡すれば994条から無効になるのは当然です。

  次に,相続分の指定,遺産分割法の指定のいずれに該当するとしても,それ自体有効無効を決める決め手にはなりません。問題は,相続を指定された者が,遺言者より先に死亡した場合に遺言者がその死亡した相続人の代襲者に対しても効力を及ぼす意思を有していたかが判断の基準になります。私有財産制の理論的帰結として遺言自由,優先の大原則があり,遺言者は,遺贈,相続分の指定,分割方法の指定等,遺産に関して自由に自ら決定処分することができます。従って,代襲相続人にその効力を及ぼすことができるかどうかは,唯一,遺言者の意思解釈による他はありません。遺言者は,相続開始時に存在しませんから,遺言者が残した遺言書,遺言時の状況,各推定相続人との生活,経済関係,推定相続人自身の生活経済状態等から遺言者の真意を確認することになります。

  従って,最高裁23年判決が「その者と各推定相続人との身分関係及び生活関係,各推定相続人の現在及び将来の生活状況及び資産その他の経済力,特定の不動産その他の遺産についての特定の推定相続人の関わりあいの有無,程度等諸般の事情」をもとに解釈し,原則として遺言上に表示されている推定相続人にしか効力が及ばないとしているのは理論的に当然のことであり,妥当な判断です。東京高裁18年判決も事案上,遺言者は代襲相続人に対しても効力を及ぼす意思があったと判断したにすぎず,23年最高裁判決と矛盾するものではないと考えることができます。後述参照する平成3年4月19日最高裁判決も遺言者の真意を検討し遺産分割方法の指定と認定していますが,代襲相続人への効果を論じておらず,同様な視点から見れば理論的に23年最高裁判決に反する判断ではありません。昭和62年6月30日法務省民事局回答も以上の視点からすると,代襲相続人に効力を及ぼす特別な事情がない限り原則として,遺贈と同様に扱うこと,すなわち無効であるというのは理論的にも妥当な回答と思われます。

≪参考条文≫

(子及びその代襲者等の相続権)
第887条 被相続人の子は,相続人となる。
2 被相続人の子が,相続の開始以前に死亡したとき,又は第891条の規定に該当し,若しくは廃除によって,その相続権を失ったときは,その者の子がこれを代襲して相続人となる。ただし,被相続人の直系卑属でない者は,この限りでない。
3 前項の規定は,代襲者が,相続の開始以前に死亡し,又は第891条の規定に該当し,若しくは廃除によって,その代襲相続権を失った場合について準用する。
(共同相続の効力)
第898条 相続人が数人あるときは,相続財産は,その共有に属する。
(法定相続分)
第900条 同順位の相続人が数人あるときは,その相続分は,次の各号の定めるところによる。
1.子及び配偶者が相続人であるときは,子の相続分及び配偶者の相続分は,各2分の1とする。
2.配偶者及び直系尊属が相続人であるときは,配偶者の相続分は,3分の2とし,直系尊属の相続分は,3分の1とする。
3.配偶者及び兄弟姉妹が相続人であるときは,配偶者の相続分は,4分の3とし,兄弟姉妹の相続分は,4分の1とする。
4.子,直系尊属又は兄弟姉妹が数人あるときは,各自の相続分は,相等しいものとする。ただし,嫡出でない子の相続分は,嫡出である子の相続分の2分の1とし,父母の一方のみを同じくする兄弟姉妹の相続分は,父母の双方を同じくする兄弟姉妹の相続分の2分の1とする。
(代襲相続人の相続分)
第901条 第887条第2項又は第3項の規定により相続人となる直系卑属の相続分は,その直系尊属が受けるべきであったものと同じとする。ただし,直系卑属が数人あるときは,その各自の直系尊属が受けるべきであった部分について,前条の規定に従ってその相続分を定める。
2 前項の規定は,第889条第2項の規定により兄弟姉妹の子が相続人となる場合について準用する。
(遺言による相続分の指定)
第902条 被相続人は,前2条の規定にかかわらず,遺言で,共同相続人の相続分を定め,又はこれを定めることを第三者に委託することができる。ただし,被相続人又は第三者は,遺留分に関する規定に違反することができない。
2 被相続人が,共同相続人中の一人若しくは数人の相続分のみを定め,又はこれを第三者に定めさせたときは,他の共同相続人の相続分は,前2条の規定により定める。
(特別受益者の相続分)
第903条  共同相続人中に,被相続人から,遺贈を受け,又は婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた者があるときは,被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与の価額を加えたものを相続財産とみなし,前3条の規定により算定した相続分の中からその遺贈又は贈与の価額を控除した残額をもってその者の相続分とする。
2  遺贈又は贈与の価額が,相続分の価額に等しく,又はこれを超えるときは,受遺者又は受贈者は,その相続分を受けることができない。
3  被相続人が前二項の規定と異なった意思を表示したときは,その意思表示は,遺留分に関する規定に違反しない範囲内で,その効力を有する。
(受遺者の死亡による遺贈の失効)
第994条 遺贈は,遺言者の死亡以前に受遺者が死亡したときは,その効力を生じない。
2 停止条件付きの遺贈については,受遺者がその条件の成就前に死亡したときも,前項と同様とする。ただし,遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは,その意思に従う。
(包括遺贈及び特定遺贈)
第964条 遺言者は,包括又は特定の名義で,その財産の全部又は一部を処分することができる。ただし,遺留分に関する規定に違反することができない。

弁護士法
第二三条の二に基づく照会(遺言書を添付した相続登記申請の受否について)(照会)(管理者注:相続させる遺言の相続人が遺言者より先に死亡した場合の取扱)(昭和62年6月30日民3第3411号民事局第三課長回答)
弁護士法第二三条の二に基づく照会(遺言市を添付した相続登記申請の受否について)(照会)
当職が遺言執行者に指定された公正証書遺言に,「左記の不動産を,長男A,長女B,五女Eの三名に均等に相続させる」との一項がある。(法定相続人は七名)
その後Aが先に死亡し,ついで遺言者が死亡した。Aの相続人は,妻および一子A’である。
この遺言を執行する場合,Aの相続すべきものとされていた不動産の持分は,次のいずれによるか,登記実務上の扱いを,ご教示願いたい。
@上記条項を相続分の指定とみて,Aの代わりに代襲相続人A’が取得するので,遺言書を相続を証する書面の一部として相続による所有権移転申請ができるか。
Aそれとも,Aを民法九九四条一項の受遺者と同視し,この部分については,遺言が効力を失い,法定相続に従って相続による所有権移転の申請をするのか(分割協議が調わなければ七名の共有)。
回答
昭和五十九年五月二十五日付け書面をもって照会のあった標記の件については,遺言書中に,Aが先に死亡した場合はAに代ってA’に相続させる旨の文言がない限り,貴見Aの取り扱いによるのが相当であると考える。

≪参考判例≫

(最高裁判例)
最高裁判所平成23年2月22日判決(土地建物共有持分権確認請求事件)

       主   文

本件上告を棄却する。
上告費用は上告人らの負担とする。

       理   由

 上告代理人岡田進,同中西祐一の上告受理申立て理由(ただし,排除されたものを除く。)について
1 本件は,被相続人Aの子である被上告人が,遺産の全部をAのもう一人の子であるBに相続させる旨のAの遺言は,BがAより先に死亡したことにより効力を生ぜず,被上告人がAの遺産につき法定相続分に相当する持分を取得したと主張して,Bの子である上告人らに対し,Aが持分を有していた不動産につき被上告人が上記法定相続分に相当する持分等を有することの確認を求める事案である。

2 原審の適法に確定した事実関係の概要は,次のとおりである。
(1)B及び被上告人は,いずれもAの子であり,上告人らは,いずれもBの子である。(2)Aは,平成5年2月17日,Aの所有に係る財産全部をBに相続させる旨を記載した条項及び遺言執行者の指定に係る条項の2か条から成る公正証書遺言をした(以下,この遺言を「本件遺言」といい,本件遺言に係る公正証書を「本件遺言書」という。)。本件遺言は,Aの遺産全部をBに単独で相続させる旨の遺産分割の方法を指定するもので,当該遺産がAの死亡の時に直ちに相続によりBに承継される効力を有するものである。
(3)Bは,平成18年6月21日に死亡し,その後,Aが同年9月23日に死亡した。(4)Aは,その死亡時において,第1審判決別紙目録1及び2記載の各不動産につき持分を有していた。

3 原審は,本件遺言は,BがAより先に死亡したことによって効力を生じないこととなったというべきであると判断して,被上告人の請求を認容した。

4 所論は,本件遺言においてAの遺産を相続させるとされたBがAより先に死亡した場合であっても,Bの代襲者である上告人らが本件遺言に基づきAの遺産を代襲相続することとなり,本件遺言は効力を失うものではない旨主張するものである。

5 被相続人の遺産の承継に関する遺言をする者は,一般に,各推定相続人との関係においては,その者と各推定相続人との身分関係及び生活関係,各推定相続人の現在及び将来の生活状況及び資産その他の経済力,特定の不動産その他の遺産についての特定の推定相続人の関わりあいの有無,程度等諸般の事情を考慮して遺言をするものである。このことは,遺産を特定の推定相続人に単独で相続させる旨の遺産分割の方法を指定し,当該遺産が遺言者の死亡の時に直ちに相続により当該推定相続人に承継される効力を有する「相続させる」旨の遺言がされる場合であっても異なるものではなく,このような「相続させる」旨の遺言をした遺言者は,通常,遺言時における特定の推定相続人に当該遺産を取得させる意思を有するにとどまるものと解される。

 したがって,上記のような「相続させる」旨の遺言は,当該遺言により遺産を相続させるものとされた推定相続人が遺言者の死亡以前に死亡した場合には,当該「相続させる」旨の遺言に係る条項と遺言書の他の記載との関係,遺言書作成当時の事情及び遺言者の置かれていた状況などから,遺言者が,上記の場合には,当該推定相続人の代襲者その他の者に遺産を相続させる旨の意思を有していたとみるべき特段の事情のない限り,その効力を生ずることはないと解するのが相当である。

 前記事実関係によれば,BはAの死亡以前に死亡したものであり,本件遺言書には,Aの遺産全部をBに相続させる旨を記載した条項及び遺言執行者の指定に係る条項のわずか2か条しかなく,BがAの死亡以前に死亡した場合にBが承継すべきであった遺産をB以外の者に承継させる意思を推知させる条項はない上,本件遺言書作成当時,Aが上記の場合に遺産を承継する者についての考慮をしていなかったことは所論も前提としているところであるから,上記特段の事情があるとはいえず,本件遺言は,その効力を生ずることはないというべきである。
6 以上と同旨の原審の判断は,正当として是認することができる。論旨は採用することができない。 

(参照判例)
東京高等裁判所平成18年6月29日判決(相続分確認請求控訴事件)
第三 当裁判所の判断
一 本件遺言の内容は,上記争いのない事実等(2)記載のとおりである。そして,その内容には,乙山冬夫に「遺贈する」記載と亡秋子ら推定相続人に「相続させる」記載が存在すること,そして,別紙遺産目録記載の財産のうち,本件土地建物については,これを被控訴人春夫に相続させる旨を記載し,特定の遺産に係るものとして遺産分割方法の指定と認められ,別紙遺産目録第一の一ないし三,六及び七の各(1)記載の土地建物は,亡一郎の相続人である亡夏子,亡秋子及び被控訴人らが相続を原因として共有し,同目録五の建物は亡夏子の単独所有で,同目録第一の九(1)記載の不動産は亡夏子と被控訴人春夫との共有となっているところ,本件遺言は,上記亡夏子の本件土地建物以外の不動産(共有持分を含む。)についてはこれを五等分した上,その二を被控訴人乙山に,その各一を亡秋子,被控訴人丁原,被控訴人戊川に相続させることを記載し,遺産となる不動産(持分を含む。)について同人らに上記割合による共有持分を取得させるものであり,これらについても特定の遺産にかかるものとして分割方法について指定したものと解することができる。また,預貯金についても,特定の遺産に係るものであるから,これについても遺産分割方法を指定したものということができる。
 以上のとおりであるから,本件遺言における「相続させる」旨の遺言は分割方法の指定と認められる。

二 ところで,相続人に対し遺産分割方法の指定がされることによって,当該相続人は,相続の内容として,特定の遺産を取得することができる地位を取得することになり,その効果として被相続人の死亡とともに当該財産を取得することになる。そして,当該相続人が相続開始時に死亡していた時は,その子が代襲相続によりその地位を相続するものというべきである。

 すなわち,代襲相続は,被相続人が死亡する前に相続人に死亡や廃除・欠格といった代襲原因が発生した場合,相続における衡平の観点から相続人の有していた相続分と同じ割合の相続分を代襲相続人に取得させるのであり,代襲相続人が取得する相続分は相続人から承継して取得するものではなく,直接被相続人に対する代襲相続人の相続分として取得するものである。そうすると,相続人に対する遺産分割方法の指定による相続がされる場合においても,この指定により同相続人の相続の内容が定められたにすぎず,その相続は法定相続分による相続と性質が異なるものではなく,代襲相続人に相続させるとする規定が適用ないし準用されると解するのが相当である。

 これと異なり,被相続人が遺贈をした時は,受遺者の死亡により遺贈の効力が失われるが(民法九九四条一項),遺贈は,相続人のみならず第三者に対しても行うことができる財産処分であって,その性質から見て,とりわけ受遺者が相続人でない場合は,類型的に被相続人と受遺者との間の特別な関係を基礎とするものと解され,受遺者が被相続人よりも先に死亡したからといって,被相続人がその子に対しても遺贈する趣旨と解することができないものであるから,遺贈が効力を失うのであり,このようにすることが,被相続人の意思に合致するというべきであるし,相続における衡平を害することもないのである。他方,遺産分割方法の指定は相続であり,相続の法理に従い代襲相続を認めることこそが,代襲相続制度を定めた法の趣旨に沿うものであり,相続人間の衡平を損なうことなく,被相続人の意思にも合致することは,法定相続において代襲相続が行われることからして当然というべきである。遺産分割方法の指定がされた場合を遺贈に準じて扱うべきものではない。

三 上記のように解することが,亡夏子の遺言時の意思に反するものでないかを念のために検討する。
 本件遺言は,遺産である不動産のうち,本件土地建物を被控訴人春夫に相続させ,その余の不動産を五分し,その持分の一を亡秋子に相続させるというものであり,亡夏子において,子である亡秋子を他の子と比べて特に有利,不利のない扱いをしようとしたものということができ,亡夏子と亡秋子及び控訴人との関係は親子や祖母と孫という良好な関係にあったもので(甲一二,一三),亡夏子は,亡秋子の死亡後の平成八年一月一六日付けの自筆証書による遺言書(甲一一)を作成しようとして結局はこれを完成させなかったが,それには控訴人を他の子らと同じく遺産の六分の一を与えると記載しており,亡夏子が亡秋子の死亡後に控訴人を本件遺言による相続から排除する意思を有していたとは考えられないのである。また,本件遺言の内容は「五等分し」亡秋子らにその各一を与えるというもので,亡夏子が,自分より先に亡秋子が死亡した場合に,亡秋子の子である控訴人を除外してそのような五等分するとの分割指定を維持するものとは解しがたいのである。本件相続においても,上記のように控訴人が代襲相続することが亡夏子の意思に合致するものというべきである。

四 したがって,控訴人は,亡秋子の代襲相続により本件遺言が定める遺産分割方法により亡夏子の遺産を相続し,遺産中の控訴人主張にかかる共有持分を取得したと認めることができる。控訴人の,被控訴人らに対し,上記持分を有することの確認を求める本件請求は理由がある。
 よって,主文のとおり判決する。

(参考判例)
最高裁平成3年4月19日判決土地所有権移転登記手続請求事件
三 被相続人の遺産の承継関係に関する遺言については,遺言書において表明されている遺言者の意思を尊重して合理的にその趣旨を解釈すべきものであるところ,遺言者は,各相続人との関係にあっては,その者と各相続人との身分関係及び生活関係,各相続人の現在及び将来の生活状況及び資力その他の経済関係,特定の不動産その他の遺産についての特定の相続人のかかわりあいの関係等各般の事情を配慮して遺言をするのであるから,遺言書において特定の遺産を特定の相続人に「相続させる」趣旨の遺言者の意思が表明されている場合,当該相続人も当該遺産を他の共同相続人と共にではあるが当然相続する地位にあることにかんがみれば,遺言者の意思は,右の各般の事情を配慮して,当該遺産を当該相続人をして,他の共同相続人と共にではなくして,単独で相続させようとする趣旨のものと解するのが当然の合理的な意思解釈というべきであり,遺言書の記載から,その趣旨が遺贈であることが明らかであるか又は遺贈と解すべき特段の事情がない限り,遺贈と解すべきではない。

そして,右の「相続させる」趣旨の遺言,すなわち,特定の遺産を特定の相続人に単独で相続により承継させようとする遺言は,前記の各般の事情を配慮しての被相続人の意思として当然あり得る合理的な遺産の分割の方法を定めるものであって,民法九〇八条において被相続人が遺言で遺産の分割の方法を定めることができるとしているのも,遺産の分割の方法として,このような特定の遺産を特定の相続人に単独で相続により承継させることをも遺言で定めることを可能にするために外ならない。

したがって,右の「相続させる」趣旨の遺言は,正に同条にいう遺産の分割の方法を定めた遺言であり,他の共同相続人も右の遺言に拘束され,これと異なる遺産分割の協議,さらには審判もなし得ないのであるから,このような遺言にあっては,遺言者の意思に合致するものとして,遺産の一部である当該遺産を当該相続人に帰属させる遺産の一部の分割がなされたのと同様の遺産の承継関係を生ぜしめるものであり,当該遺言において相続による承継を当該相続人の受諾の意思表示にかからせたなどの特段の事情のない限り,何らの行為を要せずして,被相続人の死亡の時(遺言の効力の生じた時)に直ちに当該遺産が当該相続人に相続により承継されるものと解すべきである。そしてその場合,遺産分割の協議又は審判においては,当該遺産の承継を参酌して残余の遺産の分割がされることはいうまでもないとしても,当該遺産については,右の協議又は審判を経る余地はないものというべきである。もっとも,そのような場合においても,当該特定の相続人はなお相続の放棄の自由を有するのであるから,その者が所定の相続の放棄をしたときは,さかのぼって当該遺産がその者に相続されなかったことになるのはもちろんであり,また,場合によっては,他の相続人の遺留分減殺請求権の行使を妨げるものではない。

原審の適法に確定した事実関係の下では前記特段の事情はないというべきであり,被上告人が前記各土地の所有権ないし共有持分を相続により取得したとした原判決の判断は,結論において正当として是認することができる。原判決に所論の違法はなく,論旨は採用することができない。

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