新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.951、2010/1/21 14:05 https://www.shinginza.com/qa-fudousan.htm

【民事・家賃供託・その手続き必要書類・賃料の増額請求手続き・弁護士等代理人に依頼する場合必要書類】

質問:今まで月5万円の家賃で家を借りていたのですが、先月大家さんから月6万円に値上げする、という連絡がありました。5万円では受け取らないと言っているのですが、どうしたらよいでしょうか。不動産屋さんに相談したら供託したほうが良いと言われましたが、良くわかりません。供託とはなんなのか、また私の場合も供託すべきなのでしょうか。

回答:
1.家賃の値上げについては、当事者の合意によって変更することが原則になりますが、どうしても合意が成立しない場合はどうしたらよいか、ということについて、借地借家法の規定があります。これによれば、近隣の地価や税金の変動などにより従来の賃料額が不相当となった場合は、裁判により家主は賃料の増額を請求することができます(借地借家法第32条)。この裁判が確定するまでは、借主は従前の賃料を支払って賃借権を維持することができますが、家主が受領を拒否する場合には法務局に供託することにより、受領に代えることができます(借地借家法第32条3項)。
2.供託については民法、民事訴訟法他様々な規定がありますが、家賃の供託については民法494条以下に規定があります。法律上の義務を債務といい、債務の履行を弁済と言います。ですから弁済を受領することは債権者の権利なのですが、他方で債務者としても弁済によって債務を免れるという利益があります。そこで、債権者が弁済を受領しない場合、弁済に代わる制度として供託制度が定められているのです。これにより債務者としては、債務を免れることができるのです。供託にこのように弁済に関すもの以外にも後の支払いを保証するための担保供託(質権に関する民法366条3項、主に強制執行停止に関する民訴76条、405条等)、執行供託(強制執行による配当に関する民時執行法91条、108条)等がありますが、本件では弁済供託について回答説明します。
 あなたの場合、建物の賃貸借契約により家賃を支払うという債務を負っているのですが、家賃を支払わないと契約を解除される危険があります。そこで、大家さんが家賃を受け取らない場合、家賃を供託する必要があります。確かに、家賃を支払いに行ったのに受け取らない場合は(これを「弁済の提供」と言います)、契約を解除されることはないのですが、家賃を支払おうとしたのか否か、後で問題になることもあります。そこで、そのようなリスクを負わないよう供託という制度がもうけられているのです。供託の方法等については供託法や規則に詳細に定められていますので解説で詳しく説明します。
3.手続き上のことですが、供託手続きをする場合、些細な点でも法務局供託課の受付と意見が合わないとその場で『供託の原因たる事実』『被供託者の住所氏名』等何度も書き直しを求められ、又は、書類不備を理由に受付を拒否されることが結構あります。また地方法務局によっては、供託の現金を供託所で受け付けてくれませんので、地方銀行の日銀の窓口に行く必要があり時間がかかります。遠隔地の供託では1日無駄になってしまい、急を要する場合不測の事態になる場合があります。これは、弁護士等代理人が手続きする場合も同様です。前もってできれば1週間前から書類を準備してFAXで当該書類を送付し、印鑑等準備する書類、手続きの順序を何度も確認し、確実に供託課の了承を貰い、それから供託課に出向くことをお勧めします。弁護士等法的専門家でも書類不備を理由に手続きをとれないことがたまにありますので注意してください。そういう意味で供託課は厳格で難しい窓口です。債務者が弁済を受領しないのに供託により債務が消滅してしまうのですから、供託課の人も責任があり些細なミスも見逃しません。一度経験すると理解できます。尚、弁済供託は、取引上の債務だけでなく、債務額が不確実な不法行為債務、刑事事件の被害弁償債務にも利用できますので重要で利用範囲が大きいと思います。
4. 法律相談事例集キーワード検索695番138番を参照してください。

解説:
1.(家賃の増減請求について)賃貸借契約(民法601条以下)は、典型的な契約ですが、特に不動産の賃貸借契約は国民の生活に密着したもので、件数も多く、当事者の利害が対立してトラブルになることが多いため、特別に「借地借家法」という法律が定められ、利害関係を調整しています。賃料の増額・減額については、借地借家法32条に定めがあります。

2.(当該条文参照)借地借家法第32条(借賃増減請求権)建物の借賃が、土地若しくは建物に対する租税その他の負担の増減により、土地若しくは建物の価格の上昇若しくは低下その他の経済事情の変動により、又は近傍同種の建物の借賃に比較して不相当となったときは、契約の条件にかかわらず、当事者は、将来に向かって建物の借賃の額の増減を請求することができる。ただし、一定の期間建物の借賃を増額しない旨の特約がある場合には、その定めに従う。2項 建物の借賃の増額について当事者間に協議が調わないときは、その請求を受けた者は、増額を正当とする裁判が確定するまでは、相当と認める額の建物の借賃を支払うことをもって足りる。ただし、その裁判が確定した場合において、既に支払った額に不足があるときは、その不足額に年一割の割合による支払期後の利息を付してこれを支払わなければならない。3項 建物の借賃の減額について当事者間に協議が調わないときは、その請求を受けた者は、減額を正当とする裁判が確定するまでは、相当と認める額の建物の借賃の支払を請求することができる。ただし、その裁判が確定した場合において、既に支払を受けた額が正当とされた建物の借賃の額を超えるときは、その超過額に年一割の割合による受領の時からの利息を付してこれを返還しなければならない。

3.(増額請求権の性格、制度趣旨)       
(1)先ず、そもそも大家の6万円の賃料増額 請求が認められるか問題です。なぜなら、貴方と大家さんは賃貸借契約を賃料5万円で合意の上契約していますから、契約自由の大原則から大家さんの一方的意思表示により契約内容の変更は認められないと思われるからです。しかし、建物の賃貸借契約(土地の賃貸借も同じです。)には、法律上、契約途中でも 賃料増額 請求権が認められています(借地借家法32条1項)。この賃料の増額請求権の法的性質は、形成権(権利者の一方的意思表示のみで目的とする法律効果が生じてしまう権利です。同じものとして取消権、解除権があります。類似概念として請求権、例えば債権があり、請求された支払い等相手の行為により初めて法律効果が生じます。貸金、賃料の請求権がこれに当たります。相手方が支払わなければ支払いの効果が生じません。)と考えられており、増額請求の意思表示が相手方に到達すれば、相手方(借主)の行為、考えに関係なくそれによって同条所定の事由のある限り、以後賃料は相当額において増額したものとなるわけです。(最判昭32、9、3民集11、9、1467)。

(2)どうしてこのような規定、請求権(形成権)を認める必要があるのでしょうか。この制度趣旨の第一の理由は、不動産賃借権の特殊性にあります。本来私的法律関係の大原則である私的自治の原則、契約自由の原則から言えば、賃料額についても当事者の契約に委ねられるべきものです。しかし、不動産賃借権は所有権のような物権と異なり、本来単なる債権関係ですから、経済的に強い立場にある所有者である貸主と経済的に弱者たる借主の自由な意思に任せておいては、事実上借主に不利益な契約になる可能性が十分ありますし、権利の内容が、借主の社会生活の基本をなす居住、建物利用権ですから生活のための基本的人権を確保する必要上これを法的に厚く保護する必要があり、債権たる賃借権は物権と同様に(準じて)保護され、勝手に契約を解除したり、賃料を変更したりできない事になっているのです(賃借権の物権化の派生効果です。賃借権の物権化については事例集678番を参照してください)。すなわち、当事者に合意が出来なければ、法定更新により従前と同様の契約内容となり、事実上賃料額も変わりません。
 そこで、賃借人との実質的公平を図るため、所有者たる貸主に 賃料増額 請求権が判例で昔から認められ、大正10年借家法、借地法そして平成3年借地借家法に規定され引き継がれたのです。不動産賃借権は物権と同様に厚く、強力ですから、バランスを取るため賃貸人の増額請求権も賃貸人に請求し協議することが出来るという債権ではなく、意思表示をすれば即座に効果が生じるという強力な形成権としたのです。後に賃借人についても公平を図る観点から法律上減額請求権も認められていますが、本来は賃貸人、所有者の失われた権能の補填として生まれてきたのです。
 第二の理由は、事情変更の原則です。これは、条文にはありませんが、契約を締結した当時の社会的環境、情勢が著しく変わったときは契約の内容の変更、破棄が出来るという概念です(第一次大戦後超インフレとなったドイツで生まれたといわれています)。そもそも契約自由の原則の存在理由は、対等で自由な法律行為により公平で適正な正義にかなった社会秩序建設を目的としているのですから、契約締結時の状況が大きく変化し、法の理想たる正義の観点から契約の拘束を認めることが不都合であれば、自ずと契約の内容は変更される事になり、契約自由の原則の理念と相反することにはなりません。すなわち、この原則は、権利濫用の法理(民法1条3項)と同様に具体的事件の解決に当たっては正義、衡平の理念に基づき判断されなければならないという信義誠実の原則(民法1条)の一内容ということが出来ます。不動産賃借権の賃料について社会環境、経済事情の変化により著しく公平を欠くようであれば、保護される賃借人といえども応じなくてはなりません。従って、以上のような視点から具体的賃料は決定される事になるわけです。

(3)判例も同様に考えており、賃料増額 請求権が行使された場合、増額の範囲について当事者間に争いがあるときは、既に客観的に定まった増減の範囲が裁判所によって確定されることになります(最判昭33、9、18民集12、13、2040)。形成権の性質上当然の判断です。

4.(増額請求の手続き)これによれば、近隣の相場などに照らして不相当に割安となってしまったような場合には、家主としても、賃料の増額を請求できることになりますが、3項により、裁判が確定するまで、借主としては「相当と認める額」の支払をすることができます。家主が受け取らない場合には、賃料供託(民法494条)することにより、法律上支払ったのと同じ効果を生じさせることができます。さて、賃料増額請求の具体的な手続は、借地借家法32条にもとづいて不動産所在地を管轄する地方裁判所に対して、「増額賃料確認訴訟」を提起することになりますが、裁判所では、まず最初に調停による話し合いをして下さい、という案内をするのが一般的です。民事調停法24条の2には「調停前置主義」について規定があります。

5.(調停前置主義、条文)民事調停法第24条(宅地建物調停事件・管轄)宅地又は建物の貸借その他の利用関係の紛争に関する調停事件は、紛争の目的である宅地若しくは建物の所在地を管轄する簡易裁判所又は当事者が合意で定めるその所在地を管轄する地方裁判所の管轄とする。
 第24条の2(地代借賃増減請求事件の調停の前置)借地借家法第11条 の地代若しくは土地の借賃の額の増減の請求又は同法第32条の建物の借賃の額の増減の請求に関する事件について訴えを提起しようとする者は、まず調停の申立てをしなければならない。
 2項 前項の事件について調停の申立てをすることなく訴えを提起した場合には、受訴裁判所は、その事件を調停に付さなければならない。ただし、受訴裁判所が事件を調停に付することを適当でないと認めるときは、この限りでない。

6.(調停前置主義の趣旨)この点は、旧借家法が適用される借家契約の場合も同じです。調停前置主義の制度趣旨は、賃貸借契約は当事者間の個人的信頼関係が重視される契約類型でありますので、いきなり裁判所が一方的に判断をするのではなく、できる限り貸主、借主当事者の話し合いでこれからの賃料の金額を決めるべきであり、その方が継続的な契約関係を将来続けていく上でもより望ましいとの考えにあります。又本件は、判断材料が、周囲の賃料の格差、経済事情、社会環境状況の変化等広範囲にわたるため更に衡平な解決をめざし、裁判所が後見的権能を発揮する非訟事件手続(民事調停法22条)である調停が望ましいと考えたからです。

7.(調停の実務)実際の調停では、調停官(5年以上の弁護士経験者で裁判所に任命されます)を中心に話し合いをしますが、アシスタントとして裁判所書記官が居り、また、調停委員として、経験のある建築士や不動産鑑定士が話し合いに立会い、意見を述べたりします。勿論、話し合いですから、調停委員が提示する調停案を受け入れる義務はありませんが、調停案は調停事件の記録に当然残りますし、専門家の意見であり一定の合理性のある意見ですから、後日、裁判になった場合でも、裁判所の判断にも事実上の影響があると考えて良いでしょう。裁判になった場合は、改めて当事者から鑑定書が提出され、裁判所が決定することになります。
 法律事務所が賃料増額請求を受けた賃借人から相談や依頼を受けた場合は、賃借人の側として独自に、不動産業者や不動産鑑定士に依頼して、相当賃料額についての意見を求め、査定書や簡易鑑定書を準備し、これに従って、相手方の提案や裁判所の調停案の妥当性を判断し、それほど違いが無い場合には、調停案の受け入れをアドバイスすることもあります。調停委員の意見が実態にそぐわないと感じられる場合には、調停委員の判断に役立つように、前記の査定書や簡易鑑定書を参考資料として提出したりします。同時に、妥当と思われる賃料額(通常は値上げ前の従来額)を毎月、法務局に賃料供託を行います。

8.(供託の趣旨)弁済供託制度のなかで、私たちの生活に一番身近なものは、家賃供託です。例えば、大家が一方的に家賃の値上げを要求してきて、その額に応じることができない場合、従前の家賃の額では、大家が家賃を受け取らないことがあるかもしれません。大家が家賃を受け取らないことを理由に支払いを止めてしまうと、家賃不払いによる建物明渡訴訟を提起されるかもしれません。また、後で家賃について調停になった場合に大家が「受け取らないと言った覚えはない。そちらが支払わないだけだ。」などと言われたり、また、裁判などで家賃の額が決まってから未払い分を支払うとしても、未払い分の家賃に利息がついてしまいます。このような不利益を防ぐために、供託をすれば家主に支払ったことになります。その制度が、家賃の供託制度です。一種の弁済制度であり、家賃の供託は弁済供託の1つです。
 原則として、家賃を供託する場合には、予め賃貸人に家賃弁済の提供をしなくてはいけません。家賃(現金でなければいけませんので手形、小切手では決済され支払われるか不確実であり提供したことになりません。最高裁35年11月22日判決。但し、決済が確実な銀行振り出しのいわゆる預金小切手は現金と同視されます。最高裁判例昭和37年9月21日判決。事案により高額の場合は預金小切手を利用せざるを得ません。)を現実に持参し渡しに行ったが、受取を断られた、という事実が必要となります。
 ただし、値上げ後の家賃でなければ受け取らない、と明言された場合や、支払いの方法が、大家が直接自宅に集金にくることによってなされるが、集金に来ない、という場合には、口頭の提供(家賃を支払います、と通知すること)で足りるとされています。また、既に建物明渡訴訟を提起されている場合には口頭の提供も不要です。弁済供託ができるケースは法律で決められています。先ほど例に挙げた、支払日に地代・家賃を持参したが、地代・家賃の値上げや土地・建物の明渡要求などの理由で受領を拒否された場合(受領拒否)のほかに、地主・家主と争いが続いていて、あらかじめ地代・家賃の受領を拒否され、地代・家賃を持参しても受け取ってもらえないことが明らかな場合(受領拒否)、地主・家主等受取人が行方不明の場合(受領不能)、地主・家主であると称する複数の者から地代・家賃の支払請求を受け、いずれの者に支払ってよいかわからない場合または地主・家主が死亡し、その相続人が誰であるか不明の場合(債権者不確知)などです。

9.(供託の手続き) 供託の手続は、一般的には国の機関である法務局・地方法務局またはそれらの支局もしくは法務大臣の指定する出張所が取り扱っています。弁済供託の場合、債務履行地に所在する供託所、つまり、家賃供託の場合は、家賃を受け取るべき者の所在地を管轄する供託所ということになります。基本的な供託手続に必要なものは、
@ 供託書(供託規則13条)、供託所に備え付けてあります。事前にFAX、郵送で送ってもらうこともできます。法務局のホームページから印刷できます。事前に記載して供託課の承認をとりましょう。
A 印鑑、 三文判でもかまいません(供託規則13条)。供託により債務が消滅する利益を受ける立場であり、意思確認の必要がありませんが、取り戻しの場合は債務が消滅しなかったことによる不利益(民法496条)を受けるので、意思確認のために印鑑証明が必要になります。
B 印鑑証明。供託には不要です。供託は供託者が金員を提供するので現金を受け取る供託所にとり何ら不利益がなく供託者の意思確認は問題になりません。銀行に預金する場合と同じに考えてください。但し、何らかの事情により供託が不必要になり供託者が供託金を取り戻しするとき(民法496条)には実印と印鑑証明が必要です(供託規則26条1項)。供託所は、真実の取り戻し権者に払い戻す必要があり、間違えば不利益を被るので権利者の意思を確定するため印鑑証明を要求されます。
C 供託金、原則現金ですが、預金小切手でもかまいません。但し、決済まで供託書は発行されませんから急を要する場合は現金になるでしょう。
D 賃貸借契約書 添付するわけではありあませんが、供託の事実を作成するときに事実上使用します。
E 郵便切手(賃借人に供託の事実を通知するためです。80円。)などです。法務局内でも販売しています。
ただし、供託の理由や状況によって持参すべき書類も違いますので、事前に供託所に確認をすべきでしょう。
F供託が認められると、現金を納入します。地方法務局支部で、法務局内に納入窓口がないようであれば、地方銀行の日本銀行窓口で納入します。当該銀行が遠いと窓口終了時間(午後5時前)まで法務局にもう一度戻ることになり時間的に大変です。納入後、納入書(保管金領収証書)を持って法務局に又戻り提出して、供託書原本を受け取り終了します。確実を期すため、1週間前から供託課の準備している書類をFAXで送付してもらい、それをもとに一度起案して清書し、再度、供託課に連絡、FAXして検討していただき受付可能との返事をいただいてから、正式の書類を持参することです。供託所で供託が受け付けられると、供託所から賃貸人に対して、誰がいついくら供託した、という事実が通知されます。その後の話し合いや訴訟の進行結果により、それまで供託されてきた供託金を被供託者(賃貸人)が受け取ることを還付請求、逆に、供託者が自己のもとに取り戻すことを取戻請求といいます。尚、供託金取り戻し請求、閲覧申請、供託金を被供託者が受領したかどうかを明らかにする証明書交付の申請は10(代理人に依頼した場合)を参照してください。

10.(代理人に依頼する場合)弁護士等代理人に供託を依頼する場合。供託は手続きが厳格で難しい面もあり、代理人に依頼することもあると思います。
@前記書類のほか委任状が必要です。委任状の書き方については、供託課に見本がありますので郵送、FAXで送付してもらい参考にしてください。委任状の署名の他押印は三文判でもかまいません。理由は、供託所、供託者に不利益はないからです。委任事項は、提出する供託書のコピーを委任状に別紙として貼り付けで割印します。通常、供託の取り戻しに備えて弁護士に委任した委任状上部に「代理人の確認請求いたします 弁護士日本太郎」と記載押印し、例えば「平成22年度 金150号代理権限証明書確認済み」という認証を当該委任状に供託所から貰うと、一旦提出した当該委任状は供託者代理人弁護士に交付されますので、これを何らかの事情により供託金取り戻しの時に印鑑証明書の代わりに使用することができます(供託規則26条3項、14条3項)。再度、委任者から実印、印鑑証明書(3か月以内)を受領する必要がなくなり簡易に取り戻すための例外的取り扱いです。
A供託金の取り戻しには、まず供託金払戻請求書が必要です。供託所に置いてありますので前もって供託時にもらって供託課の指示に従い記載しておいてください。
Bその他、別個の委任状と印鑑証明書が必要です(供託規則26条)。委任状には、供託時にいただいた供託書原本をコピーして添付して割印します。委任状の書き方も供託課でサンプルをいただき作成してください。前述のように印鑑証明書の代わりに、供託時の委任状に代理権原証明書の認証(最初の委任状の一部に前もって記載された代理人の、名前、印鑑の上に供託所が証明の任印を押してくれます。実物を見ないと分かりにくいと思いますが。)を供託書で受けておけば、供託者の印鑑証明書の代わりとなり不要となります(規則26条3項、14条4項)。専門的で理解できなくなると思いますが、代理権限証明により供託者の代理意思が供託時に明らかになっているので、再度の印鑑証明書添付を不要としています。
Cさらに、供託金が受け取られているかどうかの閲覧が出来ますが(供託規則48条)、閲覧申請書の他にされに別の委任状、印鑑証明書を用意する必要があります。閲覧請求書のひな型は、供託課で前もっていただくかFAX送付してもらい、委任状の書き方も供託課で前もってひな型を受領し確認してください。
D閲覧して、供託金が還付されていれば(大家さんが受け取る)、その証拠として証明書を請求することができます(供託規則49条)。証明申請書の他に証明申請専用の委任状、印鑑証明書が必要になります。委任状の書き方も供託課で前もって確認し、ひな型を受領してください。CDの場合、供託の時の代理権限証明書で取り戻しの時のように印鑑証明書の代わりに再度使用することはできませんので注意してください。代理権限証明による取り扱いは例外的取り扱いであり、閲覧、証明には使用できません。印鑑証明書等は取り戻しに行く前に用意しておきましょう。
E数時間すると国が振り出した小切手が交付され(供託規則28条)、供託金が取り戻しできます。

11.(まとめ)このように、供託は、賃借人と賃貸人間の争いや問題が解決するまで、家賃を預かってもらえるシステムです。供託をしながら、両者間の問題を解決していくことになります。供託は、国の制度であることから信用のできる制度ですが、面倒な手続きが必要な制度でもあります。供託する人も供託を受ける人も、供託の法的な効果を十分に考えて利用すべきでしょう。

≪条文参照≫

民法
(質権者による債権の取立て等)
第366条  質権者は、質権の目的である債権を直接に取り立てることができる。
2  債権の目的物が金銭であるときは、質権者は、自己の債権額に対応する部分に限り、これを取り立てることができる。
3  前項の債権の弁済期が質権者の債権の弁済期前に到来したときは、質権者は、第三債務者にその弁済をすべき金額を供託させることができる。この場合において、質権は、その供託金について存在する。

供託規則
(供託書)
第十三条  金銭又は有価証券の供託をしようとする者は、供託の種類に従い、第一号から第十一号までの様式による供託書を供託所に提出しなければならない。
2  前項の供託書には、次の事項を記載しなければならない。
一  供託者の氏名及び住所、供託者が法人であるとき又は法人でない社団若しくは財団であつて、代表者若しくは管理人の定めのあるものであるときは、その名称、主たる事務所及び代表者又は管理人の氏名
二  代理人により供託する場合には、代理人の氏名及び住所、ただし、公務員がその職務上するときは、その官公職、氏名及び所属官公署の名称
三  供託金の額又は供託有価証券の名称、総額面、券面額(券面額のない有価証券についてはその旨)、回記号、番号、枚数並びに附属利賦札及びその最終の渡期
四  供託の原因たる事実
五  供託を義務付け又は許容した法令の条項
六  供託物の還付を請求し得べき者(以下「被供託者」という。)を特定することができるときは、その者の氏名及び住所、その者が法人又は法人でない社団若しくは財団であるときは、その名称及び主たる事務所
七  供託により質権又は抵当権が消滅するときは、その質権又は抵当権の表示
八  反対給付を受けることを要するときは、その反対給付の内容
九  供託物の還付又は取戻しについて官庁の承認、確認又は証明等を要するときは、当該官庁の名称及び事件の特定に必要な事項
十  裁判上の手続に関する供託については、当該裁判所の名称、件名及び事件番号
十一  供託所の表示
十二  供託申請年月日
3  振替国債の供託をしようとする者は、供託の種類に従い、第五号から第九号まで、第十一号及び第十二号の様式による供託書を供託所に提出しなければならない。
4  第二項の規定は、前項の供託書について準用する。この場合において、第二項第三号中「供託金の額又は供託有価証券の名称、総額面、券面額(券面額のない有価証券についてはその旨)、回記号、番号、枚数並びに附属利賦札及びその最終の渡期」とあるのは、「供託振替国債の銘柄、金額、利息の支払期及び元本の償還期限」と読み替えるものとする。
5  供託書が二葉以上にわたるときは、作成者は、当該供託書の所定の欄に枚数及び丁数を記載しなければならない。
(資格証明書の提示等)
第十四条  登記された法人が供託しようとするときは、登記所の作成した代表者の資格を証する書面を提示しなければならない。この場合において、供託所と証明をすべき登記所が同一の法務局若しくは地方法務局若しくはこれらの支局又はこれらの出張所(法務大臣が指定したものを除く。)であるときは、その記載された代表者の資格につき登記官の確認を受けた供託書を提出して、代表者の資格を証する書面の提示に代えることができる。
2  前項の法人以外の法人が供託しようとするときは、代表者の資格を証する書面を供託書に添付しなければならない。
3  法人でない社団又は財団であつて、代表者又は管理人の定めのあるものが供託しようとするときは、当該社団又は財団の定款又は寄附行為及び代表者又は管理人の資格を証する書面を供託書に添付しなければならない。
4  代理人によつて供託しようとする場合には、代理人の権限を証する書面を提示しなければならない。この場合において、第一項後段の規定は、支配人その他登記のある代理人によつて供託するときに準用する。
(印鑑証明書の添付)
第二十六条  供託物の払渡しを請求する者は、供託物払渡請求書又は委任による代理人の権限を証する書面に押された印鑑につき市区町村長又は登記所の作成した証明書を供託物払渡請求書に添付しなければならない。ただし、供託所と証明をすべき登記所が同一の法務局若しくは地方法務局若しくはこれらの支局又はこれらの出張所(法務大臣が指定したものを除く。)である場合において、その印鑑につき登記官の確認があるときは、この限りでない。
2  法定代理人、支配人その他登記のある代理人、法人若しくは法人でない社団若しくは財団の代表者若しくは管理人又は民事再生法 (平成十一年法律第二百二十五号)、会社更生法 (平成十四年法律第百五十四号)若しくは金融機関等の更生手続の特例等に関する法律 (平成八年法律第九十五号)による管財人若しくは保全管理人若しくは外国倒産処理手続の承認援助に関する法律 (平成十二年法律第百二十九号)による承認管財人若しくは保全管理人が、本人、法人、法人でない社団若しくは財団又は再生債務者、株式会社、金融機関等の更生手続の特例等に関する法律第二条第二項 に規定する協同組織金融機関、相互会社若しくは債務者のために供託物の払渡しを請求する場合には、前項の規定は、その法定代理人、支配人その他登記のある代理人、代表者若しくは管理人又は管財人、承認管財人若しくは保全管理人について適用する。
3  前二項の規定は、次の場合には適用しない。
一  払渡しを請求する者が官庁又は公署であるとき。
二  払渡しを請求する者が個人である場合において、その者が提示した運転免許証(道路交通法 (昭和三十五年法律第百五号)第九十二条第一項 に規定する運転免許証をいう。)、住民基本台帳カード(住民基本台帳法 (昭和四十二年法律第八十一号)第三十条の四十四第一項 に規定する住民基本台帳カードで住民基本台帳法施行規則 (平成十一年自治省令第三十五号)別記様式第二に限る。)、外国人登録証明書(外国人登録法 (昭和二十七年法律第百二十五号)第五条 に規定する外国人登録証明書をいう。)その他の官庁又は公署から交付を受けた書類その他これに類するもの(氏名、住所及び生年月日の記載があり、本人の写真が貼付されたものに限る。)により、その者が本人であることを確認することができるとき。
三  供託物の取戻しを請求する場合において、第十四条第四項前段の規定により供託官に提示した委任による代理人の権限を証する書面で請求者又は前項に掲げる者が供託物払渡請求書又は委任による代理人の権限を証する書面に押した印鑑と同一の印鑑を押したものを供託物払渡請求書に添付したとき。
四  法令の規定に基づき印鑑を登記所に提出することができる者以外の者が供託物の取戻しを請求する場合において、官庁又は公署から交付を受けた供託の原因が消滅したことを証する書面を供託物払渡請求書に添付したとき。
五  前号に規定する者が供託金の払渡しを請求する場合(その額が十万円未満である場合に限る。)において、第三十条第一項に規定する証明書を供託物払渡請求書に添付したとき。
(代理権限を証する書面の添付等)
第二十七条  代理人によつて供託物の払渡しを請求する場合には、代理人の権限を証する書面を供託物払渡請求書に添付しなければならない。ただし、支配人その他登記のある代理人については、登記所が作成した代理人であることを証する書面を提示すれば足りる。
2  第十四条第一項後段の規定は、前項ただし書の場合に準用する。
3  第十四条第一項から第三項まで及び第十五条の規定は、供託物の払渡請求に準用する。
(払渡しの手続)
第二十八条  供託官は、供託金の払渡しの請求を理由があると認めるときは、供託物払渡請求書に払渡しを認可する旨を記載して押印しなければならない。この場合には、供託官は、請求者をして当該請求書に受領を証させ、財務大臣の定める保管金の払戻しに関する規定に従い小切手を振り出して、請求者に交付しなければならない。
 第六章 雑則
(受諾書等の提出)
第四十七条  弁済供託の債権者は、供託所に対し供託を受諾する旨を記載した書面又は供託を有効と宣告した確定判決の謄本を提出することができる。
(供託に関する書類の閲覧)
第四十八条  供託につき利害の関係がある者は、供託に関する書類(電磁的記録を用紙に出力したものを含む。)の閲覧を請求することができる。
2  閲覧を請求しようとする者は、第三十三号書式による申請書を提出しなければならない。
3  第九条の二第一項から第三項まで及び第五項の規定は申請書に添付した書類の還付について、第二十六条及び第二十七条の規定は閲覧の請求について準用する。
(供託に関する事項の証明)
第四十九条  供託につき利害の関係がある者は、供託に関する事項につき証明を請求することができる。
2  証明を請求しようとする者は、第三十四号書式による申請書を提出しなければならない。
3  前項の申請書には、証明を請求する事項を記載した書面を、証明の請求数に応じ、添付しなければならない。
4  第九条の二第一項から第三項まで及び第五項の規定は申請書に添付した書類の還付について、第二十六条及び第二十七条の規定は証明の請求について準用する。
(書面等の送付の請求)
第五十条  次の各号に掲げる者は、送付に要する費用を納付して、それぞれ当該各号に定めるものの送付を請求することができる。
一  第九条の二第一項(第四十二条第三項及び前条第四項において準用する場合を含む。)の規定により書類の還付を請求する者 当該書類
二  第十八条第一項の規定により供託書正本及び保管金払込書又は供託有価証券寄託書の交付を受ける者 当該供託書正本及び保管金払込書又は供託有価証券寄託書
三  第十九条第三項、第二十条第二項前段、第二十条の二第四項前段、第二十条の三第四項前段又は第二十一条の五第三項(第二十一条の六第一項において準用する場合を含む。)の規定により供託書正本の交付を受ける者 当該供託書正本
四  第二十一条第四項の規定により代供託請求書又は附属供託請求書の正本、保管金払込書及び払渡請求書の交付を受ける者 当該正本、保管金払込書及び払渡請求書
五  第二十九条第二項の規定により供託物払渡請求書の交付を受ける者 当該供託物払渡請求書
六  第四十二条第一項の規定により同項の書面の交付を請求する者 当該書面
七  前条第一項の規定により証明を請求する者 当該証明に係る書面
2  前項の場合においては、送付に要する費用は、郵便切手又は第十六条第二項の証票で納付しなければならない。

民事訴訟法
第二節 訴訟費用の担保
(担保提供命令)
第75条  原告が日本国内に住所、事務所及び営業所を有しないときは、裁判所は、被告の申立てにより、決定で、訴訟費用の担保を立てるべきことを原告に命じなければならない。その担保に不足を生じたときも、同様とする。
(担保提供の方法)
第76条  担保を立てるには、担保を立てるべきことを命じた裁判所の所在地を管轄する地方裁判所の管轄区域内の供託所に金銭又は裁判所が相当と認める有価証券(社債、株式等の振替に関する法律 (平成十三年法律第七十五号)第二百七十八条第一項 に規定する振替債を含む。次条において同じ。)を供託する方法その他最高裁判所規則で定める方法によらなければならない。ただし、当事者が特別の契約をしたときは、その契約による。
(担保物に対する被告の権利)
第八編 執行停止
(執行停止の裁判)
第四百三条  次に掲げる場合には、裁判所は、申立てにより、決定で、担保を立てさせて、若しくは立てさせないで強制執行の一時の停止を命じ、又はこれとともに、担保を立てて強制執行の開始若しくは続行をすべき旨を命じ、若しくは担保を立てさせて既にした執行処分の取消しを命ずることができる。ただし、強制執行の開始又は続行をすべき旨の命令は、第三号から第六号までに掲げる場合に限り、することができる。
一  第三百二十七条第一項(第三百八十条第二項において準用する場合を含む。次条において同じ。)の上告又は再審の訴えの提起があった場合において、不服の理由として主張した事情が法律上理由があるとみえ、事実上の点につき疎明があり、かつ、執行により償うことができない損害が生ずるおそれがあることにつき疎明があったとき。
二  仮執行の宣言を付した判決に対する上告の提起又は上告受理の申立てがあった場合において、原判決の破棄の原因となるべき事情及び執行により償うことができない損害を生ずるおそれがあることにつき疎明があったとき。
 (以下省略)
(担保の提供)
第四百五条  この編の規定により担保を立てる場合において、供託をするには、担保を立てるべきことを命じた裁判所又は執行裁判所の所在地を管轄する地方裁判所の管轄区域内の供託所にしなければならない。
2  第七十六条、第七十七条、第七十九条及び第八十条の規定は、前項の担保について準用する。

民事執行法
第二目 強制競売
(配当等の額の供託)
第九十一条  配当等を受けるべき債権者の債権について次に掲げる事由があるときは、裁判所書記官は、その配当等の額に相当する金銭を供託しなければならない。
一  停止条件付又は不確定期限付であるとき。
二  仮差押債権者の債権であるとき。
三  第三十九条第一項第七号又は第百八十三条第一項第六号に掲げる文書が提出されているとき。
四  その債権に係る先取特権、質権又は抵当権(以下この項において「先取特権等」という。)の実行を一時禁止する裁判の正本が提出されているとき。
五  その債権に係る先取特権等につき仮登記又は民事保全法第五十三条第二項 に規定する仮処分による仮登記がされたものであるとき。
六  仮差押え又は執行停止に係る差押えの登記後に登記された先取特権等があるため配当額が定まらないとき。
七  配当異議の訴えが提起されたとき。
2  裁判所書記官は、配当等の受領のために執行裁判所に出頭しなかつた債権者(知れていない抵当証券の所持人を含む。)に対する配当等の額に相当する金銭を供託しなければならない。
第三目 強制管理
(管理人による配当等の額の供託)
第百八条  配当等を受けるべき債権者の債権について第九十一条第一項各号(第七号を除く。)に掲げる事由があるときは、管理人は、その配当等の額に相当する金銭を供託し、その事情を執行裁判所に届け出なければならない。債権者が配当等の受領のために出頭しなかつたときも、同様とする。

法律相談事例集データベースのページに戻る

法律相談ページに戻る(電話03−3248−5791で簡単な無料法律相談を受付しております)

トップページに戻る