新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.939、2010/1/6 16:52 https://www.shinginza.com/qa-souzoku.htm

【相続・検認の手続き・性質・検証】

質問:私は7人兄弟の長男ですが、高齢の父から封印のある遺言書を預かりました。父は常々財産はお前にすべて与えるといっていました。兄弟は死亡した人もいます。今後どのように扱えばよいのでしょうか?

回答:
1.貴方はお父様から封印のある遺言書の保管を依頼されて、その遺言書を預かったことになります。したがって、貴方はお父様が亡くなるまで、この遺言書を安全に保管する必要があります。火災や盗難被害を防止するために、一般的に銀行の貸金庫や自宅の金庫などで厳重に保管をすべきでしょう。
2.お父様が亡くなった後は、貴方は速やかに家庭裁判所に対し検認の審判の申立てをしないといけません(民法1004条1項)。貴方は、この封印のある遺言書を勝手に開封してはいけません。検認手続きの中で開封を行います(同3項)。また、同時にお父様の法定相続人に対してお父様から封印のある遺言書を預かっている旨の通知をした方がよいでしょう。
3.貴方の場合は遺言の内容がどのようなものか知りえないでしょうが、貴方が単独相続人と予想されるようであれば、他の兄弟、代襲相続人が各地から多数集まるいい機会ですから遺留分の問題も生じる可能性があり(民法1028条、1044条、887条2項及び3項)家庭裁判所でも他の相続人に丁重に対応し、早期解決のため遺産分割(遺留分の提案等)の話合いの準備もしておくといいでしょう。
4.法律相談事例集キーワード検索710番368番参照。

解説:
1.民法は遺言書の要件や執行などについて、遺言者の生前及び死亡後について詳細な規定を設けています。これは、遺言書は、遺言者の財産処分に関する最終の意思表示であり、私有財産制(憲法29条)をとる以上、財産所有者の最終意思を最大限尊重しなければなりませんし、何よりも相続発生時には遺言者の意思を確認することは不可能ですから、遺言者の真意を確認、保全し、偽造変造を防止する必要性があるからです。検認手続きもそのような趣旨から設けられた手続きです。検認手続きは、遺言執行前の証拠保全手続きといえ、遺言者の死亡時における遺言書の状況を検証する手続きです。
 すなわち、検証という証拠調べ手続き(民訴232条、検証とは、証拠調べの対象物の外部に表れている形状、性状のみを裁判官の目や耳等五感の作用で調べるもので対象の物、例えば文書の意味内容を調べるものではありません。例えば、遺言書の検証は遺言書の事実的状況のみを確認するだけです。)と同様ですから、権利関係自体を判断する裁判手続きを行っているのではありません。
 従いまして、偽造変造の恐れがない公正証書遺言以外の全ての遺言書について検認手続きが必要とされています。また、実務の取り扱いとして、特別方式の要件を欠いた遺言は無効ですが、一応の形式を備えている限り、その遺言書について検認手続きが必要と考えられています。ですから、遺言書が偽造であったり、その内容が単に子孫に対する訓戒にすぎないような場合でも、検認の申し立てをする必要があり、申し立てがあれば、家庭裁判所はその申立を却下せずに検認をすることになります。

2.(判例)大審院大正 4年 1月16日決定。
 検認は裁判手続きではなく単なる検証の手続きなので争いを前提とする非訟事件20条の異議申し立てはできないという判断です。決定内容「民法第千百六条(旧民法)ニ規定セル遺言書ノ検認ハ遺言ノ執行前ニ於テ遺言書ノ状態ヲ確証シ後日ニ於ケル偽造若クハ変造ヲ予防シ其保存ヲ確実ナラシムル目的ニ出ルモノナルヲ以テ検認ノ実質ハ遺言書ノ形式態様等専ラ遺言ノ方式ニ関スル一切ノ事実ヲ調査シテ遺言書其者ノ状態ヲ確定シ其現状ヲ明確ニスルニ在リテ遺言ノ内容ノ真否其効力ノ有無等遺言書ノ実体上ノ効果ヲ判断スルモノニアラス即チ検認ハ当該裁判所カ非訟事件手続法第百十二条以下ノ規定ニ準拠シ之ニ関スル調書ニ検認ノ手続及ヒ其調査ノ結果ヲ明確ニスルニ止マリ其得タル結果ニ対スル判断ヲ宣示スルモノニアラサルカ故ニ検認ノ裁判ニアラサルハ勿論ニシテ畢竟検認ハ遺言執行前ニ於ケル一種ノ検証手続ニ過キサルヲ以テ之レカ申請ハ遺言書ノ内容形式如何ニ拘ハラス却下シ得ヘキ性質ノモノニアラス然ラハ抗告人カ遺言書ノ検認ヲ裁判ナリト誤解シ検認ノ申請ヲ却下スヘキ場合アルモノノ如ク思為シテ非訟事件手続法第二十条ニ依リ横浜区裁判所ノ為シタル検認ニ対シ原裁判所ニ為シタル抗告ノ不適法ナルコト明ナレハ原審カ之ト同一趣旨ニ基キ抗告人ノ抗告ヲ却下シタルハ相当ニシテ本件抗告ハ理由ナキモノトス仍テ主文ノ如ク決定ス」

3.検認手続きは、遺言書の検証をするだけで、遺言内容の真否等その効力を判断するものではありません。したがって、検認手続きの後に、形式上又は実体上の理由により遺言が有効か無効かについてあらためて民事裁判で争うことは可能です。そして、検認が必要な遺言書であるにもかかわらず、検認手続きを経ることなく執行をしたり、家庭裁判所以外の場所で、封印のある遺言書を開封したりした場合には、過料の制裁を受ける可能性があります。しかし、その場合でも遺言書そのものが無効となるものではありません。なぜなら検認は、遺言者の最終意思を形式的に明らかにするための証拠保全の手続きであり、遺言者の意思内容自体の有効無効を検討する手続きではないからです。従って、5万円以下の過料という少額の制裁になっています。また、検認手続きを経た後、当該遺言書の原本を紛失した場合、検認調書謄本によって遺言の執行をすることができます。

4.検認手続きの申立人は、遺言書の保管を委託された者または事実上遺言書を保管している者です。保管者がいない場合は、遺言書を発見した相続人が申立人となります。検認手続きの申立は、権利でありかつ義務でもあると解されていますので、いったんこれらのものが検認手続きの申立をした場合には、これを取り下げることはできません。なお、相続人でないものが遺言書を発見した場合、検認手続きの申立はできますが、申立の義務はないと解されています。また、検認手続きを申し立てるべき管轄裁判所は、相続開始地の家庭裁判所と定められており(家審規120条1項)、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所が管轄裁判所となります。

5.検認手続きの内容について説明します。まず、申立人は、遺言書の原本を家庭裁判所に提出しなければなりません。東京家裁の実務では、検認期日に提出することになっています。通常は、遺言書が封筒に入れられ封をしている場合以外は、写し(コピー)を添付することになります。申立が受理されると、家庭裁判所は相続人またはその代理人に期日の通知をします。しかし、遺言の現状を保全するもので各相続人の主張をする手続きではありませんから、検認期日においての出頭は任意で、全員の立会いは必要ありません。そして、期日後、遺言書の検認に立ち会った書記官が検認調書を作成します(家審規123条)。検認の目的が遺言の偽造等の防止ですから、紙質、大きさ、枚数、文字の字体、配列、印影の形等の遺言書の形状を正確に調書に表現しなければなりません。現在の実務では、写真やコピーなどで複写して検認調書に添付されています。
 検認手続きの終了後、家庭裁判所は、検認に立ち会わなかった申立人、相続人、受遺者その他の利害関係人に対して、検認した旨の通知をすることになっています。また、検認終了後、遺言書に検認済であることの証明文を付して申立人に交付されています。ただ、検認手続きを経ても遺言書に遺言執行者の指定がない場合には、家庭裁判所に遺言執行者の選任の申立をしなければなりません、

6.検認を要する遺言書の検認手続きを怠り、検認を経ないで遺言を執行したり、封印のある遺言書の封を家庭裁判所以外で開封したりした場合、5万円以下の過料に処せられます(民法1005条)。また、故意に遺言書を偽造・変造・破棄または隠匿した場合には、相続人あるいは受遺者はその地位を失います(民法891条5項、965条)。

7.ご質問の事例を検討いたしますと、前記のとおり、お父様から預かっている封印のある遺言は、公正証書遺言でなければ、検認手続きをする必要があります。よって、お父様が亡くなられた場所を管轄する家庭裁判所に検認手続きの申立をするべきです。そして、相続人立会いのもとで、本件遺言書の形状について検証をなされるべきでしょう。検認手続き終了後、遺言の有効性を判断して、遺言執行者の選任をし、遺言の執行をすることになります。尚、貴方の単独相続になるようであれば、相続人多数であり各地から家庭裁判所に集まると思いますので、慎重丁寧に対応し、遺留分等請求も過大にならないように対策を取るようにしてください。遺産分割の書式等について弁護士との協議も必要なるかも知れません。

≪参照条文≫

民法
(子及びその代襲者等の相続権)
第887条  被相続人の子は、相続人となる。
2  被相続人の子が、相続の開始以前に死亡したとき、又は第八百九十一条の規定に該当し、若しくは廃除によって、その相続権を失ったときは、その者の子がこれを代襲して相続人となる。ただし、被相続人の直系卑属でない者は、この限りでない。
3  前項の規定は、代襲者が、相続の開始以前に死亡し、又は第八百九十一条の規定に該当し、若しくは廃除によって、その代襲相続権を失った場合について準用する。
(遺言書の検認)
第1004条 遺言書の保管者は、相続の開始を知った後、遅滞なく、これを家庭裁判所に提出して、その検認を請求しなければならない。遺言書の保管者がない場合において、相続人が遺言書を発見した後も、同様とする。
《改正》平16法147
2 前項の規定は、公正証書による遺言については、適用しない。
《改正》平16法147
3 封印のある遺言書は、家庭裁判所において相続人又はその代理人の立会いがなければ、開封することができない。
《改正》平16法147
(過料)
第1005条 前条の規定によって遺言書を提出することを怠り、その検認を経ないで遺言を執行し、又は家庭裁判所外においてその開封をした者は、5万円以下の過料に処する。
(相続人に関する規定の準用)
第965条 第886条及び第891条の規定は、受遺者について準用する。
(相続人の欠格事由)
第891条 次に掲げる者は、相続人となることができない。
1.故意に被相続人又は相続について先順位若しくは同順位にある者を死亡するに至らせ、又は至らせようとしたために、刑に処せられた者
2.被相続人の殺害されたことを知って、これを告発せず、又は告訴しなかった者。ただし、その者に是非の弁別がないとき、又は殺害者が自己の配偶者若しくは直系血族であったときは、この限りでない。
3.詐欺又は強迫によって、被相続人が相続に関する遺言をし、撤回し、取り消し、又は変更することを妨げた者
4.詐欺又は強迫によって、被相続人に相続に関する遺言をさせ、撤回させ、取り消させ、又は変更させた者
5.相続に関する被相続人の遺言書を偽造し、変造し、破棄し、又は隠匿した者
(代襲相続及び相続分の規定の準用)
第1044条  第八百八十七条第二項及び第三項、第九百条、第九百一条、第九百三条並びに第九百四条の規定は、遺留分について準用する。

非訟事件手続法
第20条  裁判ニ因リテ権利ヲ害セラレタリトスル者ハ其裁判ニ対シテ抗告ヲ為スコトヲ得
○2 申立ニ因リテノミ裁判ヲ為スヘキ場合ニ於テ申立ヲ却下シタル裁判ニ対シテハ申立人ニ限リ抗告ヲ為スコトヲ得

民事訴訟法
第六節 検証
(検証の目的の提示等)
第232条  第二百十九条、第二百二十三条、第二百二十四条、第二百二十六条及び第二百二十七条の規定は、検証の目的の提示又は送付について準用する。
2  第三者が正当な理由なく前項において準用する第二百二十三条第一項の規定による提示の命令に従わないときは、裁判所は、決定で、二十万円以下の過料に処する。
3  前項の決定に対しては、即時抗告をすることができる。

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