新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.831、2009/1/8 13:03 https://www.shinginza.com/qa-jiko.htm

【民事・交通事故・逸失利益の計算方法・中間利息控除係数の意義,内容】

質問:私は,交通事故に遭い,後遺障害が残ったため,加害者に対して,逸失利益を請求するつもりです。この点,逸失利益は,裁判では,「@基礎収入額×A労働能力喪失率×B就労可能年齢に達する年齢に対応する中間利息控除係数」で計算すると聞きました。この点,Bの中間利息控除係数について詳しく教えて下さい。

回答:
1.逸失利益の計算において「就労可能年齢に達する年齢に対応する中間利息控除係数」の就労可能年齢の開始日は症状固定日,終期は67歳が原則です。
2.利息額は5%です。
3.係数とは,複利計算であるライプニッツ係数を基準とします。
4.中間利息控除の算定開始時期は症状固定日と解釈すべきです。

解説:
交通事故における民法709条等法解釈の基本的考え方。

不法行為における民法の一般基本原則を法の公平,公正,被害回復の迅速性,経済性の理念(法の支配)から修正し交通事故被害者救済を行い,個人の尊厳を実質的に保障することが肝要です。交通事故の損害賠償について不法行為等民法の一般原則をそのまま適用することは,法の理念である公正公平の原則にもどることになります(民法1条)。私的自治の原則による過失責任主義は,あくまで対等な当事者を予定しており,この理屈を交通事故に適用すると,過失の立証責任,損害の額の内容立証について被害者に著しく不公平,不利益です。交通事故の本質は近代資本主義,産業の発達による車両という生来的危険物の増大,存在に原因があり,公正,公平の原則から危険責任,報償責任によって過失の挙証責任,損害内容の確定,立証は特別な反証の事情がないかぎり事実上転換して加害者側に負わせ,早期に過失,損害額を認定できるようにして損害填補,被害回復を実現しなければいけません。従って,法解釈も以上の趣旨から行われるべきです。 

1.逸失利益とは何かについての説明や,逸失利益の計算方法における@「基礎収入額」やA「労働能力喪失率」についての説明は,法律相談データベースbV76番で説明しておりますので,ご参照下さい。これらについて,本件でも簡単に説明しますと,逸失利益とは,仮に,加害者の加害行為がなければ,被害者が将来の労働等によって得られたであろう利益のことをいい,裁判実務では,「@基礎収入額×A労働能力喪失率×B就労可能年齢に達する年齢に対応する中間利息控除係数」で計算しております。そして,@「基礎収入額」は,裁判実務では,有職者の場合,原則として,事故前の年収額を基礎とし,例えば,本件で,事故前のあなたの年収が400万円であった場合,その金額が基礎となります。次に,A「労働能力喪失率」とは,労働能力の低下の程度のことをいい,裁判実務では,基本的に,後遺障害等級を基準としており,例えば,本件で,あなたの後遺障害等級が14級の場合,労働能力喪失率は0.05とされております。これは,14級の後遺障害が残ったことにより,後遺障害が残らなかった場合に比べ,5パーセント労働能力が低下し,その分収入も減額になったと考えられていることを意味します。

2.では,B「就労可能年齢に達する年齢に対応する中間利息控除係数」とはいかなるものでしょうか。以下,詳しく説明いたします。まず,「就労可能年齢」の期間計算開始基準時期は「症状固定日」です。症状が固定して初めて将来の労働能力の喪失の度合いが明らかになるからです。被害者が,職業についていない場合は原則18歳から計算します。義務教育は15歳までですが一般的には高校卒業が通常であり,18歳から働くことができると考えられるからです。「就労可能年齢」の終期は,裁判実務では,一般的に,67歳とされております。すなわち,67歳まで働くことができたと考えられております。一般会社において定年は60歳ですが,高年齢者雇用安定法(2006年4月1日施行内容)9条によると,事業主は65歳までの安定した雇用を確保するために,下記の3つのいずれかの措置を講じなくてはならない。定年の65歳への引上げ。継続雇用制度の導入(労使協定により,継続雇用制度の対象となる基準を定めることができる)。廃止。以上の趣旨から平均余命,自営業の職種等の総合的判断から被害者救済のため判例は最低67歳までを就労期間と認めています。従って,特別な事情を立証すれば終期を伸ばすことも可能と思われる。

例えば,平均余命の2分の1より就業可能期間が短い場合は平均余命の2分の1を期間と算定しているようです。次に,「中間利息控除係数」とは,仮に,後遺障害が残らなければ,67歳まで収入があったと考えられますが,将来に及んで発生する損害額を,通常は現時点で一括払いされることになりますので,その間の利息相当額を控除すべきとの考えに基づくものです。すなわち,例えば,現在100万円があるとして,金銭は通常利息が発生するものですので,例えば,利息が年5パーセントの単利であると仮定すると,10年後には,100万円×0.05×10年=50万円の利息がつくことになります。このように,利息が年5パーセントの単利であると仮定すると,現在の100万円と10年後の150万円は同じ価値を持つことになります。よって,逸失利益を考えるにあたっても,本来は,67歳までの将来に及んで発生する損害額を,現時点で一括払いにより支払われることにすると,その間の利息相当額を控除すべきと考えるのが妥当であるということになるのです。

3 ただ,中間利息控除の方法については,以下の3点が問題となりますので,以下,順に説明いたします。
@利率を何パーセントとすべきか。
この点,民法404条は,「利息を生ずべき債権について別段の意思表示がないときは,その利率は,年5分とする。」と規定しております。これは,民法の制定に当たって参考とされたヨーロッパ諸国の一般的な貸付金利や,我が国の一般的な貸付金利を踏まえて制定されたものです。このように,法律上,年5パーセントとされておりますので,従前,特に争いはありませんでした。しかし,バブル経済崩壊後,低金利政策が行なわれた結果,年5パーセントの運用が困難な状況になったことから,年5パーセントよりも引き下げるべきであると判断する下級審判例も登場するようになりました。しかし,最高裁平成17年6月14日第三小法廷判決は,被害者救済を優先し,法的安定及び統一的処理の必要性を理由として,また,被害者相互間の公平の確保,損害額の予測可能性による紛争の予防を図ることができる点も理由として,民事法定利率である年5パーセントとすべきと判断しております。本件のような交通事故は,日本全国で毎日のように数多く発生し,また,将来に渡っても数多く発生するものですので,その処理については,最高裁判決が指摘するように,法的安定及び統一的処理が強く要請されると考えられます。また,低金利政策も,今後変更される可能性があります。さらに,本件における不法行為に基づく損害賠償請求権(民法709条)の場合,加害者は,被害者に損害の支払いをした場合,不法行為時から支払時までの遅延損害金を支払う必要がある(遅延損害金の発生時期は,不法行為時である)と解されておりますが(最高裁判昭和37年9月4日第三小法廷判決),この遅延損害金の利率も民法404条により年5パーセントとされておりますので,これとの均衡からも,年5パーセントと考えるのが妥当であると考えます。

A単利とすべきか,複利とすべきか。単利計算である新ホフマン係数を用いるべきか,複利計算であるライプニッツ係数を用いるべきか。
この点,まず,単利と複利の違いについて説明しますと,例えば,現在100万円があるとして,利息が年5パーセントの単利による計算では,2年後には,100万円×0.05×2年=10万円の利息がつくことになります。これに対して,例えば,利息が年5パーセントの複利(1年毎)による計算では,1年後に,100万円×0.05×1年=5万円の利息がつき,さらに,その1年後は,(100万円+5万円)×0.05×1年=5万2500円の利息がつくので,2年後には,合計10万2500円の利息がつくことになります。では,どちらで計算すべきでしょうか。この点,最高裁判決は,いずれの計算も否定していなかった(新ホフマン係数につき,最高裁昭和37年12月14日第二小法廷判決,最高裁平成2年3月23日第二小法廷判決,ライプニッツ係数につき,最高裁昭和53年10月20日第二小法廷判決,昭和56年10月8日第一小法廷判決)ことから,従前,交通専門部のある東京地裁,大阪地裁,名古屋地裁において,東京地裁は,ライプニッツ係数,大阪地裁と名古屋地裁は,新ホフマン係数を採用する運用をしておりました。しかし,東京地裁,大阪地裁,名古屋地裁は,各地裁で運用が異なると,地域間格差が生じ被害者相互間の公平に反することから,平成11年11月22日,「交通事故による逸失利益の算定方法についての共同提言」(判例タイムズ1014号62頁)で,ライプニッツ係数を採用するのが妥当と考えるとの提言をしました。その理由として,ライプニッツ係数と新ホフマン係数のどちらを用いるべきかで顕著な差異が生じるのは,中間利息控除の期間が長期間にわたる場合であるが,その典型例というべき,幼児,生徒,学生等の若年者の場合,基礎年収の認定につき,初任給固定賃金ではなく比較的高額の全年齢平均賃金を広く用いていることとしていることとの均衡等を挙げております。どちらの方式が合理的かは一概に言えないところではありますが,上記の三庁共同提言以後,裁判実務では,一般に,ライプニッツ係数を採用する運用がなされております。被害者救済の必要性からはホフマン方式が妥当ですが,複利計算は社会実態に沿った方法でありやむを得ないと思われます。

B中間利息控除の基準時をいつとすべきか。
この点,民法709条等法律に特に明記されていませんので解釈になるのですが,大別して,症状固定時説,事故時説,紛争解決時説の3つの考え方があります。ただ,現在の裁判実務では,症状固定時説が定説となっているといってよい状況です。裁判実務では,症状固定時説が圧倒的に多いことから,ほとんどの判決が,特に理由を付することなく,症状固定時説を採用しております。この見解を採用すべきであると正面から判断した最高裁判決は,まだありませんが症状固定時説が妥当であると思います。その理由ですが,後遺障害が生じたことによる逸失利益は,前述のように症状固定時に具体的に発生・確定するものであり中間利息も,症状固定時を基準に控除することが理論的に一貫しているからです。次に,事故時説は,後遺障害が生じたことによる逸失利益も,加害者が,被害者にその損害(逸失利益)の支払いをした場合,不法行為時から支払時までの遅延損害金を支払う必要がある(遅延損害金の発生時期は,不法行為時である)と解されており(最高裁判昭和37年9月4日第三小法廷判決),症状固定時説を採用すると,事故時から症状固定時までの遅延損害金分を,結果的に,被害者が利殖する結果になることを主な理由として,中間利息も,不法行為時を基準に控除すべきと考ええます。

しかし,逸失利益等一切の損害の請求を事故時から認め遅延損害金を付しているのは,走る凶器,危険責任という交通事故の特質から被害者救済のために認められている理屈であり,中間利息の控除時期算定においては被害者に不利益に働きますので原則に戻り症状固定時とするのが妥当であり理論的です。又,遅延損害金との対比の関係ですが,一般的に,事故から症状固定までそれほど長期間にならないことが多く決定的不公平とはいえないと思います。最後に,紛争解決時説は,そもそも,中間利息を控除する根拠が被害者の利殖可能性にある以上,現に賠償金を受領する前の損害については利殖可能性がないので,中間利息を控除すべきではなく,中間利息は,紛争解決時(具体的には,裁判の口頭弁論終結時)を基準に控除すべきと考える見解です。しかし,症状固定時から計算上逸失利益による損害を填補され遅延利息を付けて賠償請求できる以上,解決時説は被害者をあまりに有利にするものであり理論的にもとりえないと考えます。さらに紛争解決時説は,口頭弁論終結時に損害を計算し直すこととなり,効率的処理の観点から非効率的です。そして,本件で,例えば,あなたが,症状固定時に50歳であった場合,「就労可能年齢に達する年齢(67歳−50歳=17歳)に対応する中間利息控除係数(年5分の割合によるライプニッツ係数)」は,11.2741とされております。

4.以上より,本件で,例えば,事故前のあなたの年収が400万円で,あなたの後遺障害等級が14級で,あなたが症状固定時に50歳であった場合,逸失利益は,「400万円×0.05×11.2741=225万4820円」認められる可能性があります。

5.より詳しく相談したい場合には,交通事故に詳しい弁護士に相談することをお勧めいたします。

≪条文参照≫

民法404条
「利息を生ずべき債権について別段の意思表示がないときは,その利率は,年5分とする。」
民法709条
「故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は,これによって生じた損害を賠償する責任を負う。」

高年齢者等の雇用の安定等に関する法律
第一章 総則
(目的)
第一条  この法律は,定年の引上げ,継続雇用制度の導入等による高年齢者の安定した雇用の確保の促進,高年齢者等の再就職の促進,定年退職者その他の高年齢退職者に対する就業の機会の確保等の措置を総合的に講じ,もつて高年齢者等の職業の安定その他福祉の増進を図るとともに,経済及び社会の発展に寄与することを目的とする。
(定義)
第二条  この法律において「高年齢者」とは,厚生労働省令で定める年齢以上の者をいう。
2  この法律において「高年齢者等」とは,高年齢者及び次に掲げる者で高年齢者に該当しないものをいう。
一  中高年齢者(厚生労働省令で定める年齢以上の者をいう。次項において同じ。)である求職者(次号に掲げる者を除く。)
二  中高年齢失業者等(厚生労働省令で定める範囲の年齢の失業者その他就職が特に困難な厚生労働省令で定める失業者をいう。第三章第三節において同じ。)3  この法律において「特定地域」とは,中高年齢者である失業者が就職することが著しく困難である地域として厚生労働大臣が指定する地域をいう。
(基本的理念)
第三条  高年齢者等は,その職業生活の全期間を通じて,その意欲及び能力に応じ,雇用の機会その他の多様な就業の機会が確保され,職業生活の充実が図られるように配慮されるものとする。
2  労働者は,高齢期における職業生活の充実のため,自ら進んで,高齢期における職業生活の設計を行い,その設計に基づき,その能力の開発及び向上並びにその健康の保持及び増進に努めるものとする。
(事業主の責務)
第四条  事業主は,その雇用する高年齢者について職業能力の開発及び向上並びに作業施設の改善その他の諸条件の整備を行い,並びにその雇用する高年齢者等について再就職の援助等を行うことにより,その意欲及び能力に応じてその者のための雇用の機会の確保等が図られるよう努めるものとする。
2  事業主は,その雇用する労働者が高齢期においてその意欲及び能力に応じて就業することにより職業生活の充実を図ることができるようにするため,その高齢期における職業生活の設計について必要な援助を行うよう努めるものとする。
第二章 定年の引上げ,継続雇用制度の導入等による高年齢者の安定した雇用の確保の促進
(定年を定める場合の年齢)
第八条  事業主がその雇用する労働者の定年(以下単に「定年」という。)の定めをする場合には,当該定年は,六十歳を下回ることができない。ただし,当該事業主が雇用する労働者のうち,高年齢者が従事することが困難であると認められる業務として厚生労働省令で定める業務に従事している労働者については,この限りでない。
(高年齢者雇用確保措置)
第九条  定年(六十五歳未満のものに限る。以下この条において同じ。)の定めをしている事業主は,その雇用する高年齢者の六十五歳までの安定した雇用を確保するため,次の各号に掲げる措置(以下「高年齢者雇用確保措置」という。)のいずれかを講じなければならない。
一  当該定年の引上げ
二  継続雇用制度(現に雇用している高年齢者が希望するときは,当該高年齢者をその定年後も引き続いて雇用する制度をいう。以下同じ。)の導入
三  当該定年の定めの廃止

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