新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.810、2008/11/10 14:35 https://www.shinginza.com/qa-fudousan.htm

【民事・建築基準法とみなし道路・2項道路】

質問:このたび,自宅を建て替えようとしているのですが,新しい建物は,現在の建物が面している通路から20センチメートル後退させなければならないことがわかりました。この通路とは,自宅の敷地の一部であり,私の所有地です。父か祖父の代から,好意で近隣の人々の通行を認めてきたものですが,突然このような制限を受けるのはなぜですか。

回答:
1.問題の通路は,私道ではありますが,建築基準法42条2項のみなし道路に指定されていることがうかがえます。みなし道路となると,実際の通路幅より広い位置にみなし境界線ができるため,新しく建物を建てる際にはそのみなし境界線の外側まで建物を後退(セットバック)させなければならないのです。
2.事例集bU99号の参照もお願いします。

解説:
1.私道とは
私人が築造・維持・管理する道路を私道といいます。ここでいう道路は事実的な概念で,広く,交通の用に供される道のことと理解して結構です。客観的に道としての形態をなし,事実上人が通行に利用していれば,事実的な意味での道路といえます。築造・維持・管理するとは,必ずしも開設工事を行ったり点検や補修を行ったりすることを指すのではなく,「その場所を道路としておく」という程度の状態です。私人の所有地に道路が存在している場合,国や公共団体との契約に基づいて供用しているのでないかぎり,私人による築造・維持・管理がなされているといえます。本件の通路も,交通の用に供される道であり,私人により築造・維持・管理されているので,私道にあたります。

2.みなし道路とは
みなし道路とは,建築基準法(以下,建基法)上の「道路」の一種です。建基法による「道路」の概念は,同法による様々な規制と結びついた特別な意味を有するため,括弧で区別して説明します。建基法上の「道路」は,@道路法による道路(公道),A都市計画法,土地区画整理法,都市再開発法等による道路,B建基法施行当時に存在した道(既存道路),C道路法,都市計画法,土地区画整理法,都市再開発法等による新設又は変更の事業計画のある道路で,2年以内に事業執行予定のものとして特定行政庁が指定したもの(計画道路),D土地を建築物の敷地として使用するために築造する道で,これを築造しようとする者が特定行政庁からその位置指定を受けたもの(位置指定道路)のいずれかであって,幅員4メートル以上のものであることが原則です(建基法42条1項)。この幅員4メートルという基準は,建基法43条1項の接道義務(建築物の敷地は,このような「道路」に2メートル以上接しなければならないという義務)とあいまって,建物の通行や利用上の安全を確保するとともに,緊急時には避難,消化,救助活動に役立てることを目指して設けられたものです。しかし,建基法が施行された昭和25年当時には幅員が4メートルに満たない道路も相当数存在していました。それらの道路を建基法上の「道路」たりえないこととしてしまうと,建基法施行後に沿道の建物を建て替えようとしても,接道義務違反により建築確認が下りないため,建て替えられないことになってしまいます。このような結論は現実的でないため,幅員4メートル未満の道でも「道路」と扱う場合を認める一方,沿道の建物の建替えの際にはセットバックの義務を課すことで,将来的に幅員4メートルを確保できるようにしたのが「みなし道路」(建基法42条2項)の制度です(「2項道路」ともいいます。)。すなわち,@建基法施行の際,現に建物が立ち並んでいる幅員4メートル未満の道で,特定行政庁の指定したものは「道路」とみなされ(みなし道路),Aみなし道路については,原則として,中心線からの水平距離2メートルの線が道路の境界線とみなされます(みなし境界線)。

3.特定行政庁の指定について
特定行政庁とは,市区町村長または都道府県知事のことです(建築主事を置く市区町村については市区町村長,建築主事を置かない市町村の区域については都道府県知事。建基法2条32号)。みなし道路の指定の仕方の実際を見ると,多くの場合は規則や告示をもって包括的になされているようです。たとえば,東京都では,昭和30年7月30日告示第699号により,建基法施行の際に現に存在する幅員4メートル未満2.7メートル以上の道で,一般の交通の用に使用されており,道路の形態が整い,道路敷地が明確であるもの等をみなし道路に指定しています。このような包括的な指定がある場合,ある特定の道路がみなし道路となっているかどうかは,測量等により現況を調査して初めて判定されることが少なくありません。私道であっても,指定の際に所有者に対する通知等がなされるわけではないため,沿道の建物の建て替えの際に,確認申請をして初めてその道路がみなし道路となっていたことがわかるというケースも多いのです。

4.セットバックについて
みなし境界線の制度により,みなし道路に面して立ち並んでいる建物の多くは,道路境界線を越えて道路にはみ出している状態となります。建基法44条1項は,道路内に建物を建築することを禁じているため,この状態は同規定に適合しないことになります。しかし,この状態自体は違法ではなく,はみ出している建物の所有者がただちに取り壊しや移築の義務を負うというわけではありません。建基法施行時に現に存在する建物が一定の建基法の規定に適合しない場合,当該規定の適用は除外されるためです(建基法3条2項)。これに対し,はみ出している建物を建て替える際には,新たな建築物として建基法44条1項の適用があるため,みなし境界線にしたがい,みなし道路の外側に建物を建てなければなりません。このため,従来よりも建物を後退(セットバック)させる必要が生じるわけです。なお,建て直しではなく,増築,改築,大規模な修繕等の際にも,セットバックの義務が発生するため(建基法3条3項3号,4号),既存の建物に合わせてみなし道路にはみ出す形の増築等を行おうとしても,建築確認は下りないことになります。建物は一定年数が経過すれば建替えが行われるのが通常ですから,このみなし境界線の制度を通じて,将来的に幅員4メートルの道路が形成されるように工夫されているのです。

5.後退すべき距離について
みなし境界線は,原則として道路の中心線から水平距離2メートルの線ですから,たとえば幅員2.7メートルの道がみなし道路となった場合,2−2.7÷2=0.65メートルが後退すべき距離となります。ただし,みなし道路が中心線から2メートル未満でがけ地,川,線路敷地等に沿う場合には,そのがけ地等の境界線から4メートルの線がみなし境界線となるため(42条2項ただし書),たとえば幅員2.7メートルのみなし道路が一方でがけ地に接している場合,反対側の建物は4−2.7=1.3メートルの後退を余儀なくされることになります。ところで,当事務所で扱った事例において,過去のセットバックの状況を調査した際,幅員3.5メートルのみなし道路の両側に建物が立ち並んでいるという状況であったのに,一方のみが0.5メートルのセットバックをしているというものがありました。この状況について行政庁に問い合わせたところ,関係当事者の合意があったためであり,行政上も,セットバック後の両側から2メートルの線を中心線と扱っているとの回答でした。しかしながら,建基法の規定は建築確認の審査基準を定める公法規定であり,当事者の合意が優先する任意規定の性質を有するとは考えられません。問題の事例では,契約に基づく私法上の義務として余分にセットバックした結果,狭隘の状態が解消されているにすぎず,中心線はやはりかつての境界線から1.75メートルの距離にあると考えるべきです。反対側の建物のセットバック義務を免除するためには,行政庁はみなし道路の指定を取り消すべきであり,そうでない限り,反対側の建物もやはり0.25メートルのセットバック義務を免れないと考えるのが正しいように思います。

《参照規定》

建築基準法
2条32号 特定行政庁 建築主事を置く市町村の区域については当該市町村の長をいい,その他の市町村の区域については都道府県知事をいう。ただし,第97条の2第1項の市町村又は特別区の区域については,同条第4項の規定により当該市町村の長が行うこととなる事務又は第97条の3第3項の規定により特別区の長が行うこととなる事務に関する限り,当該市町村又は特別区の長をもって特定行政庁とみなし,当該市町村又は特別区の長が行わないこととされる事務については,都道府県知事を特定行政庁とみなす。
3条2項 この法律又はこれに基づく命令若しくは条例の規定の施行又は適用の際現に存する建築物若しくはその敷地又は現に建築,修繕若しくは模様替の工事中の建築物若しくはその敷地がこれらの規定に適合せず,又はこれらの規定に適合しない部分を有する場合においては,当該建築物,建築物の敷地又は建築物若しくはその敷地の部分に対しては,当該規定は,適用しない。
3項 前項の規定は,次の各号のいずれかに該当する建築物,建築物の敷地又は建築物若しくはその敷地の部分に対しては,適用しない。
3号 工事の着手がこの法律又はこれに基づく命令若しくは条例の規定の施行又は適用の後である増築,改築,大規模の修繕又は大規模の模様替に係る建築物又はその敷地4号 前号に該当する建築部又はその敷地の部分
42条1項 この章の規定において「道路」とは,次の各号の一に該当する幅員4メートル(特定行政庁がその地方の気候若しくは風土の特殊性又は土地の状況により必要と認めて都道府県都市計画審議会の議を経て指定する区域内においては,6メートル。次項及び第3項において同じ。)以上のもの(地下におけるものを除く。)をいう。
1号 道路法(昭和27年法律第180号)による道路
2号 都市計画法,土地区画整理法(昭和29年法律第119号),旧住宅地造成事業に関する法律(昭和39年法律第160号),都市再開発法(昭和44年法律第38号),新都市基盤整備法(昭和47年法律第86号),大都市地域における住宅及び住宅地の供給の促進に関する特別措置法(昭和50年法律第67号)又は密集市街地整備法(第6章に限る。以下この項において同じ。)による道路
3号 この章の規定が適用されるに至った際現に存在する道
4号 道路法,都市計画法,土地区画整理法,都市再開発法,新都市基盤整備法,大都市地域における住宅及び住宅地の供給の促進に関する特別措置法又は密集市街地整備法による新設又は変更の事業計画のある道路で,2年以内にその事業が執行される予定のものとして特定行政庁が指定したもの
5号 土地を建築物の敷地として利用するため,道路法,都市計画法,土地区画整理法,都市再開発法,新都市基盤整備法,大都市地域における住宅及び住宅地の供給の促進に関する特別措置法又は密集市街地整備法によらないで築造する政令で定める基準に適合する道で,これを築造しようとする者が特定行政庁からその位置の指定を受けたもの2項 この章の規定が適用されるに至った際現に建築物が建ち並んでいる幅員4メートル未満の道で,特定行政庁の指定したものは,前項の規定にかかわらず,同項の道路とみなし,その中心線からの水平距離2メートル(前項の規定により指定された区域内においては,3メートル(特定行政庁が周囲の状況により避難及び通行の安全上支障がないと認める場合は,2メートル)。以下この項及び次項において同じ。)の線をその道路の境界線とみなす。ただし,当該道がその中心線からの水平距離2メートル未満でがけ地,川,線路敷地その他これらに類するものに沿う場合においては,当該がけ地等の道の側の境界線及びその境界線から道の側に水平距離4メートルの線をその道路の境界線とみなす。
43条1項 建築物の敷地は,道路(次に掲げるものを除く。第44条第1項を除き,以下同じ。)に2メートル以上接しなければならない。(後略)
44条1項 建築物又は敷地を造成するための擁壁は,道路内に,又は道路に突き出して建築し,又は築造してはならない。(後略)

「建築基準法第42条第2項の規定に基づく道路の指定」(東京都昭和30年7月30日告示第699号)
昭和25年11月東京都告示第957号(建築基準法(昭和25年法律第201号)第42条第2項の規定に基づく道路の指定)の全部を次のように改正する。
1 建築基準法第3章の規定が適用されるに至った際(以下「基準時」という。)現に存在する幅員4メートル未満2.7メートル以上の道で,一般の交通の用に使用されており,道路の形態が整い,道路敷地が明確であるもの。
2 旧市街地建築物法(大正8年法律第37号)の規定により,昭和5年1月1日以降指定された建築線(非常用建築線を除く。)間の道の幅員が4メートル未満1.8メートル以上のもの。
3 基準時において,現に存在する幅員4メートル未満1.8メートル以上の道で,一般の交通の用に使用されており,その中心線が明確であり,基準時に,その道のみに接する建築敷地があるもの。ただし,その道の延長が35メートル以上の袋地上の道で,避難または通行の安全上,その道の周囲の土地の状況等により,終端付近に通り抜け道路の位置指定・自動車回転広場・非常用通路等いずれかの設置を必要と認める状態にある場合で,別に指定した部分を除く。
4 前号ただし書にいう道の部分で,当該ただし書に規定する必要と認める処置を完了したものは,この告示により指定した道路とみなす。

道路法
(この法律の目的)
第一条  この法律は、道路網の整備を図るため、道路に関して、路線の指定及び認定、管理、構造、保全、費用の負担区分等に関する事項を定め、もつて交通の発達に寄与し、公共の福祉を増進することを目的とする。
(用語の定義)
第二条  この法律において「道路」とは、一般交通の用に供する道で次条各号に掲げるものをいい、トンネル、橋、渡船施設、道路用エレベーター等道路と一体となつてその効用を全うする施設又は工作物及び道路の附属物で当該道路に附属して設けられているものを含むものとする。
(道路の種類)
第三条  道路の種類は、左に掲げるものとする。
一  高速自動車国道
二  一般国道
三  都道府県道
四  市町村道
(高速自動車国道)
第三条の二  高速自動車国道については、この法律に定めるもののほか、別に法律で定める。

法律相談事例集データベースのページに戻る

法律相談ページに戻る(電話03−3248−5791で簡単な無料法律相談を受付しております)

トップページに戻る