新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.808、2015/4/17 15:17 https://www.shinginza.com/qa-souzoku.htm

【相続・預貯金と遺産分割・定額郵便貯金・遺産共有の性質、最高裁平成22年10月8日判決】

定額貯金の遺産相続問題

質問:
この間,父が亡くなりました。相続人は私を含めた兄弟4名で,相続財産は定額郵便貯金3口です。遺産分割協議をしているのですが,兄弟のうちの1人が,「預貯金は,相続分で当然に分割されるので,遺産分割の対象にはならない」と言いだしました。これは本当でしょうか。そうだとしたら,分割協議が無駄になってしまうのですか。なお,郵政民営化後のゆうちょ銀行の扱っている定額郵便貯金ではなく,民営化以前の日本郵政公社の扱っていた定額郵便貯金です。



回答:

1.預貯金等の金銭債権は,原則として分割債権とされ当然に相続人各自に相続分の割合で帰属する(民法896条,898条,899条)というのはその方の言うとおりです。しかしながら,金銭債権も相続財産に含まれて,分割協議の対象になりますから(民法906条),共同相続人間に金銭債権を遺産分割の対象とする合意が認められるのであれば,これを分割協議の対象にする取り扱いをしています。
 このような扱いを前提に,金融機関は事実上分割債権であることを否定して遺産分割協議書または共同相続人全員の捺印した同意書がなければ払い戻しに応じていません。この点については法理論的に間違った対応になっていますので,各相続人は遺産分割の対象としないで自分の持ち分のみを主張し遺産を受け取ることが可能です(事例集bV82号を参照してください)。

2.もっとも,問題となっている相続財産が定額郵便貯金とのことで,これは普通預金と異なり法律上10年間は分割払戻しができないとされていますから,金銭債権ではあるものの分割債権として扱われず,通常の相続財産と同様に扱われ、遺産分割協議がない以上は相続人全員で行使する必要があります(最高裁平成22年10月8日判決)。したがって,結論としては,定額郵便貯金を引き出すためには10年の経過に自分の相続分だけひきだすか又は分割協議を経て預金を取得する必要があります。

 なお,郵政民営化後のゆうちょ銀行における定額貯金については,これが共同相続により分割されるか否かにつき最高裁判決は出ておらず未だ議論が固まっておりません。但し、ゆうちょ銀行における定額貯金も一口未満の解約は認めていませんので結論としては同様になると考えられます。

3 関連事例集782参照


解説:

1.金銭債権の相続及び金銭債権の例外的取扱い。

(1)(遺産である金銭債権は共有債権でなく分割債権かどうかという点)

ア 遺産は「相続人が数人あるときは,相続財産は,その共有に属する。」(民法898条)と規定してあり,金銭債権も共有(準共有,民法264条)であれば共有理論(純粋な共有か特殊な共有すなわち合有か争いはあります)の一般原則から権利の行使すなわち現金化等は管理,処分行為ですから他の共有者の同意が必要ということになります(民法251条,252条)。しかし,金銭債権は,被相続人の死亡により相続が開始すると(民法896条),原則として,当然に共有関係は解消され分割されたことになり,各人に各相続分に応じて平等に帰属します。なぜなら,金銭債権は通常その性質上数量的に計算が可能であり可分債権になりますので,相続開始により各相続人がそれぞれ相続分に応じた債権者となり,「それぞれひとしい割合で権利を有する」ためです(民法427条。可分債権)。

 これは898条の共有という文言に反するように見えますが,本条が共有とした理由は,遺産については不動産,動産のように当然,数量的に分割できない遺産が多く予想されますし,遺産の分割は,各相続人の事情を考慮し経済的に有効に分割するのが適切公平な分配となるので特に共有と規定し共有関係解消についても遺産分割(法906条,原則は法258条です。単なる協議が予定されており通常の分割の訴えを起こせます。遺産分割は家事審判事項です。)という特別な手続きを定めています。しかし,金銭債権は計算上簡単に分割が可能であり,分割しても経済的に不都合はありませんので共有関係にしておく必要がありません。又後述のように分割債権としても分割協議の対象にできるので,公正な分割という点からも不都合はありません。それに私有財産制のもとではなるべく経済的効用から制限のない完全独立の権利関係を認めるのが基本ですから,共有関係は単独権利関係にすると不都合を生じる場合に限定的に認められるべきだからです。従って,相続された金銭債権を、当然に分割される可分債権と解釈しても898条の趣旨に反しません。

イ 判例を参照します。

@ 最高裁昭和29年4月8日判決,同平成16年4月20日判決も,金銭債権につき共同相続による分割を認めます。

 他方で,最高裁平成4年4月10日判決,同平成10年6月30日判決では,相続人間の分割金銭債権による請求については分割協議が終わるまで請求を認めていませんので,理論的整合性が問題となっています。もっとも,相続人間での金銭債権の行使の場合,家族の平和,公正な分割という点から遺産分割協議による話し合いで債権の行使についても処理するのが妥当で、相続人が金融機関等一般第三者に対する債権行使をする場合と異なる判断をしたもので,むしろ例外と考えるべきでしょう。相続人間と金融機関等の第三者に対する関係を分けて考えたもので結果的に遺産の性質,分割の趣旨に合致した判断になっています。

A 平成4年の最高裁判決内容です。「上告代理人・・・の上告理由について 相続人は,遺産の分割までの間は,相続開始時に存した金銭を相続財産として保管している他の相続人に対して,自己の相続分に相当する金銭の支払を求めることはできないと解するのが相当である。上告人らは,上告人ら及び被上告人がいずれも亡Aの相続人であるとして,その遺産分割前に,相続開始時にあった相続財産たる金銭を相続財産として保管中の被上告人に対し,右金銭のうち自己の相続分に相当する金銭の支払を求めているところ,上告人らの本訴請求を失当であるとした原審の判断は正当であって,その過程に所論の違法はない。論旨は採用することができない。」

B 平成10年の最高裁判決内容です。「預金債権その他の金銭債権は,相続開始とともに法律上当然に分割され,各相続人がその相続分に応じて権利を承継するものと解される(最高裁昭和・・・29年4月8日第一小法廷判決・・・参照)。これに対し,金銭は,相続開始と同時に当然に分割されるものではなく,相続人は,遺産分割までの間は,相続開始時に存した金銭を相続財産として保管している他の相続人に対して,自己の相続分に相当する金銭の支払を求めることはできないものと解される(最高裁平成・・・4年4月10日第二小法廷判決・・・参照)」

(2)遺産に含まれる金銭債権は遺産分割の対象となるか

 次に分割債権であるとしても,遺産分割の対象になるかという問題があり
ます。906条は「遺産の分割は,遺産に属する物又は権利の種類及び性質,各相続人の年齢,職業,心身の状態及び生活の状況その他一切の事情を考慮してこれをする。」として遺産のうち金銭債権を除外していませんが,分割債権である以上共同相続により相続分に応じて当然に分割されるのであれば、遺産分割協議の対象にはならないのではないか、という疑問が生じるからです。

 結論から言いますと,金銭債権は分割債権でも遺産の一部であり遺産分割の対象となります。

 理由を申し上げます。遺産分割協議がどうして必要かといえば前述のように遺産の適正公平な分配にあります。相続財産の形成は相続人の有形無形の財産的,精神的寄与により生じ,遺産により生活している相続人,そうでない相続人の事情を考慮して分割するのが残された家族間の平和,相続人の推定的意思に合致し公正で経済的にも柔軟な分配ができるからです。そのためには金銭債権も対象として相続人の事情にあった分割を可能にする必要があります。

 具体的に言えば,金銭債権についても分割協議の対象となることを認めないと,不動産と預金債権しか相続財産がない場合に,不動産をだれか一人に相続させる分の調整として金銭債権を残りの相続人に相続させる,といった柔軟な分割協議が阻害されてしまうでしょう。又,遺産分割の本質,実態は,各相続人の相続による共有持分権,分割債権の譲渡,交換です。相続は死亡により開始しますから(民法896条),理論的には被相続人は権利を失い,相続人は相続開始時に完全な所有権を有するのです。従って,各相続人は所有権絶対自由の原則により自らの各持分権は自由に処分することができるのです。相続人が互いの意見を協議,主張し相続人間の公正な遺産分割を達成するために自らの権利を譲渡,交換するのが遺産分割の本質実態です。唯,財産法の共有と同じように分割協議の時さらに権利移転があるとすると種々の財産がある遺産については法律関係が複雑,紛糾するのでこれを避け法896条との統一性を保持するため(また,遡及効により各相続人の勝手な処分を許さない趣旨もありますが909条但し書きによりその意味は失われています),遡及効を認めているにすぎません(民法909条)。従って,共有持分権でも,分割債権でも自由に話し合い譲渡,交換ができるのです。これが遺産分割協議です。以上から各相続人の持ち分の変更には,権利変動を伴う各相続人の同意が勿論必要になります。実務上の運用においても,共同相続人全員が遺産分割の対象とすることを合意している場合には金銭債権も分割の対象となるとされています(東京高裁平成7年12月21日判決,福岡高裁平成8年8月20日決定など)。遺産である金銭債権は,以上のように各人が分割債権として権利を有し,行使することもできるが,他の相続人と話し合い遺産分割協議の対象とすることもできるわけです。

(3)相続人全員の印鑑証明書付き遺産分割協議書を要求する銀行実務

 次に,普通預金が分割債権であっても遺産分割の対象であるということで,銀行実務では,共有関係,遺産分割の対象財産であるという点を重視して,利害関係人である他の相続人全員の同意書及び印鑑証明書の提出,預金債権に関する遺産分割協議書がなければ,払い戻しに応じていません。また,郵便貯金に関しても,相続人が複数いる場合には同意書がなければ払い戻しに応じないこととなっています。

 しかし,この取り扱いは間違っています。事例集bV82号参照。分割債権である以上各相続人の権利行使を妨げることはできません。金融機関の理由は,分割債権の行使に応じると,後に行われる遺産分割により権利行使(払い戻し)された債権について(分割協議により)権利を取得した(また取得しようとしている)他の相続人の異議申し立てにより遺産分割の紛争に巻き込まれることを避けることにあります。しかしこの理由は,金融機関自らがした弁済の正当性を異議申し立てをしてくる相続人に主張しないで,金融機関の不都合を事実上他の各相続人に押し付けようとするもので認めることはできません。
 
2.定額郵便貯金の特殊性による金銭債権の行使に対する影響

(1) ただ,今回は対象が定額郵便貯金とのことで,通常郵便貯金と同じように扱ってよいか,が問題となります。というのも,定額郵便貯金は,郵便貯金法7条1項3号(郵便貯金法は郵政民営化に伴い平成19年10月1日に廃止されておりますが,郵政民営化法等の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律附則第5条第1項の規定によりなおその効力を有するものとされる同法第2条により)により,預入日から10年経過して通常郵便貯金になるまでは分割払い戻しができないという制限がなされているため,可分債権である銀行普通預金や通常郵便貯金とは異なる扱いがされているからです。

(2) この点,最高裁平成22年10月8日判決は,共同相続された定額郵便貯金債権について,「郵便貯金・・・法は同債権の分割を許容するものではなく,同債権は,その預金者が死亡したからといって,相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはないものというべきである」とします。

 そして,その理由につき同判決は,「郵便貯金法は,定額郵便貯金につき,一定の据置期間を定め,分割払戻しをしないとの条件で一定の金額を一時に預入するものと定め(7条1項3号),預入金額も一定の金額に限定している(同条2項,郵便貯金規則83条の11)。同法が定額郵便貯金を上記のような制限の下に預け入れられる貯金として定める趣旨は,多数の預金者を対象とした大量の事務処理を迅速かつ画一的に処理する必要上,預入金額を一定額に限定し,貯金の管理を容易にして,定額郵便貯金に係る事務の定型化,簡素化を図ることにある。ところが,定額郵便貯金債権が相続により分割されると解すると,それに応じた利子を含めた債権額の計算が必要になる事態を生じかねず,定額郵便貯金に係る事務の定型化,簡素化を図るという趣旨に反する。他方,同債権が相続により分割されると解したとしても,同債権には上記条件が付されている以上,共同相続人は共同して全額の払戻しを求めざるを得ず,単独でこれを行使する余地はないのであるから,そのように解する意義は乏しい。」と述べます。

(3) 上記最高裁判決は,定額郵便貯金債権が共同相続によっても分割されないとの立場です。

 他方で,上記最高裁判決の原審である福岡高裁宮崎支部平成20年12月24日判決は,「定額郵便貯金の貯金者が死亡した場合に,その共同相続人が定額郵便貯金債権をその法定相続分に応じて承継取得しても,そのうちの一人がする法定相続分に応じた払戻請求は許されないと解するのが相当である。」とします(福岡高裁平成17年12月28日決定も同旨)。同判決は,法定相続分に応じた払戻請求は否定するものの,定額郵便貯金債権が共同相続により分割されるとの立場を前提とする(「共同相続人が定額郵便貯金債権をその法定相続分に応じて承継取得しても」)点で,上記最高裁判決とは異なります。

(4) なお,郵政民営化後のゆうちょ銀行における定額貯金も,共同相続によっても分割されないのでしょうか。定額貯金においては,口数単位での払戻しはできますが,1口の預入金額を分割して払い戻すことはできません(1口の預入金額は1000円,5000円,1万円,5万円,10万円,50万円,100万円または300万円の8種類があります。)。

 この点,最高裁平成26年2月25日判決は「法令上,一定額をもって権利の単位が定められ,1単位未満での権利行使が予定されていない」ことを根拠に個人向け国債が共同相続によっても分割されないとの立場に立つところ,同判決の根拠に鑑みると,ゆうちょ銀行における定額貯金も,共同相続によっても分割されないとの結論になるものと思料いたします。

(5) 本件の場合,旧郵便貯金法57条1項により,預入の日から10年経過するまでは通常貯金にはならない以上,遺産分割の対象となりますので,3口の定額郵便貯金の帰属について分割協議を行うことになろうかと思われます。

 以上により,今回のご相談では,郵政公社に対する定額郵便貯金が預入から10年を経過すれば各相続人は相続分に応じ権利行使が可能と考えられます。

【参考条文】
民法
(共有物の変更)
第251条 各共有者は,他の共有者の同意を得なければ,共有物に変更を加えることができない。
(共有物の管理)
第252条 共有物の管理に関する事項は,前条の場合を除き,各共有者の持分の価格に従い,その過半数で決する。ただし,保存行為は,各共有者がすることができる。
(裁判による共有物の分割)
第258条 共有物の分割について共有者間に協議が調わないときは,その分割を裁判所に請求することができる。
2  前項の場合において,共有物の現物を分割することができないとき,又は分割によってその価格を著しく減少させるおそれがあるときは,裁判所は,その競売を命ずることができる。
(準共有)
第264条 この節の規定は,数人で所有権以外の財産権を有する場合について準用する。ただし,法令に特別の定めがあるときは,この限りでない。
(分割債権及び分割債務)
第427条 数人の債権者又は債務者がある場合において,別段の意思表示がないときは,各債権者又は各債務者は,それぞれ等しい割合で権利を有し,又は義務を負う。
(相続の一般的効力)
第896条 相続人は,相続開始の時から,被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。ただし,被相続人の一身に専属したものは,この限りでない。
(遺産の分割の基準)
第906条 遺産の分割は,遺産に属する物又は権利の種類及び性質,各相続人の年齢,職業,心身の状態及び生活の状況その他一切の事情を考慮してこれをする。
郵便貯金法
(郵便貯金の種類)
第7条 郵便貯金は,次の6種とする。
3.定額郵便貯金
一定の据置期間を定め,分割払戻しをしない条件で一定の金額を一時に預入するもの
(10年が経過した定額郵便貯金)
第57条 定額郵便貯金は,預入の日から起算して10年が経過したときは,通常貯金となる。
2 前項の場合には,公社は,預金者の請求により,その定額郵便貯金の貯金証書と引換えに通常貯金の通帳を交付する。
3 前項の規定による通帳の交付の請求があつた場合において,預金者が他に通常貯金の通帳をもつて貯金の預入をしているときは,公社は,同項の規定にかかわらず,その貯金に定額郵便貯金であつた通常貯金を組み入れる。
4 第1項の場合には,公社は,その定額郵便貯金の貯金証書によつては,貯金の預入又は一部払戻しの取扱いをしない。
5 第1項の規定により通常貯金となつた貯金の全部払戻しで第2項の規定による通帳の交付の請求前のものについては,第37条の規定を適用せず,第55条の規定を準用する。
郵政民営化法等の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律
(法律の廃止)
第2条  次に掲げる法律は,廃止する。
一 郵便貯金法
附則
第5条 この法律の施行の際現に存する次に掲げる郵便貯金については,旧郵便貯金法(第1条,第3条,第4条,第17条,第51条の2第2項及び第3項(旧郵便貯金法第62条第2項及び第63条の3第2項において準用する場合を含む。),第52条第2項,第55条の2,第57条第2項及び第3項(旧郵便貯金法第58条第2項において準用する場合を含む。),第58条第1項ただし書,第69条,第70条第2項第1号,第74条並びに第76条を除く。)の規定は,なおその効力を有する。この場合において,次項に別段の定めがある場合を除き,旧郵便貯金法の規定中「日本郵政公社(以下「公社」という。)」とあり,「公社」とあり,及び「郵便局長」とあるのは「独立行政法人郵便貯金・簡易生命保険管理機構」と,「郵便局を」とあるのは「事務所(独立行政法人郵便貯金・簡易生命保険管理機構法(平成17年法律第101号)第15条第1項の規定による委託又は同条第4項(同条第5項において準用する場合を含む。)の規定による再委託を受けた者の事務所を含む。)を」と,「郵便局に」とあるのは「事務所(独立行政法人郵便貯金・簡易生命保険管理機構法第15条第1項の規定による委託又は同条第4項(同条第5項において準用する場合を含む。)の規定による再委託を受けた者の事務所を含む。)に」と,「支払人」とあるのは「支払場所」とする。
一 旧郵便貯金法第7条第1項第1号に規定する通常郵便貯金(次に掲げるものに限る。)
二 この法律の施行前に旧郵便貯金法第57条第1項の規定により通常貯金となったもの(この法律の施行前に同条第2項の規定による通帳の交付がされたもの及びこの法律の施行前に同条第3項の規定による組入れがされたものを除く。)

【参考判例】
最高裁平成22年10月8日判決
主文
1 原判決中,第1審判決別紙財産目録記載2の〈10〉及び〈11〉の定額郵便貯金に係る貯金債権がAの遺産に属することの確認を求める部分につき,本件上告を棄却する。
2 その余の本件上告を却下する。
3 上告費用はY1の負担とする。
理由
Y1の代理人・・・の上告受理申立て理由について
1 本件は,Xらが,Yらに対し,第1審判決別紙財産目録記載2の〈10〉及び〈11〉の定額郵便貯金に係る貯金債権(以下「本件債権」という。)等がAの遺産に属することの確認を求める訴えを提起した事案である。
2 記録によって認められる事実関係の概要等は,次のとおりである。
(1) 上記定額郵便貯金の名義人であるAは,平成15年3月31日に死亡した。
(2) Xら及びYらは,Aの子である。
(3) Yらは,本件債権がAの遺産であることを争っている。
3 所論は,定額郵便貯金債権は,相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されて各共同相続人の分割単独債権となり,遺産分割の対象とならない以上,定額郵便貯金債権が現に被相続人の遺産に属することの確認を求める訴えについては,その確認の利益は認められないはずであるのに,これを認めた原審の判断には,法令解釈の誤りがあるというのである。
4(1) 郵便貯金法は,定額郵便貯金につき,一定の据置期間を定め,分割払戻しをしないとの条件で一定の金額を一時に預入するものと定め(7条1項3号),預入金額も一定の金額に限定している(同条2項,郵便貯金規則83条の11)。同法が定額郵便貯金を上記のような制限の下に預け入れられる貯金として定める趣旨は,多数の預金者を対象とした大量の事務処理を迅速かつ画一的に処理する必要上,預入金額を一定額に限定し,貯金の管理を容易にして,定額郵便貯金に係る事務の定型化,簡素化を図ることにある。ところが,定額郵便貯金債権が相続により分割されると解すると,それに応じた利子を含めた債権額の計算が必要になる事態を生じかねず,定額郵便貯金に係る事務の定型化,簡素化を図るという趣旨に反する。他方,同債権が相続により分割されると解したとしても,同債権には上記条件が付されている以上,共同相続人は共同して全額の払戻しを求めざるを得ず,単独でこれを行使する余地はないのであるから,そのように解する意義は乏しい。これらの点にかんがみれば,同法は同債権の分割を許容するものではなく,同債権は,その預金者が死亡したからといって,相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはないものというべきである。そうであれば,同債権の最終的な帰属は,遺産分割の手続において決せられるべきことになるのであるから,遺産分割の前提問題として,民事訴訟の手続において,同債権が遺産に属するか否かを決する必要性も認められるというべきである。
そうすると,共同相続人間において,定額郵便貯金債権が現に被相続人の遺産に属することの確認を求める訴えについては,その帰属に争いがある限り,確認の利益があるというべきである。
(2) 前記事実関係によれば,本件訴えのうち,本件債権がAの遺産に属することの確認を求める部分については確認の利益があるというべきである。同部分につき確認の利益を認めた原審の判断は,結論において是認することができる。所論引用の判例(最高裁昭和・・・29年4月8日第一小法廷判決・・・)は,本件に適切でない。論旨は採用することができない。
なお,Y1は,第1審判決別紙財産目録記載1の各不動産がAの遺産に属することの確認を求める部分についても上告受理の申立てをしたが,その理由を記載した書面を提出しないから,同部分に関する上告は却下することとする。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。なお,裁判官古田佑紀,同千葉勝美の各補足意見がある。
(古田裁判官の補足意見)
私は,定額郵便貯金債権について,以下のように考えるので,補足的に意見を述べておきたい。
定額郵便貯金は,分割払戻しをしないことが法律上条件とされている貯金であり,分割払戻しをしないことは,定額郵便貯金契約の内容,あるいはその前提をなすものであるから,定額郵便貯金債権は,貯金契約において,分割行使をすることができず,全体として1個のものとして扱われることとされている債権であるというべきである。相続は,その対象となる権利につき,その性質,内容をそのまま承継するものであるのが原則であり,上記貯金債権について,相続が生じたことによって,全体が1個のものとして扱われるという性質が失われると解すべき理由はないと考える。
(千葉裁判官の補足意見)
私は,法廷意見が,郵便貯金法は定額郵便貯金債権の分割を許容するものではなく,同債権は,その預金者が死亡したからといって,相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはないとしている点について,次のとおり意見を補足しておきたい。
一般に,債権が複数の者に帰属する場合の法律関係は,準共有(民法264条)ということになるが,債権の共有的帰属については,民法の債権総則中の「第三節 多数当事者の債権及び債務 第一款 総則」では,分割債権関係を原則として規定している(民法427条)。したがって,仮に,定額郵便貯金債権が原則どおり分割債権であるとすると,相続により各相続人に分割承継されることになり,もはや遺産分割の対象にはならないことになる。
ところで,分割債権の属性としては,各債権者は,自己に分割された部分について,独立して履行請求ができるという点が基本的なものであり,そうすると,分割された債権ごとに,相殺,免除,更改等の対象となり,消滅時効の完成の有無も個々的に判断されるということになろう。そこで,定額郵便貯金債権にこのような属性を認めることができるかが問題となる。
この点について,法廷意見は,定額郵便貯金には,法令上,分割払戻しをしないという条件が付されているので,共同相続人が共同して全額の払戻しを求めるしかなく,各相続人が分割承継した部分があると解したとしてもそれを単独で行使する余地はないとしている。また,この趣旨からすると,各相続人は,分割承継した部分を自働債権として相殺をすることもできず,さらに,その消滅時効についても,据置期間経過後,預入の日から起算して10年が経過するまでは,各預金者がその部分についての権利行使が可能であったか否かという観点から考えることはできないことになろう。このように,定額郵便貯金債権は,法令上,預入の日から起算して10年が経過するまでは分割払戻しができないという条件が付された結果,分割債権としての基本的な属性を欠くに至ったというべきである。
以上によれば,定額郵便貯金債権は,分割債権として扱うことはできず,民法427条を適用する余地はない。そうすると,預金者が死亡した場合,共同相続人は定額郵便貯金債権を準共有する(それぞれ相続分に応じた持分を有する)ということになり,同債権は,共同相続人の全員の合意がなくとも,未だ分割されていないものとして遺産分割の対象となると考えるべきである。
なお,定額郵便貯金債権が遺産の重要な部分となっている事案は少なくないものと思われるが,遺産分割をするに当たって,これを対象とすることにより遺産分割の円滑な進行が図られることにもなろう。


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