新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.803、2008/10/27 16:25 https://www.shinginza.com/qa-hanzai.htm

【刑事・児童ポルノ法・所持,製造自体が犯罪になるか・思想良心の自由】

(質問)私は,出会い系サイトで知り合った15歳の少女とメールのやり取りをしています。彼女は,自ら撮影した自分の裸の写真画像をメールに添付して送信してくるのですが,私は,自分だけが見る目的で,その写真画像を私の携帯電話に保存しています。このようなことは,何か犯罪に当たるのでしょうか。

(回答)
1.あなたが少女に対し写真の送信を強要したなどの事情がない限り,犯罪(児童買春ポルノ法)には当たりません。もっとも,現在,法改正の動きがあり,近い将来,犯罪となる可能性はあります。
2.ただ,犯罪にならないとしても,成人として,また将来人の親となるものとして,人間としてこの様な行為は道徳的に,人道的に許されません。直ちに破棄しおやめください。
3.尚,児童買春ポルノ法については,事例集bU86,639,503,408,256,201,185号も参考にしてください。

(解説)
児童ポルノの所持,製造の問題点についてご説明します。まずどうしてこのような法律があるのかという点です。端的に言うと児童の人権,個人の尊厳を実質的に保障し公正な社会道徳秩序を維持するためです(憲法13条,児童ポルノ法第1条)。「ポルノ」の所持,製造については刑法175条で規定されており,勿論児童ポルノもその対象になります。しかし,「ポルノ」を所持しただけでは処罰されません。処罰されるのは「販売の目的」を持っていなければなりませんし,少なくとも配布,陳列等の外部的行為が必要なので単純に製造しただけでは処罰の対象になっていません。どうして刑法は処罰の対象を限定的に規定しているかというと,その根本は思想良心の自由の大原則があるからです(憲法19条)。自由主義,民主主義国家では,国家ができる前から人間は本来自由な存在であり思想良心の自由は生れながらに人間が有する生来的基本的自然権です。思想良心等精神的な内心の自由なくして個人の尊厳は保障(憲法13条)できませんから,たとえいかなる(不法な)思想,考え方をもってもそれだけでは非難,処罰されませんし,これを規制することは絶対にできません。思想良心の自由は,当然五感を使い見る聞く自由をその内容としますのでいかなる本,写真,物等を見る自由も内包しています。そのように解釈しなければ事実上内心の自由は保障されないからです。さらにそのような思想良心意見を外部に発表し,出版する自由も保障されています(憲法21条,表現の自由)。しかしこのような自由も,第三者の見る聞く自由を侵害できませんし,社会公共の利益,風俗,道徳を侵害することは許されません(憲法12条)。

そこで刑法は,社会公共,第三者の利益を侵害する可能性が大きい販売目的の所持,不特定多数に対する配布,販売,陳列行為に限り処罰の対象にしているのです(2年以下の懲役,250万円以下の罰金)。すなわち社会全体の適正な性的感情,性的風俗,公共の利益(社会的法益)を保護しています。しかし,児童ポルノは,処罰の対象をさらに拡大し,重罰(1.5倍,三年以下の懲役又は300万円以下の罰金)を科してしています。児童ポルノは,販売の目的がなくても第三者に提供,公然陳列の目的による所持でも処罰の対象になりますし,何らかの目的がなくても製造するだけで同じく処罰されます(配布,販売,陳列行為は不要です)。その理由は,社会全体の利益の保護のほか,児童自身の人間としての尊厳を保障するところにあります。児童は,将来公正な社会国家を建設,背負ってゆく家庭,国家の宝ですが,意思能力は不十分で精神的,肉体的に無防備,未発達であり,そのような境遇を奇貨として児童を性的対象にし,さらに営業行為の手段として利用して精神的肉体的侵害を行い児童の健全な成長発達が阻害される危険性が常に存在し,実際上性的興味,及び性的営業行為の対象にされてきました。そこで児童ポルノ法は児童の人間としての尊厳を実質的に保障し善良公正な社会秩序を維持するため(法の支配の理念),直接間接的に児童の人権を侵害する可能性がある(児童ポルノに関する)違法行為を広く禁止し重罰を科しているのです。所持の目的は広く解釈されますし,単なる製造も,刑法上許されても児童ポルノ法では許されません。従って,児童ポルノ法の解釈に当たっては,性的不利益を受けやすい児童の人権の保障を第一に考え,憲法の基本原則である思想良心の自由,表現,情報取得の自由という矛盾対立する利益の調整も常に必要となります。以上の視点から今後の法律で単なる所持を処罰の対象にするかどうか考えるべきです。以下説明します。

1.本件の場合に問題となるのは,少女の裸の写真画像が撮影・送信されてきて,これがあなたの携帯電話に保存されていることです。このことが,「児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律」(以下「児童買春・児童ポルノ法」といいます。)に違反するか否かが問題となるのです。

2.まず,児童買春・児童ポルノ法にいう「児童」とは,18歳未満の者をいいます(同法2条1項)。本件の場合,相手の少女は,15歳ということですから,「児童」に当たります。また,児童買春・児童ポルノ法にいう「児童ポルノ」とは,写真,電磁的記録に係る記録媒体その他の物であって,「児童を相手方とする又は児童による性交又は性交類似行為に係る児童の姿態」,「他人が児童の性器等を触る行為又は児童が他人の性器等を触る行為に係る児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するもの」,「衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するもの」を視覚により認識することができる方法により描写したものをいいます(同法2条3項)。本件の場合,少女の裸の写真画像は,電磁的記録に係る記録媒体であって,「衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するもの」を視覚により認識することができる方法により描写したものといえますから,「児童ポルノ」に該当します。

3.では,写真画像を携帯電話に保存していることは,児童買春・児童ポルノ法にいう「所持」に当たるのでしょうか。児童買春・児童ポルノ法は,「所持」を,他人に提供するなどの(単に「他人に提供する」だけにとどまらず,不特定多数の人に提供する場合や公然と陳列する場合は,より刑が重くなっています。同7条5項)目的での児童ポルノの所持に限定しており,単純な所持を排除しています(同法7条2項,5項)。本件の場合,写真画像を携帯電話に保存していることは,自分だけが見る目的でということですから,「所持」には当たりません。思想良心の自由の原則上,児童の人権,公共の利益を保護する必要性から一定の制限を加えているのです。もっとも,この点は,現在,法改正の動きがあるので,注意が必要です(後記5参照)。

4.さらに,写真画像が撮影・送信されてくることは,児童買春・児童ポルノ法にいう「製造」に当たるのでしょうか。児童買春・児童ポルノ法は,「製造」については,「所持」の場合のような目的による限定を加えていません(同法7条3項)。もっとも,写真画像を「製造した」というためには,「自己の意思どおりに撮影がなされた場合」に限られますが,自ら撮影した場合や共犯者に写真を撮らせた場合「製造」に当たることは当然のことです。では本件のように児童が自ら写真を撮った場合はどうでしょうか。あなたが何ら関与しないのに,少女が自らの判断で撮影した自分の裸の写真画像をメールに添付して送信してくるのであれば「製造」に当たらないといえます。そのような場合はあなたの意思どおりに撮影されたとはいえないからです。他方であなたが写真の撮影を児童に要求した場合は,製造に当たらないと言い切れるか疑問が出てきます。たとえ少女が実際に撮影したとしても「あなたの意思どおりに」撮影がなされたと認められる事情があれば,製造にあたることになるからです。たとえば,あなたが少女に対し撮影・送信を要求し,写真について具体的に指示したりしたというなどという事情がある場合は,具体的な事情によりますが,あなたの意思どおりに撮影がなされたと認められ「製造」に当たることになります。

5.児童ポルノの単純所持(他人に提供する等の目的がない)の罰則については,平成11年の児童買春・児童ポルノ法の制定時から検討課題でしたが,警察の権限強化やプライバシー侵害を懸念する声が強く,見送られてきました。しかし,現在,アメリカからの規制強化要求や児童の権利を擁護するという児童買春・児童ポルノ法の目的(同法1条)を達成するためには不十分であるとの声に押されて,与党に「児童ポルノ禁止法見直しプロジェクトチーム」ができるなど,罰則化の方向にあります。心配となるのが一方的に画像を送りつけられる場合ですが,上記プロジェクトチームでは,本人が意図せずにパソコンなどに画像が残る場合は罰則の適用対象外とすることが確認されています。

≪参考条文≫

憲法
第十九条  思想及び良心の自由は,これを侵してはならない。
第二十一条  集会,結社及び言論,出版その他一切の表現の自由は,これを保障する。
○2  検閲は,これをしてはならない。通信の秘密は,これを侵してはならない。

刑法
(わいせつ物頒布等)
第百七十五条  わいせつな文書,図画その他の物を頒布し,販売し,又は公然と陳列した者は,二年以下の懲役又は二百五十万円以下の罰金若しくは科料に処する。販売の目的でこれらの物を所持した者も,同様とする。

児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律
(目的)
第1条  この法律は,児童に対する性的搾取及び性的虐待が児童の権利を著しく侵害することの重大性にかんがみ,あわせて児童の権利の擁護に関する国際的動向を踏まえ,児童買春,児童ポルノに係る行為等を処罰するとともに,これらの行為等により心身に有害な影響を受けた児童の保護のための措置等を定めることにより,児童の権利を擁護することを目的とする。
(定義)
第2条 この法律において「児童」とは,18歳に満たない者をいう。
2 この法律において「児童買春」とは,次の各号に掲げる者に対し,対償を供与し,又はその供与の約束をして,当該児童に対し,性交等(性交若しくは性交類似行為をし,又は自己の性的好奇心を満たす目的で,児童の性器等(性器,肛門又は乳首をいう。以下同じ。)を触り,若しくは児童に自己の性器等を触らせることをいう。以下同じ。)をすることをいう。
一  児童
二  児童に対する性交等の周旋をした者
三  児童の保護者(親権を行う者,未成年後見人その他の者で,児童を現に監護するものをいう。以下同じ。)又は児童をその支配下に置いている者
3 この法律において「児童ポルノ」とは,写真,電磁的記録(電子的方式,磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって,電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。以下同じ。)に係る記録媒体その他の物であって,次の各号のいずれかに掲げる児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写したものをいう。
一 児童を相手方とする又は児童による性交又は性交類似行為に係る児童の姿態
二 他人が児童の性器等を触る行為又は児童が他人の性器等を触る行為に係る児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するもの
三 衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するもの
(児童ポルノ提供等)
第7条 児童ポルノを提供した者は,3年以下の懲役又は300万円以下の罰金に処する。電気通信回線を通じて第2条第3項各号のいずれかに掲げる児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写した情報を記録した電磁的記録その他の記録を提供した者も,同様とする。
2 前項に掲げる行為の目的で,児童ポルノを製造し,所持し,運搬し,本邦に輸入し,又は本邦から輸出した者も,同項と同様とする。同項に掲げる行為の目的で,同項の電磁的記録を保管した者も,同様とする。
3 前項に規定するもののほか,児童に第2条第3項各号のいずれかに掲げる姿態をとらせ,これを写真,電磁的記録に係る記録媒体その他の物に描写することにより,当該児童に係る児童ポルノを製造した者も,第1項と同様とする。
4 児童ポルノを不特定若しくは多数の者に提供し,又は公然と陳列した者は,5年以下の懲役若しくは500万円以下の罰金に処し,又はこれを併科する。電気通信回線を通じて第2条第3項各号のいずれかに掲げる児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写した情報を記録した電磁的記録その他の記録を不特定又は多数の者に提供した者も,同様とする。
5 前項に掲げる行為の目的で,児童ポルノを製造し,所持し,運搬し,本邦に輸入し,又は本邦から輸出した者も,同項と同様とする。同項に掲げる行為の目的で,同項の電磁的記録を保管した者も,同様とする。
6  第4項に掲げる行為の目的で,児童ポルノを外国に輸入し,又は外国から輸出した日本国民も,同項と同様とする。

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