新銀座法律事務所 法律相談事例集データベース
No.778、2008/3/27 13:30 https://www.shinginza.com/rikon/index.htm

【民事・渉外離婚・外国の判決の効力・外国に居住する外国人と結婚した日本人の離婚手続】

質問:私は,アメリカ人の夫と結婚していましたが,様々な事情から不仲になって別居し,私は日本に,彼はアメリカのニュージャージー州に居住しています。先日,彼がニュージャージーの裁判所に,私との離婚を求める裁判を提起し,日本にいる私に訴状が届きましたが,裁判に出席するためにアメリカまで行くことができず,結局,私が欠席のまま離婚の判決が出されました。私としては,もはや,離婚もやむを得ないと思っているのですが,アメリカの裁判所で出された離婚判決は,日本でも効力を持つのでしょうか。私が,日本で再婚するにはどうしたらいいでしょうか。

回答:
1.ニュージャージー州裁判所のアメリカにおける離婚判決は,民事訴訟法118条1項1号の要件が欠けるため,日本の離婚判決と同じ効力はありません。したがって,夫またはあなたが日本でも離婚の手続(離婚の届出)をしようとして,ニュージャージー州の離婚判決に基づき,日本で執行判決(民事執行法24条)を求めて訴えを提起しても棄却されます(文言条は却下と規定されていますが,解釈上棄却と解されています)。
2.あなたが日本で再婚するためには,夫が同意してくれなければ,日本の裁判所に離婚訴訟を提起し,外国の判決も資料として提出して離婚判決に基づき届け出て離婚することになります。
3.事務所事例集bV15号も参考にしてください。

解説:
1.外国人の夫が取得した本件のような外国判決の効力は,国家組織の異なる日本の裁判所の判決と同様に扱われるかどうかが問題になります。
(1)外国判決が日本国内においても効力を有するかという問題は,我が国の民事訴訟法118条が規定しており,同条の要件(1号ないし4号)を全て充たす場合には,日本国内においても効力を有することになります。なお,離婚判決については,かつては,外国離婚判決は同条の適用外であるという見解が有力でしたが,現在では,判例上も学説上も,118条を全面適用することでほぼ一致しています。なぜなら,後述するように日本における私的紛争を適正,公平,迅速,低廉に解決しようとする118条の制度趣旨を考えれば,離婚判決を除外する理由はないからです。

(2)118条の制度趣旨は,日本における私的紛争を適正,公平、迅速低廉に解決するためにあります(民事訴訟法2条)。本来であれば,外国の裁判所が判断を示した外国判決は,当該外国の領土内及び,判決に表示された人にしか及びませんから,日本の領土内の機関(裁判所等全ての機関),その他の人には及びません。したがって,同じ当事者でも,日本では同じ事件について再度日本の裁判所で争うことも出来るはずです。なぜなら,裁判権は,国家権力の三権のうち司法権を意味し,国家権力は,その独立国家が国民から委託されその国家の領土内(属地主義,但し,国籍を問わない)及び領土内にいる構成員である国民(属人主義)にしか及ばないからです。しかし,近代法治国家においては法の支配の理念による三権分立,司法権の独立,司法権の適正公平な行使手続は保障されており,たとえ民事紛争についての外国の判決であっても,内容において我が民事訴訟法が目的としている適性公平な判断がなされ,手続進行においても迅速,低廉な解決に値するものであれば,排斥する理由はどこにもありません。むしろ,二重手間を省き早期の紛争解決には有益であるとさえいえます。そこで,118条は,以上の我が民事訴訟法の目的,理念に合致する判決は日本の国内においても効力を有するものとして,日本の裁判所の判決と同様の効力を認めたのです。118条の4つの要件は以上の趣旨から解釈されなければなりません。但し,外国の判決が我が日本の民事訴訟法の理念に合致しているかどうかの判断は必要ですから,その要件は日本の裁判所で具体的に調査判断される事になり,執行力を付与するには日本の裁判所の判決(執行判決)が新たに必要です(民事執行法24条,離婚も同様に解釈されています。)。

(3)要件の具体的内容を検討してみます。

@同条1号 「法令又は条約により外国裁判所の裁判権が認められること。」 抽象的に規定してあり意味内容を解釈する必要がありますが,この条文の内容は,「事件及び当事者が,同様の状況のときに我が国の裁判所に管轄権(国際裁判管轄権が前提です)が認められることである」と判例通説は解釈しています。(「鏡像理論」といわれています)。その理由を説明します。先ず,「法令,条約」とは我が国の法令,条約を意味します。すなわち,我が国の法令,条約に基づく国際民事訴訟法理論によって,当該外国裁判所に,裁判管轄権(国際裁判管轄権を前提とします)が認められることを意味します。しかし,我が国において,そもそもかかる規定(「法令又は条約」)は現在存在しないので,その基準は我が国の法令体系上の解釈により決められることになります。本条の制度趣旨から言うと日本国内の私的紛争は,国民に裁判を受ける権利がある以上,原則的には日本の裁判手続により適正公平に解決されなければならないのですが,外国の判決でも日本で行えば同じ結果が予想される場合に例外的に効力を認めるものですし,国民の裁判を受ける権利(憲法32条)を侵害しないと評価できる場合でなければなりません。したがって,当該判決を下した外国が日本の民事訴訟理論より判断しても,当該事件について裁判権を有すると認められる必要があるのです。外国人との裁判である渉外事件であれば,外国の裁判所が国際裁判管轄権を日本の裁判理論により有しなければならないということになります。例えば,外国(判決国)に居住ないし一時滞在した配偶者の一方が日本に住所を有する他方を被告として提起した事件の外国離婚判決については,最大判昭和39年3月25日の法理(後述2)を適用し,被告の住所地は日本であり,しかも例外にあたる事情が認められないから,「同様の状況のときに我が国の裁判所に管轄権が認められない」場合にあたり,したがって,1号の要件を充たさず,これらの判決は日本においては効力を有しないとした複数の裁判例があります。分かりにくい例かもしれませんが,離婚の当事者の一方が外国人の場合,属地主義上,日本に住所居所がなければ裁判権が認められませんから当然の結論です。

A 同条2号 敗訴の被告か訴訟の開始に必要な呼出し若しくは命令の送達(公示送達その他これに類する送達を除く。)を受けたこと又はこれを受けなかったが応訴したこと。日本にて裁判を受ける権利がある以上,当該外国裁判において呼出を受け主張立証をする機会がない以上適正公平な裁判とはいえませんから当然の要件です。本件ではニュージャージーの裁判所から呼出状がきていますから,本号の要件は満たしています。

B同条3号 判決の内容及び訴訟手続が日本における公の秩序又は善良の風俗に反しないこと。日本における訴訟手続,判決は私的自治の原則の一般法理である公序良俗に反する事は出来ませんから(憲法12条,民法1条),外国の判決に効力を認め当事者に日本における裁判を受ける権利を実質的に保障するためには当然の要件です。

C同条4号 相互の保証があること。同種類の我が国の判決が当該外国において我が国と「重要な点で異ならない」条件の下で承認される(すなわち効力を有する)ことを意味します(最判昭和58年6月7日)。日本国内で適正公平な裁判を受ける権利を実質的に保証する必要があり,当該外国の手続内容も日本と同様のレベルを要求されることになります。離婚については,多くの国が承認友好的であるから,外国の離婚判決がこの要件のために効力を認められないという事態は,通常生じないと考えられています。

(4)ご質問いただいたあなたのケースでは,被告であるあなたは日本に住所を有しているのであり,我が国の国際裁判管轄権に関する民事訴訟の一般理論からは当該外国の裁判所に本件離婚についての管轄権が認められません。なぜなら,日本の法体系上属地主義(日本に住所がない)によっても属人主義(相手が外国人である)によっても日本に住所を有さない外国人を相手に日本で裁判を起こす事は出来ないからです(国際裁判管轄権がない)。又,後述の最大判昭和39年3月25日が定める例外にあたる事情もないでしょうから,「同様の状況のときに我が国の裁判所に管轄権が認められない」場合にあたり,したがって,アメリカに居住するあなたの夫が提起した事件の離婚判決は,1号の要件を充たさず,日本においては効力を有しないということになります。

(5)それでは,日本においてあなたの夫との離婚を成立させるためには,どのような手続きが必要かどうかを以下,ご説明します。

2.国際裁判管轄
(1)国際裁判管轄の基準
ア 国際裁判管轄とは,本件外国人との離婚のように国際的な性質をもった紛争(外国人との問題と日本と外国との複数の領土内での事件)について(渉外事件,すなわち当該事件について当事者,及び領土的的関係から2カ国以上の法律の適用が問題となる事件)具体的にどの国の裁判所で裁判することができるかという問題です(裁判権が認められたうえで日本のどの裁判所が事件を管轄するかという民事訴訟法上の裁判管轄とは別な概念です)。現在のところ,国際的要素を含む民事事件を裁判する際の国際的な裁判管轄の基準がいまだ存在しないため,結局のところ,各国の国内裁判所に委ねられるほかなく,したがって,国際裁判管轄の問題は,「当該事件はどちらの国において裁かれるべきか」といった観点ではなく,「当該事件をある国の裁判所に持ち込んだ場合,その国の訴訟手続上適法なものとして受理されるか」という観点から判断するほかありません。すなわち,現在,国際的に統一された裁判制度というものが存在しないため,国際紛争といえども,当事者からすると,さしあたり特定の一つの国の裁判所を選んで訴えを提起するほかなく,これを受けた裁判所としても,当該訴えを審理するかどうかを(管轄権があるか否か),あくまで自国の法制度に照らして判断する以外にないからです。

解釈上結論から言うと,国際裁判管轄権の基準は2つの側面から考える必要があります。すなわち属地主義(法の適用範囲をその法が制定された国の領土内において認める立場,すなわち,日本の領土内の事件であること)と,属人主義(法の適用範囲を定めるに当たり法が適用となる当事者を基準に決める立場,すなわち当事者が両方日本人である事)です。日本における国際裁判管轄権の原則は,当事者が日本人の場合か,日本の領土内の事件についてしか認められません。もっと具体的に言うと,日本の裁判所は原則的に日本国の統治権が及ぶ領土,土地上で生じた私的紛争(当事者が外国人でもいい訳です。)又は,私的紛争が外国で生じても当事者双方が日本の国籍を有する場合について(日本国内に居なくてもいいことになります),当該事件に付き裁判権を有すると解釈することが出来ます。なぜなら司法権(裁判権)という国家権力の根源は,民主主義に基づく国民主権にあり国民主権は自ら国家を作った構成員である日本人の意思に存在根拠がありますから,日本人にしか法的効果は及びませんし,司法権も国家権力が統治する日本の領土内にしか及ばないからです。刑事事件の裁判権も基本的には同様に考えることが出来ます。判例上,@国際事件の管轄権の有無は当事者間の公平や裁判の適正・迅速の理念により条理にしたがって決定すべきであるところ,A我が国の民事訴訟法の規定する裁判籍のいずれかが日本にあれば我が国裁判所に国際裁判管轄を認めるのが条理に適うとされている(最判昭和56年10月16日。マレーシア航空事件)。つまり,結論としては,我が国における国際裁判管轄については,国内の裁判管轄と同様に考え,当該事件における被告の住所地や義務履行地が日本のどこかの土地である場合は日本での裁判を認められるということになります。この判例理論は,属地主義(日本の領土内の事件)を根拠に認める事が出来ます。

イ 離婚事件における国際裁判管轄
この点,離婚事件における国際裁判管轄については,最大判昭和39年3月25日が,原則として,日本に被告の住所があれば日本に裁判管轄が認められ,例外として,原告が遺棄された場合,被告が行方不明の場合,その他これに準ずる場合には,被告の住所が日本になくても,原告の住所が日本にあれば日本に裁判管轄が認められる旨判示しており,実務上は,現在も,かかる準則が大きな基準として機能しています。この判例は,属地主義の原則(日本の領土内に住所,居所を有する事)から被告(外国人)が日本に住所がない以上国際裁判管轄権がないのですが,具体的不合理に対する法的救済の一般法理(例外的に原告の離婚する権利を救済したのです。憲法12条,13条民法1条)により解決したのです。

ウ 最判平成8年6月24日
最判平成8年6月24日は,ドイツ国籍でドイツに居住する妻が,日本に居住する日本国籍の夫との離婚訴訟をドイツの裁判所に提起し,妻の請求を認容する旨の判決が確定したことにより,同国では両名の婚姻が既に終了したが,日本においては,民訴法118条の要件を充たさず(日本の法理論によると日本の領土内に住所居所を有するという属地主義の見地から国際裁判管轄権がない),この判決の効力が日本には及ばないため,未だ婚姻が終了していないという場合に,日本人夫がドイツ人妻に対して,日本の裁判所に離婚訴訟を提起したという事案についての判決です。そして,かかる事案で,同判決は,夫がドイツの裁判所に離婚請求訴訟を提起しても婚姻の終了を理由に訴えが不適法とされる可能性が高いときは,夫の提起した離婚請求訴訟につき日本の国際裁判管轄を肯定すべきとしています。つまり,上記イの最大判昭和39年3月25日によれば,被告であるドイツ人妻の住所地が日本にない以上,属地主義(日本領土内の事件であること。日本住所,居所を有する事)の見地から原則的には,日本には裁判管轄が認められないところですが,かかる事案では,ドイツでの離婚判決が日本では効力がなく,また,改めてドイツで離婚判決を得ることもできないため,日本で離婚を成立させるため,法的救済の一般法理により日本の国際裁判管轄を認めたものと評価できます。

(2)ご質問いただいたあなたのケースは,まさに上記最判平成8年6月24日と同じ状況ですので,日本の裁判所に訴えを提起することが可能ということになります。

3.準拠法
(1)準拠法とは,国際私法により渉外的私法関係に適用すべきとされた実質法のことを言います。国際的な離婚訴訟においては,離婚の要件等をどこの国の法律に基づいて判断するかの問題となります。準拠法の基準については,我が国においては,法の適用に関する通則法という法律が規定しており,離婚の準拠法は,同法27条,25条により,@夫婦の一方が日本に常居所を有する日本人であるときは日本の法律,それ以外の場合は,A夫婦の同一の本国法,B同一の住居地法,C最密接関係地法という順番が定められています。このような基準の根拠は,人事訴訟における当事者の公平,適正,迅速性,低廉の要素を考慮したものです。離婚のような人事に関する問題は当事者の住居所を基準にすることが証拠の収集,手続の迅速,低廉性に合致するからです。

(2)ご質問いただいたあなたのケースは,夫婦の一方が日本に常居所を有する日本人である場合ですので,日本の法律に従って離婚の成否が判断されることになります。

4.最後に
あなたの場合,結論としては,改めて,日本の裁判所に離婚訴訟を提起し,日本の法律に従って離婚原因の有無を審理してもらうことになると思われますが,上記のように,複雑な思考プロセスが必要ですので,一度,専門の弁護士に相談されることをお勧めします。

<参照条文>

民事訴訟法
第118条(外国裁判所の確定判決の効力)
 外国裁判所の確定判決は,次に掲げる要件のすべてを具備する場合に限り,その効力を有する。
1.法令又は条約により外国裁判所の裁判権が認められること。
2.敗訴の被告か訴訟の開始に必要な呼出し若しくは命令の送達(公示送達その他これに類する送達を除く。)を受けたこと又はこれを受けなかったが応訴したこと。
3.判決の内容及び訴訟手続が日本における公の秩序又は善良の風俗に反しないこと。
4.相互の保証があること。

法の適用に関する通則法
第25条(婚姻の効力)
婚姻の効力は,夫婦の本国法が同一であるときはその法により,その法がない場合において夫婦の常居所地法が同一であるときはその法により,そのいずれの法もないときは夫婦に最も密接な関係がある地の法による。
法の適用に関する通則法第27条(離婚)
第二十五条の規定は,離婚について準用する。ただし,夫婦の一方が日本に常居所を有する日本人であるときは,離婚は,日本法による。

戸籍法
第六十三条  認知の裁判が確定したときは,訴を提起した者は,裁判が確定した日から十日以内に,裁判の謄本を添附して,その旨を届け出なければならない。その届書には,裁判が確定した日を記載しなければならない。
○2  訴えを提起した者が前項の規定による届出をしないときは,その相手方は,裁判の謄本を添付して,認知の裁判が確定した旨を届け出ることができる。この場合には,同項後段の規定を準用する。
第七十七条  第六十三条の規定は,離婚又は離婚取消の裁判が確定した場合にこれを準用する。
○2  前項に規定する離婚の届書には,左の事項をも記載しなければならない。
一  親権者と定められた当事者の氏名及びその親権に服する子の氏名
二  その他法務省令で定める事項

民法
(基本原則)
第1条  私権は,公共の福祉に適合しなければならない。
2  権利の行使及び義務の履行は,信義に従い誠実に行わなければならない。
3  権利の濫用は,これを許さない。
第770条(裁判上の離婚)
夫婦の一方は,次に掲げる場合に限り,離婚の訴えを提起することができる。
1.配偶者に不貞な行為があったとき。
2.配偶者から悪意で遺棄されたとき。
3.配偶者の生死が3年以上明らかでないとき。
4.配偶者が強度の精神病にかかり,回復の見込みがないとき。
5.その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき。
2 裁判所は,前項第1号から第4号までに掲げる事由がある場合であっても,一切の事情を考慮して婚姻の継続を相当と認めるときは,離婚の請求を棄却することができる。

憲法
第十二条  この憲法が国民に保障する自由及び権利は,国民の不断の努力によつて,これを保持しなければならない。又,国民は,これを濫用してはならないのであつて,常に公共の福祉のためにこれを利用する責任を負ふ。
第十三条  すべて国民は,個人として尊重される。生命,自由及び幸福追求に対する国民の権利については,公共の福祉に反しない限り,立法その他の国政の上で,最大の尊重を必要とする。

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